JP3790459B2 - 熱接着性複合繊維とその製造方法、及びこれを用いた不織布および合繊紙 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は熱接着性複合繊維とこれを用いた不織布および合繊紙に関する。更に詳しくは、熱処理時の低温での熱接着性を有し、熱接着加工温度の範囲が広く、熱接着強力やヒートシール強力に優れ、また柔軟な触感を有する不織布、合繊紙を提供し得る熱接着性複合繊維、並びに不織布および合繊紙に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、衛生材料、包装材、フィルター、ウェットティッシュ、ワイパー、電池セパレーター、ヒートシール合繊紙等の様々な用途において、低融点成分の少なくとも一部が繊維表面に露出した熱接着性複合繊維で繊維間を熱接着させた熱接着不織布が使用されている。熱接着性複合繊維としては、低融点(鞘)成分/高融点(芯)成分(以下この組合せで示す)の組合せがポリエチレン/ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリエステルが代表的であるが、両者の相溶性が必ずしも良好でないために、成分間剥離(鞘芯型複合繊維の場合は鞘芯間剥離)が生じ接着強力が必ずしも十分でないという欠点があり、また、エンボスロールによる熱圧着処理の場合、生産速度を上げると接着強度が低く、高温高圧とすると風合いが硬くなるという欠点もあるため、エチレン−プロピレン共重合体(以下EP、またはEP共重合体と示すことがある)/ポリプロピレン(以下PPと示すことがある)、エチレン−ブテン−プロピレン三元共重合体(以下EBP、またはEBP共重合体と示すことがある)/ポリプロピレンの組合せからなる複合繊維が種々提案され、実用に供されている。この組み合わせの場合、両成分の相溶性が良いため、成分間剥離の問題が生じにくく優れた熱接着能を示す。また、上記共重合体は若干のゴム的性質を有するため比較的柔軟な不織布が得られる。
【0003】
例えば、特開平4−73214号公報では、プロピレン系共重合体を鞘成分とし、結晶性ポリプロピレンを芯成分とし、鞘成分/芯成分のメルトフローレート比を2〜10の範囲とした熱接着性繊維が提案されている。特開平5−9810号公報では、プロピレン系共重合体を鞘成分とし、結晶性ポリプロピレンを芯成分とし、DSC曲線でダブルピークを示すように低融点プロピレン系共重合体を選択することが提案されている。特開平6−108310号公報および特表2001−502388号公報では、鞘成分を低融点プロピレン共重合体とし、芯成分を結晶性ポリプロピレンとし、延伸倍率を低くして樹脂の配向結晶性を抑制した熱接着性複合繊維が提案されている。
【0004】
WO98/23799公報では、アイソタクチックペンタッド分率が0.950〜0.995、シンジオタクチックペンタッド分率が0〜0.004であり、重量平均分子量(Mw)が5万〜100万、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.5〜3.8であるポリプロピレンを一成分とした複合繊維が提案されている。特開平10−298824号公報では、エチレン含有量が0.01〜15mol%であり、所望の範囲の共重合体主鎖中の3個のモノマー連鎖単位の割合を有する重量平均分子量(Mw)が5万〜100万、Mw/Mnが1.5〜3.8であるエチレン−プロピレン共重合体を一成分とした複合繊維が提案されている。さらに、特開2001−254256号公報では、鞘成分をMw/Mnが4.5以下、融点が130℃以下、平均溶出温度が60〜90℃、溶出分散度が20以下であるエチレン−プロピレン共重合体とし、芯成分をMw/Mnが1.5〜4.5のホモポリプロピレンとした熱接着性複合繊維が提案されている。
【0005】
また、鞘成分に2種類以上の樹脂を混合する提案がいくつかなされている。例えば、特開平6−184822号公報では、鞘成分に高密度ポリエチレンと少量のエチレン−プロピレン共重合体とを混合した熱接着性複合繊維を提案している。特開平6−116815号公報では、鞘成分をプロピレン系2元または三元共重合体と融点または軟化点が125〜60℃の少量の飽和炭化水素ワックスとを混合した熱接着性複合繊維を提案している。本出願人においても、特開2000−45125号公報では、鞘成分にエチレン含有量が7.0重量%以上のエチレン−プロピレン共重合体を20〜50重量%と、エチレン含有量3.0〜5.0重量%のエチレン−プロピレン共重合体を80〜50重量%との混合体からなる複合繊維を提案している。特開2000−110024号公報では、MFR4〜100のエチレン-プロピレン共重合体100重量部に対し、MFR4〜100のポリエチレンを0.5〜20重量部配合したポリプロピレン繊維を提案している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記複合繊維には以下の問題点が挙げられる。例えば、特開平4−73214号公報記載の複合繊維は、鞘成分/芯成分のMFR比を2〜10と大きくすることにより欠点を解消しようと試みているが、紡糸性、延伸性が悪く、製造工程中、特に紡糸工程時に繊維間融着を引き起こしたりする。特開平5−9810号公報では、芯成分と鞘成分の間に融点差を設けているため、145℃以上の熱風処理など高温加工には適しているが、145℃未満の熱処理において検討がなされておらず、選択されるプロピレン系共重合体は、エチレン含有量の比較的少ない樹脂を用いており、しかも紡糸ドラフトや延伸ドラフトが加わることで、結晶化が進み高結晶となり、低温接着性に有利である低結晶成分が少なく、低温接着性は十分とはいえない。特開平6−108310号公報および特表2001−502388号公報では、融点の低い樹脂を採用し、延伸倍率を低く抑えて芯成分と鞘成分に温度差を設けようと試みているが、融点の低いプロピレン系共重合体は繊維間融着を引き起こし易く、延伸倍率を低く抑えるため、伸度が大きくなり繊維にコシがなく、カード通過性に劣る。
【0007】
WO98/23799公報、特開平10−298824号公報、および特開2001−254256号公報で用いられているエチレン−プロピレン共重合体は、いずれもメタロセン触媒を用いて重合されたものであり、紡糸安定性に優れ、低融点であるので、低温での熱接着性に優れるものの、低結晶成分が極端に少ないため、チーグラー−ナッタ触媒を用いて重合されたエチレン−プロピレン共重合体独特のゴム的性質が失われ、得られる不織布の触感が柔軟とはいえない。
【0008】
また、特開平6-184822号公報では、高密度ポリエチレンに少量のエチレン−プロピレン共重合体を混合することにより、鞘の融点を上昇させ、圧着時の樹脂の広がりを抑制して、熱ロール時の穴開き現象の発生を抑制することができるが、高密度ポリエチレンが主体であるため、鞘成分と芯成分との相溶性は良好とはいえず、鞘芯間剥離が生じて接着強力は十分とはいえない。特開平6−116815号公報では、分子量が8000以下の飽和炭化水素ワックスを混合するため、低温接着性に優れるものの、紡糸時の発煙し、作業環境面で悪影響を及ぼすだけでなく、熱劣化によりノズル口金へ分解物が付着し、長期生産性に劣るという問題を含んでいる。さらに、繊維形成後も経時的にワックス成分がブリードアウトする恐れがあり、最終製品に悪影響を及ぼす恐れがある。特開2000−45125号公報では、面反発性やクッション性には効果があるが、低温での熱接着性、柔軟性においては十分とはいえなかった。特開2000−110024号公報では、ポリエチレンを少量配合することにより低温でのヒートシール性を向上させているが、エチレン−プロピレン共重合体とポリエチレンとは、相溶性が悪く、安定した紡糸性が得られない。さらに、相溶性が悪いため、熱接着強力がばらつき安定した不織布強力が得られない。
【0009】
本発明の目的は、上記の観点から、紡糸時の融着など繊維生産性、ならびにカード通過性など不織布生産性に優れ、低温熱接着性に優れるとともに、触感がべたつき感の少ない柔軟な不織布あるいは合繊紙を得るのに好適な熱接着性複合繊維と、これを用いた不織布および合繊紙を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題につき鋭意検討した結果、エチレン成分を多く含み、比較的高分子量である低結晶成分を多く含有するエチレン−プロピレン共重合体を少なくとも繊維表面の一部に露出するように配置させることにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明の熱接着性複合繊維は、エチレン含有量が5wt%以上、15wt%以下であり、温度上昇溶離分別(TREF)により測定される温度40℃における溶出成分の溶出量が14wt%以上であり、前記溶出成分に占めるエチレン成分の割合が10wt%以上、前記溶出成分の重量平均分子量(Mw)が10万以上であるエチレン−プロピレン共重合体を少なくとも70wt%含む繊維形成性樹脂を第一成分とし、融点が前記エチレン−プロピレン共重合体の融点より10℃以上高いオレフィン系重合体またはその共重合体を第二成分とし、第一成分が繊維表面の少なくとも一部に露出するように複合紡糸されて、延伸されてなる熱接着性複合繊維である。
【0011】
前記エチレン−プロピレン共重合体の融点は、130℃を超え、140℃以下であることが好ましい。また、前記エチレン−プロピレン共重合体における重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、3以下であることが好ましい。
【0012】
前記第二成分のオレフィン系重合体は、結晶性ポリプロピレンであると、第一成分と同質の樹脂で構成され、鞘芯間剥離を抑えることができ、好ましい。
【0013】
本発明の熱接着性複合繊維は、エチレン含有量が5wt%以上、15wt%以下であり、温度上昇溶離分別(TREF)により測定される温度40℃における溶出成分の溶出量が14wt%以上であり、前記溶出成分に占めるエチレン成分の割合が10wt%以上、前記溶出成分の重量平均分子量(Mw)が10万以上であるエチレン−プロピレン共重合体を含む繊維形成性樹脂を第一成分とし、融点が前記エチレン−プロピレン共重合体の融点より10℃以上高いオレフィン系重合体またはその共重合体を第二成分とし、第一成分が繊維表面の少なくとも一部に露出するように複合紡糸されてなる。
【0014】
本発明の不織布は、前記熱接着性複合繊維を少なくとも10mass%含有し、熱接着性複合繊維の少なくとも一部が溶融し、熱接着されており、熱接着強力に優れるとともに、柔軟な触感を有する。
【0015】
本発明の合繊紙は、前記熱接着性複合繊維を少なくとも10mass%含有し、熱接着性複合繊維の少なくとも一部が溶融し、熱接着されており、熱接着強力および低温ヒートシール強力に優れる。
【0016】
前記不織布あるいは前記合繊紙は、実用的な強力および柔軟な触感を有するので、衛生材料、包装材、フィルター、ウェットティッシュ、ワイパー、電池セパレーター、ヒートシール紙等に好適である。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の熱接着性複合繊維において、第一成分に含まれるエチレン−プロピレン共重合体は、エチレン含有量5wt%以上、15wt%以下の範囲のものを用いる。好ましいエチレン含有量の下限は6wt%以上である。好ましいエチレン含有量の上限は10wt%以下である。エチレン含有量が5wt%未満であると、融点が高くなる傾向であり、低温での熱接着性に劣り、不織布製造時の熱接着加工温度の範囲が狭くなる恐れがある。エチレン含有量が15wt%を超えると、繊維製造時に繊維間融着が生じる恐れがあり、また軟化点や融点が低くなりすぎて、不織布製造時に繊維ウェブを集積するネットへ溶融した樹脂が付着したり、あるいは熱ロール処理においては、ロールへの粘着が発生するなど工程性が低下する傾向にある。
【0018】
前記エチレン−プロピレン共重合体において、温度上昇溶離分別(TREF)により測定される温度40℃における溶出成分の溶出量は、14wt%以上とする必要がある。好ましい溶出量の下限は、16wt%以上である。好ましい溶出量の上限は、20wt%以下である。TREFによる40℃での溶出成分は、エチレン−プロピレン共重合体の結晶性を示すパラメーターであり、低結晶成分であるほど低温で溶出される。そして、前記溶出量は、値が大きいほど低結晶成分がポリマーに占める割合が多いことを示す。溶出量が14wt%未満であると、低結晶成分が少なく、紡糸ドラフトや延伸ドラフトが加わることで、結晶化が進み高結晶となり、低温での熱接着性に劣る傾向にある。溶出量があまり大きすぎると、低結晶成分が多くなりすぎて、繊維自体のコシがなくなるため、不織布製造時のカード通過性などに劣る傾向にある。
【0019】
前記温度上昇溶離分別(TREF:Temperature Rising Elution Fraction)は、下記により測定することができる。
[温度上昇溶離分別(TREF)]
カラムを装着したクロス分別装置に、ポリマーを下記の溶媒に完全に溶解させて供給した後に、所定の冷却速度で0℃まで冷却し、不活性坦体表面に薄いポリマー層を生成させる。次に、所定の温度で連続的に40℃まで昇温し、40℃までに溶出した成分(溶出成分)を回収し、溶出成分の重量を測定し、溶出量とした。
なお、温度上昇溶離分別(TREF)の詳細については、Journal of Applied Polymer Science 第26巻、第4217〜4231頁(1981年)に記載されている。
【0020】
前記溶出成分に占めるエチレン成分の割合(溶出エチレン含有量)は、10wt%以上とする必要がある。好ましい溶出エチレン含有量の下限は、11wt%以上である。好ましい溶出エチレン含有量の上限は、16wt%以下である。溶出エチレン含有量は、値が大きいほど、低温での熱接着性に寄与するエチレン成分を多く含み、ゴム的性質が強くなる傾向であり、柔軟性も高くなる傾向である。溶出エチレン含有量が10wt%未満であると、低温での熱接着性に劣る傾向にある。溶出エチレン含有量があまり大きすぎると、ゴム的性質が強くなりすぎて、紡糸時に融着を引き起こすなどの繊維生産性や、繊維自体のコシがなくなりカード通過性など不織布生産性にも影響を及ぼし、触感もべたつき感が強くなる傾向にある。
【0021】
前記エチレン含有量および前記溶出成分に占めるエチレン成分の割合は、エチレン−プロピレン共重合体および溶出成分のIRスペクトルにおける730cm-1のエチレンピークから算出することができる。
【0022】
前記溶出成分における重量平均分子量(Mw)は、10万以上とする必要がある。好ましいMwの下限は、10.5万以上である。好ましいMwの上限は、15万以下である。溶出成分における重量平均分子量(Mw)は、値が大きいほど、低結晶成分の重合度が大きいことを示し、エチレン−プロピレン共重合体特有のゴム的性質や紡糸時の融着が抑制される傾向にある。Mwが10万未満であると、紡糸時に融着を引き起こすなどの繊維生産性やカード通過性など不織布生産性に劣り、触感もべたつき感が強くなる傾向にある。Mwがあまりに大きすぎると、低温での熱接着性や不織布の柔軟性に劣る傾向にある。
【0023】
前記溶出成分における重量平均分子量(Mw)は、溶出成分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0024】
本発明の熱接着性複合繊維に用いられるエチレン−プロピレン共重合体は、TREFによる前記溶出成分において溶出量、エチレン含有量、重量平均分子量(Mw)をすべて満足するものが、紡糸時の融着など繊維生産性、ならびにカード通過性など不織布生産性に優れ、低温での熱接着性に優れるとともに、触感がべたつき感の少ない柔軟な不織布あるいは合繊紙を得るのに好適な熱接着性複合繊維となる。上記を満たすエチレン−プロピレン共重合体としては、例えば、サンアロマ−(株)製のPM940M(溶出量約18wt%、エチレン含有量約14wt%、Mw約12万)等がある。
【0025】
前記エチレン−プロピレン共重合体の融点は、130℃を超え、140℃以下であることが好ましい。より好ましい融点の下限は、132℃以上である。なお、融点は、JIS−K−7122に準じてDSC法により測定される。融点が130℃を下回ると、軟化点が低くなりすぎて紡糸時に融着が生じる恐れがあり、また得られる繊維自体もコシがなく、ゴム的性質が強くなりすぎるため、不織布製造時のカード通過性に劣る傾向にある。融点が140℃を超えると、低温での熱接着性に劣り、第二成分をプロピレン系重合体としたとき、融点差が小さく、不織布製造時の熱接着加工温度の範囲が狭くなり、加工温度の管理が困難となるだけでなく、第二成分も熱の影響を受けて風合いが硬くなる恐れがある。
【0026】
前記エチレン−プロピレン共重合体におけるASTM−D−1238に準ずるメルトフローレート(MFR、温度230℃、荷重21.2N(2.16kgf))は、1g/10min以上、100g/10min以下の範囲であることが好ましい。より好ましいMFRの下限は、10g/10min以上である。より好ましいMFRの上限は、50g/10min以上である。MFRが1g/10min未満であると、エチレン−プロピレン共重合体の分子量が大きすぎるため溶融粘度が低くなり、紡糸時の糸切れなどの問題を発生しやすい。一方、MFRが100g/10minを超えると、エチレン−プロピレン共重合体の分子量が小さすぎるため、紡糸時の融着が生じる恐れがあり、また繊維自体のコシのなくなり、不織布製造時のカード通過性が劣る傾向にある。
【0027】
前記エチレン−プロピレン共重合体における重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、3以下であることが好ましい。Mw/Mnを3以下とすることにより、紡糸性が良好となる傾向にあり、好ましい。
【0028】
本発明の熱接着性複合繊維において、第一成分は前記エチレン−プロピレン共重合体主体で構成することが好ましく、第一成分に少なくとも70wt%含有することがより好ましい。さらに好ましくは、80wt%以上含有することである。そして、前記エチレン−プロピレン共重合体による低温での熱接着性や触感を阻害しない範囲で、他の樹脂、例えば、前記溶出成分を含有しないエチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのオレフィン系重合体またはその共重合体を混合することができる。
【0029】
さらに、前記第一成分には、繊維生産性、不織布生産性、および低温での熱接着性、触感を阻害しない範囲であれば、無機物(例えば、炭酸カルシウム、タルク等)等の公知の結晶核剤を10mass%以下で混合してもよい。結晶核剤を混合すると、繊維製造時の繊維間融着を防止する効果をさらに向上させることができ、また、触感の柔らかい不織布を得ることができるという利点がもたらされる。また、第一成分には、必要に応じてその他の添加剤、例えば、帯電防止剤、顔料、艶消し剤、熱安定剤、光安定剤、難燃材、抗菌剤、滑剤、可塑剤、柔軟剤等を用途等に応じて混合することができる。
【0030】
次に、本発明の熱接着性複合繊維における第二成分は、第一成分における前記エチレン−プロピレン共重合体の融点よりも10℃以上高い融点を有するオレフィン系重合体またはその共重合体が用いられる。好ましくは、エチレン−プロピレン共重合体の融点よりも20℃以上高い融点を有するオレフィン系重合体またはその共重合体である。第二成分が第一成分におけるエチレン−プロピレン共重合体の融点との差が10℃未満であると、不織布製造時の熱接着加工温度の範囲が狭くなり、加工温度の管理が困難となるだけでなく、第二成分も熱の影響を受けて風合いが硬くなる恐れがある。
【0031】
上記範囲を満たすオレフィン系重合体またはその共重合体としては、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、エチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられ、なかでも、結晶性ポリプロピレンは、第一成分に含まれるエチレン−プロピレン共重合体と同質であり相溶性がよく、成分間で剥離が生じにくく、熱接着性に優れ、好ましい。
【0032】
前記第二成分もまた、必要に応じて各種の添加剤を含んでよい。具体的には、帯電防止剤、顔料、艶消し剤、熱安定剤、光安定剤、難燃材、抗菌剤、滑剤、可塑剤、柔軟剤等を含んでよい。
【0033】
次に、本発明の熱接着性複合繊維は、前記第一成分および第二成分で構成され、第一成分が繊維表面の少なくとも一部に露出するように配置される。ここで、「第一成分が繊維表面の少なくとも一部に露出する」とは、繊維断面の周の少なくとも一部を第一成分が占めていることをいう。本発明の熱接着性複合繊維において、第一成分は、好ましくは繊維断面の周の20%以上、100%以下、より好ましくは、50%以上、100%以下を占め、もっとも好ましくは、100%を占める。
【0034】
前記構造を有する複合繊維としては、例えば、同心円状あるいは偏心状に配置された鞘芯型複合繊維、並列型複合繊維、分割型複合繊維、海島型複合繊維等がある。本発明の熱接着性複合繊維の繊維断面形状は、円状、異形状、中空状のいずれであってもよい。特に、同心円状に配置された鞘芯型複合繊維は、熱接着加工したときの熱接着点が多く、熱接着能を十分に発揮することができるので都合がよい。
【0035】
前記第一成分/前記第二成分の複合比(容積比)は、8/2〜2/8であることが好ましい。より好ましくは7/3〜3/7である。複合比が8/2を超えると、熱収縮が大きくなる恐れがある。複合比が2/8未満であると、この繊維を用いて熱接着不織布を製造した場合、十分な不織布強力を有する不織布を得ることができない恐れがある。
【0036】
本発明の熱接着性複合繊維の繊度は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、衛生材料、ウェットティッシュ等の低目付の不織布(約10〜80g/m2)を製造する場合であれば、触感のよい不織布が得られるよう熱接着性複合繊維の繊度は、0.5dtex以上、4dtex以下の範囲であることが好ましい。
【0037】
次に、本発明の熱接着性複合繊維の製造方法について説明する。まず、第一成分として、エチレン含有量が5wt%以上、15wt%以下であり、温度上昇溶離分別(TREF)により測定される温度40℃における溶出成分の溶出量が14wt%以上であり、前記溶出成分に占めるエチレン成分の割合が10wt%以上、前記溶出成分の重量平均分子量(Mw)が10万以上であるエチレン−プロピレン共重合体を一種または複数種用意し、必要に応じて他の樹脂あるいは結晶核剤や添加剤を混合して第一成分の原料樹脂とする。第二成分として、融点が前記エチレン−プロピレン共重合体の融点より10℃以上高いオレフィン系重合体またはその共重合体を用意する。
【0038】
前記第一成分および第二成分を公知の溶融紡糸機を用いて溶融紡糸し、繊度1dtex以上、75dtexの範囲の紡糸フィラメントを作製する。例えば、紡糸温度200℃以上、350℃以下の範囲で押し出し、引取速度100m/min以上、1500m/min以下の範囲で溶融紡糸するとよい。第一成分の紡糸温度が200℃未満であると、溶融した樹脂の溶融粘度が高いために糸切れが発生しやすい。第一成分の紡糸温度が350℃を超えると、溶融粘度が低いために紡糸フィラメント同士が融着しやすく、また樹脂の熱分解により紡糸性が低下する。第一成分の好ましい紡糸温度は、230℃以上、300℃以下の範囲である。一方、第二成分として結晶性ポリプロピレンを用いた場合、好ましい紡糸温度は、230℃以上、300℃以下の範囲である。
【0039】
前記紡糸フィラメントにおける引取繊度は、1dtex以上、75dtexの範囲であることが好ましい。紡糸フィラメントの引取繊度が1dtex未満であると、糸切れ等が生じて繊維生産性が低下する。紡糸フィラメントの引取繊度が75dtexを超えると、繊度の小さい熱接着性複合繊維を得ることが困難となる。本発明の熱接着性複合繊維で不織布を形成する場合、不織布の風合いを良好なものとするためには、紡糸フィラメントの引取繊度を3dtex以上、20dtex以下の範囲とすることが好ましい。
【0040】
次いで、紡糸フィラメントを公知の延伸処理機を用いて延伸処理して、延伸フィラメントを得る。延伸処理は、延伸温度を30℃以上、95℃以下の範囲とし、延伸倍率を2.5倍以上、5倍以下の範囲で実施することが好ましい。より好ましい延伸倍率の下限は、3倍以上である。より好ましい延伸倍率の上限は、4.5倍以下である。前記エチレン-プロピレン共重合体は、重量平均分子量の比較的大きい低結晶成分を多く含有するので、延伸倍率を2.5倍未満の低延伸処理により結晶化を抑制させずとも、低温での熱接着性に寄与する低結晶成分を含有させることができる。延伸倍率が2.5倍未満であると、得られる繊維自体にコシがなく、低強度高伸度の繊維となる傾向であり、カード通過性が不十分となる恐れがあるだけでなく、不織布強力が低下することがある。延伸倍率が5倍を超えると、エチレン−プロピレン共重合体の結晶化が進み、低温での熱接着性が低下する恐れがある。延伸方法は、温水または熱水中で実施する湿式延伸法、または乾式延伸法のいずれであってもよい。
【0041】
本発明の熱接着性複合繊維の製造過程においては、延伸処理の前、延伸処理の間、または延伸処理の後のいずれかの段階で、60℃以上、120℃以下の範囲の温度でアニーリング処理を施すことが好ましい。アニーリング処理は、乾熱、湿熱、または蒸熱を用いて、緊張状態あるいは弛緩状態で実施される。アニーリング処理は、繊維の結晶性を高めて繊維にコシを付与し、不織布製造時のカード通過性等の向上に寄与する。ここでも前記エチレン−プロピレン共重合体であれば、重量平均分子量の比較的大きい低結晶成分を多く含有するので、低温熱接着性が阻害されない程度の結晶化が可能となる。また、アニーリング処理の条件によって、不織布の風合いを調整することが可能である。
【0042】
例えば、得られた延伸フィラメントを、ステープル繊維、あるいはエアレイ用短繊維の形態で得ようとする場合、得られた延伸フィラメントには、必要に応じて、所定量の繊維処理剤を付着させ、クリンパー(捲縮付与装置)で捲縮を与える。捲縮付与後のフィラメントに60℃以上、120℃以下の範囲の温度で数秒から約30分間、アニーリング処理を施す。繊維処理剤を付着させた後でアニーリング処理を実施する場合、アニーリング処理温度を80℃以上、115℃以下の範囲とし、処理時間を5分以上として、アニーリング処理を実施すると同時に繊維処理剤を乾燥させることがより好ましい。アニーリング処理の温度を低く設定することにより、不織布強力の高い不織布を得ることができ、アニーリング処理の温度を高く設定することにより、風合いが柔軟な不織布を得ることができる。アニーリング処理終了後、フィラメントは用途等に応じて所定の長さにカットされる。ステープル繊維であれば、30mm以上、100mm以下の範囲であることが好ましい。エアレイ用短繊維であれば、1mm以上、50mm以下の範囲であることが好ましい。
【0043】
本発明の熱接着性複合繊維を合繊紙用短繊維として用いる場合、所定量の繊維処理剤を付着させ、用途等に応じて2mm以上、20mm以下の長さにカットし、水分率を0〜50mass%に調整するとよい。合繊紙用短繊維は、合繊紙の紙強力およびヒートシール強力を高くするために、延伸処理後にアニーリング処理を施さずに製造することが好ましい。したがって、合繊紙用短繊維の水分率を小さくするまたは0%とする場合には、できるだけ低温で乾燥処理を実施することが好ましい。
このようにして得られる本発明の熱接着性複合繊維は、例えば、本発明の不織布または合繊紙を製造するために用いることができる。
【0044】
続いて、本発明の不織布を、その製造方法とともに説明する。本発明の不織布は、前記熱接着性複合繊維を少なくとも10mass%含有するように繊維ウェブを作製し、繊維ウェブを熱処理し、熱接着性複合繊維の表面の少なくとも一部(すなわち第一成分)を溶融させて繊維間を熱接着させることにより得ることができる。本発明の不織布は、前記熱接着性複合繊維を熱接着成分として前記エチレン−プロピレン共重合体を使用しているので、低温での熱接着性に優れており、熱接着加工温度の範囲が広く、低温で熱処理を行っても優れた熱接着強力を有している。さらに、第二成分(芯成分)の融点よりも十分に低い温度で繊維間を熱接着し得るから、第二成分の溶融または軟化に起因する不織布の柔軟性の低下が生じないので、柔軟性を維持しつつ、べたつき感が低減された触感を有し、実用的な強力と柔軟な触感を両立するさせることができる。
【0045】
本発明の不織布には、前記熱接着性複合繊維以外に他の繊維を混綿、積層してもよく、例えば、コットン、シルク、ウール、麻、パルプなどの天然繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系などの合成繊維から1種または複数種の繊維を用途などに応じて選択するとよい。なかでも、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、あるいはエチレン−ブテン−プロピレン三元共重合体等からなるポリオレフィン系繊維と組み合わせて不織布を製造するのに適しており、特に、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、あるいはエチレン−ブテン−プロピレン三元共重合体等からなるポリプロピレン系繊維と良好に接着する。本発明の不織布を前記熱接着性複合繊維のみで構成してもよいことはいうまでもない。
【0046】
本発明の不織布を製造するに際して、繊維ウェブの形態は特に限定されず、ステープル繊維からなるパラレルウェブ、セミランダムウェブ、ランダムウェブ、クロスウェブ、クリスクロスウェブなどのカードウェブ、短繊維を湿式抄紙した湿式ウェブ、短繊維からなるエアレイウェブ、長繊維からなるスパンボンドウェブ、あるいはメルトブローウェブなどから目的に応じて任意に選択することができる。繊維ウェブは、異なる種類の繊維ウェブを2種類以上積層してもよい。不織布の柔軟性をより重視する場合には、ステープル繊維からなるカードウェブを用いて不織布を製造することが好ましい。また、繊維間を絡合させるために、繊維ウェブには、必要に応じて熱処理前および/または熱処理後にニードルパンチ処理や水流交絡処理等の二次加工を施してもよい。
【0047】
繊維ウェブを形成した後、繊維ウェブに公知の熱処理手段により熱処理を施し、熱接着性複合繊維の少なくとも一部を溶融させて熱接着する。熱処理手段としては、熱風吹き付け法および熱圧着法から選ばれた少なくとも1種の熱処理方法を用いることが好ましい。特に、エンボスロールを用いた熱圧着法は、より低温で熱接着でき、また圧接面積が小さいので、不織布の柔軟性を重視する場合には好ましい熱処理手段である。
【0048】
前記熱処理方法における熱処理温度等の熱処理条件は、採用する熱処理方法に応じて適宜設定される。例えば、熱風吹き付け法(エアースルー法)を採用する場合、熱処理温度は、第一成分におけるエチレン−プロピレン共重合体の融点以上であり、第二成分の融点未満、好ましくは第二成分の融点より10℃低い温度以下の範囲に設定するとよい。熱処理温度は、エチレン−プロピレン共重合体の融点未満であると、十分な熱接着強力が得られず、第二成分の融点を超えると、不織布の柔軟性を損なうからである。
【0049】
エンボスロールを用いた熱圧着法(エンボス法)を採用する場合、ロール間の圧力(線圧)は、150N/cm以上、1500N/cm以下の範囲であることが好ましい。線圧が150N/cm未満であると、熱接着が不十分となり、不織布強力が低下する恐れがある。線圧が1500N/cmを超えると、エンボス部分において穴開き(ピンホール)が発生し、不織布の外観を損なう恐れがある。
【0050】
前記エンボスロールを用いた熱圧着法におけるロール温度(T℃)は、第一成分におけるエチレン−プロピレン共重合体の融点−20(℃)≦T(℃)<第二成分の融点−15(℃)であることが好ましい。より好ましくは、エチレン−プロピレン共重合体の融点−15(℃)≦T(℃)<第二成分の融点−25(℃)の範囲である。ロール温度がエチレン−プロピレン共重合体の融点−20(℃)未満であると、十分な熱接着強力が得られず、第二成分の融点−15(℃)を超えると、不織布の柔軟性を損なうからである。
【0051】
本発明の合繊紙は、前記熱接着性複合繊維を少なくとも10mass%含有する湿式ウェブを熱処理し、熱接着性複合繊維の表面の少なくとも一部(すなわち第一成分)を溶融させて繊維間を熱接着させることにより得ることができる。熱処理は、第一成分におけるエチレン−プロピレン共重合体の融点以上、第二成分の融点−10(℃)未満の範囲で実施される。
【0052】
本発明の合繊紙には、前記熱接着性複合繊維以外に他の繊維を混綿、積層してもよく、例えば、麻、パルプなどの天然繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アクリル系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系などの合成繊維から1種または複数種の繊維を用途などに応じて選択するとよい。本発明の合繊紙は、前記熱接着性複合繊維のみからなるものであってもよい。
【0053】
本発明の合繊紙は、優れたヒートシール性を有するから、ヒートシール紙として用いることができる。ヒートシール紙を用いれば、接合部を有する製品(例えば、ティーバッグや水切りパックなど)をヒートシール処理によって接合部を形成することにより製造できる。そのような製品(例えばティーバッグ)は、上記の方法で得た合繊紙を所望の形状(例えば袋状)に整えた後、ヒートシール機でヒートシール処理を施して接合部を形成することにより製造される。ヒートシール機は、公知のものであってよく、例えば熱ロールタイプ、スタンプタイプなどが使用される。ヒートシール温度は、第一成分におけるエチレン−プロピレン共重合体の融点−20(℃)以上、第二成分の融点+40(℃)未満の範囲とすることが好ましい。
【0054】
本発明の不織布および合繊紙は、実用的な強力及び柔軟でべたつき感の少ない触感を有するから、衛生材料、包装材、フィルター、ウェットティッシュ、ワイパー、電池セパレーター、ヒートシール紙等の用途に好適である。
【0055】
【実施例】
以下、本発明の内容について実施例を挙げて具体的に説明する。なお、単繊維強伸度、不織布の比容積、引張強力、破断伸度、ドレープ係数は、以下のように測定した。
【0056】
[単繊維強伸度]
JIS−L−1015に準じ、引張試験機を用いて、試料のつかみ間隔を20mmとしたときの繊維切断時の荷重値および伸びを測定し、それぞれ単繊維強力、単繊維伸度とした。
【0057】
[不織布の比容積]
厚み測定機((株)大栄科学精機製作所製、THICKNESS GAUGEモデルCR−60A)を用い、試料1cm2あたり29.4mNの荷重を加えた状態で、不織布の厚みを測定し、不織布の厚みと不織布の目付から比容積を算出した。
【0058】
[不織布の引張強力、破断伸度]
JIS−L−1096に準じ、幅5cm、長さ15cmの試料片をつかみ間隔10cmで把持し、定速伸長型引張試験機を用いて引張速度30cm/minで伸長し、切断時の荷重値および伸長率をそれぞれ引張強力、破断伸度とした。なお、試料片は不織布の幅方向(CD方向)が試料片の長さ方向になるよう作製した。
【0059】
[不織布のドレープ係数]
JIS−L−1096−6.19.7法(ドレープ係数)に準じて測定した。
【0060】
[実施例1]
同心円状芯鞘型複合ノズルを用いて、鞘成分(第1成分)として融点が138℃、エチレン含有量が7wt%、温度上昇溶離分別(TREF)により測定される温度40℃における溶出成分の溶出量が17.8wt%、前記溶出成分に占めるエチレン成分の割合が14wt%、前記溶出成分における重量平均分子量(Mw)が118000、MFRが35g/10min、Mw/Mnが2.8のエチレン−プロピレン共重合体(サンアロマ−(株)製、PM940M)を用い、芯成分(第2成分)として融点165℃の結晶性ポリプロピレン(日本ポリケム(株)製、SA03A)を用い、第1成分/第2成分の複合比(容積比)を5/5として、鞘成分の紡糸温度を250℃、芯成分の紡糸温度を270℃で溶融押出し、5.6dtexの紡糸フィラメントを得た。これを90℃の温水中で3.3倍に延伸し、2dtexの延伸フィラメントとし、繊維処理剤を付与した。次いで、このフィラメントにスタッフィングボックス型クリンパーにて機械的捲縮を施した後、100℃に設定した熱風貫通型乾燥機にて約15分間、弛緩した状態でアニーリング処理と乾燥処理を同時に施し、それからフィラメントを38mmの繊維長に切断して本発明の熱接着性複合ステープル繊維を得た。
【0061】
得られたステープル繊維を用い、パラレルカードにて目付約25g/m2の繊維ウェブを作製した。次いで、このウェブに熱圧着処理を施して不織布を得た。熱圧着処理は、エンボスパターンを円形、エンボス面積を20%、エンボスロール/フラットロール間の線圧を500N/cmに設定して実施した。本実施例では、加工温度を、126℃、128℃、130℃、および引張強力が7.8N/5cmである不織布を得るのに必要な温度(133℃)に設定して、4種類の本発明の不織布を得た。
【0062】
[実施例2]
第1成分/第2成分の複合比(容積比)=4/6とした以外は、実施例1と同様の方法で本発明の熱接着性複合ステープル繊維および不織布を得た。引張強力が7.8N/5cmである不織布を得るのに必要な加工温度は131℃であった。
【0063】
[比較例1]
鞘成分として融点が140℃、エチレン含有量が4.4wt%、温度上昇溶離分別(TREF)により測定される温度40℃における溶出成分の溶出量が11.9wt%、前記溶出成分に占めるエチレン成分の割合が11.1wt%、前記溶出成分における重量平均分子量(Mw)が97000、MFRが25g/10min、Mw/Mnが3.9のエチレン−プロピレン共重合体(出光石油化学(株)製、Y2045GP)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で熱接着性複合繊維および不織布を得た。引張強力が7.8N/5cmである不織布を得るのに必要な加工温度は139℃であった。
【0064】
[比較例2]
鞘成分として融点が143℃、エチレン含有量が4.3wt%、温度上昇溶離分別(TREF)により測定される温度40℃における溶出成分の溶出量が14.5wt%、前記溶出成分に占めるエチレン成分の割合が9.1wt%、前記溶出成分における重量平均分子量(Mw)が126000、MFRが18g/10min、Mw/Mnが3.5のエチレン−プロピレン共重合体(日本ポリケム(株)製、SX02R)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で熱接着性複合繊維および不織布を得た。引張強力が7.8N/5cmである不織布を得るのに必要な加工温度は141℃であった。
【0065】
実施例1〜2、および比較例1〜2の熱接着性複合繊維、ならびこれを用いた不織布の性能を表1に示す。なお、不織布のドレープ係数は、引張強力が7.8N/5cmである不織布について測定した。
【0066】
【表1】
【0067】
本発明の熱接着性複合繊維に相当する実施例1および2のステープル繊維は、繊維製造時に紡糸での融着や糸切れなどもなく生産性に優れていた。本発明の不織布に相当する実施例1および2の不織布は、不織布製造時のカード通過性も問題なく、生産性に優れていた。また、実施例1および2の不織布は、いずれも同じ加工温度で得た比較例1および2の不織布に比べ、高い引張強力を有していた。引張強力が同一となるように不織布を作製したところ、各実施例は、各比較例に比べ低い加工温度で所定の引張強力を有する不織布を得ることができた。さらに、上記低温で接着できたことと、適度なゴム的性質を有するため、比較例の不織布よりも柔軟(すなわち、ドレープ係数が小さい)なものであった。
【0068】
[実施例3]
実施例1と同様にして紡糸フィラメントを作製し、延伸した後、繊維処理剤を付着させて5mmにカットして本発明の熱接着性複合短繊維を得た。この短繊維とNBKP(パルプ)とを質量比5:5で混抄して湿式ウェブを作製し、シリンダードライヤーで145℃で30秒間熱処理を施して、目付30g/m2の本発明の合繊紙を得た。
【0069】
[比較例3]
比較例1と同様にして紡糸フィラメントを作製し、延伸した後、繊維処理剤を付着させて5mmにカットして熱接着性複合短繊維を得た。この短繊維を用いた以外は、実施例3と同様の方法で目付30g/m2の合繊紙を得た。
【0070】
[比較例4]
比較例2と同様にして紡糸フィラメントを作製し、延伸した後、繊維処理剤を付着させて5mmにカットして熱接着性複合短繊維を得た。この短繊維を用いた以外は、実施例3と同様の方法で目付30g/m2の合繊紙を得た。
【0071】
実施例3、比較例3〜4の合繊紙におけるヒートシール性を以下の方法で評価した。
[ヒートシール条件]
幅30mm、長さ70mmの合繊紙を2枚準備し、2枚の合繊紙を重ね合わせ、幅5mmのスタンプタイプのヒートシール機(テスター産業(株)製、TP701−13 ヒートシールテスター)を用いて、合繊紙の一端から50mmの位置を温度130℃、圧力1kg/cm2、1秒間処理して、ヒートシール処理を施し、ヒートシール部を形成した。
【0072】
[剥離強力]
2枚の合繊紙のヒートシール部から50mm離れた側の端部を開き、幅30mm、つかみ間隔100mmで把持し、定速伸長型引張試験機を用い、引張速度100mm/minで伸長し、切断時の荷重値を剥離強力とした。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、本発明の合繊紙に相当する実施例3は、ヒートシール部の剥離強力が大きく、優れたヒートシール性を有していた。
【0075】
さらに、本発明の合繊紙に形成したヒートシール部の強度を調べるために、以下の試験を行った。まず、実施例3および比較例3で得た合繊紙をたて50mm、よこ50mmの正方形に切断した。正方形に切断した合繊紙を2枚重ね合わせ、3辺を前記ヒートシール機を用いて、温度130℃、圧力1kg/cm2、1秒間処理して、ヒートシール処理を施し、袋状とした。次いで、茶葉を約3gをこの袋に投入した後、残りの1辺を前記条件でヒートシール処理を施して、ティーバッグを作製した。
【0076】
得られたティーバッグを沸騰したやかんに投入し、約10分間煮詰めた。その結果、実施例3で得た合繊紙で作製したティーバッグは何ら変化が認められなかったものの、比較例3で得た合繊紙で作製したティーバッグは、ヒートシール部が破れて袋から茶葉が漏出した。
【0077】
【発明の効果】
本発明の熱接着性複合繊維は、特定のエチレン−プロピレン共重合体を少なくとも繊維表面の一部に露出するように配置することにより、広い温度範囲で熱接着能を発揮し、従来の熱接着性複合繊維を使用する場合よりも低い熱接着加工温度で不織布を製造することができる。また、前記エチレン−プロピレン共重合体の持つべたつき感が少なく柔軟な触感と、低温での熱接着性とが相俟って、従来の熱接着不織布と比較して、同程度の強力であってもより柔軟な触感を有する不織布が得られる。また、この性質を利用すれば、低温ヒートシール性に優れた合繊紙を得ることができる。
【0078】
本発明の不織布は、前記熱接着性複合繊維を少なくとも10mass%含有し、熱接着性複合繊維の少なくとも一部が溶融し、熱接着されており、熱接着強力に優れるとともに、柔軟な触感を有する。本発明の合繊紙は、前記熱接着性複合繊維を少なくとも10mass%含有し、熱接着性複合繊維の少なくとも一部が溶融し、熱接着されており、熱接着強力および低温ヒートシール強力に優れる。前記不織布および合繊紙は、衛生材料、包装材、フィルター、ウェットティッシュ、ワイパー、電池セパレーター、ヒートシール紙等に好適である。
Claims (9)
- 下記に示すエチレン−プロピレン共重合体を含む繊維形成性樹脂を第一成分とし、融点が前記エチレン−プロピレン共重合体の融点より10℃以上高いオレフィン系重合体またはその共重合体を第二成分とし、第一成分が繊維表面の少なくとも一部に露出するように複合紡糸され、延伸されてなる熱接着性複合繊維。
(1)エチレン含有量が6wt%以上、15wt%以下。
(2)温度上昇溶離分別(TREF)により測定される温度40℃における溶出成分の溶出量が14wt%以上。
(3)前記溶出成分に占めるエチレン成分の割合が10wt%以上。
(4)前記溶出成分の重量平均分子量(Mw)が10万以上。
(5)第一成分にエチレン−プロピレン共重合体を少なくとも70wt%含有。 - エチレン−プロピレン共重合体の融点が130℃を超え、140℃以下である請求項1記載の熱接着性複合繊維。
- エチレン−プロピレン共重合体における重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が3以下である請求項1または2に記載の熱接着性複合繊維。
- 第二成分のオレフィン系重合体が結晶性ポリプロピレンである請求項1〜3のいずれかに記載の熱接着性複合繊維。
- 前記延伸における延伸倍率が3倍以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の熱接着性複合繊維。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の熱接着性複合繊維を少なくとも10mass%含有し、熱接着性複合繊維の少なくとも一部が溶融し、熱接着されてなる不織布。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の熱接着性複合繊維を少なくとも10mass%含有し、熱接着性複合繊維の少なくとも一部が溶融し、熱接着されてなる合繊紙。
- 下記に示すエチレン−プロピレン共重合体を含む繊維形成性樹脂を第一成分とし、融点が前記エチレン−プロピレン共重合体の融点より10℃以上高いオレフィン系重合体またはその共重合体を第二成分とし、第一成分が繊維表面の少なくとも一部に露出するように複合紡糸され、 3 倍以上に延伸処理されてなる熱接着性複合繊維の製造方法。
(1)エチレン含有量が6 wt %以上、15 wt %以下。
(2)温度上昇溶離分別(TREF)により測定される温度40℃における溶出成分の溶出量が14 wt %以上。
(3)前記溶出成分に占めるエチレン成分の割合が10 wt %以上。
(4)前記溶出成分の重量平均分子量(Mw)が10万以上。
(5)第一成分にエチレン−プロピレン共重合体を少なくとも70wt%含有。 - 前記延伸処理の前、延伸処理の間、または延伸処理の後のいずれかの段階で60℃以上120℃以下の範囲の温度でアニーリング処理を施す請求項8記載の熱接着性複合繊維の製造方法。
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