JP3810846B2 - 芳香族置換塩素化炭化水素化合物の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は芳香族置換アルコール化合物から簡便な方法で効率よく芳香族置換塩素化炭化水素化合物を得る新規な製造方法である。
【0002】
【従来の技術】
ジクミルクロライド( p-Cl(CH3)2CC6H4C(CH3)2Cl)のような芳香族置換塩素化炭化水素化合物は末端官能性ポリイソブチレン等を製造する際の開始剤として用いられることが知られている(米国特許第4276394号明細書)。
このような開始剤を合成するには氷冷下、1、4-ビス(イソプロペニル)ベンゼンに塩化水素を付加する反応(O.ヌイケン、S.D.パスク、A.ビッシャー及びM.ウォルター、マクロモレキュラー ケミー(O. Nuyken, S. D. Pask, A. Vischer and M. Walter, Makromol. Chem.), 186, 173 −190(1985))及び氷冷下、1、4-ビス(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼンの溶液に塩化水素を作用させる反応(V.S.C.チャン及びJ.P.ケネディ、ポリマー ブレチン(V. S. C. Chang and J. P. Kennedy, Polymer Bulletin ) 4, 513−520(1981))が知られている。この他にクミルクロライドの合成方法としてはイソプロピルベンゼンに太陽光照射下、塩素ガスを作用する反応(M.S.カラシュ及びH.C.ブラウン、ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサエティ(M.S.Kharasch and H.C.Brown, J. Am. Chem. Soc.), 61, 2142 (1939))等がある。
【0003】
しかしながら、これまでの方法ではクロル化の試薬として塩素あるいは塩化水素等のガスを使用しているため、反応が気−液反応となることから撹拌効率が大きく収率に影響する、化学量論的に大過剰の塩素化試薬を必要とする、などの問題がある。また塩素ガスを用いる方法は、塩素ガスの毒性や腐食性が問題であり、光が必要であるという問題もあって実用的でない。
【0004】
塩化水素ガスを用いる方法は、塩素ガスを用いる方法より問題は少ない。しかし、反応時氷冷が必要であり、工業的に有利な方法とは言い難い。本発明者等はジクミルクロライド等の芳香族置換塩素化炭化水素化合物は分解しやすく、塩化水素を用いる方法において反応速度を大きくするために反応温度を上昇すると室温程度においてもかえって生成物の収率が低下することを見出した。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、室温程度以上の取り扱いやすい温度においても高い収率で芳香族置換水酸基含有炭化水素化合物(以下、芳香族置換アルコールともいう)から芳香族置換塩素化炭化水素化合物(以下、芳香族置換塩素化合物ともいう)を得る簡便な製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは芳香族置換アルコールに塩素化試薬として塩酸水溶液を反応させることにより室温程度以上の取り扱いやすい温度においても簡便に塩素化を行うことができることを見出し本発明をなすに至った。
すなわち本発明は、一般式(1):
Ar(CR12OH)n (1)
(式中、Arはn価の芳香環基、R1 、R2 は置換または非置換の一価の脂肪族炭化水素基を示し、それらは同じであっても異なっていてもよい、nは1〜5の整数)で表される化合物を塩酸と反応させることを特徴とする、
一般式(2):
Ar(CR12Cl)n (2)
(式中、Ar、R1 、R2 、nは前記とおなじ)
で表される芳香族置換塩素化炭化水素化合物の製造方法に関するものである。
【0007】
本発明においてArで示される芳香環基の例としてはC65-、p-C64-、m-C64-、o-C64-、1,3,5-C63-基などをあげることができる。R1 、R2 としてはメチル基、エチル基などの炭化水素基があげられ、これらは塩素原子のような置換基を有していてもよい。
本発明に用いる芳香族置換アルコールの例としては、
(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン
C6H5C(CH3)2OH
1、4−ビス(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン
1,4-HO(CH3)2CC6H4C(CH3)2OH
1,3−ビス(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン
1,3-HO(CH3)2CC6H4C(CH3)2OH
1、3、5−トリス(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン
1,3,5-((C(CH3)2OH)3C6H3
1、3−ビス(2−ヒドロキシ−2−プロピル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン 1,3-((HOC(CH3)2)2-5-(C(CH3)3)C6H3
などが挙げられる。
【0008】
本発明によって得られる芳香族置換塩素化合物の例としては、
(2−クロル−2−プロピル)ベンゼン
C6H5C(CH3)2Cl
1,4−ビス(2−クロル−2−プロピル)ベンゼン
1,4-Cl(CH3)2CC6H4C(CH3)2Cl
1,3−ビス(2−クロル−2−プロピル)ベンゼン
1,3-Cl(CH3)2CC6H4C(CH3)2Cl
1、3、5−トリス(2−クロル−2−プロピル)ベンゼン
1,3,5-((ClC(CH3)2)3C6H3
1、3−ビス(2−クロル−2−プロピル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン 1,3-((C(CH3)2Cl)2-5-(C(CH3)3)C6H3
などが挙げられる。
【0009】
本発明においては通常、有機溶媒と塩酸との混合物中に芳香族置換アルコールを加えて撹拌を行うことにより、反応を進行させる。生成した芳香族置換塩素化合物は有機溶媒に溶解することから、この有機層を塩酸と分離してから冷却を行い、目的化合物を結晶として得ることができる。本発明で用いる有機溶媒としてはペンタン、シクロペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ノルボルネン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、クロロエタン、ジクロロエタン、プロピルクロライド、ブチルクロライド等のハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタンなどのエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、HMPAなどがある。このうち、塩酸や水の溶解度が低く、なおかつ反応溶媒をそのまま再結晶溶剤としても使用できるという理由から、溶剤としてはぺンタン、シクロペンタン、ネオペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ノルボルネン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、クロロエタン、ジクロロエタン、プロピルクロライド、ブチルクロライド等のハロゲン化炭化水素が好ましい。このうち特に飽和炭化水素や芳香族炭化水素が好ましい。
【0010】
これらの溶媒の中には芳香族置換アルコールに対する溶解度が小さい溶媒もあるが生成する芳香族置換塩素化合物の溶解度が一般に高いため芳香族置換アルコールを完全に溶解させない状態で反応を始めることも可能である。
この際に用いる溶媒量としては特に制限されるものでは無いが、使用する溶媒の量を少なくし、結晶化させる際の効率を高くする目的で芳香族置換アルコールが溶媒量に対して50g/L以上になるように設定することが好ましい。
【0011】
本発明において用いる塩酸量は芳香族置換アルコールの水酸基に対して当量以上であれば特に制限されるものではないが、効率よく目的物を得るために、水酸基に対して2当量以上であることが好ましい。
本発明によれば芳香族置換アルコールと塩化水素ガスとを反応させ芳香族置換塩素化合物を得る反応(Polymer Bulltin 4, 513-520 (1981))に比較し反応温度を高くすることが可能である。塩化水素を用いる方法では生成する芳香族置換塩素化合物が分解するため氷冷下等の低温で反応させることが必要であるが、本発明の方法に従えば理由は不明であるが、室温付近でも分解反応が抑えられ、高収率で目的とする芳香族置換塩素化合物を得ることができる。すなわち本発明においては10℃以上の温度で反応を行うことが可能であり、さらに大きい反応速度で反応を行うには反応温度を、15〜30℃、特には20〜30℃とするのが望ましい。反応温度を上げることにより冷却が不要になり、製造設備を簡略化することが可能となる。
【0012】
水に不溶な有機溶媒を用いた場合、得られた溶液の有機層(即ち有機溶媒層)と水層(即ち塩酸層)を分離し、必要に応じ、溶媒層の洗浄、乾燥等を行う。水に可溶な溶媒を用いた場合あるいは後述の無溶媒系の場合、水に不溶な溶媒を用いて芳香族置換塩素化合物を抽出した後、同様の処理を行うことができる。
本発明の芳香族置換塩素化合物は再結晶により容易に精製することができる。特に水に不溶な有機溶媒を用いて反応を行った場合、塩酸分離後、芳香族置換塩素化合物溶液を冷却することにより容易に精製された芳香族置換塩素化合物をうることが可能である。
【0013】
再結晶温度は、通常0〜−70℃であるが、再結晶効率の点から好ましい温度範囲は−10〜−50℃である。
本発明においては塩化水素ガスを用いる従来の方法に比較し高い温度で反応を行うことができるので、反応溶液中の芳香族置換塩素化合物の濃度を高くすることができ効率よく芳香族置換塩素化合物の精製を行うことができる。
【0014】
本発明の反応は、溶媒なしでも進行させることができる。溶媒を用いない場合、塩酸中で芳香族置換アルコールを懸濁状態のまま反応させるが、高い収率で芳香族置換塩素化合物を得ることができる。溶媒なしの反応の場合、理由は不明であるが反応温度60℃程度の高い温度においても生成する芳香族置換塩素化合物の分解が生じない。従って溶媒なしの反応でも反応速度を大きくでき、効率よく反応を進行させることができる。
【0015】
本発明で得られる芳香族置換塩素化合物の中には、脱塩酸により分解する化合物もあることから、化合物の取り扱いは30℃以下で行うことが望ましい。
【0016】
【実施例】
【0017】
【実施例1】
20℃のヘキサン500mLと35%塩酸500mLの混合物中に、1、4−ビス(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ベンゼン(p−DIOL)97.1g(0.5mol、三井石油化学工業(株)製)の粉末を10分間かけて添加した。この際に反応液の温度は全く変化しなかった。この混合物を20℃でさらに80分撹拌した。この時、有機層、水層ともに無色透明に変化した。この後に有機層と水層を分離し、有機層中に無水硫酸マグネシウム10gを加えて水分の除去を行った。固形物をろ別した後に−32℃で12時間放置することにより無色の結晶を得た。母液をデカンテーションによって除去した後に30℃以下で減圧乾燥を行い、1、4−ビス(2−クロル−2−プロピル)ベンゼン(p−DCC、p−ジクミルクロライド)105.2g(0.45mol)を収率91%で得た。NMRによる純度検定を行ったところ98%純度であった。さらに得られた塩素化合物は滴定によっても純度を検定した。滴定方法は以下の通りである。得られたp−DCC0.5gをアセトン20mLに溶解し、これに分析用0.5N水酸化ナトリウム10mLを加えて室温で30分反応を行う。この後にフェノールフタレインのエタノール溶液を加え、分析用0.2N塩酸にて滴定し単位重量当たりに含まれる塩素量を求めた。この方法による純度検定では得られたp−DCCの純度は99.4%であった。尚、本反応を30℃で行ったところ、収率91%、NMRによる純度99%でp−DCCを得た。
【0018】
【実施例2】
20℃の35%塩酸10mLに、p−DIOL3.88g(20mmol)の粉末を10分間かけて添加した。この際に反応液の温度は全く変化しなかった。この混合物を20℃でさらに50分撹拌した。この後にメチルシクロヘキサン15mLで抽出を行い、有機層中に無水塩化カルシウム1.5gを加えて水分の除去を行った。固形物をろ別した後に30℃以下で有機溶媒留去を行い、p−DCC(粗精製品)4.5g(20mmol)を得た。NMRによる純度検定を行ったところ純度98%であった。
【0019】
【実施例3】
22℃のヘキサン2.8L,メチルシクロヘキサン1.2L、および35%塩酸4.0Lの混合物中に、p−DIOL777g(4.0mol)の粉末を20分間かけて添加した。この際に反応液の温度は変化しなかった。この混合物を22℃でさらに40分撹拌した。反応が進行するにつれて、p−DIOLの粉末は減少し、反応後は有機層、水層ともに無色透明であった。この後に有機層と水層を分離し、有機層中に無水硫酸マグネシウム40gを加えて水分の除去を行った。固形物をろ別した後にp−DCC溶液を2mLサンプリングし、揮発分を留去してからp−DCC(粗精製品)の1H−NMRスペクトルを測定したところ、純度は97%であった。残りの溶液を−30℃で16時間放置することにより、p−DCCの結晶を得た。窒素下でのデカンテーションにより、母液を除去した後に30℃以下で減圧乾燥を行い、p−DCC826g(3.58mol)を得た(収率89%)。NMRによる純度検定を行ったところ純度は100%であった。中和滴定による純度は99.1%であった。
【0020】
【実施例4】
反応温度を60℃に、反応時間を30分としたこと以外は、実施例2と同様にしてp−DCCを製造し、評価した。得られたp−DCC(粗精製品)のNMRでの純度は98%であった。また収量は4.4gであった。
【0021】
【比較例1】
p−DIOL3.88g(20mmol)とヘキサン25mLとの混合物を22℃で攪拌しながら、塩化水素ガスを20分間吹き込んだ。反応により生成した水を、p−DCC溶液から除いた後、揮発分を留去した。得られたp−DCC(粗精製品)1H−NMRスペクトルを測定したところ、純度は87%であった。
【0022】
【比較例2】
溶媒種を塩化メチレンとしたこと以外は比較例1と同様にして、p−DCCを合成し評価した。得られたp−DCC(粗精製品)の純度は84%であった。
以上の実施例1〜4および比較例1、2の結果より、本発明の方法に従えば、従来の方法に比べて高い温度で反応を行った場合でも、高純度のp−DCCが得られることが明らかになった。

Claims (3)

  1. 20℃以上30℃以下の温度で、ヘキサン、メチルシクロヘキサン及びトルエンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の有機溶媒存在下で、一般式(1):
    Ar(CROH) (1)
    (式中、Arはn価の芳香環基、R、Rは置換または非置換の一価の脂肪族炭化水素基を示し、それらは同じであっても異なっていてもよい、nは1〜5の整数)で表される化合物を塩酸と反応させることを特徴とする、一般式(2):
    Ar(CRCl) (2)
    (式中、Ar、R、R、nは前記とおなじ)で表される芳香族置換塩素化炭化水素化合物の製造方法。
  2. 反応を行わせてから、水層を除いた後、有機層を冷却して一般式(2)で表される化合物を結晶化させることを特徴とする請求項1記載の芳香族置換塩素化炭化水素化合物の製造方法。
  3. 一般式(2)で表される化合物が、
    1,4−Cl(CHCCC(CHCl、
    1,3−Cl(CHCCC(CHCl、
    1,3,5−(ClC(CH
    からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の芳香族置換塩素化炭化水素化合物の製造方法。
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