JP3783552B2 - 楽音信号合成方法、楽音信号合成装置および記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、音源、電子楽器、アミューズメント機器等、楽音を発生する装置に用いられる楽音信号合成方法、楽音信号合成装置および記録媒体に関し、特に電子弦楽器に用いて好適な楽音信号合成方法、楽音信号合成装置および記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、自然楽器の挙動をシミュレートすることにより楽音を発生させる物理モデル音源が知られている。弦楽器の物理モデル音源は、振動する弦をシミュレートする線形部と、弦に振動を与えるハンマーや弓をシミュレートする非線形部とが設けられている。そして、非線形部から線形部に励起信号が供給されると、線形部に定在波が発生し、これによって、目的とする楽音信号が生成される。楽音信号の特徴を決定するにあたっては、倍音成分が重要な要素である。従って、物理モデル音源においては、最適な倍音成分が生成されるように、各種パラメータが設定される。
【0003】
ところで、弦の振動によって発生する倍音成分の周波数は、基本周波数の正確な整数倍にならず、整数倍よりも若干高くなることが知られている。例えば、基本周波数が200Hzであれば、3次倍音は600Hzではなく、600.3Hzのような値になる。実際の倍音成分の周期と、「基本周期/倍音次数」との差(上記例では1/600−1/600.3)を、本明細書においては「非調和度」と呼ぶ。実際に弦の振動時に発生する非調和度の例を、図2に示す。図示のように、非調和度は、高次の倍音になるほど大きくなり、また弦の剛性が高いほど大きくなる傾向を有する。すなわち、非調和度は、弦の種類や弓圧等に基づいて様々に変化する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の物理モデル音源においては、この非調和度を忠実に再現できるものは存在せず、楽音信号には擦弦楽器らしさに欠けるところがあった。一方、このような非調和度を弦の物理モデルに基づいてシミュレートしようとすれば、きわめて精密な物理モデルが必要になり、非現実的である。この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、簡易な構成でありながら、楽音信号に適切な倍音成分を付与できる楽音信号合成方法、楽音信号合成装置および記録媒体を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明にあっては、下記構成を具備することを特徴とする。なお、括弧内は例示である。
請求項1記載の楽音信号合成方法にあっては、発生すべき基本周波数と倍音成分の周波数に対して、遅延時間が順次短くなるように、第1から第nの遅延時間(但し、nは2以上の自然数)(遅延時間L1,L2,……,Ln)を決定する過程と、波形信号(速度反射波VR1,VR2,速度進行波VP1,VP2)を遅延させつつ循環させる過程と、該波形信号を循環させる際の所定箇所(遅延回路10の入力端)における信号を、前記第1から第nの遅延時間だけ各々遅延させて成る第1から第nの遅延信号を得る過程(遅延回路10)と、該第1から第nの遅延信号を合成し、新たな波形信号として循環させる過程(乗算器41〜4n,加算器30)とを有することを特徴とする。
さらに、請求項2記載の構成にあっては、請求項1記載の楽音信号合成方法において、前記倍音成分の周波数は、前記基本周波数の整数倍の値に対する差分である非調和度を有するものであり、演奏態様(演奏操作子24における弦および弓圧FB)に基づいて該非調和度を設定する過程をさらに有することを特徴とする。
また、請求項3記載の楽音信号合成装置にあっては、請求項1または2の何れかに記載の方法を実行することを特徴とする。
また、請求項4記載の記録媒体にあっては、請求項1または2の何れかに記載の方法を実行するプログラムを記憶したことを特徴とする。
【0006】
【発明の実施の形態】
1.実施形態の構成
1.1.全体構成
次に、本発明の一実施形態の電子擦弦楽器の構成を説明する。
まず、自然擦弦楽器においては、擦弦点に生じた弦変位によって、演奏者の指(またはナット)に向かう速度進行波VP1と、ブリッジに向かう速度進行波VP2とが生じる。前者の速度進行波VP1は演奏者の指によって反射され、速度反射波VR1として擦弦点に戻る。その間にある程度の遅延時間が生じるとともに波形が変形され、さらに反射される際に位相が反転する。
【0007】
図1において10は遅延回路、12はローパスフィルタ、14は乗算器であり、かかる現象をシミュレートする。すなわち、遅延回路10は速度進行波VP1を遅延時間L1だけ遅延させる。遅延された速度進行波VP1は、乗算器41、加算器30を介してローパスフィルタ12に供給される。ローパスフィルタ12は遅延された速度進行波VP1にフィルタリング処理を施す。また、乗算器14は該フィルタリング結果に「−1」を乗算し、その結果を速度反射波VR1として出力する。なお、遅延回路10には、速度進行波VP1を各々遅延時間L2,L3,……,Lnづつ遅延させる複数のタップが設けられているが、その詳細については後述する。
【0008】
自然擦弦楽器においては、ブリッジに向かう速度進行波VP2はブリッジにおいて反射され、速度反射波VR2として擦弦点に戻る。2は遅延回路、4はローパスフィルタ、6は乗算器であり、上記構成要素10,12,14と同様に、ブリッジから擦弦点に戻る速度反射波VR2を出力する。但し、遅延回路2には特にタップは設けられていない。18は加算器であり、速度反射波VR1,VR2を加算する。この加算結果は、弓が弦に接触していないと仮定した時の弦速度VSに等しい。
【0009】
24は擦弦楽器を模した演奏操作子であり、演奏者の操作位置に基づいて楽音信号のピッチPTを算出するとともに、弓速度VBおよび弓圧FBを楽音パラメータとして出力する。また、ピッチPTに基づいて、遅延回路10,2の遅延時間L1,R1を設定する。さらに、演奏操作子24においては、弓圧FBとピッチPTと模擬する弦の種類とに基づいて遅延回路10の各タップの遅延時間L2,L3,……,Lnが計算される。その計算方法の詳細については後述する。20は非線形回路であり、弦速度VS、弓速度VB、弓圧FBに基づいて、弦に付与される弦変位速度VFを出力する。
【0010】
自然擦弦楽器の忠実なモデリングを行うのであれば、遅延時間L1,R1は等しくなるが、本実施形態においては遅延時間L1は遅延時間R1よりも充分大きい値に設定される。これは、タップの総数(n)をなるべく多く確保するためである。16,8は加算器であり、速度反射波VR1,VR2に対して各々弦変位速度VFを加算し、その結果を新たな速度進行波VP2,VP1として出力する。
【0011】
22はミキサであり、上記速度反射波VR1,VR2および弦変位速度VFをミキシングする。26は楽音修飾部であり、このミキシング結果に対して各種の処理を施して最終的な楽音信号を合成する。この楽音修飾部26においては、例えば、ミキサ22のミキシング結果の信号に対して、自然擦弦楽器の共鳴部に対応する共鳴音付与処理が行われる。このようにして生成された楽音信号は、サウンドシステム27を介して発音される。
【0012】
1.2.遅延回路10周辺の構成
次に、遅延回路10周辺の構成について詳述する。
遅延回路10の出力端およびタップからは、各々遅延時間L1,L2,……,Lnだけ遅延された速度進行波VP1が出力される。これら遅延された速度進行波VP1には、乗算器41〜4nにおいて係数a1〜anが乗算される。そして、これら乗算結果は加算器30において加算され、ローパスフィルタ12に供給される。なお、係数a1〜anの合計は「1」になるように設定され、基本波に対応する係数a1が最も大きな値になる。
【0013】
従って、加算器8から出力された速度進行波VP1が速度反射波VR2として加算器8に帰還するまでに辿るループは、タップの数だけ存在し、各ループを1周する周期によって、各々基本波,第2次倍音,……,第n次倍音が形成されることになる。ここで、第k次倍音(k=1,…,n、基本波は「第1次倍音」とする)がループを1周する時間について検討してみる。遅延回路10の各タップにおける遅延時間は、倍音次数kが決定されると一意に決定される遅延時間Lkである。
【0014】
また、ローパスフィルタ12,4においても遅延時間が発生する。これらの遅延時間は周波数すなわち倍音次数kに応じて異なるため、各々DLk,DRkと表すことができる。また、遅延回路2における遅延時間は常にR1である。従って、k番目のタップから出力される進行波がループを1周するために要する総遅延時間TDkは、
TDk=Lk+DLk+DRk+R1 (但しk=1,…,n) ……(1)
となる。
また、基本波の総遅延時間TD1に対して、第k次倍音の総遅延時間TDkは、
TDk=TD1/k−dk ……(2)
によって表すことができる。ここで、dkは第k次倍音における非調和度(図2参照)である。
【0015】
実際の演奏状態においては、演奏者の指の押え位置等によって基本周波数すなわち基本波の総遅延時間TD1が決定される。そして、模擬しようとする弦の剛性が高いほど、また、弓圧FBが大きくなるほど各倍音次数kの非調和度dkが大きくなるように、非調和度dkが決定される。従って、式(1),(2)により、k=2以上の倍音成分について、対応するタップの遅延時間Lkは、
Lk=TD1/k−dk−(DLk+R1+DRk) ……(3)
となるように設定される。
【0016】
ところで、遅延回路10の各タップの遅延時間は、楽音信号のサンプリング周期単位で決定される。しかし、正確な基本波および倍音成分を得るためには、サンプリング周期の小数点以下の精度が求められる場合もある。そこで、遅延回路10の各タップ部分には、図3に示す回路が付加されている。図3において、p番目のタップに対して望まれている遅延時間をLpとし、この遅延時間Lpの前後におけるサンプリング周期単位の遅延時間をLq,L(q+1)とする。
【0017】
50は乗算器であり、遅延時間L(q+1)だけ遅延された速度進行波VP1に係数bを乗算する。ここに係数bは、「(L(q+1)−Lp)/サンプリング周期」である。また、51は乗算器であり、遅延時間Lqだけ遅延された速度進行波VP1に係数(1−b)を乗算する。52は加算器であり、乗算器50,51における乗算結果を加算する。この結果、加算された信号は、p番目のタップの出力信号として、乗算器4p(乗算器41〜4nのうち何れか)に供給される。
【0018】
2.実施形態の動作
次に、本実施形態の動作を説明する。
ユーザが演奏操作子24を操作すると、これに応じて弓速度VB、弓圧FBが非線形回路20に供給される。また、遅延回路2の遅延時間R1および遅延回路10の各タップの遅延時間L1,L2,……,LnがピッチPT、弦の種類、および弓圧FBに基づいて設定される。これにより、加算器8,16に逐次弦変位速度VFが供給されるようになり、この弦変位速度VFが励振信号として構成要素2〜16から成る閉ループ回路を巡回することによって楽音信号が生ずる。
【0019】
この楽音信号は、遅延回路10の各タップを通過するループ巡回信号を重畳したものに等しいため、各タップに対応する総遅延時間TDkに応じた複数の倍音成分を有する信号になる。そして、倍音成分の周波数は、演奏操作子24を介して明示的に定められるから、操作状態に応じて適切な非調和度を倍音成分に付与することができる。
【0020】
3.変形例
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように種々の変形が可能である。
(1)上記各実施形態はハードウエアによって電子擦弦楽器を実現した例を示したが、各構成要素を各種コンピュータ上で動作するソフトウエアによって構成してもよい。その場合、このソフトウエアをCD−ROM、フロッピーディスク等の記録媒体に格納して頒布し、あるいは伝送路を通じて頒布することもできる。さらに、本発明は、電子擦弦楽器に限定されるものではなく、他の電子楽器、携帯電話器、アミューズメント機器、その他楽音を発生する装置に適用できることは言うまでもない。
【0021】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、発生すべき基本周波数と倍音成分の周波数とに基づいて、波形信号を第1ないし第nの遅延時間だけ遅延させるから、簡単な構成によって適切な倍音成分を楽音信号に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態の電子擦弦楽器のブロック図である。
【図2】 上記実施形態の動作説明図である。
【図3】 遅延回路10のタップ部分のブロック図である。
【符号の説明】
2,10……遅延回路、4,12……ローパスフィルタ、6,14……乗算器、8,16……加算器、18……加算器、20……非線形回路、22……ミキサ、24……演奏操作子、26……楽音修飾部、27……サウンドシステム、30……加算器、41〜4n……乗算器、50,51……乗算器。
Claims (4)
- 発生すべき基本周波数と倍音成分の周波数に対して、遅延時間が順次短くなるように、第1から第nの遅延時間(但し、nは2以上の自然数)を決定する過程と、
波形信号を遅延させつつ循環させる過程と、
該波形信号を循環させる際の所定箇所における信号を、前記第1から第nの遅延時間だけ各々遅延させて成る第1から第nの遅延信号を得る過程と、
該第1から第nの遅延信号を合成し、新たな波形信号として循環させる過程と
を有することを特徴とする楽音信号合成方法。 - 前記倍音成分の周波数は、前記基本周波数の整数倍の値に対する差分である非調和度を有するものであり、
演奏態様に基づいて該非調和度を設定する過程をさらに有することを特徴とする請求項1記載の楽音信号合成方法。 - 請求項1または2の何れかに記載の方法を実行することを特徴とする楽音信号合成装置。
- 請求項1または2の何れかに記載の方法を実行するプログラムを記憶したことを特徴とする記録媒体。
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