JP3788180B2 - 楽音合成方法、楽音合成装置および記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子楽器、アミューズメント機器(カラオケ、ゲーム機器)等、楽音を発生する装置に用いられる楽音合成装置等に関し、特にバイオリンやビオラ等、擦弦楽器のシミュレーションに用いて好適な楽音合成方法、楽音合成装置および記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、自然擦弦楽器の挙動を模擬して擦弦楽器音を合成する物理モデル音源が知られている(特公平7−23999等)。このような物理モデル音源においては、弓圧および弓と弦との相対速度に応じて弦の擦弦点に働く作用力あるいは弦の変位速度が設定される。その特性の一例を図3を流用し説明する。なお、同図は後述する実施形態において最終的な弦変位速度VFを算出するための過程で算出される弦変位速度VF0を示す図であるが、従来技術ではこの弦変位速度VF0がそのまま弦変位速度VFとして用いられていた。図においてFBVは静止摩擦限界速度であり、弓圧FBに応じて決定される。弓と弦との相対速度が±FBVの範囲においては、この相対速度に比例して擦弦点に働く弦変位速度VF0が設定される。一方、相対速度が±FBVの範囲外になると、動摩擦領域にはいり、作用力が低下する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、図3の特性に基づいて擦弦楽器音を合成すると、特に弓圧を大きくした時に、実際の自然擦弦楽器音との差が大きかった。
そこで、本発明者が検討した結果によれば、図3の特性では弦が弓の動きに追従する時間が長くなりすぎ、「弦が弓に引っかかる」ような感じが適切に表現できないのではないかと思われた。換言すれば、静止摩擦係数は擦弦状態・条件によって一定にはならないものと予測された。
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、リアリティの高い楽音信号を合成できる楽音合成方法、楽音合成装置および記録媒体を提供することを目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明にあっては、下記構成を具備することを特徴とする。なお、括弧内は例示である。
請求項1記載の楽音合成方法にあっては、波形信号(速度反射波VR1,VR2,速度進行波VP1,VP2)を遅延させつつ循環させる過程と、該波形信号を伝搬する途中で、該波形信号と励振信号(弦変位速度VF)とを合成し該波形信号を変化させる過程(加算器8,16)と、該波形信号を伝搬する途中の二箇所の値(VR1,VR2)を合成することによって比較信号(弦速度VS)を生成する過程(加算器18)と、第1の楽音パラメータ(弓速度VB)と該比較信号(弦速度VS)との差分に応じて差分信号(相対速度x)を生成する過程と、前記差分信号(相対速度x)に対して前記励振信号(弦変位速度VF)を略比例させる範囲を追従範囲(±FB)とし、第2の楽音パラメータ(弓圧FB)が大きくなるほど広くなるように該追従範囲(±FB)を定め、前記差分信号(相対速度x)の値が該追従範囲内(±FB)である場合に、前記差分信号(相対速度x)に対して前記励振信号(弦変位速度VF)を略比例させるように前記励振信号(弦変位速度VF)を決定する過程とを有し、前記差分信号(相対速度x)が前記追従範囲の境界値である時の「前記励振信号(弦変位速度VF)/前記差分信号」の絶対値よりも、「前記励振信号(弦変位速度VF)/前記差分信号」の絶対値が小となる範囲を、前記追従範囲内に設けたことを特徴とする。
また、請求項2記載の楽音合成方法にあっては、波形信号(速度反射波VR1,VR2,速度進行波VP1,VP2)を遅延させつつ循環させる過程と、該波形信号を伝搬する途中で、該波形信号と励振信号(弦変位速度VF)とを合成し該波形信号を変化させる過程(加算器8,16)と、該波形信号を伝搬する途中の二箇所の値(VR1,VR2)を合成することによって比較信号(弦速度VS)を生成する過程(加算器18)と、第1の楽音パラメータ(弓速度VB)と該比較信号(弦速度VS)との差分に応じて差分信号(相対速度x)を生成する過程と、前記差分信号(相対速度x)に対して前記励振信号(弦変位速度VF)を略比例させる範囲を追従範囲(±FB)とし、第2の楽音パラメータ(弓圧FB)が大きくなるほど広くなるように該追従範囲(±FB)を定め、前記差分信号(相対速度x)の値が該追従範囲内(±FB)である場合に、前記差分信号(相対速度x)に対して前記励振信号(弦変位速度VF)を略比例させるように前記励振信号(弦変位速度VF)を決定する過程とを有し、前記追従範囲内における前記励振信号(弦変位速度VF)の直線性またはランダム性は、前記第1または第2の楽音パラメータ(弓速度VBまたは弓圧FB)に応じて変化することを特徴とする。
また、請求項3記載の楽音合成装置にあっては、請求項1または2記載の楽音合成方法を実行することを特徴とする。
また、請求項4記載の記録媒体にあっては、請求項1または2記載の楽音合成方法を処理装置に実行させるプログラムを記憶したことを特徴とする。
【0005】
【発明の実施の形態】
1.実施形態の構成
1.1.全体構成
次に、本発明の一実施形態の電子擦弦楽器の構成を説明する。
まず、自然擦弦楽器においては、擦弦点に生じた弦変位によって、演奏者の指(またはナット)に向かう速度進行波VP1と、ブリッジに向かう速度進行波VP2とが生じる。前者の速度進行波VP1は演奏者の指によって反射され、速度反射波VR1として擦弦点に戻る。その間にある程度の遅延時間が生じるとともに波形が変形され、さらに反射される際に位相が反転する。図1において10は遅延回路、12はローパスフィルタ、14は乗算器であり、かかる現象をシミュレートする。すなわち、遅延回路10は速度進行波VP1を遅延時間DT1だけ遅延させる。ローパスフィルタ12は遅延された速度進行波VP1にフィルタリング処理を施し、乗算器14はこれに「−1」を乗算し、その結果を速度反射波VR1として出力する。
【0006】
これと同様に、ブリッジに向かう速度進行波VP2はブリッジにおいて反射され、速度反射波VR2として擦弦点に戻る。2は遅延回路、4はローパスフィルタ、6は乗算器であり、上記構成要素10,12,14と同様に、ブリッジから擦弦点に戻る速度反射波VR2を出力する。18は加算器であり、速度反射波VR1,VR2を加算する。この加算結果は、弓が弦に接触していないと仮定した時の弦速度VSに等しい。
【0007】
24は擦弦楽器を模した演奏操作子であり、演奏者の操作に基づいて楽音信号のピッチPT、弓速度VBおよび弓圧FBを楽音パラメータとして出力する。上記遅延回路2,10の遅延時間DT1,DT2の合計値は、このピッチPTに基づいて決定される。20は非線形回路であり、弦速度VS、弓速度VB、弓圧FBに基づいて、弦に付与される弦変位速度VFを出力する。
【0008】
16,8は加算器であり、速度反射波VR1,VR2に対して各々弦変位速度VFを加算し、その結果を新たな速度進行波VP2,VP1として出力する。22はミキサであり、上記速度反射波VR1,VR2および弦変位速度VFをミキシングする。26は楽音修飾部であり、このミキシング結果に対して各種の処理を施して最終的な楽音信号を合成する。この楽音修飾部26においては、例えば、ミキサ22のミキシング結果の信号に対して、自然擦弦楽器の共鳴部に対応する共鳴音付与処理が行われる。このようにして生成された楽音信号は、サウンドシステム27を介して発音される。
【0009】
1.2.非線形回路20の詳細構成
ここで、非線形回路20の詳細構成を図2を参照し説明する。
図において30は減算器であり、弦速度VSから弓速度VBを減算し、両者の相対速度xを出力する。32は絶対値テーブルであり、相対速度xの絶対値を出力する。36は関数テーブルであり、相対速度|x|に基づいて、図3(右半分の0≦xの領域のみ)に示す弦変位速度VF0を出力する。すなわち、従来技術と同様に静止摩擦係数が一定であると看做した場合の弦変位速度VF0が出力されることになる。なお、本実施形態においては、弓圧FBと静止摩擦限界速度FBVとが数値上で同値となるようにディメンジョンが調整されているため、弓圧FBはそのまま限界速度FBVとして用いられる。この相対速度の絶対値 | x | が静止摩擦限界速度FBV(すなわち弓圧FB)以下になる範囲、すなわち弦変位速度VF 0 が相対速度xに略比例して追従する範囲を追従範囲という。
【0010】
44はノンリニア・アンプであり、弓圧FBに基づいて非直線性係数CRVを出力する。すなわち、非直線性係数CRVは弓圧FBに対して単調増加する係数になる。34は逆数テーブルであり、弓圧FBの逆数を出力する。46は乗算器であり、相対速度|x|とこの逆数の乗算結果|x|/FBを出力する。48は差分テーブルであり、「0」〜「1」の入力値に対して、「−1」〜「1」の出力値を記憶する。本実施形態においては、図4の特性Aに示すように、出力値は「0」〜「0.5」程度の範囲に設定されており、「0」,「1」の入力値に対して共に出力値は「0」になっている。
【0011】
ここで、乗算器46の乗算結果|x|/FBに対して「0」〜「1」の入力値は、相対速度|x|に対しては「0〜FB」の範囲である。すなわち、乗算器46は、相対速度xを弓圧FBによってスケ−リングするものである。50は乗算器であり、差分テーブル48の出力に非直線性係数CRVを乗算する。38は加算器であり、弦変位速度VF0にこの乗算結果を加算する。
【0012】
40は乗算器であり、相対速度xの符号が「+」である場合は加算器38の出力信号に「1」を乗算し、相対速度xの符号が「−」である場合は加算器38の出力信号に「−1」を乗算し、その結果を弦変位速度VF1として出力する。42はローパスフィルタであり、弦変位速度VF1から急激な変動(高周波成分)を除去し、その結果を上記弦変位速度VFとして出力する。ここで、弦変位速度VF1の特性を図5(a)に示す。上述したように、非直線性係数CRVは弓圧FBに対して単調増加するから、弓圧FBが小さくなるほど差分テーブル48の影響が小さくなること、すなわち、静止摩擦係数の変動が小さくなることが解る。
【0013】
2.実施形態の動作
次に、本実施形態の動作を説明する。
ユーザが演奏操作子24を操作すると、これに応じて弓速度VB、弓圧FBが非線形回路20に供給され、遅延回路2,10の遅延時間DT1,DT2がピッチPTに基づいて設定される。これにより、加算器8,16に逐次弦変位速度VFが供給されるようになり、この弦変位速度VFを励振信号として構成要素2〜16から成る閉ループ回路に定在波が生ずる。
【0014】
そして、速度反射波VR1,VR2を合計して成る弦速度VSも正負に交番する信号になる。なお、弓速度VBが一定であって、閉ループ回路に定在波が生じている状態では、ほとんどの期間内において弦速度VSは弓速度VB以下(相対速度x≦0)の範囲で変化する。図3(従来例)においても、図5(a)(本実施形態)においても、弦速度VSが静止摩擦領域(弓速度VB±FB)に入る期間では、速度進行波VP1,VP2の合計がその直前の速度反射波VR1,VR2の合計(すなわち弦速度VS)よりも一層弓速度VBに近づくように弦変位速度VFが設定される。
【0015】
これにより、自然擦弦楽器において弦が弓の動きに追従する現象(スティック状態)が再現される。また、弦速度VSが動摩擦領域に入ると、弦が弓に対して滑りながら動く状態(スリップ状態)が再現される。しかし、本実施形態においては、図5(a)にように、相対速度xが±FBから外れるに従って弦変位速度VF1が急激に低下するから、「短い時間内に強い力で弦が弓に引っ張られる」ような感じ、すなわち「引っかかり感」がリアルに表現される。自然擦弦楽器を演奏すると、弓圧を下げるほどこの「引っかかり感」が弱くなってゆくこと、が感じられる。そこで、本実施形態においては、弓圧FBが小さくなるほど、静止摩擦領域内の特性を直線に近づけるようにしたものである。
なお、本実施形態によって生成した楽音信号を試聴すると、低い周波数成分が若干下がり、高域が強調された自然擦弦楽器音に近い楽音信号が得られた。
【0016】
3.変形例
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように種々の変形が可能である。
(1)上記実施形態においては、非直線性係数CRVは弓圧FBに対して単調増加する係数であったが、弓圧FBに代えて(または弓圧FBに加えて)弓速度VBに応じて非直線性係数CRVを変化させるようにしてもよい。
【0017】
(2)上記実施形態においては、静止摩擦領域の全範囲において相対速度xに対する弦変位速度VF1の特性を弓圧FBに応じて変動させたが、一部の範囲のみ変更するようにしてもよい。例えば、差分テーブル48における特性を図4の特性Bのように設定すれば、相対速度xに対する弦変位速度VF1の特性は図5(b)に示すように、静止摩擦領域の一部の範囲のみ特性を変動させることができる。
【0018】
(3)また、上記実施形態においては、静止摩擦領域内で相対速度xが弓圧FBに等しい時に|VF1/x|が最大になるように弦変位速度VF1の特性を設定したが、相対速度|x|が大きくなるほど|VF1/x|が小さくなるようにしてもよい。例えば、差分テーブル48における特性を図4の特性Cのように設定すれば、相対速度xに対する弦変位速度VF1の特性は図5(c)に示すように設定することができる。最終的に得られる楽音信号は様々な楽音パラメータによって決定されるため、これら楽音パラメータの状況によってはこのような設定が最適になる場合もあり得るからである。
【0019】
(4)弓圧FBや非直線性係数CRVに対してランダムな変調を施し、弦変位速度VF1の特性がランダムに変化するようにしてもよい。これにより、自然擦弦楽器音が有するランダム性を再現できる。また、例えば、弓圧FBが大きくなるほど、あるいは弓速度VBが大きくなるほど、ランダムに変動する幅を大きくしてもよい。
【0020】
(5)上記実施形態は、自然擦弦楽器音に忠実な楽音信号を生成することを主眼に置いていたが、本発明は擦弦楽器音以外の楽音合成や自然楽器には無い新規な音色の合成に用いてもよいことは言うまでもない。
【0021】
(6)上記実施形態はハードウエアによって電子擦弦楽器を実現した例を示したが、各構成要素を各種コンピュータ上で動作するソフトウエアによって構成してもよい。その場合、このソフトウエアをCD−ROM、フロッピーディスク等の記録媒体に格納して頒布し、あるいは伝送路を通じて頒布することもできる。
【0022】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、「励振信号/差分信号」の特性を適宜変動させることができるから、リアリティの高い楽音信号を合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態の楽音合成装置のブロック図である。
【図2】 非線形回路20の詳細ブロック図である。
【図3】 関数テーブル36の入出力特性例を示す図である。
【図4】 差分テーブル48の入出力特性例を示す図である。
【図5】 一実施形態および変形例における弦変位速度VF1の特性例を示す図である。
【符号の説明】
2,10……遅延回路、4……ローパスフィルタ、6……乗算器、8,16……加算器、12……ローパスフィルタ、14……乗算器、18……加算器、20……非線形回路、22……ミキサ、24……演奏操作子、26……楽音修飾部、27……サウンドシステム、30……減算器、34……逆数テーブル、36……関数テーブル、38……加算器、42……ローパスフィルタ、44……ノンリニア・アンプ、46……乗算器、48……差分テーブル。
Claims (4)
- 波形信号を遅延させつつ循環させる過程と、
該波形信号を伝搬する途中で、該波形信号と励振信号とを合成し該波形信号を変化させる過程と、
該波形信号を伝搬する途中の二箇所の値を合成することによって比較信号を生成する過程と、
第1の楽音パラメータと該比較信号との差分に応じて差分信号を生成する過程と、
前記差分信号に対して前記励振信号を略比例させる範囲を追従範囲とし、第2の楽音パラメータが大きくなるほど広くなるように該追従範囲を定め、前記差分信号の値が該追従範囲内である場合に、前記差分信号に対して前記励振信号を略比例させるように前記励振信号を決定する過程と
を有し、
前記差分信号が前記追従範囲の境界値である時の「前記励振信号/前記差分信号」の絶対値よりも、「前記励振信号/前記差分信号」の絶対値が小となる範囲を、前記追従範囲内に設けた
ことを特徴とする楽音合成方法。 - 波形信号を遅延させつつ循環させる過程と、
該波形信号を伝搬する途中で、該波形信号と励振信号とを合成し該波形信号を変化させる過程と、
該波形信号を伝搬する途中の二箇所の値を合成することによって比較信号を生成する過程と、
第1の楽音パラメータと該比較信号との差分に応じて差分信号を生成する過程と、
前記差分信号に対して前記励振信号を略比例させる範囲を追従範囲とし、第2の楽音パラメータが大きくなるほど広くなるように該追従範囲を定め、前記差分信号の値が該追従範囲内である場合に、前記差分信号に対して前記励振信号を略比例させるように前記励振信号を決定する過程と
を有し、
前記追従範囲内における前記励振信号の直線性またはランダム性は、前記第1または第2の楽音パラメータに応じて変化する
ことを特徴とする楽音合成方法。 - 請求項1または2記載の楽音合成方法を実行することを特徴とする楽音合成装置。
- 請求項1または2記載の楽音合成方法を処理装置に実行させるプログラムを記憶したことを特徴とする記録媒体。
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