JP3796580B2 - 塗料の添加組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、防錆性の向上を目的として、塗料に添加される粉状の組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の防錆塗料として、樹脂の中に改質剤、防錆顔料、有機キレート剤、安定化剤等を添加したものが広く知られている。その中で特に防錆性に最も重要である防錆顔料には鉛系、クロム系、チタン系、バリウム系、カルシウム系、亜鉛系、カーボン系、アルミニウム系、酸化鉄系、リン酸化合物系、シリカ系、雲母系、ガラス系、タルク、珪石系、ご粉系等が使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
これら防錆顔料の使用目的は、塗膜外部よりアタックする異物、特に腐食性ガス、水及び塩分等を遮断することにある。つまり、これら防錆顔料は、塗膜外部からアタックする腐食性異物に対しては十分に効果を発揮する。しかし、塗料の塗布前から対象素材(母材、すなわち鋼材)の表面部に付着している錆や、水、塩分および腐食性異物等による内部からの腐食進行に対する抑制効果はなく、この点で防錆性能が不十分であった。
【0004】
一方、内部からの腐食を抑制できる防錆塗料として、錆をキレート化して腐食し難い錆とする錆転換機能を備えた塗料や湿気硬化型塗料がある。しかしながら、実際には対象素材(母材、すなわち鋼材)の表面部には水、塩分及び腐食性異物等が何らかの形で付着しており、それらの清浄程度により防錆効果の良否は大きく左右される。このため、単に鋼材表面部とのキレート化や錆転換機能のみでは不十分であり、長期的には鋼材の表面からの腐食(塗装内部からの腐食)が生じやすく、また接着強度が悪くなるなどの不具合が生じることは避けられない。
【0005】
本発明の目的は、塗膜外部からの腐食性異物が対象素材(母材、すなわち鋼材)の表面部に達する期間を抑制すること、及び対象素材の表面部に付着している腐食性異物、水及び塩分等からの腐食(塗装内部からの腐食)を抑制して、長期的な防錆性を実現できる塗料の添加組成物を得るにある。つまり、塗膜内外からの腐食の進行を防いで、優れた防錆性を発揮する塗料の添加組成物を得るにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、防錆性の向上を目的として、塗料中に添加される組成物を対象とする。この組成物は、カルシウム化合物、シリカ化合物、アルミニウム化合物、鉄化合物、マグネシウム化合物、イオウ化合物、ナトリウム化合物、およびカリウム化合物を含む無機系の混合物であり、強アルカリ性を示す粉状粒子である。
【0007】
各化合物の具体例としては、カルシウム化合物はCaO、シリカ化合物はSiO2 、アルミニウム化合物はAl2 O3 、鉄化合物はFe2 O3 、マグネシウム化合物はMgO、イオウ化合物はSO3 、ナトリウム化合物はNa2 O、カリウム化合物はK2 Oを挙げることができる。
【0008】
これら化合物の混合割合は、カルシウム化合物を30〜70%(重量%比)、シリカ化合物を15〜60%、アルミニウム化合物を2〜10%、鉄化合物を1〜5%、マグネシウム化合物を1〜5%、イオウ化合物を1〜5%、ナトリウム化合物を1%以下、カリウム化合物を1%以下とする。添加組成物の性状は、50μm以下の粉状粒子であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0009】
この添加組成物には、リン酸塩、リン酸化合物、チタン化合物、マンガン化合物、リチウム化合物、ジルコン化合物、カーボンとその化合物、タルク、マイカから選択される物質を、単独又は2種以上混合することができる。その混合量は、添加組成物100に対して、50重量%比以下が望ましい。
【0010】
先の粉状の添加組成物は、溶媒中に分散させた形態とすることができる。かかる溶媒の具体例としては、炭化水素系、芳香族炭化水素系、アルコール系、フッ素系などが挙げられる。
【0011】
【発明の作用効果】
清浄にした対象素材(母材、すなわち鋼材)の表面部(錆の有無を問わない)に本発明に係る添加組成物を分散させた塗料(以下、A塗料と記す)を塗布すると、A塗料中に分散している添加組成物は強アルカリ性の粉状粒子であり、しかも塗料成分と比べて比重が大きいので、その一部は錆面や鋼材表面の界面に優先的に接触し、当該界面近辺をアルカリ雰囲気にして、鋼材表面を防錆することができる。なお、A塗料の塗布方法としては、ローラ塗布、ハケ塗り、スプレー吹き付け等、一般的な塗布方法を採ることができる。
【0012】
特に補修の場合には、錆面内部や鋼材の表面部に多量の水分や塩分が付着しているために鋼材は腐食しやすいが、本発明においては、A塗料を塗布することで添加組成物が水分を吸収するため、水分を含んで潮解性を示していた塩分は水分が減少して潮解性は低減され、従って鋼材の腐食の進行を効果的に防ぐことができる。
【0013】
以上のごとく、本発明に係る塗料の添加組成物によれば、鋼材表面の界面近辺をアルカリ雰囲気にできること、および鋼材の表面に付着している水分を減じて塩分の潮解性を低減できることの両作用により、鋼材表面の腐食進行、すなわち塗膜内部からの腐食の進行を効果的に抑えることができる。加えて、鋼材の表面部は通常の環境条件下では結露状態や湿気を含んでいることが多いが、A塗料を塗布したときの鋼材の表面部では、塗膜の硬化が生じるときに湿気(水分)を吸収することにより塗膜の硬化が促進されるため、塗膜強度や鋼材との接着強度が向上して、強固な塗膜が得られる利点もある。
【0014】
さらに、塗装後の塗膜中に外部からの腐食性異物(特に水分や塩分等)がピンホール部を通過して進入すると、それは塗料中に分散している添加組成物に接触し吸収される。一方添加組成物は水分を吸収することにより硬化し、その結果として塗膜のピンホール部は塞がれ、更に塗膜は強固に硬化する。かくして、水分と未反応の添加組成物が残っている間、或いは鋼材の表面部がアルカリ性雰囲気に保たれている間は、更なる鋼材の腐食は抑制されることになり、長期間の防錆が確保される。
【0015】
加えて、従来において鋼材表面の亀裂や凹みを補修する場合には、パテ等でそれらを埋めてから塗料を塗布していたが、本発明においては、塗料に対する添加組成物の添加量を若干多めにしたうえで、それを塗布するだけで、亀裂や凹みを埋めるとともに、鋼材上に強固な塗膜を形成することが可能であり、従って、補修作業を迅速且つ確実に進めることができる利点もある。
【0016】
添加組成物の構成物の混合割合(重量%)は、100重量%中、カルシウム化合物は30重量%以上、70重量%以下、シリカ化合物は15重量%以上、60重量%以下、アルミニウム化合物は2重量%以上、10重量%以下、鉄化合物は1重量%以上、5重量%以下、マグネシウム化合物は1重量%以上、5重量%以下、イオウ化合物は1重量%以上、5重量%以下、ナトリウム化合物は1重量%以下、カリウム化合物は1重量%以下であることが好ましい。
【0017】
カルシウム化合物が30重量%未満であると、添加組成物自体のアルカリ性が低下するため、鋼材表面等の界面近辺をアルカリ雰囲気に維持することが難しくなり、永続的な防錆効果が得られない。カルシウム化合物が70重量%を超えると、塗料のベース樹脂の結合部が切断されて、つまり樹脂が高分子量から低分子量となって、樹脂自体が劣化するおそれがある。この不具合は、特にベース樹脂がアルキッド系樹脂や塩化ビニール系樹脂の場合に顕著にあらわれる。
【0018】
シリカ化合物が15重量%未満であると、先のカルシウム化合物の場合と同様に、添加組成物自体のアルカリ性が低下するため、永続的な防錆効果が得られない。シリカ化合物が60重量%を超えると、先のカルシウム化合物の場合と同様に、塗料のベース樹脂の結合部が切断されてやすく、従って樹脂自体が劣化するおそれがある。
【0019】
アルミニウム化合物が2重量%未満であると、ピンホール部から進入する水や腐食性異物に対する遮断効果が不十分となるため、永続的な防錆効果が得られない。アルミニウム化合物が10重量%を超えると、樹脂中に存在するアルミニウム化合物が母材表面と接触する可能性が高くなるため、異種金属腐食による腐食が進行しやすくなる不利がある。その他の鉄化合物、マグネシウム化合物、イオウ化合物、ナトリウム化合物、及びカリウム化合物の添加量における各々の臨界的意義は、アルミニウム化合物のそれと略同様である。
【0020】
この組成物の性状は、大きさが50μm以下の粉状粒子であることが好ましく、より好ましくは、大きさが10μm以下の球状〜角のない粉状微粒子であることが好ましい。その理由は水分(湿気)を吸収することによる反応は、塗料に添加する量が同じならば、粒子の大きさが細かく、しかも球状〜角のない粉状微粒子の方が表面積が大きいので、十分な硬化反応が生じやすくなり、更に塗装時の塗膜厚さを均一にすることができることに拠る。
【0021】
前記化合物にはリン酸塩やリン酸化合物、チタン化合物、マンガン化合物、リチウム化合物、ジルコン化合物、カーボンやその化合物、タルク、マイカを単独で、または2種以上を添加することができる。それらの添加割合は、前記化合物の100に対して50%(重量%比)とする。50%以下としたのは、粉末粒子を製造するときの原材料、配合上および塗布量の確保等の経済的な理由からである。
【0022】
また、炭化水素系、芳香族炭化水素系、アルコール系、フッ素系等の溶媒中に、予め添加組成物を分散してもよく、これによれば、粉体そのものの形態よりも塗料に添加する際の作業性の向上が図れる。つまり、予め溶媒中に添加組成物を分散してあると、塗料に混ぜたときに添加組成物が団粒となるような不都合が一切生じず、作業性・取り扱い性に優れたものとなる。粉体粒子の大きさが1μm以下の超微粉末となると、粉塵爆発が発生するおそれがあるが、予め溶媒中に分散しておけば、かかる不具合が一切なく、その点でも有利である。
【0023】
塗料に対する添加組成物の添加量は、塗料100重量部に対して、10〜100重量部(10重量部以上、100重量部以下)が好ましく、20〜60重量部がより好ましい。塗料100重量部に対して、添加組成物が100重量部を上回って多すぎると、塗料としての粘度が増して作業性が不良となる。塗料100重量部に対して、添加組成物が10重量部を下回って少な過ぎると、先の永続的な防錆性を得るという、発明本来の目的が達成できない。添加量が5重量部程度でも、従来塗料の防錆性効果に比較して10〜20%の防錆性の向上効果が得られるが、50%以上、好ましくは100%以上の防錆性の向上効果を得る場合には、10重量部以上添加することが必要である。
【0024】
本発明の添加組成物の応用分野としては、素材では各種の金属材料、非鉄金属材料、木材、コンクリート、各種の合成樹脂等の塗料、注入剤やコウキング材に添加して防錆と接着剤の向上を、業種では土木構造物、建築構造物、その他一般的構造物の防錆塗装、防水処理、接着性当の用途に使用できる。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明に関する実施例及び比較例について、全ての試験材料及び試験板の作成方法は下記のごとくとした。
1.試験材料:材質がSS400の錆板(構造用鋼材、寸法200×300×3mm、ショットブラスト処理した後、1年間屋外に放置して発錆させたもの)を使用した。
2.清浄方法:錆板はワイヤブラシを使用して3種ケルン程度に錆を落とした後、溶剤系の洗浄剤(商品名:ノンクロール、クスノキ化学(株)製)を染み込ませた清浄なウエスで、埃や異物を拭き取り、自然乾燥させた(10〜20分間、室内に放置した)。
3.塗料組成物の塗布方法:塗装用ハケを使って、試験板の表面に塗料組成物がほぼ均一となるように塗布した。
4.乾燥方法:塗料組成物を塗布した後の乾燥方法は自然乾燥とした(評価試験までの期間は室内に放置した)。
5.評価試験までの期間:塗料組成物を塗布した後で2週間乾燥させ、その後評価試験を実施した。
【0026】
(実施例1〜実施例7)
実施例1〜7に使用される添加組成物A〜Eの内容と、その混合割合(重量%比)を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表2に、下塗り用であるエポキシ系樹脂と、添加組成物A〜Eの粉末との混合割合、および塗膜厚さを示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表中のエポキシ系樹脂は2液硬化タイプで、主剤はビスフェノールAタイプ(商品名:アデカレジンEP−4100、旭電化工業(株)製)、硬化剤はポリアミドアミン系(商品名:アデカハードナーEH−209、旭電化工業(株)製)及び希釈剤(商品名:アデカグリシロールED−501、旭電化工業(株)製)を使用した。その混合割合は主剤:硬化剤:希釈剤=100:25:10〜20とした。
【0031】
塗膜厚さは、電磁微厚保計(Kett−LZ−330、ケット科学(株)製)を使用して測定した。測定は9点(試験板の左部、中央部、右部の各々で上部、中部、下部)を測定し、その平均値(四捨五入)を10μm単位で記入した。
【0032】
(比較例1)
実施例で使用したエポキシ系樹脂単位(添加組成物は加えないもの)、即ち2液硬化タイプで、主剤はビスフェノールAタイプ(商品名:アデカレジンEP−4100、旭電化工業(株)製)、硬化剤はポリアミドアミン系(商品名:アデカハードナーEH−209、旭電化工業(株)製)及び希釈剤(商品名:アデカグリシロールED−501、旭電化工業(株)製)を使用した。その混合割合は主剤:硬化剤:希釈剤=100:25:10とした。これを塗装用ハケにより、試験板の表面にほぼ均一になるように2回塗布した。
【0033】
(比較例2)
エポキシ系2液タイプ塗料(商品名:ネオゴーゼ♯200、神東塗料(株)製)を使用した。これを塗装用ハケで試験板の表面にほぼ均一になるように塗布した。
【0034】
(比較例3)
タールエポキシ系塗料(商品名:エポシール♯600、関西ペイント(株)製)を使用した。これを塗装用ハケで試験板の表面にほぼ均一になるように塗布した。
【0035】
(比較例4)
錆転換型塗料(商品名:トリック1100、日本パーカライジング(J株)製)を使用した。これを塗装用ハケで試験板の表面にほぼ均一になるように塗布した。
【0036】
実施例1〜7および比較例1〜4に係る塗料塗膜に対して、以下の評価試験を行った。
金属との密着性:実施例および比較例に係る塗料組成物を塗布した試験板について、建研式接着試験機(建設省建築研究所考案の接着試験機)を使用して密着性の評価をした。具体的には、乾燥した塗膜の表面に、接着試験用の専用治具(鋼製で4×4cmのアタッチメント)をエポキシ接着剤(商品名:クイックメンダ、コニシ(株)製)を使用して接着し、その後1日間放置して十分に硬化させた後、電動カッターを使用して塗膜の表面から下の金属表面に達するまで専用治具の周囲に垂直な切り込みを入れ、その後建研式接着試験機を使用して密着力を測定した。
評価基準は以下のごとくとした(n=3の平均値)。
○:1.5N/mm2 以上
△:1.5〜1.0N/mm2
×:1.0N/mm2 以下
【0037】
海水中での防錆性試験:実施例および比較例に係る塗料組成物を塗布した試験板について、海水中に浸漬し防錆性の評価を実施した。方法は試験板の上半分は空気中に出るように、下半分は海水中に入るように設置した。試験期間は1年間とした。評価判定は発錆の状況を目視で実施した。
評価基準は以下のごとくとした(n=3による最大の発錆)。
○:発錆面積0%(異常なし)
△:発錆面積10%以内
×:発錆面積10%を超える
【0038】
塩水噴霧試験:実施例および比較例に係る塗料組成物を塗布した試験板について、塩水噴霧試験機を使用し防錆性を評価した。試験期間は500時間とした。試験方法はJIS−Z−2371に従った。
評価基準は以下のごとくとした(n=3による最大の発錆)。
○:×カット部からの発錆巾(片側)で2mm以下
△:×カット部からの発錆巾(片側)で2〜5mm
×:×カット部からの発錆巾(片側)で5mm以下
【0039】
実施例(1〜7)と比較例(1〜4)の評価試験の結果を下記の表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
表3より、比較例1〜4に係る塗料は、両試験による評価が低く、防錆性が不良であることがわかる。これに対して、実施例1〜7に係る塗料、すなわち本発明に係る添加組成物を添加してなる塗料は、海水中の防錆試験および塩水噴霧試験においても共に良好な評価が得られ、優れた防錆性を有することが確認された。本発明に係る添加組成物を混合してなる塗料が、既存の塗料と比べて、金属との密着性も遜色ないことも確認できた。
Claims (2)
- 防錆性の向上を図ることを目的として、2液硬化タイプのエポキシ系樹脂塗料100重量部に対して10〜100重量部の割合で添加される組成物であって、
この組成物が、30〜70重量%のCaOと、15〜60重量%のSiO 2 と、2〜10重量%のAl 2 O 3 と、1〜5重量%のFe 2 O 3 と、1〜5重量%のMgOと、1〜5重量%のSO 3 と、 0. 1〜1重量%のNa 2 Oと、 0. 1〜1重量%のK 2 Oとからなる無機系の混合物で、強アルカリ性を示す粉状粒子であり、
さらに、この組成物の性状が、50μm以下の粉状粒子であることを特徴とする塗料の添加組成物。 - 請求項1記載の塗料の添加組成物100に対して、リン酸塩、リン酸化合物、チタン化合物、マンガン化合物、リチウム化合物、ジルコン化合物、カーボンとその化合物、タルク、マイカから選択される物質を、単独又は2種以上で 0. 5〜3 3. 0重量%比の範囲で混合してある塗料の添加組成物。
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