JP3796428B2 - 配電線地絡電流増幅装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は配電線地絡電流増幅装置に関し、例えば6.6kV高圧の非接地系配電線系統で発生した地絡事故を検出して地絡保護継電器を動作させる配電線地絡電流増幅装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば6.6kVの高圧配電線を持つ非接地系配電線系統を図7に示す。同図は例えば二つの配電用変電所(A変電所、B変電所)を持つ非接地系配電線系統Nを例示する。この配電線系統Nでは、A変電所、B変電所から延びる多数の配電線L1A〜L4A、L1B〜L3Bのうち、いずれかの配電線で高圧機器の絶縁劣化や絶縁不良などにより地絡事故が発生した場合(図では配電線L2Aで地絡事故が発生した場合を示す)、その地絡事故により配電線L2Aに流れる地絡電流Ioを変流器CT2Aにより検出し、その検出された地絡電流Ioに基づいて地絡保護継電器RY2Aを動作させ、その地絡保護継電器RY2Aの出力でもって配電線L2Aの地絡事故発生を検出するようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前述した非接地系配電線系統Nでは、配電線ごとに負荷状態が異なっていることから、配電線における電圧降下が絶えず変動している。そのため、配電用変電所で送り出し電圧を調整するだけでは配電線における電圧降下を補償することが困難となっている。そこで一般的に、電圧降下が大きい配電線(図7では配電線L4A)の途中にSVR(Step Voltage Regulator:自動電圧調整器)を設置し、そのSVRのタップ切り替えで系統電圧を自動的に調整することにより配電線における電圧降下を補償するようにしている。
【0004】
一方、配電線の負荷切り替え時には、その負荷切り替えが実施される配電線(図7ではA変電所の配電線L4A)を、同一変電所の他の配電線あるいは異なる変電所の配電線(図7ではB変電所の配電線L1B)とループ接続(ループIN)することにより、負荷切り替え作業を無停電で行えるようにしている。
【0005】
一般的に、前述したSVRによる電圧調整でもって配電線に残留電圧が発生するため、その残留電圧の発生により残留電流が増大することが明らかとなっている。図8(a)は、C変電所の非接地系配電線系統における配電線L1C〜L4Cの残留電圧Voおよび残留電流Ioを示す。SVRが設置された配電線L3Cでループ接続がない場合、残留電圧Voの発生によりSVR動作が起因となって配電線L3Cの残留電流Ioが増大していることが明らかである。
【0006】
また、SVRを設置した配電線を負荷切り替え時に他の配電線とループ接続した場合には残留電流が非常に増大することも明らかになっている。図8(b)は、D変電所の非接地系配電線系統における配電線L1D〜L4Dの残留電圧Voおよび残留電流Ioを示す。SVRが設置された配電線L2Dをループ接続(ループIN)した時、配電線L2Dの残留電流Ioが非常に増大していることが明らかである。
【0007】
このように非接地系配電線系統において、SVRが設置された配電線をループ接続した場合、そのループ接続時に発生する残留電流レベルが増大して地絡事故発生時に流れる残留電流レベル、つまり地絡電流レベルとほぼ同程度になるため、配電線のループ接続と地絡事故発生との判別が困難となる。その結果、地絡事故が発生していないにもかかわらず、ループ接続時に発生する残留電流により地絡保護継電器が誤動作するという不具合があった。
【0008】
そこで、本発明は前記問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、ループ接続時に発生した残留電流により地絡保護継電器が誤動作することを未然に防止し得る配電線地絡電流増幅装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための技術的手段として、本発明は、電圧調整器が設置された非接地系配電線系統と、その配電線系統で発生した地絡事故により動作する地絡保護継電器と間に設置される配電線地絡電流増幅装置であって、前記電圧調整器により地絡事故発生の配電線に現出した残留電圧を検出する電圧入力部、および前記残留電圧の発生により前記配電線に流れる残留電流を検出する電流入力部と、基準となる線間電圧に対する前記残留電圧の位相差に基づいて地絡事故と配電線のループ接続とを判別する判定部と、その判定部から出力される指令に基づいて地絡事故時に前記残留電流を増大させて出力し、配電線のループ接続時に前記残留電流を抑制して出力する電流増幅部とを具備したことを特徴とする。
【0010】
ここで、非接地系配電線系統では、配電線に電圧調整器を設置したことにより残留電圧が発生し、その残留電圧の発生により残留電流が増大する。なお、配電線のループ接続とは、配電線の負荷切り替え作業を無停電で行う際に、その負荷切り替えが実施される配電線を、同一変電所の他の配電線あるいは異なる変電所の配電線と接続することを意味する。また、基準電圧には、非接地系配電線系統の配電線から検出される線間電圧を適用することが可能である。
【0011】
本発明では、地絡事故時の基準電圧に対する残留電圧の位相差と、配電線のループ接続時の基準電圧に対する残留電圧の位相差とが異なることから、この地絡事故時とループ接続時の位相差の違いにより判定部にて地絡事故とループ接続とを判別する。SVR動作(電圧調整)により配電線に流れる残留電流が増大してその残留電流レベルが地絡事故レベルと同程度になっても、配電線のループ接続時には電流増幅部で残留電流を抑制して出力させることで、残留電流レベルを強制的に低下させるので、配電線地絡電流増幅装置から出力される残留電流レベルが地絡電流レベルと同程度にならないため、ループ接続時に発生する残留電流により地絡保護継電器が動作することはない。これに対して、地絡事故時には電流増幅部で残留電流を増大させて出力することで、地絡保護継電器を確実に動作させることができる。
【0012】
このように地絡事故時と配電線のループ接続時については配電線地絡電流増幅装置の出力により地絡保護継電器を制御し、地絡事故時には地絡保護継電器を確実に動作させ、配電線のループ接続時には地絡保護継電器を強制的に動作させないようにしている。
【0013】
前記構成における判定部は、正常な配電線に流れる残留電流に対して逆位相の残留電流が地絡事故発生により流れる配電線の数を検出することにより地絡事故発生の配電線が複数であるか否かを判別し、地絡事故発生の配電線が複数の場合、前記電流増幅部で残留電流を100%出力させる指令を前記電流増幅部に送出することを特徴とする。このように配電線の多重事故、つまり、複数の配電線において地絡事故が発生した場合には、配電線地絡電流増幅装置が残留電流を100%出力することにより、配電線地絡電流増幅装置の出力により地絡保護継電器を制御することなく、配電線の多重事故を地絡保護継電器で検出する。
【0014】
前記構成における判定部は、残留電圧が増加しているか否かを判別し、残留電圧が減少している場合、前記電流増幅部で残留電流を抑制して出力させる指令を前記電流増幅部に送出することを特徴とする。ここで、配電線のループ接続を開放した場合には、SVRの影響で配電線に流れる残留電圧が減少するため、その減少による残留電圧の変動分で地絡保護継電器が誤動作しないようにする。つまり、残留電圧が増加していない場合には、残留電流を抑制して出力することにより、配電線地絡電流増幅装置の出力で地絡保護継電器を制御して強制的に動作させないようにする。
【0015】
前記構成における判定部は、基準となる線間電圧または装置電源の異常があるか否かを判別し、線間電圧または装置電源の異常が発生した場合、前記電流増幅部で残留電流を100%出力させる指令を前記電流増幅部に送出することを特徴とする。このように基準電圧または装置電源の異常が発生した場合には、配電線地絡電流増幅装置が残留電流を100%出力することにより、配電線地絡電流増幅装置の出力により地絡保護継電器を制御することなく、基準電圧または装置電源の異常時に発生した地絡事故を地絡保護継電器で検出する。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1は非接地系配電線系統Nと地絡保護継電器RY1〜RY3との間に配電線地絡電流増幅装置Mを設置した実施形態を示す。図示の非接地系配電線系統Nは、配電用変電所から延びる6.6kVの系統母線BLから分岐した複数(図では三つ)の配電線L1〜L3を例示している。この配電線L1〜L3の架設数に対応させた数(図では三つ)の地絡保護継電器RY1〜RY3が設置されている。これら地絡保護継電器RY1〜RY3は、配電線L1〜L3に設けられた後述の変流器ZCT1〜ZCT3などを内蔵した機器筐体に配設されている。本発明の配電線地絡電流増幅装置Mは機器筐体に対してケーブルを介して簡単に外付けされる。但し、配電線地絡電流増幅装置Mを前述の機器筐体に内蔵させることも可能である。なお、図中、CB1〜CB3は各配電線L1〜L3に設けられた開閉器である。
【0017】
同図に示すように非接地系配電線系統Nの各配電線L1〜L3に設けられた変流器ZCT1〜ZCT3のそれぞれを配電線地絡電流増幅装置Mの入力に接続し、この変流器ZCT1〜ZCT3により配電線L1〜L3に流れる残留電流Ioを検出する。また、系統母線BLに設けられた計器用変圧器GPTを配電線地絡電流増幅装置Mの入力に接続し、この計器用変圧器GPTにより、配電線L1〜L3に発生した基準電圧Vab〔例えば三相(a相、b相、c相)のうち、a相とb相の線間電圧〕と残留電圧Voを検出する。なお、基準電圧Vabは計器用変圧器GPTの二次側出力から検出可能であり、残留電圧Voは計器用変圧器GPTの三次側出力から検出可能である。一方、配電線L1〜L3の架設数に対応させた数(図では三つ)の地絡保護継電器RY1〜RY3を配電線地絡電流増幅装置Mの出力に接続する。
【0018】
図2は配電線地絡電流増幅装置Mの回路構成ブロック図である。同図に示すように配電線地絡電流増幅装置Mは、電流入力部1、電圧入力部2、電流増幅率設定部3、A/D変換部4、電流増幅部7、CPU部5(判定部)、電源部8とを主要部として構成されている。
【0019】
電流入力部1では、配電線L1〜L3に設けられた変流器ZCT1〜ZCT3が入力接続され、その変流器ZCT1〜ZCT3により検出された残留電流Ioがデータ入力される。この電流入力部1には、例えば、他の周辺機器との絶縁を確保するために高精度の貫通型変流器(図示せず)が設けられている。また、電圧入力部2では、系統母線BLに設けられた計器用変圧器GPTが入力接続され、その計器用変圧器GPTの二次側出力と三次側出力で検出された基準電圧Vabと残留電圧Voがデータ入力される。この電圧入力部2には、例えば、他の周辺機器との絶縁を確保するために絶縁型変圧器(図示せず)が設けられている。
【0020】
電流増幅率設定部3では、例えばディップスイッチによるゲイン抵抗の切り替えでもって、地絡事故時の残留電流Ioの増幅率と、定常時の残留電流Ioの増幅率と、多重事故時および異常時の残留電流Ioの増幅率をそれぞれ設定入力する。例えば、配電線L1〜L3の地絡事故時における残留電流Ioの増幅率を800%(8倍)、配電線L1〜L3の定常時における残留電流Ioの増幅率を25%(1/4倍)、配電線L1〜L3の多重事故時または装置の異常時における残留電流Ioの増幅率を100%(1倍)に設定することが可能である。
【0021】
これら増幅率は一つの例示であり、スイッチの切り替え等により、地絡事故時の増幅率、定常時の増幅率を非接地系配電線系統Nに応じて他の値に設定変更することも可能である。例えば、地絡事故時の増幅率を200%(2倍)または400%(4倍)に、定常時の増幅率を50%(1/2倍)または100%(1倍)に設定変更することが可能である。
【0022】
A/D変換部4は、例えば比較的単純なアナログフィルタと12ビットA/D変換器で、A/D変換後のFFT演算によるデジタルフィルタが構成されている。電流入力部1から出力される残留電流Ioと、電圧入力部2から出力される基準電圧Vabおよび残留電圧VoをA/D変換し、デジタル変換されたデータは8サイクルのFFT演算(高速フーリエ変換)により高周波成分を除去して基本成分(60Hz成分)を抽出する。これにより、残留電流Io、基準電圧Vabおよび残留電圧Voの基本波実効値、位相角を算出している。なお、電流入力部1および電圧入力部2では、貫通型変流器および絶縁型変圧器での検出レベルが微小であるため、それらの出力をレベル変換によりA/D変換器の入力仕様に合わせて増幅するようにしている。
【0023】
電流増幅部7では、例えば増幅アンプ、絶縁アンプ、電流出力アンプからなり、電流入力部1から出力される残留電流Ioを、電流増幅率設定部3により予め設定された増幅率でもって増大または抑制させて出力するか、あるいは100%出力する。この増幅率の選定は、A/D変換部4から出力される残留電流Io、基準電圧Vabおよび残留電圧Voの基本波実効値、位相角に基づいてCPU部5で判定され、後述する事故判定アルゴリズム(図3参照)により残留電流Ioの出力状態を切り替える指令をアナログスイッチ6に送出することにより三段階切り替えで行われる。その切り替え指令としては、配電線L1〜L3の地絡事故時には残留電流Ioを例えば800%に増大する指令と、配電線L1〜L3のループ接続時を含む定常時には残留電流Ioを例えば25%に抑制する指令と、配電線L1〜L3の多重事故時や装置の異常時には残留電流Ioを100%出力する指令とに分別されている。
【0024】
図3は配電線地絡電流増幅装置Mの事故判定アルゴリズムを示す。この事故判定アルゴリズムに基づいて配電線地絡電流増幅装置MのCPU部5では、配電線L1〜L3の地絡事故(特に単独事故)が発生したか否かを判定し、その判定時に地絡事故(単独事故)と配電線L1〜L3のループ接続とを識別し得る。さらに、配電線L1〜L3の地絡事故が多重事故であるか否かや、配電線L1〜L3のループ接続が開放されたか否か、基準電圧または装置電源の異常が発生しているか否かについても判定する。
【0025】
まず最初に装置内部の各構成回路について自己点検を実行する(STEP1)。この自己点検はCPU部5からの点検指令に基づいて各構成回路が正常に動作するか否かをチェックする。装置内部の各構成回路が正常であれば、配電線L1〜L3に流れる残留電流Ioを電流入力部1で取り込むと共に、その配電線L1〜L3に発生した基準電圧Vab、残留電圧Voを電圧入力部2で取り組む(STEP2)。
【0026】
これら残留電流Io、基準電圧Vabおよび残留電圧VoからなるデータをA/D変換部4でA/D変換後のFFT演算により高周波成分を除去して基本成分(60Hz成分)を抽出することにより、残留電流Io、基準電圧Vabおよび残留電圧Voの基本波実効値、位相角を算出する(STEP3)。このFFT演算では例えば50m秒ごとに演算結果が得られるように複数の演算処理を平行して動作させるようにして装置の事故検出速度の向上を図っている。
【0027】
このA/D変換部4で50m秒ごとにサンプリングされた演算結果から残留電圧Voの基本波実効値の平均を算出し(STEP4)、その残留電圧Voの実効値が増加しているか否かをCPU部5で判別する(STEP5)。この判別により、配電線L1〜L3のループ接続開放時における地絡保護継電器RY1〜RY3の誤動作を未然に防止することができる。
【0028】
配電線L1〜L3の負荷切り替え時には、その負荷切り替えが実施される配電線(図7ではA変電所の配電線L4A)を、同一変電所の他の配電線あるいは異なる変電所の配電線(図7ではB変電所の配電線L1B)とループ接続することにより、負荷切り替え作業を無停電で行えるようにしているが、そのループ接続を開放した場合には、SVRの影響で配電線L1〜L3に流れる残留電圧Voが減少する。 そこで、残留電圧Voの減少による変動分で地絡保護継電器RY1〜RY3が誤動作しないようにするためには、前述したように残留電圧Voが増加しているか否かを判別することが有効である。
【0029】
従って、CPU部5で残留電圧Voが増加していない、つまり、残留電圧Voが減少したと判断した場合には、CPU部5からの抑制出力指令により電流増幅部7で残留電流Ioを抑制して出力する(STEP14)。このように配電線L1〜L3のループ接続を開放した場合には、配電線L1〜L3の残留電圧Voが増加しないことを配電線地絡電流増幅装置Mで判定し、その配電線地絡電流増幅装置Mの出力により地絡保護継電器RY1〜RY3を制御し、その地絡保護継電器RY1〜RY3を強制的に動作させないようにする。
【0030】
次に、残留電圧Voの増加分が例えば5Vより大きく、かつ、8Vより小さいか否かをCPU部5で判別する(STEP6,7)。この判別基準となる下限値(5V)と上限値(8V)は配電線地絡電流増幅装置Mが適用される配電線系統Nに応じて任意に設定変更され得る。CPU部5では、配電線L1〜L3に流れる残留電流Ioの実効値が例えば100μA以上であれば、その配電線L1〜L3を有効な判定対象としてその数が1より大きいか否かを判別する(STEP8)。
【0031】
なお、CPU部5の判断基準を、残留電流Ioの実効値が例えば100μAとした理由は次のとおりである。前述したA/D変換部4には、残留電流Ioの実効値を算出するための演算可能な最低レベルがあり、その最低レベルに基づいて基準値を例えば100μAに設定している。従って、A/D変換部4の性能に応じてこの基準値は任意に設定変更され得る。
【0032】
この有効な判定対象となる配電線L1〜L3の数が0であれば、地絡事故が発生しておらず、かつ、配電線L1〜L3のループ接続がない状態であることから、CPU部5からの抑制指令により電流増幅部7で残留電流Ioを抑制して出力することにより、定常時の処理として、配電線地絡電流増幅装置Mにより地絡保護継電器RY1〜RY3を制御し、その地絡保護継電器RY1〜RY3を強制的に動作させない(STEP14)。
【0033】
一方、有効な判定対象となる配電線L1〜L3の数が1より大きければ、地絡事故が発生しているか、あるいは、配電線L1〜L3のループ接続となっている状態かのいずれかである。ここで、それら有効な判定対象となる配電線L1〜L3のうち、逆位相の配電線L1〜L3の数を検出する(STEP9)。これにより配電線L1〜L3の多重事故、つまり、複数の配電線L1〜L3で地絡事故が発生している状態を検出することができる。なお、配電線L1〜L3の多重事故は、例えば落雷などにより発生するのが一般的であり、そのような場合、配電線L1〜L3のループ接続は実施されないことが通例となっているため、この多重事故発生の場合には配電線L1〜L3のループ接続は除外される。
【0034】
図4(a)は一つの配電線L1で地絡事故が発生した単独事故の場合、同図(b)は二つの配電線L1,L2で地絡事故が発生した多重事故の場合をそれぞれ例示する。配電線に地絡事故が発生した場合、地絡事故が発生した配電線以外の正常な配電線〔図4(a)の単独事故の場合は配電線L2,L3、同図(b)の多重事故の場合は配電線L3〕には、大地との間に存在する対地静電容量〔図4(a)の単独事故の場合は対地静電容量C2,C3、同図(b)の多重事故の場合は対地静電容量C3〕を介して地絡電流が流入する。
【0035】
そのため、地絡事故が発生した配電線〔図4(a)の単独事故の場合は配電線L1、同図(b)の多重事故の場合は配電線L1,L2〕には、正常な配電線に流れる残留電流Io’に対して逆位相の残留電流Ioが流れていることになる。従って、逆位相の配電線数が1であれば、図4(a)に示すように一つの配電線L1で地絡事故が発生した単独事故であり、逆位相の配電線数が1よりも大きければ、同図(b)に示すように複数の配電線L1,L2で地絡事故が発生した多重事故であると判定することができる。
【0036】
前述したように有効な判定対象となる配電線のうち、逆位相の配電線の数を検出して1よりも大きければ、配電線の多重事故であるとCPU部5で判定し、そのCPU部5からの100%出力指令により電流増幅部7で残留電流Ioを100%出力することにより(STEP13)、配電線L1〜L3の残留電流Ioを配電線地絡電流増幅装置Mにより増大または抑制することなく、そのまま地絡保護継電器RY1〜RY3に出力する。このように配電線地絡電流増幅装置Mの出力により地絡保護継電器RY1〜RY3を制御することなく、配電線L1〜L3の多重事故を地絡保護継電器RY1〜RY3で検出する。
【0037】
一方、逆位相の配電線の数が1であれば、配電線L1〜L3の単独事故あるいは配電線L1〜L3のループ接続であるとCPU部5で判定する。その場合、逆位相の配電線に流れる残留電流Ioが例えば1mA以上であるか否かをCPU部5で判別する(STEP10)。
【0038】
ここで、SVRのタップ切り替えにより配電線L1〜L3の残留電流Ioが増加する場合があり、その場合でも残留電流Ioの増加量が1mAより小さいことから、前記CPU部5の判断基準を残留電流Ioが1mAとしたのは、SVRのタップ切り替えにより残留電流Ioが増加する場合を除外するものである。
【0039】
従って、逆位相の配電線L1〜L3の残留電流Ioが1mAより小さい場合には、地絡事故が発生しておらず、かつ、配電線L1〜L3のループ接続がない状態であることから、CPU部5からの抑制出力指令により電流増幅部7で残留電流Ioを抑制して出力することにより、定常時の処理として、配電線地絡電流増幅装置Mにより地絡保護継電器RY1〜RY3を制御し、その地絡保護継電器RY1〜RY3を強制的に動作させない(STEP14)。
【0040】
逆位相の配電線L1〜L3に流れる残留電流Ioが1mA以上である場合、基準電圧Vabに対する残留電圧Voの位相差を測定することにより(STEP11)、地絡事故(単独事故)による残留電圧Voの増加であるのか、あるいは配電線L1〜L3のループ接続による残留電圧Voの増加であるのかを判別する。この判別は、地絡事故(単独事故)時における残留電圧Voのベクトル軌跡と配電線L1〜L3のループ接続時における残留電圧Voのベクトル軌跡の差異に基づいて行うことが可能である。
【0041】
すなわち、配電線L1〜L3のループ接続時における残留電圧Voのベクトル軌跡は、図5に示すようにa相電圧Va、b相電圧Vbまたはc相電圧Vcのいずれかの位相と一致する。同図(a)はa相配電線のループ接続、同図(b)はb相配電線のループ接続、同図(c)はc相配電線のループ接続の場合をそれぞれ示す。
【0042】
これに対して地絡事故(単独事故)時における残留電圧Voのベクトル軌跡は、図(a)(b)(c)に示すように基準電圧Vabに対して所定の位相角θを持つ。a相地絡、b相地絡、c相地絡のそれぞれの場合、残留電圧Voのベクトル軌跡は、その電圧値に応じて図中破線で示すような半円弧上に位置するが、前述したように残留電圧Voを5Vより大きく、かつ、8Vより小さい値の範囲内で判別するようにしたことから、基準電圧Vabに対する残留電圧Voの位相角θは、a相地絡の場合は290〜300°、b相地絡の場合は50〜60°、c相地絡の場合は170〜180°となる。
【0043】
なお、非接地系配電線系統Nに応じて適正な残留電圧Voの判定範囲を設定変更することにより、残留電圧Voのベクトル軌跡において、基準電圧Vabに対する残留電圧Voの位相角が前記配電線系統Nに適合した範囲に選定される。
【0044】
このようにして、残留電圧Voのベクトル軌跡から、基準電圧Vabに対する残留電圧Voの位相角が前記所定の範囲内(a相地絡:290〜300°、b相地絡:50〜60°、c相地絡:170〜180°)にあれば、地絡事故(単独事故)が発生しているとCPU部5で判定し、そのCPU部5から出力される増大出力指令により電流増幅部7で残留電流Ioを800%に増大させて出力することで、地絡事故時の処理として、配電線地絡電流増幅装置Mの出力により地絡保護継電器RY1〜RY3を制御し、その地絡保護継電器RY1〜RY3を確実に動作させる。
【0045】
一方、残留電圧Voが前記所定の範囲外、つまり、残留電圧Voがa相電圧Va、b相電圧Vbまたはc相電圧Vcのいずれかの位相と一致すれば、配電線L1〜L3のループ接続であるとCPU部5で判定し、そのCPU部5から出力される抑制出力指令により電流増幅部7で残留電流Ioを25%に抑制して出力することで、配電線L1〜L3のループ接続時の処理として、配電線地絡電流増幅装置Mの出力により地絡保護継電器RY1〜RY3を制御し、その地絡保護継電器RY1〜RY3を強制的に動作させないようにする。
【0046】
なお、配電線地絡電流増幅装置Mの電源部8は、装置の信頼性を向上させるために二つの電源を具備し、一方の電源が故障しても他方の電源により正常動作するようになっている。また、電源の二次電圧を監視し、その二次電圧が±5%の範囲を逸脱する場合には装置電源の異常信号がCPU部5に出力される。また、計器用変圧器GPTの二次側出力を監視し、その二次電圧が例えば40Vより小さくなった場合には基準電圧Vabの異常信号がCPU部5に出力される。
【0047】
この配電線地絡電流増幅装置Mでは、基準電圧異常や装置電源異常が発生した場合(STEP12)、その異常信号に基づいてCPU部5で判定し、そのCPU部5から出力される100%出力指令により電流増幅部7で残留電流Ioを100%出力する(STEP13)。これにより、配電線L1〜L3の残留電流Ioを配電線地絡電流増幅装置Mにより増大または抑制することなく、そのまま地絡保護継電器RY1〜RY3に出力することにより、配電線地絡電流増幅装置Mの出力により地絡保護継電器RY1〜RY3を制御することなく、配電線地絡電流増幅装置Mにおいて基準電圧や装置電源の異常が発生している最中であっても地絡事故を地絡保護継電器RY1〜RY3で検出することができる。
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、地絡事故時の基準電圧に対する残留電圧の位相差と、定常時、特に配電線のループ接続時の基準電圧に対する残留電圧の位相差とが異なることから、地絡事故時とループ接続時の位相差の違いにより判定部にて地絡事故とループ接続とを判別する。SVR動作(電圧調整)により配電線に流れる残留電流が増大しても、判定部で地絡事故発生と配電線のループ接続とを判別することにより、配電線のループ接続時には電流増幅部で残留電流を抑制して出力させることで、残留電流レベルを強制的に低下させるので、その残留電流レベルが地絡電流レベルと同程度にならないため、ループ接続時に発生する残留電流により地絡保護継電器が誤動作することはないので、装置の信頼性が大幅に向上する。
【0049】
判定部は、地絡事故発生により逆位相の残留電流が流れる配電線の数を検出することにより地絡事故発生の配電線が複数であるか否かを判別し、地絡事故発生の配電線が複数の場合、前記電流増幅部で残留電流を100%出力させる指令を前記電流増幅部に送出することにより、配電線の多重事故、つまり、複数の配電線において地絡事故が発生した場合には、配電線地絡電流増幅装置が残留電流を100%出力することにより、配電線地絡電流増幅装置による単独事故の検出だけでなく、配電線の多重事故については既設の地絡保護継電器で検出させることができるので、多重事故検出に関する信頼性を維持することができる。
【0050】
判定部は、残留電圧が増加しているか否かを判別し、残留電圧が増加していない場合、前記電流増幅部で残留電流を抑制して出力させる指令を前記電流増幅部に送出することにより、配電線地絡電流増幅装置で定常状態であると判定させるので、配電線のループ接続を開放した場合でも、地絡保護継電器が誤動作することはなく、装置の信頼性がより一層向上する。
【0051】
判定部は、基準電圧または装置電源の異常があるか否かを判別し、基準電圧または装置電源の異常が発生した場合、前記電流増幅部で残留電流を100%出力させる指令を前記電流増幅部に送出することにより、配電線地絡電流増幅装置において基準電圧や装置電源の異常が発生している最中であっても地絡事故を既設の地絡保護継電器で検出することができるので、異常発生時における装置の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態で、非接地系配電線系統と地絡保護継電器との間に配電線地絡電流増幅装置を設置した概略構成図である。
【図2】図1の配電線地絡電流増幅装置の概略構成ブロック図である。
【図3】図1の配電線地絡電流増幅装置による地絡事故判定のアルゴリズムフロー図である。
【図4】(a)は非接地系配電線系統に単独事故が発生した場合を示す系統配線図、(b)は多重事故が発生した場合を示す系統配線図である。
【図5】基準電圧に対する残留電圧のベクトル軌跡で、(a)はa相配電線のループ接続時、(b)はb相配電線のループ接続時、(c)はc相配電線のループ接続時をそれぞれ示す。
【図6】基準電圧に対する残留電圧のベクトル軌跡で、(a)はa相地絡事故の発生時、(b)はb相地絡事故の発生時、(c)はc相地絡事故の発生時をそれぞれ示す。
【図7】二つの変電所の非接地系配電線系統間でのループ接続を説明するための概略構成図である。
【図8】残留電圧および残留電流の発生状況を説明するためのもので、(a)は配電線のループ接続がない場合の波形図、(b)は配電線のループ接続がある場合の波形図である。
【符号の説明】
1 電流入力部
2 電圧入力部
5 判定部(CPU部)
7 電流増幅部
Io 残留電流
L1〜L3 配電線
M 配電線地絡電流増幅装置
N 非接地系配電線系統
SVR 電圧調整器
Vo 残留電圧
Vab 基準電圧
Claims (4)
- 電圧調整器が設置された非接地系配電線系統と、その配電線系統で発生した地絡事故により動作する地絡保護継電器と間に設置される配電線地絡電流増幅装置であって、前記電圧調整器により地絡事故発生の配電線に現出した残留電圧を検出する電圧入力部、および前記残留電圧の発生により前記配電線に流れる残留電流を検出する電流入力部と、基準となる線間電圧に対する前記残留電圧の位相差に基づいて地絡事故と配電線のループ接続とを判別する判定部と、その判定部から出力される指令に基づいて地絡事故時に前記残留電流を増大させて出力し、配電線のループ接続時に前記残留電流を抑制して出力する電流増幅部とを具備したことを特徴とする配電線地絡電流増幅装置。
- 前記判定部は、正常な配電線に流れる残留電流に対して逆位相の残留電流が地絡事故発生により流れる配電線の数を検出することにより地絡事故発生の配電線が複数であるか否かを判別し、地絡事故発生の配電線が複数の場合、前記電流増幅部で残留電流を100%出力させる指令を前記電流増幅部に送出することを特徴とする請求項1に記載の配電線地絡電流増幅装置。
- 前記判定部は、残留電圧が増加しているか否かを判別し、残留電圧が減少している場合、前記電流増幅部で残留電流を抑制して出力させる指令を前記電流増幅部に送出することを特徴とする請求項1又は2に記載の配電線地絡電流増幅装置。
- 前記判定部は、基準となる線間電圧または装置電源の異常があるか否かを判別し、線間電圧または装置電源の異常が発生した場合、前記電流増幅部で残留電流を100%出力させる指令を前記電流増幅部に送出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の配電線地絡電流増幅装置。
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