JP3802278B2 - 電子写真感光体の製造方法及び電子写真感光体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、帯電安定性の優れた電子写真感光体の製造方法及び電子写真感光体に関し、特に電荷輸送層塗工液の経時劣化を防止した電子写真感光体の製造方法及び経時劣化を防止した電荷輸送層を有する電子写真感光体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、電荷発生層と電荷輸送層とに機能分離させた電子写真感光体として、特公昭55−42380号公報記載のクロルダイアンブルーとヒドラゾン化合物を組み合わせた感光体を始め、種々の電荷発生物質と電荷輸送物質とを用いた機能分離型感光体が知られている。しかしながら、これらの機能分離型感光体は、特に耐久性において満足できるものはなく、近年、益々耐久性に対する要求が高まる中で帯電安定性を確保することは第一に優先すべき事柄となっている。すなわち、帯電性が低下した場合、アナログ系の複写機では画像濃度の低下を引き起こし、デジタル系(反転現像方式)の複写機やレーザープリンターでは地肌汚れを発生するなどの問題を起こしている。
【0003】
これらの問題を解決するために、これまで、多くの検討がなされているが、初期性能には注意が向けられてきたものの製造工程における原料の経時変化は見過ごされてきた。特に感光層塗工液の経時劣化による感光体の品質変動、更に言えば電荷輸送層塗工液の経時あるいは周囲環境の影響による劣化が感光体の帯電性低下を招くことは案外知られていない問題であった。そのため、電荷輸送層塗工液が劣化したことを感知し得ずに塗工された製品が出荷前の検査により初めて不良品であることが確認され、製品のみでなく使用された電荷輸送層塗工液まで廃棄しなければならなかった。
【0004】
一方、感光体としても、特に電気性能などによる品質評価によりその性能が表わされることが多く、電荷輸送層自身の特性は省みられることはなかった。そのため感光体の品質変動の問題点が不明確になってしまうことがあった。すなわち、出荷前の検査においても不良品であることが確認されないまま出荷され、市場において、感光体としての所定の寿命を全うせず、画像濃度不良や地肌汚れなどの画像品質不良を発生させた。
【0005】
上述した電子写真感光体の製造上の問題に関連する特許文献として、特開平6−110218号公報では電子写真感光体を長時間連続して製造するために、調液室、塗布室または乾燥装置内のオキシダント濃度を抑制することが提案されている。また特開平10−133405号公報には、電荷輸送性樹脂の有機溶剤溶解液の水抽出液のpHを測定し、該pHが一定の範囲にある電荷輸送性樹脂を使用することにより、優れた電気特性を有する電荷輸送性樹脂が得られることが記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、電荷輸送層塗工液の経時または環境による劣化を調べると共に該塗工液の寿命の延長を図り、劣化が発生してない電荷輸送層塗工液により帯電安定性の優れた電子写真感光体を製造する方法を得ること、また、電子写真感光体として形成された直後の電荷輸送層の劣化状態を調べ、劣化が発生していない電荷輸送層を有する帯電安定性の優れた電子写真感光体を確保することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、電子写真感光体の、特に電荷輸送層塗工液の経時における品質劣化が、使用された塗工液の溶媒の酸化によるものであることを見出した。
従来、積層型電子写真感光体の電荷輸送層の塗工液は、その生産効率の高さから、低沸点溶媒であるハロゲン化炭化水素系溶媒が用いられてきた。具体的には、ジクロロメタン、ジクロロエタン、モノクロルベンゼンなどである。しかしながら、これらハロゲン化炭化水素系溶媒は、その構造より、不安定であり、経時と共に外的要因からハロゲン(塩素)イオンが遊離し、電荷輸送層の塗工液を酸化させてしまい、電子写真感光体の帯電安定性を低下させること、また、前記外的要因が、電荷輸送層塗工液の保管容器の金属内壁の酸化であり、更には保管容器周囲の空気中に存在するオゾンの影響であることが分かった。
【0008】
そこで、本発明者らは電荷輸送層塗工液の劣化の程度を塗工前に知り、その情報に基づいて電子写真感光体を製造する方法について検討を重ねたところ、電荷輸送層塗工液を蒸留水にて抽出した抽出液のpHにより電荷輸送層塗工液の劣化の状態を知ることができ、該抽出液のpHを一定の範囲に規制して製造することにより帯電安定性の優れた電子写真感光体を製造できることを知り本発明に至った。すなわち、本発明によれば、第一に、電荷輸送層の塗工液を塗布することにより、電荷輸送層を形成する工程を有する電子写真感光体の製造方法において、該電荷輸送層の塗工液は、1ヶ月以上保管されており、該電荷輸送層の塗工液が、7±0.5の範囲のpHを有する蒸留水にて抽出したとき、該抽出液のpHが5〜8の範囲にあり、該電荷輸送層の塗工液の保管容器及び塗工槽の内壁をアルカリ洗浄することを特徴とする電子写真感光体の製造方法が提供される。上記抽出液のpHが5〜8の範囲にある塗工液により電荷輸送層を形成することにより、酸化劣化が起きていない電荷輸送層が得られるため、この電荷輸送層を有する電子写真感光体は長期にわたって使用しても暗時における電位が確保され、画像濃度低下や地肌汚れのない画像を提供し続けることができる。さらに、電荷輸送層の塗工液の保管容器及び塗工槽の内壁をアルカリ洗浄することにより、電荷輸送層の塗工液の酸化劣化速度が遅くなり、電荷輸送層の塗工液の使用期間をより長くすることができる。
【0009】
第二に、上記第一に記載した電子写真感光体の製造方法において、上記電荷輸送層の塗工液に使用する有機溶媒がハロゲン化炭化水素であることを特徴とする電子写真感光体の製造方法が提供される。
ハロゲン化炭化水素系有機溶媒は水に不溶であるため、上記pHの測定を正確に行うことができ、電荷輸送層塗工液の酸化劣化状態を高精度に評価することができる。
【0011】
第三に、上記第一又は第二に記載した電子写真感光体の製造方法において、上記アルカリ洗浄に使用する洗浄剤がキレート剤と無機塩からなることを特徴とする電子写真感光体の製造方法が提供される。上記保管容器及び塗工槽の内壁のアルカリ洗浄に使用する洗浄剤にキレート剤と無機塩からなる洗浄剤を用いることにより、他の洗浄剤に比べて電荷輸送層塗工液の酸化劣化速度を遅くすることができ、電荷輸送層塗工液の使用期間をより長くすることができる。
【0012】
第四に、上記第一、第二又は第三に記載した電子写真感光体の製造方法において、上記保管容器の設置された周囲にオゾンフィルターにて調整されたオゾン濃度30ppb以下の空気を供給することを特徴とする電子写真感光体の製造方法が提供される。電荷輸送層塗工液の保管容器の設置された場所にオゾンフィルターによりオゾン濃度30ppb以下とした空気を送気することにより、電荷輸送層塗工液の酸化劣化速度を遅くすることができ、電荷輸送層塗工液の使用期間をより長くすることができる。
【0013】
第五に、上記第一、第二、第三又は第四に記載した電子写真感光体の製造方法により製造されることを特徴とする電子写真感光体が提供される。上記第一から第四に記載したいずれかの製造方法により製造した電子写真感光体によれば、電荷輸送層が酸化劣化していないため、長期にわたって画像濃度低下や地肌汚れのない画像を得ることができる。
【0014】
第六に、導電性基体上に、少なくとも電荷発生層及び電荷輸送層を順次塗設した電子写真感光体において、該感光体を形成した直後の電荷輸送層を剥離し、該剥離した電荷輸送層を有機溶媒に溶解し、該溶解液を7±0.5の範囲のpHを有する蒸留水にて抽出したとき、該抽出液のpHが5〜8の範囲にあることを特徴とする電子写真感光体が提供される。上述のように電荷輸送層塗工液の酸化劣化状態でなく、感光体に形成された後の電荷輸送層の酸化劣化状態を調べてもよく、形成した直後の電子写真感光体から電荷輸送層を剥離し、該電荷輸送層を有機溶媒に溶解し、該溶解液を上記と同様、蒸留水により抽出し、抽出液のpHにより劣化の有無を把握し、電荷輸送層の酸化劣化が発生していない電子写真感光体を確保することができる。
【0015】
第七に、上記第六に記載した電子写真感光体において、上記電荷輸送層を形成する際に用いた電荷輸送層の塗工液は、1ヶ月以上保管されていることを特徴とする電子写真感光体が提供される。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明によって製造される電子写真感光体は、導電性基体上に下引き層、電荷発生層、電荷輸送層を順次積層してなるもので、導電性基体としては、アルミニウム、ニッケルなどの金属ドラムまたは金属蒸着フィルムなどが用いられる。次に下引き層としては、顔料は一般に用いられる粉体で良いが、近赤外光に吸収がほとんどない白色またはこれに近い粉体が良く、例えば酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、アルミナ、シリカなどが挙げられる。また、樹脂としては有機溶剤に対して耐溶剤性の高い樹脂が好ましく、PVA、ポリアクリル酸ナトリウムなどの水溶性樹脂、共重合ナイロン、メトキシメチル化ナイロンなどのアルコール可溶性樹脂、ポリウレタン、メラミン、エポキシ樹脂などの三次元網目構造を形成する熱硬化性樹脂などが挙げられる。膜厚としては0.1〜50μm程度がよく、特に好ましくは0.3〜20μmである。
【0017】
次に電荷発生層であるが、電荷発生材料としては、光を吸収して電荷担体を発生するものであれば、無機、有機いずれも用いることができるが、有機顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、アズレニウム顔料、アゾ顔料などが挙げられる。樹脂は用いても用いなくてもよいが、用いる場合の樹脂としてはポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアクリルアミド樹脂などが挙げられる。
【0018】
次に電荷輸送層であるが、電荷輸送物質としては、ピレン系、ヒドラゾン系、フェニルアミン系、フェニルメタン系、ピラゾリン系、スチリル系、スチルベン系化合物などが挙げられる。また樹脂としてはポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルブチラール、アクリルなどの樹脂が挙げられる。さらに必要に応じて可塑剤、レベリング剤、酸化防止剤などが添加されてもよい。
【0019】
次に電荷輸送層塗工液の調製方法については後記実施例において具体的に示すことにし、まず、電荷輸送層塗工液の水抽出pHの測定方法について説明する。
電荷輸送層塗工液87重量部と7±0.5の範囲のpHに管理された蒸留水3部を十分に混合攪拌し、静置した後、分離した水のpHを測定する。測定器としては滴下型pHメーターを用いた。
次に電子写真感光体から剥離させた電荷輸送層の水抽出pHの測定方法について述べると、感光体に形成された電荷輸送層を乾燥した状態にて剥離し、ハロゲン化炭化水素系有機溶媒であるジクロロメタンに溶解する。このとき、固形分濃度が15重量%になるように電荷輸送層の膜とジクロロメタンの重量を調整する。更に調整された溶解液87重量部に7±0.5の範囲のpHに管理された蒸留水3重量部を十分混合攪拌し、静置した後、分離した水のpHを測定する。
【0020】
図1は電荷輸送層塗工液を蒸留水で抽出したときのpHと帯電安定性を表わす疲労後暗時帯電保持性(暗減衰率:Vo/Vm)との関係を示す。暗時帯電保持性は露光・帯電を30分間交互に繰り返した後、暗時に20秒間一定電圧を印加したときの表面電位をVmとし、その後、印加電圧をゼロの状態で20秒間放置したときの表面電位をVoとし、その比率により帯電安定性を評価する。一般にはVo/Vmが0.8以上であれば画像形成に問題ないとされる。図から抽出液pHが5〜8であればVo/Vm=0.8以上が保持されることが明らかである。
【0021】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、これらの実施例により本発明は何ら限定されるものではない。なお、実施例中で使用する部及び%は特に断らない限り、いずれも重量基準である。
〔実施例1〕
ジクロロメタン(関東化学社製)108部に、ポリカーボネート樹脂(帝人化成社製)10部、シリコーンオイル(信越化学工業社製KF−50)0.002部を溶解し、これに下記構造式(1)で示される電荷輸送物質8部を加え、電荷輸送物質に対して1部のトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトを溶解して電荷輸送層塗工液を作製した。
【0022】
【化1】
塗工液作製直後の電荷輸送層塗工液87部に7±0.5の範囲のpHの蒸留水3部を加え、十分混合攪拌し、静置後、分離した水のpHを測定した。pHメーターは新電元社製PH BOYを用いた。
【0023】
次にアルコール可溶性ナイロン(帝国化学産業社製)7部をエタノール150部に溶解し、これに酸化チタン(石原産業社製)15部を加え、ボールミルで12時間分散し、下引き層塗工液を作製した。これを75μm厚のアルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム上と、φ30mm、長さ340mmのアルミドラム上にそれぞれ塗工し、乾燥して膜厚2.5μmの下引き層を形成した。
【0024】
次に、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製エスレックBL−3)4部をシクロヘキサノン150部に溶解し、下記構造式(2)で示されるトリスアゾ顔料を10部加え、ボールミルで48時間分散後、更にシクロヘキサノン210部を加えて3時間分散を行った。これを容器に取り出し、固形分が1.5%になるように、シクロヘキサノンで希釈した。こうして得られた電荷発生層塗工液を前記下引き層上に塗工し、乾燥して、膜厚0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0025】
【化2】
【0026】
次に、前記電荷輸送層塗工液を電荷発生層上に塗工し、乾燥して、膜厚28μmの電荷輸送層を形成し電子写真感光体とした。
また、同様にして作製した直後の電子写真感光体から電荷輸送層を剥離し、4.4部の電荷輸送層塗膜を得た。この電荷輸送層塗膜を24.6部のジクロロメタンに溶解し、該電荷輸送層溶解液29部に7±0.5の範囲のpHの蒸留水1部を加え、十分、混合攪拌し、静置後、分離した水のpHを上記pHメーターで測定した。
該電荷輸送層塗膜の剥離は、図2のように感光体表面にカッターなどでスジを入れる。その後、7±0.5の範囲のpHの蒸留水に前記感光体を浸漬し、数時間放置後、電荷輸送層塗膜の剥離が容易になったところで剥離を行う。
【0027】
〔実施例2〕
実施例1で作製した電荷輸送層塗工液を、下記構造式(3)で示されるアルカリ洗浄剤(ユーアイ化成社製ホワイト7−AL)で洗浄した金属容器(内壁がステンレス製のタンク)に保管し、1ヶ月経時した電荷輸送層塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして、電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0028】
【化3】
〔実施例3〕
実施例2で用いた電荷輸送層塗工液の保管経時日数が2ヶ月であること以外、実施例2と同様にして、電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0029】
〔実施例4〕
実施例2で用いた電荷輸送層塗工液の保管経時日数が3ヶ月であること以外、実施例2と同様にして、電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0030】
〔実施例5〕
実施例2で用いた電荷輸送層塗工液の保管経時日数が4ヶ月であること以外、実施例2と同様にして、電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0031】
〔実施例6〕
実施例1で作製した電荷輸送層塗工液をオゾンフィルター(東洋紡社製KFB−0−1)でオゾン濃度20ppb(ダイレック社製オゾン濃度計DY−1500)に調整された空気下で1ヶ月間保管した以外は、実施例1と同様にして電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0032】
〔実施例7〕
実施例6で用いた電荷輸送層塗工液の保管日数が2ヶ月であること以外は実施例6と同様にして電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0033】
〔実施例8〕
実施例6で用いた電荷輸送層塗工液の保管日数が3ヶ月であること以外は実施例6と同様にして電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0034】
〔実施例9〕
実施例6で用いた電荷輸送層塗工液の保管日数が4ヶ月であること以外は実施例6と同様にして電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0035】
〔実施例10〕
実施例1で作製した電荷輸送層塗工液を前記構造式(3)で表わされるアルカリ洗浄剤(ユーアイ化成社製ホワイト7−AL)で洗浄した金属容器で、かつオゾン濃度20ppb(ダイレック社製オゾン濃度計DY−1500)に調整された空気下で1ヶ月間保管した以外は、実施例1と同様にして電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0036】
〔実施例11〕
実施例10で用いた電荷輸送層塗工液の保管日数を2ヶ月間とした以外は実施例10と同様にして電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0037】
〔実施例12〕
実施例10で用いた電荷輸送層塗工液の保管日数を3ヶ月間とした以外は実施例10と同様にして電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0038】
〔実施例13〕
実施例10で用いた電荷輸送層塗工液の保管日数を4ヶ月間とした以外は実施例10と同様にして電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0039】
〔比較例1〕
実施例1で作製した電荷輸送層塗工液を金属容器に保管し(保管環境のオゾン濃度:150ppb)、1ヶ月間経過させた以外、実施例1と同様にして電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0040】
〔比較例2〕
実施例1で作製した電荷輸送層塗工液を金属容器に保管し(保管環境のオゾン濃度:150ppb)、2ヶ月間経過させた以外、実施例1と同様にして電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0041】
〔比較例3〕
実施例1で作製した電荷輸送層塗工液を金属容器に保管し(保管環境のオゾン濃度:150ppb)、3ヶ月間経過させた以外、実施例1と同様にして電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0042】
〔比較例4〕
実施例1で作製した電荷輸送層塗工液を金属容器に保管し(保管環境のオゾン濃度:150ppb)、4ヶ月間経過させた以外、実施例1と同様にして電荷輸送層塗工液のpH測定→電荷輸送層塗工液の塗工(電子写真感光体の作製)→電荷輸送層の剥離→電荷輸送層のpH測定の作業を繰り返した。
【0043】
上記実施例1〜13及び比較例1〜3により作製した、アルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルムを支持体とする電子写真感光体について、次の測定方法により帯電安定性の評価を行った。また、同時に作製したアルミドラムを支持体とする電子写真感光体について、次の測定方法により画像特性の評価を行った。
帯電安定性(V o /V m )
22℃、55%RHの環境下で、静電気特性測定装置(川口電気製作所製EPA−8100)を用い、ダイナミック方式で電子写真感光体の電気特性を測定した。まず、色温度2856Kのタングステン光51Luxの光照射、−6KVでの帯電の繰り返し疲労を30分間行った後、印加電圧−6KVで20秒間帯電させ、20秒間暗減衰、更に表面照度10μW/cm2の波長780nmによる単色光光源により30秒間露光を行った。
画像特性(地肌汚れ)
電子写真感光体を普通紙複写機(リコー製imagio MF250)に装填し、複写枚数毎に地肌汚れの評価を行った。評価は複写画像をルーペで観察し、1cm2当たりの0.05mm以上の黒斑点の個数で判定した。黒斑点の個数がゼロであれば○、1〜5個であれば△、6個以上であれば×とした。
【0044】
上記帯電安定性の結果並びに各実施例及び比較例において測定した電荷輸送層塗工液及び電荷輸送層溶解液の水抽出液pHを表1に、また画像特性の結果を表2に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
表1及び表2から、電荷輸送層塗工液作製直後(実施例1)では、塗工液のpHは7.5であり、電子写真感光体の暗減衰率及び画像特性はいずれも問題ないレベルであること、また剥離後溶解液のpHは7.6で塗工液pHとほとんど変わっていないこと、さらに経時1ヶ月(比較例1)でも、塗工液のpHは低下(pH5.1)してきているものの、暗減衰率及び画像特性は問題ないレベルであること、しかし、経時2ヶ月(比較例2)では塗工液のpHは5.0より低くなり、暗減衰率は限度まで低下し、画像特性はこの感光体の本来の実力値である10万枚を下回り6万枚前後となっていること、 比較例3及び4では塗工液のpHは更に低くなり、暗減衰率及び画像特性の劣化は著しいことが分かる。
【0048】
また電荷輸送層塗工液をアルカリ洗浄した金属容器に保管した、実施例2〜5では、経時に伴いpHは低下するものの(pH6.7→pH5.2)、塗工液作成後、経時4ヶ月でも暗減衰率及び画像特性共に問題ないことが分かる。
【0049】
また電荷輸送層塗工液を金属容器に入れてオゾン濃度30ppb以下の環境下で保管した、実施例6〜9も、経時に伴いpHは低下するものの(pH6.7→pH5.5)、経時4ヶ月でも暗減衰率及び画像特性共に問題ないことが分かる。
【0050】
さらに電荷輸送層塗工液をアルカリ洗浄した金属容器で、かつオゾン濃度30ppb以下の環境下で保管した、実施例10〜13は、経時に伴うpHの低下は小さく(pH7.4→pH6.5)、経時4ヶ月では暗減衰率及び画像特性はほとんど低下しないことが分かる。
【0051】
【発明の効果】
以上のように、請求項1の発明によれば、電荷輸送層の塗工液は、1ヶ月以上保管されており、電荷輸送層の塗工液を蒸留水(7±0.5の範囲のpH)にて抽出したとき、該抽出液のpHが5〜8の範囲にある塗工液により電荷輸送層を形成することにより、酸化劣化が起きていない電荷輸送層が得られるため、この電荷輸送層を有する電子写真感光体は長期にわたって使用しても暗時における電位が確保され、画像濃度低下や地肌汚れのない画像を提供し続けることができる。さらに、上記電荷輸送層の塗工液の保管容器及び塗工槽の内壁をアルカリ洗浄することにより、電荷輸送層塗工液の酸化劣化速度を遅くすることができ、電荷輸送層塗工液の使用期間をより長くすることができる。
【0052】
請求項2の発明によれば、上記電荷輸送層の塗工液に使用する有機溶媒がハロゲン化炭化水素であることにより、該有機溶媒は水に不溶であるため、上記pHの測定を正確に行うことができ、電荷輸送層塗工液の酸化劣化状態を高精度に評価することができる。
【0054】
請求項3の発明によれば、上記アルカリ洗浄に使用する洗浄剤にキレート剤と無機塩からなる洗浄剤を用いることにより、他の洗浄剤に比べて電荷輸送層塗工液の酸化劣化速度を遅くすることができ、電荷輸送層塗工液の使用期間をより長くすることができる。
【0055】
請求項4の発明によれば、上記保管容器の設置された周囲にオゾンフィルターにて調整されたオゾン濃度30ppb以下の空気を供給することにより、電荷輸送層塗工液の酸化劣化速度を遅くすることができ、電荷輸送層塗工液の使用期間をより長くすることができる。
【0056】
請求項5の発明によれば、請求項1〜4に記載したいずれかの製造方法により製造した電子写真感光体は、電荷輸送層が酸化劣化していないため、長期にわたって画像濃度低下や地肌汚れのない画像を得ることができる。
【0057】
請求項6の発明によれば、上述のように電荷輸送層塗工液の酸化劣化状態でなく、感光体に形成された後の電荷輸送層の酸化劣化状態を調べてもよく、形成した直後の電子写真感光体から電荷輸送層を剥離し、該電荷輸送層を有機溶媒に溶解し、該溶解液を上記と同様、蒸留水により抽出し、抽出液のpHにより劣化の有無を把握することにより、電荷輸送層の酸化劣化が発生していない電子写真感光体を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】電荷輸送層塗工液の蒸留水抽出液のpHと帯電安定性(暗減衰率)との関係を表わすグラフ。
【図2】電子写真感光体から電荷輸送層塗膜の剥離を行う方法を示す説明図。
【符号の説明】
1 カッターによるスジ
2 7±0.5の範囲のpHの蒸留水
3 感光体
Claims (7)
- 電荷輸送層の塗工液を塗布することにより、電荷輸送層を形成する工程を有する電子写真感光体の製造方法において、
該電荷輸送層の塗工液は、1ヶ月以上保管されており、該電荷輸送層の塗工液が、7±0.5の範囲のpHを有する蒸留水にて抽出したとき、該抽出液のpHが5〜8の範囲にあり、
該電荷輸送層の塗工液の保管容器及び塗工槽の内壁をアルカリ洗浄することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。 - 前記電荷輸送層の塗工液に使用する有機溶媒がハロゲン化炭化水素であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
- 前記アルカリ洗浄に使用する洗浄剤がキレート剤と無機塩からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子写真感光体の製造方法。
- 前記保管容器の設置された周囲にオゾンフィルターにて調整されたオゾン濃度30ppb以下の空気を供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法。
- 請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電子写真感光体の製造方法により製造されることを特徴とする電子写真感光体。
- 導電性基体上に、少なくとも電荷発生層及び電荷輸送層を順次塗設した電子写真感光体において、
該感光体を形成した直後の電荷輸送層を剥離し、該剥離した電荷輸送層を有機溶媒に溶解し、該溶解液を7±0.5の範囲のpHを有する蒸留水にて抽出したとき、該抽出液のpHが5〜8の範囲にあることを特徴とする電子写真感光体。 - 前記電荷輸送層を形成する際に用いた電荷輸送層の塗工液は、1ヶ月以上保管されていることを特徴とする請求項6に記載の電子写真感光体。
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