JP3820150B2 - 血管内膜肥厚を予防するための、及び血管損傷の後の血管内皮機能を改善するための、17−βエストラジオールの局所送達 - Google Patents
血管内膜肥厚を予防するための、及び血管損傷の後の血管内皮機能を改善するための、17−βエストラジオールの局所送達 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、冠状動脈血管形成術の結果を改善するためのエストラジオール又はその誘導体の局所使用に関する。より詳しくは、本発明は、再狭窄の間に起こる新生内膜肥厚を減少させるための、及び血管損傷の後の内皮機能を改善するための、エストラジオール又はその誘導体の局所使用に関し、これらは共に血管形成術の最終的な成功に寄与するものである。
【0002】
【従来の技術】
再狭窄は、現在のところ、経皮的冠状動脈形成術(PTCA)の主な制約であり、患者の30−40%にみられる(1)。再狭窄の一因となる最も重要なメカニズムは、新生内膜増殖、血管リモデリング、及び弾性リコイルである(2)。弾性リコイルと血管リモデリングについては、大部分がステントにより減少させることができる(3)。放射線治療が有利な効果を示すことが報告されているが(4,5)、新生内膜増殖には有効な治療法が存在しない。血管平滑筋細胞(SMC)移動と増殖は、動脈損傷の36時間には生じることが文献に記載されている(6)。細胞培養アッセイにおいて、17−βエストラジオールは、ラット血管SMC(7,8)の移動と増殖を阻害した。同様の効果は、伏在静脈からのヒト血管SMCで示された(9)。エストロゲンの長期の全身投与は、動物の研究で内膜肥厚を阻害することが示された(10,11)。全身にエストラジオールを投与する代わりに、我々は、PTCAの間に、17−βエストラジオールの局所適用がどのように有効に、新生内膜増殖を阻害できるかをテストした。
【0003】
動脈の血管の正常状態の制御における内皮の主な役割は、よく理解されている(1)。インタクトの内皮は、血小板凝集、単球粘着、及び血管平滑筋細胞増殖に対する重要な阻害効果も有している(2)。内皮機能不全に関連する内皮損傷は、経皮的冠状動脈形成術(PTCA)の結果として起こることが知られており、(3)、PCTAの後、再狭窄において重要な役割を担っているかもしれない(4)。正常に機能しない内皮機能は、ブタにおけるPTCAの後4週間もの間、ブタの冠状動脈において、示された。全身に投与された17−βエストラジオールは、動脈損傷の後、内皮回復を促進することが報告されている(10)。PTCAによる内皮損傷は、局所的なできごとであるため、我々は、PTCAの後の17−βエストラジオールの局所送達が内皮回復を増強するかもしれないという仮説を立てた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段】
したがって本発明の目的は、血管損傷の後に内皮機能を改善するために、及び/又は新生内皮肥厚を減少させる及び/又は再狭窄を予防するために、PTCAの間に、17−βエストラジオール又は誘導体が局所的に用いられる、有効な方法を提供することである。これらの方法を実施するための組成物も本発明のさらなる目的である。
【0005】
本発明の他の目的、効果、特徴は、図面を参照しながら、以下の好ましい実施態様の例示のための非制限的な記載によって、さらに明らかとなるであろう。
【0006】
【発明の実施の形態】
実施例1:新生内皮肥厚に対するエストラジオールの効果
方法
動物調製
体重20乃至25kgの18匹の幼い飼育豚(9匹のメス、9匹の去勢オス)を調べた。研究は、Montreal Heart InstituteのAnimal Care and Ethical Research Committeeのガイダンスにより認可され、それに従って行なわれた。手法を始める前に、動物には、650mgのアセチルサリチル酸と30mgのニフェジピンを経口で与え、6mg/kgの塩酸チレタミンと塩酸ゾラゼパムの混合物の筋肉内注射で前投薬し、アトロピン0.05mgを与えた。イソフラン(1乃至1.5%)と酸素富化空気の混合物での全身麻酔下で侵襲性手法を行なった。右の大腿動脈に経皮的にカニューレ挿入し、8Fr動脈鞘を導入した。動脈へのアクセスを得た後、100mgのリドカインと250U/kgのヘパリンを鞘を介して動脈内に投与した。活性化された凝固時間は、手法を通して、>300秒に保持した。
【0007】
エストラジオール処方物の調製
被検動物に個々に投与した各用量は、5mlの溶液容量の中に少なくとも12.5mgのヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPCD)と600μgのエストラジオールからなる。
【0008】
より少ない又はより多い用量を用いることができる。実際に、被検用量は、舌下ペレット中に処方され、閉経後の女性に投与された約675μgの用量に対応している(45)。そのような用量は、局所に投与されるなら、不必要に高いかもしれない。実際に、200と400μgの用量が試され、それらが、600μgの用量と同様に作用することが見出された。さらに、本発明を実施するための必要な用量は、治療される個体のホルモンバランスによる影響を受けるかもしれない。種の差異も、用量レジメを変化させるファクターである。同様に、17−βエストラジオールのあらゆる誘導体は、後者を置換することができる。誘導体は、エストラジオールへの受容体(類)の活性に影響を与える可能性がある、又はその受容体(類)に対する、エストラジオールの結合及び/又は活性を増加させることができる、前駆体、活性代謝物、活性アナログ又はモジュレーターをカバーすることが意図されている。そのような誘導体は、17−β−エストラジオールの機能的等価物であると考えられ、したがって本発明の範囲に含まれる。17−β−エストラジオールの1乃至5000μg/Kgの単位用量又は等価誘導体の用量は、本発明の範囲に含まれ、好ましくは10乃至50μg/Kg、より好ましくは10乃至30μg/Kgである。
【0009】
血管形成術及び局所送達
標準PTCA装置を用いた。8FrライトAmplatzガイドカテーテル及びライトJudkinsガイドカエーテルを、各々、左冠状動脈と右冠状動脈のカニューレ挿入のために用いた。1.1乃至1.3のバルーン/動脈比に対応するように選ばれる、バルーンサイズでPTCAを行なった。10気圧で3回の30秒のインフレーションを、各インフレーションの間を30秒の間隔をあけて行なった。意図されたPTCA部位にいかなる副分枝も含まないように予防措置をとりながら、摘出の間、同定を容易にする主な副分枝に隣接してインフレーションを行なった。各動物の左の前室間動脈、左回旋、及び右の冠状動脈にPTCAを行なった。PTCAの後、動物の各冠状動脈は、600μgの17−βエストラジオール、ビヒクルのみ局所に、又はPTCAのみのいずれかをランダムに受けた。化学品17−βエストラジオールとそのビヒクル2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPCD)は、Sigma Chemical Co.より購入した。Infusa Sleeve カテーテル(Local Med, Inc.)を局所送達のために用いた(12)。10気圧の駆動圧と6気圧のサポートバルーン圧で5mlの表示物質を送達した。
【0010】
18匹の動物のうち、2匹はPTCAの数日後に死亡し、排除した。したがって16匹の動物を分析した。12匹の動物を28日目に安楽死させ、4匹を7日目に安楽死させた。前投薬と麻酔の後、右内頚静脈と総頚動脈にカニューレ挿入した。側開胸で露出した下行胸大動脈のクロスクランピングの後、1lの0.9%NaCl溶液の同時投与で、瀉血を行なった。200mmHg圧において、2lの10%緩衝ホルマリンで心臓をインビボで灌流固定し、動物から除去し、10%緩衝ホルマリン溶液中に入れた。ついで冠状動脈を解剖して、周囲の組織から分離した。目印となる隣接する副分枝に関して、PTCAの部位を同定した。損傷したセグメントを、損傷部位に近位と遠位の1cmの正常セグメントとともに摘出した。3乃至5mmの長さの連続した切片を、摘出したセグメントから作製し、各PTCA部位から最小限少なくとも3つの切片(最大で5)を作製した。切片を緩衝10%ホルマリンで保存し、アルコール濃度を増加させて脱水し、その後キシレンとパラフィン処理した。ついで各切片をミクロトーム(Olympus cut 4060 E)で、6μmの厚さの切片に切断し、モルフォメトリー分析のためのVerhoeff's染色で染色した。
【0011】
モルフォメトリー分析
486パーソナルコンピューターとカスタマイズソフトウェアに連結した、ビデオ顕微鏡(Sony DXC 970 MD カラービデオカメラを備えたLeitz Diaplan )で測定を行なった。各損傷セグメントについて最小限3切片を分析し、結果を平均化した。各セグメントがどの処理に割り当てられたかを知らない一人の観察者により分析を行なった。ランダムに選択した切片を、第2の観察者が(同じくプロトコールについて知らない)独立して観察した。観察者間の変動は<5%であった。外側の弾性膜(EEL)、内側の弾性膜(IEL)、及び管腔の領域を、デジタル面積測定により測定した。新生内膜(I)領域(IEL−管腔領域)及び媒体(M)領域(EEL−IEL領域)を得た。%新生内膜を、新生内膜により占められた全血管領域の%として定義した(%新生内膜=[I/EEL]×100)。形態%狭窄を100(1−管腔/El領域)として算出した(13)。再狭窄指数を、[I/(I+M)]/(F/IEL外周)として定義した。ここでFは内部弾性膜の破損長さである(14)。組織損傷スコアは上記定義のごとく決定した(15)。
【0012】
免疫組織化学
ミクロトームでスライスし、非特異的抗体をブロッキングした後、切片をマウス抗増殖細胞核抗原(PCNA)抗体と、希釈したビオチニル化ヤギ抗マウス抗体で処理した。ついでそれらをアビジン−ビオチン(Elite ABC Kit, Vector Laboratories)でインキュベートし、3,3’−ジアミノベンジディン(Vector Laboratories)で展開した。それらは最終的に、ヘマトキシリンで対比染色した。ブタの肝臓細胞をボジティブコントロールとして用いた。各切片について、一次抗体(マウス抗PCNA)での処理なしにヘマトキシリンで対比染色された6μmのスライスが、ネガティブコントロールとして機能する。
【0013】
7日目に安楽死した動物からの試料の免疫組織化学分析により、損傷に対する増殖性反応を調べた。PCNAの数で割ることにより、%増殖SMAを得た−各フィールドで、ポジティブSMCをSMCの合計数で割った。新生内膜と、媒体層について別個の測定を行なった。増殖細胞を、平滑筋アクチン抗体での平行な切片のポジティブ染色によりSMCとして同定した。処理群の間の比較を標準化するために、各切片について90°の部位で分離された4つの固定された位置で測定値を得、結果を平均化した。各切片について、最大の新生内膜応答を示す2つの切片を分析し、結果を平均化した。
【0014】
統計的分析
値は、別記しない限り、平均t標準偏差として、表現されている。Kruskal-Wallis分析は、3つの群の間のデータの比較のために用いられた。その後、17−βエストラジオール及びビヒクル単独群は別に、Mann-Whitney順位和検定を用いてPTCA単独群と比較した。Chi2乗分析を、割合の比較のために用いた。Mann-Whitney順位和検定も、17−βエストラジオール処理群の中で、雄と雌の動物の間のデータの比較のために用いた。値は、pが0.05未満の場合、統計的に有意であると考慮された。
【0015】
結果
PTCAと局所送達の後、動物を回復させ、徐々に体重を増加させた。手法の後、各々、48時間後、72時間後に死亡した2匹の動物は、含めなかった。よって、16匹の動物について調べた。2匹の動物の検死により、PTCA部位の閉塞性血栓であることが判明した(1匹のブタの17−βエストラジオール処理血管において、及び他のブタのPTCA単独での処理血管において)。
【0016】
損傷切片
バルーン/動脈比と動脈径は、3つの処理群においてそれほど異なっていなかった(表1)。認識できる損傷が存在しないインタクトなIELでの切片は、分析から排除された(PTCA単独群から2匹、ビヒクル単独群から1匹)。2つの切片が、回収と加工の間に失われた(ビヒクル単独の1つ、及びPTCA単独群の1つ)。
【0017】
モルフォメトリー分析
28日目にモルフォメトリー分析を受けた12匹の動物のうち、17−βエラストジオールの局所送達で処理された動脈切片は、著しく低い新生内膜肥厚を示した(図1)。この有利な効果は、分析された損傷に対する新生内膜反応の全パラメーターで示された(表1)。形態損傷の程度は、3つの群の間で類似していており、Infusa Sleeveカテーテルの使用が損傷のリスクの増加に関与していないことを示唆していた。
【0018】
ビヒクルによる内膜増殖の阻害効果を排除すること、及び示された効果が17−βエストラジオールでの処理に対する反応であることを確認することは、重要であった。ベヒクル単独及びPTCAのみで処理した切片を比較する分析は、新生内膜増殖の程度に関して同様の反応を示した。他方、PTCA単独で処理した切片に比べて、著しく低い内膜肥厚が、17−βエストラジオール処理切片で観察された(図2)。PTCA単独、又はビヒクル単独に比べて、17−βエストラジオールは各々、54.6%、64.9%新生内膜形成を低減した。
【0019】
エストロゲンに対する反応における、性の影響の可能性を排除するために、雄のブタから得られた17−βエストラジオールで処理した7つの切片、雌のブタから得られた17−βエストラジオールで処理した5つの断片を分析した。統計的に有意の差異はなかった(表2)。
【0020】
免疫組織化学
PCNA−ポジティブSMCの数は全体に低かった。初期の犠牲動物は、より高い数を得ていた。しかしながら、増殖反応における統計的に有意の減少が、17−βエストラジオールで処理された動物で見られた。異なる群の間で、新生内膜におけるPCNA−ポジティブSMCの%が、各々17−βエストラジオールで0.43±0.52%、PTCAのみで4.26±2.33%、ビヒクル単独群で4.27±2.73%あった(他の2群に対して17−βエストラジオールについてp<0.05)。3つの群の間に媒体中の%PCNA-ポジティブSMCにおける統計的に有意な差異はなかった:17−βエストラジオール、PTCAのみ、及びビヒクル単独について、各々、0.4±0.3%、1.38±1.74%、及び1.24±1.57%であった(p=NS)。
【0021】
血管リモデリング
用いられた剤の血管リモデリングに対する効果を測定するために、損傷された切片の、及びPTCAの部位に近位の正常血管のEEL領域を得、それらの比を計算した(13)。群の間で有意な差異はなかった:17−βエストラジオール、PTCAのみ、及びビヒクル単独群について、各々、1.01±0.16%、1.16±0.28%、及び1.31±0.37%であった(p=NS)。
【0022】
結論
本研究は、局所送達された17−βエストラジオールが、ブタにおけるPCTAの後に、新生内膜増殖を減少させることを初めて示した。本研究はまた、Infusa Sleeveカテーテルを用いて、冠状動脈の壁内に、17−βエストラジオールを有効に送達できることも示した。
【0023】
動物における以前のいくつかの実験は、3週間までの皮下のエストロゲン投与が、動脈損傷に対する筋内膜反応を阻害することを示した(10、11)。最近、短期の皮下エストロゲン療法(6乃至17日)は、ラット頚動脈での損傷反応の減少において有効であることが示された(15)。少なくとも3週間の筋肉内エストロゲン投与は、ウサギにおいて血管平滑筋細胞増殖と新生内膜肥厚を阻害する可能性を示した(17)。しかしながら、内膜肥厚を阻害するための17−βエストラジオールの局所送達の効率は、これまで調べられていない。
【0024】
エストロゲンの生物学的作用は、他のステロイドホルモンと同様に、細胞内レセプターを含む。発見された第1のエストロゲンレセプター(ER)は、ERα(18、19)であり、血管損傷の後のエストロゲンの有利な効果を仲介するものと考えられた。ERαは、閉経前及び閉経後の女性の両方の検死試料から得られた冠状動脈(20)、ヒト伏在静脈と内部の乳房動脈試料の細胞培養(21)にも存在した。最近、第2のエストロゲン受容体、ERβが、動物とヒトで同定された(22、23)。血管損傷に対する反応におけるERβの役割は、その結果、ERα欠損マウスでの実験において示された(24)。エストロゲンで処理された正常及びERα欠損マウスは、動脈損傷を受けたとき、対照マウスと比較して、新生内膜増殖の同じ程度の阻害を示した。これにより、エストロゲンによる血管損傷反応の阻害が、ERαと独立していることが示される。本発明の実験は17−βエストラジオールの作用のメカニズムを調べるようにはデザインされていなかったが、17−βエストラジオールが損傷に対する血管反応を阻害することができるという複数の潜在的メカニズムの証拠が存在する。酸化窒素(NO)合成に対する17−βエストラジオールの効果は重要かもしれない。ヒトとウシ内皮細胞での細胞培養研究において、17−βエストラジオールでの処理は、NOシンターゼを促進し、NO産生を増加させた(25、26)。経皮的に17−βエストラジオールで処理された閉経後の女性は、インビボのNO合成が増加したことを示した(27)。NOは、血管SMCの移動(28)と増殖(29)の両方で阻害効果を示し、PTCAの後の新生内膜形成の減少を示した(13)。予備的な報告は、17−βエストラジオールでの療法が、ヒト冠状SMAによる細胞内及び血管細胞接着分子発現を減少させることを示した(30)。細胞接着分子は、動脈損傷の後SMCにより発現され(31)、モノクロナール抗体の使用でのその抑制は、ラットにおいて動脈損傷の後の内膜肥厚を阻害する(32)。血管内皮性成長因子発現に対する17−βエストラジオールの制御効果も、部分的に関与しているかもしれない(33−35)。おそらく、最も重要なメカニズムが、血管SMA増殖に対する17−βエストラジオールの直接の阻害効果かもしれない(38)。その細胞内レセプターに対する17−βエストラジオールの結合は、「エストロゲン反応性因子」を含むDNAを活性化し、遺伝子発現の変化をもたらす。17−βエストラジオールは、血管SMCの血小板由来成長因子誘導移動及び増殖も減少させる(9)。
【0025】
血管損傷反応に対して17−βエストラジオール、閉経前の女性で優勢な循環エストロゲン、の有利な効果は、他の種類のエストロゲンでは同じではないかもしれない。例えば、抱合ウマエストロゲンは、非ヒト霊長類モデルでの新生内膜増殖に効果を有さないことが見出された(37)。プロゲステロンの同時投与は、17−βエストラジオールの血管損傷反応を弱めることができる(38)。インタクトなラットにおけるエストロゲンに対する性二相性反応が報告されており、動脈損傷の後、雄のラットでエストロゲン療法で有益な効果が無かった(39)。この性二相効果は、しかしながら、去勢されたラットでの他の実験では観察されなかった(11)。本研究でも、性の間で17−βエストラジオールに対する新生内膜増殖反応での有意な差異はなかった。動脈損傷の後のERβmRNA(ERβは、血管のSMC増殖の阻害に直接関与している。)の発現の増加が、インタクトな雄のラットで示された(40)。研究におけるさらなる興味は、動脈損傷の後、ERαが増加しないことである。
【0026】
17−βエストラジオールは、水性溶液中には溶解度の低い親油性化合物であるので、非経口投与のためのビヒクルが必要である。HPCDは、タンパク質薬剤の有効な賦形剤として試験が成功したデンプン誘導体である(41)。HPCDの薬物速度論は、イヌリンのそれと同様であり、毒性用量(腎毒性)は、ラットで200mg/kgと見積もられている(42)。本研究で、17−βエストラジオールを溶解するために用いられるHPCDの用量は、0.63mg/kgでありであり毒性用量よりずっと低いものであった。さらに、HPCDは、ヒトにおいて眼科調製物と静脈内麻酔剤の投与のために、用いられてきた(43、44)。17−βエストラジオールと複合体を形成したHPCDは、ヒトにおいて、不利な効果なしに、経口の生体利用性、又は舌下投与された17−βエストラジオールを増進するために用いられてきた(45)。
【0027】
ヒトにおいて後ろ向き研究は、PTCAの後血管造影再狭窄に対して、ホルモン置換療法が有利ではないことを示したが(46)、一つの研究は、方向性冠状動脈粥腫切除術の後有利な効果を示した(47)。しかしながら、抱合エストロゲン(17−βエストラジオールでは異なる)は、これらの患者の多くで用いられたエストロゲンの優勢型であり、プロゲステロンの共同使用についての情報はない。
【0028】
結論としては、PTCAの間、局所送達された、単回用量の17−βエストラジオールが、新生内膜増殖を有効に阻害する可能性を有することが示された。17−βエストラジオールの送達は、さらなる損傷の危険性なしに、Infusa Sleeveカテーテルで容易に行なうことができる。このアプローチで、エストロゲンの長期全身投与の潜在的な好ましくない効果を避けることが可能であるかもしれない。ERβはヒトで、同定され、17−βエストラジオールによるヒト血管SMCの増殖の阻害を細胞培養アッセイで示した。したがって、17−βエストラジオールの局所投与は、確実に新しいアプローチであり、ヒトにおけるPCTAの後の増殖性反応を予防するために有用であり得る。PCTAの後の再狭窄予防におけるその有用性は、先行する確実な結果を鑑みると、予想できる。
【0029】
実施例2:血管内皮機能のエストラジオールの効果
方法
動物調製
研究プロトコールは、Montral Heart InstituteのAnimal Care and Ethical Research Committeeにより認可された。体重20乃至25kgの幼い飼育豚(1匹のメス、8匹の去勢オス)を調べた。実験の日に、動物には、650mgのアセチルサリチル酸と30mgのニフェジピンを経口で与え、6mg/kgの塩酸チレタミンと塩酸ゾラゼパムの混合物で前投薬し、アトロピン0.05mgを筋肉内に与えた。イソフラン(1乃至1.5%と酸素富化空気の混合物)での全身麻酔下で、右の大腿動脈に経皮的にカニューレ挿入した。8Fr動脈鞘を導入し、100mgのリドカインと250U/kgのヘパリンを動脈内に投与した。必要ならPTCAの間さらにヘパリンを投与して、活性化された凝固時間を、>300秒に保持した。
【0030】
手法
8FrライトAmplatzガイドカテーテル及びライトJudkinsガイドカエーテルを、各々、左冠状動脈と右冠状動脈のカニューレ挿入のために、用いた。標準バルーンカテーテル(1.1乃至1.3のバルーン/動脈比に対応する)を0.014''フロッピーガイドワイヤ上で進めた。10気圧で3回の30秒のインフレーションを、各インフレーションの間を30秒の間隔をあけて行なった。PTCAを、各動物の全冠状動脈メリーズ(meries)について行なった。局所送達のために、Infusa Sleeveカテーテル(Local Med Inc.)を用いて、さらなる損傷が無視できる程度の安全な薬剤送達を可能にした(7)。バルーン膨張の後、動物の各冠状動脈は、600μgの17−βエストラジオール(5ml中)、ビヒクル単独(5ml中)、又はPTCAのみのいずれかをランダムに受けた。ビヒクル2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPCD)と、17−βエストラジオールは、Sigma Chemical Co.より購入した。Infusa Sleeve カテーテル(Local Med, Inc.)を局所送達のために用い、10気圧の近位駆動圧と6気圧のサポートバルーン圧を用いた。
【0031】
冠状動脈内の灌流
9匹すべての動物を、4週間後に、心臓カテーテルに供した。基線の冠状血管造影の後、冠状動脈の近位の部分の選択的なカニューレ挿入を、血管作用剤の投与のために、単一の管腔バルーンカテーテル(Total Cross, Schneider)で行なった。アセチルコリン(Ach)を、10-7M、10-6M、10-5M、10-4Mと濃度を増加させて、カテーテルの管腔ポートを通して連続的に灌流した。各用量を、3分間の持続時間で、1ml/分の一定速度で、灌流ポンプを用いて投与した。各用量の終わりに、冠状動脈血管造影を行なった。最大の濃度の灌流の後、Ach(10-4M)と血管造影、100μgのニトログリセリンをカテーテルの管腔ポートを介して投与し、冠状動脈血管造影を行なった。同じプロトコールを他の2つの冠状動脈についても反復した。心拍数、血圧、及びECGを、実験を通して連続的にモニターした。
【0032】
定量的冠状動脈血管造影
冠状動脈血管造影を、一面画像化システムで行なった(Electromed Intl)。分枝の重なりが無く、対象の血管断片が最も示される所定のビューで画像を得た。手法を通して切片の血管造影の間、同じ測定角度を保持する注意を払った。実験を通してイオン性コントラスト(MD−76、Mallinckrodt Medical Inc)を用いた。30フレーム/秒のフレーム速度で画像を捕捉し、デジタル的に保存した。較正の目的で、コントラストが充填されたガイドカテーテルの切片を各フレームに入れた。拡大によるエラーを予防するため、対照切片として、既知の径のコントラスト充填カテーテルを用いて較正を行なった。認可コンピューター化エッジ検出システムを用いて、冠状動脈径の測定を行なった(8)。損傷切片の中間点を、冠状動脈径の算出のために用いた。各分析について、冠状動脈径測定を、3つの連続末端拡張フレームで行ない、結果を平均化した。血管の処理群について知らない各観察者による測定を行なった。
【0033】
免疫組織化学
動物を4週間で安楽死させた。上述の全身麻酔の後、1lの0.9%NaCl溶液置換により、瀉血を行なった。200mmHg圧において、2lの10%緩衝ホルマリンで心臓をインビボで灌流固定した。ついで、心臓を除去し、冠状動脈を即座に摘出した。(副分枝との関係で同定された)損傷切片から、3乃至5mmの長さの連続した切片を作製し、緩衝10%ホルマリンで保存した。切片をアルコール濃度を増加させて処理し、その後キシレンとパラフィンで処理した。6μmの厚さのスライスを調製し、損傷に対する組織反応の評価のためにVerhoeff's染色で染色した。各損傷切片について、最大新生内膜反応を示す2つのスライスを、免疫組織化学のために選択し、断面分析から得られた結果を平均化した。再内皮化の%と、内皮酸化窒素シンターゼ(eNOS)発現の%は、以下の通り算出した。各々、(管腔表面染色陽性の全長/管腔の周囲長さ)×100。切片がどの処理群に属するかについて知識のない独立した試験官で分析を行なった。レクチン免疫組織化学について、6μmスライスを過酸化水素とメタノールで最初に処理して内因性ペルオキシドをブロックし、Dulichos biflorusアグルチニン(Sigma Chemical Co.)とインキュベートし、3,3’−ジアミノベンジディン(Vector Laboratories)で処理し、その後ヘマトキシリンで対比染色した。eNOS発現の免疫組織化学について、内因性ペルオキシドと非特異性抗体のブロッキングの後、スライスを、一次マウス抗eNOS抗体(Bio/Can Scientific)、二次ヤギ抗マウス抗体(Vector Laboratories)で順次処理し、アビジン−ビオチン(Vector Laboratories)でインキュベートし、3,3’−ジアミノベンジディン(Vector Laboratories)で処理し、最終的に、ヘマトキシリンで対比染色した。両方の免疫組織化学実験について、正常ブタ頚動脈スライスを陽性対照として用いた。損傷冠状動脈から得られ、ヘマトキシリンのみで染色されたスライスを陰性対照として用いた。
【0034】
統計的分析
値は、平均±SDとして表される。3つの群の間のベースの冠状動脈径の比較を、多様性の一元配置分析を用いて行なった。ベースの冠状動脈の径と、血管作用剤の灌流の後の冠状動脈径との間の比較は、両側検定のStutdent's t-テストで行なった。3つの群の間のレクチンとeNOS発現の比較のために、Kruskal-Wallisテストを用いた。レクチン発現とAchに対する反応との間の、及びeNOS発現とAchに対する反応との間の、直線状の関係をPearson相関係数で分析した。p<0.05のとき統計的に有意であるとして、値を考慮した。
【0035】
結果
3つの処理群の間でベースの冠状動脈径での有意な差異はなかった(各々、17−βエストラジオールについて2.53±0.6mm、PTCAのみについて2.79±0.35mm、ビヒクル群について2.77±0.44mm、p<0.4)。群の間の形態組織損傷(9)の程度は同様であった。局所送達の間、又は血管作用剤の冠状動脈内灌流の間、心拍数、ECG、又は血圧における変化がなかった。
【0036】
PTCAのみの群の、Achに対する反応
ベースの冠状動脈径と比べて、Achの10-7Mと10-6M濃度の冠状動脈内灌流の後、冠状動脈径での有意な差異はなかった(表)。10-4Mの濃度で、著しい血管収縮性反応が示された(p<0.02)。特徴的な血管収縮反応が、10-4Mの濃度で観察された(p<0.0001)(図3)。内皮独立の血管拡張剤のニトログリセリンの投与で、血管収縮性は完全に反対になった。冠状動脈径は10-4MAchの後1.8±0.48mmから、ニトログリセリンの後、2.5±0.28mmに増加した(ニトログリセリン後vsベース径について、p<0.01;p=0.2)。
【0037】
ビヒクル処理群の、Achに対する反応
ベースの冠状動脈径と比べて、ビヒクル処理群で10-7MのAchでは冠状動脈径での有意な差異はなかった(表3)。10-6MAchで、著しい血管収縮の経口が見られた(p=0.06)。顕著な血管収縮が、10-5M(p<0.02)、10-4M(p<0.001)のAch灌流で各々おこった(図3)。ニトログリセリンは血管収縮性を完全に反対にし、動脈をそのベースの径に戻した(10-4MAchの後1.89±0.51mmから、ニトログリセリンの後、2.69±0.52mmへ(ニトログリセリン後vsベース径について、p<0.004;p=0.7))。
【0038】
17−βエストラジオール処理群の、Achに対する反応
17−βエストラジオールの局所送達で処理された欠陥においては、用いたいずれの濃度でもAchに対して著しい血管収縮反応は起こらなかった(表)(図3)。冠状動脈径で、穏やかな、統計的に有意でない増加が、ニトログリセリンの投与の後、観察された:10-4MAchの後2.28±0.61mmから、ニトログリセリンの後、2.61±0.48mmへ(p=0.4;ニトログリセリン後vsベース径について、p=0.8)。
【0039】
免疫組織化学
9匹全ての動物でPTCAの4週間後に、免疫組織化学分析を行なった。試料の摘出の間に3つの動脈切片が失われ/損傷した(2つがPTCAのみの群、1つがビヒクル群)。レクチンDulichos biflorusアグルチニンでの免疫組織化学分析で評価したように、再内皮化の程度において3つの処理群の間で有意な差異が見られた(図4)。他の2つの群と比べて(17−βエストラジオールについて90.6±5.5%、PTCAのみについて71±6.8%、及びビヒクルについて72.8±4.9%、p<0.0005)、17−βエストラジオールの局所送達で処理された血管においてかなりの程度の再内皮化が示された。内皮酸化窒素シンターゼ発現も、17−βエストラジオールで処理された血管においてより高い(17−βエストラジオールについて35.6±11.8%、PTCAのみについて9.4±3.9%、及びビヒクルについて9.2±4.0%、p<0.0005)(図5)。免疫組織化学分析において、ビヒクル又はPTCAのみで処理された血管の間で、有意な差異は観察されなかった。
【0040】
我々は、再内皮化とAchに対する反応との間に直線的な関係が示されるかどうかについてさらに分析を進めた。レクチンDulichos biflorusアグルチニンでの免疫組織化学分析で評価したように、再内皮化の間、有意な逆の相関関係が示された(r=0.48、p<0.02)(図6)。eNOS発現とAchに対する反応との間により強い逆の直線的相関関係が観察された(r=−0.58、p<0.005)。
【0041】
結論
本研究は、はじめて、17−βエストラジオールの局所送達が、PTCAの直後に、損傷の部位においてその後の再内皮化と内皮機能を増加させることを示すものである。血管の正常状態の制御におけるその重要な役割のほかに、正常な内皮は、血液成分とその下にある血管平滑筋細胞との間の有効なバリアとして機能する。内皮由来酸化窒素(NO)は、強力な血管拡張薬であり、単球粘着性と血小板凝集と粘着(10)、血管平滑筋細胞移動(11)と増殖(12)を阻害する。
【0042】
PTCAは、動脈損傷と内皮へのダメージに関連している(3)。動脈損傷の後、種々の程度の再内皮化が報告されている。動脈損傷の後、81%の再内皮化の程度(3)、及びそれより低い<50%の程度(14)が観察された。ヒトの粥腫切除術によって得られる再狭窄病変部の試料の研究において、内皮細胞を示すことができなかった(15)。本研究において、17−βエストラジオールでの局所処理の後、ほぼ完全な再内皮化がおこり(90.6±5.5%)、これは、17−βエストラジオールで処理されない群で観察されたものより著しく高かった。エストロゲンレポーターは、ヒト冠状動脈と臍静脈内皮細胞において(16)、及びエストロゲンに結合し、転写速度を変化させることによりタンパク質合成を制御できるとき(17)、同定された。ヒトの臍静脈内皮細胞の細胞培養アッセイで、17−βエストラジオールでの処理が、細胞の移動と増殖の両方を著しく増加させた(18)。皮下インプラント17−βエストラジオールぺレットでの療法は、動脈損傷の後、再内皮化を著しく増加させた(6)。17−βエストラジオールの、血管内皮成長因子合成を増加させる能力(19)及び塩基性繊維芽細胞成長因子への17−βエストラジオールの作用は、再内皮化の増加に関与しているかもしれない。血管内皮成長因子処理は、インビボで再内皮化を促進させることが知られている(20)。ヒトの臍静脈と冠状動脈内皮細胞培養実験では、17−βエストラジオールでの処理が、塩基性繊維芽細胞成長因子の放出とリン酸化を増加させた(21,22)。塩基性繊維芽細胞成長因子の投与がインビボで、ラットにおいて動脈損傷の後に、再内皮化を促進することが示された(23)。17−βエストラジオールが、再内皮化の程度におそらく影響を与えているであろう他の機構は、損傷内皮細胞のアポトーシスの阻害によるものである。腫瘍壊死因子−αにさらされたヒト臍静脈内皮細胞の17−エストラジオール処理でアポトーシスの50%の減少が見られた(24)。腫瘍壊死因子の発現の増加がバルーン損傷の後に起こることが知られていることは特記すべきである(25)。
【0043】
アテローム性硬化症(26)又はその後のNOの実験的阻害(27)におけるような、内皮機能障害は、Achに対する逆説的な収縮反応に関連した。Achに対するこの逆説的反応は、エストロゲンでの処理により変えることができた。ヒトにおいて、静脈内(28)又は連続的に冠状動脈内灌流により(29)投与された17−βエストラジオールは、Achに対する血管収縮反応を弱め、Achで誘導される冠状耐性の増加と、冠状血流の減少も阻害した。我々が観察したeNOSでの17−βエストラジオールの制御効果は、Achに対する血管反応がeNOS発現と強く関係しているのと同様に、内皮機能に対する有利な効果に関与しているかもしれない(30,31)。この認識のサポートにおいて、強い逆の直線的関係がAchに対する血管反応とeNOS発現との間に示された(図4)。エストロゲンの、酸化窒素シンターゼを誘導するこの能力は、モルモットの妊娠の間、初めて同定された(32)。17−βエストラジオールによるeNOS機能の誘導は、その後、eNOSタンパク質とmRNA発現の増加と伴われることが示された(33,34)。循環NOレベルの増加が、17−βエストラジオールで処理された閉経後の女性で観察された(35)。動脈損傷の後、再生された内皮はしばしば機能的に異常である(5)。持続性の内皮機能不全の結果としての、血管形成術の部位での異常な血管運動が、PTCAを受けた患者で示され、PTCAの後弱い狭窄を有する患者に示されるアンギナの症状に関与していると仮定された(36)。我々は、機能的な異常性が局所送達された17−エストラジオールでの処理により著しく改善されることを示した。我々が観察した反応に対する統一的な仮説は、PTCAの後eNOS下方調節が、内皮NO産生により仲介されるAchに対する血管拡張反応を防止するというものである。eNOS発現を改善することにより、17−ベータエストラジオールは、Achの血管拡張反応を、その直接血管収縮作用の反対作用を可能にすることができ、局所損傷の部位でのAch誘導血管収縮を防止することができる。外因性ニトログリセリン(NOドナーである)は、eNOS欠損血管形成術切片はそれ自身では提供できない局所NO関連拡張を単純に提供するために、PTCA後のAch収縮動脈でのニトログリセリンに対する血管拡張反応は、この概念に一致している。
【0044】
迅速な非ゲノム及びゲノム効果の両方が、冠状血管系に対する17−βエストラジオールの影響に関与していると考えられている(37,38)。本研究においてタンパク質の合成の増加は、定量していないが、eNOS発現とAchに対する反応の増加が、17−βエストラジオールの単回投与の後28日まで観察されたことは、ゲノム効果と一致していると思われる。これは、インビボの冠状循環における17−βエストラジオールの局所療法の後のゲノム効果を存在を示唆する最初の研究である。
【0045】
17−βエストラジオールによる内皮依存性血管拡張における一般的な差異は、報告されている(39)。我々の研究で、動物の大半は、雄であり、17−βエストラジオールの有意な有利な効果は、性にかからわず、研究したすべての動物でみられた。よって、17−βエストラジオールの局所送達は、雌でも雄でも有効であるようである。プロゲステロンの同時投与が17−βエストラジオールにより誘導されるNOレベルを減少させることを示唆する証拠が存在する(35)が、このことは我々の研究の範囲外である。
【0046】
我々は、バルーン損傷の後、局所送達された17−βエストラジオールの単回投与が、損傷の1ヶ月後まで、再内皮化を著しく改善し、損傷部位の内皮機能を増加させることができることを結論する。改善された内皮機能の有利な血管作用のほかにも、この観察は、改善された内皮機能が、損傷領域の新生内膜形成の減少に関連することが知られているため(20,40)、バルーン血管形成術の後、特に重要なものである。このアプローチは、血管機能不全とPTCA後の再狭窄予防における潜在的な臨床的価値の観点から、さらなる研究に有用である。
【0047】
処方
処方は、エストラジオール又はその誘導体と、いかなる薬学上許容されるビヒクルをも含むことができる。エストラジオールは親油性分子であるため、そのようなビヒクルは理想的には溶媒成分を含む。そのような溶媒成分は、プロピレングリコール、エタノール及び界面活性剤、例えばPluronics(登録商標)などの分子を含む。処方は、内皮の上に層を形成できるような、脂質、分散物、半固形又は熱可逆性組成物の形態をとることができる。処方は、さらに、ステントなどの装置のコーティングとして、又は血管形成術又は血管手術での原位置におかれることができるいかなる同様の装置の一部としても、含まれ又は用いられてもよい。
【0048】
以上本発明を、好ましい実施態様により記載したが、これらの実施態様は、所望の場合、本発明の思想と性質から離れずに改変できるものである。そのような改変は、特許請求の範囲に定義された本発明の範囲に含まれる。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
実施例1で引用した参考文献
【参考文献1】
【0053】
実施例2で引用した参考文献
【参考文献2】
【図面の簡単な説明】
【図1】 Verhoeff's染色で染色した、同じ動物からの動脈切片の代表的な光学顕微鏡写真(×40倍率)。17−βエストラジオール処理切片は、PTCAのみ(b)又はビヒクル単独(c)群と比べて著しく低い新生内膜を示した。損傷の程度は、3つの切片ですべて同様である。
【図2A】 PTCA単独vsビヒクルのみ、及びPTCAのみvs17−βエストラジオール群の間の、(A)新生内膜領域の比較。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.002.値は、平均±SEMで表される。
【図2B】 PTCA単独vsビヒクルのみ、及びPTCAのみvs17−βエストラジオール群の間の、(B)新生内膜/媒体領域の比較。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.002.値は、平均±SEMで表される。
【図2C】 PTCA単独vsビヒクルのみ、及びPTCAのみvs17−βエストラジオール群の間の、(C)再狭窄指数の比較。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.002.値は、平均±SEMで表される。
【図2D】 PTCA単独vsビヒクルのみ、及びPTCAのみvs17−βエストラジオール群の間の、%狭窄の比較。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.002.値は、平均±SEMで表される。
【図3】 経費的冠状動脈形成術(PTCA)の4週間後に同じ動物から得られた、アセチルコリン(Ach)10-4Mの冠状動脈内灌流に対して血管収縮性反応を示す代表的な冠状動脈血管造影。各々、カラムA=ベース、カラム=Achの後、カラムC=冠状動脈内ニトログリセリンの後、上のパネル=ビヒクルでの処理、中間のパネル=PTCAのみ、下のパネル=17−βエストラジオール処理群。
【図4】 レクチンDulichos biflorusアグルチニン(管腔の表面の暗褐色の染色として明らか)での免疫組織化学について、同じ動物から得られた血管の断面の代表的な光学顕微鏡写真(×1000倍率)。17−βエストラジオール処理血管は、PTCAのみ(B)又はビヒクル(C)群と比べて、再内皮化の程度が高い。
【図5】 内皮酸化窒素シンターゼ(eNOS)発現の免疫組織化学について、同じ動物から得られた血管の断面の代表的な光学顕微鏡写真(×1000倍率)。17−βエストラジオール(A)処理血管は、PTCAのみ(B)又はビヒクル(C)群と比べて、eNOSの発現(管腔の表面の暗褐色の染色として明らか)が高い。
【図6A】 Ach10-4Mに対する血管収縮反応と、(A)再内皮化(r=−0.48、p<0.02)との相関関係を表す写真。記:%血管収縮は、ベースの径に対する、Ach10-4Mの後の径における%減少を示す。
【図6B】 Ach10-4Mに対する血管収縮反応と、(B)eNOS発現(r=−0.58、p<0.005)との相関関係を表す写真。記:%血管収縮は、ベースの径に対する、Ach10-4Mの後の径における%減少を示す。
Claims (8)
- 患者において再内皮化と内皮酸化窒素シンターゼ発現を改善するため、血管損傷を受けた血管の管腔中の損傷部位に原位置投与するための医薬又は装置の作製における、17−βエストラジオールの使用。
- 17−βエストラジオールが、患者の体重当たり単位用量1乃至5000μg/Kgで存在する、請求項1記載の使用。
- 17−βエストラジオールが、患者の体重当たりの単位用量10乃至50μg/Kgで存在する、請求項1記載の使用。
- 17−βエストラジオールが、患者の体重当たりの単位用量10乃至30μg/Kgで存在する、請求項1記載の使用。
- 前記薬学上許容される担体が、ヒドロキシルプロピル−β−シクロデキストリン(HPCD)である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載された使用。
- HPCDは17−βエストラジオールを溶解することができる用量で存在する、請求項5記載の使用。
- 17−β−エストラジオールが、患者の体重のキログラム当たり、少なくとも0.63mgのヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを含む担体と混合される、請求項4記載の使用。
- 単回投与のための、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の使用。
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