JP3801892B2 - 蛍光体表面処理用ペーストとそれを用いた蛍光体ペースト及びそれにより得られた蛍光体並びに蛍光体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(PDP)、蛍光表示管(VFD)、電界放出型ディスプレイ(FED)、陰極線管(CRT)等の自発光型の表示装置に用いられる蛍光体粒子表面に導電性を付与することができる蛍光体表面処理用ペースト、この蛍光体表面処理用ペーストを含む蛍光体ペースト、この蛍光体ペーストにより得られた表面が導電処理された蛍光体、並びに表面が導電処理された蛍光体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、PDP、VFD、FED、CRT等の自発光型の表示装置においては、発光体として蛍光体が用いられている。
PDPは、密閉空間内にArガス等の希ガスを100Pa程度の真空度にて封入し、電界を付与してプラズマ放電を惹起し、それによって放出される真空紫外光により蛍光体を励起し、発光させるものある。
このプラズマ放電では種々のイオンや電子が放出されるが、これらが電極や蛍光体に衝突することにより当該部材の劣化が生じる。このため、現在では、電極を誘電体層で保護したり、蛍光体と対向する面内で放電させる交流3極面放電型が主流となっている。
【0003】
VFDは、加熱されたフィラメントより放出する電子を蛍光体に照射させることにより発光するものである。
このVFDは電子線により蛍光体を直接励起し発光させるが、一方で電子線の照射により蛍光体がチャージアップしたり、分解、劣化したり等の現象が生じる。そこで、蛍光体に導電性を有する微粒子、例えば酸化インジウム(In2O3)等を機械的に混合して蛍光体の表面に該導電性微粒子を付着させることにより、蛍光体の特性劣化を抑制するようにしている。
【0004】
FEDやCRTは、いずれも電子源から放出した電子を高電圧印加により加速させて膜状の蛍光体に衝突させることにより発光させるものである。
この蛍光体膜の上面にはメタルバックと称されるアルミニウムの薄膜が形成されており、この薄膜を陽極として電圧を印加する構成になっている。このアルミニウム膜は非常に薄いので、加速電子は該アルミニウム膜を容易に透過し、蛍光体に衝突することになる。また、このアルミニウム膜は電子線照射による蛍光体のチャージアップを抑制する働きも有している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述した従来のPDP、VFD、FED、CRT等の自発光型の表示装置においては、蛍光体の分解、劣化や、発光時のチャージアップ等を抑制することができず、そのため発光効率が低下し、ひいては表示装置の寿命を縮めてしまうという問題点があった。
【0006】
例えば、PDPでは、上記の交流3極面放電型を採用することにより、蛍光体をプラズマ放電領域から離し、このプラズマ放電により生じる種々のイオンや電子による蛍光体への衝撃を抑制するようにしており、蛍光体自体に対しては特に処理等がなされることはなかった。
また、VFDでは、蛍光体がチャージアップしたり、分解、劣化したりする等の現象を起き難くするために、蛍光体の表面に導電性微粒子を付着させて該蛍光体の特性劣化を抑制するようにしているが、付着される導電性微粒子はミクロンオーダーの比較的大きな粒子であるため、蛍光体粒子の表面への均一な被覆処理が困難で、分解や劣化を十分に抑制することができない。また、表面への被覆処理を十分に施すためには、大量の導電性微粒子が必要になり、結果的に発光特性の低下をひき起こす等の問題点がある。
【0007】
また、FEDやCRTにおいては、蛍光体の上面に形成されるアノード電極となるアルミニウムのメタルバックにより、それに接触する蛍光体に対してはチャージアップの抑制効果があるが、メタルバックに接触していない蛍光体に対しては、メタルバックを透過してきた電子線によりチャージアップする虞があり、膜設計等の改善が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、PDP、VFD、FED、CRT等の自発光型の表示装置等に用いられる蛍光体の分解、劣化や、発光時のチャージアップ等を抑制することができ、したがって、発光効率の低下を防止することができ、ひいては表示装置としての寿命を向上させることができる蛍光体表面処理用ペーストとそれを用いた蛍光体ペースト及びそれにより得られた蛍光体並びに蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は次の様な蛍光体表面処理用ペーストとそれを用いた蛍光体ペースト及びそれにより得られた蛍光体並びに蛍光体の製造方法を採用した。
すなわち、本発明の蛍光体表面処理用ペーストは、インジウム及び錫の少なくとも1種を含む化合物と有機酸とから生成したヒドロキシ化合物に有機配位子が配位したキレート錯体と、結合剤と、溶剤とを含有してなることを特徴とする。
【0010】
本発明の蛍光体表面処理用ペーストでは、インジウム及び錫の少なくとも1種を含む化合物と有機酸とから生成したヒドロキシ化合物に有機配位子が配位したキレート錯体を含有したことにより、ペーストの経時安定性が向上し、劣化し難くなる。また、このペーストは熱処理することにより導電性を有するものとなる。
これにより、この蛍光体表面処理用ペーストを用いて蛍光体に表面処理を施せば、蛍光体の表面に導電性が付与され、チャージアップ等が生じる虞が無くなる。また、蛍光体の表面が導電性物質で覆われるので、蛍光体の分解や劣化が生じ難くなる。
【0011】
前記有機酸は、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
前記有機配位子は、β−ジケトン、アミノアルコール、多価アルコールから選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
前記インジウム及び錫の合計の含有量は、酸化物に換算して0.1〜20重量%であることが好ましい。
前記結合剤の含有量は、1〜20重量%であることが好ましい。
【0013】
本発明の蛍光体ペーストは、本発明の蛍光体表面処理用ペーストと、蛍光体粒子とを含有してなることを特徴とする。
【0014】
本発明の他の蛍光体ペーストは、本発明の蛍光体表面処理用ペーストと、蛍光体粒子と、結合剤と、溶剤とを含有してなることを特徴とする。
【0015】
上記の各蛍光体ペーストでは、本発明の蛍光体表面処理用ペーストを含有することにより、この蛍光体ペーストを用いて蛍光体を成膜する際においても、それに含まれる蛍光体表面処理用ペーストにより蛍光体の表面処理が成される。これにより、蛍光体の膜質が劣化する等の不具合が生じる虞がなくなる。
また、この蛍光体ペーストを用いて蛍光体を作製すれば、蛍光体の表面に導電性が付与され、チャージアップ等が生じる虞が無くなる。また、蛍光体の表面が導電性物質で覆われるので、分解や劣化が生じ難くなる。
【0016】
本発明のさらに他の蛍光体ペーストは、本発明の蛍光体表面処理用ペーストにより表面処理された蛍光体粒子と、結合剤と、溶剤とを含有してなることを特徴とする。
【0017】
上記の蛍光体ペーストでは、本発明の蛍光体表面処理用ペーストにより表面処理された蛍光体粒子を含有することにより、この蛍光体ペーストを用いて蛍光体を成膜する際においても、それに含まれる蛍光体粒子が蛍光体表面処理用ペーストにより表面処理が成されていることにより、蛍光体の膜質が劣化する等の不具合が生じる虞がなくなる。
また、この蛍光体ペーストを用いて蛍光体を作製すれば、蛍光体の表面に導電性が付与され、チャージアップ等が生じる虞が無くなる。また、蛍光体の表面が導電性物質で覆われるので、分解や劣化が生じ難くなる。
【0018】
本発明の蛍光体は、本発明の蛍光体ペーストが基板上に塗布され、焼成されてなることを特徴とする。
【0019】
本発明の蛍光体では、本発明の蛍光体ペーストを基板上に塗布し、焼成したことにより、蛍光体の表面に導電性が付与され、チャージアップ等が生じる虞が無くなる。また、蛍光体の表面が導電性物質で覆われるので、分解や劣化が生じ難くなる。これにより、蛍光体の発光効率の低下を防止することが可能になる。
【0020】
本発明の蛍光体の製造方法は、本発明の蛍光体ペーストを基板上に塗布し、350℃以上の温度にて焼成することを特徴とする。
【0021】
本発明の蛍光体の製造方法では、本発明の蛍光体ペーストを基板上に塗布し、350℃以上の温度にて焼成することにより、基板上に、強固かつ優れた膜質の蛍光体膜を形成することが可能である。これにより、分解や劣化、チャージアップ等が生じる虞が無く、しかも発光効率の低下を防止することが可能な蛍光体を作製することができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の蛍光体表面処理用ペーストとそれを用いた蛍光体ペースト及びそれにより得られた蛍光体並びに蛍光体の製造方法の一実施の形態について説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0023】
[蛍光体表面処理用ペースト]
本実施形態の蛍光体表面処理用ペーストは、インジウム及び錫の少なくとも1種を含む化合物と有機酸とから生成したヒドロキシ化合物に有機配位子が配位したキレート錯体と、結合剤と、溶剤とを含有する。
この蛍光体表面処理用ペーストは、インジウムおよび錫の少なくとも1種を含む化合物と有機酸とから生成したヒドロキシ化合物に有機配位子が配位したキレート錯体を含有したことにより、ペーストの経時安定性が向上し、成膜時、即ち蛍光体粒子の表面処理時における膜質の劣化等の問題点が解消され、表面に均一に被覆処理される。
【0024】
インジウムおよび錫の少なくとも1種を含む化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、インジウムと錫の酸化物、インジウムと錫の水酸化物等を使用することができる。特に、インジウムと錫との酸化物、すなわち錫ドープ酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)は、有機酸との脱水反応性に優れる等の理由から好適に用いられる。
この蛍光体表面処理用ペースト中のインジウムおよび錫の合計の含有量は、酸化物に換算して0.1〜20重量%であることが好ましい。また、蛍光体表面処理用ペースト中の結合剤の含有量は、1〜20重量%であることが好ましい。
【0025】
有機酸も特に限定されるものではなく、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の低級モノカルボン酸、マレイン酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸等を好適に用いることができる。特に、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等は分子量が小さく、蛍光体の表面に導電性の膜を形成する際のキレート錯体の熱分解温度を低くすることができるので、好適に使用される。
【0026】
有機配位子としては、β−ジケトン、アミノアルコール、多価アルコール等が好適に用いられる。
β−ジケトンの例としては、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。
アミノアルコールの例としては、ジエタノールアミン、2−アミノエタノール、トリエタノールアミン等が挙げられる。
多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。
これらの有機配位子の中でも特に好ましいものは、キレート錯体の安定性および熱分解性の点から、β−ジケトンとしてはアセチルアセトン、アミノアルコールとしてはジエタノールアミン、多価アルコールとしてはエチレングリコールである。
【0027】
以下、インジウムおよび錫の少なくとも1種を含む化合物として錫ドープ酸化インジウム(ITO)を、有機酸として酢酸を、それぞれ用いた場合を例として挙げ、本実施形態の蛍光体表面処理用ペーストをさらに詳細に説明する。
ヒドロキシ化合物は、ITOと酢酸とを酢酸の沸点(110℃)で、例えば2〜4時間、還流し反応させることにより調製することができる。
このようにして得られたヒドロキシ化合物に有機配位子を添加し、必要によっては溶剤中で反応させることにより、キレート錯体を合成する。
【0028】
有機配位子の添加量は、インジウム1モルに対して2モル以上である。ここで添加量を2モル以上と限定した理由は、添加量が2モル未満であると、完全なキレート錯体が得られず、しかも、未反応のヒドロキシ化合物が残留するからである。
キレート錯体は、70〜80℃で4〜8時間攪拌、反応させて合成するのが好ましい。ここで、温度を70〜80℃と限定した理由は、70℃未満、例えば常温(25℃)で合成すると、キレート錯体の生成に多大の時間を必要とするからである。
【0029】
溶剤としては、ヒドロキシ化合物、有機配位子および生成するキレート錯体を溶解するものであれば、特に限定されることはなく、アルコール系溶媒、グリコール類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類等が挙げられる。特に、スクリーン印刷を行う際の印刷性を向上させるためには、ペーストの粘度を高くする必要があり、中でも高沸点溶媒であるα−テルピネオール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ベンジルアルコール、2−フェノキシエタノール等が好適に用いられる。
【0030】
蛍光体表面処理用ペースト中のインジウム及び錫の合計の含有量は、ITO換算でペースト全重量に対して0.1〜20重量%とするのが好ましく、より好ましくは1〜10重量%である。
ここで含有量を上記の様に限定した理由は、含有量が0.1重量%未満であると、この蛍光体表面処理用ペーストを用いて蛍光体粒子の表面を処理し焼成して得られる導電膜の膜厚が薄く、また蛍光体粒子の全表面を均一に被覆することができず、導電性を十分に発揮することができず、一方、含有量が10重量%を超えると、得られる導電膜の膜厚が厚くなり過ぎてしまい、蛍光体を励起させる電子線や紫外線が蛍光体粒子にまで到達し難くなり、結果として輝度が劣化するからである。
【0031】
蛍光体表面処理用ペーストには、スクリーン印刷を行う際に適した粘性を付与するために結合剤が含まれている。結合剤としては、インジウムまたは錫のキレート錯体との反応がなく、かつ、使用している溶剤に溶解させることができれば、特に限定されることはなく、一般的にスクリーン印刷用ペーストのバインダー(結合剤)として用いられている、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース、ポリビニルブチラール等のブチラール樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂等を用いることができる。
特に、ペーストの安定性、成膜性、熱分解性の点から、エチルセルロース、ポリビニルブチラールが好適に用いられる。
【0032】
蛍光体表面処理用ペースト中の結合剤の含有量は、ペースト全重量に対して1〜20重量%が好ましく、より好ましくは5〜10重量%である。
その理由は、含有量が1重量%未満であると、ペーストの粘度が低くなり過ぎてしまい、蛍光体粒子と混錬して蛍光体ペーストとした際も粘度が低くなり、蛍光体の微細な印刷が難しくなり、印刷精度も悪くなるからであり、一方、含有量が20重量%を超えると、焼成時の熱分解成分が多くなり過ぎてしまい、表面保護膜としての緻密な膜が得られ難くなるからである。
【0033】
蛍光体表面処理用ペースト中に含まれる溶剤としては、キレート錯体および上記のバインダー(結合剤)を溶解できるものであれば、特に限定されることはなく、アルコール系溶剤、グリコール類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類等が挙げられる。特に、スクリーン印刷において印刷性を向上させるためにはペースト粘度を高くする必要があり、中でも高沸点溶剤であるα−テルピネオール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ベンジルアルコール、2−フェノキシエタノール等が好適に用いられる。
【0034】
こうして調製された蛍光体表面処理用ペーストは、従来におけるインジウムの硝酸塩、塩化物および錫の塩化物等から調製されるペーストと比べて、蛍光体表面処理過程の焼成時に窒素酸化物(NOx)等の腐食性ガスが発生せず、環境、装置を汚染する虞がない。
【0035】
また、本実施形態の蛍光体表面処理用ペーストを用いれば、蛍光体粒子と混合して蛍光体ペーストとし、その後、成膜、乾燥、焼成することにより、比較的低温において熱分解し、蛍光体粒子表面に均一にインジウムまたは錫の酸化物薄膜を形成するので、蛍光体の発光特性を向上させるばかりか、その寿命を大幅に向上させることができる。
【0036】
さらに、本実施形態の蛍光体表面処理用ペーストは、通常の蛍光体層を形成する際に用いられるスクリーン印刷法に適した粘度、流動特性を有しているので、通常の蛍光体ペーストに任意の割合で添加混合可能である。また、本実施形態の蛍光体表面処理用ペーストに直接蛍光体粒子を混合した場合においても、好適な蛍光体ペーストが調製される。
【0037】
[蛍光体ペースト]
本実施形態の第1の蛍光体ペーストは、本実施形態の蛍光体表面処理用ペーストと、蛍光体粒子とを所定の割合で混合、混錬することによって得られる。
本実施形態の第2の蛍光体ペーストは、蛍光体粒子と、バインダー(結合剤)と、溶剤とを含む蛍光体ペーストに、本実施形態の蛍光体表面処理用ペーストを所定の割合で混合、混錬することによって得られる。
【0038】
本実施形態の第3の蛍光体ペーストは、本実施形態の蛍光体表面処理用ペーストにより表面処理された蛍光体粒子と、バインダー(結合剤)と、溶剤とを所定の割合で混合、混錬することによって得られる。
本実施形態の第4の蛍光体ペーストは、本実施形態の蛍光体表面処理用ペーストと、蛍光体粒子と、バインダー(結合剤)と、溶剤とを所定の割合で混合、混錬することによって得られる。
【0039】
[蛍光体の製造方法]
本実施形態の蛍光体の製造方法は、本実施形態の蛍光体ペーストを、スクリーン印刷法等の塗布法により基板上に塗布し、乾燥させた後、350℃以上の温度にて焼成する。これにより、表面にITO等の導電膜が形成された蛍光体が得られる。
【0040】
乾燥は、蛍光体ペースト中の溶剤が揮散する温度条件であれば特に限定されるものではないが、通常60〜120℃が好ましい。
焼成は、350℃以上の大気中で行うのが好ましく、より好ましくは400℃〜550℃である。
ここで、焼成温度を上記の様に限定した理由は、350℃未満では、ペースト中に含まれるバインダー(結合剤)やキレート錯体の有機成分が十分に熱分解せず、したがって、導電性のITOが生成せず、結果として蛍光体表面に導電膜を良好に形成することができないからである。
【0041】
さらに、焼成温度を400℃〜550℃と限定すれば、ペースト中に含まれるバインダー(結合剤)やキレート錯体の有機成分が十分に熱分解することで、蛍光体表面に導電性のITO(導電膜)を良好に形成することができる。
なお、550℃を超えると蛍光体粒子自体の劣化が大きくなる場合があるので、550℃以下で焼成するのが好ましい。
【0042】
本実施形態の蛍光体を蛍光体励起型の自発光型ディスプレイに用いれば、蛍光体表面に導電性を有する薄膜が形成されるため、電子線やイオンの衝突によるチャージアップや、蛍光体の分解、劣化を抑制することができる。したがって、ディスプレイとしての発光特性が安定することとなり、その結果、特性の劣化が抑制されることとなる。
【0043】
【実施例】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0044】
「実施例」
[蛍光体表面処理用ペースト]
粒子径0.1〜1.0μmのITO微粉末(住友大阪セメント製)800gと酢酸(関東化学製)4000gを5リットルのセパラブルフラスコに入れ、その後、沸点下で3時間還流し、白色沈殿物のインジウムと錫を含むヒドロキシ酢酸塩{In(CH3COO)2(OH)}0.9・{Sn(CH3COO)2}0.1
を得た。
【0045】
次いで、得られたヒドロキシ酢酸塩を濾別し、アルコールで洗浄後、60℃で乾燥した。その後、乾燥したヒドロキシ酢酸塩40.0gとジエタノールアミン46.0gと2−フェノキシエタノール64.0gを500mlのセパラブルフラスコに入れ、70℃で4時間、加熱攪拌してキレート錯体溶液を得た。インジウム1モルに対する有機配位子の添加量は3モルであった。
【0046】
次いで、予めポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製:エスレックB;BH−3)30.0gをα−テルピネオール239.9gに溶解させた溶液269.9gと、上記のキレート錯体溶液150gを、混練機により十分に混合し、蛍光体表面処理用ペーストを得た。
得られたペースト中におけるインジウムおよび錫の化合物の含有量は、酸化物(ITO)換算で5.4重量%であり、結合剤であるポリビニルブチラール樹脂の含有量は7重量%であり、得られたペーストの粘度は48000cPであった。なお、この蛍光体表面処理用ペーストにおいては、白濁、沈殿等もなく、粘度変化も見られなかった。
【0047】
[蛍光体ペースト]
上記の蛍光体表面処理用ペースト18.5gを、蛍光表示管用赤色蛍光体(ZnCd)S:Agを50重量%含有する蛍光体ペースト(バインダー:エチルセルロース6重量%、溶剤:α−テルピネオール)100gに添加し、3本ロールミルを用いて十分混和(混合、攪拌)することにより、本実施形態の蛍光体ペーストを得た。
【0048】
[蛍光体の形成]
上記の蛍光体ペーストをスクリーン印刷法により蛍光表示管の背面基板を構成する基板上のセグメント層上に印刷し、乾燥後500℃で焼成した。その後、フィラメントや透明電極を形成した前面ガラス基板を取り付け、真空封着し、蛍光表示管パネルを作製した。
【0049】
得られた蛍光表示管中の蛍光体粒子の表面は、図1に示すとおり、非常に均一にITO膜が形成されていることがわかった。
また、この蛍光表示管に対して発光試験を行った結果、初期輝度は後述する比較例と比べて30%高く、高温保持特性(高温保持でのアウトガスによる輝度劣化)における劣化は殆ど認められなかった。また、初期輝度が半減する寿命を調べたところ、後述する比較例と比べて5倍以上の寿命を有することがわかった。
【0050】
「比較例」
上述した蛍光表示管用赤色蛍光体(ZnCd)S:Agを50重量%含有する蛍光体ペースト(バインダー:エチルセルロース6重量%、溶剤:α−テルピネオール)100gに、市販の導電性を有するITO微粉末(平均粒子径:0.1μm)を8重量%添加し、3本ロールミルを用いて十分混和(混合、攪拌)することにより、蛍光体ペーストを得た。
【0051】
得られた蛍光体ペーストを上記の実施例と同様の方法により成膜、焼成し、上記実施例と同様に蛍光表示管パネルを作製した。
得られた蛍光表示管中の蛍光体表面は、図2に示すとおり、ITO微粒子が蛍光体粒子表面に不均一に、かつ、部分的に付着している状態を呈していることがわかった。
【0052】
また、この蛍光表示管に対して発光試験を行った結果、初期輝度は上述した実施例と比較して23%減少しており、高温保持特性(高温保持でのアウトガスによる輝度劣化)における劣化は約20%であり、上述した実施例と比較しても高温保持特性に劣っていることがわかった。また、初期輝度が半減する寿命は、上述した実施例と比べて1/5程度であった。
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の蛍光体表面処理用ペーストによれば、インジウム及び錫の少なくとも1種を含む化合物と有機酸とから生成したヒドロキシ化合物に有機配位子が配位したキレート錯体と、結合剤と、溶剤とを含有したので、ペーストの経時安定性を向上させることができ、劣化を防止することができる。
【0054】
また、このペーストは熱処理を施すことで導電性を有するものとなるので、この蛍光体表面処理用ペーストを用いて蛍光体に表面処理を施せば、蛍光体に導電性を付与することができ、チャージアップ等を防止することができる。また、蛍光体の表面が導電性物質で覆われるので、この導電性物質により蛍光体が保護され、該蛍光体の分解や劣化を防止することができる。
【0055】
本発明の蛍光体ペーストによれば、本発明の蛍光体表面処理用ペーストと、蛍光体粒子とを含有したので、蛍光体を成膜する際に、蛍光体表面処理用ペーストにより前記蛍光体に表面処理を施すことができ、蛍光体の膜質が劣化する等の不具合を防止することができる。
【0056】
また、この蛍光体ペーストを用いて蛍光体を作製すれば、蛍光体に導電性を付与することができ、チャージアップ等を防止することができる。
また、蛍光体の表面が導電性物質で覆われるので、この導電性物質が蛍光体を保護することで、分解や劣化を防止することができる。
が生じ難くなる。
【0057】
本発明の他の蛍光体ペーストによれば、本発明の蛍光体表面処理用ペーストと、蛍光体粒子と、結合剤と、溶剤とを含有したので、上記の蛍光体ペーストと同様の効果を奏することができる。
【0058】
本発明のさらに他の蛍光体ペーストによれば、本発明の蛍光体表面処理用ペーストにより表面処理された蛍光体粒子と、結合剤と、溶剤とを含有したので、それに含まれる蛍光体粒子が蛍光体表面処理用ペーストにより表面処理されているため、蛍光体の膜質の劣化を防止することができる。
また、この蛍光体ペーストを用いて蛍光体を作製すれば、蛍光体が導電性を有するものとなり、チャージアップ等を防止することができる。また、蛍光体の表面が導電性物質で覆われるので、この導電性物質が蛍光体を保護することで、蛍光体の分解や劣化を防止することができる。
【0059】
本発明の蛍光体によれば、本発明の蛍光体ペーストが基板上に塗布され、焼成されているので、蛍光体が導電性を有するものとなり、チャージアップ等を防止することができる。また、蛍光体の表面が導電性物質で覆われるので、蛍光体の分解や劣化を防止することができる。したがって、蛍光体の発光効率の低下を防止することができる。
【0060】
本発明の蛍光体の製造方法によれば、本発明の蛍光体ペーストを基板上に塗布し、350℃以上の温度にて焼成するので、基板上に、強固かつ優れた膜質の蛍光体膜を形成することができる。したがって、分解や劣化、チャージアップ等がなく、しかも発光効率が低下しない蛍光体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例の蛍光体粒子の表面形状を示す図である。
【図2】 比較例の蛍光体粒子の表面形状を示す図である。
Claims (10)
- インジウム及び錫の少なくとも1種を含む化合物と有機酸とから生成したヒドロキシ化合物に有機配位子が配位したキレート錯体と、結合剤と、溶剤とを含有してなることを特徴とする蛍光体表面処理用ペースト。
- 前記有機酸は、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の蛍光体表面処理用ペースト。
- 前記有機配位子は、β−ジケトン、アミノアルコール、多価アルコールから選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載の蛍光体表面処理用ペースト。
- 前記インジウム及び錫の合計の含有量は、酸化物に換算して0.1〜20重量%であることを特徴とする請求項1、2または3記載の蛍光体表面処理用ペースト。
- 前記結合剤の含有量は、1〜20重量%であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項記載の蛍光体表面処理用ペースト。
- 請求項1ないし5のいずれか1項記載の蛍光体表面処理用ペーストと、蛍光体粒子とを含有してなることを特徴とする蛍光体ペースト。
- 請求項1ないし5のいずれか1項記載の蛍光体表面処理用ペーストと、蛍光体粒子と、結合剤と、溶剤とを含有してなることを特徴とする蛍光体ペースト。
- 請求項1ないし5のいずれか1項記載の蛍光体表面処理用ペーストにより表面処理された蛍光体粒子と、結合剤と、溶剤とを含有してなることを特徴とする蛍光体ペースト。
- 請求項6、7または8記載の蛍光体ペーストが基板上に塗布され、焼成されてなることを特徴とする蛍光体。
- 請求項6、7または8記載の蛍光体ペーストを基板上に塗布し、350℃以上の温度にて焼成することを特徴とする蛍光体の製造方法。
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