JP3812445B2 - ハイブリッド車両用走行速度制御装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、例えばモータとエンジンとを併載したハイブリッド車両の走行速度を制御するハイブリッド車両用走行速度制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
このような走行速度制御装置としては、例えば特開平8−207619号公報に記載されるものがある。この走行速度制御装置は、例えばモデルマッチング補償器等で構成された目標駆動力設定手段で目標走行速度と走行速度との差から目標駆動力を設定する一方、外乱補償器等で構成された目標駆動力補正手段で走行速度と過去の走行速度制御の結果とから目標駆動力を補正し、この補正された目標駆動力を所定の上下限値で制限して駆動力指令値を設定し、この駆動力指令値に応じた駆動力が得られるように駆動源の作動状態を制御する。なお、目標駆動力の上下限値とは、例えば所定のエンジン回転数におけるエンジン駆動力の最大値と最小値等に相当する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記従来の走行速度制御装置は、駆動源がエンジン一つであり、例えばモータとエンジンとを併載し、それらを単独か、若しくは組合せて使用するハイブリッド車両では、夫々の駆動源の作動状態によっては、必要とする駆動力が得にくいという問題がある。
本発明はこれらの諸問題に鑑みて開発されたものであり、ハイブリッド車両でも、必要とする駆動力が得られ、走行速度を目標走行速度に正確に追従させることができるハイブリッド車両用走行速度制御装置を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記問題を解決するため、本発明のうち請求項1に係るハイブリッド車両用走行速度制御装置は、複数の駆動源を単独又は組合せて使用するハイブリッド車両用の走行速度制御装置であって、車両の走行速度を検出する走行速度検出手段と、目標走行速度を設定する目標走行速度設定手段と、前記走行速度が前記目標走行速度となるように目標駆動力を設定する目標駆動力設定手段と、前記目標駆動力を所定の上下限値で制限して駆動力指令値を設定する駆動力指令値設定手段と、前記複数の駆動源の作動状態が単独の状態と組合せの状態との夫々において前記目標駆動力の上下限値を設定し、前記作動状態が切り替わったことに応じて前記目標駆動力の上下限値を切り替える上下限値設定手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0005】
また、前記請求項1の発明において、作動している駆動源が増加したとき、前記駆動力指令値にフィルタをかけることを特徴とするものである。
【0006】
【発明の効果】
而して、本発明のうち請求項1に係るハイブリッド車両用走行速度制御装置によれば、走行速度が目標走行速度となるように目標駆動力を設定し、この目標駆動力を所定の上下限値で制限して駆動力指令値を設定するにあたり、複数の駆動源の作動状態が単独の状態と組合せの状態との夫々において目標駆動力の上下限値を設定し、作動状態が切り替わったことに応じて目標駆動力の上下限値を切り替える構成としたため、例えばモータとエンジンとを複数の駆動源として併載したときには、モータが単独で作動しているときの目標駆動力の上下限値を当該モータの駆動力の上下限値とし、モータとエンジンとが同時に作動しているときの目標駆動力の上下限値をモータの駆動力の上下限値とエンジンの駆動力の上下限値との和とすることにより、必要な駆動力を常時得ることができるので、走行速度を目標走行速度に正確に追従させることができる。
【0007】
また、作動している駆動源が増加したとき、前記駆動力指令値にフィルタをかける構成としたため、例えばモータとエンジンとを複数の駆動源として併載したときには、モータが単独で作動している状態からモータとエンジンとが同時に差動している状態に移行したときには、前記目標駆動力の上下限値が切替わっても駆動力指令値自体にフィルタをかけて駆動力が著しく変化するのを防止することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のハイブリッド車両用走行速度制御装置の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明のハイブリッド車両用走行速度制御装置の一実施形態を示す概略構成図である。図中、符号1は一つ目の駆動源としてのモータ、符号2は二つ目の駆動源としてのエンジンであり、両者はクラッチ3によって断続可能となっている。前記モータ1は、駆動輪32に減速機構を介して連結された交流同期モータであり、駆動トルク制御の対象となると共に、回生ブレーキ制御により車両運動エネルギをバッテリ8に回収するものである。また、前記エンジン2は、希薄燃焼可能な、所謂リーンバーンエンジンであり、例えばスロットルアクチュエータ2aによる吸入空気量、インジェクタによる燃料噴射量、点火プラグによる点火時期のの制御により、エンジントルクを指令値に一致するように制御することができる。また、前記クラッチ3は電磁クラッチであり、エンジン出力軸と無段変速機5の入力軸とを連結して所謂パラレル走行を行ったり、両者を切り離して所謂シリーズ走行を行ったりするためのものである。
【0009】
また、図中の符号4は、発電用モータであり、前記シリーズ走行モードでバッテリ8の充電状態に応じてエンジン出力トルクを電気エネルギに変換し、バッテリ8に充電する。前記バッテリ8は高電圧バッテリであり、前記駆動用モータ1からの回生エネルギや発電用モータ4で発電された電気エネルギを蓄積する。このバッテリ8と駆動用モータ1及び発電用モータ4との間には直流ー交流変換を行うインバータ7が介装されている。このインバータ7は高電圧インバータである。また、前記無段変速機5は、所謂ベルト式無段変速機であり、プライマリプーリ(入力側プーリ)5aとセカンダリプーリ(出力側プーリ)5bの夫々のベルト接触半径を制御することにより変速比を指令値に一致するように制御することができる。前記無段変速機5のセカンダリプーリ5bは、最終減速機31を介して駆動輪32に連結されている。
【0010】
前記無段変速機5は変速機コントローラ12によって制御され、前記クラッチ3はクラッチコントローラ13によって制御され、前記エンジン2はエンジンコントローラ14によって制御され、前記駆動用モータ1並びに発電用モータ4はインバータ7を介してモータコントローラ15によって制御され、前記バッテリ8はバッテリコントローラ16によって制御されるように構成され、それらのコントローラの上位に統合コントローラ10と車速制御コントローラ11とが位置する。
【0011】
前記統合コントローラ10は、前記バッテリコントローラ16でモニタされたバッテリの充電状態及び走行速度センサ6で検出された自車両の走行速度及びアクセルセンサ9で検出されたアクセルペダルの踏込み量或いは踏み込み速度、つまり運転者の加速意思に応じて、通常のアクセルペダル踏込み時の制御を司るものであり、具体的にはモータ1及びエンジン2のトルク指令値及び無段変速機5の変速比指令値を算出し、それらを制御する各コントローラに出力する。一方の前記車速制御コントローラ11は、メインスイッチ(図ではSW、運転者の手動操作による自動走行速度制御要求スイッチ)17の状態、セットスイッチ(運転者の手動操作による自動走行速度制御の目標走行速度設定スイッチ)18の状態、アクセルスイッチ(運転者の手動操作による加速要求スイッチ)19の状態、コーストスイッチ(運転者の手動操作による減速要求スイッチ)20の状態、キャンセルスイッチ(運転者の手動操作による自動走行速度制御停止スイッチ)21の状態、ブレーキペダルの踏込みをモニタするブレーキスイッチ22の状態、エンジンコントローラ14でモニタされたエンジン2の作動状態、モータコントローラ15でモニタされたモータ1の作動状態、並びにクラッチコントローラ13でモニタされたクラッチ3の締結、開放状態に基づき、図3の演算処理に従って、アクセルペダルが踏込まれていないときの自車両の自動走行速度制御を司るものである。
【0012】
前記各コントローラはマイクロコンピュータ等の演算処理装置を備えて構成されるが、前記車速制御コントローラ11も、マイクロコンピュータ等の演算処理装置を備えている。この車速制御コントローラ11の演算処理装置内では、図2に示す演算処理が行われる。この演算処理は、例えば10msec. 程度に設定された所定サンプリング時間ΔT毎に実行される。なお、この演算処理では、特に通信のためのステップを設けていないが、必要な情報は随時他のコントローラ或いは記憶装置と授受されるし、演算処理で得られた情報は随時他のコントローラ或いは記憶装置と授受される。
【0013】
この演算処理では、まずステップS1で前記モータ1が駆動源として単独で作動しているシリーズ状態か、モータ1とエンジン2とが組合されて駆動源として作動しているパラレル状態かと共に、前記走行速度センサ6で検出された走行速度を読込む。
次にステップS2に移行して、前記キャンセルスイッチ21又はブレーキスイッチ22がON状態であるか否かを判定し、それらのスイッチがON状態である場合にはステップS6に移行し、そうでない場合にはステップS3に移行する。
【0014】
前記ステップS3では、前記セットスイッチ18がON状態であるか否かを判定し、当該セットスイッチ18がON状態である場合にはステップS4に移行し、そうでない場合にはステップS7に移行する。
前記ステップS4では、自動走行速度制御の目標走行速度の設定が要求されているとして、そのときの走行速度Vspを目標走行速度Vspr に設定してからステップS5に移行する。
【0015】
前記ステップS5では、自動走行速度制御ASCD(Auto Speed Control Device )作動フラグをセットしてからメインプログラムに復帰する。
一方、前記ステップS7では、前記ASCD作動フラグがセットされているか否かを判定し、当該ASCD作動フラグがセットされている場合にはステップS8に移行し、そうでない場合には前記ステップ6に移行する。
前記ステップS6では、前記ASCD作動フラグ並びに各種の変数を初期化(クリア)してからメインプログラムに復帰する。
【0016】
これに対し、前記ステップS8では、後述する図3の演算処理から得られる各種のパラメータを用いて、モータのみの駆動力によるシリーズ走行モードからモータとエンジンの駆動力の組合せによるパラレル走行モードへの走行モード移行時の前記目標走行速度Vspr を補正してからステップS9に移行する。
前記ステップS9では、前記アクセルスイッチ19の作動状態を読込み、当該アクセルスイッチ19がON状態である場合には加速要求されているとして、前記ステップS8で補正された目標走行速度Vspr に所定走行速度補正値ΔVを加算し、新たな目標走行速度Vspr を算出してからステップS10に移行する。
【0017】
前記ステップS10では、前記コーストスイッチ20の作動状態を読込み、当該コーストスイッチ20がON状態である場合には減速要求されているとして、前記ステップS8で補正された目標走行速度Vspr から所定走行速度補正値ΔVを減算し、新たな目標走行速度Vspr を算出してからステップS11に移行する。
前記ステップS11では、図3に示す演算処理に従ってモデルマッチング補償器演算、つまり目標駆動トルクの算出を行ってからステップS12に移行する。
【0018】
前記ステップS12では、図3に示す演算処理に従って第2外乱補償器演算、つまり目標駆動トルク補正値の算出を行ってからステップS13に移行する。
前記ステップS13では、図3に示す演算処理に従って駆動トルク指令値の補正を行ってからステップS14に移行する。
前記ステップS14では、図3に示す演算処理に従って駆動トルク指令値の上下限制限を行ってからステップS15に移行する。
【0019】
前記ステップS15では、図3に示す第1外乱補償器演算を行ってからステップS16に移行する。
前記ステップS16では、無段変速機5の変速比としてプライマリプーリ5aの回転数指令値を算出してからステップS17に移行する。具体的には、例えば等出力線、等燃費線、最適燃費線等からなるエンジン特性図を用いて、前記ステップS13で補正され、或いは前記ステップS14で制限されて算出された駆動トルク指令値を実現し且つ燃費が最低となる運転点になるようにプライマリプーリの回転数を設定する。
【0020】
前記ステップS17では、前記ステップS13で補正され、或いは前記ステップS14で制限されて算出された駆動トルク指令値を、後述するようにして前記モータ1及びエンジン2に配分し、夫々の駆動トルク配分指令値Tmr、Terを算出してからステップS18に移行する。
前記ステップS18では、前記ステップS16で算出されたプライマリプーリ回転数指令値並びにステップS17で算出された駆動トルク配分指令値を出力してからメインプログラムに復帰する。
【0021】
次に、前記ステップS11からステップS15で行われる図3の演算処理について説明する。この演算処理は、主として前記目標走行速度Vspr 及び検出された走行速度Vspから目標駆動トルクy4 を算出する目標駆動力設定手段としてのモデルマッチング補償部41と、既に出力された前記駆動トルク指令値y5 、つまり過去の走行速度制御及び前記検出された走行速度から目標駆動トルクの補正値y6 を算出し、前記目標駆動トルクを補正する目標駆動力補正手段としての外乱補償部42及び加減算器45と、この補正された目標駆動トルクy1 に対し、それを制限する上下限値Tdmax、Tdminを設定する上下限値設定手段としての上下限値設定部43と、前記状下限値設定部43で設定された上下限値Tdmax、Tdminで前記補正された目標駆動トルクy1 を制限して前記駆動トルク指令値y5 を算出するリミッタ44とを備えて構成される。
【0022】
また、前記モデルマッチング補償部41は、前記目標走行速度Vspr から検出された走行速度Vspを減ずる加減算器51と、この加減算器51の出力にモデルマッチング手法を施すモデルマッチング補償器52とを備えて構成される。また、前記外乱補償部42は、前記駆動トルク指令値y5 に近似ゼロ手法を施す第1外乱補償器53と、この第1外乱補償器53の出力に遅延演算子を乗じる無駄時間要素54と、前記検出された走行速度Vspに近似ゼロ手法を施す第2外乱補償器55と、前記第2外乱補償器55の出力から前記無駄時間要素54の出力を減じて前記目標駆動トルクの補正値y6 を算出する加減算器56とを備えて構成される。
【0023】
前記図3の構成は、制御対象の伝達特性をパルス伝達関数P(z-1) で表したときの制御器である。z-1は前記遅延演算子であり、z-1を乗じると1サンプリング周期前の値となる。前記外乱補償器は外乱やモデル化誤差による影響を抑制するものであり、モデルマッチング補償器は制御対象の応答特性を規範モデルH(z-1) の特性に一致させるものである。ここで、駆動トルク指令値を入力、検出された走行速度を出力とする部分を制御対象とすると、前記パルス伝達関数P(z-1) は下記1式で示す積分要素P1(z-1) と前記無駄時間要素P2(z-1) =z-nとの積で表すことができる。
【0024】
【数1】
【0025】
但し、ΔTはサンプリング周期、Mは車両質量、Rはタイヤ転がり動半径を示す。
このとき、前記第1外乱補償器55の応答特性C1(z-1) 及び第2外乱補償器53の応答特性C2(z-1) は、夫々、下記2式及び3式の時定数Tbのローパスフィルタで表れる。
【0026】
【数2】
【0027】
また、制御対象の無駄時間を無視して、規範モデルを時定数Taの一次のローパスフィルタとすると、前記モデルマッチング補償器52のゲインC3 は下記4式の定数Kとなる。
【0028】
【数3】
【0029】
従って、前記モデルマッチング補償部41で算出される目標駆動トルクの今回値y4(k)は、前記目標走行速度の前回値Vspr(k-1)及び走行速度の前回値Vsp(k-1) を用いて下記5式で表れる(図2の演算処理のステップS11)。
【0030】
【数4】
【0031】
一方、前記第2外乱補償器55の出力の今回値y3(k)は、当該第2外乱補償器55の出力の前回値y3(k-1)を用いて下記6式で表れる(図2の演算処理のステップS12)。
【0032】
【数5】
【0033】
これに対し、前記無駄時間要素54の出力は、今回からn回前のサンプリング時刻におけるy2 の値であるからy2(k-n)と表れる。従って、前記加減算器45から出力される補正された目標駆動トルクの今回値y1(k)は下記7式で表れる(図2の演算処理のステップS13)。
【0034】
【数6】
【0035】
この補正された目標駆動トルクの今回値y1(k)に対し、前記リミッタ44で上下限値制限をかけた値が駆動トルク指令値の今回値y5(k)となるのであるが、前記第1外乱補償器53では前記遅延演算子z-1によって、当該第1外乱補償器53の出力の前回値y2(k-1)及び駆動トルク指令値の前回値y5(k-1)を用いて、下記8式に従って出力の今回値y2(k)が算出される(図2の演算処理のステップS15)。
【0036】
【数7】
【0037】
次に、前記上下限値設定部43による目標駆動トルクの上下限値Tdmax、Tdminの設定について説明する。まず、エンジントルク上下限値設定器61でエンジン回転数Ne からエンジントルク上下限値Temax、Teminを設定する。このエンジントルク上下限値Temax、Teminは、例えば図4aに示すようなエンジンの出力特性マップから容易に設定することが可能である。また、モータトルク上下限値設定器62でモータ回転数Nm からモータトルク上下限値Tmmax、Tmminを設定する。このモータトルク上下限値Tmmax、Tmminは、例えば図4bに示すようなモータの出力特性マップから容易に設定することが可能であるし、モータの出力は一定であるから、その出力(正転、逆転で符号は異なる)をモータ回転数Nm で除して算出するようにしてもよい。
【0038】
この設定されたエンジントルク上下限値Temax、Teminとモータトルク上下限値Tmmax、Tmminとを加算器64で加算して駆動源でのトルク上下限値を算出するのであるが、本実施形態ではモータのみで走行する場合と、エンジンとモータとの組合せで走行する場合の二つの走行モードがある。モータのみで走行する場合には、エンジントルク上下限値Temax、Teminを考慮する必要はないので、前記エンジントルク上下限値設定器61と加算器64との間にスイッチ65を設け、走行モード信号がモータとエンジンとの組合せで走行しているときには当該エンジントルク上下限値設定器61と加算器64とを接続し、モータのみで走行しているときには当該エンジントルク上下限値設定器61と加算器64とを切断、或いはエンジントルク上下限値Temax、Teminを“0”として出力する出力器に接続する。
【0039】
そして、前記加算器64の出力に、乗算器66で、前記無段変速機5の変速比Gcvt を乗じ、更に乗算器67で前記最終減速機31の減速比Gf を乗じて前記目標駆動トルクの上下限値Tdmax、Tdminを算出設定する。従って、最終的な目標駆動トルクの上下限値Tdmax、Tdminは下記9式〜12式で表れる。
【0040】
【数8】
【0041】
次に、前記図2の演算処理のステップS17で行われる駆動トルク配分指令値について説明する。前記駆動トルク指令値y5 を前記無段変速機5の変速比Gcvt 及び最終減速機31の減速比Gf で除し、下記13式で示す無段変速機入力軸トルクTinr を算出する。
【0042】
【数9】
【0043】
そこで、バッテリ充電状態等に基づいてモータ配分係数Km を設定すると、エンジン配分係数Ke は(1−Km )で表れるので、夫々の走行モードにおけるモータ駆動トルク配分指令値Tmr、エンジン駆動トルク配分指令値Terは下記14式〜17式で表れる。
【0044】
【数10】
【0045】
次に、前記図2の演算処理のステップS8で行われる目標走行速度の補正について説明する。前記5式と7式とを目標走行速度Vspr について整理すると、下記18式を得る。
【0046】
【数11】
【0047】
ここで、前記18式における前記加減算器45の出力値y1 に駆動トルク指令値の前回値y5(k-1)、第1外乱補償器53の出力y2 に(n−1)回前の値y2(k-n-1)、第2外乱補償器55の出力y3 に前回値y3(k-1)、走行速度Vspには今回値Vsp(k) を代入すると、下記19式に示すように、少し前と同じ目標走行速度Vspr(k)を得る。
【0048】
【数12】
【0049】
本実施形態では、前記モータのみの走行モード、即ちシリーズ走行モードからモータとエンジンとを組合せた走行モード、即ちパラレル走行モードへの移行期、換言すれば作動している駆動源の数が増加したときに、駆動トルク指令値が前回値と一致するように目標走行速度Vspr(k)を設定する。即ち、前記図3の制御器では、シリーズ走行モードからパラレル走行モードへの移行期には、目標駆動トルクの上下限値Tdmax、Tdminがエンジン駆動トルク上下限値Temax、Temin分だけ増減することになるが、目標走行速度Vspr が少し前の値になることにより、駆動トルク指令値y5 も前回と同等に設定され、一種の初期化が施される。
【0050】
図5は、本実施形態によるモータのみの走行モード、即ちシリーズ走行モードにおける駆動トルクと走行速度の経時変化を示したものである。同図から明らかなように、時刻t01からの目標走行速度Vspr の加速要求に対し、モータ駆動トルク配分指令値Tmrのみからなる駆動トルク指令値y5 は増加されるが、前記目標駆動トルクの上限値Tdmaxもモータ駆動トルク上限値Tmmaxのみであり、モータ回転数Nm の増大に伴って次第に減少する。このため、実際に発生するモータ駆動トルクTm は時刻t02で前記モータ駆動トルク上限値Tmmaxとなって飽和するが、目標駆動トルクの上限値Tdmaxが当該モータ駆動トルク上限値Tmmaxのみからなるために駆動トルク指令値y5 と等価なモータ駆動トルク配分指令値Tmrも当該目標駆動トルクの上限値Tdmaxで制限される。このため、前記時刻t02以後も、前記外乱補償部42から出力される目標駆動トルク補正値y6 も絶対値の小さな値になり、シリーズ走行モードに適した加速が行われている。
【0051】
これに対し、図6は、本実施形態によるモータとエンジンとの組合せによる走行モード、即ちパラレル走行モードにおける駆動トルクと走行速度の経時変化を示したものである。同図から明らかなように、時刻t11からの目標走行速度Vspr の加速要求に対し、モータ駆動トルク配分指令値Tmrとエンジン駆動トルク配分指令値Terとの和からなる駆動トルク指令値y5 は増加されるが、前記目標駆動トルクの上限値Tdmaxもモータ駆動トルク上限値Tmmaxとエンジン駆動トルク上限値Temaxとの和であり、モータ回転数Nm の増大に伴って次第に減少するものの、モータ駆動トルク上限値Tmmax単独よりも遙かに大きい。このため、実際に発生する前記駆動トルク指令値y5 が目標駆動トルクの上限値Tdmaxで制限されることはなく、モータ駆動トルク配分指令値Tmrとエンジン駆動トルク配分指令値Terとからなる駆動トルク指令値y5 によってパラレル走行モードに適した速やかな加速が可能となっている。なお、このときも、前記外乱補償部42から出力される目標駆動トルク補正値y6 も絶対値の小さな値に維持される。
【0052】
一方、図7は、本実施形態による時刻t21からの加速走行中に、時刻t24でシリーズ走行モードからパラレル走行モードに移行したときの駆動トルクと走行速度の経時変化を示したものである。前記図5と同様に、シリーズ走行モードでは目標駆動トルクの上限値Tdmaxはモータ駆動トルク上限値Tmmaxのみであり、前記時刻t21以後、モータ駆動トルク配分指令値Tmrのみからなる駆動トルク指令値y5 が増大され、それに伴ってモータ駆動トルクTm も増大するが、やがて時刻t22で飽和し、その後は前記モータ駆動トルク上限値Tmmaxに相当する駆動トルク指令値y5 がモータに向けて出力される。その後、前記時刻t24でパラレル走行モードに移行すると、前記19式に従って少し前の(この場合は時刻t23と同じ)目標走行速度Vspr となるため、加速中の目標走行速度Vspr と実際の走行速度Vspとの差が小さくなり、モータ駆動トルク配分指令値Tmrとエンジン駆動トルク配分指令値Terとの和からなる駆動トルク指令値y5 に初期化が施され、駆動トルク指令値y5 の急激な増加を抑制防止すると共に、それ以後はパラレル走行モードに適した速やかな加速が可能となる。
【0053】
図8は、従来の走行速度制御装置において、駆動トルク指令値の上限値Tdmaxをエンジン駆動トルク上限値Temaxに固定したものであり、前記図5と同様に、モータのみの走行モード、即ちシリーズ走行モードにおける加速走行中の駆動トルクと走行速度の経時変化を示したものである。同図から明らかなように、時刻t31からの目標走行速度Vspr の加速要求に対し、モータ駆動トルク配分指令値Tmrのみからなる駆動トルク指令値y5 は増加されるが、前記目標駆動トルクの上限値Tdmaxはエンジン駆動トルク上限値Temaxであり、実際に発生するモータ駆動トルクTm が時刻t32でモータ駆動トルク上限値Tmmaxとなって飽和するにも関わらず、前記目標駆動トルク補正値y6 は目標走行速度Vspr と実際の走行速度Vspとの差に応じて絶対値が大きくなり、その結果、モータ駆動トルク配分指令値Tmrからなる駆動トルク指令値y5 はその後も増加し続ける。やがて時刻t33で駆動トルク指令値y5 はモータ駆動トルク上限値Tmmax以下となるが、未だ絶対値の大きな目標駆動トルク補正値y6 の影響で車両は更に加速され、その結果、走行速度Vspが目標走行速度Vspr に対してオーバシュートしてしまっている。
【0054】
図9は、前記図8と同様に、従来の走行速度制御装置において、駆動トルク指令値の上限値Tdmaxをエンジン駆動トルク上限値Temaxに固定し、前記図6と同様に、モータとエンジンとの組合せによる走行モード、即ちパラレル走行モードにおける駆動トルクと走行速度の経時変化を示したものである。同図から明らかなように、時刻t51からの目標走行速度Vspr の加速要求に対し、モータ駆動トルク配分指令値Tmrとエンジン駆動トルク配分指令値Terとの和からなる駆動トルク指令値y5 は増加されるが、前記目標駆動トルクの上限値Tdmaxはエンジン駆動トルク上限値Temaxであるため、前記時刻t41からさほど経時していない時刻t42から時刻t43までの間、駆動トルク指令値y5 が当該目標駆動トルクの上限値Tdmaxで制限され、モータにもエンジンにも駆動トルクの余裕があるのに、走行速度Vspは目標走行速度Vspr に対してゆっくりとしか加速されない。
【0055】
また、図10は、前記図8と同様に、従来の走行速度制御装置において、駆動トルク指令値の上限値Tdmaxをエンジン駆動トルク上限値Temaxに固定し、前記図7と同様に、時刻t51からの加速走行中に、時刻t54でシリーズ走行モードからパラレル走行モードに移行したときの駆動トルクと走行速度の経時変化を示したものである。前記時刻t51以後、モータ駆動トルク配分指令値Tmrのみからなる駆動トルク指令値y5 が増大され、それに伴ってモータ駆動トルクTm も増大するが、やがて時刻t52で飽和し、それによって走行速度Vspの加速が小さくなる。すると、目標走行速度Vspr と走行速度Vspとの差が大きくなり、駆動トルク指令値y5 も大きくなるが、実際のモータ駆動トルクTm は前記時刻t52以後、減少し続ける。その後も増大する駆動トルク指令値y5 は時刻t53で前記目標駆動トルク上限値Tdmaxとなり、その後は当該目標駆動トルク上限値Tdmaxで制限される。この間もモータ駆動トルクTm は減少し続けている。しかしながら、前記時刻t54でパラレル走行モードに移行すると、エンジン駆動トルクTe が加わるため、実際の駆動トルクであるモータ駆動トルクTm とエンジン駆動トルクTe との和は速やかに増大し、その結果、走行速度Vspが急激に加速し始める。これにより、駆動トルク指令値y5 は、時刻t55以後、前記目標駆動トルク上限値Tdmaxより小さくなるのであるが、前記時刻t54以後の急激な加速が違和感となる。
【0056】
なお、前記実施形態では各コントローラとしてマイクロコンピュータを適用した場合について説明したが、これに代えてカウンタ、比較器等の電子回路を組み合わせて構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のハイブリッド車両用走行速度制御装置の一実施形態を示す車両概略構成図である。
【図2】図1の車速制御コントローラ内で行われる演算処理を示すフローチャートである。
【図3】図2の演算処理の一部を示すブロック図である。
【図4】図3の演算処理で用いられる制御マップである。
【図5】図1のハイブリッド車両用走行速度制御装置による走行速度と駆動トルクの経時変化を示すタイミングチャートである。
【図6】図1のハイブリッド車両用走行速度制御装置による走行速度と駆動トルクの経時変化を示すタイミングチャートである。
【図7】図1のハイブリッド車両用走行速度制御装置による走行速度と駆動トルクの経時変化を示すタイミングチャートである。
【図8】従来の走行速度制御装置による走行速度と駆動トルクの経時変化を示すタイミングチャートである。
【図9】従来の走行速度制御装置による走行速度と駆動トルクの経時変化を示すタイミングチャートである。
【図10】従来の走行速度制御装置による走行速度と駆動トルクの経時変化を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
1はモータ
2はエンジン
3はクラッチ
4は発電用モータ
5は無段変速機
6は走行速度センサ
7はインバータ
8はバッテリ
9はアクセルセンサ
10は統合コントローラ
11は車速制御コントローラ
12は変速機コントローラ
13はクラッチコントローラ
14はエンジンコントローラ
15はモータコントローラ
16はバッテリコントローラ
41はモデルマッチング補償部
42は外乱補償部
43は上下限値設定部
44はリミッタ
Claims (4)
- 複数の駆動源を単独又は組合せて使用するハイブリッド車両用の走行速度制御装置であって、車両の走行速度を検出する走行速度検出手段と、目標走行速度を設定する目標走行速度設定手段と、前記走行速度が前記目標走行速度となるように目標駆動力を設定する目標駆動力設定手段と、前記目標駆動力を所定の上下限値で制限して駆動力指令値を設定する駆動力指令値設定手段と、前記複数の駆動源の作動状態が単独の状態と組合せの状態との夫々において前記目標駆動力の上下限値を設定し、前記作動状態が切り替わったことに応じて前記目標駆動力の上下限値を切り替える上下限値設定手段とを備えたことを特徴とするハイブリッド車両用走行速度制御装置。
- 前記上下限値設定手段は、前記駆動源の作動状態が単独のとき、作動している駆動源における駆動トルクの上下限値に基づいて前記目標駆動力の上下限値を設定し、前記駆動源の作動状態が組合せのとき、各駆動源における駆動トルクの上下限値の和に基づいて前記目標駆動力の上下限値を設定することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両用走行速度制御装置。
- 前記上下限値設定手段は、前記複数の駆動源の夫々について、駆動源の回転数と駆動トルクの上下限値との関係を示すマップを記憶していることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両用走行速度制御装置。
- 作動している駆動源が増加したとき、前記駆動力指令値にフィルタをかけることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両用走行速度制御装置。
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