JP3797869B2 - 構造物の耐震設計方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、橋梁などの土木,建築構造物の耐震設計方法に関し、特に、耐震基準を満足しながら、より経済的な構築が可能になる構造物の耐震設計方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
橋梁などの構造物を設計する際に、一般に設計者が行っている設計手順は、まず、設計者自身のこれまでの経験に基づいて、適当に部材の大きさなどの構造諸元(設計変数)を決定し、この構造諸元に基づく、試作実験やシミュレーション(構造解析)を行い、耐力や構造物の挙動などを計算し、これらが設計上満足すべき条件の許容値内に入っているか否かを確認し、許容値を満足していなければ、最初に設定した構造諸元を若干変更して、先の手順を繰り返して、許容値を満足する構造諸元を決定している。
【0003】
このような設計方法では、経験豊富な設計者が行えば、数回の繰り返しで設計を行うことができるが、あまり経験のない設計者が、例えば、汎用ソフトなどを利用して設計しても、多大な繰り返し計算と労力が必要になる場合が多い。
【0004】
ところで、構造物の耐震設計方法においても、基本的な手順は、上述した手法と同じであり、例えば、道路橋の耐震設計については、道路橋示方書にその設計手順が示されている。
【0005】
しかしながら、このような従来の耐震設計方法には、以下に説明する課題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、現行の道路橋示方書に示されている耐震設計方法は、高度の非線形を含む複雑な解析、例えば、動的解析などを伴う場合があって、解析にきわめて時間がかかる。
【0007】
また、現行の道路橋示方書に示されている耐震設計方法には、耐震安全性の確保に関する多くの制約条件(許容値)が設定されているが、これらの制約条件を満足させるための設計変数の値と、建設費用との関連性が考慮されておらず、このため、耐震安全性を確保するために、不経済な設計になり易いという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、最も経済的に建設できる構造物を、耐震性の確保のための繰り返し計算回数が少なく効率的に設計することができる耐震設計方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、橋梁などの土木,建築構造物の耐震設計方法において、前記構造物の構成要素を抽出し、前記構成要素毎に、非線形動的応答解析に必要な構造諸元を決定して、非線形動的応答解析モデルを設定する第1ステップと、前記構造諸元を前記構成要素毎に、その非線形挙動を示す特性値が含まれるように設計変数を設定する第2ステップと、前記設計変数をパラメータとして、前記各構成要素毎の建設費を表わす目的関数を設定する第3ステップと、前記非線形挙動に対して、地震規模の大きさに対応して、前記設計変数に複数の水準を設定する第4ステップと、前記設計変数の前記複数の水準組合せにおける前記非線形動的応答解析処理を行う第5ステップと、前記非線形動的応答解析処理の結果を用いて、制約条件で考慮すべき動的挙動の推定式を実験計画法に基づいて作成し、前記動的挙動の制約条件を設定する第6ステップと、最適化問題を定式化して、数理計画法に基づいて、前記設計変数の改良解を求める第7ステップと、前記第4〜第7ステップの過程を必要に応じて繰り返すことにより最適解を決定するようにした。
このように構成した構造物の耐震設計方法によれば、第3ステップで、設計変数をパラメータとして、各構成要素毎の建設費を表わす目的関数を設定し、この目的関数を含んだ形で、最適化問題を定式化して、実験計画法と数理計画法とに基づいて、最適値を求めるので、求められた最適値には、建設費が反映されたものとなる。
また、第6ステップで、非線形動的応答解析処理の結果を用いて、実験計画法に基づき、制約条件で考慮すべき動的挙動の推定式を作成し、第7ステップで、最適化問題を定式化して、数理計画法に基づいて最適値を求めるので、わずかの非線形動的応答解析結果を用いて設計変数の応答曲面を近似できるため、きわめて効率的に最適解を決定することができる。
さらに、最適化問題の定式化では、各構造要素の寸法などを設計変数として考慮せず、各構造要素の非線形履歴特性を設計変数として考慮して、目的関数及び制約条件の定式化を行っているため、効率的に最適化が行える。
前記第4ステップでは、前記水準を3水準とし、前記設計変数の各水準の組合せを実験計画法の直交表により決定することができる。
前記構造物は、免震構造を備えた橋梁であって、前記構成要素を上部構造,各橋脚の免震支承,橋脚,基礎とすることができる。
前記設計変数は、前記免震支承の非線形挙動を示す特性値として、せん断バネ定数を選択し、その降伏荷重を前記免震支承の前記設計変数に設定するとともに、前記橋脚の非線形挙動を示す特性値として、曲げ剛性を選択し、その降伏曲げモーメントを前記橋脚の前記設計変数に設定することができる。
前記第7ステップは、前記第7ステップは、前記最適化問題をラグランジュ関数を用いた双対法により解いて、前記設計変数の改良解を求めるステップと、前記構造物の建設費および前記設計変数の値が一定値に収束したことを判断するステップと、得られた改良解が水準内にあるか否かを判断するステップとを含むことができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1から図5は、本発明にかかる構造物の耐震設計方法の一実施例を示している。
【0011】
これらの図に示した耐震設計方法は、本発明を構造物として免震橋梁10に適用した場合を例示している。本実施例の耐震設計方法は、図1に示した手順により実行される。
【0012】
図1に示した設計手順では、例えば、図2に示すような免震橋梁10を設計対象としており、まず、第1ステップで、免震橋梁(構造物)10の構成要素を抽出し、前記構成要素毎に、非線形動的応答解析に必要な構造諸元を決定して、非線形動的応答解析モデルを設定する。
【0013】
この場合、図2に示した免震橋梁10は、橋桁などの上部構造12と、例えば、積層ゴムを鋼板でサンドイッチ状に挟持した免震支承14と、6本(P1〜P6)の橋脚16および各橋脚16の基礎18を備えている。
【0014】
基礎18は、地盤中に打設された複数の杭を有していて、上部構造12と橋脚16との間に免震支承14がそれぞれ介装されている。このような構造の免震橋梁10では、上部構造12,免震支承14,橋脚16,基礎18の4部分が構成要素として抽出される。
【0015】
なお、このような構造の免震橋梁10では、大規模地震を受けた時に免震支承14と橋脚16には、塑性変形を許し、基礎18は、弾性限度内に留めるという基本的な条件の下で最適設計を行う。
【0016】
また、この第1ステップでは、非線形動的応答解析モデルを設定するが、免震橋梁10の非線形動的応答解析に必要な構造諸元として、上部構造12については、複数個の橋軸方向質量ms1〜ms6と減衰定数hsを考慮した。
【0017】
また、各橋脚16の免震支承14については、非線形挙動を示すせん断バネ定数kb1〜kb6、各橋脚16については複数個の橋軸方向質量mp11〜mp61,mp12〜mp62,mp13〜mp63と非線形曲げ剛性kp1〜kp6と減衰定数hpとを考慮した。
【0018】
さらに、各橋脚16の基礎18については、橋軸方向質量と回転質量mf1〜mf6、水平バネ定数kh1〜kh6、回転バネ定数kθ1〜kθ6及びそれぞれに対する減衰定数hfをそれぞれ考慮し、図3に示すような、免震橋梁10の非線形動的応答解析モデルを設定した。
【0019】
次の第2ステップでは、前述した構造諸元を、その非線形挙動を示す特性値が含まれるように設定し、それらを設計変数として考慮する。
【0020】
一般に本発明が対象としているような最適設計問題においては、解析のための構造諸元を設計変数として設定することが多いが、本実施例の場合には、非線形挙動を示す特性値として、図4に示すような、免震支承14のせん断のバネ定数kb1〜kb6と、図5に示すような、橋脚16の曲げ剛性Kp1〜Kp6とを選択し、これらの各特性値を設計変数として採用した。
【0021】
より具体的には、免震支承14については、図4に示した点Aの降伏荷重Qd、また、橋脚16については、図5に示した点Bの降伏曲げモーメントMyを設計変数とした。
【0022】
基礎18については、水平バネ定数Khと回転バネ定数Kθが互いに従属関係となるような杭配置を仮定し、水平バネ定数Khを設計変数として採用する。
【0023】
次の第3ステップでは、第2ステップで設定した設計変数をパラメータとして、各構成要素毎、すなわち、免震橋梁10の免震支承14,橋脚16,基礎18の建設費を表わす目的関数Wを設定する。
【0024】
この場合の目的関数Wは、免震支承14,橋脚16,基礎18の各建設費を、第2ステップで決定した設計変数の関数W(Qd,My,Kh)として表現する。この場合、各設計変数(Qd,My,Kh)にかかる目的関数Wの係数の値は、各設計変数(Qd,My,Kh)の値に対して最小の建設費を与える係数とする。
【0025】
次の第4ステップでは、前述した非線形挙動に対して、地震規模の大きさに対応して、設計変数に複数の水準を設定する。本実施例の場合には、水準を3水準(第1水準が下限値、第2水準が中間値、第3水準が上限値)とし、前述した設計変数(Qd,My,Kh)との組合せを実験計画法の直交表により決定するようにした。
【0026】
すなわち、第4ステップでは、第1ステップで設定した解析モデルの大規模地震動に対する非線形動的挙動を、第2ステップで設定した設計変数(Qd,My,Kh)の3水準値の組み合わせについて決定する。
【0027】
この場合、各設計変数(Qd,My,Kh)の3水準の組み合わせは、後述する実験計画法の直交表に従い決定することになるが、この際に必要となる解析回数は、設計変数の数が4個までの場合には、9回、13個までの場合には、27回となる。
【0028】
ところで、解析の基本モデルを図3に示すように決定していると、解析時に着目している設計変数の値を変更するだけなので、時間的には、わずかな時間での解析が可能になる。なお、設計変数(Qd,My,Kh)の水準値を設定する場合には、第1水準(設計変数の下限値)の値を、例えば、地震規模が比較的小さい震度法レベルで与えるようにすれば、より実際的な設計が可能になる。
【0029】
これは、実務設計において、従来からの設計手法である震度法により断面諸元が決定されることが少なくなり、それより大規模な地震動を想定した地震時保有水平耐力法により断面諸元が決定されることが多くなっている実情に沿わせることができる。
【0030】
次の第5ステップでは、設計変数(Qd,My,Kh)の複数の水準の組合せにおける非線形動的応答解析処理が行われる。このステップでは、第1ステップで設定した解析モデルの大規模地震動に対する非線形動的挙動を、第2ステップで設定した設計変数(Qd,My,Kh)で設定した設計変数の3水準値の組み合わせについて解析する。
【0031】
この場合、着目する非線形動的挙動の制約条件として、免震支承14の最大応答水平変位(δb)、橋脚16の最大応答水平変位(δp)、基礎18の最大応答水平変位(δf)を考慮する。
【0032】
次の第6ステップでは、第5ステップにおける非線形動的応答解析処理の結果を用いて、制約条件で考慮すべき動的挙動の推定式を実験計画法に基づいて作成し、動的挙動の制約条件を設定する。
【0033】
すなわち、このステップでは、第5ステップの非線形動的解析結果を用いて、Chebyshevの直行多項式より、制約条件で考慮すべき動的挙動、すなわち、免震支承14の最大応答水平変位(δb)、橋脚16の最大応答水平変位(δp)、基礎18の最大応答水平変位(δf)の推定式を設計変数(Qd,My,Kh)の関数として設定する。
【0034】
続く第7ステップでは、前記各ステップにより最適化問題を定式化して、数理計画法に基づいて、前記設計変数の改良解を求める過程を必要に応じて繰り返すことにより最適値を求める。
【0035】
この第7ステップには、最適化問題をラグランジュ関数を用いた双対法により解いて、設計変数(Qd,My,Kh)の改良解を求める第7a,7bステップと、改良解が一定値に収束しているかか否かを判断する第7cステップと、得られた改良解が水準内にあるか否かを判断する第7dステップとが含まれている。
【0036】
第7aステップでは、第3ステップで設定した目的関数W(Qd,My,Kh)及び第5および第6ステップで求めたδb,δp,δfの制約条件式を用いて設計変数(Qd,My,Kh)の最適値を決定する最適化問題を定式化する。
【0037】
第7bステップでは、設計変数(Qd,My,Kh)の改良解Qd’,My’,Kh’を決定する。これは、第7aステップで設定した最適化問題を変数分離型の凸近似設計問題に近似し、これをラグランジュ関数を用いた双対法により解き設計変数の改良解Qd’,My’,Kh’および目的関数Wの改良解を決定する。この場合、得られる改良解の精度を保持するため、設計変数のmove limitに関する製薬条件も考慮する。
【0038】
第7cステップでは、第7bステップで求めた設計変数及び目的関数の改良値の収束性を判定し、収束条件を満足していれば、次の第7dステップに移行し、収束条件を満足していなければ第7bステップに戻り、さらに別の改良解を決定することになる。
【0039】
第7dステップでは、第7cステップで求めた収束解が、第4ステップで設定した各設計変数の3水準値の範囲内にあるか否かを判定する。収束解(改良解)が設定した水準領域内にある場合は、動的挙動の推定式の領域内で最適解が得られたこととなり手順が終了する。
【0040】
一方、収束解(改良解)が設定した水準領域外にある場合は、第4ステップに戻り、改良解を中央値とする新たな設計変数の3水準値を設定し、以後の各ステップを繰り返すことにより、最適解を決定することができる。
【0041】
さて、以上のように構成した免震橋梁10の耐震設計方法によれば、第3ステップで、設計変数をパラメータとして、各構成要素毎、すなわち、免震橋梁10の免震支承14,橋脚16,基礎18の建設費を表わす目的関数Wを設定し、この目的関数Wを含んだ形で、最適化問題を定式化して、実験計画法と数理計画法とに基づいて、最適値を求めるので、求められた最適値には、建設費が反映されたものとなる。
【0042】
また、第6ステップで、実験計画法に基づいて、わずかの解析結果を用いて、橋梁の非線形挙動の設計変数に関する応答曲面を推定することができ、第7ステップで、最適化問題を定式化して、数理計画法に基づいて最適値を求めるので、きわめて効率的に最適解を決定することができる。
【0043】
さらに、最適化問題の定式化では、各構造要素の寸法などを設計変数として考慮せず、各構造要素の非線形履歴特性を設計変数として考慮し目的関数及び制約条件の定式化を行っているため、効率的に最適化が行える。
【0044】
次に、本発明のより具体的な設計方法について説明する。この具体例は、図2に示した構造の免震橋梁10の耐震設計に本発明を適用した場合である。
解析モデルの設定(図1の第1ステップに対応)
この具体例では、免震橋梁10が、橋長220m(40m+40m+60m+40m+40m),全幅員12.0mの5径間連続鋼鈑桁橋であり、6基の鉄筋コンクリート橋脚16(P1〜P6)ないしは(i=1,2,…,6)及び場所打ち杭基礎18(i=1,2,…,6)で支持されている場合を想定した。
【0045】
基礎18の地盤条件,杭などの下部構造の使用材料及び上部構造12からの鉛直荷重を、それぞれ図6および表1に示すように設定した。
【0046】
【表1】
【0047】
このような構成の免震橋脚10において、第1ステップで説明したように、橋軸方向の地震動に着目してモデル化すると、図3に示した解析モデルが得られる。
【0048】
ここで、図3に示した符号、msk,mpij,mfiは、それぞれ、上部構造12の橋軸方向質量,橋脚16(i)の橋軸方向質量,フーチングの橋軸方向質量と回転質量である。
【0049】
また、kbi,kpi,khi及びkθiは、それぞれ橋脚16(i)の免震支承14の非線形せん断バネ定数,橋脚16(i)の非線形曲げ剛性,橋脚16(i)の基礎一地盤の水平バネ定数及び回転バネ定数である。
【0050】
さらに、hs,hp,hfは、それぞれ上部構造12の水平振動に対する減衰定数、橋脚16の水平振動に対する減衰定数及び基礎構造の水平と回転振動に対する減衰定数である。
【0051】
本具体例では、上部構造12の減衰定数は弾性域における減衰を考慮してhs=0.02とし、橋脚16の減衰定数は、非線形履歴モデルを用いているためhp=0.02とし、基礎18の減衰定数は逸散減衰を考慮してhf=0.1と仮定した。
【0052】
(2)設計変数の設定(図1の第2ステップに対応)
▲1▼免震支承14の非線形履歴特性と設計変数Qdの設定
図7は、免震支承14の履歴特性をパイリニアモデルで近似した水平荷重Hと水平変位Uの関係を示したものであり、非線形時刻歴応答解析で一般的に用いられているものである。
【0053】
この免震支承14の動的特性を1個の代表的なパラメータで定義しようとする場合、色々な特性値を選ぶことができるが、エネルギー吸収量を支配するパラメータとしては、降伏荷重Qdと2次剛性kb2が重要となる。
【0054】
また、実際の免震橋梁に使われている鉛プラグ入り積層ゴム支承(LRB)では、免震支承の1次剛性kb1は、作用する死荷重反力(垂直力)の大きさにより決定され、水平方向の降伏荷重Qdの大きさに関係なく一定であること、及び1次剛性kb1と2次剛性kb2の比は、6.5となること、
【0055】
さらに、Qdを与えればそれに対応する製作費が求まること等を考慮し、本具体例では、免震支承14の降伏荷重Qdを設計変数とした。従って、以後の非線形時刻歴応答解析においては、Qdの値を与えれば必然的にそれに対応する図7のバイリニアモデルが定義される。
【0056】
▲2▼橋脚16の非線形履歴特性と設計変数Myの設定
銑筋コンクリート橋脚16の非線形履歴特性は、その基部に主たる塑性ヒンジが生じる場合を想定し、塑性ヒンジ区間で非線形履歴特性を代表させることとした。
【0057】
鉄筋コンクリート橋脚16の非線形履歴特性としては、非線形時刻歴応答解析で一般に用いられている図8に示すような、剛性低下型のTakedaモデルを用いる。この橋脚16の動的特性を1個の代表的なパラメータで定義しようとする場合、免震支承14と同様にエネルギー吸収量を支配するパラメータとして、降伏曲げモーメントMyが重要な要素となる。
【0058】
ここで、My及びその履歴挙動は、橋脚16の断面形状及び鉄筋量によって異なるが、本具体例では、施工性及び経済性の関係から、断面形状は一定値で与えられるものとし、鉄筋量の変化によりMy及び非線形履歴挙動が支配されるものとした。
【0059】
断面形状が一定のもとでは、鉄筋量によって降伏曲げモーメントMy及び降伏時の回転角θyは変化するが、Myとθyは1対1対応となるため、Myを与えることにより非線形挙動を定義することができ、それに対応する建設費もMyの関数として明確に表現することができる。
【0060】
このような理由から、本具体例では、橋脚16の非線形挙動及び目的関数値を定義するシンボル化した値として降伏曲げモーメントMyを橋脚の設計変数とした。
【0061】
▲3▼基礎−地盤系の動的バネ定数と設計変数kh
基礎−地盤の動的バネ定数は、架橋地の地盤条件と基礎の形状によって決定される。非線形時刻歴応答解析のモデルとしては、基礎本体の非線形履歴特性及び地盤の非線形履歴特性を直接用いて解析することも可能であるが、本具体例では、基礎構造に塑性化が生じないと仮定し、地盤の塑性化のみを考慮した線形バネモデルで表現することとした。
【0062】
線形バネ定数は、動的挙動を考慮したバネ定数でありフーチング下面で等価な変位を与える水平バネ及び回転バネとして与えている。ここで水平及び回転バネ定数は、杭の配置及び杭の形状によって大きく変化するが、本具体例では、橋紬直角方向の杭列数は一定とし、橋軸方向の杭列数を最小間隔で変化させることにより、上記二つのバネ定数は1対1対応となると仮定している。
【0063】
このような条件においては、水平バネ定数が求まれば、回転バネ定数もその従属関数として一義的に決定することができ、ある水平バネ定数Khに対して建設費が最小となる杭径を決定すればよいこととなる。このような理由から、本具体例では、杭基礎の動的挙動及び目的関数値を定義するシンボル化した値として、水平バネ定数Khを杭基礎の設計変数として採用した。
【0064】
(3)目的関数Wの設定(図1の第3ステップに対応)
▲1▼目的関数Wの定式化
本発明における最適設計問題においては、免震支承14,橋脚16及び基礎18の建設費の和を目的関数Wとした。この場合、前述した如く、橋脚16の免震支承14の建設費Wbiは、Qdの関数として、また、橋脚16の建設費Wpiは、Myの関数として、さらに、橋脚16の基礎18の建設費Wfは、khの関数として表され、目的関数Wは、次式で示すことができる。
【0065】
【式1】
【0066】
ここに、np:橋脚16の基数(=6)であり、Wbi:橋脚16の免震支承14の製作費であり、Wpi:橋脚16の建設費であり、Wfi:橋脚iの基礎18の建設費とする。
【0067】
次に、Wbi,Wpi,Wfiと設計変数との関係式について説明する。
a.免震支承14の降伏荷重Qdiと製作費Wbiとの関係式
本具体例では,上部構造12の重量は、一定値としているため、地震力が作用しない場合には、各橋脚16に作用する鉛直荷重が一定値となる。図9に死荷重反力Rdi=4500kN(i=1,6),5490kN(i=2,5),7150kN(i=3,4)の場合の免震支承14の降伏荷重Qdと製作費Wbiとの関係をプロットしたグラフを示している。
【0068】
図9を見ると明らかなように、降伏荷重Qdと製作費Wbiとの関係式は、単純な一次式で定式化でき、死荷重反力Rdiが増加するに伴い製作費も増加する。
この関係式は、以下のように表わされる。
Wbi=1.02Qdi+9000(千円)(i=1,6)
Wbi=1.84Qdi+9100(千円)(i=2,5)
Wbi=4.08Qdi+9250(千円)(i=3,4) (4)
【0069】
b.橋脚16の降伏曲げモーメントMyiと建設費Wpiとの関係式
一般に上部構造12からの死荷重反力と使用するコンクリートおよび,鉄筋の材質が既知である場合、橋脚16の降伏曲げモーメントMyiと建設費Wpiとの関係は、橋脚16の断面寸法と鉄筋量により異なるが、本具体例では、断面寸法が一定値で与えられるものとする。
【0070】
図10に、橋軸方向の柱幅を2.5m,橋軸直角方向の柱幅を5.0mの一定値とし、鉄筋量を変化させることにより得られる降伏曲げモーメントモーメントMyiと建設費Wpiとの関係を示している。
【0071】
一般的に、降伏曲げモーメントMyiと建設費Wpiと関係は、橋脚16に作用する鉛直方向の力(死荷重反力)の大きさにより異なった関係となるが、図2に示した免震橋梁10では、その影響がわずかであったので,各橋脚16とも図10に示す降伏曲げモーメントMyiと建設費Wpiとの関係を採用した。
この場合の関係式を以下に示す。
Wpi=0.056Myi+5250(千円) (5)
【0072】
c.基礎一地盤系の水平バネ定数Khiと建設費Wfiの関係式
一般に地盤条件と杭基礎の使用材料が既知である場合,橋脚16の基礎一地盤系の水平バネ定数Khiを算出する際に支配的な要素となるのは,杭の形状及び杭の配置である。
【0073】
本具体例では、橋棚方向の地震勤に着目しているため、全ての杭基礎の橋軸直角方向の杭配列は、3列とし,杭径と橋軸方向の杭配置を変化させて建設費Wfiとの関係式を求めた。
【0074】
図11に、一般的に使用される杭径1000mm,1200m,1500mmとした場合の橋軸方向の杭列数を2列,3列,4列と変化させて得られた水平バネ定数Khiと建設費Wfiとの関係をプロットしたグラフを示している。
【0075】
図11から判るように、いずれの杭径についても簡単な一次式で関係式を定式化でき,図2に示した免震橋脚10では、杭径1000mmと同1200mmの場合の水平バネ定数Khiと建設費Wfiの関係は、ほぼ同一の一次式で定式化できること、および、杭径1500mmの杭基礎よりも経済的に構築できることが判った。
【0076】
本具体例では、水平バネ定数Khiと建設費Wfiの関係が3変数の中で最も離散的であることを考慮し、杭径1000mmと同1200mmの場合を包括した関係式として定式化し、これを採用することにした。
基礎一地盤系の水平バネ定数Khiと建設費Wfiの関係式を以下に示す。
Wfi=0.0063Khi(千円)(i=1,‥・,6) (6)
【0077】
(4)非線形動的応答解析の方法(図1の第5ステップに対応)
本具体例では、直接積分法のNewmark−β法により非線形時刻歴応答解析を行った。ここで、β=1/4とし、積分時間間隔は、0.01秒、収束誤差は、0.0001以下とした。
なお、減衰マトリックスは、Rayleish減衰とし、本具体例では、主要なモードとして1次モードと3次モードを選んだ。
【0078】
(5)非線形動的挙動の制約条件の設定(図1の第6ステップに対応)
▲1▼非線形動的挙動の制約条件の定式化
本具体例は、非線形時刻歴応答解析で得られる免震支承14の橋脚16及び基礎18の最大応答水平変位に着目し、最適設計問題の制約条件を定式化した。大規模地震を受けた時の橋脚16の免震支承14の最大応答水平変位(免震支承14の水平方向の最大変形量)をδbi、橋脚16の最大応答水平変位(橋脚16の水平方向の最大曲げ変形量)をδpi、橋脚16の基礎18の最大応答水平変位(フーチング天端の水平方向の最大変位)をδfiとすると、非線形動的挙動の制約条件式は、次式で与えられる。
δbi−δbai≦0
δpi−δpai≦0
δfi−δfai≦0
(i=1,2,…,6) (7)
【0079】
ここに,δbai:橋脚16の免震支承14の許容水平変位、δpai:橋脚16の許容水平変位、δfai:橋脚16の基礎18の許容水平変位とする。上式における非線形動的挙動の許容水平変位の設定方法は、十分解明されていないのが現状であるが、ここでは,道路橋示方書に示されている地震時保有水平耐力法による許容変位を考慮することとし、以下にδbai,δbai,δfaiの設定方法を説明する。
【0080】
▲2▼免震支承14の許容水平変位δbaiの設定
橋脚16の免震支承14の許容水平変位δbaiは、道路橋示方書に従い、ゴム厚に許容せん断ひずみ250%を乗じて算出する。ここで、免震支承14のゴム厚は、設計変数Qdiの値によって異なるが、本具体例では、既往の設計例から橋脚16に作用する死荷重反力の10%を免震支承14の水平方向の降伏荷重Qdiとした場合のゴム厚を目安として許容水平変位δbaiを設定した。
【0081】
▲3▼橋脚16の許容水平変位δpaiの設定
橋脚16の許容水平変位δbaiは、道路示方書に従い以下の式により算出する。
δbai=μai×δyi (8)
ここで、μaiは、橋脚16の許容塑性率であり、δyiは、橋脚16の降伏変位とする。式(8)における橋脚16の許容塑性率μaiは、次式で表わされる。
【0082】
μai=1+(δui−δyi)/αδyi (9)
ここに、δuiは、橋脚16の終局変位であり、αは、安全係数である。なお、安全係数αは、道路橋示方書に示されているように、免震橋梁10の場合には、通常橋梁の2倍となる。
【0083】
ここで、本具体例では、設計変数Myiの変化に伴いμaiおよびδyiは、変化するが、図2に示した免震橋梁10では、許容水平変位μai×δyiがほぼ一定値となったため、橋脚16の許容水平変位δpaiは、設計変数Myiの値に関係なく一定値として設定した。
【0084】
▲4▼基礎18の許容水平変位δfaiの設定
橋脚16の基礎18の許容水平変位δfaiは、基礎構造に大きな損傷や主たる非線形性を生じさせないように設定するとともに、橋梁全体の安全性も考慮して設定した。
【0085】
本具体例では、地震時の桁間衝突等の問題を考慮して、上部構造12の位置での変形の和に着目し、免震支承14,橋脚16及び基礎18の変形の和が50.0cm程度以下となるように基礎18の許容水平変位δfaiを設定した。
【0086】
(6)実験計画法による最大応答水平変位の推定式の導入(図1の第4および第6ステップに対応)
▲1▼実験計画法の概要
実験計画法とは、システムのある特性を実験によって明らかにしたい時、その測定値を統計学的に解析し、その結果を用いて実験値を精度よくシミュレーションするための一手法である.
いま、例えば、実験によって得られる特性値zが、x1,x2,…,xnの要因によって影響を受けるものとすると、z=f(x1,x2,…,xn)と表される。
【0087】
この場合、各要因を3つの水準(3個の異なる値)に変化させ、各因子の水準の組み合わせにおける特性値zを実験により求め、これらの値を用いてzの推定式を決定する方法をn因子3水準型実験と称している。
【0088】
本具体例は、耐震設計の対象が免震橋梁10であって、橋軸方向に対称形であることから、免震支承14の降伏荷重Qdl〜Qd3,橋脚16の降伏曲げモーメントMy1〜My3、基礎18の杭のバネ定数Kh1〜Kh3の合計9個の設計変数を因子として設定し、非線形時刻歴応答解析法により得られた免震支承14,橋脚16,基掟18の各最大応答水平変位δbi,δpi,δfi(以下、これらをδmax=[δbi,δpi,δfi]Tと表わす)を特性値とし、n因子3水準型実験の結果を用いてδmaxの推定式を導入した。
【0089】
この場合、因子の総数が9個であるので、公知文献(田口玄一著、実験計画法、丸善株式会社発行)より、以下の表2に示す直交表における各因子の3つの水準レベル(1,2,3)の組み合わせ27通りについて解析(実験)を行い、それぞれのδmaxを求め、以下の式(10)に示すChebyshevの直交多項式を用いて、推定式を導入した。
y=b0+b1(A−A’)+b2{(A−A’)2−(a2−1)h2/12}+…… (10)
ここに、Aは、変数であり、A’は、水準平均値、aは、水準数、hは、水準間隔、b0,b1,b2は、各次数項の係数である。
【0090】
【表2】
【0091】
9因子のすべての離散的な水準の組合せ総数は、19683個となるが、上記の統計的手法を用いることにより、わずかに27個の離散的な水準の組合せの解析値を用いて、精度よく推定することができる。
【0092】
なお、実験計画法の手法においては、設計変数が4個までの場合には、直交表における9通りの解析で推定式を導入することができ、設計変数が13個までの場合には、本具体例と同様に27通りの解析で導入することができる。
【0093】
▲2▼初期水準値の設定
本具体例で用いている解析モデルの各設計変数Qdl〜Qd3,My1〜My3,Kh1〜Kh3の第1〜第3水準の初期値を、以下の表3に示すように設定し、それぞれの水準値を用いて、表2の組合せについて非線形時刻歴解析を行った。
【0094】
【表3】
【0095】
この表に示した初期水準値については、理論的には、水準値間の差が一定値となるように無作為に設定することもできるが、本具体例では、初期水準値を既往の設計例を参考にして、以下のように設定した。
【0096】
a.免震支承14の降伏荷重Qdiの水準値
免震支承14の降伏荷重Qdiは、常時の水平変位の増大を抑え免震効果を期待できる範囲で設定した。本具体例では、支持する上部構造重量の最も小さい両端の橋脚16に着目し、その重量の10%を降伏荷重とするものを第1水準とし、20%を降伏荷重とするものを第2水準とし、30%を降伏荷重とするものを第3水準とした。
【0097】
b.橋脚16の降伏曲げモーメントMyiの水準値
橋脚16の降伏曲げモーメントMyiの水準値は、震度法レベルの地震動に対して、安全である範囲内で設定した。本具体例では、橋軸方向の柱幅を2.5mで一定とし、直径が25mmの鉄筋を2段配筋した場合の降伏曲げモーメントを第1水準とし、直径が29mmの鉄筋を2段配筋した場合の降伏曲げモーメントを第2水準とし、直径が32mmの鉄筋を2段配筋した場合の降伏曲げモーメントを第3水準とした。
【0098】
c.基礎−地盤系の水平バネ定数Khiの水準値
基礎−地盤系の水平バネ定数Khiの水準値は、橋軸直角方向の杭列数を3列で一定とし、径1000mmの杭を2列橋軸方向に配置した場合の水平バネ定数を第1水準とし、同3列に配置した場合の水平バネ定数を第2水準とし、同4列に配置した場合の水平バネ定数を第3水準とした。
【0099】
▲3▼最大応答水平変位の推定式の導入
以上に述べた方法により、免震支承14,橋脚16,基礎18の最大応答水平変位の推定式を導入した。例として、以下に橋脚16(i=1…6)の免震支承14の最大応答変位の推定式を示す。
【0100】
【式3】
【0101】
以下に示した表4は、表2に示した27通りの組合せについて、解析値と推定式より得られた推定値を比較したものである。解析値と推定値との誤差は、いずれも5%以下となっていて、精度よく応答水平変位を推定できることを確認した。
【0102】
【表4】
【0103】
(7)最適設計問題の定式化及び最適化手法(図1の第7ステップに対応)
前述した推定式を用いて非線形動的挙動の制約条件を定式化し、目的関数Wを最小にするよう設計変数Qdi,Myi,Khiを決定する最適化問題を以下のように定式化する。
【0104】
【式4】
【0105】
なお、本具体例では、式(12)で示した最適設計問題を解く手法として、ラグランジュ関数を用いた双対法を採用しているが、この方法により最適解を求めるアルゴリズム自体は、公知であって、例えば、「大久保禎二,谷脇一弘、双対理論および部材のSuboptimizationによるトラス構造物の最適設計法」土木学会論文集1984年10月に詳述されている。
【0106】
(8)最適設計例
▲1▼設計に用いた大規模地震動
以上述べた方法により免震橋梁の最適耐震設計を行った。設計例に用いた地震動としては,道路橋示方書で規定されている標準加速度波形(タイプII地震動−II種地盤−3,兵庫県南部地震,大阪ガス葺合供給所構内地盤上)を用いた。
【0107】
▲2▼許容水平変位
各構造要素の許容水平変位としては,地震時保有水平耐力法で規定している許容水平変位を採用した。免震支承14の許容水平変位δbaiは、各橋脚16に作用する死荷重反力の10%を免震支承14の降伏荷重とした場合のゴム厚に250%を乗じて算出した。本設計例では、各橋脚16のゴム厚が13.5cm程度であったため、許容水平変位δbaiを34.0cmとした。
【0108】
橋脚16の許容水平変位δpaiは,各橋脚16の降伏変位に許容塑性率を乗じて算出した。本設計例では、各橋脚16の許容水平変位δpaiは、死荷重反力の差による影響は少なくほぼ一定値となることを碓認し、14.0cmに設定した。
【0109】
基礎18の許容水平変位δfaiは、基礎18,橋脚16及び免震支承14の変形の和が50.0cm程度以下となるように設定した。本設計例では、δbai,δpai値を考慮し、各橋脚16の基礎18の許容水平変位δfaiを3.0cmとした。この値は、震度法による許容水平変位1.5cmの2倍に相当している。
【0110】
なお、本設計例では、許容水平変位が変化した場合の最適値の変化をみるため、橋脚16の許容水平変位δpaiを12.0cm,16.0cmとした場合の最適設計も行い、各設計条件に対する最適解を比較した。
【0111】
▲3▼各設計変数の最適値の比較
免震支承14の許容水平変位δbaiを34.0cm、基礎18の許容水平変位的δfaiを3.0cmとし、かつ橋脚16の許容水平変位δpaiを16.0cm,14.0cm,12.0cmと変化させた場合の設計変数Qdi,Myi,Khiの最適値の比較を表5に示している。
【0112】
この場合、各設計変数の初期値として第2水準の値を用い、設計変数の1回の改良における改良限度(movelimit)は、いずれの場合も20%とした。なお、各設計変数の初期値を変化させた場合に同一の最適解が得られるか確認するため、免震支承14の許容水平変位δbaiを34.0cm、橋脚16の許容水平変位δpaiを16cm,基礎18の許容水平変位δfaiを3.0cmとし、各設計変数の初期値として、表3の第1水準値及び第3水準値を用いた場合の最適解を表6に示している。
【0113】
【表5】
【0114】
【表6】
【0115】
表5及び表6のITE欄に示すように、いずれの設計条件の最適値も最大10回の繰り返し改良により求められており、本発明の最適化手法により、きわめて能率的に最適解が求められることが明らかとなった。ここで各制約条件の最適解においては、δb,δpおよびδfに関する制約条件が全てアクティブとなっている。
【0116】
また、表6に示す各設計変数の初期値を変化させて得られた最適解は、全く同じ値となっており、本発明で述べた方法により全域的な最適解が得られていると判断することができる。
【0117】
なお,最大応答水平変位は、水準1,2,3の値を用いて実験計画法により決定されているため、設計変数の改良の過程で改良値が第1水準あるいは第3水準の外側にくる場合には、正確な制約条件が得られないため、異なる方向に改良することがあり得る。従って設計変数が第1水準あるいは第3水準の範囲を越えて改良が行われる場合には、改めてその近傍の最大応答変位曲面を近似し直す必要がある。
【0118】
表5に示す最適値における降伏震度すなわち各構造要素の降伏耐力をその要素より上部にある要素の重量で除した値は、免震支承14については、0.11〜0.31の範囲,橋脚16については、0.29〜0.42の範囲となっている。
【0119】
また、最適値における最大応答塑性率すなわち各構造要素の最大応答変位を降伏変位で除した値は,免震支承14については、10.8〜24.1の範囲、橋脚16については、2.61〜3.86の範囲となっている。
【0120】
各橋脚16の免震支承14の降伏荷重Qdの最適値を比較すると、死荷重反力が大きいため単位Qdの建設費が、他の橋脚16のそれと比較して大きくなる橋脚16(P3,P4)の免震支承14の降伏震度が他の橋脚16と比べて小さくなっている。
【0121】
さらに、橋脚16の最適値についても、橋脚16(P3,P4)の降伏震度が小さくなっている。これらのことは、死荷重反力が大きく建設単価が大きい橋脚16の免震支承14及び橋脚16を他の橋脚より塑性変形しやすくし、剛性の大きい他の橋脚16に地震力を多く負担させる方が、免震橋梁10の建設費を最小化するという観点から、より効果的となる事を示している。
【0122】
この傾向は、橋脚16の許容水平変位δpaiが大きくなる従い顕著になっていることが判明した。
▲4▼最適値の信頼性の確認
表5で得られた最適値の信頼性を確認するため、設計変数の最適値を用いて非線形時刻歴応答解析を行い、推定式で算出される最大応答水平変位との誤差を確認した。
【0123】
表7に橋脚16の許容水平変位δpaiを14.0cmとした場合の比較表を示している。
【0124】
【表7】
【0125】
表7に示した結果から、最大応答水平変位の推定値と非線形時刻歴応答解析による最大応答水平変位の誤差は、いずれも10%以内で、平均誤差は4.5%となっていて、実験計画法の手法により精度よく最大応答水平変位が推定できることが確認できた。
【0126】
表7において橋脚16の誤差が他の構造要素の誤差に比べ若干大きくなっているが、これは、橋脚天端の水平変位が橋脚基部の回転角のわずかな変化によっても大きな変化を受けるためであると思われる。
【0127】
なお、上記実施例や具体例では、本発明を免震橋梁に適用した場合を例示したが、本発明の実施は、これに限定されることはなく、免震構造を採用しない橋梁の耐震設計や、橋梁以外の免震構造物および非免震構造物の耐震設計に適用することもできる。
【0128】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明にかかる構造物の耐震設計方法によれば、最も経済的に建設できる構造物を、耐震性を確保のための繰り返し計算回数が少なく効率的に設計することができる。
【0129】
また、最適化の過程を数理計画法の手法を用いて計算機により行っているので、構造物が最も経済的となる設計変数の値を、理論的に正確に、かつ、計算機により自動的に、短時間で決定することができる。
【0130】
この場合、本発明では、実験計画法とラグランジェ関数を用いた双対法(数理計画法)とを組み合わせることで、複雑な非線形動的挙動を示す構造物の、複数の構成要素の非線形動的特性の全域的で、かつ、もっとも経済的な最適値を、非常に少ない反復改良で効率的に設計することができる。
【0131】
また、大規模地震を受け非線形動的挙動を示す橋梁の最適設計問題の定式化において、各構造要素の非線形履歴特性の代表値を象徴的な連続設計変数として取り扱うことにより、複維な非線形動的挙動を取り扱う最適設計問題を単純にすることができる。
【0132】
さらに、実験計画法の手法を用いることにより、大規模地震を受ける多径間橋梁システムの非線形時刻歴応答変位を、設計変数が4個までの場合には、9回の非線形解析、設計変数が13個までの場合には、27回の非線形解析を行い、えられた解析結果を利用することにより、精度よく推定式を導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる構造物の耐震設計方法の設計手順を順に示すフローチャート図である。
【図2】図1の設計方法を適用する免震橋梁の説明図である。
【図3】図2に示した免震橋梁の非線形時刻歴応答解析モデルの説明図である。
【図4】図2に示した免震橋梁の免震支承の非線形履歴特性図である。
【図5】図2に示した免震橋脚の橋脚の非線形履歴特性図である。
【図6】本発明の具体例で想定した免震橋梁の地盤条件の説明図である。
【図7】本発明の具体例で想定した免震支承のバイリニアモデルの特性図である。
【図8】本発明の具体例で想定した橋脚のバイリニアモデルの特性図である。
【図9】本発明の具体例で想定した免震支承の降伏荷重と製作費との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の具体例で想定した橋脚の曲げモーメントと建設費との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の具体例で想定した杭基礎の水平バネ定数と建設費との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10 免震橋梁
12 上部構造
14 免震支承
16 橋脚
18 基礎
Claims (5)
- 橋梁などの土木,建築構造物の耐震設計方法において、
前記構造物の構成要素を抽出し、前記構成要素毎に、非線形動的応答解析に必要な構造諸元を決定して、非線形動的応答解析モデルを設定する第1ステップと、
前記構造諸元を前記構成要素毎に、その非線形挙動を示す特性値が含まれるように設計変数を設定する第2ステップと、
前記設計変数をパラメータとして、前記各構成要素毎の建設費を表わす目的関数を設定する第3ステップと、
前記非線形挙動に対して、地震規模の大きさに対応して、前記設計変数に複数の水準を設定する第4ステップと、
前記設計変数の前記複数の水準組合せにおける前記非線形動的応答解析処理を行う第5ステップと、
前記非線形動的応答解析処理の結果を用いて、制約条件で考慮すべき動的挙動の推定式を実験計画法に基づいて作成し、前記動的挙動の制約条件を設定する第6ステップと、
最適化問題を定式化して、数理計画法に基づいて、前記設計変数の改良解を求める第7ステップと、
前記第4〜第7ステップの過程を必要に応じて繰り返すことにより最適解を決定する構造物の耐震設計方法。 - 前記第4ステップでは、前記水準を3水準とし、前記設計変数との組合せを実験計画法の直交表により決定することを特徴とする請求項1記載の構造物の耐震設計方法。
- 前記構造物は、免震構造を備えた橋梁であって、前記構成要素を上部構造,各橋脚の免震支承,橋脚,基礎とすることを特徴とする請求項1または2記載の構造物の耐震設計方法。
- 前記設計変数は、前記免震支承の非線形挙動を示す特性値として、せん断バネ定数を選択し、その降伏荷重を前記免震支承の前記設計変数に設定するとともに、前記橋脚の非線形挙動を示す特性値として、曲げ剛性を選択し、その降伏曲げモーメントを前記橋脚の前記設計変数に設定することを特徴とする請求項3記載の構造物の耐震設計方法。
- 前記第7ステップは、前記最適化問題をラグランジュ関数を用いた双対法により解いて、前記設計変数の改良解を求めるステップと、
前記構造物の建設費および前記設計変数の値が一定値に収束したことを判断するステップと、
得られた改良解が水準内にあるか否かを判断するステップとを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の構造物の耐震設計方法。
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