JP3797567B2 - 光ファイバ用母材の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は一又は複数のコアの周囲にクラッド層が形成されて成る光ファイバ用母材の製造方法に係り、特に従来のコアとクラッドが同心状に配置されてなる石英系充填コアクラッド形光ファイバに加えて偏心コアファイバ、2コアファイバのような異形ファイバ若しくは伝送コアの両側にコア状応力付与部を具えた偏波保持ファイバ等の光ファイバ用母材を容易に製造するための光ファイバ用母材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、光ファイバは光通信用に加えて、エネルギー伝送用や光応用・計測用に用いるものが種々開発されている。
例えば光応用計測用ファイバは通常の通信用ファイバと比べてそのコア形状等の断面構造等で種々の違いが見られる。
例えば図3(A)には、コア31をクラッド32の周縁側に偏心させた偏心コアファイバ33が開示されており、かかる偏心コアファイバ33では光のフィールドの裾がファイバの外まで広がっているので、ファイバの外側面に液体が付着すると、光の減衰の有無として検知できる。
又図3(B)には、二つのコア32をクラッド31に挿設した2コアファイバ34が開示されており、かかる2コアファイバでは、例えば受信側と送信側で複数の伝送路を独立して形成できる。
更に図3(C)には、伝送用の通信コア31の両側に、一対のコア状応力付与部31’を挿設した偏波ファイバ35が開示されており、かかる偏波ファイバ35では、応力付与部を結ぶ方向に偏波面を持つ直線偏波と、それと直交する方向に偏波面を持つ直線偏波の2つの固有モードが伝播可能である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
さて従来より、前記した光ファイバ母材を製造する方法の一つとして粉末成型法を応用した技術が提案されている。
例えば、特開平62−65947号、特開平4−124043号においては、成型容器内にコア材としてのシリカガラスロッドを入れ、その周囲にクラッド材となり得る粉末を充填し、そのまま熱間静水圧プレスで仮焼結して多孔質ガラス成形体を形成し、その後成形容器より前記多孔質体を取りだし、脱水焼結して透明ガラス化を完了させる。
【0004】
しかしながら前記従来技術においては、仮焼結による多孔質ガラス成形体を形成する工程、成形容器より前記多孔質体を取りだした後脱水焼結を行う工程、という2つの工程を必要とするのみならず、仮焼結の都度成形容器より多孔質体を取り出さなければならず、工程が煩雑化する。
【0005】
かかる欠点を解消するために、前記仮焼結後の多孔質体を押出し成形により排出するようにした通路を有する容器を具えた石英系ガラス母材の製造方法を特開平4−124042号公報で提案している。
【0006】
しかしながらかかる従来技術においても、多孔質体形成と脱水/透明ガラス化工程と2〜3の工程を必要とすることには変わりがなく、しかも通路を有する容器はその形状が中々複雑化し、製造コスト及び設備コストの増大につながる。
【0007】
また前記いずれの従来技術においても、基本的に成型容器(型枠)が必要とされ、また容器とシリカガラス粉末が接触しているために、溶融時成型型枠からの汚染がある。このため特開平62−65947号等では前記容器を石英ガラス製にしているが、該容器は成形の都度変形等により廃棄せねばならず、これは製造コストの無用な増大につながる。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑み、粉末成型法を用いるも多孔質体形成工程と脱水/透明ガラス化工程と複数の工程を必要とすることなく一工程で透明ガラス状のファイバ用シリカガラス母材を得ることの出来る発明を提供する事にある。
本発明の他の目的は透明ガラス化工程で気泡等が発生することなく、高寸法精度、表面に擦り傷のない事、高純度等の品質条件を容易にクリアできるファイバ用シリカガラス母材の製造方法を提供する事にある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、一又は複数のコア若しくはコア状応力付与部の周囲にクラッド層が形成されて成る光ファイバ用母材の製造方法において、
シリカガラス製の外管内に前記一又は複数のコア若しくはコア状応力付与部を形成する一又は複数のシリカガラス棒を挿入すると共に、該外管とシリカガラス棒間にシリカを主成分とする粉状体を充填してシリカ粉充填体を形成すると共に、前記粉状体充填域を減圧雰囲気に維持しながら帯域溶融にて前記シリカ粉充填体を軸方向に沿って順次加熱溶融しながら延伸させることを要旨とし、好ましくは前記帯域溶融後の延伸を、帯域溶融前の外管外径の1/2以下より好ましくは1/3以下の直径になるように延伸させて光ファイバ用母材を製造することを特徴とするものである。
【0010】
この場合一般的には前記シリカ粉充填体を垂直下方に移動させた方が装置の小形化の面で好ましいが、前記帯域溶融の為の加熱手段をシリカ粉充填体の軸方向に、下端側より上方に向け移動させてもよい。この場合、シリカ粉充填体を軸回転させながら帯域溶融させるのがより好ましい。
又前記充填域内の減圧雰囲気は1Torr以下の真空であること事が好ましい。
【0011】
かかる発明によれば、シリカ粉充填体全体を加熱するのではなく、減圧下で該シリカ粉充填体下端より上端に向けて帯域溶融にてリングゾーン状に徐々に加熱するものであるために、粉状ガラス体内よりの析出ガスや残存ガスが巻き込まれることなく実質的に無気泡で加熱溶融できる。
【0012】
又本発明では成形容器等を用いずに、シリカガラス製外管は成形枠として機能し、帯域溶融後は該外管と粉状体が一体化してクラッド部位として機能するため、成形枠部分が有効に活用されることになる。
又1本のガラス体を直接帯域溶融出来るために、例えば外径60〜200mm、原料粉充填長1〜10mの大口径のシリカガラス製外管を用いて製造する事も可能であり、この結果光ファイバ用母材の製造が容易である。
尚、前記帯域溶融手段として請求項1記載の発明では円形電気炉を用いているが、請求項2、3、4記載の発明ではこれのみに限定されない。
【0013】
また、本発明はシリカを主成分とする粉状体として結晶質シリカ粉又は非晶質シリカ粉のいずれも用いることが可能である。結晶質シリカ粉を用いた場合、例えば水晶粉等の結晶質シリカ粉は1730℃にメルティングポイントを有する為に1730℃以上に加熱帯域溶融する事により一気に溶融させ、溶融ガラス内の気泡発生を極力抑える事が出来る。
しかしながら水晶粉等の結晶質シリカ粉は、573℃にα型からβ型への転移点を有するために、加熱開始時から外管の粘度が低下するまでの間に該外管内部の水晶粉のα型からβ型への転移による急激な膨張により外管の破壊が生じてしまう。
【0014】
そこで、前記粉状体の充填域内へ充填されるシリカ原料粉が天然水晶粉、合成水晶粉、合成クリストバライト粉の結晶質シリカ粉を用いる場合は、シリカ粉充填体の充填域内先端に非晶質シリカを主成分とする粉状体を充填し、その後水晶粉その他の結晶質シリカを主成分とする主原料シリカ粉を充填するのがよい。
この結果最初に帯域加熱される充填域下端側に、言い換えれば加熱開始時に外管の粘度が低下する前の区域に、前記転移点のない非晶質シリカ粉を主成分とする粉状体が存在するために、α型からβ型への転移自体が存在せず外管の破壊を阻止し得る。
【0015】
そしてその上方域は既に帯域溶融部のヒートゾーン(均熱幅域)の予熱により外管の粘度が低下し、その部分の結晶質シリカ粉がα型からβ型への転移による急激な膨張が生じても外管の破壊を有効に阻止し得る。
尚、前記非晶質シリカ粉の充填長さは、帯域加熱手段のヒートゾーン(均熱幅域)より大、具体的には前記帯域溶融を円筒型電気炉で行う場合に、先端に非晶質シリカ粉を主成分とする粉状体を円筒型電気炉の均熱長さ以上になるように入れる事が必要である。しかし余りに大量に投入すると実質的な無気泡域が少なくなり生産性が低下するために、好ましくは粉状体の全充填量の20%未満がよい。
【0016】
また前記結晶質シリカ粉は、天然水晶粉、合成水晶粉、合成クリストバライト粉のいずれかであり、粒径が10〜1000μm、好ましくは20〜500μm、より好ましくは50〜200の範囲でかつ10μm未満の微粒子含有比率が0.1wt%以下である事が必要である。
【0017】
けだし、前記粒径が10μm未満では、例え充填域を真空引きしても内部まで真空にする事が出来ず、又帯域溶融でも気泡がぬけにくくなってしまい、溶融したシリカガラス中に気泡が多量に含まれてしまい、且つ断熱効果により均一な伝熱を困難にする。
又、粒径が1000μm以上では、溶融時均一にならなかったり、同様に例え水晶粉を用いても粉体間の空隙により気泡の発生を解消出来ない。
【0018】
高純度の光ファイバ用母材の製造を目的とする場合、前記の様に結晶質シリカ粉を用いる事が出来ない場合がある。
この様な場合は、合成シリカガラスのように高純度非晶質シリカ粉を用いても実質的な無気泡な光ファイバ用母材が製造できればよい。
このためには非晶質シリカ粉をあらかじめ水素含有雰囲気若しくはヘリウム含有雰囲気にて600〜1200℃の範囲にて加熱処理を行なった後、シリカ粉充填体を形成し、帯域溶融する必要がある。
【0019】
この結果、前記帯域溶融時に水素やヘリウムからなる残留ガスが存在しても溶融時にこれらが溶融ガラス中に吸蔵/ドープされ、気泡の発生を阻止できる。
そしてこの様に非晶質のシリカ粉のみを原料とする場合には外管下端部分も同じ非晶質シリカ粉を充填する。
【0020】
光エネルギー伝送用ファイバ母材のように、シリカガラス棒としてゲルマニウム等の絶対屈折率を上げるためのドーパントの含まれていない高純度合成シリカガラス棒を使用する場合において、シリカを主成分とする粉状体としてフッ素またはホウ素の少なくとも1種類が含有されているシリカ粉を用い、そして溶融後のシリカガラスロッドの絶対屈折率が波長589nmにおいて、1.450以下に設定するのが良い。
【0021】
また本発明は、シリカ粉充填体の帯域加熱手段内への(重力方向の)送り速度と該帯域加熱手段により溶融された棒状透明シリカガラス体の引き速度を制御することにより実質的に無気泡の光ファイバ用母材を得る事が出来る。
送り速度と引き速度のみの制御により寸法制御を行うものであるために、すなわち非接触で且つ重力方向における引きで寸法制御を行うために、高寸法精度で且つ表面に擦り傷のないシリカガラスロッドを得る事が出来る。
【0022】
そして送り速度と該引き速度を制御して、前記溶融前のシリカ粉充填体の直径Bと棒状透明シリカガラス体の直径Aの比(B/A)が2倍以上、好ましくは3倍以上になるようにすることにより、一層の高精度寸法の達成とともに、表面の擦り傷発生阻止を図る事が出来る。
【0023】
また本発明に用いる外管の肉厚は、最小0.2mmであり、(外径)×2%〜(外径)×20%の厚み、より具体的には外径が30〜200mmの範囲で、外径の2〜20%の厚みを有する外管を用いるのが良い。
即ち肉厚は0.5mm未満若しくは2%以下では強度と耐熱性が不足し、又外管の肉厚が(外径)×20%以上では粉状体への熱伝導が遅延しその分加熱時間が長くなると共に、シリカ原料粉の充填量が少なくなるために、経済性も低下する。
【0024】
本発明で製造されるファイバ母材は、コア若しくはコア状応力付与部をファイバ母材断面の任意の位置に設定できるために、偏心コアファイバや複数コアファイバを製造する場合有利な製造方法である。
【0025】
従って本発明により得られたファイバ母材(以下母材と言う)は、母材外径寸法精度がよいこと、外表面に擦り傷のないこと、気泡の含有が少ないこと、少量のシリカ原料粉からでも作成できること、電気炉を汚染することなく特定元素がドープされたシリカガラスを得られること、シリカ原料粉の高純度が保存されていること、母材のコア部分の位置が精度良く設定される、等の有利性を有し、この為、後記する各種用途のファイバ母材を得ることが出来る。
偏心コアファイバ、2コアファイバのような異形ファイバ若しくは伝送コアの両側にコア状応力付与部を具えた偏波保持ファイバのような光応用、計測コアファイバに加えてコア部(シリカガラス棒部分)が塩素100wtppm以下、繊維金属元素Ti,Cr,Fe,Ni,Cuの合計含有量が10wtppb以下の高純度合成シリカガラスであり、クラッド部がシリカ原料粉の溶融されたコア部に比較して相対的に低い、光エネルギー伝送用ファイバ等のファイバ母材の製造も可能である。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下図面を参照して本発明の製造手順としての実施形態を説明する。
但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がないかぎりは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
(1)外管1及びシリカガラス棒2の準備
外径30〜200mmの範囲、肉厚は外径の2〜20%の範囲(最低肉厚0.5mm以上)、長さ1〜5mの範囲の外管1を準備する。 この外管1の材質は溶融天然石英ガラス又は合成シリカガラスのいずれでも使用可能である。
【0027】
次に直径が外管用チューブ内径より小であるシリカガラス棒を1又は複数本準備する。このシリカガラス棒の材質は溶融天然石英ガラス又は合成シリカガラスのいずれでも使用可能であるが、光伝送損失を少なくする為には、高純度合成シリカガラスの方が適しており、特に光エネルギー伝送用ファイバ等のファイバ母材の製造には、塩素100wtppm以下、遷移金属元素Ti,Cr,Fe,Ni,Cuの合計含有量が10wtppb以下の高純度合成シリカガラスが好ましい。
【0028】
外管1とシリカガラス棒2の寸法を決める基準は、製造しようとするファイバ用シリカガラス母材9のレシオ(母材の直径/コア部の直径)と、ファイバ用シリカガラス母材9の直径寸法により決まって来る。
すなわち、(外管1の外径/シリカガラス棒2の直径)の比率は(ファイバ用シリカガラス母材9の直径/コア直径)のレシオより同じか、若干大きめに設定する必要がある。
また、外管1の外径は、製造後のファイバ用シリカガラス母材9外径の2倍以上、好ましくは3倍以上とすることが好ましい。
【0029】
例えば、製造しようとするファイバ用シリカガラス母材9の直径が30mm、コア部直径が20mmの時、外管1の外径は120mm、シリカガラス棒2の直径は80mmとなるのが良い。
尚、(外管1の外径/シリカガラス棒2の直径)の比率をファイバ用シリカガラス母材9のレシオより同じか、若干大きめに設定する理由は、シリカ原料粉を充填したシリカ粉充填体10を加熱溶融して延伸する手法のために、基本的にはレシオをほぼ一定に保持する方向にしか制御不可能であることによる。
外管1、シリカガラス棒2の各長さは、製造しようとするファイバ用シリカガラス母材9の数量、合計重量と、充填するシリカ原料粉の必要重量から任意に決まる。
【0030】
外管1の外径を30〜200mm範囲とした理由は、外径が200mmを越えるとシリカ粉充填体の円筒型電気炉を使っての溶融が、技術的に、工業的に困難となるためであり、30mm未満のシリカガラス中空体を溶融して例えば5mm程度の小口径のファイバ用シリカガラス母材9を製造することは技術的に可能であるが、経済性が低いためである。
また、外管1の外径を、製造後のファイバ用シリカガラス母材9の直径の2倍以上、好ましくは3倍以上とした理由は、本発明が加熱溶融して延伸する手法の為に、この倍率を大きくする方がシリカガラス母材の直径制御が正確にやりやすい為である。
【0031】
(2)シリカガラス中空体10の作成
図1〜2に示すように、大口径のシリカガラス外管1内に、小口径のシリカガラス棒2を1本または複数本挿入し、これら管体の下端には、シリカガラス棒2と外管1との間を封止板3にて加熱融着し、 外管1とシリカガラス棒2の空隙(充填域)4にシリカ粉体原料を充填できるような形に形成する。
一方前記シリカガラス中空体10の上端側の、外管1とシリカガラス棒2の間には蓋板6を設けると共に、該蓋板6に真空引き用ポンプへ接続するためのフランジ付き枝管5を設ける。
【0032】
(3)前記シリカガラス中空体10の熱歪除去/洗浄処理
前記のように形成したシリカガラス中空体10を1050゜Cで10hrs加熱処理を行ない、熱歪除去処理を行った後、10wt%フッ化水素水溶液に前記ガラス体10を10min浸し洗浄およびマイクロクラックの除去を行なった後、清浄な雰囲気で乾燥を行なう。
【0033】
(4)シリカ原料粉の準備
本発明ではシリカガラス中空体に挿入されているシリカガラス棒2が、ファイバ母材のコア部分となり、外管1とシリカ原料粉7充填部分がクラッド部分となる。
従って例えば光エネルギー伝送用ファイバ母材の製造において、シリカガラス棒2としてゲルマニウム等の絶対屈折率を上げるためのドーパントの含まれていない高純度合成シリカガラス棒を使用した場合、シリカ原料粉7には絶対屈折率を下げるためフッ素またはホウ素を含有させ、そして溶融後のシリカガラスファイバ母材9のクラッド部分の絶対屈折率が波長589nmにおいて、1.450以下に設定するのが良い。
【0034】
シリカ原料粉7の種類は、天然水晶、合成水晶、合成クリストバライト、合成シリカガラスのいずれか1種類以上を用いるが、前記絶対屈折率の制御を行うシリカ原料粉7の製造を行う為には原料粉7にほう素の化合物、例えばオルトホウ酸H3BO3を水溶液とし、混合乾燥して該原料粉を製造することも可能である。又ゾルゲル法によってほう素を所定濃度ドープした合成シリカガラス粉や合成クリストバライト粉も製造可能である。
あるいは、CVDスート法によりフッ素またはホウ素の少なくともいずれか一方を含有するスート粉を作成し、次いでこのスート粉を必要に応じ造粒して、原料シリカ粉としてもよい。
さらに、天然水晶粉、天然石英粉にホウ素であれば三酸化二ホウ素B23 、ホウ酸H3 BO3 等の化合物を混合させたものを原料シリカ粉として用いても良い。
【0035】
前記粒径は0.01〜1mmの範囲が好ましい。これ以下では真空引き時に、圧力損失が大きくなり充分に減圧雰囲気とすることが困難となり、溶融したシリカガラス中に小さな気泡が多くなってしまう。また、これ以上では、シリカ原料粉7をシリカガラス中空体10に充填した時の充填密度が上がらず、溶融したシリカガラス中に大きな気泡が残りやすくなる。
【0036】
シリカ原料粉7の純度は、高純度が必要であり、具体的には主要不純物元素LiとCaが500wtppb以下、Na、Mg、Kが100wtppb以下、より好ましくは5元素同時に各々50wtppb以下が良い。理由としては、これら不純物元素を高濃度で含有するシリカ原料粉7を使ってファイバ用母材9を製造した後、線引するときに、不純物が核生成剤となり、再結晶化を起こしやすくなり、最悪の場合ファイバが途中で折れてしまうことがあるからである。
【0037】
また、このようなシリカ原料粉7をあらかじめ真空中、水素含有雰囲気若しくはヘリウム含有雰囲気にて600〜1200℃の範囲にて加熱処理を行なうとその後の溶融時のシリカガラス中の泡の量が少なくなる。
【0038】
(5)シリカガラス中空体10へのシリカ原料粉7の充填によるシリカ粉充填体の作成
主原料シリカ粉に結晶質シリカを用いる場合は、図2に示すように、シリカガラス中空体10のシリカガラス棒2と外管1との間の下端部分には合成シリカガラス粉7aを入れ、次いで結晶質シリカ粉7bを入れるか、徐々に結晶粉の比率を大きくしたシリカ粉を入れていく。
下端のシリカガラス粉7aの充填長さは、溶融に使用する円筒型電気炉8のヒートゾーンL(均熱幅域)より大きくしなければならない。この理由は、前記した通りである。
尚、主原料シリカ粉としてすべてを非晶質シリカ粉とする場合は、先端部分からすべて同一種類のシリカガラス粉7を順次充填すれば良い。
【0039】
従って本実施例においては、図2に示すように、前記蓋板5のフランジ付き枝管5より先ず合成シリカガラス粉7aを投入し、次いで天然水晶粉7bで充填域4を充填した。この場合合成シリカガラス粉体層7aの長さが円筒型電気炉8のヒートゾーンL(均熱幅域)より大にする。
【0040】
(6)ヒータ(円筒型電気炉)8を使った帯域溶融透明ガラス化
次に図1に示すように、前記蓋板5のフランジ付き枝管5よりシリカガラス棒2と外管1の間のシリカ粉体7の充填域4内を1Torr以下に真空引きした後、シリカ粉充填体10の先端部分を円筒型電気炉8に挿入し、電気加熱を開始する。先端部分が溶融落下したら、次にシリカ粉充填体10のヒータ8への投入速度と、帯域溶融して出て来た光ファイバ用母材9の引き速度を制御しながら延伸を行う。
【0041】
得られる光ファイバ用母材9の直径、コア部直径の寸法が一定し、安定するまで、上述の項目の微調整をくり返し行なう。光ファイバ用母材9の外径は、シリカ粉充填体10の外径の1/3以下であれば、制御が容易である。
【0042】
【実施例】
次に前記実施態様に基づく実施例を説明する。
本実施例は便宜的に1本のコアとその周囲にクラッドが同心状に位置する同心コアシリカガラス系ファイバ母材の製造に関するが、かかる同心充填コアクラッド形光ファイバに加えて偏心コアファイバ、2コアファイバのような異形ファイバ若しくは光伝送用コアの両側にコア状応力付与部を具えた偏波保持ファイバ等の光ファイバ用母材を製造するのも前記実施対応から容易に製造可能である。
【0043】
外管1及びシリカガラス棒2の準備:
天然石英粉の電気加熱溶融法で製造した信越石英(株)製のHeralux-E-LAを用いて外径160mm、肉厚6mm、長さ2mの外管1を製造する。
一方シリカガラス棒2は四塩化珪素原料の酸水素火炎加水分解法である信越石英(株)製のSuprasil−F310を用い、直径120mm、長さ1.5mのシリカガラス棒2を用意する。
シリカガラス棒2はCl含有量10wtppm、主要不純物元素Tiが0.1wtppb、Crが0.01wtppb、Feが0.1wtppb、Niが0.01wtppb、Cuが0.01wtppbであった。尚、Cl分析は比濁法、他の金属元素は誘導結合プラズマ質量分析法による。
【0044】
シリカガラス中空体10の作成:
酸水素バーナ加熱加工により、図2に示す二重構造のシリカガラス中空体10を作成する。
シリカガラス中空体10の熱歪除去/洗浄処理:
横型円筒型電気加熱炉により、1100℃,5hrsの加熱歪処理を行ない、その後室温まで徐冷却し、次に3wt%フッ素水素酸水溶液にてエッチング洗浄を行ない、続いてイオン交換水にて洗浄を行ない、乾燥した。
【0045】
シリカ原料粉7の調整:
フッ素2mol%含有のシリカガラス微粉末をCVDスート法により合成した。次いでこの微粉末を造粒し、加熱処理にてクリストバライト化し、粒径10〜200μmの範囲に調整した。
シリカガラス粉の調整:
ゾルゲル法にて合成シリカガラス粉を作成し、 粒径を10μm〜500μmの範囲に調整した。
シリカガラス中空体10へのシリカ原料粉7の充填によるシリカ粉充填体の作成:
先端に約2kgのシリカガラス粉を充填した。充填長さは約200mmとした。この理由は帯域溶融させるための円筒型電気炉の均熱長が100mmである為、これより長くさせるためである。
次に、主原料シリカ粉としてのフッ素ドープ合成クリストバライト粉を約10kg充填した。
【0046】
円筒型電気炉8を使った帯域溶融透明ガラス化:
シリカ粉充填体10のシリカ原料粉7が充填されている充填域4を1Torr以下の真空に引き、次いでヘリウムガス希釈の水素ガス5volum%の混合ガスを導入して原料粉の空隙雰囲気のガス置換処理を5回繰り返し行った。
【0047】
その後、前記粉状体の充填域4の空隙を1Torr以下の真空に維持しつつ、円筒型電気炉8の上部より、ゆっくりとシリカ粉充填体10の先端を挿入し、炉を昇温させた。しばらくすると、先端部分が溶融透明ガラス化し、炉の下に落下を始めた。
次いで、シリカ粉充填体10の炉への送り速度と、炉下部からの透明ガラスとなった光ファイバ用母材9の引き速度の制御を行なうことにより、光ファイバ用シリカガラス母材9の直径を所定寸法に調整した。
【0048】
そしてこのようにして製造された光ファイバ用母材9として、直径40mm、長さ500mmの母材10本を作成し、これらの物性評価を行なった。
【0049】
物性評価
気泡:実質的に存在していない。
寸法精度:外径寸法精度 40±0.2mm以内
表面状態:スリキズなく非常になめらかである。
絶対屈折率: 589nmでのコア部の絶対屈折率ndは1.4585であり、クラッド部の絶対屈折率ndは1.450であった。
【0050】
【発明の効果】
以上記載のごとく本発明によれば、粉末成型法で示されている多孔質体形成工程と脱水工程、透明ガラス化工程と複数の工程を必要とすることなく一工程で透明ガラス状のファイバ用シリカガラス母材を得ることの出来る発明を提供する事が可能である。
また本発明によれば、透明ガラス化工程で気泡等が発生することなく、高寸法精度、表面に擦り傷のない事、高純度等の品質条件を容易にクリアできる光ファイバ用母材を得ることが出来る。
【0051】
特に本発明によれば、光ファイバ用母材を製造するにあたり以下の課題を解決する事が出来た。
光ファイバ用母材として必要なコアとクラッドの屈折率差を有するのみならず、実質的に無気泡で且つ寸法精度が良く而も表面にすりきずのない光ファイバ用母材が得られる。
例えば前記製法により直径が10〜100mm、長さ1mにおいて半径方向の円周振れ公差が(直径)×0.5%以内、半径方向の全振れ公差が(直径)×1%以内で、更にはシリカガラスの100cm3 に存在する泡の総断面積が1mm2 以下であるファイバ用シリカガラス母材を得る事が出来る。
【0052】
又本発明によれば、前記従来技術のように成型型枠を用いず、またシリカガラス粉末はシリカガラス棒と外管との間に保護されている為に溶融時汚染が生じることなく、シリカ原料粉の組成、不純物濃度が保存されたシリカガラスが得られる。
更にシリカ原料粉として高純度品を使った場合、得られる光ファイバ用母材のクラッド純度も高純度が維持される。
【図面の簡単な説明】
【図1】帯域溶融手段による溶融透明ガラス化工程を示す。
【図2】シリカ粉充填体のシリカを主成分とする粉状体の充填状態を示す。
【図3】光応用計測用ファイバの種類を示す断面構造で図3(A)には偏心コアファイバが、図3(B)には、2コアファイバ、更に図3(C)には偏波ファイバが夫々開示されている。
【符号の説明】
1 外管
2 シリカガラス棒
3 封止板
4 粉状体充填域
5 枝管
6 蓋板
7 粉状体
7a 非晶質シリカ粉
7b 結晶質シリカ粉
8 ヒータ(円筒型電気炉)
9 光ファイバ用母材(棒状透明シリカガラス体)
10 シリカガラス中空体又はシリカ粉充填体
31、31’コア等
32 クラッド層
33 偏心コアファイバ
34 2コアファイバ
35 偏波保持ファイバ
L 均熱長

Claims (10)

  1. 一又は複数のコア若しくはコア状応力付与部の周囲にクラッド層が形成されて成る光ファイバ用母材の製造方法において、
    シリカガラス製の外管内に前記一又は複数のコア若しくはコア状応力付与部を形成する一又は複数のシリカガラス棒を挿入すると共に、該外管とシリカガラス棒間にシリカを主成分とする粉状体を充填してシリカ粉充填体を形成すると共に、前記粉状体の充填域を減圧雰囲気に維持しながら円筒型電気炉で行う帯域溶融にて該シリカ粉充填体を軸方向に沿って順次加熱溶融しながら延伸させ、棒状透明シリカガラス体を得る際に、
    前記シリカ粉充填体の先端に非晶質シリカを主成分とする粉状体を円筒型電気炉の均熱長さ以上になるように入れ、次いで結晶質シリカを主成分とする主原料シリカ粉を入れることを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法。
  2. 一又は複数のコア若しくはコア状応力付与部の周囲にクラッド層が形成されて成る光ファイバ用母材の製造方法において、
    シリカガラス製の外管内に前記一又は複数のコア若しくはコア状応力付与部を形成する一又は複数のシリカガラス棒を挿入すると共に、該外管とシリカガラス棒間にシリカを主成分とする粉状体を充填してシリカ粉充填体を形成すると共に、前記粉状体の充填域を減圧雰囲気に維持しながら帯域溶融にて該シリカ粉充填体を軸方向に沿って順次加熱溶融しながら延伸させ、棒状透明シリカガラス体を得る際に、
    前記シリカ粉充填体の、該粉状体の充填域を水素含有ガス若しくはヘリウム含有ガスで置換した後に帯域溶融を行うことを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法。
  3. 一又は複数のコア若しくはコア状応力付与部の周囲にクラッド層が形成されて成る光ファイバ用母材の製造方法において、
    シリカガラス製の外管内に前記一又は複数のコア若しくはコア状応力付与部を形成する一又は複数のシリカガラス棒を挿入すると共に、該外管とシリカガラス棒間にシリカを主成分とする粉状体を充填してシリカ粉充填体を形成すると共に、前記粉状体の充填域を減圧雰囲気に維持しながら帯域溶融にて該シリカ粉充填体を軸方向に沿って順次加熱溶融しながら延伸させ、棒状透明シリカガラス体を得る際に、
    前記シリカを主成分とする粉状体が天然水晶粉、合成水晶粉、合成クリストバライト粉のいずれか1種類以上であり、且つ該粉状体が、真空下又は水素含有雰囲気若しくはヘリウム含有雰囲気下で600〜1200℃の範囲にて加熱処理されている事を特徴とする光ファイバ用母材の製造方法。
  4. 一又は複数のコア若しくはコア状応力付与部の周囲にクラッド層が形成されて成る光ファイバ用母材の製造方法において、
    シリカガラス製の外管内に前記一又は複数のコア若しくはコア状応力付与部を形成する一又は複数のシリカガラス棒を挿入すると共に、該外管とシリカガラス棒間にシリカを主成分とする粉状体を充填してシリカ粉充填体を形成すると共に、前記粉状体の充填域を減圧雰囲気に維持しながら帯域溶融にて該シリカ粉充填体を軸方向に沿って順次加熱溶融しながら延伸させ、棒状透明シリカガラス体を得る際に、
    前記シリカを主成分とする粉状体が高純度非晶質シリカ粉であり、且つ該非晶質シリカ粉があらかじめ水素含有雰囲気若しくはヘリウム含有雰囲気にて600〜1200℃の範囲にて加熱処理されている事を特徴とする請求項1記載の光ファイバ用母材の製造方法。
  5. 前記帯域溶融後の棒状透明シリカガラス体の直径を、帯域溶融前の外管外径の1/3以下になるように延伸することを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の光ファイバ用母材の製造方法。
  6. 前記シリカ粉充填体を軸回転させながら帯域溶融させることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の光ファイバ用母材の製造方法。
  7. 充填域内へ充填される前記シリカを主成分とする粉状体が天然水晶粉、合成水晶粉、合成クリストバライト粉、合成シリカガラス粉のいずれか1種類以上である事を特徴とする請求項2記載の光ファイバ用母材の製造方法。
  8. 光エネルギー伝送用ファイバ母材において、シリカガラス棒として高純度合成シリカガラス棒を使用する場合、前記シリカを主成分とする粉状体が、フッ素またはホウ素の少なくとも1種類が含有されているシリカ原料粉であり、溶融後のシリカガラスロッドの粉状体溶融部の絶対屈折率が波長589nmにおいて、1.450以下であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の光ファイバ用母材の製造方法。
  9. 前記シリカを主成分とする粉状体の不純物濃度を外管の不純物濃度に実質的に一致させた請求項1乃至4いずれか1項記載の光ファイバ用母材の製造方法。
  10. 前記シリカ粉充填体の帯域加熱手段内への重力方向の送り速度と該帯域加熱手段により溶融された棒状透明シリカガラス体の引き速度を異にすることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の光ファイバ用母材の製造方法。
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