JP3816058B2 - エンジンの燃焼制御装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、例えば自動二輪車用V型エンジンに好適の燃焼制御装置に関し、詳細には複数の気筒のそれぞれに酸素濃度センサを備えている場合において、各気筒の空燃比の制御精度を向上できるようにしたフィードバック制御方法の改善に関する。
【0002】
【従来の技術】
空燃比を所定値に制御することにより、出力特性,排気ガス特性を改善できるようにした燃焼制御装置として、従来例えば、V型エンジンの各気筒に接続された各独立の排気管にそれぞれ酸素濃度センサ(O2 センサ)を配設し、該各酸素濃度センサからの出力に応じて各気筒毎に燃料噴射量を制御するように構成されたものがある(例えば特許文献1参照)
【0003】
【特許文献1】
特開平4−134149号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところでエンジンの型式,あるいはエンジンを搭載する車両の構造の如何によっては、上記酸素濃度センサの配置位置上の制約により気筒からセンサまでの排気管長さが各気筒毎に大きく異なる場合がある。例えば自動二輪車の場合、酸素濃度センサの配置可能位置がクランクケースの後端付近より後方に限定されるのが通例であることから、特にV型エンジンを横置きに搭載した場合、Vバンクの前側に位置する気筒に接続された排気管においては、排気ポートから酸素濃度センサまでの排気管長が後側の気筒の排気管長に比べて長くなる。
【0005】
上記排気ポートから酸素濃度センサまでの排気管長の長い前側気筒については、空燃比制御において、排気管長が物理的に長いことに起因する応答遅れが生じる問題がある。また排気管長が長い分温度降下量が大きく、そのため前側気筒用酸素濃度センサの活性度が低くなり易く、この点からも空燃比制御における応答遅れが生じるといった懸念がある。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたもので、排気ポートから酸素濃度センサまでの排気管長の物理的長さが長いことや、酸素濃度センサの活性度が低いことやに起因する応答遅れを抑制でき、空燃比の振れ幅を縮小することのできるエンジンの燃焼制御装置を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、第1気筒に接続された第1排気管と、第2気筒に接続された第2排気管と、該第1,第2排気管の各気筒からの長さの異なる位置に配設された第1,第2酸素濃度センサと、気筒から酸素濃度センサまでの長さの長い側の気筒に対するフィードバック制御におけるスキップ定数,及び時定数の少なくともいずれか一方を他の気筒に対するスキップ定数,及び時定数より大きく設定したことを特徴としている。
【0008】
ここで本発明におけるスキップ定数とは、図5に示すように、設定空燃比カーブAにおいて設定空燃比が右下がり傾向から右上がり傾向に、又はその逆方向に転じる際の変化値k1,k2を意味している。また時定数とは一般には、一次おくれ系のステップ応答において、初期の速度をそのまま持続するとしたときの定常最終値に達するまでの時間に関する定数であり、実際には図5の上記カーブAの傾きTcを意味している。なお図中、Bは実際の検出空燃比カーブを示す。
【0009】
【作用】
請求項1の発明に係るエンジンの燃焼制御装置によれば、排気管長の長い側の気筒に対するフィードバック制御におけるスキップ定数,時定数の少なくとも何れか一方を排気管長の短い側より大きく設定したので、排気管の物理的長さが長いことによる応答遅れ、及び排気ガス温度が低いためにセンサの活性度が低いことによる応答遅れが減少され、実際の空燃比の振れ幅が縮小される。
【0010】
【実施の形態】
以下本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1〜図5は本発明の一実施形態によるエンジンの燃焼制御装置を説明するための図であり、図1は全体構成図、図2はエンジンの搭載状態を示す側面図、図3は酸素濃度センサの配置状態を示す模式図、図4はブロック構成図、図5はフィードバック制御状態を示す特性図である。
【0011】
図において、1は本実施例燃焼制御装置が採用された水冷式4サイクルV型4気筒エンジンである。該エンジン1は車体フレーム6に、後述する前側,後側ブロック4,5が車両前後方向前側,後側に位置するように、またクランク軸2が車幅方向に向くように、横置に搭載されている。
【0012】
上記車体フレーム6は、ヘッドパイプ6aに左,右一対のメインパイプ6b,左,右一対のダウンチューブ6cの前端を接続するとともに、これらフレーム部材の後端部同士を互いに接続してなるダブルクレードル型のものである。なお、21aは車体フレーム2下部とリヤアームとの間に配設された後輪懸架装置のリンク機構、21bは該リンク機構21aと車体フレーム2上部とを連結するクッションユニット、22は後輪駆動用のリヤアーム兼用ドライブシャフトケースである。
【0013】
上記エンジン1は、前後バンク共通のクランク軸2及び変速装置が収容されたクランクケース3の前側,後側に前側ブロック4,後側ブロック5を所定のバンク角をなすように設けた構造のものである。
【0014】
上記前側ブロック4は、上記クランクケース3の前部に一体形成され、左,右一対の前側気筒7a,7aを有する前側シリンダブロック7と、これの合面にボルト締め結合された前側シリンダヘッド8と、該シリンダヘッド8の上側合面に装着された前側ヘッドカバー9とを備えている。また上記後側ブロック5は、同様に左,右一対の後側気筒10a,10aを備えた後側シリンダブロック10と、後側シリンダヘッド11と、後側ヘッドカバー12とを備えている。なお、前,後気筒7a,10a内に配置されたピストン7b,10bは左側同士,右側同士が同一のクランクピンに連結されている。
【0015】
上記前側,後側シリンダヘッド8,11のバンク内側に開口する吸気通路8a,11aには吸気マニホールド13,14、スロットルボディ15,16が接続されており、該両スロットルボディ15,16の吸込口はエアクリーナ17内に開口している。
【0016】
上記前側シリンダヘッド8の車両前側に開口する各前側排気通路8b,8bには、前側排気管18,18が接続されている。該各前側排気管18は、クランクケース3の前壁から底壁を囲むように屈曲して車両左,右両側を車両後方に延びている。また該前側排気管18の、クランクケース後壁付近に位置する後端部18aには合流管20が接続されており、該合流管20はそのまま車両後端付近まで延びている。ここで、上記各前側排気管18は二重管構造になっており、その空間層18aは、断熱層として機能し、排気ガス温度の降下を抑制する保温手段となっている。
【0017】
また上記後側シリンダヘッド11の車両後側に開口する各後側排気通路11b,11bには後側排気管19が接続されている。該各後側排気管19はクランクケース3の後壁に沿うように下方に延び、上記前側排気管18の後端部18a付近に合流している。これにより車両左側における前側,後側気筒8b,11bからの排気ガスを合流させた後、車両後端部から排出する左側排気系、及び同様の構造の右側排気系が構成されている。
【0018】
また、上記左,右各排気系の前側排気管18の後端部18aには前側酸素濃度センサ23aが、後側排気管19の後端部19aには後側酸素濃度センサ23bがそれぞれ配設されている。この両酸素濃度センサ23a,23bは車両前後方向位置でみて略同じ位置に位置しており、その結果前側気筒8aから前側酸素濃度センサ23aまでの排気管長さは後側気筒11aから後側酸素濃度センサ23bまでの排気管長さの略2倍になっている。
【0019】
また図1,図4において、25は本実施例の燃焼制御を行うECU、26はクランク軸2の回転速度を検出するエンジン回転数センサ、27は気筒判別センサ、28はスロットル開度センサ、29,30は吸気温,水温センサ、31a,31bは前側,後側吸気負圧センサ(空気量センサ)である。
【0020】
上記ECU25は、各入力インターフェース25a,メモリ25b,CPU25c,各出力インターフェース25dを備え、上記各センサからの回転数信号a、気筒判別信号b、スロットル開度信号c、吸気温,水温信号d,e、前,後空気量信号f,g、前,後酸素濃度信号h,iが入力インタフェース25aを介して入力される。
【0021】
そして上記CPU25cは、空気量信号f,gに基づいて設定空燃比(図5参照)となるよう基本燃料量を演算する基本燃料量演算手段と、上記基本燃料から酸素濃度信号h,i,及び各気筒毎の排気ガス温度等の気筒運転条件に応じた各気筒毎の補正燃料量を演算する補正燃料量演算手段とを備えており、補正燃料量信号A1〜A4を出力インタフェイス25dを介して各気筒の燃料噴射弁32a〜32dに出力し、また点火時期制御信号B1〜B4をイグニッションコイル33a〜33dに出力する。
【0022】
次に本実施例の作用効果を説明する。本実施例エンジンでは、前側気筒7aからの排気ガスの酸素濃度は、前側排気管18の後端部18a部分に配設された前側酸素濃度センサ23aによって検出され、また後側気筒10aからの排気ガスの酸素濃度は、後側排気管19の後端部19a部分に配設された後側酸素濃度センサ23bによって検出される。
【0023】
この場合、前側気筒7aから酸素濃度センサ23aまでの距離が長いことから、特にエンジン始動時には排気ガス温度が降下し易く、酸素濃度センサ23aの活性化までの時間が酸素濃度センサ23bの活性化までの時間より長くなり、結果的にフィードバック制御の開始までの時間が長くなる。そこで本実施例では、前側排気管18を二重解管構造にして排気ガス温度の降下を抑制したので、前側酸素濃度センサ23aの活性化までの時間が後側酸素濃度センサ23bの活性化までの時間と同程度に短縮され、全体としてフィードバック制御開始までの時間を短縮できる。
【0024】
また本実施例エンジンの空燃比制御を図5に沿って説明する。図中、Aは設定空燃比、Bは検出された空燃比を示し、この検出空燃比は検出された酸素濃度から演算により求められる。なお、目標空燃比は通常理論空燃比に設定される。目標空燃比に対して検出空燃比Bがリッチ側にある場合は設定空燃比Aはリーン側に、かつ勾配(時定数)Tcで徐々にリーン度が大きくなるように設定され、これにより検出空燃比は目標空燃比に近づいていく。そして検出空燃比Bが目標空燃比を越えてリーン側に所定値だけ振れた時点t1,又はt2で設定空燃比Aはスキップ定数k1,又はk2だけリーン度を低下させた後、勾配(時定数)Tcでリッチ側に変化するように設定され、これにより検出空燃比は目標空燃比に近づいていく。
【0025】
このような燃料比制御において、本実施例では、上記スキップ定数を前側気筒用と後側気筒用とで異なる値に設定している。即ち、後側気筒用スキップ定数がk2であるのに対し、前側気筒用スキップ定数はk2より大きいk1に設定している。これは前側気筒からの排気ガスの温度降下量が後側気筒からの排気ガスの温度降下量よりも大きく、従って前側排気ガス温度が後側排気ガスより低くなり、それだけ応答性が低い点を補正するためである。
【0026】
例えば、前側気筒用スキップ定数を後側気筒用スキップ定数k2と同低度に設定すると、図5(a)に破線で示すように、空燃比がリーン側からリッチ側に向けてに反転開始するポイントa1が後側気筒における反転ポイントa2より遅れ、その結果検出空燃比の振れ幅が大きくなり、結果的に空燃比の制御精度が低下し、排気ガス特性が悪化する。これに対して、本実施例ではスキップ定数をk2より大きいk1に設定したので、上記反転ポイントは後側気筒と同程度のa3となり、検出空燃比の振れ幅も後側気筒と同程度と小さくなる。
【0027】
このように空燃比の振れ幅が小さくなることから、前側気筒と後側気筒とで燃焼状態が変化したり不安定になったりすることはなく、従って燃焼状態の不安定性による振動の発生を抑制できる。
【0028】
なお、上記実施例では、スキップ定数のみを変えたが、これの代わりに時定数Tcを変え、あるいは両方を変えても良い。また上記実施例では、前側排気管18,18と後側排気管19,19とを左側同士,右側同士で合流させるとともに、該合流部より少し上流の各排気管に個別の酸素濃度センサを設けた場合を説明したが、本発明の適用範囲はこのような排気管を備えた場合に限定されるものではなく、図6〜図9に示すものにも適用できる。
【0029】
図6は4本の排気管18,18,19,19を合流させることなく下流端まで延長した例である。図7は前側排気管18,18同士、後側排気管19,19同士を合流させ、合流部に前側,後側酸素濃度センサ23a,23bを配設した例である。図8は前側排気管同士のみを合流させた例であり、図9は後側排気管同士のみを合流させた例である。これらの各例においても上記実施例と同様の効果が得られる。
【0030】
また上記実施例,変形例では自動二輪車用V型4気筒エンジンを説明したが、本発明はこれ以外のエンジンであっても、要は排気ポートから酸素濃度センサまでの排気ガス温度降下量の異なる排気管、排気管長の異なる排気管を備えたエンジンであれば適用でき、上述の効果が得られる。
【0031】
【発明の効果】
以上のように請求項1の発明に係るエンジンの燃焼制御装置によれば、気筒から酸素濃度センサまでの排気管長の長い側の気筒に対するフィードバック制御におけるスキップ定数,時定数の少なくとも一方を排気管長の短い側より大きく設定したので、排気管長が長いこと、及び排気ガス温度が低く酸素濃度センサの活性度が低いことによる応答遅れを抑制して実際の検出空燃比の振れ幅を縮小くでき、それだけ空燃比の制御精度を向上でき、排気ガス浄化率を向上できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1の発明の一実施形態によるエンジンの燃焼制御装置の全体構成図である。
【図2】上記実施形態エンジンの車体搭載状態を示す側面図である。
【図3】上記実施形態エンジンの酸素濃度センサ配置状態を示す平面模式図である。
【図4】上記実施形態装置のブロック構成図である。
【図5】上記実施形態装置の空燃比制御状態を示す特性図である。
【図6】上記酸素濃度センサの配置状態の第1変形例を示す平面模式図である。
【図7】上記酸素濃度センサの配置状態の第2変形例を示す平面模式図である。
【図8】上記酸素濃度センサの配置状態の第3変形例を示す平面模式図である。
【図9】上記酸素濃度センサの配置状態の第4変形例を示す平面模式図である。
【符号の説明】
7a,10a 前側,後側気筒(第1,第2気筒)
18,19 前側,後側排気管(第1,第2排気管)
23a,23b 前側,後側酸素濃度センサ(第1,第2酸素濃度センサ)
1 V型エンジン
k1 大きく設定されたスキップ定数
Tc 時定数
Claims (1)
- 第1気筒に接続された第1排気管と、第2気筒に接続された第2排気管と、該第1,第2排気管の各気筒からの長さの異なる位置に配設された第1,第2酸素濃度センサと、気筒から酸素濃度センサまでの長さの長い側の気筒に対するフィードバック制御におけるスキップ定数,及び時定数の少なくともいずれか一方を他の気筒に対するスキップ定数,及び時定数より大きく設定したことを特徴とするエンジンの燃焼制御装置。
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