JP3810048B2 - 磁気記憶装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、スピン依存トンネル効果素子を用いた磁気記憶装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気ランダムアクセスメモリ(以下MRAMと略記)とは、情報の記録担体として強磁性体の磁化方向を利用した、記録情報を随時、書き換え、保持、読み出すことができる固体メモリの総称である。MRAMは、一般に薄膜状の強磁性体、非磁性導電体、絶縁体、若しくはそれらの複合構造からなる複数のメモリセルと、それに付随した複数の書き込み、読み出し線及び駆動回路によって構成される。
【0003】
MRAMにおける情報の記録は、メモリセルを構成する強磁性体の磁化方向を、書き込み線に電流を流して生じる電流磁界によって反転させ、反転後の磁化方向がある基準方向に対して平行か、反平行であるかを2進法の情報“1”、“0”に対応させて行われる。MRAMにおいては、記録保持時の消費電力は原理的にゼロであり、また電源を切っても長期間にわたって記録保持が行われる不揮発性メモリである。
【0004】
一方、MRAMでの記録情報の読み出しは、メモリセルの電気抵抗が、メモリセルを構成する強磁性体の磁化方向とセンス電流との相対角、または複数の強磁性層間の磁化の相対角によって変化する現象、いわゆる磁気抵抗効果を利用して行う。磁気抵抗効果としては、電流と磁化の相対角が平行か、垂直かによって電気抵抗が変化する異方性磁気抵抗効果(以下AMR効果と略記)、非磁性導電体を挟んだ複数の強磁性層の磁化配列が平行か、反平行かによって電気抵抗が変化する巨大磁気抵抗効果(以下GMR効果と略記)、さらに絶縁体を挟んだ複数の強磁性層の磁化配列が平行か、反平行かによって強磁性層間のトンネル抵抗が変化するスピン依存トンネル効果(以下TMR効果と略記)が主に用いられている。
【0005】
AMR効果、GMR効果を示すメモリセル(以下AMRセル、GMRセルと略記)では、一般にセンス電流の方向は強磁性体の膜面に平行である。現在実用化されているAMR効果、GMR効果を示す材料のほとんどは良伝導体であり、そのシート抵抗率は約数Ω/μm〜約数10Ω/μm程度の値である。従って、メモリセルの抵抗値を約100Ω、磁気抵抗効果による抵抗変化率を約5%とし、メモリセルに接続されたセンスアンプの最小検出感度を約50mVと仮定した場合、必要なセル出力電圧を得るためには、約10mAのセンス電流が必要となる。現在、実用化されているMOS型電界効果トランジスタでは、ソース-ドレイン間電流Iの値はチャネル幅Wとチャネル長Lとの比(W/L)に比例しており、W=約3.3μm、L=約1μmでのIの値は約0.1mAである。従って約10mAいうセンス電流の値は、サブミクロンルールの加工寸法で作成されるトランジスタに対しては非常に過大である。
【0006】
この点を解決するため、例えば、IEEE Trans.Comp.Pac.Manu.Tech. pt.A,17,373(1994).には、AMR効果、GMR効果を用いたMRAMセルにおいて、複数のAMR、GMRセルを直列に接続し、データ線を構成する方法が開示されている。この方法では複数のメモリセルで一つのデータ線駆動用トランジスタを共有するため、セル面積を増大させることなく、トランジスタの面積を増大し、チャネル幅を増加させることが可能となる。例えば、前述の文献では、8個のメモリセルを直列に接続し、W/L=約50/1のトランジスタにより約2.5mAのセンス電流を供給する。
【0007】
しかしながら、メモリセルを直列接続した場合、電力消費効率が大きく低下する問題を抱えている。すなわち、前述の文献の方法では、ある一つのメモリセルの記録情報を読み出す場合の消費効率ηはη=1/8=0.125となる。このような電力消費の非効率性は、モバイルPCのような特に低消費電力が求められる用途では大きな問題となる。
【0008】
これらの問題点を解決するため、AMR効果、GMR効果に代わり、TMR効果を応用しようとする提案がなされている。TMR効果を示すメモリセル(以下TMRセルと略記)は、主として強磁性層1/絶縁層/強磁性層2からなる三層膜で構成され、電流は絶縁層をトンネルして流れる。トンネル抵抗値は、両強磁性金属層の磁化の相対角の余弦に比例して変化し、両磁化が反平行の場合に極大値をとる。例えばIEEE Trans.Mag.,33,3553(1997).では、NiFe/Co/Al/Co/NiFeトンネル接合において、約50Oe以下の低磁界において約25%を越える抵抗変化率が見いだされることが開示されている。TMR効果に基づく抵抗変化率は、強磁性層1、2の伝導電子のスピン偏極率P、Pの積に比例する。例えばハーフメタルのように100%スピン偏極した材料を用いれば、約50%以上の抵抗変化率を得ることも可能である。さらにTMRセルでは、AMRセル、GMRセルに比べ高い抵抗値が得られる。典型的なセル抵抗値は、接合面積μm当たりで約10〜約10Ωである。したがって仮に約1μmセルにおいて抵抗値約10kΩ、抵抗変化率約50%を仮定すると、約10μAのセンス電流で約50mVのセル読み出し信号が得られる。
【0009】
TMRセルでは、センス電流は強磁性体の膜面に垂直に流れる。従ってセルを直列接続することが難しく、そのセル配列は、AMRセル、GMRセルとは大きく異なる。TMRセルを用いたMRAMでは、データ線上に複数のTMRセルを並列接続する。その詳細構造としては、複数のTMR素子をマトリックス状に配置し、(1)各々のTMRセルに選択トランジスタを配置したもの、(2)データ線毎に選択トランジスタを配置したもの、(3)行データ線、列データ線毎に選択トランジスタを配置したもの(例えばJ.Appl.Phys.,81,3758(1997).参照)が提案されている。これらの構造は、それぞれ利点と欠点を有している。
【0010】
(1)の方式では、個々のセルに選択トランジスタが配置されているため、読み出し時の電力消費効率ηが高い。しかしながら、各セルにトランジスタを配置するため、セル面積を低減することが難しいという欠点を有している。例えばデータ線幅をFとした場合、セル面積は〜12F程度と見積もられ、この方式でのセル面積の縮小限界はDRAMと同程度の約8Fであると考えられる。一方、(2)、(3)の方式では、個々のセルには選択トランジスタが不要であり、セル面積は約6F〜約9Fと見積もられる。この方式では、セル面積の縮小限界は行データ線、列データ線を間隔Fで配置したときに得られ、その値は約4Fとなり、(1)に比べ大幅な高集積化が可能である。しかしこの方式では、センス電流は同一のデータ線に配置された他のセルにも分流して流れる。データ線に接続したセル数をNとした場合、データ線駆動トランジスタから見た見かけの抵抗値は単一のセル抵抗値の1/Nであり、したがってセンス電流を低減させることが難しくなり、消費電力効率ηは(1)に比べ大幅に低くなる。また、センスアンプに出力される信号は、セル出力信号の1/Nとなるため、(1)に比べ読み出し時の信号−ノイズ比が低くなる。これを解決するためにはセンスアンプの読み出し時間を長くせざるを得ず、高速読み出し性を損なう結果となる。
【0011】
(2)、(3)の欠点を改良すべく、(3)の構造に加えて、各TMR素子に直列に半導体ダイオードを接続した構造が、例えば米国特許5,640,343号並びに米国特許5,838,608号に提案されている。この構造では、TMR素子に直列にpnダイオードまたはショットキーダイオードが接続されており、TMR素子は一方の列データ線に、ダイオードは行データ線に接続されている。ダイオードはセンス電流方向に対して順方向に配置されており、ダイオードの順方向電圧降下と列データ線と行データ線間の電位差との大小関係を制御することにより、セル選択を行っている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、TMR素子をメモリセルに応用することにより、読み出し時のセンス電流の低減とセル出力信号の増大を同時に実現することができ、従来用いられているAMR効果、GMR効果を用いたMRAMに比べより高密度のMRAMを提供することが可能である。
【0013】
しかしながら、TMR素子をメモリセルに応用するためには、TMRセルをマトリックス状に配置し、複数のセルで一つのデータ線駆動トランジスタを共有することが望ましいが、TMRセルではセンス電流を素子に垂直に流すため、セルの直列接続が難しいという本質的な問題を有している。そして、現在提案されているTMRセルを用いた高集積メモリ構造では、データ線に対してセルを並列接続するため、センス電流が分流し、結果として消費電力効率の減少、さらには十分な信号−ノイズ比を得られないことによる読み出し時間の増加を生じるという問題を有している。
【0014】
本発明はこのような問題に鑑みなされたものであり、高密度で、かつ低消費電力な磁気記憶装置を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明の第1は、第1の強磁性電極と、第2の強磁性電極と、第1及び第2の強磁性電極間に第1及び第2の誘電体層を介して挿入されたゲート電極とを具備するスピン依存トンネル効果素子を備える複数のメモリセルと;複数のスピン依存トンネル効果素子の第1または第2の強磁性電極が共通に接続されるデータ線と;それぞれ異なるメモリセルのゲート電極と容量結合する複数のワード線とを具備し、データ線に共通に接続された複数のメモリセルの1つを記憶情報読み出し時に選択するセル選択が、ワード線の1つを選択して電位を変化させ、選択したワード線と容量結合するメモリセルの抵抗値を変えることにより行われることを特徴とする磁気記憶装置を提供する。
【0016】
本発明の第1では、ワード線とデータ線が交差しても良い。
【0017】
また本発明の第1では、第1の強磁性電極、第1の誘電体層、ゲート電極、第2の誘電体層、及び第2の強磁性電極はこの順に積層形成され、第2の誘電体層は、第2の強磁性電極が形成される第1領域と、第2の強磁性電極が形成されない第2領域を備え、複数のメモリセルの第2領域に沿って、ワード線が配設されてもよい。
【0018】
本発明の第1では、ワード線の電位を変化させる事により、スピン依存トンネル効果素子が2種類のトンネル抵抗値を示し、2種類のトンネル抵抗値の比が、少なくとも1000倍であっても良い。
【0019】
また本発明の第1では、ゲート電極が、誘電体マトリックス中に分散された保持力を持つ強磁性体微粒子を有するグラニュラー磁性膜であっても良い。
【0020】
また本発明の第1では、ゲート電極が、誘電体マトリックス中に分散された非磁性体粒子または半導体微粒子を有し、かつ非磁性体粒子または半導体微粒子のスピン緩和時間が第1または第2の強磁性電極から誘電体層をトンネルしてゲート電極に至るまでのトンネル時間よりも長いグラニュラー膜であっても良い。
【0021】
さらに本発明の第1では、ゲート電極が、量子化された共鳴準位を有する金属または半導体微粒子であっても良い。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の磁気記憶装置について、さらに詳細に説明する。
【0023】
本発明は前記のように高集積度、低消費電力、高速読み出しを兼ね備えた磁気記憶装置に係わり、特に外部電圧によってその電気抵抗が変化する機能を有したスピン依存トンネル効果素子の磁気記憶装置への応用に関するものである。
【0024】
スピン依存トンネル効果素子を用いた磁気記憶装置において、メモリセルの高密度配列を実現するためには、図1に模式的に示すように、個々のメモリセル11〜13から選択トランジスタを廃し、かつデータ線14に対してメモリセル11〜13を並列に配置する方法が最適である。
【0025】
しかしながらデータ線14に対してメモリセル11〜13を並列に配置したのみでは、センス電流が各メモリセル11〜13に分流するため、センスアンプ15に出力される信号はセル出力信号の1/N(Nはメモリセルの数)となり、十分な信号−ノイズ比を得ることが難しい。この点を解決するためには、各メモリセルを構成するスピン依存トンネル効果素子が、各ワード線WLにより印加される外部電圧によって、そのトンネル抵抗値を変化する機能を有していればよい。ここで、データ線駆動用トランジスタ16は、定電流源18に接続される。情報の読み出しは、ワード線17を高電圧として、データ線駆動用トランジスタ16を導通させ、定電流源18からデータ線14に、センス電流を流す事で行われる。
【0026】
スピン依存トンネル効果素子のトンネル抵抗値が、各ワード線WLにより外部電圧を印加した場合(オン状態)にR、印加しない場合(オフ状態)にFRであるとする。ここでFは1以上の正の定数である。またこのスピン依存トンネル効果素子の磁気抵抗変化量はΔRであるとする。理想的に、同一の特性を有するスピン依存トンネル効果素子がN個並列に同一データ線上に接続している場合を考える。今、一つのメモリセルをオン状態、他のメモリセルをオフ状態とした場合、センスアンプから見た見かけの磁気抵抗変化量ΔR、接合抵抗値Rは、N/Fの関数として与えられる。
【0027】
図2には、ΔR/ΔR及びR/RをN/Fの関数として示した。N/F=10、例えばオン、オフ時の抵抗変化が無く(F=1)かつ10個のセルを並列に接続した場合、ΔR/ΔR、R/R共に約0.1以下となる。一方、N/F<10−1では、ΔR/ΔR、R/R共に約0.8以上の値が得られる。
【0028】
図3にはノイズ源としてJohnson noiseを仮定した場合に得られる信号−ノイズ比S/NをN/Fの関数として示した。ここではR=約10Ω、ΔR/R=約0.5、バンド幅=約100MHzを仮定した。現在公知の半導体メモリでのS/Nの値は概ね300程度である。
【0029】
N/F=10でのS/Nは約50以下であり、この条件で記憶情報の読み出しを行うためには、センスアンプの構成を多段化し、かつ読み出し時間を長くする必要がある。
【0030】
一方、N/F<10−1では、約300を越えるS/Nが得られており、従来の半導体メモリ技術を用いて高速な読み出しを実現することが可能である。さらにN/F<10−2では約350以上のS/Nが得られより好ましい。N/F<10−2は、10個のセルを並列に接続した場合でオン、オフ時の抵抗変化が約10以上であれば実現できる。
【0031】
導電層/絶縁層/導電層からなる単一トンネル接合において、その電流−電圧特性は一般に非線形性を示すが、室温に於いて約数100mV以下の電圧領域での、バイアス電圧による電気抵抗の差はたかだか数倍程度である。しかしながら、導電層/絶縁層の積層数を増やした多重トンネル接合、または前記絶縁体中に導電性微粒子を層状に分散させたナノ構造多重トンネル接合、またゲート層に半導体を用いたトンネル接合では、外部電圧を変化させることによって室温においても接合抵抗の値を約10倍以上変化させることが可能である。
【0032】
以下、強磁性電極1/絶縁層1/ゲート層/絶縁層2/強磁性電極2からなる二重トンネル接合を例にとって、トンネル接合にスイッチング機能を付与する手段について説明する。前記構造に於いて、強磁性電極1からゲート層へのトンネリングを考える。今、一つの電子がゲート層へトンネルすると、ゲート層の静電エネルギーはE=e/2Cだけ増加する。ここでCはゲート層の静電容量である。Cが十分に小さくEの値が測定温度kTより大きい場合には、電子はトンネリングに必要なエネルギーを格子振動から受け取ることができず、トンネリングは生じずいわゆるクーロンギャップが生じる。絶縁体1のトンネル抵抗をR、絶縁体2のトンネル抵抗をRとすると、トンネリング可能なとき(オン状態)の接合抵抗はR+Rであり、一方トンネリングが不可能なとき(オフ状態)の接合抵抗は高次のトンネリング過程を含めても、Rとなる。ゲート層の静電エネルギーEは、ゲート層に容量結合した第3のゲート電極の電位Vまた強磁性電極1、2間の電位差Vにより制御することが可能である。従って外部電圧によりトンネル接合の電気抵抗を約10倍以上変化させることができる。上述のようないわゆるクーロンブロッケード効果を室温で生じさせるためには、ゲート層の静電容量を少なくても約2×10−18F以下にする必要がある。このように小さな静電容量を得るためにはゲート層を、絶縁体中に導電性微粒子を層状に分散させた構造とすればよい。前記静電容量を得るためには、前記導電性微粒子の粒子径を概ね2nm以下とする必要がある。この粒子径でのクーロンギャップの大きさはおよそ90mVである。
【0033】
前記の絶縁体中に導電性微粒子を層状に分散させた構造において、導電性微粒子は一般には強磁性体であるが、非磁性体を用いることもできる。非磁性体中のスピン緩和時間τsfが接合抵抗と接合容量の積で決まるトンネル時間τより長ければ、非磁性体微粒子中にスピン方向に依存した化学ポテンシャルシフトΔμが生じる。これがいわゆるスピン蓄積効果である。このため強磁性電極1から非磁性体にトンネルした電子は、スピンを保ったまま強磁性電極2にトンネルすることができ、これにより強磁性電極1、2の磁化配列に依存した磁気抵抗変化が生じる。静電容量を小さくする目的で粒子径を小さくした場合、強磁性体微粒子では異方性エネルギーの減少により熱的擾乱による磁化方向の乱れが次第に顕著になる。磁化方向が乱れると、トンネルした電子のスピンが散乱を受け、磁気抵抗変化量の減少が生じる。スピン蓄積効果を用いた場合にはこのような問題は生じない。
【0034】
導電性微粒子には半導体を用いることもできる。半導体の場合、スピン緩和時間τsfが金属に比べ長いため、スピン蓄積効果が生じやすい。また粒子形状とした場合に含まれる電子数が同じ大きさの金属に比べ非常に少ないため、スピン蓄積効果により生じるスピンに依存した化学ポテンシャルのシフト量Δμが、金属の場合に比べ大きくなる。従ってより大きな磁気抵抗変化量を得ることができる。
【0035】
半導体にはバンドギャップが存在するため、前記のクーロンブロッケード効果を用いずにトンネル接合にスイッチング機能を付与させることが可能である。すなわち、強磁性電極1、2間の電位差が小さく、強磁性電極1のフェルミ準位が半導体のバンドギャップ内にある場合、トンネル電流は流れない(オフ状態)。ここで第3のゲート電極から絶縁体中の半導体微粒子に電圧を与え、半導体の伝導帯が強磁性電極1のフェルミ準位に一致するようにするとトンネル電流が流れる(オン状態)。オン状態では、強磁性電極1から半導体へスピン偏極した電子がトンネルするので、島状半導体にスピン蓄積効果が生じる。半導体のバンドギャップの大きさは一般に約1〜約2eVであり、クーロンブロッケード効果による生じるクーロンギャップに比べ、数十倍大きな値である。したがって、本機能をスイッチング機能に利用した場合にはバイアス電圧に対するオフ領域の幅を広く取ることができ、動作マージンを得る意味で好ましい形態であるといえる。
【0036】
前述のように絶縁体中に導電性微粒子を層状に分散させた構造では、ここの粒子に含まれる電子数が少ないため、量子閉じこめ効果によって共鳴準位が生じるさせることができる。これを用いていわゆる共鳴トンネル効果によってスイッチング機能を付与させることも可能である。特に半導体微粒子では、金属に比べ単位体積当たりの電子数が少ないため、共鳴準位の間隔がより大きくなり、オフ領域の幅を広く取ることが可能である。
【0037】
【実施例】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
図4(a)は本発明の第1の実施例であるスイッチ機能を有するスピン依存トンネル効果素子を利用した磁気記憶装置を説明するためのメモリセル断面図である。また図4(b)は互いに隣接した複数のメモリセルの配置を示した平面図である。なお、メモリセルに接続される周辺半導体回路部(電流、電圧源、センスアンプ、アドレスデコーダ等)については、従来公知の技術を用いて実現可能でありその詳細な説明は省略する。
【0039】
本実施例では、半導体基板41上にビット線42、ワード線43、データ線44が立体的に交叉して形成されており、各々は層間絶縁膜45によって電気的に絶縁されている。スピン依存トンネル効果素子46は、ビット線42とデータ線44が交叉する領域に形成され、下端はビット線42に上端はコンタクトホール47を介してデータ線44に接続している。本実施例では、1メモリセル当たりのセル面積は、ビット線42、データ線44の線幅と最小間隔をFと表記した場合約6Fとなる。比較としては、半導体MOS型FETからなる選択トランジスタを各メモリセルに付与した場合の1メモリセル当たりのセル面積は約12Fである。ここから明らかなように、本実施例によりメモリセルの集積度を大幅に向上させることが可能となる。
【0040】
スピン依存トンネル効果素子46は、上部強磁性電極461、上部絶縁層462、ゲート層463、下部絶縁層464、下部強磁性電極465が積層された構造をもち、強磁性二重トンネル接合を形成している。ゲート層463は、上部絶縁層462および層間絶縁膜45を介して、ワード線43と容量結合しており、ゲート層463の電位はワード線43の電位により制御可能である。
【0041】
本実施例におけるスピン依存トンネル効果素子46の各層の構成としては、例えば、上部強磁性電極461と下部強磁性電極465とにNiFe等の軟磁性体とCo、CoFe等の伝導電子のスピン偏極度の高い強磁性体とを積層した膜を用い、上部絶縁層462と下部絶縁層464にAlを、ゲート層463にAlマトリックス中に分散したCoPt等の強磁性微粒子を用いた強磁性ナノ構造トンネル接合を用いることができる。この場合のスイッチング機能は、ゲート層463に生じるクーロンブロッケード効果または共鳴トンネル効果を利用してなされる。
【0042】
本実施例においてスピン依存トンネル効果素子46に求められる最低限の要件は、
(1)スピン依存トンネル効果素子46中に少なくとも2層以上の強磁性層を有し、該強磁性層の磁化の相対角によってスピン依存トンネル効果素子のトンネル抵抗値が変化すること。
【0043】
(2)スピン依存トンネル効果素子46のトンネル抵抗値がゲート層463の電位によって変化すること。
【0044】
の二点であり、このような要件を満たす範囲で各種の構成が利用可能である。他の構成例としては、例えばゲート層463として誘電体中に分散した非磁性金属微粒子、若しくは半導体微粒子を用いた構成がある。また数nm以下程度の膜厚の強磁性金属超薄膜、非磁性金属超薄膜、半導体超薄膜をゲート層463に用いた構成も可能である。いずれの場合もスイッチング機能は、ゲート層463に生じるクーロンブロッケード効果または共鳴トンネル効果を利用してなされる。半導体微粒子を用いた場合には、半導体微粒子のバンドギャップをスイッチング機能に利用することも可能である。
【0045】
本実施例における記録情報の読み出しは、選択するスピン依存トンネル効果素子46が接続するビット線42、データ線44とを周辺半導体回路部に接続した後に、該スピン依存トンネル効果素子46と結合するワード線43にスピン依存トンネル効果素子46の構成によって決まる限界電圧Vを与え、スピン依存トンネル効果素子46をオン状態とすることによってなされる。本実施例ではデータ線44とワード線43とが交叉して形成されているため、上述の方法により当該データ線44とワード線43の交叉部分にあるスピン依存トンネル効果素子46の記録情報のみが読み出される。
【0046】
上記のように、スイッチング機能を有するスピン依存トンネル効果素子をメモリセルに用いると、個々のセルにはトランジスタ、ダイオード等の選択用半導体素子が不要となり、そのメリットは非常に大きい。
【0047】
すなわちTMR素子に直列に選択用半導体素子を接続した構造では、センス電流により選択用半導体素子に電圧降下が生じることが避けられない。この電圧降下の大きさは、例えば0.25mmルールで作成したMOSトランジスタ、pnダイオードでは約数100mVに達する。従って選択用半導体素子の特性に約10%のばらつきが生じると、それにより約数10mVの雑音が生じる。この雑音レベルはTMR素子の出力電圧に匹敵する大きさであり、信号−雑音比を大きく劣化させる原因となる。
【0048】
また金属から構成されるTMR素子と選択用半導体素子を特性を保って接続するためには、その接続部の製造に格段の注意が必要である。
【0049】
各TMR素子に直列に半導体ダイオードを接続する構造では、半導体ダイオード上へのTMR素子形成が困難であること、また半導体ダイオードの抵抗値がTMR素子と同程度であり、かつその抵抗値のばらつきが大きいことから、信号−ノイズ比の向上が困難であることといった問題を有している。
【0050】
しかしながら本発明のメモリセルアレイでは、メモリセル内にダイオード等の別個の半導体素子を用いていないため、半導体素子の特性ばらつきにかかる問題を排除することが可能となるだけでなく、メモリセルアレイの製造方法が容易になるという利点も有している。
【0051】
クーロンブロッケード効果をスイッチング機能に利用した場合、スピン依存トンネル効果素子46のオン状態、オフ状態は、上部強磁性電極461と下部強磁性電極465間の電位差Vとゲート層463の電位Vの両方に依存する。図5(a)にはスピン依存トンネル効果素子46の電気的な模式図を示した。また図5(b)は、スピン依存トンネル効果素子46のオン状態、オフ状態の状態図を模式的に示した図である。ここで合成容量CΣ=C+C+C、チャージングエネルギーE=e/2CΣである。
【0052】
すなわちスピン依存トンネル効果素子46をオン状態にするのに必要なゲート層463の電位の値は、上部強磁性電極461と下部強磁性電極465間に電位差Vに依存して変化する。さらに電位差VがeV>Eとなると、Vに関係なく素子はオン状態に転移する。共鳴トンネル効果または半導体のバンドギャップをスイッチング機能に利用した場合には、離散準位の間隔をEまた半導体のフェルミ準位と伝導帯の底までの間隔をE’とすればそれぞれeV<E、eV<E’を満たす必要がある。
【0053】
したがって本実施例においてワード線電位Vを用いてセル選択を確実に行うためには、読み出し時に非選択のスピン依存トンネル効果素子46が接続したビット線42とデータ線44との電位差VがeV<Eの条件を満たしている必要がある。この条件を満たすためには、(1)センス電流値を制御してスピン依存トンネル効果素子46での電圧降下VをeV<Eとする。(2)非選択のスピン依存トンネル効果素子46が接続したデータ線44の電位を独立に制御して、ビット線42とデータ線44の電位差VをeV<Eとする、等の方法を用いればよい。
【0054】
なお、上記記録情報の読み出し方法の詳細、また記録情報の書き込み方法については、従来公知であるところの電流センス技術、また電流磁界を利用した磁化反転技術を用いればよい。本実施例は、その特徴であるメモリセルのスイッチング機能以外は、従来の磁気メモリ技術、半導体メモリ技術をそのまま適用して実現することが可能であり、従来技術との整合性の面からその価値は大きい。
【0055】
(実施例2)
次に本発明の第2の実施例について説明する。図6(a)はスイッチ機能を有するスピン依存トンネル効果素子を利用した、第2の実施例の磁気記憶装置を説明するメモリセル断面図である。また図6(b)は互いに隣接した複数のメモリセルの配置を示した平面図である。本実施例については、特に第1の実施例と異なる部分について、詳細に説明する。
【0056】
本実施例では、第1の実施例と異なり、同一のビット線42上の隣接したスピン依存トンネル効果素子46のゲート層463が、異なるワード線43に容量結合している。従って、公知の折り返しデータ線構造と、差動センスアンプによる読み出しが可能となり、信号−ノイズ比の高い動作が実現可能となる。また、本実施例での1メモリセルあたりのセル面積は約6.25Fとなり、本実施例においても集積度の向上が可能となる。
【0057】
(第3の実施例)
次に本発明の第3の実施例について説明する。図7(a)はスイッチ機能を有するスピン依存トンネル効果素子を利用した、第3の実施例の磁気記憶装置を説明するメモリセル断面図である。また図7(b)は互いに隣接した複数のメモリセルの配置を示した平面図である。本実施例については、特に第1の実施例と異なる部分について、詳細に説明する。
【0058】
本実施例では、第1の実施例とは、スピン依存トンネル効果素子46の構造が異なる。本実施例においては、スピン依存トンネル効果素子46は、異なる2つの上部強磁性電極4611、4612を備えており、それぞれ異なるコンタクトホール47を経て異なるデータ線44に接続されている。2つの上部強磁性電極4611、4612はそれぞれ、異なる記憶ノードとして機能する。記録情報の読み出し時のセル選択は、データ線44とそれに交差するワード線43との組合せで行われる。
【0059】
本実施例は読み出しの際に電流磁界を利用する形態に適している。すなわち、読み出し時に磁化反転層として働く下部強磁性電極465が、2つの上部強磁性電極4611、4612によって共有されているため、二つのメモリセルの書き込み線48を一本に統合することが可能となる。さらに書き込み線48の線幅を太くすることができるため、電流磁界発生時における電力消費を軽減させることが出来る。なお、記録情報の書き込み時には、データ線44、ビット線42に生じる電流磁界を併せて用いることでセル選択は実現できる。
【0060】
また、本実施例での1メモリセルあたりのセル面積は約5.75Fとなり、本実施例においても集積度の向上が可能となる。
【0061】
(実施例4)
次に本発明の第4の実施例について説明する。図8(a)はスイッチ機能を有するスピン依存トンネル効果素子を利用した、第4の実施例の磁気記憶装置を説明するメモリセル断面図である。また図8(b)は互いに隣接した複数のメモリセルの配置を示した平面図である。本実施例については、特に第1の実施例と異なる部分について、詳細に説明する。
【0062】
本実施例では、第1の実施例と異なり、ワード線43を下部強磁性電極465より下に設けている。この場合、ワード線43とスピン依存トンネル効果素子46との図8(a)中の横方向の間隔を約F/2未満とする事が可能であり、大幅なセル面積の低減が実現出来る。本実施例での1メモリセルあたりのセル面積は約4Fとなる。
【0063】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の磁気記憶装置では、スイッチング機能を有するスピン依存トンネル効果素子をメモリセルに用いる事で、素子選択用トランジスタを用いた場合と同程度の信号−ノイズ比を保ったまま、セル面積を大幅に低減する事が可能となる。即ち、高集積度、低消費電力、高速読み出しを兼ね備えた磁気記憶装置を提供する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の磁気記憶装置を説明する図。
【図2】 磁気記憶装置の抵抗変化量、抵抗値を、セル数とオン、オフ時の抵抗変化率の関数として表した説明図。
【図3】 磁気記憶装置の信号−ノイズ比をセル数とオン、オフ時の抵抗変化率の関数として表した説明図。
【図4】 本発明の第1の実施例の磁気記憶装置を模式的に示した断面図(a)と、平面図(b)。
【図5】 (a)、(b)とも、本発明の磁気記憶装置の動作を説明する図。
【図6】 本発明の第2の実施例の磁気記憶装置を模式的に示した断面図(a)と、平面図(b)。
【図7】 本発明の第3の実施例の磁気記憶装置を模式的に示した断面図(a)と、平面図(b)。
【図8】 本発明の第4の実施例の磁気記憶装置を模式的に示した断面図(a)と、平面図(b)。
【符号の説明】
11、12、13…メモリセル
14…データ線
15…センスアンプ
16…データ線駆動用トランジスタ
17…ワード線
18…定電流源
41…半導体基板
42…ビット線
43…ワード線
44…データ線
45…層間絶縁膜
46…スピン依存トンネル効果素子
47…コンタクトホール
48…書き込み線
461、4611、4612…上部強磁性電極
462…上部絶縁層
463…ゲート層
464…下部絶縁層
465…下部強磁性電極

Claims (7)

  1. 第1の強磁性電極と、第2の強磁性電極と、前記第1及び第2の強磁性電極間に第1及び第2の誘電体層を介して挿入されたゲート電極とを具備するスピン依存トンネル効果素子を備える複数のメモリセルと、
    前記複数のスピン依存トンネル効果素子の前記第1または第2の強磁性電極が共通に接続されるデータ線と、
    それぞれ異なる前記メモリセルの前記ゲート電極と容量結合する複数のワード線とを具備し、
    前記データ線に共通に接続された複数の前記メモリセルの1つを記憶情報読み出し時に選択するセル選択が、前記ワード線の1つを選択して電位を変化させ、選択した前記ワード線と容量結合するメモリセルの抵抗値を変えることにより行われることを特徴とする磁気記憶装置。
  2. 前記ワード線と前記データ線が交差する事を特徴とする請求項1記載の磁気記憶装置。
  3. 前記第1の強磁性電極、前記第1の誘電体層、前記ゲート電極、前記第2の誘電体層、及び前記第2の強磁性電極はこの順に積層形成され、前記第2の誘電体層は、前記第2の強磁性電極が形成される第1領域と、前記第2の強磁性電極が形成されない第2領域を備え、複数の前記メモリセルの第2領域に沿って、前記ワード線が配設されていることを特徴とする請求項1記載の磁気記憶装置。
  4. 前記ワード線の電位を変化させる事により、前記スピン依存トンネル効果素子が2種類のトンネル抵抗値を示し、前記2種類のトンネル抵抗値の比が、少なくとも1000倍であることを特徴とする請求項1記載の磁気記憶装置。
  5. 前記ゲート電極が、誘電体マトリックス中に分散された保磁力を持つ強磁性体微粒子を有するグラニュラー磁性膜である事を特徴とする請求項1、2、3または4記載の磁気記憶装置。
  6. 前記ゲート電極が、誘電体マトリックス中に分散された非磁性体粒子または半導体微粒子を有し、かつ前記非磁性体粒子または前記半導体微粒子のスピン緩和時間が前記第1または第2の強磁性電極から前記誘電体層をトンネルして前記ゲート電極に至るまでのトンネル時間よりも長いグラニュラー膜である事を特徴とする請求項1、2、3または4記載の磁気記憶装置。
  7. 前記ゲート電極が、量子化された共鳴準位を有する金属または半導体微粒子である事を特徴とする請求項1、2、3または4記載の磁気記憶装置。
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