本発明は、配電系統のループ運用システム及び方法に関する。
電力自由化(規制緩和による独立発電事業者の参入など)に伴う電力の競争時代に対応するため、電気供給事業者にとって、更なる電力供給コスト低減が重要な課題となっている。このため、電力損失最小化による電力供給コスト低減などの対策が必要となっている。
非特許文献1,2に、現行の配電系統に関する技術が示されている。
現行の一般的な高圧配電系統は、これらの文献に開示されているように、樹枝状に構成、運用される。この樹枝状の配電系統では、配電線に事故が発生した場合、事故電流(零相電流、短絡電流)などにより事故が発生した配電線を特定する。そして、事故が発生した配電線に設置された遮断器又は区分開閉器により事故が発生した区間を切り離すことにより、その他の健全な区間に電力供給を継続する。
また、配電線の区分開閉器や配電線間の連系開閉器により系統切り替えを行ない、各配電線の需要の平準化と電力損失の低減が図られている。
この他、特許文献1に、配電線に事故が発生した場合、復電する前に事故区間の区分開閉器を開路して、事故区間より電源側の健全区間を迅速に復旧させることを目的としたループ系統配電線用の自動区分開閉装置について開示されている。
「電気工学ハンドブック」電気学会/オーム社出版、昭和63年(p1225)
「現代の配電技術」、電気書院、昭和47年(p10)
特開平10−201082号公報
上記各文献に開示された配電系統のループ運用システムでは、電力損失の低減と供給信頼度の維持が十分ではなかった。
すなわち、非特許文献1,2に開示された樹枝状方式では、各開閉器による系統切り替えは、各開閉器の構造から、切り替え回数に限界があるため、季節、週間、昼夜などによる需要の変動に対し、常に電力損失を最小化することができないという欠点があった。
しかしながら、ループ状方式には、次のような課題が有る。まず、電力損失低減のため、連系開閉器を閉路して配電線をループ状で運用した場合、零相循環電流の影響により保護装置が誤動作する恐れがある。さらに、事故が発生した配電線の特定が困難となるため、事故が発生した配電線(区間)だけでなく、ループ状で運用している配電線も停電することとなり、供給信頼度が低下するなどの問題があった。
一方、特許文献1に開示された技術は、復電(事故停電)時における事故区間の自動切り離しに関するものであり、供給信頼度の低下を回避するものではない。
本発明の目的は、電力損失低減と供給信頼度維持を実現する配電系統のループ運用システム及び方法を提供することにある。
本発明は、樹枝状に構成された配電線のループ点に連系開閉器を備えた配電系統において、これらの配電系統の電気量を検出するセンサと、このセンサによって検出された電気量に基づいて、この配電系統に設置された他の保護装置よりも高感度に事故を検出する事故検出装置と、前記連系開閉器として用いられる遮断器であって、この配電系統の健全時に投入状態に維持されるとともに、前記事故検出装置が事故を検出したとき開放される遮断器を備えたことを主特徴とする。
ここで、他の保護装置よりも高感度に事故を検出するとは、電気量の設定検出レベルを小さくし、又は検出時限を短くすることにより、事故検知感度を高く設定するほか、設定検出レベルや検出時限は変わらなくても、事故検知信号の伝送速度を高めるなど、結果的に、高感度に事故を検出し保護動作を開始できれば十分である。
本発明の望ましい実施態様においては、樹枝状に構成、運用される高圧配電系統のループ点(連系開閉器の設置点)に、配電線の零相電圧、相電流、及び/又は零相電流を検出するセンサと、このセンサの出力に基づいて、配電線の地絡、短絡、及び/又は断線を他の保護装置よりも高感度に検出する事故検出装置、並びに遮断器からなる保護装置を介して両配電線を接続して配電系統ループ運用システムを構成し、健全時は遮断器を閉路してループ状で運用し、高感度に事故を検出することによって、前記遮断器を開路して樹枝状に切り替えるように構成する。
本発明の望ましい実施態様によれば、健全時はループ状で運用されるため、理想的な電力損失低減を可能とするとともに、事故を速やかに検出して樹枝状運用に切り替えるため、現行の保護方式による系統保護が可能となり、供給信頼度の維持を図ることができる。
本発明によるその他の目的と特徴は、以下に述べる実施例の中で明らかにする。
以下本発明の実施例について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施例による配電系統のループ運用システムの構成図である。高圧配電系統を、図1に示すように、樹枝状に構成する。図1において、1は配電用変電所、2は配電用変圧器である。配電用変圧器2から、2系統の配電線31及び32が、樹枝状に延設される。配電用変圧器2と各配電線31及び32の間には、それぞれ遮断器41及び42が設置され、事故配電線を遮断する。511〜513及び521〜523は、区分開閉器(常時閉)を表し、それぞれ配電線31及び32に設置され、配電線31及び32を適当な区間に分割する。従来、これらの配電線31と32との間のループ点に、連系開閉器6が接続されていたが、この連系開閉器6の機能を含めて、本発明のこの実施例では、保護装置7を配置している。以下に、その詳細を説明する。
保護装置7は、配電線31と32のループ点(連系開閉器の設置点)に、両配電線31及び32に接続して設置される。保護装置7は、大きく分けて、センサ71、事故検出装置72、及び遮断器73により構成される。
センサ71は、零相電圧センサ711、電流センサ712、及び零相電流センサ713により構成されている。電流センサ712は、3相の配電線31,32の2相又は3相すべてに設置される。各センサ711〜713の出力は、事故検出装置72に接続される。
事故検出装置72は、地絡検出要素721、短絡検出要素722、断線検出要素723、並びに論理和演算回路724により構成される。地絡検出要素721には、零相電圧センサ711の出力が接続される。同様に、短絡検出要素722には電流センサ712、断線検出要素723には零相電流センサ713の出力が接続される。各検出要素721〜723の出力は、論理和演算回路724に接続される。論理和演算回路724の出力は、事故検出装置72の出力として、遮断器73を遮断するように接続される。
地絡検出要素721は、振幅(実効値)演算部7211、レベル判定部7212、及びタイマ7213で構成される。短絡検出要素722、断線検出要素723も、地絡検出要素721と同様に、振幅(実効値)演算部7221,7231、レベル判定部7222,7232、タイマ7223,7233で構成される。
次に、このように構成された保護装置7の動作について説明する。
センサ71は、各センサ711〜713により、配電線31及び32の零相電圧、相電流、零相電流を計測する。
地絡検出要素721の振幅演算部7211は、実効値演算、又は、DFT演算などにより、計測された零相電圧信号を、零相電圧の振幅値に変換する。レベル判定部7212は、予め設定された零相電圧の基準値と、零相電圧の振幅値とを比較し、振幅値が基準値以上の場合にハイレベル「1」、そうでない場合にローレベル「0」を、タイマ7213に出力する。タイマ7213は、ハイレベル「1」が継続して入力された時間を計測する。また、予め設定された(継続)基準時間と、計測された時間を比較し、計測された時間が基準時間以上の場合にハイレベル「1」、そうでない場合にローレベル「0」を、論理和演算回路724に出力する。すなわち、地絡検出要素721では、保護リレーで周知の地絡過電圧要素とほぼ同様な動作を行ない、配電線31又は32に発生した地絡事故を検出する。
短絡検出要素722は、地絡検出要素721とほぼ同様の動作により、相電流の振幅値が基準値以上となる状態が、基準時間以上継続した場合にハイレベル「1」、そうでない場合にローレベル「0」を、論理和演算回路724に出力する。すなわち、短絡検出装置722では、保護リレーで周知の過電流要素とほぼ同様な動作を行ない、配電線31又は32に発生した短絡事故を検出する。
断線検出要素723は、地絡検出要素721とほぼ同様の動作により、零相電流の振幅値が基準値以上となる状態が、基準時間以上継続した場合にハイレベル「1」、そうでない場合にローレベル「0」を、論理和演算回路724に出力する。すなわち、断線検出要素723では、保護リレーで周知の地絡過電流要素とほぼ同様な動作を行ない、配電線31又は32に発生した断線事故を検出する。
なお、各検出要素721〜723を、変化分方式の各保護要素で構成しても、同様の効果を得ることができる。すなわち、地絡過電圧要素又は変化分地絡過電圧要素、過電流要素又は変化分過電流要素、及び/又は、地絡過電流要素又は変化分地絡過電流要素を持つように構成することができる。
論理和演算回路724は、各検出要素721〜723の出力信号を論理和演算し、演算結果を開閉制御指令として、遮断器73に出力する。また、演算結果がハイレベルの場合に、演算結果を保持する。
遮断器73は、常閉(ノーマリ・オン)状態にあり、上記事故検出装置72が高感度に事故を検出し、その出力が「1」となったとき、この遮断器73は遮断される。
この結果、保護装置7は、ループ状で運用される配電線31,32で発生した地絡、短絡、断線事故をいち早く(高速に)検出して遮断器73を開路し、健全時にループ状で運用される配電線31及び32を、事故時には、速やかに樹枝状運用に切り替えることができる。したがって、配電線31及び32を、可能な限りループ状で運用し、電力損失を低減することができる。その電力損失低減の一例を、図2を用いて説明する。
図2は、配電系統の樹枝状とループ運用での電力損失を比較説明する一例図である。図に示す電源201から、2つの配電線202及び203で構成された配電系統において、各配電線202及び203が、末端に接続された各需要家(負荷)204及び205に電力を供給する場合を考える。本例では、各配電線の線路抵抗をそれぞれ1Ω、需要家204の負荷を0〜12時に100A、12時〜24時に0A、需要家205の負荷を0〜12時に0A、12時〜24時に100Aと仮定する。この条件において、連系開閉器206を常時開路とした樹枝状方式で電力供給した場合の電力損失は、(線路電流の2乗)×線路抵抗より、(100A×100A)×1Ω×12時間×2配電線=240kWhとなる。
一方、連系開閉器206を常時閉路としたループ状(常時閉路ループ)方式で電力供給した場合の電力損失は、線路電流がバランスするため、(50A×50A)×1Ω×24時間×2配電線=120kWhとなり、樹枝状方式の半分となる。
このように、ループ状で可能な限り運用できる本発明の一実施例によれば、特に、昼夜による需要の変動がある場合、樹枝状の運用に比べ、大幅に電力損失を低減できる。
次に、配電系統のループ運用システムの地絡事故時の動作例について、図3及び図4を用いて説明する。
図3は、図1と同じ配電系統であり、71はループ運用に伴う零相循環電流、8は地絡事故点、811及び812は地絡事故による零相電流を示している。今、2つの配電線31,32で構成された配電系統が、樹枝状(常時開路ループ方式)で運用されている場合を考える。
図4の時点GA1までの健全期間においては、零相電圧が小さいため、レベル判定部7212〜7232、タイマ7213〜7233の各出力、及び、事故検出装置72の出力である開閉制御指令は全てローレベル「0」となる。このため、遮断器73は閉路状態に維持され、配電線31と32はループ状に運用される。
ここで、時点GA1において、配電線31の事故点8で地絡事故が発生したと仮定すると、零相電圧及び零相電流が発生する。零相電流811,812は、事故点に向かって流れるため、配電線31(事故配電線)では負荷側方向の零相電流811が流れ、他方、配電線32(健全配電線)では電源側方向の零相電流812が流れる。
樹枝状運用の地絡保護では、零相電圧と零相電流の発生、及び、零相電流811,812の方向から事故配電線31を特定し、事故配電線31を切り離して、地絡事故の除去を行っている。
一方、図3における保護装置7で両配電線31,32を接続し、ループ状(常時閉路ループ方式)で運用した場合、各配電線の線路インピーダンスの不平衡により負荷電流に比例した零相循環電流701が、ループ配電区間の両配電線31,32に常時発生し還流する。零相循環電流701は、系統条件によって変化するが、地絡事故による零相電流811,812より大きい場合がある。本例では、地絡事故による零相電流811,812に比較して零相循環電流701の方が大きいと仮定する。配電線31に地絡事故が発生した場合、零相電圧、零相電流が発生し、地絡事故による零相電流811,812は、配電線31を負荷側方向に流れる。しかしながら、地絡事故による零相電流811に比較して零相循環電流701が大きいため、零相循環電流701と地絡事故による零相電流811,812を加算した零相電流は、配電線31を電源側方向、配電線32を負荷側方向に流れる。このため、零相電流の方向から事故配電線を特定する周知の樹枝状運用の地絡保護では、事故配電線の特定を誤り、最初に健全な配電線32を切り離すこととなる。その後、配電線31の切り離しにより、樹枝状運用(相当)となり、零相循環電流が消滅するため、ここではじめて事故配電線である配電線31が切り離され、地絡事故の除去が行われる。このため、最終的に、両配電線31,32が停電することとなる。このように、樹枝状運用における周知の地絡保護では、ループ状運用において、事故配電線の特定が困難な場合があり、事故が発生した配電線(区間)だけでなく、ループ状で運用している配電線も停電することとなり、供給信頼度が低下する問題がある。
次に、本発明の一実施例による配電系統のループ運用システムの地絡事故時の動作例について、図3に加え図4を用いて説明する。
図4の時点GA1で地絡事故が発生すると、配電系統に零相電圧が発生し、振幅演算部7211の出力が増加する。レベル判定部7212の基準値は、配電用変電所の地絡過電圧リレーの検出レベル、例えば、完全地絡時に発生する零相電圧の10%と同程度かそれより小さい値に設定されている。したがって、零相電圧の振幅値が基準値以上となった場合、時点GA2〜GA5の期間で、レベル判定部7212の出力がハイレベル「1」となる。この実施例では、タイマ7213の基準時間は、配電用変電所の地絡過電圧リレーの検出時限より短い時間に設定されており、ハイレベル「1」の継続時間が基準時間以上となる時点GA3以降において、タイマ7213の出力がハイレベル「1」となる。
このように、地絡検出要素721は、既設の配電線(地絡)保護よりも高感度に整定されており、既設の配電線(地絡)保護よりも早く(高速に)地絡事故を検出する。この地絡事故検出により、事故検出装置72の開閉制御指令はハイレベル「1」となり、遮断器73が開路され、時点GA3で、配電線31と32は樹枝状運用に切り替えられる。
このため、既設の配電線(地絡)保護により、時点GA5において、遮断器41を開放し、事故配電線31のみの切り離しが可能となり、樹枝状の運用と同等の供給信頼度を確保することが可能となる。
次に、実施例1における短絡事故時の動作例について、図5、図6を用いて説明する。
図5は、図1と同じ配電系統であり、遮断器73を含む保護装置7に近い配電線31に短絡事故が発生したものと仮定している。81が短絡事故点である。
図6の時点SA1以前の健全時には、相電流が基準値以下の適正範囲内であるため、事故検出装置72内のレベル判定部7222、タイマ7223の各出力、及び、開閉制御指令は全てローレベル「0」となっている。このため、遮断器73は閉路状態に維持され、配電線31と32はループ状に運用されている。
しかし、図6の時点SA1で短絡事故が発生すると、配電系統に短絡電流が流れ、相電流が増加する。また、相電流の増加に伴い、振幅演算部7221の出力が増加する。レベル判定部7222の基準値は、配電用変電所の過電流リレーの検出レベル、例えば、最大負荷電流の150%と同程度か、それより小さい値に設定されている。したがって、時点SA2〜SA4の期間に、相電流の振幅値が基準値以上となり、レベル判定部7222の出力がハイレベル「1」となる。タイマ7223の基準時間は、配電用変電所の過電流リレーの検出時限より短い時間に設定されており、時点SA3でハイレベル「1」の継続時間が基準時間を越えると、タイマ7223の出力がハイレベル「1」となる。
このように、短絡検出要素722は、既設の配電線(短絡)保護よりも高感度に整定されており、既設の配電線(短絡)保護よりも早く(高速に)短絡事故を検出する。時点SA3で短絡事故を検出すると、開閉制御指令はハイレベル「1」となり、遮断器73が開路され、配電線31と32は樹枝状の運用に切り替えられる。
このため、その後の時点SA5において、既設の配電線(短絡)保護により遮断器41を開放して、事故配電線31のみの切り離しが可能となり、通常時の電力損失を小さく抑制しつつ、樹枝状の運用と同等の供給信頼度を確保することが可能となる。
次に、短絡事故時の他の動作例について、図7及び図8を用いて説明する。
図7は、図1と同じ配電系統であり、配電用変電所1の近傍の事故点82に、短絡事故が発生したものと仮定している。
図8の時点SB1以前の健全時には、相電流が基準値以下の適正範囲内のため、レベル判定部7222、タイマ7223の各出力、及び、開閉制御指令は全てローレベル「0」に保たれている。このため、遮断器73は閉路状態に維持され、配電線31と32はループ状に運用されている。
しかし、図8の時点SB1で短絡事故が発生すると、配電系統に短絡電流が流れ、相電流が増加する。ただし、事故点82が、配電用変電所1に近い場合、大部分の短絡電流が遮断器41から配電線31を通して短絡事故点82に流れるため、時点SB1〜SB2の期間では、振幅演算部7221の出力は殆ど増加せず、遮断器73は閉路状態に維持される。このため、時点SB2において、既設の配電線(短絡)保護により、事故配電線31の変電所側の遮断器41が開路される。
遮断器41の開路により、時点SB3〜SB5の期間には、遮断器42→配電線32→遮断器73(保護装置7内)→配電線31→短絡事故点82の径路で、全ての短絡電流が配電線32に流れるため、振幅演算部7221の出力が増加する。時点SB3〜SB5の期間に、相電流の振幅値が基準値以上となり、レベル判定部7222はハイレベル「1」となり、その継続時間が基準時間以上となる時点SB4でタイマ7223の出力がハイレベル「1」となる。
前述のように、短絡検出要素722は、既設の配電線(短絡)保護よりも高感度に整定されており、既設の配電線(短絡)保護よりも早く(高速に)時点SB4で短絡事故を検出する。この短絡事故検出により、開閉制御指令はハイレベル「1」となり、遮断器73が開路され、事故配電線31が切り離される。
以上のように、短絡事故点82が配電用変電所1に近い場合でも、既設の配電線(短絡)保護との保護協調により、事故配電線31のみの切り離しが可能となり、樹枝状の運用と同等の供給信頼度を確保することが可能となる。
次に、実施例1の断線事故時の動作例について、図9及び図10を用いて説明する。
通常、図10の時点B1以前の健全時には、零相電流が小さいため、レベル判定部7232、タイマ7233の各出力、及び、開閉制御指令は全てローレベル「0」を保っている。このため、遮断器73は閉路状態に維持され、配電線31と32はループ状に運用されている。
しかし、時点B1において、断線事故が発生すると、配電系統に零相電流が流れ、振幅演算部7231の出力が増加する。レベル判定部7232の基準値は、配電用変電所の地絡方向リレーの検出レベル、例えば、高抵抗4k〜6kΩでの地絡で発生する零相電流200mAと同程度かそれより大きい値に設定されている。したがって、時点B2〜B4の期間で、零相電流の振幅値が基準値以上となったとすると、レベル判定部7232の出力がハイレベル「1」となる。タイマ7233の基準時間は、配電用変電所の地絡過電圧リレーの検出時限より短い時間に設定されており、時点B3で、ハイレベル「1」の継続時間が基準時間を越えると、タイマ7233の出力がハイレベル「1」となる。
このように、断線検出要素723は、既設の配電線(地絡)保護よりも早く(高速に)断線事故を検出する。この断線事故検出により、開閉制御指令はハイレベル「1」となり、遮断器73が開路され、配電線31、32は樹枝状の運用に切り替えられる。
この結果、断線事故による零相電流は、健全時の状態まで低下する。このため、既設の配電線保護、監視などにより、断線事故への対応が可能となり、樹枝状の運用と同等の供給信頼度を確保することが可能となる。
図11は、本発明の他の実施例を示す配電系統のループ運用システムの構成図である。1〜5で始まる符合は、図1と同様である。9は保護制御装置、73は遮断器である。
以下、実施例1と同様の機能要素には同一符号を付け、重複説明は避ける。この実施例2では、他系統の事故に関する動作説明も行うため、他系統の遮断器43と、この遮断器43から延設された他系統の配電線33及び区分開閉器531〜533も図示している。
保護制御装置9は、配電用変電所1の近傍に設置され、2台のセンサ91a,91bと、事故検出装置92により構成されている。遮断器73は、配電線31と32のループ点(連系開閉器の設置点)に設置され、両配電線31と32が接続される。センサ91a,91bは、配電線31及び32の電源側の遮断器41及び42の近傍にそれぞれ1台ずつ設置される。
センサ91aは、零相電圧センサ711a、電流センサ712a、零相電流センサ713aにより構成される。電流センサ712aは、3相配電線31の2相又は3相すべてに設置される。各センサ711a〜713aの出力は、事故検出装置92に接続される。
センサ91bは、電流センサ712b、零相電流センサ713bにより構成される。電流センサ712bは、3相配電線32の2相又は3相すべてに設置される。各センサ712b、713bの出力は、事故検出装置92に接続される。
事故検出装置92は、地絡検出要素921、短絡検出要素722、断線検出要素723、及び論理和演算回路724により構成される。地絡検出要素921には、零相電圧センサ711a、零相電流センサ713a、及び零相電流センサ713bの出力が接続される。同様に、短絡検出要素722には、電流センサ712a及び電流センサ712bの出力が、断線検出要素723には、零相電流センサ713aの出力が接続される。各検出要素921、722、及び723の出力は、論理和演算回路724に接続される。論理和演算回路724の出力は、事故検出装置92の出力として、遮断器73を遮断するように接続される。
地絡検出要素921は、それぞれ2台の振幅(実効値)演算部9211v,9211i、レベル判定部9212v,9212i、及びタイマ9213v,9213iを備えている。また、加算回路9214、位相差演算部9215、位相差判定部9216、並びに論理積演算回路9217を備えて構成される。短絡検出要素922は、振幅(実効値)演算部9221、レベル判定部9222、タイマ9223、及び加算回路9224で構成される。断線検出要素723は、振幅(実効値)演算部7231、レベル判定部7232、及びタイマ7233で構成される。
次に、このように構成した実施例2における保護制御装置9の動作について説明する。
2台のセンサ91a,91bは、各センサ711a、712a,712b、及び713a,713bにより、配電線31と32の零相電圧、相電流、及び零相電流を計測する。
地絡検出要素921の振幅演算部9211vは、実効値演算、又は、DFT演算などにより、計測された零相電圧信号を、零相電圧の振幅値に変換する。レベル判定部9212vは、予め設定された零相電圧の基準値と、零相電圧の振幅値とを比較し、振幅値が基準値以上の場合にハイレベル「1」、そうでない場合にローレベル「0」を、タイマ9213vに出力する。タイマ9213vは、ハイレベル「1」の継続時間を計測する。また、予め設定された(継続)基準時間と、計測された時間を比較し、計測された時間が基準時間以上の場合にハイレベル「1」、そうでない場合にローレベル「0」を、論理積演算回路9217に出力する。すなわち、地絡検出要素921の振幅(実効値)演算部9211v、レベル判定部9212v、タイマ9213vでは、保護リレーの地絡過電圧要素とほぼ同様な動作を行ない、配電線31,32に発生した地絡事故を検出する。
加算回路9214は、各センサ713a、713bで計測された零相電流信号を加算する。振幅演算部9211iは、実効値演算、又は、DFT演算などにより、加算された零相電流信号を、零相電流の振幅値に変換する。レベル判定部9212iは、予め設定された零相電流の基準値と、零相電流の振幅値とを比較し、振幅値が基準値以上の場合にハイレベル「1」、そうでない場合にローレベル「0」を、タイマ9213iに出力する。タイマ9213iは、ハイレベル「1」の継続時間を計測する。また、予め設定された(継続)基準時間と、計測された時間を比較し、計測された時間が基準時間以上の場合にハイレベル「1」、そうでない場合にローレベル「0」を、論理積演算回路9217に出力する。すなわち、地絡検出要素921の振幅(実効値)演算部9211i、レベル判定部9212i、タイマ9213iでは、保護リレーの地絡過電流要素とほぼ同様な動作を行ない、配電線31,32に発生した地絡事故を検出する。
位相差演算部9215は、DFT演算などにより、計測された零相電圧信号、加算された零相電流信号を、位相(角)に変換し、位相差を演算する。位相差判定部9216は、予め設定された位相差の基準値と、演算された位相差を比較し、位相差が基準範囲内の場合にハイレベル「1」、そうでない場合にローレベル「0」を、論理積演算回路9217に出力する。すなわち、地絡検出要素921の位相差演算部9215、位相差判定部9216では、保護リレーの地絡方向要素とほぼ同様な動作を行ない、配電線31,32に発生した地絡事故の方向を判定する。
論理積演算回路9217は、各タイマ9213v,9213i、位相差判定部9216の出力信号を論理積演算し、演算結果を論理和演算回路724に出力する。
短絡検出要素922の加算回路9224は、各センサ712a,712bで計測された相電流信号を加算する。短絡検出要素922は、加算された相電流信号を入力とするが、短絡検出要素722とほぼ同様の動作により、相電流の振幅値が基準値以上となる状態が基準時間以上継続した場合にハイレベル「1」、そうでない場合にローレベル「0」を、論理和演算回路724に出力する。すなわち、短絡検出装置922では、保護リレーの過電流要素とほぼ同様な動作を行ない、配電線3に発生した短絡事故を検出する。
断線検出要素723、論理和演算回路724、遮断器73は、実施例1と同様である。
このようにして、保護制御装置9は、ループ状で運用される配電線31,32で発生した地絡、短絡、断線事故を検出して遮断器73を開路するため、事故時にループ状で運用される配電線31,32を樹枝状に切り替えることができる。
なお、各検出要素921、922、723を、変化分方式の各保護要素で構成しても、同様の効果を得ることができる。すなわち、地絡過電圧要素又は変化分地絡過電圧要素、過電流要素又は変化分過電流要素、及び/又は、地絡過電流要素又は変化分地絡過電流要素を持つように構成することができる。
次に、実施例2における配電系統のループ運用システムの動作について説明する。
まず、地絡事故時の動作例について、図12及び図13を用いて説明する。
図12は、図11と同じ配電系統であり、84は地絡事故点である。9は保護制御装置、73は遮断器である。
図13の時点GB1以前の健全時には、零相電圧が小さいため、レベル判定部9212v、タイマ9213vの各出力は全てローレベル「0」となる。また、健全時の零相電流は、零相循環電流のみのため、零相電流の加算値も小さく、レベル判定部9212i、タイマ9213iの各出力、及び、開閉制御指令は全てローレベル「0」となる。このため、遮断器73は閉路状態に維持され、配電線31,32はループ状に運用される。
しかし、時点GB1で地絡事故が発生すると、配電系統に零相電圧が発生し、振幅演算部9211vの出力が増加する。レベル判定部9212vの基準値は、配電用変電所の地絡過電圧リレーの検出レベル、例えば、完全地絡時に発生する零相電圧の10%と同程度かそれより小さい値に設定されている。したがって、時点GB2〜GB5の期間に零相電圧の振幅値が基準値以上となった場合、レベル判定部9212vの出力がハイレベル「1」となる。
タイマ9213vの基準時間は、配電用変電所の地絡過電圧リレーの検出時限より短い時間に設定されており、時点GB3でハイレベル「1」の継続時間が基準時間以上となった場合、タイマ9213vの出力がハイレベル「1」となる。
また、地絡事故が発生すると、地絡事故電流により、零相電流が変化し、加算回路9214の出力が増加する。レベル判定部9212iの基準値は、配電用変電所の地絡過電流リレーの検出レベル、例えば、高抵抗4k〜6kΩでの地絡時に発生する零相電流200mAと同程度かそれより小さい値に設定されている。したがって、時点GB2〜GB5の期間に零相電流の振幅値が基準値以上となった場合、レベル判定部9212iの出力がハイレベル「1」となる。タイマ9213iの基準時間は、配電用変電所の地絡過電流リレーの検出時限より短い時間に設定されており、時点GB3でハイレベル「1」の継続時間が基準時間以上となった場合、タイマ9213iの出力がハイレベル「1」となる。
さらに、位相差演算部9215は、DFT演算などにより、計測された零相電圧信号、加算された零相電流信号を、位相(角)に変換し、位相差を演算する。地絡時の零相電圧と零相電流の位相差は、負荷側事故の場合、通常、零相電圧に対し、進み60度〜進み90度程度となる。位相差判定部9216の基準範囲は、前記範囲に誤差分を考慮した範囲、例えば、進み30度〜進み120度に設定されており、時点GB2〜GB6の間で位相差が基準範囲内となった場合、位相差判定部9216の出力がハイレベル「1」となる。
時点GB3〜GB6において、各タイマ9213v、9213i、並びに位相差判定部9216の各出力が全てハイレベル「1」となった場合に、論理積演算回路9217の出力がハイレベル「1」となる。
このように、地絡検出要素921は、既設の配電線(地絡)保護よりも高感度に整定されており、既設の配電線(地絡)保護よりも早く(高速に)、時点GB3において、負荷側すなわち、ループ運用配電線区間内のみの地絡事故を検出する。この地絡事故検出により、開閉制御指令はハイレベル「1」となり、遮断器73が開路され、配電線31、32は樹枝状の運用に切り替えられる。
このため、既設の配電線(地絡)保護により、時点GB5において、遮断器41を開放し、事故配電線31のみの切り離しが可能となり、樹枝状の運用と同等の供給信頼度を確保することが可能となる。
また、負荷側すなわち、ループ運用配電線区間内のみの地絡事故の検出が可能なため、他配電線の地絡事故による不要動作(遮断器開放)を回避でき、遮断器73の長寿命化、及び、更なる電力損失低減、供給信頼度向上が可能となる。
次に、地絡事故時の他の動作例について、図14及び図15を用いて説明する。
図14は、図11と同じ配電系統であり、ループ運用配電線31,32区間外の他系統の配電線33に地絡事故が発生した場合を示している。85は地絡事故点である。9は保護制御装置、73は遮断器である。
図15の時点GC1以前の健全時には、零相電圧が小さいため、レベル判定部9212v、タイマ9213vの各出力は全てローレベル「0」を保持している。また、健全時の零相電流は、零相循環電流のみのため、零相電流の加算値も小さく、レベル判定部9212i、タイマ9213iの各出力、及び、開閉制御指令は全てローレベル「0」を維持する。このため、遮断器73は閉路状態に維持され、配電線31、32はループ状に運用される。
しかし、時点GC1において、地絡事故が発生すると、配電系統に零相電圧が発生し、振幅演算部9211vの出力が増加する。レベル判定部9212vの基準値は、配電用変電所の地絡過電圧リレーの検出レベル、例えば、完全地絡時に発生する零相電圧の10%と同程度かそれより小さい値に設定されている。したがって、時点GC2〜GC5の期間で、零相電圧の振幅値が基準値以上となった場合、レベル判定部9212vの出力がハイレベル「1」となる。タイマ9213vの基準時間は、配電用変電所の地絡過電圧リレーの検出時限より短い時間に設定されており、時点GC3において、ハイレベル「1」の継続時間が基準時間以上となった場合、タイマ9213vの出力がハイレベル「1」となる。
また、地絡事故が発生すると、地絡事故電流により、零相電流が変化し、加算回路9214の出力が増加する。レベル判定部9212iの基準値は、配電用変電所の地絡過電流リレーの検出レベル、例えば、高抵抗4k〜6kΩで地絡時に発生する零相電流200mAと同程度かそれより小さい値に設定されている。したがって、時点GC2〜GC5の期間に、零相電流の振幅値が基準値以上となった場合、レベル判定部9212iの出力がハイレベル「1」となる。タイマ9213iの基準時間は、配電用変電所の地絡過電流リレーの検出時限より短い時間に設定されており、時点GC3でハイレベル「1」の継続時間が基準時間以上となった場合、タイマ9213iの出力がハイレベル「1」となる。
しかしながら、論理積演算回路9217の、もう1つの入力信号となる位相差判定部9216の出力は、次のようにしてローレベル「0」を維持する。すなわち、位相差演算部9215は、DFT演算などにより、計測された零相電圧信号、加算された零相電流信号を、位相(角)に変換し、位相差を演算する。地絡時の零相電圧と零相電流の位相差は、電源側事故、例えば、他配電線33の事故の場合、零相電圧基準で、遅れ90度〜遅れ120度程度となる。このため、位相差が基準範囲外となり、位相差判定部9216の出力は、ローレベル「0」を維持することとなる。
このように、各タイマ9213v、9213i、及び位相差判定部9216の全出力がハイレベル「1」とはならないため、論理積演算回路9217の出力はローレベル「0」のままとなる。このため、地絡検出要素921は、電源側、すなわち、ループ運用配電線31,32の区間外の配電線33の地絡事故を検出することはない。したがって、遮断器73は閉路状態に維持され、配電線31,32では、電力損失の小さいループ状運用が継続される。
このように、負荷側、すなわち、ループ運用配電線31,32区間内のみの地絡事故の検出が可能なため、他系統の配電線33等の地絡事故による不要動作(遮断器開放)を回避でき、遮断器73の長寿命化、更なる電力損失低減、供給信頼度向上が可能となる。
最後に、実施例2における系統内の短絡事故時の動作例について、図16及び図17を用いて説明する。
図16は、図11と同じ配電系統であり、86は短絡事故点である。9は保護制御装置、73は遮断器である。
図17の時点SC1以前の期間に示す健全時には、相電流が適正範囲内(基準値以下)のため、相電流の加算値も小さく、レベル判定部7222、タイマ7223の各出力、及び、開閉制御指令は全てローレベル「0」を保持している。このため、遮断器73は閉路状態に維持され、配電線31、32はループ状に運用されている。
しかし、時点SC1において、配電線31の変電所寄りの事故点86で短絡事故が発生すると、配電系統に短絡電流が流れ、相電流が増加する。また、相電流の増加に伴い、加算回路9224及び振幅演算部7221の出力が増加する。
レベル判定部7222の基準値は、配電用変電所の過電流リレーの検出レベル、例えば、最大負荷電流の150%と同程度か、それより小さい値に設定されている。したがって、時点SC2〜SC5の期間で、相電流の振幅値が基準値以上となり、レベル判定部7222の出力が、この期間においてハイレベル「1」となる。タイマ7223の基準時間は、配電用変電所の過電流リレーの検出時限より短い時間に設定されている。したがって、時点SC3において、レベル判定部7222のハイレベル「1」の継続時間が基準時間以上となり、タイマ7223の出力がハイレベル「1」となり、遮断器73が開放され、事故配電線31が健全配電線32から切り離される。
このように、短絡検出要素722は、既設の配電線(短絡)保護よりも高感度に整定されており、既設の配電線(短絡)保護よりも早く(高速に)短絡事故を検出し、遮断器73が開路され、事故配電線31が健全配電線32から切り離される。
このため、その後の時点SC4で、既設の配電線(短絡)保護により、変電所側の遮断器41を開放し、事故配電線31のみの切り離しが可能となり、樹枝状の運用と同等の供給信頼度を確保することが可能となる。
また、相電流の加算値を用いることにより、事故点に関係なく、高速に短絡事故を検出して、遮断器73を開放することができ、短絡事故による健全配電線32への影響を低減することが可能となる。
本発明の一実施例による配電系統のループ運用システムの構成図。
配電系統の樹枝状とループ運用での電力損失を比較説明する一例図。
図1のループ運用システムにおける地絡事故時の構成を示した説明図。
図3における地絡事故発生時の動作状況説明図。
図1のループ運用システムにおける短絡事故時の構成を示した説明図。
図5における短絡事故発生時の動作状況説明図。
図1のループ運用システムにおける短絡事故時の他の構成を示した説明図。
図7における短絡事故発生時の動作状況説明図。
図1のループ運用システムにおける断線事故時の構成を示した説明図。
図9における断線事故発生時の動作状況説明図。
本発明の実施例2による配電系統のループ運用システムの構成図。
実施例2のループ運用システムの地絡事故時の構成を示した説明図。
図12における地絡事故発生時の動作状況説明図。
実施例2のループ運用システムの他系統で地絡事故発生時の構成説明図。
図14における地絡事故発生時の動作状況説明図。
実施例2のループ運用システムの短絡事故時の構成説明図。
図16における短絡事故発生時の動作状況説明図。
符号の説明
1…配電用変電所、2…配電用変圧器、31〜33…配電線、41〜43…遮断器、511〜513,521〜523,531〜533…区分開閉器、7…保護装置、8,81〜86…事故点、9…保護制御装置、71,91a,91b…センサ、711,711a…零相電圧センサ、712,712a,712b…相電流センサ、713,713a,713b…零相電流センサ、72,92…事故検出装置、721,921…地絡検出要素、7211,9211v,9211i,7221,7231…振幅演算部、7212,9212v,9212i,7222,7232…レベル判定部、7213,9213v,9213i,7223,7233…タイマ、722,922…短絡検出要素、723…断線検出要素、724…論理和演算回路、73…遮断器、9214,9224…加算回路、9215…位相差演算部、9216…位相差判定部、9217…論理積演算回路。