JP3794447B2 - 焼付け硬化性に優れたアルミニウム合金板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、焼付け硬化性に優れたアルミニウム合金板、とくに自動車用外板など輸送機器部材に適する塗装焼付け硬化性に優れたAl−Mg−Si系の熱処理型アルミニウム合金板の製造方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
輸送機器の軽量化の一環として、自動車用外板などの輸送機器部材用に各種のアルミニウム合金が開発されている。このうちAl−Mg−Si系合金(6000系合金)は、成形性に優れ且つ塗装焼付け硬化特性(BH性)を有するため、とくに欧米においては、自動車外板材として盛んに使用されており、我が国でも一部の車の外板材としてに実用化されている。
【0003】
塗装焼付けは、通常、170〜180℃で30分程度の加熱条件で行われ、従来、優れたBH性を得るために種々の方法が提案されている。(特開平5-279822号公報、特開平8-232052号公報など) これらの方法は、基本的には、Al−Mg−Si系合金の冷間圧延板を溶体化処理、焼入れ後、室温放置による自然時効処理や低温での前熱処理を行った後、200〜300℃の温度で60秒以下の時間最終熱処理する工程からなるものであり、一般に、溶体化処理、焼入れは、連続焼鈍炉を使用して行われる。
【0004】
これらの方法においては、焼入れ後、コイルに巻取ったのち、室温放置などが行われるが、巻取り温度および室温放置による自然時効温度は外気温(製造工場内の温度)に影響される。すなわち、夏の外気温は40℃を超えることがあり、冬の外気温は10℃以下になることも多いため、巻取り温度および自然時効温度が変動し、とくに巻取り時の材料温度が変動した場合には、安定したBH性を得ることが難しいという問題点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、Al−Mg−Si系合金板について、連続焼鈍炉を用いて溶体化処理、焼入れを行い、コイルに巻取り後、必要に応じて室温放置による自然時効を行ったのち、最終的に高温時効処理する場合、得られる板材のBH性についての上記従来の問題点を解消するために、合金組成、巻取り時の材料温度、最終熱処理条件とBH性との関連性について実験、検討を重ねた結果としてなされたものであり、その目的は、最終熱処理によって高成形性を維持したまま優れた塗装焼付け性(BH性)を得ることを可能とする焼付け硬化性に優れたアルミニウム合金板の製造方法および装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための本発明による焼付け硬化性に優れたアルミニウム合金板の製造方法は、Mg:0.3〜1.5%、Si:0.4〜1.5%を含有し、さらにMn:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.4%、Ti:0.01〜0.1%、Zr:0.05〜0.2%、V:0.05〜0.2%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Mg−Si系合金の冷間圧延板を連続焼鈍炉を用いて溶体化処理および焼入れした後、15℃以下の材料温度で、連続焼鈍処理ラインの冷却装置と巻取り装置の間に設けた巻取り時の材料温度を20〜80℃の温度範囲に保持するための恒温装置を通して巻取りを行い、その後、室温時効を行いまたは室温時効を行うことなく、最終的に200〜300℃の温度で60秒以下の時間熱処理することを特徴とする。
【0009】
本発明は、Mg:0.3〜1.5 %、Si:0.4〜1.5 %を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Mg−Si系合金、Mg:0.3〜1.5 %、Si:0.4〜1.5 %を含有し、さらにMn:0.05 〜0.3 %、Cr:0.05 〜0.4 %、Ti:0.01 〜0.1 %、Zr:0.05 〜0.2 %、V:0.05 〜0.2 %のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Mg−Si系合金に適用される。
【0010】
本発明における合金成分の意義および限定理由について説明すると、Mgは、Siと共存して合金の強度を高めるために機能する元素であり、好ましい含有量は0.3 〜1.5 %の範囲である。0.3 %未満ではその効果が十分でなく、1.5 %を越えると強度が高くなり成形性が低下する。
【0011】
Siは、Mgと共存してMg2 Siを形成し強度を向上させる。好ましい含有量は0.4 〜1.5 %の範囲であり、0.4 %未満ではその効果が小さく、1.5 %を越えると強度が高くなり成形性が低下する。
【0012】
Mn、Cr、ZrおよびVは、合金の強度向上に役立ち、結晶粒を微細化して成形性を高める。好ましい含有量はMn:0.05 〜0.3 %、Cr:0.05 〜0.4 %、Zr:0.05 〜0.2 %、V:0.05 〜0.2 %の範囲であり、それぞれ0.05%未満ではその効果が十分でなく、Mnが0.3 %、Crが0.4 %、Zr:0.2%、V:0.2%を越えて含有すると、粗大な化合物が生じ易くなり、成形性が害される。
【0013】
Tiは鋳塊組織を微細化して成形性を向上させる。好ましい含有量は0.01〜0.1 %の範囲であり、0.01%未満ではその効果が小さく、0.1 %を越えると粗大な化合物が生じ易くなり成形性が低下する。なお、本発明の合金においては、成形性および耐食性の観点から、Feを0.2 %以下(0%を含む)、Cuを0.1 %以下(0%を含む)に制限するのが好ましい。また、通常のアルミニウム合金と同様に、鋳造組織を微細化するため、B:0.1%以下を添加することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
上記のAl−Mg−Si系合金は、常法に従って、連続鋳造により造塊され、均質化処理、熱間圧延、冷間圧延を経て所定の厚さの冷間圧延板とした後、連続焼鈍ラインで溶体化処理が行われる。連続焼鈍ラインは、図1に示すように、加熱装置2、冷却装置3から構成される連続焼鈍炉1、入側アキュムレータ6、出側アキュムレータ7、巻取り装置4からなる。
【0015】
Al−Mg−Si系合金の冷間圧延板Sは、入側アキュムレータ6を経て連続焼鈍炉1の加熱装置2に導入され、急速加熱により、450〜600℃の温度に昇温し、この温度域に60秒以下の時間保持した後、冷却装置3で急冷され、溶体化処理が行われる。
【0016】
ついで、出側アキュムレータ7を経て巻取り装置4でコイルに巻取られた後、室温に放置して自然時効処理し、または自然時効処理することなしに、200〜300℃で60秒以下の最終熱処理が行われるが、巻取り温度は外気温(製造工場内の温度)および前に処理した材料によるパスロールの加熱の影響を受ける。すなわち、夏の外気温は40℃を超えることがあるため、冷却装置3で急冷され50〜100℃程度の温度となった冷間圧延板Sは、出側アキュムレータ7であまり冷却されることなく、80℃を超える温度で巻取られることもあることが経験されている。後から巻取られる部分ほど、パスロールが加熱されるために巻取り温度が高くなる。
【0017】
一方、例えば冬季においは、外気温が10℃以下になることも多いため、冷却装置3を出た冷間圧延板Sは、出側アキュムレータ7を通過する間に外気により冷却されて、時には15℃以下の材料温度で巻取られることもある。とくに、パスロールが加熱されていない先端の材料部分は巻取り温度が低くなる。巻取り時の材料温度が変動した場合には安定したBH性を得ることが難しい。
【0018】
本発明においては、巻取り温度を一定とするために、図2に示すように、連続焼鈍炉1の冷却装置3と巻取り装置4との間に、巻取り時の材料温度を20〜80℃、好ましくは20〜60℃の温度範囲に制御するための恒温装置5を配置する。通常は、出側アキュムレータ7と巻取り装置4との間に恒温装置5を配置するのが好ましい。
【0019】
冷間圧延板Sを恒温に保持するための装置としては、恒温保持ロール、熱風および冷風を供給する装置などがあり、また、工場内部あるいは装置全体もしくは一部を一定の温度に空調することによっても目的を達することが可能であり、これらの装置により、冷却装置3を出た冷間圧延板Sについて、通常、夏期は冷却、冬季は加熱が行われ、巻取り温度が一定に保持される。恒温装置5の温度は、巻取り時の材料温度が所定の温度になるよう設定される。
【0020】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。
実施例1、比較例1
連続鋳造により、Al−Mg−Si系合金(Mg:0.5%、Si:1.2%、残部Alおよび不純物ー合金A、Mg:0.7%、Si:1.3%、Mn:0.08 %、Cr:0.1%、Ti:0.05 %、残部Alおよび不純物ー合金B)を、常法に従って半連続鋳造により造塊し、均質化処理後、厚さ4.5mmまで熱間圧延し、さらに1mm厚さまで冷間圧延した。
【0021】
冷間圧延板を、図1に示すような装置構成を備えた連続焼鈍ラインで、560℃の温度で溶体化処理、急冷(焼入れ)し、巻取り装置でコイルに巻取った。ついで、24時間以内に240℃の温度で保持時間無しの最終熱処理を行った。この場合、外気温および前に処理(通過)した材料によるパスロールの加熱の影響により、巻取り温度が10℃、40℃、60℃、85℃のものが作製された。
【0022】
最終熱処理後、室温に1日放置したのち、および3か月放置したのちの引張性能を測定し、さらに170℃の温度で30分間の焼付け処理を行ったのちの引張性能を測定した。結果を表1に示す。
【0023】
表1に示すように、巻取り時の材料温度が40℃、60℃の場合には、十分なBH性が得られるが、巻取り温度が10℃では十分なBH性が認められず、85℃の場合には室温時効硬化が激しくBH性が不安定である。
【0024】
【表1】
【0025】
実施例2
実施例1の合金Bについて、BH性が好ましくなかった試験材No.5および試験材No.8の条件を連続焼鈍炉により再現し、それぞれコイル巻取り前に、図2に示す恒温保持されたロールからなる恒温装置5を通した。恒温装置5によって、試験材No.5は巻取り時の材料温度が40℃となるよう加熱され、試験材No.8は巻取り時の材料温度が60℃となるよう冷却された。
【0026】
ついで、24時間以内に、240℃の温度で保持時間無しの最終熱処理を行った。最終熱処理後、実施例1と同様、室温に1日放置したのち、および3か月放置したのちの引張性能を測定し、さらに170℃の温度で30分間の焼付け処理を行ったのちの引張性能を測定した。結果を表2に示す。表2にみられるように、巻取り温度時の材料温度が本発明の範囲に制御された場合には、優れたBH性が与えられる。
【0027】
【表2】
【0028】
【発明の効果】
本発明によれば、Al−Mg−Si系合金板を、恒温装置を配置した連続焼鈍ラインにより処理することによって、塗装焼付け性(BH性)に優れた板材が安定して得られる。当該Al−Mg−Si系合金板は、自動車外板をはじめとする輸送機器用材料として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の連続焼鈍ラインを示す図である。
【図2】本発明に係る装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
1 連続焼鈍炉
2 加熱装置
3 冷却装置
4 巻取り装置
5 恒温装置
6 入側アキュムレータ
7 出側アキュムレータ
S 冷間圧延板
Claims (1)
- Mg:0.3〜1.5%(重量%、以下同じ)、Si:0.4〜1.5%を含有し、さらにMn:0.05〜0.3%、Cr:0.05〜0.4%、Ti:0.01〜0.1%、Zr:0.05〜0.2%、V:0.05〜0.2%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Mg−Si系合金の冷間圧延板を連続焼鈍炉を用いて溶体化処理および焼入れした後、15℃以下の材料温度で、連続焼鈍処理ラインの冷却装置と巻取り装置の間に設けた巻取り時の材料温度を20〜80℃の温度範囲に保持するための恒温装置を通して巻取りを行い、その後、室温時効を行いまたは室温時効を行うことなく、最終的に200〜300℃の温度で60秒以下の時間熱処理することを特徴とする焼付け硬化性に優れたアルミニウム合金板の製造方法。
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