しかしながら、特許文献1に示された技術を用いてノズルを高密度化し、描画可能な全幅に対応する長さにわたるノズル列を有するフルライン型の記録ヘッドを構成した場合、隣接ドット間の打滴時間差によって発生する記録媒体上における液滴の凝集の程度差に起因して印字結果の画像に濃度ムラが発生することがある。かかる現象とその発生原因について図11乃至図13を用いて概説する。
図11において符号110はフルライン型のインクジェットヘッド(以下、ヘッドという。)、符号116は記録媒体(例えば、用紙)である。ここでは、図11の下から上に向かって(矢印S方向に)記録媒体116が搬送されるものとする。ヘッド110は記録媒体116の全幅Wに対応する長さを有し、記録媒体116の搬送方向と略直交する方向に沿って延在するように固定設置される。
ヘッド110は、インク滴の吐出口であるノズル151及び各ノズル151に対応する圧力室152等から成るインク室ユニット(液滴吐出素子)153が記録媒体116の全幅Wに対応する長さにわたってマトリクス状に(2次元的に)配置された構造を有している。すなわち、記録媒体116の搬送方向(矢印S方向;副走査方向)と直交する方向(矢印M方向;主走査方向)に沿う行方向及び該行方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿ってノズル列が形成されたマトリクス構造を成す。なお、符号154は圧力室152へのインク供給口である。
図12の拡大図に示したように、行方向(主走査方向)に対して角度θを有する列方向に沿うノズル間ピッチを「d」とすると、主走査方向に並ぶように投影された実質的なノズル間ピッチPはd× cosθとなる。
印字可能幅の全幅に対応した長さのノズル列を有するフルライン型ヘッドで、ノズルを駆動する時には、(1)全ノズルを同時に駆動する、(2)ノズルを片方から他方に向かって順次駆動する、(3)ノズルをブロックに分割して、ブロックごとに片方から他方に向かって順次駆動する等が行われ、記録媒体の搬送方向と直交する方向に1ライン(1列のドットによるライン又は複数列のドットから成るライン)を印字するようなノズルの駆動を主走査と定義する。
特に、図12に示すようなマトリクス状に配置されたノズル151を駆動する場合は、上記(3)のような主走査が好ましい。すなわち、ノズル151-11 、151-12 、151-13 、151-14 、151-15 、151-16 を1つのブロックとし(他にはノズル151-21 、…、151-26 を1つのブロック、ノズル151-31 、…、151-36 を1つのブロック、…として)、記録媒体116の搬送速度に応じてノズル151-11 、151-12 、…、151-16 を順次駆動することで記録媒体116の幅方向に1ラインを印字する。
一方、上述したフルライン型ヘッドと記録媒体とを相対移動することによって、上述した主走査で形成された1ラインの印字を繰り返し行うことを副走査と定義する。
ところで、図12に示したノズル配置構造を有するヘッド110によって上記(3)のノズル駆動を行った場合、主走査方向に隣接する2つのドットが打滴される時間間隔はノズルの組み合わせによって異なる。つまり、上記(3)の順序でノズルブロックの一端から「151-i1 」→「151-i2 」→「151-i3 」…→「151-i6 」(ただし、i は整数)の順に吐出駆動された場合、「151-i1 」と「151-m6 」によって打滴されるドット同士は記録媒体116上で互いに隣接しているが(ただし、m =i +1)、これら2つのドットが打滴される時間間隔は、他のノズル(例えば、「151-i1 」と「151-i2 」、「151-i2 」と151-i3 等) で打滴されるドット間の打滴時間差と異なり、大きくなる。
記録媒体116が高速で搬送される場合、或いは定着が遅い媒体の場合は、記録媒体116上に先に着弾したインク液滴が載っている状態で隣接ノズルによる打滴が行われる。すると、記録媒体116表面上で液滴同士が接触し、後続の着弾液滴は先に着弾していた液滴の方向に引き寄せられて合体する(図13参照)。
図13(a)に示したように、先に吐出された液滴190は、記録媒体116上に着弾した直後、図13(a)の一点鎖線で示したように、記録媒体116との接触面積は小さいが、やがて時間の経過とともに液滴190が拡がり、記録媒体116に浸透していく。
図13(b)のように、液滴190が記録媒体116に完全に浸透し終える前に(記録媒体116表面上に液滴190が存在している状態で)、後続の(2滴目の)液滴192が吐出されると、記録媒体116表面上でこれら液滴190,192同士が接触し、図13(c)に示したように、2滴目の液滴192は、1滴目の液滴190に引き寄せられ合体する。その結果、同図の点線で示した本来のドット位置194よりも左寄りにずれた位置に合体ドット196が形成される。このとき、1滴目の液滴190が単独で定着する場合のドットの大きさに対して、合体したドット196の左側は大きく形成される。
上述の現象がノズルブロック内で次々に起こる。ノズルブロック内の最終行のノズル151-i6 から吐出される液滴に注目すると、このノズル151-i6 により打滴されたドットは、ノズル151-i5 により打滴されたドットとノズル151-m1 (ただし、m =i +1)により打滴されたドットの2つのドットに接触することになるが、ノズル151-m1 によるドットは、ノズル151-i6 によるドットよりも早い時刻に打滴されている(ノズル151-i1 によるドットと同タイミングに打滴されている)ため、定着が進んでいる。したがって、ノズル151-i6 によって打滴されたドットは、打滴時間差の短い左隣のノズル151-i5 によって打滴されたドットに引き寄せられる。
図14にその打滴結果を示した。図14(a)は、着弾ドットの凝集によって液が移動
した後の各ドット位置を示した模式図であり、図14(b)は紙送り方向(副走査方向)に沿う同一列のドット群の凝集結果を模式的に示した図である。
図14に示したように、ノズル151-i6 と151-m1 によって打滴された隣接ドット間の距離PD1は、他のノズル151-i1 〜151-i6 によって打滴された隣接ドット間の距離PD2よりも大きくなり、このノズル151-i6 ,151-m1 間に対応した記録媒体116上の位置に他の部分と比較して濃度の薄い部分ができる。また、記録媒体116を搬送しながら副走査を行う場合、上記の現象が副走査方向に同様に繰り返されるため、ノズル151-i6 及び151-m1 間に対応する位置に濃度の薄いスジムラが発生してしまう(図14(b)参照)。このスジムラの繰り返し周期(空間的な繰り返しサイクル)は、図11乃至図12で説明したノズル151の2次元配置における角度θの斜めの列方向に沿う1列分のピッチ(ノズル151-11 とノズル151-21 のノズル間距離、つまり、列方向のノズルブロックのピッチ)の周期となる。
写真画質の高解像度プリントを実現する高密度ヘッドの場合、この周期は、0.1〜1mm程度であるため、人間の目に視認され易い周期に重なってしまい、不快なスジムラとして認識される。
以上、記録媒体上に打滴されたインク液滴が記録媒体内に浸透によって定着する例で説明したが、記録媒体上に打滴されたインク液滴が記録媒体上で硬化(固化)又は乾燥によって定着する系でも、凝集は発生する。よって、硬化又は乾燥による定着させる場合についても、上記浸透による定着の場合と同様の問題が生じる。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、ノズルの2次元配置構造及び隣接ドット間の打滴時間差の相違に起因して発生するスジムラの視認性を低減することができる液滴吐出装置及びこれを用いた画像形成装置を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために請求項1記載の発明は、液滴吐出用のノズルが2次元的に配列された吐出面を有する複数の吐出ヘッドと、前記吐出ヘッド及び被吐出媒体のうち少なくとも一方を一定の方向に搬送して前記吐出ヘッドと前記被吐出媒体を相対移動させる搬送手段と、前記搬送手段による前記相対移動とともに前記被吐出媒体に向けて前記吐出ヘッドから液滴を吐出させ、前記被吐出媒体に着弾させた液滴によって前記搬送手段の相対移動方向と略直交する主走査方向に少なくとも一部のドットが重なって並ぶドット列を形成する打滴制御を行う打滴制御手段と、を備えた液滴吐出装置であって、1つの吐出ヘッド内で前記主走査方向に隣接するドット間の打滴時間差が他の隣接ドット間の打滴時間差と異なるノズル間の位置を当該吐出ヘッドにおける特異時間差ノズル対位置というとき、少なくとも2つの吐出ヘッド間で前記特異時間差ノズル対位置を前記主走査方向に異ならせるように前記吐出ヘッドを配置したことを特徴とする。
2次元配列されたノズル群を有する吐出ヘッドは、主走査方向に隣接するドットを打滴するノズルの位置関係によって隣接ドット間の打滴時間差が異なる。例えば、吐出ヘッドのノズル配列において互いに隣接するノズルによって隣接ドットが打滴される場合には、これら隣接ドット間の打滴時間差(T1 )は比較的小さい。これに対し、ノズル配列において比較的離れた位置関係にある2ノズルによって主走査方向に隣接するドットが形成される場合には、これら隣接ドット間の打滴時間差(T2 )は比較的大きくなる。このような打滴時間差の違いが着弾液滴の凝集作用の違いを生み、合体ドットによる濃度ムラが発生することは図11乃至図13で説明したとおりである。
つまり、主走査方向に隣接するドット間の打滴時間差が他のより多くの隣接ドット間の打滴時間差と異なるノズル間の位置(本明細書において「特異時間差ノズル対位置」と呼ぶ。)で濃度ムラが発生する。
本発明によれば、1つの吐出ヘッドに注目すると、特異時間差ノズル対位置に対応した被吐出媒体上の打滴位置に濃度ムラが発生するが、複数の吐出ヘッド間で特異時間差ノズル対位置を主走査方向に異ならせているため、これら吐出ヘッドによる濃度ムラの発生位置は搬送手段による相対移動方向(副走査方向)の同一列上に重ならないようになっている。これにより、濃度ムラの振幅が弱くなると同時に、主走査方向についての濃度ムラの空間的な繰り返し周期が短くなり(空間的な周波数が高くなり)、人の目に視認され難くなる。
なお、本発明の適用範囲は、被吐出媒体上に打滴された液滴が被吐出媒体内に浸透して定着する場合に限定されない。被吐出媒体上に打滴された液滴が被吐出媒体上で硬化(固化)又は乾燥によって定着する系でも凝集は発生するため、硬化又は乾燥による定着過程で発生する凝集に対しても本発明を適用することが可能である。
請求項2記載の発明は、請求項1項記載の液滴吐出装置の一態様に係り、各吐出ヘッドにおける前記特異時間差ノズル対位置の前記主走査方向についての空間的な繰り返し周期は共通しており、n本(ただし、nは2以上の整数)の吐出ヘッド間で前記繰り返し周期の位相を略1/nずらして前記吐出ヘッドを配置したことを特徴とする。
n本の吐出ヘッド間で特異時間差ノズル対位置の繰り返し周期の位相を略1/nずらして配置することにより、濃度ムラの繰り返し周期を略1/n(周波数がn倍)にする態様が好ましい。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の液滴吐出装置の一態様に係り、前記吐出ヘッドは、前記被吐出媒体の全幅に対応する長さにわたる2次元配列ノズル群が形成されて成るフルライン型のヘッドであることを特徴とする。
フルライン型の吐出ヘッドを用いて一方向の相対移動のみによって(1回のみの副走査で)被吐出媒体の全幅に対応する長さのドット列の形成が可能ないわゆるシングルパス方式の構成について本発明の液滴吐出装置を好適に用いることができる。
「フルライン型の吐出ヘッド」は、通常、被吐出媒体の相対的な移動方向と直交する方向に沿って延在するように設置されるが、相対移動方向と直交する方向に対して、ある所定の角度を持たせた斜め方向に沿って吐出ヘッドを配置する態様もあり得る。
請求項4記載の発明は、請求項1、2又は3記載の液滴吐出装置の一態様に係り、前記ノズルは、前記相対移動方向と略直交する行方向及び前記行方向に対してある角度を有する斜めの列方向に沿ってマトリクス状に配置されており、前記列方向に並ぶノズル列のブロックごとに各ブロックの一端のノズルから他端のノズルに向かって順次吐出駆動が行われることにより前記主走査方向に並ぶドット列が形成されることを特徴とする。
この発明の態様は、ノズルの2次元配列の形態例を述べたものである。請求項4に示した構成の場合、請求項5に記載したように、前記特異時間差ノズル対位置は、前記ノズル列のブロックの境界部に相当する。
請求項6記載の発明は、請求項4又は5記載の液滴吐出装置の一態様に係り、前記ノズル列のブロックは、偶数個のノズルによって構成されることを特徴とする。
斜めの列方向に並ぶノズル列のブロック(ノズルブロックという。)を偶数個のノズルで構成することにより、特に、請求項2で述べた構成との組み合わせにおいて、位相を1/2或いは1/3ずらす場合などに、異なる吐出ヘッドからの打滴ドットを被吐出媒体上の同一位置に重ねることが可能である。
請求項7記載の発明は、請求項1乃至6の何れか1項記載の液滴吐出装置の一態様に係り、前記複数の吐出ヘッドは、シアン(C)、マゼンタ(M)、黒(K)のうち少なくとも2つの色のインクをそれぞれ吐出する2つの吐出ヘッドを含んでいることを特徴とする。
明度差が比較的視認されやすい色のインクを吐出する複数の吐出ヘッド間でスジムラ発生位置をずらす態様が好ましい。
請求項8記載の発明は、請求項1乃至7の何れか1項記載の液滴吐出装置の一態様に係り、前記特異時間差ノズル対位置を前記主走査方向に異ならせて配置する前記少なくとも2つの吐出ヘッドは、同一色相のインクを吐出する2つの吐出ヘッドを含んでいることを特徴とする。
請求項9記載の発明は、請求項1乃至8の何れか1項記載の液滴吐出装置の一態様に係り、前記特異時間差ノズル対位置を前記主走査方向に異ならせて配置する前記少なくとも2つの吐出ヘッドは、同色系の濃インクと淡インクをそれぞれ吐出する2つの吐出ヘッドを含んでいることを特徴とする。
請求項10記載の発明は、請求項1乃至9の何れか1項記載の液滴吐出装置の一態様に係り、前記吐出ヘッドは、前記主走査方向に隣接するドット間の打滴時間差が他の隣接ドット間の打滴時間差よりも長くなるノズル間の主走査方向距離を他のノズル間の主走査方向距離よりも小さくしたノズル配置構造を有していることを特徴とする。
打滴時間間隔の長いノズル間の主走査方向距離(主走査方向のノズル間距離)を他のノズル間距離よりも小さくしたことにより、濃度が薄くなる幅が狭くなり、スジムラが一層目立ち難くなる。
請求項11記載の発明は、請求項1乃至10の何れか1項記載の液滴吐出装置の一態様に係り、少なくとも1つの吐出ヘッドについて、前記主走査方向に隣接するドット間の打滴時間差が他の隣接ドット間の打滴時間差と異なるドット同士の主走査方向のドット間距離を他の隣接ドット同士の主走査方向のドット間距離と異ならせたドット配置を実現する打滴制御が行われることを特徴とする。
請求項10で述べたように、ノズルの配列構造を工夫することで、濃度が薄くなる幅を狭くしてもよいし、請求項11記載のように、打滴を工夫することによって、実質的に請求項10の吐出ヘッドと同等のドット配置を実現してもよい。例えば、飛翔液滴を偏向させる手段を設け、着弾位置を制御する態様も可能であるし、ノズルからの吐出方向を制御する態様も可能である。
請求項12記載の発明は、請求項1乃至11の何れか1項記載の液滴吐出装置の一態様に係り、前記吐出ヘッドは、前記特異時間差ノズル対位置において前記相対移動方向に沿う副走査方向線上に複数のノズルが形成されており、これら同一副走査方向線上の複数のノズルから選択的に打滴が行われることを特徴とする。
特異時間差ノズル対位置におけるノズル対の少なくとも一方のノズル位置において、副走査方向線上に複数のノズルを形成し、これら副走査方向線上に重複して配置された複数のノズルを選択的に駆動することにより、当該ノズル位置のドットの打滴タイミングを変化させることで、先着弾に係る隣接ドットに引き寄せられるドットと、引き寄せられないドットとを適度に混在させることが可能になり、濃度の薄くなる部分が少なくなり、スジムラの視認性が低下する。
なお、これら副走査方向線上に重複して配置された複数のノズルの使い分けは、ランダムに切り換えてもよいし、規則的に(例えば、2つのノズルの場合は交互に)切り換えてもよい。
請求項13記載の発明は、液滴吐出用のノズルが2次元的に配列された吐出面を有する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッド及び被吐出媒体のうち少なくとも一方を一定の方向に搬送して前記吐出ヘッドと前記被吐出媒体を相対移動させる搬送手段と、前記搬送手段による前記相対移動とともに前記被吐出媒体に向けて前記吐出ヘッドから液滴を吐出させ、前記被吐出媒体に着弾させた液滴によって前記搬送手段の相対移動方向と略直交する主走査方向に少なくとも一部のドットが重なって並ぶドット列を形成する打滴制御を行う打滴制御手段と、を備えた液滴吐出装置であって、前記吐出ヘッドは、当該吐出ヘッド内で前記主走査方向に隣接するドット間の打滴時間差が他の隣接ドット間の打滴時間差よりも長くなるノズル間の主走査方向距離を他のノズル間の主走査方向距離よりも小さくしたノズル配置構造を有していることを特徴とする。
打滴時間間隔の長いノズル間の主走査方向のノズル間距離(ピッチ)を他のノズル間距離よりも小さくしたことにより、濃度が薄くなる幅が狭くなり、スジムラが目立ち難くなる。
請求項14記載の発明は、液滴吐出用のノズルが2次元的に配列された吐出面を有する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッド及び被吐出媒体のうち少なくとも一方を一定の方向に搬送して前記吐出ヘッドと前記被吐出媒体を相対移動させる搬送手段と、前記搬送手段による前記相対移動とともに前記被吐出媒体に向けて前記吐出ヘッドから液滴を吐出させ、前記被吐出媒体に着弾させた液滴によって前記搬送手段の相対移動方向と略直交する主走査方向に少なくとも一部のドットが重なって並ぶドット列を形成する打滴制御を行う打滴制御手段と、を備えた液滴吐出装置であって、前記吐出ヘッド内で前記主走査方向に隣接するドット間の打滴時間差が他の隣接ドット間の打滴時間差と異なるノズル間の位置を当該吐出ヘッドにおける特異時間差ノズル対位置というとき、前記吐出ヘッドは、前記特異時間差ノズル対位置において前記相対移動方向に沿う副走査方向線上に複数のノズルが形成されており、前記打滴制御手段は、同一副走査方向線上に形成された前記複数のノズルを選択的に吐出させる制御を行うことを特徴とする。
副走査方向線上に重複して配置された複数のノズルを選択的に駆動することにより、当該ノズル位置のドットの打滴タイミングを変化させることができ、先着弾に係る隣接ドットに引き寄せられるドットと、引き寄せられないドットとを適度に混在させることが可能になる。これにより、濃度の薄くなる部分が少なくなり、スジムラの視認性が低下する。
請求項15記載の発明は、前記目的を達成する画像形成装置を提供する。すなわち、請求項15に係る画像形成装置は、請求項1乃至14の何れか1項記載の液滴吐出装置を有し、前記ノズルから吐出した液滴によって前記被吐出媒体上に画像を形成することを特徴とする。
「被吐出媒体」は、吐出ヘッドから吐出された液滴が着弾する(ドットによる描画を受ける)媒体であり、記録媒体、印字媒体、被画像形成媒体、被記録媒体、受像媒体など呼ばれ得るものである。被吐出媒体には、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート
等の樹脂シート、フイルム、布、インクジェット記録装置によって配線パターン等が形成されるプリント基板、中間転写媒体、その他材質や形状を問わず、様々な媒体が含まれる。なお、本明細書において「印字」という用語は、文字を含む広い意味での画像を形成する概念を表すものとする。
本発明によれば、複数の吐出ヘッド間で特異時間差ノズル対位置が副走査方向の同一列に重ならないように吐出ヘッドを配置したので、スジムラの周期が短くなり、視認され難くなる。
本発明の他の態様によれば、吐出ヘッド内で打滴時間間隔が他よりも長いノズル間の主走査方向のノズル間距離を他のノズル間距離よりも小さくしたことにより、濃度が薄くなる幅が狭くなり、スジムラが目立ち難くなる。
本発明の更に他の態様によれば、吐出ヘッドにおける特異時間差ノズル対位置に相当する箇所にノズルを副走査方向線上に重複して配置し、これら重複して配置された複数のノズルを選択的に吐出駆動制御することにより、先着弾に係る隣接ドットに引き寄せられるドットと、引き寄せられないドットとを適度に混在させることが可能になる。これにより、濃度の薄くなる部分が少なくなり、スジムラの視認性が低下する。
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は本発明の実施形態に係る液滴吐出装置を用いたインクジェット記録装置の全体構成図である。同図に示したように、このインクジェット記録装置10は、黒(K),シアン(C),ライトシアン(LC),マゼンタ(M),ライトマゼンタ(LM),イエロー(Y)の各インクに対応して設けられた複数のインクジェットヘッド(以下、ヘッドという。)12K,12C,12LC,12M,12LM,12Yを有する印字部12と、各ヘッド12K,12C,12LC,12M,12LM,12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録媒体たる記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部(搬送手段に相当)22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
インク貯蔵/装填部14は、各ヘッド12K,12C,12LC,12M,12LM,12Yに対応する色のインクを貯蔵するインクタンクを有し、各タンクは所要の管路を介してヘッド12K,12C,12LC,12M,12LM,12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコード或いは無線タグなどの情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される記録媒体の種類(メディア種)を自動的に判別し、メディア種に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻きクセが残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻きクセ方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター(第1のカッター)28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置される。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラ31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)を成すように構成されている。
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引穴(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラ31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ34が設けられており、この吸着チャンバ34をファン35で吸引して負圧にすることによって記録紙16がベルト33上に吸着保持される。
ベルト33が巻かれているローラ31、32の少なくとも一方にモータ(図7中符号88)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1上の時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は図1の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラ線速度を変えると清掃効果が大きい。
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラ・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラ・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラが接触するので画像が滲み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹き付け、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
印字部12の各ヘッド12K,12C,12LC,12M,12LM,12Yは、当該インクジェット記録装置10が対象とする記録紙16の最大紙幅に対応する長さを有し、そのノズル面には最大サイズの記録媒体の少なくとも一辺を超える長さ(描画可能範囲の全幅)にわたりインク吐出用のノズルが複数配列されたフルライン型のヘッドとなっている。
ヘッド12K,12C,12LC,12M,12LM,12Yは、記録紙16の搬送方向(紙送り方向)に沿って上流側から黒(K)、シアン(C)、ライトシアン(LC)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(LM)、イエロー(Y)の色順に配置され、それぞれのヘッド12K,12C,12LC,12M,12LM,12Yが記録紙16の搬送方向と略直交する方向に沿って延在するように固定設置される。
吸着ベルト搬送部22により記録紙16を搬送しつつ各ヘッド12K,12C,12LC,12M,12LM,12Yからそれぞれ異色のインクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
このように、紙幅の全域をカバーするノズル列を有するフルライン型のヘッド12K,12C,12LC,12M,12LM,12Yを色別に設ける構成によれば、紙送り方向(副走査方向)について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を1回行うだけで(すなわち1回の副走査で)、記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、記録ヘッドが紙送り方向と直交する方向に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
本例では、KCMYの標準色(4色)の他にライトシアン(LC)及びライトマゼンタ(LM)を加えた6色の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されない。例えば、更に別の淡インクや濃インクを追加したり、赤、青その他の特別色のインクを追加したりする構成も可能であるし、何れかのインク色を削除する構成も可能である。使用される色数との関係でヘッド数が選択されるが、必ずしも1色につき1ヘッドを設ける必要はなく、同色インクを吐出する複数のヘッドを設けてもよいし、1ヘッドにおいて異色のインクを吐出するノズル列を有していてもよい。また、各ヘッドの配置順序も特に限定はない。
図1に示した印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサを含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
本例の印字検出部24は、少なくとも各ヘッド12K,12C,12LC,12M,12LM,12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列と、からなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が2次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
各色のヘッド12K,12C,12LC,12M,12LM,12Yにより印字されたテストパターン又は実技画像が印字検出部24により読み取られ、各ヘッドの吐出判定が行われる。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定などで構成される。
印字検出部24の後段には後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
多孔質のペーパーに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパーの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
こうして生成されたプリント物は排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える不図示の選別手段が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成される。
また、図1には示さないが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられる。
〔ヘッドの構造〕
次に、ヘッドの構造について説明する。色別の各ヘッド12K,12C,12LC,12M,12LM,12Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号50によってヘッドを示すものとする。
図2(a) はヘッド50のノズル配置例を示す平面図、図2(b) は1つの液滴吐出素子(1ノズルに対応したインク室ユニット)の拡大図である。また、図3は図2(b) 中の3−3線に沿う断面図である。
図2(a) に示したように、本例のヘッド50は、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向;主走査方向)に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度ψを有する斜めの列方向に沿ってノズル51が規則的な配列間隔でマトリクス状に多数配置された構造を有している。同図では模式的に描いているが、かかる構造により、主走査方向に並ぶように投影されるノズル列が1インチ当たり2400個(2400ノズル/インチ)におよぶ高密度のノズル構成を実現することが可能である。
図2(a) に示したヘッド50のノズル配置は、図2(b) に示したように、インク滴の吐出口であるノズル51と、各ノズル51に対応する圧力室52を含んで構成されるインク室ユニット53がマトリクス状に2次元配置されることにより実現される。なお、符号54は、圧力室52にインクを供給する供給口である。
各ノズル51に対応して設けられている圧力室52は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル51への流出口と供給インクの流入口(供給口54)が設けられている。なお、圧力室52の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
図3に示したように、各圧力室52は供給口54を介して共通流路55と連通されている。共通流路55はインク供給源たるインクタンク(図3中不図示、図4中符号60として記載)と連通しており、インクタンク60から供給されるインクは図3の共通流路55を介して各圧力室52に分配供給される。
圧力室52の一部の面(図3において天面)を構成している加圧板(共通電極と兼用される振動板)56には個別電極57を備えたアクチュエータ58が接合されている。個別電極57に駆動電圧を印加することによってアクチュエータ58が変形して圧力室52の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル51からインクが吐出される。なお、アクチュエータ58には、ピエゾ素子などの圧電体が好適に用いられる。インク吐出後、共通流路55から供給口54を通って新しいインクが圧力室52に供給される。
本発明の実施に際してノズルの配置構造は図示の例に限定されない。また、本実施形態では、ピエゾ素子(圧電素子)に代表されるアクチュエータ58の変形によってインク滴を飛ばす方式が採用されているが、本発明の実施に際して、インクを吐出させる方式は特に限定されず、ピエゾジェット方式に代えて、ヒータなどの発熱体によってインクを加熱して気泡を発生させ、その圧力でインク滴を飛ばすサーマルジェット方式など、各種方式を適用できる。
〔インク供給系の構成〕
図4はインクジェット記録装置10におけるインク供給系の構成を示した概要図である。インクタンク60はヘッド50にインクを供給する基タンクであり、図1で説明したインク貯蔵/装填部14に設置される。インクタンク60の形態には、インク残量が少なくなった場合に、不図示の補充口からインクを補充する方式と、タンクごと交換するカートリッジ方式とがある。使用用途に応じてインク種類を変える場合には、カートリッジ方式が適している。この場合、インクの種類情報をバーコード等で識別して、インク種類に応じた吐出制御を行うことが好ましい。なお、図4のインクタンク60は、先に記載した図1のインク貯蔵/装填部14と等価のものである。
図4に示したように、インクタンク60とヘッド50の中間には、異物や気泡を除去するためにフィルタ62が設けられている。フィルタ・メッシュサイズは、ノズル径と同等若しくはノズル径以下(一般的には、20μm程度)とすることが好ましい。図4には示さないが、ヘッド50の近傍又はヘッド50と一体にサブタンクを設ける構成も好ましい。サブタンクは、ヘッドの内圧変動を防止するダンパー効果及びリフィルを改善する機能を有する。
また、インクジェット記録装置10には、ノズル51の乾燥防止又はノズル近傍のインク粘度上昇を防止するための手段としてのキャップ64と、ノズル面50Aの清掃手段としてのクリーニングブレード66とが設けられている。これらキャップ64及びクリーニングブレード66を含むメンテナンスユニットは、不図示の移動機構によってヘッド50に対して相対移動可能であり、必要に応じて所定の退避位置からヘッド50下方のメンテナンス位置に移動される。
キャップ64は、図示せぬ昇降機構によってヘッド50に対して相対的に昇降変位される。電源OFF時や印刷待機時にキャップ64を所定の上昇位置まで上昇させ、ヘッド50に密着させることにより、ノズル面50Aをキャップ64で覆う。
クリーニングブレード66は、ゴムなどの弾性部材で構成されており、図示せぬブレード移動機構によりヘッド50のインク吐出面(ノズル板表面)に摺動可能である。ノズル板にインク液滴又は異物が付着した場合、クリーニングブレード66をノズル板に摺動させることでノズル板表面を拭き取り、ノズル板表面を清浄する。
印字中又は待機中において、特定のノズルの使用頻度が低くなり、ノズル近傍のインク粘度が上昇した場合、その劣化インクを排出すべくキャップ64に向かって予備吐出が行われる。
また、ヘッド50内のインク(圧力室52内)に気泡が混入した場合、ヘッド50にキャップ64を当て、吸引ポンプ67で圧力室52内のインク(気泡が混入したインク)を吸引により除去し、吸引除去したインクを回収タンク68へ送液する。この吸引動作は、初期のインクのヘッド50への装填時、或いは長時間の停止後の使用開始時にも粘度上昇(固化)した劣化インクの吸い出しが行われる。
ヘッド50は、ある時間以上吐出しない状態が続くと、ノズル近傍のインク溶媒が蒸発してノズル近傍のインクの粘度が高くなってしまい、吐出駆動用のアクチュエータ58が動作してもノズル51からインクが吐出しなくなる。したがって、この様な状態になる手前で(アクチュエータ58の動作によってインク吐出が可能な粘度の範囲内で)、インク受けに向かってアクチュエータ58を動作させ、粘度が上昇したノズル近傍のインクを吐出させる「予備吐出」が行われる。また、ノズル面50Aの清掃手段として設けられているクリーニングブレード66等のワイパーによってノズル板表面の汚れを清掃した後に、このワイパー摺擦動作によってノズル51内に異物が混入するのを防止するためにも予備吐出が行われる。なお、予備吐出は、「空吐出」、「パージ」、「唾吐き」などと呼ばれる場合もある。
また、ノズル51や圧力室52に気泡が混入したり、ノズル51内のインクの粘度上昇があるレベルを超えたりすると、上記予備吐出ではインクを吐出できなくなるため、以下に述べる吸引動作を行う。
すなわち、ノズル51や圧力室52のインク内に気泡が混入した場合、或いはノズル51内のインク粘度があるレベル以上に上昇した場合には、アクチュエータ58を動作させてもノズル51からインクを吐出できなくなる。このような場合、ヘッド50のノズル面50Aに、圧力室52内のインクをポンプ等で吸い込む吸引手段を当接させて、気泡が混入したインク又は増粘インクを吸引する動作が行われる。
ただし、上記の吸引動作は、圧力室52内のインク全体に対して行われるためインク消費量が大きい。したがって、粘度上昇が少ない場合はなるべく予備吐出を行うことが好ましい。
〔制御系の説明〕
図5はインクジェット記録装置10のシステム構成を示す要部ブロック図である。インクジェット記録装置10は、通信インターフェース70、システムコントローラ72、画像メモリ74、ROM75、モータドライバ76、ヒータドライバ78、プリント制御部80、画像バッファメモリ82、ヘッドドライバ84等を備えている。
通信インターフェース70は、ホストコンピュータ86から送られてくる画像データを受信するインターフェース部である。通信インターフェース70にはUSB、IEEE1394、イーサネット、無線ネットワークなどのシリアルインターフェースやセントロニクスなどのパラレルインターフェースを適用することができる。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。ホストコンピュータ86から送出された画像データは通信インターフェース70を介してインクジェット記録装置10に取り込まれ、一旦画像メモリ74に記憶される。画像メモリ74は、通信インターフェース70を介して入力された画像を一旦格納する記憶手段であり、システムコントローラ72を通じてデータの読み書きが行われる。画像メモリ74は、半導体素子からなるメモリに限らず、ハードディスクなど磁気媒体を用いてもよい。
システムコントローラ72は、中央演算処理装置(CPU)及びその周辺回路等から構成され、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置10の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。すなわち、システムコントローラ72は、通信インターフェース70、画像メモリ74、モータドライバ76、ヒータドライバ78等の各部を制御し、ホストコンピュータ86との間の通信制御、画像メモリ74の読み書き制御等を行うとともに、搬送系のモータ88やヒータ89を制御する制御信号を生成する。
ROM75には、システムコントローラ72のCPUが実行するプログラム及び制御に必要な各種データなどが格納されている。なお、ROM75は、書換不能な記憶手段であってもよいし、EEPROMのような書換可能な記憶手段であってもよい。画像メモリ74は、画像データの一時記憶領域として利用されるとともに、プログラムの展開領域及びCPUの演算作業領域としても利用される。
モータドライバ76は、システムコントローラ72からの指示に従ってモータ88を駆動するドライバ(駆動回路)である。ヒータドライバ78は、システムコントローラ72からの指示にしたがって後乾燥部42等のヒータ89を駆動するドライバである。
プリント制御部80は、システムコントローラ72の制御に従い、画像メモリ74内の画像データから印字制御用の信号を生成するための各種加工、補正などの処理を行う信号処理機能を有し、生成した印字データ(ドットデータ)をヘッドドライバ84に供給する制御部である。すなわち、プリント制御部80は、システムコントローラ72とともに「打滴制御手段」として機能する。
プリント制御部80において所要の信号処理が施され、該画像データに基づいてヘッドドライバ84を介してヘッド50のインク液滴の吐出量や吐出タイミングの制御が行われる。これにより、所望のドットサイズやドット配置が実現される。
プリント制御部80には画像バッファメモリ82が備えられており、プリント制御部80における画像データ処理時に画像データやパラメータなどのデータが画像バッファメモリ82に一時的に格納される。なお、図5において画像バッファメモリ82はプリント制御部80に付随する態様で示されているが、画像メモリ74と兼用することも可能である。また、プリント制御部80とシステムコントローラ72とを統合して1つのプロセッサで構成する態様も可能である。
ヘッドドライバ84はプリント制御部80から与えられる印字データに基づいて各色のヘッド50のアクチュエータ58を駆動する。ヘッドドライバ84にはヘッドの駆動条件を一定に保つためのフィードバック制御系を含んでいてもよい。
印刷すべき画像のデータは、通信インターフェース70を介して外部から入力され、画像メモリ74に蓄えられる。この段階では、RGBの画像データが画像メモリ74に記憶される。
画像メモリ74に蓄えられた画像データは、システムコントローラ72を介してプリント制御部80に送られ、該プリント制御部80においてインク色ごとのドットデータに変換される。すなわち、プリント制御部80は、入力されたRGB画像データをK,C,LC,M,LM,Yの6色のドットデータに変換する処理を行う。プリント制御部80で生成されたドットデータは、画像バッファメモリ82に蓄えられる。
ヘッドドライバ84は、画像バッファメモリ82に記憶されたドットデータに基づき、ヘッド50の駆動制御信号を生成する。ヘッドドライバ84で生成された駆動制御信号がヘッド50に加えられることによって、ヘッド50からインクが吐出される。記録紙16の搬送速度に同期してヘッド50からのインク吐出を制御することにより、記録紙16上に画像が形成される。
印字検出部24は、図1で説明したように、ラインセンサを含むブロックであり、記録紙16に印字された画像を読み取り、所要の信号処理などを行って印字状況(吐出の有無、打滴のばらつきなど)を検出し、その検出結果をプリント制御部80に提供する。
プリント制御部80は、必要に応じて印字検出部24から得られる情報に基づいてヘッド50に対する各種補正を行う。また、システムコントローラ72は、吐出検出部24から得られる情報に基づいて、予備吐出や吸引その他の所定の回復動作を実施する制御を行う。
〔印字部における色別ヘッドの配置構造〕
本例のインクジェット記録装置10は、図11乃至13で説明したスジムラの視認性を低減すべく、複数のヘッド間で「特異時間差ノズル対位置」に相当するノズルブロックの境界部(ノズル列の折り返し部)が紙送り方向の同一列に並ばないように、ノズルブロックの境界部の空間的な繰り返し周期の位相をずらしてヘッドが配置される。なお、ヘッド間の距離(紙送り方向距離)は、ドット間距離に比べて十分長いので、ヘッド間での打滴干渉については影響は小さい。
(第1のヘッド配置例)図6は、2つのヘッドの配置関係の例を示した平面模式図である。図6の下から上に向かって記録媒体(図中不図示)が搬送されるものとする。同図では、マゼンタヘッド12Mとライトマゼンタヘッド12LMとの間の配置関係が示されている。
図6において、マゼンタヘッド12Mにおける列方向のノズルブロックNB-M(ノズルM-ij ; i は整数、 j=1,2…6 )の境界部、すなわち、ノズルM-16 とM-21 のノズル間において、打滴時間差が他のノズル間(例えば、ノズルM-11 とM-12 など) よりも長くなる。このような位置関係にあるノズル対(M-16 ,M-21 )が存在する位置が「特異時間差ノズル対位置」に相当する。
図示の通り、マゼンタヘッド12Mにおける列方向のノズルブロックNB-M(ノズルM-ij ; i は整数、 j=1,2…6 )の繰り返し周期(PNB)の位相と、ライトマゼンタヘッド12LMにおける列方向のノズルブロックNB-LM (ノズルLM-ij ; i は整数、 j=1,2…6 )の繰り返し周期の位相とは互いに1/2周期ずれた関係で配置されている。
かかる配置関係により、各ヘッド12M,12LM単独による打滴では、ノズルブロックNB-M,NB-LM の周期に対応する繰り返し周期(PNB)でスジムラが発生するが、これら2つのヘッド12M,12LMの組み合わせによる打滴結果として見ると、スジムラの周期はノズルブロックの繰り返し周期(PNB)の1/2になる。このようにして、スジムラの周波数を高めることにより、スジムラは視認され難くなる。また、繰り返し周期の位相がずれているためスジムラの振幅も小さくなるので、さらにスジムラは視認され難くなっている。
人間の目の視覚特性(VTF)は、周知のように、比較的低い空間周波数領域は応答が高く、高周波数領域で応答が低下する。したがって、人間の目の視覚特性で弁別困難な程度にスジムラの空間周波数を高周波化すれば、スジムラは殆ど視認されない。
なお、ノズルブロックNB-M,NB-LM は、本例のように偶数個(特に4個以上)のノズルブロックで構成されることが好ましい。これにより、位相を1/2ずらしたヘッド12M,12LM間で副走査方向の同一線上に異色ノズルを配置することが可能となり、副走査方向の同一列にドットを打滴することが可能になる(記録媒体上の同一位置に異色ドットを重ねることができる)。
すなわち、図6に示すように、LMヘッド(12LM)とMヘッド(12M)をそれぞれ1ノズル・ブロック当たりのノズル数を6個(偶数個)として、LMヘッドとMヘッドの位相を1/2ピッチ(ノズルピッチ3個分に相当)とすることによって、副走査方向の同一線上にLMノズルとMノズルを配置することが可能となり、高画質を得やすい打滴配置を実現することができる。
図6では、マゼンタヘッド12Mとライトマゼンタヘッド12LMについて述べたが、色の組み合わせについては、特に限定されず、色や配置順を問わない複数のヘッドについて、同様の配置関係を構成し得る。ただし、同一色の濃淡インクを吐出する複数のヘッド間、或いは同一色相のインクを吐出する複数のヘッド間、類似色相(近い色相)の異色インクを吐出する複数のヘッド間について図6のような配置関係を設定する態様が好ましい。濃淡インクなどの同一色相や類似色相のヘッド間でこの位相をずらした配置関係を構成することにより、2次色やグレーだけでなくインク色材色の色相でもスジムラの視認性を下げることができる。
(第2のヘッド配置例)図7は、本発明の他の実施形態を示す平面模式図である。図7の下から上に向かって記録媒体(同図中不図示)が搬送されるものとする。同図では、3つのヘッド12K,12C,12M間でそれぞれノズルブロックの繰り返し周期(PNB)の位相を1/3ずらし、スジムラの繰り返し周波数を3倍に上げて視認性を低減している。
この構成は、図1で説明したライトシアンヘッド12LC及びライトマゼンタ12LMが省略された印字部構成に適用できる。なお、イエローのインクは、明度差が出にくいため、KCMYの4色構成の場合、イエロー以外の3色(K、C、M)のヘッドについて位相を1/3ずらすことが好ましい。この場合も、斜めの列方向に並ぶノズルブロックは偶数個のノズルで構成することにより、位相を1/3ずらしたヘッド間で副走査方向の同一列上にドットを打滴することが可能になる(記録媒体上の同一位置に異色ドットを重ねることができる)。このヘッドの配置関係により、2次色やグレーで特にスジムラの視認性を下げることができる。
〔ヘッドの構造による工夫〕
次に、本発明の他の実施形態について説明する。上述した図6乃至図7では、複数ヘッド間の配置関係を工夫することでスジムラの周波数を高め、視認性を抑制するものであった。かかる手法に代えて、又はこれと組み合わせて、以下に述べるように、ヘッド自体の構造や打滴を工夫することにより、スジムラの視認性を抑制又は一層抑制することができる。
図8は、本発明の他の実施形態を示すヘッドの平面模式図である。図8の下から上に向かって記録媒体(同図中不図示)が搬送されるものとする。
図8に示したヘッド50’は、ノズルブロックNB(ノズル51-ij ; i は整数、 j=1,2…6 )の境界部分のノズル間ピッチPN1(主走査方向の隣接ドットを打滴する実質的な隣接ノズルの間隔)を他のノズル間ピッチPN2よりも狭くするように構成される。
つまり、主走査方向に並ぶ隣接ドット間の打滴時間間隔が他よりも長くなるノズル間の主走査方向の距離(主走査方向のノズル間ピッチ)を他のノズル間のピッチよりも短くする。
このようなノズル配列を有するヘッド50’において、ノズルブロックNBの一端のノズル(ノズル51-i1 ; i は整数) から他端のノズル(ノズル51-i6 ; iは整数) に向かって順次吐出駆動(主走査)を行うと、図9に示すような、ドット配置が実現される。
図9(a)は、打滴直後のドット配置(制御上の打滴目標位置)を示し、図9(b)はドット凝集の結果を模式的に示したものである。
図8で説明したノズル51-ij (ただし、 iは整数、 j=2〜6 )によって打滴されたドットDj (ただし、j =2〜6 )は、それぞれ左隣の着弾ドットDj-1 (ただし、j =2〜6 )に引き寄せられて凝集するが、ノズル51-i1 (ただし、 iは整数) はノズルブロックNB内で最初に駆動されるため、当該ノズル51-i1 (ただし、 iは整数) によって打滴されたドットD1 は、左隣のドットD6 よりも先に着弾しており、定着が進んでいる。
すなわち、ドットD1 とその左隣のドットD6 との間の打滴時間差は他のドット間の打滴時間差よりも長く、ドットD1 は左に引き寄せられない。本例では、このように打滴時間間隔の長い2ノズル間のピッチPN1が他のノズル間ピッチPN2よりも狭くなっているため、ノズル間ピッチを全てPN2の等間隔に設定した場合と比較して、濃度ムラの発生する幅wd が狭くなり、スジムラが目立ち難くなる。記録媒体の種類とインクの特性及び打滴時間差等を考慮して適切なノズル間ピッチPN1を設定することにより、スジムラの発生を抑制することも可能である。
なお、図9(a)に示したドット配置を実現する方法は、図8のようなノズル配置のヘッド50’を用いる態様に限定されない。例えば、飛翔液滴を偏向させる手段や液滴の吐出方向を制御する手段を設けるなどして、記録媒体上での液滴の着弾位置を結果的に図9(a)のような配置にすることも可能である。
図10(a)は、本発明の更に他の実施形態を示すヘッドの平面模式図である。図10(a)の下から上に向かって記録媒体(同図中不図示)が搬送されるものとする。
同図に示したヘッド50”は、最も早い時刻に打滴するノズル51-i1 (ただし、 iは整数) の副走査方向線上に最も遅い時刻に打滴するノズル51-k7 (ただし、k = i−1 )が配置されている。このように、同一副走査方向線上に重複配置されたノズル51-i1 ,51-k7 を選択的に使い分けるように吐出制御が行われる。
例えば、これら2つのノズル51-i1 ,51-k7 の吐出をランダムに切り換える態様、或いは、交互に使用する態様などがある。
ノズル51-k7 によって打滴された液滴は左隣のノズル51-k6 によって打滴された液滴に引き寄せられて左側に寄り、ノズル51-i1 によって打滴された液滴は左側に寄らない。図10(b)にノズル51-i1 と51-k7 が交互に選択された場合の打滴結果を模式的に示した。同図では、 i=2 , k=1 として、打滴円内の数字は「51- 」を省略してある。図中の矢印で示した部分は、ノズル51-17 と51-21 が交互に選択されるため、スジムラが視認され難くなっている。このように、同一副走査線上で左側に寄るドットと、左側に寄らないドットとが適度に混ざるため、濃度の薄くなる部分が少なくなり、スジムラの視認性が低下する。
なお、図10(a)に示したノズル51-17 を使用する場合の「特異時間差ノズル対位置」は、「51-17 」と「51-22 」のノズル間となり、ノズル51-21 を使用する場合の「特異時間差ノズル対位置」は、「51-16 」と「51-21 」のノズル間となる。このように、使用するノズルの選択によって「特異時間差ノズル対位置」が変化するヘッド50”を用いて、図6及び図7で説明した如く、複数ヘッド間で特異時間差ノズル対位置の位相をずらして配置する場合、ヘッド内における「特異時間差ノズル対位置」の変動量よりもヘッド間の位相シフト量を大きくする構成がより効果的である。
上述の説明では、画像形成装置の一例としてインクジェット記録装置を例示したが、本発明の適用範囲はこれに限定されない。例えば、印画紙に非接触で現像液を塗布する写真画像形成装置等についても本発明の液滴吐出装置を適用できる。また、本発明に係る液滴吐出装置の適用範囲は画像形成装置に限定されず、吐出ヘッドを用いて処理液その他各種の液体を被吐出媒体に向けて噴射する各種の装置(塗装装置、塗布装置など)について本発明を適用することができる。
10…インクジェット記録装置、12…印字部、12K,12C,12LC,12M,12LM,12Y…ヘッド、14…インク貯蔵/装填部、16…記録紙、18…給紙部、22…吸着ベルト搬送部、50,50’,50”…ヘッド、50A…ノズル面、51…ノズル、52…圧力室、72…システムコントローラ、75…ROM、80…プリント制御部