JP3810457B2 - マルトースをトレハロースに変換する組換え型耐熱性酵素 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、マルトースをトレハロースに変換する新規な組換え型耐熱性酵素に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
トレハロースは、グルコース2分子が還元性基同士が結合した二糖類であり、天然には細菌、真菌、藻類、昆虫などに微量存在する。トレハロースは分子中に還元性基を持たないので、アミノ酸類の存在下で加熱しても褐変反応を起こすことがなく、着色や変質の懸念なく飲食物を甘味付けできる利点がある。しかしながら、従来の方法では所望量を入手するのが難しく、実際に飲食物の甘味付けに使われることは殆どなかった。
【0003】
これまでの製造方法は、主として微生物の菌体を利用する方法と、糖質に複合酵素系を作用させる方法とに大別される。前者の方法は、特開昭50−154485号公報などにも見られるように、細菌、酵母などの微生物を栄養培地で増殖させ、主として菌体からトレハロースを採取するものである。一方、後者の方法は、特開昭58−216695号公報などにもみられるように、基質にマルトースを使用し、これにマルトース・フォスフォリラーゼとトレハロース・フォスフォリラーゼからなる複合酵素系を作用させ、生成したトレハロースを系外に取出すものである。前者の方法は、微生物そのものの増殖は比較的容易なものの、菌体に含まれるトレハロースが高々15%(w/w)と僅少であるという問題があった。後者の方法は、トレハロースそのものの分離は比較的容易なものの、反応自体が2種類の酵素による平衡反応であり、しかも、その平衡が常時グルコース燐酸側に傾いていることから、基質を高濃度にして反応させ、トレハロースの収量を上げるのが原理的に難しかった。
【0004】
斯かる状況に鑑み、本発明者らがマルトースを直接トレハロースに変換する酵素につき鋭意検索したところ、ピメロバクター属やシュードモナス属に属するある種の微生物がマルトースに作用してトレハロースを生成するという、従来未知の全く新規な酵素を産生することを見出し、特願平5−199971号明細書に開示した。このことは、大量且つ廉価に入手し得るマルトースを原料にトレハロースが製造できることを意味しており、斯かる酵素を利用することにより、トレハロースに係わる前記課題は悉く解決されるものと期待される。
【0005】
ところが、上記微生物が産生する酵素は、いずれも20乃至40℃付近に至適温度を有しており、実際にトレハロースの製造に使用するには熱安定性にやや難点のあることが判明した。すなわち、斯界においては、澱粉や澱粉質を糖化するには、一般に、55℃を越える温度で反応させるのが望ましいとされており、これは、55℃以下で糖化すると雑菌汚染が顕著となり、反応物のpHが低下して酵素が失活したり、これにより、大量の基質が未反応のまま残存したりすることによる。敢えて熱安定性に劣る酵素で糖化しようとすると、pHの推移に多大の注意を払わなければならず、万一、pHが顕著に低下した場合には、反応物にアルカリ等を加えて可及的速やかにpHを上昇させるなどの対策を講じなければならない。
【0006】
このようなことから、本発明者らが、斯かる作用ある耐熱性酵素につき引続き検索したところ、サーマス・アクアティカス(ATCC33923)を始めとするサーマス属の微生物が産生する酵素は、55℃を上回る温度で反応させても、実質的に失活することなく、マルトースを効率的にトレハロースに変換することを見出した。しかしながら、これら微生物は酵素の産生能が充分でなく、トレハロースを大規模に製造しようとすると、微生物を大量に培養しなければならないという問題がある。
【0007】
一方、昨今の組換えDNA技術の進歩には目覚ましいものがある。今日では、全アミノ酸配列が解明されていない酵素であっても、これをコードする遺伝子を単離し、その塩基配列を解明できれば、その酵素をコードするDNAを含む組換えDNAを作製し、これを微生物や動植物の細胞に導入して得られる形質転換体を培養することにより、比較的容易に所望量の酵素が取得できるようになった。斯かる状況に鑑み、上記耐熱性酵素をコードする遺伝子を突止め、その塩基配列を解明するのが急務となっている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の目的は、組換えDNA技術を応用することにより、マルトースに作用してトレハロースを生成する耐熱性酵素を創製することにある。
【0009】
この発明の別の目的は、その創製された組換え型酵素をコードするDNAを提供することにある。
【0010】
この発明のさらに別の目的は、斯かるDNAを含む複製可能な組換えDNAを提供することにある。
【0011】
この発明のさらに別の目的は、斯かる組換えDNAを導入した形質転換体を提供することにある。
【0012】
この発明のさらに別の目的は、斯かる形質転換体を利用する、組換え型耐熱性酵素の製造方法を提供することにある。
【0013】
この発明のさらに別の目的は、組換え型耐熱性酵素により、マルトースをトレハロースに変換する方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
この発明は、前記第一の課題を、マルトースをトレハロースに変換する作用を有し、55℃を越える温度で反応させても、実質的に失活しない組換え型酵素により解決するものである。
【0015】
この発明は、前記第二の課題を、斯かる組換え型酵素をコードするDNAにより解決するものである。
【0016】
この発明は、前記第三の課題を、上記組換え型酵素をコードするDNAと自律複製可能なベクターを含んでなる複製可能な組換えDNAにより解決するものである。
【0017】
この発明は、前記第四の課題を、上記組換え型酵素をコードするDNAと自律複製可能なベクターを含んでなる複製可能な組換えDNAを適宜宿主に導入してなる形質転換体により解決するものである。
【0018】
この発明は、前記第五の課題を、上記組換え型酵素をコードするDNAと自律複製可能なベクターを含んでなる複製可能な組換えDNAを適宜宿主に導入してなる形質転換体を培養し、培養物から組換え型酵素を採取してなる組換え型酵素の製造方法により解決するものである。
【0019】
この発明は、前記第六の課題を、マルトースに上記組換え型酵素を作用させてトレハロースを生成させる工程を含んでなるマルトースの酵素的変換方法により解決するものである。
【0020】
【発明の実施の形態】
この発明の組換え型酵素は、55℃を越える温度で反応させても、実質的に失活することなく、マルトースに作用してトレハロースを生成する。
【0021】
この発明のDNAは、自律複製可能な適宜ベクターに挿入して複製可能な組換えDNAとし、これを、通常、当該組換え型酵素を産生しないけれども、容易に増殖させることのできる適宜宿主に導入して形質転換体とすることにより、当該組換え型酵素の産生を発現する。
【0022】
この発明の組換えDNAは、通常、当該組換え型酵素を産生しないけれども、容易に増殖させることのできる適宜宿主に導入して形質転換体とすることにより、当該組換え型酵素の産生を発現する。
【0023】
この発明の形質転換体は、培養すると、当該組換え型酵素を産生する。
【0024】
斯かる形質転換体をこの発明の製造方法にしたがって培養すれば、所望量の当該組換え型酵素が容易に得られる。
【0025】
この発明の酵素的変換方法により、マルトースはトレハロースとグルコース及び/又はマルトオリゴ糖からなる糖組成物に変換される。
【0026】
この発明は、マルトースをトレハロースに変換する、従来未知の全く新規な耐熱性酵素の発見に基づくものである。斯かる酵素はサーマス・アクアティカス(ATCC33923)の培養物から得ることができ、本発明者らがカラムクロマトグラフィーを中心とする種々の方法を組合せてこの酵素を単離し、その性質・性状を調べたところ、その本質はポリペプチドであり、次のような理化学的性質を有することが判明した。
(1) 作用
マルトースに作用してトレハロースを生成する。
トレハロースに作用してマルトースを生成する。
(2) 分子量
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により測定すると、分子量約100,000乃至110,000ダルトンを示す。(3) 等電点
等電点電気泳動法により測定すると、約3.8乃至4.8に等電点を示す。
(4) 至適温度
pH7.0で60分間反応させると、65℃付近に至適温度を示す。
(5) 至適pH
60℃で60分間反応させると、pH6.0乃至6.7付近に至適pHを示す。
(6) 熱安定性
pH7.0で60分間インキュベートすると、80℃付近まで安定である。
(7) pH安定性
60℃で60分間インキュベートすると、pH5.5乃至9.5付近まで安定である。
【0027】
次に、サーマス・アクアティカス(ATCC33923)が産生する耐熱性酵素の理化学的性質を解明すべく行った実験について説明する。
【0028】
【実験例1 精製酵素の調製】
【0029】
【実験例1−1 酵素の産生】
500ml容フラスコに0.5%(w/v)ポリペプトン、0.1%(w/v)酵母エキス、0.07%(w/v)硝酸ナトリウム、0.01%(w/v)燐酸水素二ナトリウム、0.02%(w/v)硫酸マグネシウム7水塩、0.01%(w/v)塩化カルシウム及び水からなる液体培地(pH7.5)を100mlずつとり、120℃で20分間オートクレーブして滅菌し、冷却後、サーマス・アクアティカス(ATCC33923)を接種し、60℃、200rpmで24時間回転振盪培養して種培養液を得た。30l容ジャーファーメンタに上記と同一組成の新鮮な液体培地を20lずつとり、同様に滅菌し、60℃まで冷却後、上記で得た種培養液を1%(v/v)ずつ植菌し、培地のpHを6.0乃至8.0に保ちつつ、60℃で20時間通気攪拌培養した。
【0030】
培養終了後、培養物の酵素活性を測定したところ、約0.35単位/mlの酵素が産生していた。培養物の一部をとり、遠心分離して上清を回収し、酵素活性を測定したところ、約0.02単位/mlの酵素活性が認められた。さらに、分離した菌体に50mM燐酸緩衝液(pH7.0)を加えてもとの培養物と同液量にした後、酵素活性を測定したところ、約0.33単位/mlの酵素活性が認められた。
【0031】
なお、この発明を通じて、酵素の活性は次の方法により測定した活性値(単位)で表示する。すなわち、マルトースを20%(w/v)含む10mM燐酸緩衝液(pH7.0)を1mlとり、適宜希釈した酵素液を1ml加え、60℃で60分間インキュベートして反応させた後、100℃で10分間加熱して反応を停止させる。50mM燐酸緩衝液(pH7.5)で反応物を11倍希釈し、その希釈した反応物を0.4mlとり、これにトレハラーゼを1単位/ml含む溶液を0.1ml加え、45℃で120分間インキュベートした後、反応物中のグルコース量をグルコースオキシダーゼ法で定量する。同時に、100℃で10分間加熱して失活させた酵素液とトレハラーゼ液を用いる系を設け、上記と同様に処置して対照とする。このようにして求めたグルコース量から反応により生成したトレハロースの量を推定する。当該酵素の1単位とは、上記条件下において、1分間に1μmolのトレハロースを生成する酵素量と定義する。
【0032】
【実験例1−2 酵素の精製】
実験例1−1で調製した培養物を遠心分離し、得られた菌体(湿重量約0.28kg)を10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に浮遊させ、常法により破砕後、遠心分離して粗酵素液約1.8lを得た。この粗酵素液に硫酸アンモニウムを70%飽和になるように加え、4℃で一夜静置して塩析した後、遠心分離して上清を採取した。この上清を10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に溶解し、新鮮な同一緩衝液に対して24時間透析した。
【0033】
透析内液を遠心分離して採取した上清(1,560ml)を予め10mM燐酸緩衝液(pH7.0)により平衡化させておいた東ソー製イオン交換クロマトグラフィー用ゲル『DEAE−トヨパール650』530mlのカラムに負荷し、0Mから0.4Mに上昇する塩化ナトリウムの濃度勾配下、カラムに10mM燐酸緩衝液(pH7.0)を通液した。溶出液より酵素活性ある画分を採取し、1M硫酸アンモニウムを含む10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に対して10時間透析後、遠心分離して上清を採取した。この上清を予め1M硫酸アンモニウムを含む10mM燐酸緩衝液(pH7.0)により平衡化させておいた東ソー製疎水クロマトグラフィー用ゲル『ブチルトヨパール650』380mlのカラムに負荷し、1Mから0Mに下降する硫酸アンモニウムの濃度勾配下、カラムに10mM燐酸緩衝液(pH7.0)を通液した。
【0034】
硫酸アンモニウム濃度0.2M付近で溶出した酵素活性ある画分を採取し、0.2M塩化ナトリウムを含む10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に対して16時間透析し、遠心分離により不溶物を除去した後、予め0.2M塩化ナトリウムを含む10mM燐酸緩衝液(pH7.0)により平衡化させておいた東ソー製ゲル濾過クロマトグラフィー用ゲル『トヨパールHW−55S』380mlのカラムに負荷し、カラムに1M塩化ナトリウムを含む10mM燐酸緩衝液(pH7.0)を通液した。その後、溶出液から酵素活性ある画分を採取し、予め10mM燐酸緩衝液(pH7.0)により平衡化させておいたファルマシア製イオン交換クロマトグラフィー用カラム『モノQ HR5/5』に負荷し、0.1Mから0.35Mに上昇する塩化ナトリウムの濃度勾配下、カラムに10mM燐酸緩衝液(pH7.0)を通液し、溶出液より酵素活性ある画分を採取した。このようにして精製した酵素の比活性は約135単位/mg蛋白質であり、収量は培養物1l当たり約330単位であった。
【0035】
常法により、この精製酵素を7.5%(w/v)ポリアクリルアミドゲル上でゲル電気泳動したところ、ゲル上には酵素活性を伴なう実質的に単一のバンドが観察され、精製酵素が極めて高純度であることが窺われた。
【0036】
【実験例2 酵素の理化学的性質】
【0037】
【実験例2−1 作用】
基質としてマルトース又はトレハロースを5%(w/w)含む水溶液に実験例1−2で調製した精製酵素を基質固形分1グラム当たり2単位加え、60℃、pH7.0で24時間反応させた。反応物の糖組成を調べるべく、反応物を真空乾燥し、ピリジンに溶解し、常法によりトリメチルシリル化後、ガスクロマトグラフィーに供した。ガスクロマトグラフ装置は島津製作所製『GC−16A』を、カラムはステンレス製円筒管(内径3mm、長さ2m)に充填したジー・エル・サイエンス製『2%シリコンOV−17/クロモゾルブW』を、検出器は水素炎イオン方式のものを、そして、キャリアーガスに窒素ガス(流量40ml/分)を使用し、カラムオーブン温度を160乃至320℃(昇温速度7.5℃/分)に設定した。表1に反応物の糖組成を示す。
【0038】
【表1】
Figure 0003810457
【0039】
表1に見られるように、精製酵素は、マルトースを基質にすると、トレハロース及びグルコースをそれぞれ約70%又は約4%生成し、一方、トレハロースを基質にすると、マルトース及びグルコースをそれぞれ約21%又は約3%生成した。これらの事実は、精製酵素にマルトース及びトレハロースをそれぞれトレハロース又はマルトースに変換する作用のあること、さらには、僅かながら、マルトース分子中のα−1,4結合やトレハロース分子中のα,α−1,1結合を加水分解作用のあることを示唆している。斯かる酵素作用は未だ報告されておらず、全く新規な作用機序を辿るものと推定される。
【0040】
【実験例2−2 分子量】
ユー・ケー・レムリが『ネイチャー』、第227巻、第680乃至685頁(1970年)に報告している方法に準じてSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動したところ、精製酵素は、分子量約100,000乃至110,000ダルトンに相当する位置に酵素活性を伴なう実質的に単一なバンドを示した。なお、このときの分子量マーカーは、ミオシン(200,000ダルトン)、β−ガラクトシダーゼ(116,250ダルトン)、フォスフォリラーゼB(97,400ダルトン)、血清アルブミン(66,200ダルトン)及びオボアルブミン(45,000ダルトン)であった。
【0041】
【実験例2−3 等電点】
常法にしたがって、ファルマシア製ポリアクリルアミドゲル『アンフォライン』を2%(w/v)使用する等電点電気泳動に供したところ、精製酵素は約3.8乃至4.8に等電点を示した。
【0042】
【実験例2−4 至適温度】
常法により、10mM燐酸緩衝液(pH7.0)中で60分間反応させる条件で試験したところ、図1に示すように、精製酵素は65℃付近に至適温度を示した。
【0043】
【実験例2−5 至適pH】
常法により、pHの相違する10mM酢酸緩衝液、燐酸緩衝液又は炭酸ナトリウム−炭酸水素ナトリウム緩衝液中、60℃で60分間反応させる条件で試験したところ、図2に示すように、精製酵素はpH6.0乃至6.7付近に至適pHを示した。
【0044】
【実験例2−6 熱安定性】
常法により、50mM燐酸緩衝液(pH7.0)中で60分間インキュベートする条件で試験したところ、図3に示すように、精製酵素は80℃付近まで安定であった。
【0045】
【実験例2−7 pH安定性】
常法により、pHの相違する50mM酢酸緩衝液、燐酸緩衝液又は炭酸ナトリウム−炭酸水素ナトリウム緩衝液中、60℃で60分間インキュベートする条件で試験したところ、図4に示すように、精製酵素はpH5.5乃至9.5付近まで安定であった。
【0046】
【実験例2−8 N末端アミノ酸配列】
常法により、パーキン・エルマー製気相プロテイン・シーケンサ『470A型』を使用して分析したところ、精製酵素はN末端に配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列を有していた。
【0047】
【実験例2−9 部分アミノ酸配列】
実験例1−2で調製した精製酵素を適量とり、10mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)に対して4℃で18時間透析後、10mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)を加えて酵素濃度を約1mg/mlとした。100℃で5分間加熱して変性させた後、溶液を約1mlとり、リジルエンドペプチダーゼを40μg加え、30℃で44時間インキュベートして酵素を部分加水分解した。加水分解物を予め0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸により平衡化させておいた日本ミリポア・リミテッド製高速液体クロマトグラフィー用カラム『マイクロボンダスフェアーC18』に負荷し、0%(v/v)から70%(v/v)に上昇する水性アセトニトリルの濃度勾配下、カラムに0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸を1.0ml/分の流速で通液した。
【0048】
通液開始から約58乃至60分後に溶出したペプチド断片を含む画分を採取し、真空乾燥後、10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)0.5mlに溶解し、TPCK処理したトリプシンを5μg加え、37℃で16時間インキュベートして加水分解した。凍結により反応を停止させた後、加水分解物を予め15%(v/v)水性アセトニトリルを含む0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸により平衡化させておいた日本ミリポア・リミテッド製高速液体クロマトグラフィー用カラム『マイクロボンダスフェアーC18』に負荷し、15%(v/v)から55%(v/v)に上昇する水性アセトニトリルの濃度勾配下、カラムに0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸を1.0ml/分の流速で通液した。そして、通液開始から約42分後に溶出したペプチド断片を含む画分を採取し、真空乾燥後、50%(v/v)水性アセトニトリルを含む0.1%(v/v)トリフルオロ酢酸に溶解した。以後、実験例2−8と同様に分析したところ、ペプチド断片は配列表における配列番号2に示すアミノ酸配列を有していた。
【0049】
以上のような理化学的性質を有する酵素は未だ知られておらず、新規物質であると判断される。
【0050】
そこで、本発明者が、実験例2−8及び実験例2−9で明らかにした部分アミノ酸配列に基づき化学合成したオリゴヌクレオチドをプローブにし、サーマス・アクアティカス(ATCC33923)の染色体DNAを鋭意検索したところ、配列表における配列番号4に示す塩基配列を含む、約3,600塩基対からなるDNA断片が得られた。そして、その塩基配列を解読したところ、同微生物が産生する耐熱性酵素は963個のアミノ酸からなる、配列表における配列番号3に示すアミノ酸配列を有していることが判明した。
【0051】
配列表における配列番号3及び4に示すアミノ酸配列及び塩基配列を解明するに到った一連の工程を要約すると、次のようになる。
(1) 供与体微生物の培養物から耐熱性酵素を単離し、高度に精製後、N末端アミノ酸配列を決定した。一方、その精製酵素をプロテアーゼにより部分加水分解し、加水分解物よりペプチド断片を単離し、そのアミノ酸配列を決定した。
(2) 別途、供与体微生物の菌体より染色体DNAを分離し、精製後、制限酵素により部分消化し、消化物から約4,000乃至8,000塩基対からなるDNA断片を採取した。DNAリガーゼにより、このDNA断片を予め制限酵素で切断しておいたプラスミドベクターに連結し、組換えDNAを作製した。
(3) 大腸菌にこの組換えDNAを導入して形質転換体を作製し、前記部分アミノ酸配列に基づき化学合成したオリゴヌクレオチドをプローブとするコロニーハイブリダイゼーションにより耐熱性酵素をコードするDNAを含む形質転換体を選択した。
(4) 形質転換体から組換えDNAを採取し、プライマーとともにアニーリング後、DNAポリメラーゼを作用させてプライマーを伸長し、得られた相補鎖DNAをジオキシ・チェーン・ターミネータ法により分析して塩基配列を決定した。そして、その塩基配列から推定されるアミノ酸配列と前記部分アミノ酸配列とを比較し、その塩基配列が耐熱性酵素をコードしていることを確認した。
【0052】
次の実験例3及び4では、上記の工程(2)乃至(4)を具体的に説明するが、これら実験例で用いる手法自体は斯界において公知であり、例えば、ジェー・サムブルック等『モレキュラー・クローニング・ア・ラボラトリー・マニュアル』、第2版、1989年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー発行などにも詳述されている。
【0053】
【実験例3 耐熱性酵素をコードするDNAを含む組換えDNAと形質転換体の調製】
【0054】
【実験例3−1 染色体DNAの調製】
ニュートリエント・ブロス培地(pH7.0)にサーマス・アクアティカス(ATCC33923)を接種し、常法により60℃で24時間回転振盪培養した。遠心分離により培養物から採取した菌体をTES緩衝液(pH8.0)に浮遊させ、リゾチームを0.05%(w/v)加えた後、37℃で30分間インキュベートした。処理物を−80℃で1時間凍結し、TSS緩衝液(pH9.0)を加えて60℃に加温し、TES緩衝液/フェノール混液を加え、氷冷後、遠心分離により上清を採取した。この上清に2倍容の冷エタノールを加え、沈澱した粗染色体DNAを採取し、SSC緩衝液(pH7.1)に溶解後、リボヌクレアーゼとプロテアーゼをそれぞれ7.5μg又は125μg加え、37℃で1時間インキュベートして反応させた。反応物にクロロホルム/イソアミルアルコール混液を加えて染色体DNAを抽出し、冷エタノールを加え、生成した染色体DNAを含む沈澱を採取した。このようにして得た精製染色体DNAを濃度約1mg/mlになるようにSSC緩衝液(pH7.1)に溶解し、溶液を−80℃で凍結した。
【0055】
【実験例3−2 組換えDNA pBTM22と形質転換体BTM22の作製】
実験例3−1で調製した精製染色体DNA溶液を1mlとり、これに制限酵素Sau 3AIを約10単位加え、37℃で20分間反応させて染色体DNAを部分切断した後、蔗糖密度勾配超遠心法により約4,000乃至8,000塩基対からなるDNA断片を採取した。別途、ストラタジーン・クローニング・システムズ製プラスミドベクター『Bluescript II SK(+)』を1μgとり、常法により制限酵素Bam HIを作用させて完全に切断した後、上記で得たDNA断片10μgとT4 DNAリガーゼを2単位加え、4℃で一夜静置することによりDNA断片に連結した。得られた組換えDNAにストラタジーン・クローニング・システムズ製コンピテントセル『Epicurian Coli XLI−Blue』を30μl加え、氷冷下で30分間静置後、42℃に加温し、SOCブロスを加え、振盪下、37℃で1時間インキュベートして組換えDNAを大腸菌に導入した。
【0056】
このようにして得た形質転換体を5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−ガラクトシドを50μg/ml含む寒天平板培地(pH7.0)に接種し、37℃で18時間培養後、培地上に形成された約6,000個のコロニーをナイロン膜上に固定した。別途、常法により、配列表における配列番号1に示す部分アミノ酸配列のTrp−Tyr−Lys−Asp−Ala−Valで表わされる配列に基づき5´−TGGTAYAARGAYGCNGT−3´で表わされる塩基配列のプローブ1を化学合成し、同位体32Pで標識後、前記ナイロン膜上に固定した形質転換株のコロニーにハイブリダイズさせ、顕著な会合を示した5種類の形質転換体を選択した。
【0057】
常法により、これら5種類の形質転換体から組換えDNAを採取する一方、配列表における配列番号2に示すアミノ酸配列のAsn−Met−Trp−Pro−Glu−Gluで表わされる配列に基づき化学合成した5´−AAYATGTGGCCNGARGA−3´で表わされる塩基配列のプローブ2を同位体32Pで標識後、イー・エム・サザーン『ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー』、第98巻、第503乃至517頁(1975年)に記載されている方法に準じて上記組換えDNAにハイブリダイズさせ、顕著な会合を示した組換えDNAを選択した。このようにして得た組換えDNA及び形質転換体を、それぞれ、『pBTM22』、『BTM22』と命名した。
【0058】
形質転換体BTM22をアンピシリン100μg/mlを含むL−ブロス培地(pH7.0)に接種し、37℃で24時間回転振盪培養し、培養終了後、遠心分離により培養物から菌体を採取し、通常のアルカリ法により組換えDNAを菌体外に溶出させた。処理物を常法により精製し、分析したところ、組換えDNApBTM22は約10,300塩基対からなり、図5に示すように、耐熱性酵素をコードする約2,900塩基対からなるDNAを含む断片は、制限酵素Hind IIIによる切断部位の下流に連結されていた。
【0059】
【実験例3−3 形質転換体BTM22による組換え型酵素の産生】
500ml容フラスコに2.0%(w/v)グルコース、0.5%(w/v)ペプトン、0.1%(w/v)酵母エキス、0.1%(w/v)燐酸水素二カリウム、0.06%(w/v)燐酸二水素ナトリウム、0.05%(w/v)硫酸マグネシウム7水塩、0.5%(w/v)炭酸カルシウム及び水からなる液体培地(pH7.0)を100mlずつとり、115℃で30分間オートクレーブして滅菌し、冷却後、アンピシリンを50μg/ml加えた。この液体培地に実験例3−2で調製した形質転換体BTM22を接種し、37℃で24時間回転振盪培養した。培養物を常法により超音波処理して菌体を破砕し、遠心分離により不溶物を除去した後、上清中の酵素活性を測定したところ、培養物1l当たり約800単位の組換え型酵素が産生していた。
【0060】
対照として、大腸菌XLI−Blue株又はサーマス・アクアティカス(ATCC33923)をアンピシリン無含有の上記と同一組成の液体培地を使用し、サーマス・アクアティカス(ATCC33923)の場合、培養温度を65℃に設定した以外は上記と同様に培養・処理した。処理物の酵素活性を測定したところ、サーマス・アクアティカス(ATCC33923)による耐熱性酵素の産生は培養物1l当たり約350単位と、形質転換体BTM22と比較して有意に低いものであった。なお、宿主に使用した大腸菌XLI−Blue株は、耐熱性酵素を全く産生しなかった。
【0061】
その後、形質転換体BTM22が産生した組換え型酵素を実験例1及び2の方法により精製し、その性質・性状を調べたところ、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分子量約100,000乃至110,000ダルトンと等電点電気泳動で約3.8乃至4.8に等電点を示すとともに、水溶液(pH7.0)中、80℃で60分間インキュベートしても実質的に失活しないなど、供与体微生物であるサーマス・アクアティカス(ATCC33923)が産生する耐熱性酵素とほぼ同じ理化学的性質を有していた。このことは、組換えDNA技術によっても耐熱性酵素を製造でき、且つ、その生産性も有意に向上することを示唆している。
【0062】
【実験例4 相補鎖DNAの調製並びにその塩基配列及びアミノ酸配列の決定】
実験例3−2で調製した組換えDNA pBTM22を2μgとり、これに2M水酸化ナトリウム水溶液を加えて変性させた後、適量の冷エタノールを加え、生成したテンプレートDNAを含む沈澱を採取し、真空乾燥した。このテンプレートDNAに化学合成した5´−GTAAAACGACGGCCAGT−3´で表わされる塩基配列のプライマーを50pmol/mlと、20mM塩化マグネシウムと塩化ナトリウムを含む40mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)を10μl加え、65℃で2分間インキュベートしてアニーリングした後、dATP、dGTP及びdTTPをそれぞれ7.5μM含む水溶液を2μlと、[α−32P]dCTP(2mCi/ml)を0.5μlと、0.1Mジチオスレイトールを1μlと、1.5単位/mlのT7 DNAポリメラーゼを2μl加え、25℃で5分間インキュベートすることによりプライマーを5´末端から3´末端に向かって伸長させ、相補鎖DNAを生成させた。
【0063】
次に、上記で得た相補鎖DNAを含む反応物を四等分し、それぞれにddATP、ddCTP、ddGTP及びddTTPのいずれかを8μMと80μM dNTPを含む50mM塩化ナトリウム水溶液を2.5μl加え、37℃で5分間インキュベートして反応させ、20mM EDTA、0.05%(w/v)ブロムフェノールブルー及び0.05%(w/v)キシレンシアノールを含む98%(v/v)水性ホルムアミド溶液を4μl加えて反応を停止させた。反応物を沸騰水中で3分間加熱後、6%(w/v)ポリアクリルアミドゲル上にとり、約2,000Vの定電圧を印加しながら電気泳動してDNA断片を分離し、次いで、常法によりゲルを固定し、乾燥させた後、オートラジオグラフィーした。
【0064】
ラジオグラム上に分離したDNA断片を解析した結果、相補鎖DNAは配列表における配列番号5に示す約3,600塩基対からなる塩基配列を含んでいることが判明した。この塩基配列から推定されるアミノ酸配列はその配列番号5に併記したとおりであり、このアミノ酸配列と配列表における配列番号1及び2に示す部分アミノ酸配列を比較したところ、配列番号1のアミノ酸配列は配列番号5における第1乃至20番目の配列に、また、配列番号2のアミノ酸配列は配列番号5における第236乃至250番目の配列に一致した。これは、この発明の組換え型酵素が配列表における配列番号3に示すアミノ酸配列を有することあり、サーマス・アクアティカス(ATCC33923)由来のDNAにおいては、そのアミノ酸配列が配列表における配列番号4に示す塩基配列によりコードされていることを示している。
【0065】
以上説明したように、マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換する耐熱性酵素は、本発明者の長年に亙る研究の一成果として見出されたものであり、従来公知の酵素には見られない独特の理化学的性質を具備している。この発明は、組換えDNA技術を応用することにより、この耐熱性酵素を創製しようというものである。以下、実施例等を参照しながら、この発明の組換え型酵素とその製造方法、用途につき、具体的に説明する。
【0066】
この発明でいう組換え型酵素とは、組換えDNA技術により創製され、マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換する酵素全般を意味する。この発明の組換え型酵素は、通常、解明されたアミノ酸配列を有しており、その一例として、例えば、配列表における配列番号3に示すアミノ酸配列又はそれに相同的なアミノ酸配列が挙げられる。配列番号3に示すアミノ酸配列に相同的なアミノ酸配列を有する変異体は、所期の性質を実質的に変えることなく、配列番号3のアミノ酸配列における構成アミノ酸の1個又は2個以上を他のアミノ酸で置換することにより得ることができる。なお、同じDNAであっても、それを導入する宿主や、そのDNAを含む形質転換体の培養に使用する栄養培地の成分・組成や培養温度・pHなどに依っては、宿主内酵素によるDNA発現後の修飾などにより、所期の性質は保持しているものの、配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端及び/又はC末端付近のアミノ酸が1個又は2個以上が欠失したり、N末端に1個又は2個以上のアミノ酸が新たに付加した変異体の産生することがある。斯かる変異体も、それが所期の性質を具備しているかぎり、当然、この発明の組換え型酵素に包含される。
【0067】
この発明による組換え型酵素は、特定のDNAを含む形質転換体の培養物から採取することができる。この発明で使用する形質転換体は、例えば、配列表における配列番号4に示す塩基配列若しくはそれに相同的な塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列のDNAを適宜宿主に導入することにより得ることができる。なお、斯かる塩基配列は、遺伝子コードの縮重を利用して、コードするアミノ酸配列を変えることなく、塩基の1個又は2個以上を他の塩基に置換えてもよい。また、DNAが宿主中で実際に当該組換え型酵素の産生を発現するために、当該組換え型酵素又はその相同変異体をコードする塩基配列における塩基の1個又は2個以上を他の塩基で適宜置換し得ることは言うまでもない。
【0068】
この発明で使用するDNAは、それが前述のような配列を有するかぎり、それが天然に由来するものか人為的に合成されたものであるかは問わない。天然の給源としては、例えば、サーマス・アクアティカス(ATCC33923)を含むサーマス属の微生物が挙げられる。これら微生物の菌体からは、例えば、配列表における配列番号5に示す塩基配列のDNAを含む遺伝子が得られる。すなわち、斯かる微生物を栄養培地に接種し、好気的条件下で約1日乃至3日間培養後、培養物から菌体を採取し、リゾチームやβ−グルカナーゼなどの細胞壁溶解酵素や超音波で処理することにより当該DNAを含む遺伝子を菌体外に溶出させる。このとき、細胞壁溶解酵素にプロテアーゼなどの蛋白質加水分解酵素を併用したり、菌体を超音波処理する際、SDSなどの界面活性剤を共存させたり凍結融解してもよい。斯くして得られる処理物に、例えば、フェノール抽出、アルコール沈澱、遠心分離、プロテアーゼ処理、リボヌクレアーゼ処理などの斯界における通常一般の方法を適用すれば目的のDNAが得られる。一方、DNAを人為的に合成するには、例えば、配列表における配列番号4に示す塩基配列に基づいて化学合成するか、配列番号3に示すアミノ酸配列をコードするDNAを自律複製可能な適宜ベクターに挿入して組換えDNAとし、これを適宜宿主に導入して得られる形質転換体を培養し、培養物から菌体を採取し、その菌体から当該DNAを含むプラスミドを採取すればよい。
【0069】
斯かるDNAは、通常、組換えDNAの形態で宿主に導入される。組換えDNAは、通常、DNAと自律複製可能なベクターを含んでなり、DNAが入手できれば、通常一般の組換えDNA技術により比較的容易に調製することができる。斯かるベクターの例としては、pBR322、pUC18、Bluescript II SK(+)、pKK223−3、pUB110、pTZ4、pC194、pHV14、TRp7、YEp7、pBS7などのプラスミドベクターやλgt・λC、λgt・λB、ρ11、φ1、φ105などのファージベクターが挙げられる。このうち、この発明のDNAを大腸菌で発現させるにはpBR322、pUC18、Bluescript II SK(+)、pKK223−3、λgt・λC及びλgt・λBが好適であり、一方、枯草菌で発現させるにはpUB110、pTZ4、pC194、ρ11、φ1及びφ105が好適である。pHV14、TRp7、YEp7及びpBS7は、組換えDNAを2種類以上の宿主内で複製させる場合に有用である。
【0070】
DNAを斯かるベクターに挿入するには、斯界において通常一般の方法が採用される。具体的には、先ず、DNAを含む遺伝子と自律複製可能なベクターとを制限酵素及び/又は超音波により切断し、次に、生成したDNA断片とベクター断片とを連結する。遺伝子及びベクターの切断にヌクレオチドに特異的に作用する制限酵素、とりわけ、II型の制限酵素、詳細には、Sau 3AI、EcoRI、Hind III、Bam HI、Sal I、Xba I、Sac I、Pst I、Bgl IIなどを使用すれば、DNA断片とベクター断片を連結するのが容易となる。DNA断片とベクター断片を連結するには、必要に応じて、両者をアニーリングした後、生体内又は生体外でDNAリガーゼを作用させればよい。斯くして得られる組換えDNAは、適宜宿主に導入して形質転換体とし、これを培養することにより無限に複製可能である。
【0071】
このようにして得られる複製可能な組換えDNAは、大腸菌、枯草菌、放線菌、酵母を始めとする適宜の宿主微生物に導入することができる。宿主が大腸菌の場合には、宿主を組換えDNAとカルシウムイオンの存在下で培養すればよく、一方、宿主が枯草菌の場合には、コンピテントセル法やプロトプラスト法を適用すればよい。形質転換体をクローニングするには、コロニーハイブリダイゼーション法を適用するか、マルトース又はトレハロースを含む栄養培地で培養し、それぞれ、トレハロース又はマルトースを生成するものを選択すればよい。
【0072】
斯くして得られる形質転換体は、栄養培地で培養すると、菌体内外に当該組換え型酵素を産生する。栄養培地には、通常、炭素源、窒素源、ミネラル、さらには、必要に応じて、アミノ酸やビタミンなどの微量栄養素を補足した通常一般の液体培地が使用され、個々の炭素源としては、例えば、澱粉、澱粉加水分解物、グルコース、果糖、蔗糖、トレハロースなどの糖源が、また、窒素源としては、例えば、アンモニア乃至アンモニア塩、尿素、硝酸塩、ペプトン、酵母エキス、脱脂大豆、コーンスティープリカー、肉エキスなどの含窒素無機乃至有機物が挙げられる。形質転換体を斯かる栄養培地に接種し、栄養培地を温度20乃至50℃、pH2乃至9に保ちつつ、通気撹拌などによる好気的条件下で約1乃至6日間培養すれば、当該組換え型酵素を含む培養物が得られる。この培養物は酵素剤としてそのまま使用可能ではあるが、通常は使用に先立ち、必要に応じて、超音波や細胞溶解酵素により菌体を破砕した後、瀘過、遠心分離などにより酵素を菌体又は菌体破砕物から分離し、精製する。精製には酵素を精製するための通常の方法が採用でき、例えば、菌体又は菌体破砕物を除去した培養物に濃縮、塩析、透析、分別沈澱、ゲル瀘過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル電気泳動、等電点電気泳動などの1種又は2種以上を適宜組合わせて適用すればよい。
【0073】
前述のとおり、この発明による組換え型酵素は、55℃を越える温度で反応させても、実質的に失活することなく、マルトース及びトレハロースを、それぞれ、トレハロース又はマルトースに変換するという、従来の酵素には見られない独特の作用を有する。トレハロースはまろやかで上品な甘味を有し、そして、何よりも、分子中に還元性基を有しないので、着色や変質の懸念なく飲食物を甘味付けできるという大きな利点がある。当該組換え型酵素のこの性質を利用することにより、従来、還元性故に敬遠されがちであったマルトースを、還元性を有さず、扱い易く、付加価値の高いトレハロースに変換できることとなる。
【0074】
斯かる変換方法につきさらに説明すると、この発明によるマルトースの酵素的変換方法でいうマルトースとは、通常、マルトースを含んでなる糖組成物を意味し、この発明の組換え型酵素が作用してトレハロースを生成し得るかぎり、その原料、製造方法は問わない。大量のトレハロースを効率的に製造するには、マルトース含量の高い糖組成物を使用するのが望ましく、通常、固形分当たり約70%以上、望ましくは、約80%以上のものが使用される。斯かる糖組成物は斯界における通常一般の方法により得ることができ、例えば、特公昭56−11437号公報や特公昭56−17078号公報に開示されている、糊化澱粉又は液化澱粉にβ−アミラーゼを作用させ、生成したマルトースを分別沈澱や透析手段により分離する方法や、特公昭47−13089号公報や特公昭54−3938号公報に開示されている、糊化澱粉又は液化澱粉にβ−アミラーゼとイソアミラーゼやプルラナーゼなどの澱粉枝切酵素を作用させる方法を採用することができる。
【0075】
この発明による酵素的変換方法においては、マルトースを含む水性媒体にこの発明の組換え型酵素の有効量を共存せしめ、水性媒体を所定の温度、pHに保ちつつ、所望量のトレハロースが生成するまで反応させる。反応は0.1%(w/w)程度の低基質濃度下でも進行するけれども、この発明の変換方法を大規模に実施する場合には、より高濃度の約2%(w/w)以上、望ましくは、約5乃至50%(w/w)とするのがよい。反応時の温度とpHは組換え型酵素が失活することなくマルトースに効率的に作用するレベルに設定され、温度は55℃を越え、85℃を越えないレベル、望ましくは、約56乃至63℃に、また、pHは約5乃至10、望ましくは、約6乃至7の範囲に設定される。組換え型酵素の量と反応時間は、反応の進行具合に依って適宜に設定する。この発明の組換え型酵素は、反応温度が高くなればなるほど高活性となるが、反応温度が高くなりすぎるとグルコースの遊離が顕著となり、結果的に最終製品におけるトレハロース含量を低下させることとなる。このようなことから、上記温度範囲をもって最良とした。この発明の酵素的変換方法により、マルトースは効率的にトレハロースに変換され、変換率は、使用する糖組成物のマルトース含量にも依るが、通常、約50%以上に達する。
【0076】
この発明の変換方法により得られた反応物はそのまま使用可能ではあるが、通常、使用に先立ち精製する。すなわち、瀘過、遠心分離などにより反応物から不溶物を除去し、活性炭により脱色した後、イオン交換樹脂により脱塩・精製し、濃縮してシロップ状物とする。用途に依っては、このシロップ状物を真空乾燥、噴霧乾燥などにより固状物としてもよい。実質的にトレハロースのみからなる製品を得るには、上記シロップ状物にイオン交換樹脂、活性炭、シリカゲルなどによる糖質を分離するための種々のクロマトグラフィー、酵母による発酵、アルカリによる還元性糖質の分解除去などの1種又は2種以上を適用する。大量の反応物を処理するには、例えば、特開昭58−23799号公報や特開昭58−72598号公報に開示されている強酸性カチオン交換樹脂を使用する固定床方式、移動床方式又は疑似移動床方式のイオン交換クロマトグラフィーが有用であり、これらの方法によるときには、従来、大量入手が難しかったトレハロース含量が高い製品を大量且つ効率的に得ることができる。
【0077】
斯くして得られるトレハロース及びトレハロースを含む糖組成物は、糖質甘味剤の還元性を嫌う種々の物品に広範な用途を有し、例えば、飲食物、化粧品、医薬品を始めとする組成物一般の甘味剤、呈味改善剤、品質改善剤、安定剤、賦形剤として極めて有用である。
【0078】
以下、2〜3の実施例により、この発明による組換え型酵素の製造方法とマルトースの酵素的変換方法を具体的に説明する。
【0079】
【実施例A−1 組換え型耐熱性酵素の製造】
500ml容三角フラスコに2.0%(w/v)グルコース、0.5%(w/v)ペプトン、0.1%(w/v)酵母エキス、0.1%(w/v)燐酸水素二カリウム、0.06%(w/v)燐酸二水素ナトリウム、0.05%(w/v)硫酸マグネシウム7水塩、0.5%(w/v)炭酸カルシウム及び水からなる液体培地(pH7.2)を100mlずつとり、115℃で30分間オートクレーブして滅菌し、冷却し、アンピシリンを50μg/ml加えた後、実験例1−2で調製した形質転換体BTM22を接種し、回転振盪下、37℃で24時間種培養した。次に、30l容ジャーファーメンタに上記と同一組成の新鮮な液体培地を18lずつとり、同様に滅菌後、アンピシリンを50μg/ml加え、上記で得た種培養液を1%(v/v)接種し、液体培地をpH6乃至8に保ちつつ、37℃で24時間通気撹拌培養した。培養物を超音波処理して菌体を破砕し、遠心分離により不溶物を除去後、上清中の酵素活性を測定したところ、培養物1l当たりに換算して約800単位の組換え型酵素が産生していた。この上清を実験例1−1の方法により精製したところ、比活性約135単位/mg蛋白質の組換え型酵素を約152単位/ml含む水溶液が約5ml得られた。
【0080】
【実施例A−2 組換え型耐熱性酵素の製造】
【0081】
【実施例A−2(a) 形質転換体BTM23の作製】
実験例3−2の方法により得た組換えDNA pBTM22を制限酵素Hind IIIで切断し、配列表の配列番号4に示す塩基配列における第107乃至2,889までの塩基配列を含む約8,100塩基対のDNA断片を得た。
【0082】
別途、常法により化学合成した5´−AGCTTGAATTCTTTTTTAATAAAATCAGGAGGAAAAACCATGGACC−3´、5´−CCCTCTGGTACAAGGACGCGGTGATCTACCAGCTCCAC−3´、5´−GTCCGCTCCTTCTTTGACGCCAACAACGACGGCTACGG−3´、5´−GGACTTTGAGGGCCTGAGGCGGA−3´、5´−AGCTTCCGCCTCAGGCCCTCAAAGTCCCCGTAGCCGTCGTTGTTG−3´、5´−GCGTCAAAGAAGGAGCGGACGTGGAGCTGGTAGATCACC−3´、5´−GCGTCCTTGTACCAGAGGGGGTCCATGGTTTTTCCTCC−3´及び5´−TGATTTTATTAAAAAAGAATTCA−3´で表わされる塩基配列を有する8種類のオリゴヌクレオチドを適量混合し、100℃、65℃、37℃及び20℃でそれぞれ20分間インキュベートしてアニールさせた。得られた配列表の配列番号6に示す塩基配列と配列表の配列番号3に示すアミノ酸配列における第1乃至36番目までのアミノ酸配列を変えることなく配列表の配列番号4に示す塩基配列における第1番目の「グアニン」が「アデニン」に置き換わった第1乃至110番目までの塩基配列からなる両端が4塩基の5´末端突出である141塩基対の二本鎖DNAに上記DNA断片を加え、T4 DNAリガーゼの存在下、4℃で一晩静置して連結させることにより、配列表の配列番号6に示す塩基配列と配列表の配列番号3に示すアミノ酸配列における第1乃至963番目までの「グアニン」が「アデニン」に置き換わった第1乃至2,889番目までの塩基配列を含む第一の組換えDNAを得た。
【0083】
次に、実験例3−2の方法により得た組換えDNA pBTM22を制限酵素Bam HIにより切断し、得られた配列表の配列番号4に示す塩基配列における第1,008乃至2,889番目までの塩基配列を含む約2,400塩基対のDNA断片に予め制限酵素Bam HIにより切断しておいた宝酒造製ファージベクター『M13tv19 RF DNA』を上記と同様にして連結させて第二の組換えDNAを得た。
【0084】
別途、配列表の配列番号5に示す塩基配列における第3,448番目の「チミン」が「グアニン」に置き換わった第3,438乃至3,458番目までの塩基配列である5´−CGGTAGCCCTGCAGCCCCGGG−3´で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを、常法により化学合成した。この合成オリゴヌクレオチドと、宝酒造製部位特異的変異システム『Mutan−G』とを用いて、第二の組換えDNAに含まれる配列表の配列番号5に示す塩基配列における第337乃至963番目までのアミノ酸配列を変えることなく配列表の配列番号5に示す塩基配列における第3,448番目の「チミン」が「グアニン」に置き換わった配列表の配列番号4に示す塩基配列における第1,008乃至2,889番目までの塩基配列を含む第三の組換えDNAを得た。なお、部位特異的変異操作は、宝酒造製部位特異的変異システム『Mutan−G』に添付されていた説明書に従って行った。
【0085】
次に、第一の組換えDNAを制限酵素Eco RI及びBgl IIにより切断して得られた配列表の配列番号4に示す第1番目の「グアニン」が「アデニン」に置き換わった第1乃至1,358番目までの塩基配列を含んでなる約1,390塩基対のDNA断片及び第三の組換えDNAを制限酵素Bgl II及びPst Iにより切断して得られた配列表の配列番号4に示す第1,359乃至2,889番目までの塩基配列を含んでなる約1,550塩基対のDNA断片を、予め制限酵素Eco RI及びPst Iにより切断しておいたファルマシア製プラスミドベクター『pKK223−3』にT4 DNAリガーゼにより連結させ、配列表の配列番号4に示す塩基配列を含むこの発明による組換えDNA pBTM23を得た。
【0086】
斯くして得られた組換えDNA pBTM23を、ジェイ・サムブルック等『モレキュラー・クローニング・ア・ラボラトリー・マニュアル』、第2版、第1.74乃至1.81頁、1989年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー発行に記載されている方法に準じて予めコンピテントセル化した大腸菌LE392(ATCC33572)に実験例3−2の方法に準じて導入し、当該酵素をコードするDNAを含むこの発明による形質転換体BTM23を得た。実験例3−2の方法により形質転換体BTM23を培養し、培養物から菌体を採取し、溶出させた組換えDNAを精製し、分析したところ、組換えDNA pBTM23は約7,500塩基対からなり、図6に示すように、当該酵素をコードする2,889塩基対を含むDNA断片を制限酵素Nco Iによる切断部位の下流に連結していた。
【0087】
【実施例A−2(b) 形質転換体による組換え型耐熱性酵素の製造】
形質転換体BTM23を1%(w/v)マルトース、3%(w/v)ポリペプトン、1%(w/v)『アサヒミーストP1G』(アサヒビール食品製)、0.1%(w/v)燐酸二水素ナトリウム二水塩、200μg/mlアンピシリンナトリウム及び水からなる液体培地(pH7.0)を用いた以外は実施例A−1と同様にして培養した。培養物に卵白由来リゾチーム(生化学工業製)及び界面活性剤トリトンX−100をそれぞれ0.1mg/ml及び1mg/mlの濃度になるように加え、37℃で16時間攪拌して菌体から組換え型耐熱性酵素を抽出した後、60℃で1時間保温して大腸菌由来の夾雑酵素を失活させ、遠心分離により不純物を除去後、上清中の酵素活性を測定したところ、培養物1l当たり約120,000単位の組換え型耐熱性酵素が産生していた。この上清を実験例1の方法により精製したところ、比活性約135単位/mg蛋白質の組換え型耐熱性酵素を1ml当たり約1,400単位含む水溶液が、約177ml得られた。
【0088】
実験例2の方法によりこの精製酵素の性質、性状を調べたところ、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分子量100,000乃至110,000ダルトン、等電点電気泳動で約3.8乃至4.8に等電点を示すと共に、水溶液(pH7.0)中、80℃で60分間インキュベートしても実質的に失活しないなど、供与体微生物であるサーマス・アクアティカス(ATCC33923)が産生する耐熱性酵素とほぼ同じ理化学的性質を有していた。
【0089】
【実施例B−1 組換え型酵素によるトレハロースシロップ状物の製造】
馬鈴薯澱粉を濃度10%(w/w)になるように水中に懸濁し、懸濁液をpH5.5に調整後、ナガセ生化学工業製α−アミラーゼ剤『スピターゼHS』を澱粉固形分1グラム当たり2単位加え、95℃で加熱して澱粉を糊化・液化した。液化液を120℃で20分間オートクレーブして酵素を失活させ、50℃に急冷後、pHを5.0に調整し、澱粉固形分1グラム当たり、林原生物化学研究所製イソアミラーゼ剤を500単位、ナガセ生化学工業製β−アミラーゼ剤を20単位加え、50℃で24時間反応させて、固形分当たり、マルトースを約92%含む糖液を得た。糖液を100℃で20分間加熱して酵素を失活させ、60℃に冷却後、pHを6.5に調整し、実施例A−1の方法により得た組換え型酵素を澱粉固形分1グラム当たり1単位加え、96時間反応させた。反応物を100℃で10分間加熱して酵素を失活させ、冷却し、瀘過後、常法にしたがって活性炭により脱色し、イオン交換樹脂により脱塩・精製し、濃縮して、濃度約70%(w/w)のシロップ状物を原料澱粉固形分当たり約95%の収率で得た。
【0090】
トレハロースを固形分当たり約68%含有する本品は、還元力がDE18.4と低く、しかも、温和な甘味や適度の粘度・保湿性を有していることから、甘味剤、呈味改良剤、安定剤、賦形剤などとして飲食物、化粧品、医薬品を始めとする各種組成物に有利に配合使用できる。
【0091】
【実施例B−2 組換え型酵素によるトレハロース粉状物の製造】
実施例B−1の方法により得た反応物をpH5.0に調整し、ナガセ生化学工業製グルコアミラーゼ剤『グルコチーム』を澱粉固形分1グラム当たり10単位加え、50℃で24時間反応させた。新たに得られた反応物を加熱して酵素を失活させ、常法により脱色し、脱塩・精製した後、トレハロースの含量を高めるべく、東京有機化学工業製ナトリウム型カチオン交換樹脂『XT−1016』(架橋度4%)を用いるイオン交換カラムクロマトグラフィーに供した。すなわち、水に懸濁したイオン交換樹脂を内径5.4cmのジャケット付きステンレス製円筒管4本に充填した後、円筒管を直列に連結して全カラム長を20mとした。カラム内温度を60℃に維持しつつ、上記反応物をカラムに対して約5%(v/v)負荷し、次に、60℃の温水をSV0.15で通液して分画し、トレハロース含量の高い画分を採取した。この画分を常法により濃縮し、精製し、真空乾燥し、破砕して、トレハロース粉状物を原料固形分当たり約50%の収率で得た。
【0092】
トレハロースを固形分当たり約97%含有する本品は、還元力が極めて低く、甘味もまろやかであることから、甘味剤、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして飲食物、化粧品、医薬品を始めとする各種組成物に有利に配合使用できる。
【0093】
【実施例B−3 組換え型酵素による結晶性トレハロース粉状物の製造】
実施例B−2の方法により得たトレハロース含量の高い画分を、常法にしたがって活性炭により脱色し、イオン交換樹脂により脱塩し、濃度約70%(w/w)まで濃縮後、助晶機にとり、撹拌しつつ徐冷して晶出率約45%のマスキットを得た。次に、約85℃の温風を噴霧乾燥塔上部から下方に向かって送風しつつ、マスキットを噴霧乾燥塔上部に設けたノズルより約150kg/cm2の加圧 下で噴霧乾燥塔の下方に向かって噴霧する一方、噴霧乾燥塔底部に設けた金網コンベア上に捕集した結晶性粉末を、コンベア下部より約45℃の温風を送風しつつ、噴霧乾燥塔外に徐々に搬出した。その後、結晶性粉末を熟成塔に充填し、温風気流中で10時間熟成し、結晶化と乾燥を完了した。このようにして、トレハロース含水結晶の粉末を原料固形分当たり約90%の収率で得た。
【0094】
本品は実質的に吸湿性を示さず、取扱いも容易であり、甘味剤、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして飲食物、化粧品、医薬品を始めとする各種組成物に有利に配合使用できる。
【0095】
【実施例B−4 組換え型酵素による無水結晶性トレハロース粉状物の製造】
実施例B−2の方法により得たトレハロース含量の高い画分を実施例B−3と同様にして精製した後、蒸発釜にとり、減圧下で煮詰めて水分含量約3.0%(w/w)のシロップ状物とした。このシロップ状物を助晶機に移し、種晶として無水結晶トレハロースを固形分当たり約1%(w/w)加え、撹拌下、120℃で助晶後、アルミ製バットに取出した。この状態のまま、100℃で6時間熟成して得られたブロック状物を切削機で粉砕し、流動乾燥して、水分含量約0.3%(w/w)の無水結晶トレハロース粉状物を原料固形分当たり約85%の収率で得た。
【0096】
強力な脱水作用を有する本品は、飲食物、化粧品、医薬品又はその製造原料若しくは中間加工物の脱水剤として、さらには、上品な甘味を有する白色粉末甘味剤として飲食物、化粧品、医薬品を始めとする各種組成物に有利に配合使用できる。
【0097】
【実施例B−5 組換え型酵素によるトレハロース粉状物の製造】
『マルトース HHH』(林原生物化学研究所製高純度マルトース)を濃度40%(w/w)になるように水に溶解し、57℃にした後、pHを6.5に調製し、実施例A−2の方法により得た組換え型酵素をマルトース固形分1グラム当たり2単位加え、48時間反応させた。反応物を100℃で10分間加熱して酵素を失活させ、冷却し、濾過後、常法に従って活性炭により脱色し、イオン交換樹脂により脱塩・精製し、濃縮し、真空乾燥し、粉砕して、トレハロースを固形分当たり約73%含有する粉状物を、原料マルトース固形分当たり約90%の収率で得た。
【0098】
本品の還元力はDE19と低く、この値はマルトースの約30%であるにもかかわらず、本品の粘度はマルトースとほぼ同じであり、しかも、穏和な甘味や適度の保湿性を有していることから、甘味剤、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして飲食物、化粧品、医薬品を始めとする各種組成物に有利に配合使用できる。
【0099】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明は、マルトース及びトレハロースに作用して、それぞれ、トレハロース又はマルトースを生成する、従来未知の全く新規な耐熱性酵素の発見に基づくものである。この発明は、組換えDNA技術により、斯かる酵素を大規模且つ効率的に生産する道を拓くものである。この発明の組換え型酵素を使用する変換方法によるときには、雑菌汚染を懸念することなく、マルトースをトレハロースとグルコース及び/又はマルトオリゴ糖からなる糖組成物に変換することができる。トレハロースはまろやかで上品な甘味を有し、しかも、分子中に還元性基を有しないので、着色や変質の懸念なく飲食物一般を甘味付けできる実益がある。くわえて、この発明の組換え型酵素はアミノ酸配列まで明らかにされた酵素であり、飲食物や医薬品等への配合使用を前提とするトレハロースの製造に安心して使用し得るものである。
【0100】
この発明は斯くも顕著な作用効果を奏する意義のある発明であり、斯界に貢献すること誠に多大な発明であると云える。
【0101】
【配列表】
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【0102】
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【0103】
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【0104】
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【0105】
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【0106】
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【図面の簡単な説明】
【図1】サーマス・アクアティカス(ATCC33923)が産生する耐熱性酵素の至適温度を示す図である。
【図2】サーマス・アクアティカス(ATCC33923)が産生する耐熱性酵素の至適pHを示す図である。
【図3】サーマス・アクアティカス(ATCC33923)が産生する耐熱性酵素の熱安定性を示す図である。
【図4】サーマス・アクアティカス(ATCC33923)が産生する耐熱性酵素のpH安定性を示す図である。
【図5】この発明による組換えDNAであるpBTM22の制限酵素地図である。
【図6】この発明による組換えDNAであるpBTM23の制限酵素地図である。

Claims (15)

  1. 列表における配列番号3に示すアミノ酸配列におけるアミノ酸の1個又は2個以上が他のアミノ酸に置換、欠失及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、下記の理化学的性質を有する組換え型酵素。
    (1) 作用
    マルトースに作用してトレハロースを生成する。トレハロースに作用してマルトースを生成する。
    (2) 分子量
    SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定すると、分子量約100,000乃至110,000ダルトンを示す。
    (3) 等電点
    等電点電気泳動法により測定すると、約3.8乃至4.8に等電点を示す。
    (4) 至適温度
    pH7.0で60分間反応させると、65℃付近に至適温度を示す。
    (5) 至適pH
    60℃で60分間反応させると、6.0乃至6.7付近に至適pHを示す。
    (6) 熱安定性
    pH7.0で60分間インキュベートすると、80℃付近まで安定である。
    (7) pH安定性
    60℃で60分間インキュベートすると、pH5.5乃至9.5付近まで安定である。
  2. マルトースをトレハロースに変換する作用を有し、配列表における配列番号3に示すアミノ酸配列を有する酵素か、又は、請求項1記載の組換え型酵素をコードするDNA。
  3. DNAが、配列表における配列番号4に示す塩基配列か、配列表における配列番号4に示す塩基配列における塩基の1個又は2個以上が置換、欠失及び/又は付加した塩基配列、又はそれらに相補的な塩基配列を有する請求項に記載のDNA。
  4. 遺伝子コードの縮重に基づき、配列表における配列番号3に示すアミノ酸配列を変えることなく、配列表の配列番号4に示す塩基配列における塩基の1個又は2個以上を他の塩基で置換した請求項2又は3に記載のDNA。
  5. 配列表における配列番号5に示す塩基配列を有する請求項2乃至4のいずれかに記載のDNA。
  6. サーマス属の微生物に由来する請求項2乃至5のいずれかに記載のDNA。
  7. 請求項2乃至6のいずれかに記載のDNAと自律複製可能なベクターを含んでなる複製可能な組換えDNA。
  8. 自律複製可能なベクターがプラスミドベクターBluescript II SK(+)又はpKK223−3である請求項に記載の複製可能な組換えDNA。
  9. 請求項7又は8に記載の複製可能な組換えDNAを適宜の宿主に導入してなる形質転換体。
  10. 宿主が大腸菌である請求項に記載の形質転換体。
  11. 請求項9又は10に記載の形質転換体を培養し、培養物から組換え型酵素を採取する組換え型酵素の製造方法。
  12. 培養物中の組換え型酵素を遠心分離、濾過、濃縮、塩析、透析、分別沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル電気泳動及び/又は等電点電気泳動により採取する請求項11に記載の組換え型酵素の製造方法。
  13. マルトースに請求項1に記載の組換え型酵素を作用させてトレハロースを生成させる工程を含んでなるマルトースの酵素的変換方法。
  14. マルトース含量が50%(w/w)までの水性媒体に有効量の組換え型酵素を共存せしめ、pH5乃至10、55℃を越える温度で反応させる請求項13に記載のマルトースの酵素的変換方法。
  15. 反応物が、固形分当たり、トレハロースを約50%以上含む請求項13又は14に記載のマルトースの酵素的変換方法。
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