JP3794596B2 - 光磁気記録媒体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光強度変調ダイレクト・オーバーライトが可能な光磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
光磁気記録媒体(MO)は、磁性薄膜をレーザー光等により局所的に昇温させ、外部磁界によってこの部分の磁化方向を反転させることによって記録を行い、これらの磁化方向の異なる記録ドメインをカー効果、ファラデー効果によって読み出す記録媒体である。
【0003】
光磁気記録媒体は、記録密度を高くでき、また、大容量磁気記録媒体であるハードディスクと異なり、媒体交換が容易であるという特長がある。しかし、通常の光磁気記録媒体では、一般に書き換えの際にオーバーライトを利用することができず、記録情報を消去した後に新しい情報を記録する必要があるため、書き換えが遅いという欠点があった。
【0004】
これに対し、光強度変調によるダイレクト・オーバーライト(以下、光変調オーバーライトともいう)が可能な光磁気記録媒体が、たとえば特開昭62−175948号公報、特公平8−16993号公報、同8−16996号公報などに記載されている。これらの光磁気記録媒体は、駆動装置に初期化磁石を設けることが必要である。一方、初期化磁石を必要とせずに光変調オーバーライトが可能な光磁気記録媒体が、WO90/02400、特許第2503708、特開平6−12711号公報などに記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の第1の目的は、光強度変調によるダイレクト・オーバーライトが可能で、オーバーライトのための初期化磁石が不要な光磁気記録媒体において、C/Nを向上させ、かつ繰り返しオーバーライトによるC/N劣化を抑えることである。本発明の第2の目的は、第1の目的を達成した上で、保存信頼性を向上させることである。本発明の第3の目的は、第1の目的および第2の目的を達成した上で、出力の向上を実現することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、下記(1)〜(12)のいずれかの構成により達成される。
(1)基体表面側に磁性積層体を有し、この磁性積層体が、基体側から、メモリ層M1、記録層W2、スイッチング層S3および初期化層I4の4層の磁性層をこの順で含み、各磁性層がそれぞれ希土類元素と遷移元素とを含有し、室温において垂直磁気異方性を有するものであり、隣接する磁性層が互に交換力で結合されており、
メモリ層M1のキュリー温度をTcM1、記録層W2のキュリー温度をTcW2、スイッチング層S3のキュリー温度をTcS3、初期化層I4のキュリー温度をTcI4としたとき、
TcI4>TcW2>TcM1かつ
TcI4>TcW2>TcS3であり、
メモリ層M 1 が、Tb、FeおよびCoを主成分とし、Tbを21〜25原子%含有し、原子比[Fe/(Fe+Co)]が0.85〜0.95であり、
記録層W2が、Dy、FeおよびCoを主成分とし、Dyを29〜35原子%含有し、原子比[Fe/(Fe+Co)]が0.40〜0.58であり、
スイッチング層S 3 が、TbおよびFeを主成分とし、Tbを23〜29原子%含有し、
初期化層I 4 が、TbおよびCoを主成分とし、Tbを21〜28原子%含有し、
光強度変調方式によるダイレクト・オーバーライトが可能である光磁気記録媒体。
(2)メモリ層M 1 の厚さが10〜40 nm であり、記録層W 2 の厚さが15〜40 nm であり、スイッチング層S 3 の厚さが5〜15 nm であり、初期化層I 4 の厚さが15〜50 nm である上記(1)に記載の光磁気記録媒体。
(3)メモリ層M 1 と記録層W 2 との間に、交換力制御層C 12 を有する上記(1)又は(2)に記載の光磁気記録媒体。
(4)交換力制御層C 12 が、希土類元素と遷移元素とを含有する非晶質合金から構成される磁性層である上記(3)に記載の光磁気記録媒体。
(5)室温において交換力制御層C 12 の磁化容易軸が面内方向を向いており、100℃以上かつ交換力制御層C 12 のキュリー温度までの範囲に、交換力制御層C 12 の磁化容易軸が垂直に向く温度が存在する上記(4)に記載の光磁気記録媒体。
(6)交換力制御層C 12 が、Gd、FeおよびCoを主成分とし、Gdを23〜32原子%含有し、原子比[Fe/(Fe+Co)]が0.40〜0.80である上記(4)又は(5)に記載の光磁気記録媒体。
(7)交換力制御層C 12 の厚さが5〜30 nm である上記(3)ないし(6)のいずれかに記載の光磁気記録媒体。
(8)基体とメモリ層M 1 との間に、磁性層である読み出し層R 01 を有し、この読み出し層R 01 が、Gd、FeおよびCoを主成分とする非晶質合金から構成され、メモリ層M 1 と交換力で結合されているものである上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の光磁気記録媒体。
(9)読み出し層R 01 が、Gdを23〜27原子%含有し、原子比[Fe/(Fe+Co)]が0.65〜0.75である上記(8)に記載の光磁気記録媒体。
(10)読み出し層R 01 の厚さが5〜20 nm である上記(8)又は(9)に記載の光磁気記録媒体。
(11)メモリ層M 1 が非磁性元素を含有する上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の光磁気記録媒体。
(12)メモリ層M 1 が含有する非磁性元素がCr、Ti、Ta、Mo、W、V、Zr、Nb又はAlの中から選ばれる少なくとも1種である上記(11)に記載の光磁気記録媒体。
【0007】
本発明の光磁気記録媒体と同様に4層の磁性層を有し、高パワープロセスと低パワープロセスとにより光変調オーバーライトを可能とした光磁気記録媒体は、上記特開平6−12711号公報等により知られている。しかし、本発明では記録層W2の希土類元素含有率を29原子%以上に限定しているのに対し、上記特開平6−12711号公報では、本発明における記録層W2に相当する第2磁性層について、希土類元素含有率を27原子%以下としている。同公報において第2磁性層の希土類元素含有率を27原子%以下に限定する理由は、補償温度を転写温度よりも低く設定し、転写時に第1磁性層と第2磁性層との磁化方向を揃え、外部磁界の影響を受けないようにするためである。
【0008】
しかし、希土類元素含有率が27原子%以下であると、補償温度から室温にかけて保磁力の減少が小さくなるため、オーバーライト時に第2磁性層が第4磁性層(本発明における初期化層I4に相当)から受ける交換力によって初期化されることが困難となって、オーバーライトを行ったときにC/Nが著しく低くなってしまうという問題が生じる。
【0009】
希土類−遷移元素合金の補償温度は、希土類元素と遷移元素との比率に応じて決まるとされているが、遷移元素としてFeおよびCoが含まれる場合、補償温度およびその有無は原子比Fe/(Fe+Co)にも依存することがわかった。そこで本発明では、記録層W2のFe/(Fe+Co)を所定の範囲に限定した。これにより、希土類元素の含有率を29原子%以上としても補償温度を転写温度よりも低くできる。そして、この組成域では補償温度から室温にかけて保磁力を大きく減少させることができるため、記録層W2を初期化層I4によって容易に初期化することができ、高C/Nを得ることができる。上記特開平6−12711号公報には、第2磁性層のFe/(Fe+Co)が本発明範囲にあるものは記載されていない。
【0010】
なお、上記WO90/02400には、本発明の記録層W2に相当する磁性層が希土類元素としてGdおよびDyを含有し、これらの合計含有率が30原子%である光磁気記録担体が記載されている。しかし、この磁性層では、Fe/(Fe+Co)が本発明範囲を上回っているため、本発明の効果は実現しない。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の光磁気記録媒体の構成例を図1〜図4にそれぞれ示す。
【0012】
図1の構成
図1の光磁気記録媒体は、基体表面側に磁性積層体が設けられている。この磁性積層体は、基体側から、メモリ層M1、記録層W2、スイッチング層S3および初期化層I4の4層の磁性層をこの順で含む。磁性積層体の裏面側、すなわち、基体と磁性積層体との間には第1誘電体層が設けられ、磁性積層体の表面側には第2誘電体層が設けられ、第2誘電体層の表面側には放熱層が設けられている。
【0013】
図1に示す磁性積層体を構成する各磁性層は、希土類元素と遷移元素とを含有する非晶質合金から構成され、室温において垂直磁気異方性を有し、隣接する磁性層は、互いに交換力で結合されている。
【0014】
次に説明する光変調オーバーライトを行うためには、メモリ層M1のキュリー温度をTcM1、記録層W2のキュリー温度をTcW2、スイッチング層S3のキュリー温度をTcS3、初期化層I4のキュリー温度をTcI4としたとき、
TcI4>TcW2>TcM1かつ
TcI4>TcW2>TcS3
であることが必要であり、さらに、
TcI4>TcW2>TcM1>TcS3
であることが好ましい。
【0015】
光変調オーバーライト
図1の構成を有する光磁気記録媒体を用いた光変調オーバーライトについて、図5〜図6を用いて説明する。なお、両図では、
TcI4>TcW2>TcM1>TcS3
となっている。
【0016】
各図において、記録層M1に上向きの磁化をもつ磁区が記録されている状態を記録状態[0]とし、下向きの磁化をもつ磁区が記録されている状態を記録状態[1]とする。
【0017】
オーバーライトを行う媒体は、記録状態[0]または記録状態[1]となっている。これにオーバーライトを行って、当初の記録状態によらず記録状態[1]とする場合の説明図が図5であり、当初の記録状態によらず記録状態[0]とする場合の説明図が図6である。
【0018】
なお、各図において、白抜き矢印は磁性層全体の磁化の向きを表し、黒矢印は磁性層中の遷移元素副格子の磁化の向きを表す。本発明では、記録層W2は室温より高い補償温度を有するため、記録状態[0]および記録状態[1]のときには全体磁化の向きと遷移元素副格子の磁化の向きとが逆になっている。一方、他の磁性層は、図示例では補償温度をもたないか、補償温度が室温未満であるものとしているので、両矢印の向きが一致している。
【0019】
図5では、まず、レーザービームを照射し、照射領域の磁性積層体の温度をTcW2以上TcI4未満まで上昇させて、初期化層I4以外の磁性層の磁化を消滅させる。レーザービームが移動するにしたがって磁性積層体の温度は低下し、温度がTcW2未満かつ記録層W2の補償温度より高い状態となると、図中上向きに印加されているバイアス磁界によって記録層W2が下向きに磁化され、記録層W2の遷移元素副格子の磁化は下向きとなる。なお、バイアス磁界は、オーバーライトの際には常に印加されている。さらに温度が低下してTcM1未満かつ記録層W2の補償温度より高い状態となると、メモリ層M1の遷移元素副格子の磁化の向きは、記録層W2との間の交換結合力によって下向きとなり、記録状態[1]となる。さらに温度が低下してTcS3未満かつ記録層W2の補償温度未満となると、スイッチング層S3に磁化が生じ、初期化層I4との間の交換結合力によりスイッチング層S3の遷移元素副格子の磁化は上向きとなり、さらに、記録層W2の遷移元素副格子の磁化は、スイッチング層S3との間の交換結合力により反転して上向きとなる。このときメモリ層M1の磁化が反転しないように、この温度域ではメモリ層M1の保磁力が記録層W2との間の交換結合力よりも支配的となるように、各磁性層の特性を設定しておく。また、このとき、スイッチング層S3において交換結合力がバイアス磁界の影響を上回るように、各磁性層の特性を設定しておく。
【0020】
図6では、図5よりも低パワーのレーザービームを照射し、磁性積層体の温度をTcM1以上TcW2未満まで上昇させて、メモリ層M1の磁化とスイッチング層S3の磁化とを消滅させる。次いで、磁性積層体の温度がTcM1未満となると、メモリ層M1の遷移元素副格子の磁化は記録層W2との間の交換力によって上向きとなり、記録状態[0]となる。さらに温度が低下してTcS3未満となると、スイッチング層S3に磁化が生じ、初期化層I4との間の交換結合力および記録層W2との間の交換結合力により、スイッチング層S3には遷移元素副格子の上向きの磁化が生じる。図6においても図5と同様にバイアス磁界は常に印加されているが、図6のオーバーライト過程ではバイアス磁界は影響しない。
【0021】
図5の高パワー記録の場合でも、図6の低パワー記録の場合でも、記録層W2、スイッチング層S3および初期化層I4それぞれの遷移元素副格子の磁化はいずれも上向きとなり、オーバーライト前の状態に復帰することになる。すなわち、記録状態を決定するメモリ層M1を除く記録層W2、スイッチング層S3および初期化層I4の磁化の向きは、履歴(オーバーライト)に左右されないことになる。したがって、低パワーまたは高パワーのレーザービームを照射することにより、繰り返しオーバーライトが可能となる。すなわち、光変調オーバーライトが可能となる。
【0022】
図5および図6からわかるように、各磁性層の役割は次のようになる。メモリ層M1は、カー効果を利用して再生される情報を保持する磁性層である。記録層W2は、交換結合力によりメモリ層M1を磁化する役割をもち、メモリ層M1の磁化方向を決定する磁性層である。スイッチング層S3は、高パワー記録時に、記録層W2と初期化層I4との間の磁気的結合を遮断するために設けられる磁性層である。スイッチング層S3が高パワー記録時に非磁性化することにより、記録層W2が初期化層I4の影響を受けずにバイアス磁界方向に磁化されることになる。初期化層I4は、常に一方向の磁化をもち、記録層W2を初期化するための磁性層である。
【0023】
なお、説明を簡単にするために、図5ではTcW2以上TcI4未満まで磁性積層体を昇温させるとしたが、実際には、記録層W2がバイアス磁界の方向に揃うことが可能であれば、到達温度はTcW2未満であってよい。また、図6ではTcM1以上TcW2未満まで磁性積層体を昇温させるとしたが、実際には、記録層W2の磁化がメモリ層M1に転写できれば、到達温度はTcM1未満であってよい。
【0024】
また、図5および図6では、
TcI4>TcW2>TcM1>TcS3
としてあるが、上述したようにTcM1とTcS3との高低は限定されない。すなわち、図5および図6と異なり
TcS3>TcM1
であってもよい。この場合、記録層W2の磁化がメモリ層M1に転写されるまでの間、スイッチング層S3と記録層W2との間の交換力が小さければ、スイッチング層S3に磁化が生じていても記録層W2の磁化は反転しないので問題は生じない。そして、スイッチング層S3が室温付近に補償温度をもつ組成(補償温度組成)であれば、さらに温度が下がったときにスイッチング層S3の交換エネルギーが増大するので、スイッチング層S3との間の交換力により記録層W2の磁化が反転し(初期化され)、図5および図6と同様に履歴に左右されないオーバーライトが可能となる。
【0025】
磁性積層体
本発明では、上述した過程による光変調オーバーライトが可能な光磁気記録媒体において、磁性積層体を以下のように構成する。
【0026】
メモリ層M 1
メモリ層M1は、Tb、FeおよびCoを主成分とする。メモリ層M1のTb含有率は、好ましくは21〜25原子%、より好ましくは21〜23原子%である。Tb含有率が低すぎても高すぎても、保磁力およびキュリー温度が低くなりすぎる。メモリ層M1における原子比[Fe/(Fe+Co)]は、好ましくは0.85〜0.95、より好ましくは0.88〜0.92である。この原子比が小さすぎるとキュリー温度が高くなりすぎ、この原子比が大きすぎるとキュリー温度が低くなりすぎる。
【0027】
メモリ層M1の厚さは、好ましくは10〜40nm、より好ましくは15〜30nmである。メモリ層M1が薄すぎると、カー回転角に対する寄与が小さくなりC/Nが低くなってしまう。また、記録層W2との間の交換力が大きくなりすぎてオーバーライトが困難になる。メモリ層M1が厚すぎると、記録層W2との間の交換力が小さくなりすぎてオーバーライトが困難になる。
【0028】
メモリ層M1は、非磁性元素を含有することが好ましい。非磁性元素の添加により出力が向上するので、C/Nを向上させることができる。非磁性元素の種類は特に限定されず、例えば、Cr、Ti、Ta、Mo、W、V、Zr、Nb、Al等から選択される少なくとも1種が好ましいが、耐食性向上とコストの点から、少なくともCrを含むことが好ましく、Crだけを用いることがより好ましい。
【0029】
記録層W 2
記録層W2は、Dy、FeおよびCoを主成分とする。記録層W2の希土類元素の含有率は、29〜35原子%、好ましくは30〜32原子%である。希土類元素の含有率が低すぎると、高パワー記録の際に記録層W2の初期化が困難になるため、オーバーライトによりC/Nが著しく低くなってしまう。一方、希土類元素の含有率が高すぎると、記録層W2が補償温度をもたなくなるため、C/Nが著しく低くなり、オーバーライトによりさらにC/Nが低下する。
【0030】
記録層W2における原子比[Fe/(Fe+Co)]は、0.40〜0.58、好ましくは0.45〜0.55である。この原子比が小さすぎると、C/Nが低くなり、この原子比が大きすぎると、オーバーライトによりC/Nが著しく低下してしまう。
【0031】
記録層W2は、室温より高く、メモリ層M1へ磁化が転写される温度より低い温度域に補償温度をもつ。記録層W2の補償温度は、好ましくは100〜160℃である。
【0032】
記録層W2の厚さは、好ましくは15〜40nm、より好ましくは20〜35nmである。記録層W2が薄すぎると、メモリ層M1との間の交換力が大きくなりすぎてオーバーライトが困難になる。記録層W2が厚すぎると、初期化層I4との間の交換力が小さくなりすぎて、記録層W2の初期化が困難になる。
【0033】
スイッチング層S 3
スイッチング層S3は、TbおよびFeを主成分とする。スイッチング層S3のTbの含有率は、好ましくは23〜29原子%、より好ましくは24〜27原子%である。Tb含有率が低すぎても高すぎても、キュリー温度の低下と飽和磁化の上昇とにより交換結合が弱くなってしまう。
【0034】
スイッチング層S3の厚さは、好ましくは5〜15nm、より好ましくは8〜12nmである。スイッチング層S3が薄すぎると、記録層W2と初期化層I4との間の交換力の遮断が不十分になる。スイッチング層S3が厚すぎると、記録層W2との間の交換力および初期化層I4との間の交換力が小さくなりすぎて、記録層W2の初期化が困難になる。
【0035】
初期化層I 4
初期化層I4は、TbおよびCoを主成分とする。初期化層I4のTb含有率は、好ましくは21〜28原子%、より好ましくは23〜27原子%である。
【0036】
初期化層I4の厚さは、好ましくは15〜50nm、より好ましくは18〜45nmである。初期化層I4が薄すぎると、記録層W2との間の交換力が大きくなりすぎてスピンが反転しやすくなり、初期化層I4の磁化を一方向に保つことが難しくなる。初期化層I4が厚くても特に問題はないが、成膜コストが高くなるため、50nmを超える厚さとする必要はない。
【0037】
図2の構成
図2に、本発明の光磁気記録媒体の他の構成例を示す。図2の光磁気記録媒体は、メモリ層M1と記録層W2との間に、両磁性層に接して交換力制御層C12を有するほかは、図1の光磁気記録媒体と同様な構成である。
【0038】
交換力制御層C 12
交換力制御層C12は、希土類元素と遷移元素とを含有する非晶質合金から構成される。
【0039】
交換力制御層C12は、メモリ層M1と記録層W2との間の交換力を制御するために設けられ、この効果をもつものであれば構成は特に限定されないが、例えば次に挙げるものが好ましい。
【0040】
(1)希土類元素と遷移元素とを含み、室温において磁化容易軸が面内方向を向いており、100℃以上かつ交換力制御層C12のキュリー温度までの範囲に、磁化容易軸が垂直を向く温度が存在するもの、
(2)誘電体、例えば窒化ケイ素や窒化アルミニウム等の各種窒化物、酸化ケイ素等の各種酸化物など、
(3)希土類元素と遷移元素とを含み、酸素や窒素等の反応性ガスを用いた反応性スパッタにより形成したもの、
(4)非磁性金属から構成されるもの、
(5)磁化容易軸が面内方向を向いているもの
【0041】
これらのうちでは、特に(1)が好ましい。(1)の交換力制御層C12は、その補償温度付近において磁化容易軸の向きが変わる。図5および図6において記録層W2からメモリ層M1に交換力によって磁化が転写される際には、交換力制御層C12の磁化容易軸は垂直方向を向いているため、磁化の転写が容易に行われる。次いで、スイッチング層S3を介して初期化層I4により記録層W2の磁化を反転させる(初期化する)際には、交換力制御層C12の磁化容易軸は面内方向を向いているため、メモリ層M1と記録層W2との間の交換力を遮断することができ、メモリ層M1の磁化状態の変化を防ぐことができる。
【0042】
また、上記(1)以外の交換力制御層C12は、基本的に記録層W2とメモリ層M1との間の交換力を減少させる効果をもつ。したがって、このような交換力制御層C12を設けることにより、記録層W2の磁化を反転させる(初期化する)際にメモリ層M1への影響を防ぐことができる。
【0043】
交換力制御層C12が希土類元素および遷移元素から構成される場合、特に上記(1)の場合には、Gd、FeおよびCoを主成分とすることが好ましく、Gd含有率が、23〜32原子%、特に24〜30原子%であることが好ましい。Gd含有率が低すぎると、磁化容易軸が垂直を向いたときに他の磁性層との間の交換力が強くなりすぎてオーバーライトが困難になる。Gd含有率が高すぎると、磁化容易軸が垂直を向いたときに他の磁性層との間の交換力が弱くなりすぎて好ましくない。また、(1)の場合の原子比[Fe/(Fe+Co)]は、好ましくは0.40〜0.80、より好ましくは0.50〜0.60である。この原子比が小さすぎると、磁化容易軸が垂直を向いたときの交換力が低くなりすぎ、この原子比が大きすぎると、キュリー温度が低くなりすぎる。
【0044】
交換力制御層C12の厚さは、好ましくは5〜30nm、より好ましくは8〜20nmである。交換力制御層C12が薄すぎると、上述した作用による交換力の制御が難しくなり、厚すぎると、他の磁性層との間の交換力が弱くなりすぎる。
【0045】
図3の構成
図3に、本発明の光磁気記録媒体の他の構成例を示す。図3に示す光磁気記録媒体は、基体とメモリ層M1との間に、メモリ層M1に接して読み出し層R01を有するほかは、図1に示す光磁気記録媒体と同様な構成である。
【0046】
読み出し層R 01
読み出し層R01は、メモリ層M1と交換力で結合されており、C/Nを向上するために設けられる。
【0047】
読み出し層R01は、Gd、FeおよびCoを主成分とする非晶質合金から構成されることが好ましい。読み出し層R01のGd含有率は、好ましくは23〜27原子%、より好ましくは24〜26原子%である。Gd含有率が低すぎても高すぎても、キュリー温度低下によりC/Nが低くなってしまう。読み出し層R01における原子比[Fe/(Fe+Co)]は、好ましくは0.65〜0.75、より好ましくは0.68〜0.73である。この原子比が小さすぎると、カー効果の減少によりC/Nが低くなってしまい、この原子比が大きすぎると、キュリー温度低下によりC/Nが低くなってしまう。
【0048】
読み出し層R01の厚さは、好ましくは5〜20nm、より好ましくは10〜15nmである。読み出し層R01が薄すぎるとC/N向上が不十分となり、厚すぎるとメモリ層M1の保磁力が低下してオーバーライト特性が不安定になってしまう。
【0049】
図4の構成
図4に示す光磁気記録媒体は、上記した交換力制御層C12と読み出し層R01とを有するほかは、図1に示す光磁気記録媒体と同様な構成である。このように交換力制御層C12と読み出し層R01との両方を設けた場合には、これら各磁性層を設けることによる効果が共に実現する。
【0050】
上記各磁性層は、主成分として挙げたもの以外の希土類元素を含んでいてもよい。なお、本明細書において希土類元素とは、Y、Scおよびランタニド元素である。また、上記各磁性層は、主成分として挙げたもの以外の遷移元素を含んでいてもよい。
【0051】
基体
光磁気記録媒体に対し記録および再生を行うときには、基体の裏面側(メモリ層M1側)からレーザー光が照射される。このため、基体はレーザー光(波長400〜900nm程度)に対し透明性を有することが好ましい。具体的には、ポリカーボネート、アクリル樹脂、非晶質ポリオレフィン、スチレン系樹脂等の透明樹脂や、ガラスなどを用いればよい。
【0052】
第1、第2誘電体層
第1および第2誘電体層は、C/Nの向上および磁性層の腐食の防止を目的として設けられる。誘電体層は、酸化物や窒化物、これらの混合物など、例えば酸化ケイ素 、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、SiAlON等から構成すればよい。第1誘電体層の厚さは、好ましくは30〜100nm、第2誘電体層の厚さは、好ましくは5〜80nmである。
【0053】
放熱層
放熱層は、Al,Au,Ag,Cuやこれらの合金、あるいはこれらにNi、Ti、Cr、Zn、Coなどの添加元素を適量加えた材料で構成することが好ましい。放熱層の厚さは、好ましくは20〜80nmである。
【0054】
保護層
放熱層表面には、紫外線硬化型樹脂等の樹脂から構成される保護層を設けることが好ましい。保護層の厚さは、好ましくは1〜30μmである。なお、基体の裏面側にも同様な保護層を設けてもよい。
【0055】
【実施例】
実施例1
基体として、外径120mm、厚さ1.2mmのディスク状ポリカーボネート(トラックピッチ1.1μm)を用い、以下の手順で図1の構成の光磁気記録ディスクサンプルNo.101を作製した。
【0056】
第1誘電体層
Ar+N2 雰囲気中において、Siをターゲットとしてスパッタ法により窒化ケイ素膜を形成し、第1誘電体層とした。厚さは60nmとした。
【0057】
磁性積層体の各磁性層
Ar雰囲気中において、スパッタ法により形成した。
【0058】
第2誘電体層
第1誘電体層と同様にして形成した。厚さは10nmとした。
【0059】
放熱層
Ar雰囲気中において、Al−Niをターゲットとしてスパッタ法により形成した。厚さは40nmとした。
【0060】
保護層
紫外線硬化型樹脂をスピンコート法により塗布し、紫外線照射により硬化して形成した。厚さは約5μmとした。
【0061】
各磁性層の組成、厚さおよびキュリー温度(Tc)を、表1に示す。また、補償温度を有するものについては補償温度(Tcomp)を表1に示す。なお、磁性層の組成は、後述する特性評価後にオージェ分析装置により測定した。また、磁性層の厚さは、スパッタレートとスパッタ時間とから算出した。スパッタレートは、実際の成膜の際の条件と同じ条件で長時間スパッタを行って厚い膜を形成し、実測により求めた膜厚とスパッタ時間とから算出した。
【0062】
【表1】
Figure 0003794596
【0063】
次に、記録層W2のDy含有率および原子比[Fe/(Fe+Co)]を表2に示すものとしたほかはサンプルNo.101と同様にして、光磁気記録ディスクサンプルを作製した。各サンプルの記録層W2のキュリー温度(TcW2)および補償温度(TcompW2)を、表2に示す。各サンプルの記録層W2の組成は、オージェ分析により測定した。なお、記録層W2の組成は、ターゲット上にDy、Fe、Coのチップを貼ることにより調整した。
【0064】
特性評価
各サンプルについて、光ディスク評価装置を用いて特性評価を行った。測定条件は以下のとおりとした。
【0065】
レーザー波長:680nm、
開口率NA:0.55、
記録パワー:ハイパワー記録時13mW、ローパワー記録時4mW、
再生パワー:1.5mW、
バイアス磁界:300Oe、
相対線速度:7.4m/s、
記録パターン:パルス分割法[20ns(オン)、152ns(オフ)]
【0066】
この測定により得られた初期C/Nと、オーバーライト1万回後のC/Nとを、表2に示す。
【0067】
【表2】
Figure 0003794596
【0068】
表2から、本発明の効果が明らかである。すなわち、記録層W2のDy含有率および原子比[Fe/(Fe+Co)]が本発明範囲内にあるサンプルでは、初期C/Nおよびオーバーライト後のC/Nが共に良好である。これに対し、Dy含有率および原子比[Fe/(Fe+Co)]が本発明範囲を外れるサンプルでは、初期C/Nが著しく悪いか、オーバーライトによりC/Nが著しく低下してしまっている。
【0069】
実施例2
図4に示す構成の光磁気記録ディスクサンプルNo.201を作製した。
【0070】
各磁性層の組成、厚さおよびキュリー温度(Tc)を、表3に示す。また、補償温度を有するものについては、補償温度を表3に示す。なお、交換力制御層C12は、その補償温度付近より低温側では磁化容易軸が面内方向であり、高温側では磁化容易軸が垂直を向くものである。
【0071】
【表3】
Figure 0003794596
【0072】
比較のために、メモリ層M1の組成(原子比)をTb23Fe69Co8として、すなわちメモリ層M1にCrを添加せず、そのほかはサンプルNo.201と同様にしてサンプルNo.202を作製した。
【0073】
これらのサンプルについて、C/Nを測定した。結果を表4に示す。また、表4に、各サンプルのメモリ層M1の飽和磁化Msを示す。なお、Msは、メモリ層M1だけを形成した測定用サンプルを作製し、これをVSMにより測定することにより求めた。
【0074】
【表4】
Figure 0003794596
【0075】
表4から、メモリ層M1にCrを添加することにより、C/Nが向上することがわかる。このC/N向上は、出力の向上に起因するものである。
【0076】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光磁気記録媒体の構成例を示す模式図である。
【図2】本発明の光磁気記録媒体の構成例を示す模式図である。
【図3】本発明の光磁気記録媒体の構成例を示す模式図である。
【図4】本発明の光磁気記録媒体の構成例を示す模式図である。
【図5】本発明の光磁気記録媒体にオーバーライトを行うときの説明図である。
【図6】本発明の光磁気記録媒体にオーバーライトを行うときの説明図である。

Claims (12)

  1. 基体表面側に磁性積層体を有し、この磁性積層体が、基体側から、メモリ層M1、記録層W2、スイッチング層S3および初期化層I4の4層の磁性層をこの順で含み、各磁性層がそれぞれ希土類元素と遷移元素とを含有し、室温において垂直磁気異方性を有するものであり、隣接する磁性層が互に交換力で結合されており、
    メモリ層M1のキュリー温度をTcM1、記録層W2のキュリー温度をTcW2、スイッチング層S3のキュリー温度をTcS3、初期化層I4のキュリー温度をTcI4としたとき、
    TcI4>TcW2>TcM1かつ
    TcI4>TcW2>TcS3であり、
    メモリ層M1が、Tb、FeおよびCoを主成分とし、Tbを21〜25原子%含有し、原子比[Fe/(Fe+Co)]が0.85〜0.95であり、
    記録層W2が、Dy、FeおよびCoを主成分とし、Dyを29〜35原子%含有し、原子比[Fe/(Fe+Co)]が0.40〜0.58であり、厚さが15〜40 nm であり、
    スイッチング層S3が、TbおよびFeを主成分とし、Tbを23〜29原子%含有し、
    初期化層I4が、TbおよびCoを主成分とし、Tbを21〜28原子%含有し、
    光強度変調方式によるダイレクト・オーバーライトが可能である光磁気記録媒体。
  2. メモリ層M1の厚さが10〜40nmであり、スイッチング層S3の厚さが5〜15nmであり、初期化層I4の厚さが15〜50nmである請求項1に記載の光磁気記録媒体。
  3. メモリ層M1と記録層W2との間に、交換力制御層C12を有する請求項1又は2に記載の光磁気記録媒体。
  4. 交換力制御層C12が、希土類元素と遷移元素とを含有する非晶質合金から構成される磁性層である請求項3に記載の光磁気記録媒体。
  5. 室温において交換力制御層C12の磁化容易軸が面内方向を向いており、100℃以上かつ交換力制御層C12のキュリー温度までの範囲に、交換力制御層C12の磁化容易軸が垂直に向く温度が存在する請求項4に記載の光磁気記録媒体。
  6. 交換力制御層C12が、Gd、FeおよびCoを主成分とし、Gdを23〜32原子%含有し、原子比[Fe/(Fe+Co)]が0.40〜0.80である請求項4又は5に記載の光磁気記録媒体。
  7. 交換力制御層C12の厚さが5〜30nmである請求項3ないし6のいずれかに記載の光磁気記録媒体。
  8. 基体とメモリ層M1との間に、磁性層である読み出し層R01を有し、この読み出し層R01が、Gd、FeおよびCoを主成分とする非晶質合金から構成され、メモリ層M1と交換力で結合されているものである請求項1ないし7のいずれかに記載の光磁気記録媒体。
  9. 読み出し層R01が、Gdを23〜27原子%含有し、原子比[Fe/(Fe+Co)]が0.65〜0.75である請求項8に記載の光磁気記録媒体。
  10. 読み出し層R01の厚さが5〜20nmである請求項8又は9に記載の光磁気記録媒体。
  11. メモリ層M1が非磁性元素を含有する請求項1ないし10のいずれかに記載の光磁気記録媒体。
  12. メモリ層M1が含有する非磁性元素がCr、Ti、Ta、Mo、W、V、Zr、Nb又はAlの中から選ばれる少なくとも1種である請求項11に記載の光磁気記録媒体。
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