JP3792490B2 - 絶縁性樹脂基板およびそれを用いた液晶表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、OA機器やパーソナルコンピュータ、携帯情報端末等に用いられる液晶表示装置、および該液晶表示装置の配線やアクティブ素子などに用いられる金属薄膜、並びにこれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、パーソナルコンピュータに代表される情報処理装置では、装置の小型化や軽量化が進展している。そこで、このような情報処理装置の部品の1つである表示装置に対し、軽量化および高密度表示化の要望が高まっている。こうした要望に答える表示装置として、液晶表示装置の開発が活発に行われている。
【0003】
液晶表示装置の軽量化としては、液晶表示装置のガラス基板をプラスチック基板へ転換するための技術開発が注目されている。また、液晶表示装置の高密度表示化としては、金属−絶縁膜−半導体(多結晶シリコン)−金属構造の薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)等が設けられたアクティブマトリクス型液晶表示装置の技術開発が注目されている。
【0004】
そこで、軽量化と高密度表示化とを同時に満たす技術として、プラスチック基板を用いたアクティブマトリクス型液晶表示装置が期待されている。しかし、アクティブマトリクス型液晶表示装置の製造工程において、アモルファスシリコンもしくは多結晶シリコンからなるTFTをアクティブ素子として形成する場合、プラスチック基板材料の許容温度以上で処理しなければならないという問題がある。それゆえ、直ちに、ガラス基板をプラスチック基板に転換することは困難である。
【0005】
これに対して、非線形抵抗素子である金属−絶縁膜−金属構造のMIM(Met-al Insulator Metal)をアクティブ素子として用いるアクティブマトリクス型液晶表示装置の場合、TFTを用いる場合と比較して、製造工程中の処理温度をプラスチック基板材料の許容温度以下にすることが可能である。しかし、後述のとおり、MIMを構成する金属膜の膜応力によって基板が変形してしまうという問題があり、やはり量産化には至っていないのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
一般的に、アクティブ素子としてMIMを用いたアクティブマトリクス型液晶表示装置では、その金属配線の陽極酸化膜がMIMの非線形抵抗膜として用いられており、金属配線としてはタンタル(Ta)膜が多く用いられている。このように、従来より液晶表示装置に用いられている上記MIM等の薄膜二端子素子においては、第1の電極としてTa膜が用いられ、非線形抵抗膜としてTaの陽極酸化膜が用いられる。
【0007】
以上のように、薄膜二端子素子の第1の電極として設けられる従来のTa膜は、配線を兼ねるために300〜500nm程度の膜厚が必要であった。
【0008】
次に、プラスチック基板に上記のような膜厚で形成されるTa膜が、プラスチック基板に与える全応力について説明する。この場合、Ta膜がポリエーテルスルフォン(PES)からなるプラスチック基板に与える全応力は、以下のような式で示される。
【0009】
全応力 S=σ・d[N/m] ……(1)
Ta膜応力 σ=σI +σT [N/m2 ] ……(2)
σT =Ef (αf −αs )ΔT[N/m2 ]……(3)
σI :Ta膜の内部応力[N/m2 ],σT :Ta膜の熱応力[N/m2 ],
d:Ta膜の膜厚[m],Ef :Ta膜のヤング率[N/m2 ],
αf :Ta膜の熱膨張率[K-1],αs :PES基板の熱膨張率[K-1],
ΔT:温度差[K]
ここで、Ta膜の内部応力σI は、膜厚100nmのときに1.8×109 [N/m2 ]である。また、Ta膜のヤング率Ef は1.86×1011[N/m2 ]、Ta膜の熱膨張率αf は6.5×10-6[K-1]、PES基板の熱膨張率αs は5.5×10-6[K-1]である。
【0010】
上式(1)ないし(3)を用いて、Ta膜厚が500nmで、且つ、ポリエーテルスルフォン(PES)からなるプラスチック基板を用いた場合、該プラスチック基板上のTa膜の全応力Sを計算すると、全応力Sは約1000[N/m]となる。
【0011】
以上のように、プラスチック基板上にTa膜にて金属配線を形成する場合、成膜されたTa膜の全応力は約1000[N/m]と大きい。プラスチック基板の剛性はガラス基板と比較して低いため、Ta膜の全応力により、プラスチック基板の反りや、金属薄膜(Ta膜)のプラスチック基板に対する剥離などが発生し、素子形成プロセスの継続が困難となるという問題が生じる。
【0012】
この問題に対し、Ta膜の全応力を緩和する方法として、上式(1)より、Ta膜の膜厚を薄くすることが考えられる。例えばTa膜の膜厚を100[nm]とする場合、プラスチック基板に与える応力(全応力S)は、上式(1)ないし(3)を用いて算出すると約200[N/m](圧縮応力)となり、プラスチック基板に対する応力を約1/5とすることができる。しかし、単純に考えれば、膜厚が1/5となれば抵抗値が約5倍となってしまう。つまり、金属配線としての観点からみると、配線抵抗が大きくなるため、表示信号の遅延等の問題により、ディスプレイ表示画面にコントラストむら等が発生して表示品位が劣化するという、表示画面の品質上の問題が発生する。
【0013】
そこで、Ta膜の膜厚を薄くして金属配線を形成する場合、膜抵抗を低くすることがTa膜形成時の重要技術となる。しかし、CVD(Chemical Vapor Depo-sition)法やスパッタリング等、真空雰囲気で膜形成する方法においては、プラスチック基板を用いる場合に基板内に吸収された水・酸素・窒素などが放出され、こうしたガス成分が膜形成時に膜中に混入してTa膜の膜特性を変化させる原因となることが、詳細な検討から判明した。また、こうした基板からのガス放出の状態は一定ではないので、膜形成ごとにTa膜の質を一定に保つことも難しく、Ta膜の膜抵抗を低く安定的に形成することは困難であることも解った。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、例えば液晶表示装置の配線として用いられた場合に、プラスチック基板を変形させない程度に薄い膜厚であっても、表示品位を低下させず、且つ、再現性の高い画像を提供できる金属薄膜およびその製造方法と、該金属薄膜を金属配線として備えた液晶表示装置およびその製造方法とを提供することを課題とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明に係る絶縁性樹脂基板は、Cu(Kα)線によるX線回折θ−2θ測定の結果、回折角(2θ)が30°以上35°以下の範囲で回折ピークが現れ、かつ、比抵抗が100μΩ・cmを超えないタンタルからなる金属薄膜が直接形成されたことを特徴としている。
【0016】
従来、例えば、Cu(Kα)線によるX線回折θ−2θ測定の結果、回折角(2θ)が30°以上35°以下の範囲で回折ピークが現れるタンタル薄膜は、比抵抗が200μΩ・cm程度であった。この従来のタンタル薄膜を、例えば液晶表示装置の金属配線として用いる場合、大画面の液晶表示装置では配線の抵抗により配線遅延が生じるなど、表示品位が良好ではなかった。また、従来のタンタル薄膜を、絶縁性の樹脂基板上に金属配線やスイッチング素子の電極として形成し、軽量の液晶表示装置を製造しようとする場合、絶縁性樹脂基板をタンタル薄膜の応力で変形させないためにタンタル膜厚を薄くすると、配線の抵抗値が増加して配線遅延が生じていた。
【0017】
これに対し、本発明に係る絶縁性樹脂基板上のタンタルからなる金属薄膜は、従来のものより比抵抗が半分以下であるため、大画面の液晶表示装置の配線として用いられる場合であっても、また、樹脂基板に変形を生じさせない程度まで膜厚を薄くしても、配線遅延が生じる虞れがない。
【0018】
このように、本発明に係る絶縁性樹脂基板を用いることにより、抵抗の小さい配線等を実現して、軽量で、耐衝撃性に優れ、表示品位の良好な液晶表示装置を実現することができる。
【0019】
尚、上記Cu(Kα)線の波長は、約7×10-2nmである。また、X線回折θ−2θ測定における回折ピークが上記のような回折角(2θ)30°以上35°以下の範囲で現れるタンタル薄膜は、一般的に、正方晶構造であるとされている。
【0020】
また、上記の課題を解決するために、上記絶縁性樹脂基板は、タンタルをターゲットとし、アルゴンガスと水素ガスとからなり、水素ガスの含有率が5%以下である混合ガスをスパッタリングガスとして用いるスパッタリングによって、絶縁性樹脂基板上に比抵抗が100μΩ・cm以下であるタンタルからなる金属薄膜が直接形成されたものであってもよい。
【0021】
さらに、上記金属薄膜のX線回折θ−2θ測定における回折ピークの強度をIhとし、スパッタリングにおいてアルゴンガスのみをスパッタリングガスとして用いて形成した金属薄膜のX線回折θ−2θ測定における回折ピークの強度をIとする場合、Ih≧2×Iの関係式を満たすことが好ましい。
【0022】
上記の方法によれば、スパッタリングにおいて、従来はアルゴンガスのみを用いていたスパッタリングガスに水素ガスを添加することで、容易に低抵抗のタンタル薄膜を作製することが可能となる。
【0023】
また、添加する水素ガスの含有率を5%以下とすることにより、従来の方法にて作製したタンタル薄膜の場合は200μΩ・cmであった比抵抗を、100μΩ・cm程度にまで低下させることができる。
【0024】
さらに、金属薄膜のX線回折θ−2θ測定における回折ピークの強度を、従来の方法で作製したタンタル薄膜の2倍以上とすることで、配向性を向上させることができる。すなわち、良好な結晶構造のタンタル薄膜を作製することができる。
【0025】
このように、簡単な方法で、確実に比抵抗が低減されたタンタル薄膜を作製することが可能となる。
【0026】
また、上記の課題を解決するために、本発明に係る液晶表示装置は、金属薄膜が配線として設けられている絶縁性基板を素子側基板として備え、上記素子側基板に対向配置される対向側基板と、上記素子側基板および対向側基板に挟持された液晶層とを備えたことを特徴としている。
【0027】
従来、大画面の液晶表示装置では、配線の抵抗により配線遅延が生じるなど、表示品位が良好ではなかった。また、従来では、絶縁性の樹脂基板上に金属配線やスイッチング素子の電極としてタンタル薄膜を形成して、軽量の液晶表示装置を製造しようとする場合、タンタル薄膜の応力によって絶縁性樹脂基板を変形させないためにタンタル膜厚を薄く形成すると、配線の抵抗値が増加して配線遅延が生じていた。
【0028】
これに対し、従来のものより比抵抗が低い、本発明の絶縁性樹脂基板上の金属薄膜を金属配線として用いると、大画面の液晶表示装置に適用する場合であっても、また、絶縁性樹脂基板に変形を生じさせない程度まで膜厚を薄くしても、配線遅延が生じる虞れはない。
【0029】
このように、大面積や軽量であって、かつ表示品位の良好な液晶表示装置を実現することができる。
【0030】
上述したように、絶縁性樹脂基板を用いることにより、液晶表示装置の軽量化を実現することができる。
【0031】
上記の方法により、従来よりも低抵抗の金属薄膜を液晶表示装置の配線として用いることができる。従って、該金属薄膜からなる配線を大画面の液晶表示装置に適用する場合であっても、また、軽量化のために絶縁性基板を樹脂とし、該樹脂基板に変形を生じさせない程度まで金属膜厚を薄く形成する場合であっても、配線遅延が生じる虞れはない。
【0032】
【発明の実施の形態】
〔実施の形態1〕
本発明の第1の実施の形態について図1ないし図5に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0033】
図2(a)は、本実施の形態に係る液晶表示装置の1画素当たりの構成を示す平面図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A矢視断面図である。
【0034】
本実施の形態に係る液晶表示装置を構成している液晶表示素子1は、素子側基板2と、該素子側基板2に対向配置された対向側基板3と、これら両基板2,3に挟持された液晶層4とを備えている。
【0035】
上記素子側基板2は、絶縁性樹脂基板21上に、配線部22aおよび該配線部22aから1画素毎に分岐している下部電極部22bからなる電極配線22と、該電極配線22を覆う陽極酸化膜23と、上記下部電極部22b上に陽極酸化膜23を介してその一端部が配置された略L字形状の上部電極24と、該上部電極24の他端部上に一部が重畳するように設けられた画素電極25と、これら素子が形成された絶縁性樹脂基板21の略全面を覆うように設けられた配向膜26とを備えている。上記電極配線22、陽極酸化膜23、および上部電極24は、アクティブ素子として、薄膜二端子素子であるMIM(Metal Insulator Metal )を構成している。上記電極配線22は、液晶表示装置における配線とMIMの下部電極とを兼ねており、また、上記陽極酸化膜23は、配線上の絶縁膜とMIMの非線形抵抗膜とを兼ねている。
【0036】
上記対向側基板3は、透明絶縁性樹脂基板31上に、上記画素電極25に対向するように設けられた対向電極32と、対向電極32が形成された透明絶縁性樹脂基板31上の全面に設けられた配向膜33とを備えている。
【0037】
次に、図1(a)ないし(f)を用い、本実施の形態に係る液晶表示装置の素子側基板2の製造方法について説明する。
【0038】
(1) 絶縁性樹脂基板21上に、スパッタリング法によりTa膜22(後に電極配線22となる)を膜厚100nmに成膜する(図1(a)参照。)。
【0039】
この時の成膜条件は、基板温度150℃、RFパワー3.4W/cm2 で、さらに、アルゴン(Ar)ガスと水素(H2 )ガスとの混合ガスで、H2 ガス混合比が1%のものをスパッタリングガスとして用い、全圧力は0.5Paであった。
【0040】
このようにして形成されたTa膜22は、比抵抗が100μΩ・cmであった。これに対し、通常、スパッタリングガスとしてアルゴンガス100%を用いた場合に形成されるTa膜は、その比抵抗が200μΩ・cmである。このことから、スパッタリングにおいて上記した本方法を用いることにより、低抵抗のTa膜22の成膜が可能であることが判明した。
【0041】
また、本実施の形態における方法にて形成されるTa膜22は、波長が約7×10-2nmのCu(Kα)線によるX線回折θ−2θ測定により、図3(b)に示すように、回折角(2θ)30°〜35°で回折シグナル(回折ピーク)が観察される。このように、回折角(2θ)30°〜35°の範囲に回折ピークが現れるタンタル薄膜の結晶構造は、一般的に正方晶構造とされている。また、これと比較するために、図3(a)には、従来の、Arガスのみを用いたスパッタリングによって形成されたTa膜の、X線回折θ−2θ測定の結果が示されている。尚、図中のY軸のCPSとは、X線計数値であり、Count(s) Per Second の略である。
【0042】
ここで、本実施の形態において形成されるTa膜22におけるX線回折のピーク強度をIh(図3(b)参照)、ArガスのみでスパッタしたTa膜のX線回折のピーク強度をI(図3(a)参照)とした場合、Ih≧2×Iの関係式が満たされる。このように、本実施の形態におけるTa膜22は、Arガスのみで成膜されたTa膜と比較してピーク強度が大きい。これにより、本方法にて形成されるTa膜22は、従来のものよりも配向性が高い、すなわち、結晶構造が良好である(結晶性が高い)ということが判明した。
【0043】
また、詳細な検討により、水素ガスの混合比を5%以下とする際に、比抵抗が100μΩ・cm以下のTa膜が得られることが判明しているので、水素ガスの混合比は5%以下とすることが好ましい。
【0044】
尚、本実施の形態においては、H2 ガス1%の場合のX線回折測定結果のみを示しているが、詳細な検討により、H2 ガス5%以下の場合に上記の関係式Ih≧2×Iが成立することが確認されている。
【0045】
(2) 次に、上記のように成膜されたTa膜22を用い、金属配線と液晶電気光学素子であるMIMの下部電極とを兼ねる電極配線22を形成する。具体的には、Ta膜22をフォトエッチング法により選択的にエッチングして所定の形状にパターニングし、配線部22aと下部電極部22bとを備えた電極配線22を形成する。
【0046】
(3) 次に、MIMの非線形抵抗膜となる陽極酸化膜(Ta2 O5 )23を形成する(図1(c)参照。)。
【0047】
本実施の形態における陽極酸化条件としては、陽極酸化溶液として1%のホウ酸アンモニウム溶液を用い、溶液温度を室温、化成電圧を35Vとした。この条件の下で、上記電極配線22が形成された絶縁性樹脂基板21を上記陽極酸化溶液に浸して、電極配線22の表面に、非線形抵抗膜となる陽極酸化膜23を形成する。
【0048】
上記した本実施の形態の陽極酸化プロセスにおいて、化成電圧および化成電流の、陽極酸化時間に対する変化が、図4に示されている。図4に示すように、本実施の形態では、低電流電圧電源を用いて、化成電流を3.2×10-2A一定として定電流化成を行った後、形成する非線形抵抗膜の膜厚に対応した電圧値(本実施の形態では35V)になった時点で、一定時間定電圧化成を行った。なお、本実施の形態において、定電流化成を行った時間は約54分、定電圧化成を行った時間は約25分であった。
【0049】
以上のような陽極酸化プロセスにより、電極配線22の表面から深さ方向に約26nmまでの部分が陽極酸化され、膜厚約60nmの陽極酸化膜23が形成される。
【0050】
なお、本実施の形態における陽極酸化条件では、陽極酸化溶液として1%のホウ酸アンモニウム溶液を用いているが、MIMの素子特性は酸化条件によって左右されるので、要求される素子特性を満足するような条件で行えばよい。陽極酸化溶液の代表的な他の例としては、酢酸、クエン酸などの有機酸や、硫酸、塩酸などの無機酸や、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール等である。また、それぞれの濃度は、0.0001重量%以上、より好ましくは0.001重量%以上で、且つ、5重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。
【0051】
(4) 次に、MIMの上部電極24として機能するチタン(Ti)膜を、EB(Electron Beam )蒸着法により、膜厚100nmで形成する。本実施の形態においては、この時の成膜条件を、成膜温度が室温(基板加熱せず)、到達真空度が6.67×10-4Pa、加速電圧4kV、成膜電流120Aとした。
【0052】
続いて、このTi膜に対し、フォトリソグラフィーおよびエッチングを施して所定の形状に加工し、上部電極24を形成する(図1(d)参照。)。なお、上部電極24となる金属膜には、Ti以外に、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、モリブテン(Mo)、銅(Cu)等を用いることが可能である。
【0053】
以上、(1)〜(3)の工程により、本実施の形態に係る液晶表示素子1の薄膜二端子素子(MIM)を作製することができる。このようにして作製されたMIMの素子特性(電流−電圧特性)が、図5に示されている。該MIMの素子特性は、素子面積が5μmの正方形で、α=1.7×10-4、β=3.1であった。なお、αとは薄膜二端子素子の導電性を表すパラメータで、βとは薄膜二端子素子の急峻性(電圧に対する電流変化の大きさ)を表すパラメータであり、それぞれ、薄膜二端子素子の電流−電圧特性の伝導機構であるPool-Freckel伝導を表す下記の理論式の係数である。尚、次式(4)が、薄膜二端子素子の電流−電圧特性を示している。
【0054】
I=αVExp[β√v] ……(4)
α={nμqSExp[一φ/kT]}/d ……(5)
β={√q^3/πεrε0}/kT ……(6)
(n:キャリア濃度,μ:キャリア移動度,q:電子の電荷量,S:素子面積,φ:トラップ深さ,k:ボルツマン定数,T:温度,d:非線形抵抗膜の膜厚,εr:非線形抵抗膜の比誘電率,ε0:真空の誘電率)
引き続き、本実施の形態に係る液晶表示装置の製造工程について、図1を用いて説明する。
【0055】
(4) 上記のようにしてMIMが形成された絶縁性樹脂基板21上に、スパッタリングにより、ITO(Indium Tin Oxide)膜を膜厚40〜150nmで形成する。ここでは、膜厚100nmにてITO膜を成膜し、フォトリソグラフィーおよびエッチングにより、画素電極25を形成した(図1(e)参照。)。
【0056】
(5) 次に、絶縁性樹脂基板21の全面を覆うように、膜厚60nmのポリイミド膜を塗布し、150℃、2時間の焼成を行って、配向膜26を形成する(図1(f)参照。)。
【0057】
以上(1)〜(5)の工程により、素子側基板2が完成する。
【0058】
一方、対向側基板3の作製方法について説明する。まず、透明絶縁性樹脂基板31上に、スパッタリングにてITO膜を膜厚100nmで成膜し、フォトリソグラフィーおよびエッチングにより所定形状に加工して、対向電極32を形成する。次に、透明絶縁性樹脂基板31を覆うように、膜厚60nmのポリイミド膜を塗布し、150℃、2時間の焼成を行って、配向膜33を形成する。このようにして、対向側基板3が完成する。
【0059】
上記のように作製した、素子側基板2の配向膜26及び対向側基板3の配向膜33に対し、液晶層4を配向させるためのラビング処理を行う。その後、これら素子側基板2および対向側基板3上に、貼り合わせ用のシール材料(図示せず)の印刷とスペーサ(図示せず)散布とを行い、両基板2,3を貼り合わせる。その後、これら基板2,3間に液晶を注入して液晶層4を形成して、液晶表示素子1の作製が完了する。
【0060】
以上のように、本実施の形態によれば、配線および下層電極となるTa膜22を低抵抗となるように形成できるので、大画面の液晶表示装置であっても、配線遅延のない画面表示品位の高いものが得られる。さらに、素子側基板2の絶縁性基板が剛性の低い樹脂(プラスチック等)からなるもの(ここでは絶縁性樹脂基板21)でも、この絶縁性基板上に直接形成するTa膜22を低抵抗に作製できるため、絶縁性樹脂基板21の剛性の低さを解決することができる。要するに、基板変形が生じないように絶縁性樹脂基板21の剛性の低さを考慮して、配線となるTa膜22を従来よりも薄く形成した場合であっても、表示信号の遅延が生じて表示画面の品質が低下する程度まで抵抗が大きくなることがない。従って、薄型・軽量かつ耐衝撃性に優れ、且つ表示品位も良好な液晶表示装置を実現することが可能となる。
【0061】
〔実施の形態2〕
本発明の第2の実施の形態について、図6および図7に基づき説明すれば、以下のとおりである。尚、説明の便宜上、前記した実施の形態1で説明した部材と同様の機能を有する部材については同一の参照番号を付記し、その説明を省略する。
【0062】
図6(a)は、本実施の形態に係る液晶表示装置を構成する液晶表示素子5の1画素当たりの構成を示す平面図であり、図6(b)は、図6(a)のB−B矢視断面図である。同図に示すように、上記液晶表示素子5は、素子側基板6と、対向側基板3と、これら両基板6,3に挟持される液晶層4とを備えている。本実施の形態に係る液晶表示素子5は、薄膜二端子素子のMIMの代わりに薄膜三端子素子のTFT(Thin Film Transistor)をアクティブ素子として用いた素子側基板6を備えているが、その他の構成は前記した実施の形態1の液晶表示装置と略同じである。
【0063】
図6(a),(b)を用いて、素子側基板6の構成について説明する。絶縁性樹脂基板61上に複数のゲート配線62が互いに平行に形成されており、該ゲート配線62からは、一画素毎にゲート電極62aが分岐している。また、ソース配線63は、後述するゲート絶縁膜65を介して上記ゲート配線62と交差するように配されている。また、該ソース配線63からは、一画素毎にソース電極63aが分岐している。尚、上記ゲート絶縁膜65とは、上記ゲート配線61およびゲート電極61aを覆うように設けられている層である。また、図中の64は、ゲート配線61を陽極酸化して得られる陽極酸化膜である。
【0064】
上記ソース電極63aは、上記ゲート絶縁膜65、後述する非ドープアモルファスSi膜(a−Si膜)66、およびコンタクト層であるn+ アモルファスSi膜(n+ a−Si膜)67aを介して上記ゲート電極62aの一方の側部に重畳形成されている。また、上記ゲート電極62aの他方の側部には、上記ゲート絶縁膜65、上記a−Si膜66、およびコンタクト層であるn+ a−Si膜67bを介してドレイン電極68が重畳形成されている。尚、上記a−Si膜66は、ゲート電極62aの上方にゲート絶縁膜65を介して形成されている層である。さらに、画素電極69が、上記ドレイン電極68に接続するように設けられている。
【0065】
尚、各画素を選択的に駆動するためのアクティブ素子であるTFTは、上記ゲート電極62a、ゲート絶縁膜65、a−Si膜66、n+ a−Si膜67a,67b、ソース電極63a、およびドレイン電極68から構成されている。
【0066】
以上のように素子形成された素子側基板6の全面に、配向膜70が設けられる。
【0067】
次に、図7(a)ないし(g)を用いて、上記素子側基板6の製造方法について説明する。
【0068】
(1) 絶縁性樹脂基板61上に、スパッタリングによりTa膜62(後にゲート配線62となる)(図7(a)参照。)。この時の成膜条件は、前記した実施の形態1においてTa膜22を作製した際と同様である。従って、本実施の形態に係るTa膜62は、実施の形態1におけるTa膜22と同様の特性を有している。すなわち、Ta膜62も、比抵抗が100μΩ・cmの低抵抗金属薄膜となる。
【0069】
(2) 上記Ta膜62を、フォトリソグラフィの手法によりパターニングして、ゲート配線62を作製する(図7(b)参照。)。
【0070】
(3) 次に、上記ゲート配線62を、実施の形態1のTa膜22からなる電極配線の陽極酸化と同様の方法および条件で陽極酸化し、陽極酸化膜64を作製する(図7(c)参照。)。
【0071】
(4) さらに、窒化シリコン膜をプラズマCVD法によって成膜し、ゲート絶縁膜65の形状にパターニングする(図7(d)参照。)。
【0072】
(5) a−Si膜をプラズマCVD法によって成膜して島状にパターニングし、a−Si膜66を形成する(図7(e)参照。)。
【0073】
(6) n+ a−Si膜をプラズマCVD法によって成膜し、さらにTi膜をスパッタリング法により成膜して、n+ a−Si膜とTi膜とを共にパターニングし、n+ a−Si膜67a,67b、ソース配線63(ソース電極63a)およびドレイン電極68を形成する(図7(f)参照)。
【0074】
以上(1)〜(6)の工程により、薄膜三端子素子であるTFTが形成される。
【0075】
(7) 上記のようにしてTFTが形成された絶縁性樹脂基板61上に、スパッタリングによりITO膜を膜厚40〜150nmで成膜し、画素電極69を形成する。本実施の形態では膜厚100nmにてITO膜を成膜し、フォトリソグラフィーおよびエッチングにより、画素電極69を形成した。
【0076】
(8) 次に、絶縁性樹脂基板61を覆うように、膜厚60nmのポリイミド膜を塗布し、150℃,2時間の焼成を行って配向膜70を形成する。
【0077】
以上、(1)〜(8)の工程を経て、素子側基板6の作製が完了する。
【0078】
対向側基板3の製造方法、素子側基板6と対向側基板3との貼り合わせ方法、および液晶層4の形成方法は、前記した実施の形態1の場合と同様であるので、ここでは省略する。
【0079】
尚、本実施の形態に係る液晶表示装置の説明、および図6、図7において、補助容量や補助容量電極線など、本発明の特徴部分に直接関係しない構成は、簡略化のため省略されている。
【0080】
以上のように、本実施の形態では、本方法にて形成された低抵抗のTa膜62を、ゲート配線62およびTFTのゲート電極62aとして用いている。従って、ゲート配線62の抵抗を低くすることができるので、大画面の液晶表示装置でも配線遅延のない、画面表示品位の高い装置を得ることができる。さらに、本実施の形態のように、素子側基板6を構成する絶縁性樹脂基板61が剛性の低いプラスチック等の樹脂からなる場合であっても、この絶縁性樹脂基板61上に直接形成するTa膜62を低抵抗に形成できるため、絶縁性樹脂基板61の剛性の低さを解決できる。要するに、基板変形が生じないように基板の剛性の低さを考慮して、配線となるTa膜の膜厚を従来より薄く形成した場合でも、表示信号の遅延が生じて表示画面の品質が低下する程度まで、配線抵抗が大きくなることがない。従って、薄型・軽量かつ耐衝撃性に優れ、且つ表示品位も良好な、TFTを備えた液晶表示装置を実現することができる。
【0081】
なお、実施の形態1および2においては、スパッタリングにおいて、ArガスにH2 ガスを添加した混合ガスをスパッタリンガスとする本発明に係る方法を用いて、低抵抗のタンタル薄膜を製造したが、本方法を他の金属の薄膜形成に適用することも可能である。
【0082】
また、実施の形態1および2においては、本発明に係る方法にて作製された低抵抗金属薄膜を液晶表示装置の金属配線やアクティブ素子電極として利用しているが、これに限るものではなく、液晶表示装置以外、例えば回路基板、イメージセンサ、半導体装置などに利用することも当然可能である。
【0083】
【発明の効果】
以上のように、本発明に係る絶縁性樹脂基板は、Cu(Kα)線によるX線回折θ−2θ測定の結果、回折角(2θ)が30°以上35°以下の範囲で回折ピークが現れ、かつ、比抵抗が100μΩ・cmを超えないタンタルからなる金属薄膜が直接形成された構成である。
【0084】
それゆえ、本発明に係る絶縁性樹脂基板上に形成されたタンタルからなる金属薄膜は、従来のものより比抵抗が半分以下となるため、大画面の液晶表示装置であっても、また、樹脂基板に変形を生じさせない程度まで膜厚を薄くしても、配線遅延が生じる虞れがない。このように、本発明に係る絶縁性樹脂基板を用いることにより、抵抗の小さい配線等を実現して、軽量で、耐衝撃性に優れ、表示品位の良好な液晶表示装置を実現することができるという効果を奏する。
【0085】
また、本発明は、タンタルをターゲットとし、アルゴンガスと水素ガスとからなり、水素ガスの含有率が5%以下である混合ガスをスパッタリングガスとして用いるスパッタリングによって、絶縁性樹脂基板上に比抵抗が100μΩ・cm以下であるタンタルからなる金属薄膜を形成する方法を含んでいてもよい。
【0086】
さらに、上記金属薄膜のX線回折θ−2θ測定における回折ピークの強度をIhとし、上記スパッタリングにおいてアルゴンガスのみをスパッタリングガスとして用いて形成した金属薄膜のX線回折θ−2θ測定における回折ピークの強度をIとする場合、上記金属薄膜は、Ih≧2×Iの関係式を満たすことが好ましい。
【0087】
それゆえ、容易に低抵抗金属薄膜を作製することができる。また、添加する水素ガスの含有率を5%以下とすることにより、タンタル薄膜においては、従来の方法では200μΩ・cmであった比抵抗を、100μΩ・cm程度にまで低下させることができる。さらに、金属薄膜の配向性を向上させることができる、すなわち、良好な結晶構造の金属薄膜を作製することができる。このように、簡単な方法で、確実に比抵抗が低減された金属薄膜を作製することが可能となるという効果を奏する。
【0088】
また、本発明に係る液晶表示装置は、金属薄膜が配線として設けられている上記絶縁性樹脂基板を素子側基板として備え、上記素子側基板に対向配置される対向側基板と、上記素子側基板および対向側基板に挟持された液晶層とを備えた構成である。
【0089】
それゆえ、金属薄膜を、大画面の液晶表示装置の配線として適用する場合であっても、また、樹脂基板に変形を生じさせない程度まで膜厚を薄くする場合であっても、配線遅延が生じる虞れがない。このように、大面積や軽量であって、かつ表示品位の良好な液晶表示装置を実現することができるという効果を奏する。
【0090】
上述したように、絶縁性樹脂基板を用いることにより、液晶表示装置の軽量化を実現することができるという効果を奏する。
【0091】
また、本発明に係る液晶表示装置の製造方法は、上記した金属薄膜の製造方法を用いて絶縁性基板上に金属薄膜を形成する工程と、上記金属薄膜にて配線を形成する工程とを含む方法である。
【0092】
それゆえ、上記金属薄膜を、大画面の液晶表示装置の配線に適用する場合であっても、また、軽量化のために絶縁性基板を樹脂とし、該樹脂基板に変形を生じさせない程度まで膜厚を薄く形成する場合であっても、配線遅延が生じる虞れがない。このように、大面積や軽量であって、かつ表示品位の良好な液晶表示装置を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)ないし(f)は、本発明の第1の実施の形態に係る液晶表示装置の製造方法を示す工程図である。
【図2】 (a)は、上記製造工程にて作製される液晶表示装置の、一画素当たりの構成を示す平面図であり、(b)は、(a)のA−A矢視断面図である。
【図3】 (a)は、従来の成膜方法にて形成されたTa膜のX線回折データであり、(b)は、第1の実施の形態に係る成膜方法にて形成されたTa膜のX線回折データである。
【図4】 上記液晶表示装置の製造工程の、薄膜二端子素子の非線形抵抗膜を形成する陽極酸化工程において、化成電流および化成電圧と陽極酸化時間との関係を示すグラフである。
【図5】 上記液晶表示装置の製造方法にて形成される薄膜二端子素子の、電流−電圧特性を示すグラフである。
【図6】 (a)は、本発明の第2の実施の形態に係る液晶表示装置の、一画素当たりの構成を示す平面図であり、(b)は、(a)のB−B矢視断面図である。
【図7】 (a)ないし(g)は、第2の実施の形態に係る液晶表示装置の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
1 液晶表示素子
2 素子側基板
3 対向側基板
6 素子側基板
21 絶縁性樹脂基板(絶縁性基板)
22 電極配線,Ta膜(金属薄膜)
31 透明絶縁性樹脂基板(透明絶縁性基板)
32 対向電極
61 絶縁性樹脂基板
62 ゲート配線,Ta膜(金属薄膜)
Claims (2)
- Cu(Kα)線によるX線回折θ−2θ測定の結果、回折角(2θ)が30°以上35°以下の範囲で回折ピークが現れ、かつ、比抵抗が100μΩ・cmを超えないタンタルからなる金属薄膜が直接形成されたことを特徴とする絶縁性樹脂基板。
- 金属薄膜が配線として設けられている請求項1に記載の絶縁性樹脂基板を素子側基板として備え、
上記素子側基板に対向配置される対向側基板と、
上記素子側基板および対向側基板に挟持された液晶層とを備えたことを特徴とする液晶表示装置。
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