JP3796481B2 - メシル酸ナファモスタットの結晶多形及びその製造方法 - Google Patents

メシル酸ナファモスタットの結晶多形及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬品として有用なメシル酸ナファモスタットの結晶多形に関するものである。さらに詳細には、本発明は蛋白分解酵素阻害作用を有し、血液凝固・線溶系、カリクレイン−キニン系、及びトリプシン、膵カリクレイン等に対する阻害作用を有し、急性膵炎、汎発性血管内血液凝固症(DIC)、血液体外循環時の灌流血液の凝固防止等に対する有用性を持ち、極めて安定で長期保存においても品質が変化すること無く医薬品としての品質を高純度に維持することが出来るメシル酸ナファモスタットの結晶多形に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
メシル酸ナファモスタットの製造方法は、特許文献1において記載されているが、その精製方法についての詳細な検討はなされていない。メシル酸ナファモスタットの精製方法に関しては、非特許文献1に、水から再結晶し、融点260℃(分解)の無色の粉末が得られたことが記載されている。しかしながら、メシル酸ナファモスタットの結晶多形に関して記載された文献は皆無であり、メシル酸ナファモスタットの結晶多形については、これまで全く知られていなかった。
【0003】
【特許文献1】
特公昭61−1063号公報
【非特許文献1】
Chem.Pharm.Bull.,33(4),1470−1471(1985)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、メシル酸ナファモスタットに関し研究した結果、メシル酸ナファモスタットには数種の結晶形が存在し、製造方法や製造条件によって、得られる結晶形が異なることを見出した。
例えば、メシル酸ナファモスタットを水に溶解した後、冷却、晶析するという再結晶方法では、晶析条件によって2種類の固体(I型,II型)が生じ、特に半アモルファス状のII型結晶が水溶液から分離しやすく、通常の方法では分離した固体のろ過が困難であり、また一定の品質のものが得られ難い。
他の晶析方法として、メシル酸ナファモスタットを水性溶媒に溶解した後、アセトン等の溶媒を加えて晶析する事も出来るが、この場合も晶析条件によって2種類の固体(I型,III型)を生じ、混合物として析出する場合も考えられる。
【0005】
通常、結晶多形が存在する化合物は、結晶形によって種々の性質が異なるため、同一化合物であっても全く異なった安定性を示すことがある。特に医薬品においては、原薬、製剤を問わず高純度で一定の品質が要求され、化合物として均一で安定性が高い結晶形のものを安定して製造し、提供することが必要である。医薬品として要求される均一で安定な品質を確保するためには単一の結晶性の化合物を常に一定して提供することが絶対に必要である。
【0006】
現在製剤として使われている凍結乾燥によって得られたX線回折角を持たない非晶質のメシル酸ナファモスタットは、安定性が低く長期保存によって含量低下を引き起こす。その結果、メシル酸ナファモスタットの副作用の1つである高カリウム血症の原因物質としての可能性が指摘されているp−グアニジノ安息香酸や6−アミジノ−2−ナフトール等の分解物を生成してしまうという問題点を抱えている。製剤、原薬を問わず、長期保存において全く含量低下を起こさず、好ましからざる不純物を生成しない安定した結晶形の医薬品が望ましい。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、急性膵炎、汎発性血管内血液凝固症(DIC)、血液体外循環時の灌流血液の凝固防止等に有用なメシル酸ナファモスタットの結晶多形に関して、鋭意検討した結果、メシル酸ナファモスタットには数種の多形が存在し、それらの中である種の結晶が長期安定性試験において優れた安定性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、粉末X線回折図形で、回折角(2θ±0.1度)において、17.0、18.4、19.3、19.9、20.9、24.3及び26.3度に強い回折ピークを示すメシル酸ナファモスタットの結晶多形である。
更に本発明は、メシル酸ナファモスタットの水溶液を、アセトン中25〜45℃で晶析することを特徴とする、上記結晶多形の製造方法である。
更に本発明は、粉末X線回折図形で回折角(2θ±0.1度)において、9.0、13.0、16.3、17.1、18.1、19.3、19.8、20.2、21.4、22.4、23.4及び23.7に強い回折ピーク又は特徴的なピークを示すメシル酸ナファモスタットをアルコール中、懸濁状態で相転換することを特徴とする、上記結晶多形の製造方法である。
更に本発明は、粉末X線回折図形で回折角(2θ±0.1度)において、16.6、17.0、18.4、19.3、19.8、20.2、22.6、23.4、24.2及び25.8度に強い回折ピーク又は特徴的なピークを示すメシル酸ナファモスタットをアルコール中、懸濁状態で相転換させることを特徴とする、上記結晶多形の製造方法である。
更に本発明は、粉末X線回折図形で全く回折ピークを示さない、非晶質のメシル酸ナファモスタットをアルコール中、懸濁状態で相転換させることを特徴とする、上記結晶多形の製造方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
メシル酸ナファモスタットは、下記構造式
【0010】
【化1】
Figure 0003796481
【0011】
で表される6’−アミジノ−2’−ナフチル 4−グアニジノベンゾエート・2メタンスルホン酸塩の一般名であり、急性膵炎、汎発性血管内血液凝固症(DIC)、血液体外循環時の灌流血液の凝固防止等に対して用いられている医薬品である。
本発明で提供される新規なメシル酸ナファモスタットの結晶多形は、粉末X線回折図形で、回折角(2θ±0.1度)において、17.0、18.4、19.3、19.9、20.9、24.3及び26.3度に強い回折ピークを示す結晶多形(I型結晶)である。本発明の結晶多形(I型結晶)の粉末X線回折図形は、図1に示すとおりである。この粉末X線回折データは(株)理学電気製RINT2500VによりCu−Kα線を用いて測定したものである。
【0012】
本発明で提供される新規なメシル酸ナファモスタットの結晶多形は、極めて安定な結晶であり、長期保存においても品質が変化すること無く、医薬品としての品質を高純度に維持することが出来、また、分解産物による副作用の懸念も回避することが出来る。より具体的には、本発明のメシル酸ナファモスタットの結晶多形は、6ヶ月間の加速安定性試験(40℃,湿度75%)において、凍結乾燥したメシル酸ナファモスタット製剤が1%近い含量低下を起こすのに対し、全く分解を起こさず、きわめて安定である。
さらに、メシル酸ナファモスタットの結晶多形粉末を製剤化することにより、現在行われている、低温、長時間にわたる非効率的な凍結乾燥を用いる必要が無く、製剤化が容易であるという利点を有している。また、流動性のよい結晶性の粉末のため、取り扱いやすく製剤化に非常に適している。
【0013】
本発明の結晶多形は以下のようにして製造することが出来る。
メシル酸ナファモスタットの水溶液を、アセトン中25〜45℃で晶析することによって、本発明の結晶多形を得ることが出来る。
また、アセトン中で晶析する際の温度条件を変えることによって異なる結晶多形を得ることができる。すなわち、メシル酸ナファモスタットの水溶液を、アセトン中20℃以下で晶析すると粉末X線回折で回折角(2θ±0.1度)において、9.0、13.0、16.3、17.1、18.1、19.3、19.8、20.2、21.4、22.4、23.4及び23.7度に強い回折ピーク又は特徴的なピークを示すメシル酸ナファモスタットのIII型結晶が得られる。このIII型結晶の粉末X線回折図形は図3に示したとおりである。この粉末X線回折データは(株)理学電気製RINT2500VによりCu−Kα線を用いて測定したものである。
このIII型結晶をメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、好ましくはイソプロピルアルコール中で懸濁することにより、本発明の結晶多形に相転換させて本発明の結晶多形を得ることも出来る。
【0014】
メシル酸ナファモスタットを水から精製して、粉末X線回折で回折角(2θ±0.1度)において、16.6、17.0、18.4、19.3、19.8、20.2、22.6、23.4、24.2及び25.8度に強い回折ピーク又は特徴的なピークを示す半アモルファス状のII型結晶を得ることができる。このII型結晶の粉末X線回折図形は図2に示したとおりである。この粉末X線回折データは(株)理学電気製RINT2500VによりCu−Kα線を用いて測定したものである。
このII型結晶を、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、好ましくはイソプロピルアルコール中で懸濁することにより本発明の結晶多形に相転移させて本発明の結晶多形を得ることが出来る。
更には粉末X線回折で回折角を示さない非晶質のメシル酸ナファモスタットをメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、好ましくはエタノール中で懸濁することにより本発明の結晶多形に相転換させて本発明の結晶多形を得ることも出来る。非晶質のメシル酸ナファモスタットは、メシル酸ナファモスタットの水溶液を凍結乾燥して得ることができる。
【0015】
【実施例】
以下に、本発明を、参考例、実施例及び試験例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの参考例、実施例及び試験例によって何ら限定されるものではない。
【0016】
参考例1
メシル酸ナファモスタット10gに精製水15mlを加え約70℃で加温溶解した後、撹拌下に冷却して半結晶状アモルファス固体を得た。減圧下に乾燥してメシル酸ナファモスタットのII型結晶5.8gを得た。この結晶から、図2に示す粉末X線回折図形が得られた。
参考例2
メシル酸ナファモスタット10gに精製水30mlを加え50〜60℃で加温溶解した後、20℃以下でアセトン300mlを加え撹拌下に晶析した。析出した結晶をろ過後、減圧乾燥してメシル酸ナファモスタットのIII型結晶7.4gを得た。この結晶から、図3に示す粉末X線回折図形が得られた。
【0017】
実施例1
参考例1の方法によって得られたメシル酸ナファモスタットのII型結晶5gにイソプロピルアルコール200mlを加え、2時間撹拌懸濁した。生成した結晶をろ過後45℃で減圧下に乾燥し目的のI型結晶4.8gを得た。この結晶から、図1に示す粉末X線回折図形が得られた。
実施例2
メシル酸ナファモスタット10gに精製水30mlを加え加温溶解した後、25〜45℃でアセトン300gを加え、撹拌下に晶析した。析出した結晶をろ過後、減圧乾燥して目的のI型結晶8.1gを得た。この結晶から、図1に示すのと同じ粉末X線回折図形が得られた。
【0018】
実施例3
参考例2の方法によって得られたメシル酸ナファモスタットのIII型結晶5gにイソプロピルアルコール200mlを加え、撹拌懸濁した。生成した結晶をろ過後45℃で減圧下に乾燥し目的のI型結晶4.7gを得た。この結晶から、図1に示すのと同じ粉末X線回折図形が得られた。
実施例4
メシル酸ナファモスタットの水溶液を凍結乾燥して得られた固体5gに無水エタノール100mlを加え、室温で懸濁した後ろ過し、得られた結晶を45℃で減圧下に乾燥して目的のI型結晶4.8gを得た。この結晶から、図1に示すのと同じ粉末X線回折図形が得られた。
【0019】
試験例1
実施例1及び4で得られた本発明の結晶多形(I型)について、温度40℃、湿度75%における6ヶ月間の加速安定性試験を実施した。尚、同時に比較対照として、凍結乾燥して得られた非晶質の凍結乾燥品の安定性試験を実施した。
メシル酸ナファモスタットの経時的な含量の推移を表1に、副生した分解生成物の生成量の推移を表2に示す。表1及び2では、結晶多形をHPLCに付して得られたチャートから、メシル酸ナファモスタット、6−アミジノ−2−ナフトール及びp−グアニジノ安息香酸の各成分の含量をピーク面績の百分率(%)で表した。
【0020】
【表1】
Figure 0003796481
【0021】
【表2】
Figure 0003796481
【0022】
表1及び2から明らかなとおり、本発明の結晶多形(I型)の温度40℃、湿度75%における6ヶ月間の加速安定性試験において、比較対照として実施した凍結乾燥品は、メシル酸ナファモスタットの分解産物である6−アミジノ−2−ナフトール及びp−グアニノ安息香酸の生成量が経時的に増大し、6ヶ月後のメシル酸ナファモスタット含量は初期値と比べ約1%近くも低下していた。
これに対し、本発明の結晶多形(I型)は全く含量低下を起こさず、分解産物の6−アミジノ−2−ナフトール及びp−グアニジノ安息香酸の生成も全く認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明のメシル酸ナファモスタットの結晶多形(I型)の粉末X線回データを示す。このデータは(株)理学電気製RINT2500VによりCu−Kα線を用いて測定したものである。縦軸はX線の強度を示し、横軸は回折角(2θ)を示す。
【図2】図2は、メシル酸ナファモスタットの結晶多形(II型)の粉末X線回折データを示す。このデータは(株)理学電気製RINT2500VによりCu−Kα線を用いて測定したものである。縦軸はX線の強度を示し、横軸は回折角(2θ)を示す。
【図3】図3は、メシル酸ナファモスタットの結晶多形(III型)の粉末X線回折データを示す。このデータは(株)理学電気製RINT2500VによりCu−Kα線を用いて測定したものである。縦軸はX線の強度を示し、横軸は回折角(2θ)を示す。

Claims (5)

  1. 粉末X線回折図形で、回折角(2θ±0.1度)において、17.0、18.4、19.3、19.9、20.9、24.3及び26.3度に強い回折ピークを示すメシル酸ナファモスタットの結晶多形。
  2. メシル酸ナファモスタットの水溶液を、アセトン中25〜45℃で晶析することを特徴とする、請求項1の結晶多形の製造方法。
  3. 粉末X線回折図形で回折角(2θ±0.1度)において、9.0、13.0、16.3、17.1、18.1、19.3、19.8、20.2、21.4、22.4、23.4及び23.7に強い回折ピーク又は特徴的なピークを示すメシル酸ナファモスタットをアルコール中、懸濁状態で相転換することを特徴とする、請求項1の結晶多形の製造方法。
  4. 粉末X線回折図形で回折角(2θ±0.1度)において、16.6、17.0、18.4、19.3、19.8、20.2、22.6、23.4、24.2及び25.8度に強い回折ピーク又は特徴的なピークを示すメシル酸ナファモスタットをアルコール中、懸濁状態で相転換させることを特徴とする、請求項1の結晶多形の製造方法。
  5. 粉末X線回折図形で全く回折ピークを示さない、非晶質のメシル酸ナファモスタットをアルコール中、懸濁状態で相転換させることを特徴とする、請求項1の結晶多形の製造方法。
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