JP3787481B2 - 工作機械における切削工具の負荷検出方法および装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、工作機械における切削工具に加わる負荷、特に負荷の急激な増大を検出する方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
図6に示す工作機械は、ベッド1上に支持台1bを介して工作物Wを載置し、案内台1aを介して工作物Wに向かうZ方向に移動自在に送りユニット2を案内支持し、この送りユニット2から工作物Wに向かって突出し各先端部にドリルTを装着した複数(図示の例では3個)の工具主軸3を主軸モータ4により回転駆動し、送りユニット2をZ軸モータ5により往復動させることにより工作物Wに複数の孔を加工するものである。このような工作機械では、ドリルTが折損した場合、それに気づかずに加工を継続すると加工された工作物Wは不良品となり、ときには修正不能な不良品となったり、あるいは工作機械を損傷するおそれもある。
【0003】
このような問題を防ぐためのドリルの折損検査装置としては、例えば図6に記載したように、ベッド1から起立した支柱6の上部にシリンダ7を取り付け、このシリンダ7から下向きに延びるピストンロッド7aに設けた支持板8の各ドリルTに対応する位置にそれぞれ折損センサ9を設けたものがある。支持板8および各折損センサ9は、ドリルTによる加工中は実線の示す位置にあるが、加工を終了して送りユニット2が実線に示す位置に後退すればシリンダ7により二点鎖線に示す位置に下降する。そして送りユニット2を前進させ各ドリルTを二点鎖線で示す位置として停止し、各ドリルTの先端を各折損センサ9のフィーラ9aに当接させてその折損の有無を検査している。あるいは、各折損センサ9の代わりに支持板8に絶縁して設けた各弾性板と送りユニット2の間に電位差を与え、前進させた各ドリルTの先端を各弾性板に接触させてそれぞれの部分の通電の有無により各ドリルTの折損の有無を検査するものもある。このようなものは、いずれも1本のドリル毎に1個の折損検査装置を必要とするので設備の製造コストが上昇し、またドリルの数が多い場合は折損検査装置の取り付けが困難になることもある。
【0004】
これに対し、各工具主軸3を駆動する主軸モータ4の電流値を監視し、その増大により全ての切削工具Tに加わる負荷の総和が増大したことを検出して各切削工具Tの折損を事前に検知する方法がある。あるいは切削工具Tの折損の際の音響により切削工具Tの折損を検出するアコースティックエミッションタイプのものもある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
工具主軸3を駆動する主軸モータ4の電流値は、各工具主軸3が無負荷の場合の電流値と、ドリルTなどの全ての切削工具に加わる負荷による電流値の増大分の和となるが、前者の電流値は温度上昇による各工具主軸3の負荷トルクの増大など切削工具に加わる負荷とは別の原因によっても増大するので、切削工具に加わる負荷の検出の精度が低下するという問題がある。またアコースティックエミッションタイプのものは、工作物Wの加工中に周囲で発生する種々の騒音のため誤作動をすることが少なくない。本発明はこのような各問題を解決して、検出の精度が高く、しかも設備の製造コストの増大が殆どない工作機械における切削工具の負荷検出方法および装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明による工作機械における切削工具の負荷検出方法は、工作物に対し切削工具を相対的に回転させる主軸モータと、工作物に対し切削工具をZ方向に相対的に移動させて切込み送りを与えるZ軸モータを備えてなる工作機械において、工作物に対する切削工具の回転速度と移動速度が所定の比例関係となるように両モータを制御し、主軸モータに出力された回転量目標値と主軸エンコーダにより検出された同主軸モータの回転量現在値との偏差およびZ軸モータに出力された回転量目標値とZ軸エンコーダにより検出された同Z軸モータの回転量現在値との偏差を演算し、工作物と切削工具の間の回転速度と移動速度を所定の比例関係とするために必要な主軸モータとZ軸モータに与える各制御量の間の比例値により重み付けが与えられた両偏差の差として誤差量を演算し、この誤差量にもとづき主軸モータまたはZ軸モータの回転量目標値を補正する制御サイクルを繰り返し、誤差量により切削工具に加わる負荷を検出することを特徴とするものである。
【0007】
前項の発明の重み付けは、両モータに対する指令回転速度および両エンコーダの分解能にもとづき行えばよい。
【0008】
また本発明による工作機械における切削工具の負荷検出装置は、工作物に対し切削工具を相対的に回転させる主軸モータと、工作物に対し切削工具をZ方向に相対的に移動させて切込み送りを与えるZ軸モータを備えてなる工作機械において、工作物に対する切削工具の回転速度と移動速度が所定の比例関係となるように両モータを制御する制御手段と、この制御手段から主軸モータに出力された回転量目標値と主軸エンコーダにより検出された同主軸モータの回転量現在値との偏差および制御手段からZ軸モータに出力された回転量目標値とZ軸エンコーダにより検出された同Z軸モータの回転量現在値との偏差を繰り返し演算する偏差演算手段と、工作物と切削工具の間の回転速度と移動速度を所定の比例関係とするために必要な制御手段から主軸モータとZ軸モータに与える各制御量の間の比例値により重み付けが与えられた両偏差の差として誤差量を繰り返し演算する誤差量演算手段と、この誤差量にもとづき主軸モータまたはZ軸モータの回転量目標値を繰り返し補正する目標値補正手段を備えてなり、誤差量により切削工具に加わる負荷を継続的に検出することを特徴とするものである。
【0009】
前項の発明の重み付けは、両モータに対する指令回転速度および両エンコーダの分解能にもとづき行えばよい。
【0010】
主軸モータとZ軸モータの各回転量現在値は、各モータに加わる負荷の違いなどによりそれらの間の同期にずれが生じるのが普通である。しかし上記何れの発明の場合も、主軸モータまたはZ軸モータの回転量目標値を上述した誤差量にもとづき補正しているので、温度上昇による工具主軸に加わる負荷トルクの増大や切削工具の摩耗などにより工具主軸に加わる負荷の増大が生じた場合でも、増大した負荷の変動が少なければほとんど同期にずれを生じることはなく、したがって通常の状態では上述した誤差量はほとんど0のままである。しかしながら、切削工具に加わる負荷が急激に増大すれば誤差量も急激に増大する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に図1〜図5に示す実施の形態の説明をする。この実施の形態は、本発明を過負荷検出機能を有するねじ孔加工装置に適用したものであり、図1はタップTによるねじ孔加工装置本体とその作動を制御する制御システムを示している。
【0012】
先ず、ねじ孔加工装置本体の構造の説明をする。ベッド10上には案内台11と支持台14が固定され、支持台14上には工作物Wが取り付けられ、案内台11上には工作物Wに向かうZ方向に移動自在に送りユニット12が支持され、Z軸モータ16により往復動されるようになっている。送りユニット12には、Z方向と平行な回転軸線を有する複数(図示の例では2本)の工具主軸13が軸承されて主軸モータ15により回転駆動され、各工具主軸13の先端には工作物Wにねじ孔を加工するタップ(切削工具)Tが装着されている。主軸モータ15およびZ軸モータ16は何れもサーボモータであり、それぞれの回転を検出する主軸エンコーダ15aおよびZ軸エンコーダ16aが設けられている。
【0013】
次に、このねじ孔加工装置の作動を制御する制御システムの説明をする。この制御システムの要部は、中央処理装置(CPU)20、読出し専用メモリ(ROM)21および書込み可能メモリ(RAM)22を主要な構成要素とする数値制御装置である。この制御システムは、CPU20がインターフェイス27を介して主軸駆動ユニット25及びZ軸駆動ユニット26に主軸モータ15およびZ軸モータ16の回転量目標値ts,tzを出力し、これにもとづいて各駆動ユニット25,26はそれぞれ主軸モータ15及びZ軸モータ16を回転駆動し、各モータ15,16の回転は主軸エンコーダ15a,16aにより検出されて各駆動ユニット25,26にフィードバックされるサーボ制御系を構成している。またCPU20にはインターフェイス24を介して入出力装置23が接続されている。
【0014】
ROM21にはシステム制御プログラムなどが記憶されている。RAM22には、次の各値
主軸モータ15に対する指令回転速度Fs(回転/分)
Z軸モータ16に対する指令回転速度Fz(回転/分)
主軸エンコーダ15aの分解能Ms(パルス/回転)
Z軸エンコーダ16aの分解能Mz(パルス/回転)
比例値k(=Fz×Mz/Fs×Ms)
主軸モータ15の回転量目標値ts(パルス)
Z軸モータ16の回転量目標値tz(パルス)
主軸モータ15の回転量現在値fs(パルス)
Z軸モータ16の回転量現在値fz(パルス)
主軸モータ15の回転量の偏差es(=ts−fs)(パルス)
Z軸モータ16の回転量の偏差ez(=tz−fz)(パルス)
誤差量E(=ez−k×es)(パルス)
この誤差量Eの異常を判断するためのしきい値B(パルス)
などを記憶する記憶領域などが設けられ、また図3に示す負荷検出制御を行うプログラムなどが記憶されている。請求項3との関連において、CPU20、ROM21及びRAM22の一部が、制御手段、偏差演算手段、誤差量演算手段および目標値補正手段を構成している。各指令回転速度Fs,Fzは、工具主軸13の回転速度に対する送りユニット12の送り速度が所定の比例関係となるように、すなわちこの両速度が互いに同期されるように、さらに具体的には工具主軸13の1回転に対する送りユニット12の送り量がタップTのリードとなるように定められている。
【0015】
次にこの実施の形態の作動を図2〜図5により説明する。このようなねじ孔加工装置による加工では、工具主軸13の回転と同期して送りユニット12が移動するように、CPU20は所定の短い時間間隔で、各駆動ユニット25,26に同期された各回転量目標値ts,tzを出力し、各駆動ユニット25,26は各回転量目標値ts,tzに応じた駆動パルスを主軸モータ15およびZ軸モータ16に配分してこれらを回転駆動する。図4の実線はこのような各回転量目標値ts,tzを示している。これに対し各エンコーダ15a,16aにより検出される主軸モータ15およびZ軸モータ16の回転量現在値fs,fzは、各工具主軸13と送りユニット12の慣性および負荷などによる抵抗のために生じるサーボ制御系の応答の遅れにより、破線に示すように回転量目標値ts,tzに対しある偏差es,ezを生じる。このうち主軸モータ15の回転量の偏差esは各タップTに加わる負荷の総和による応答の遅れを含んでいるので、偏差esにより各タップTに加わる負荷を検出することは可能であるが、偏差esはその他の原因による各工具主軸13の負荷の変動の影響も受けるので、前述した主軸モータの電流値による各切削工具に加わる負荷の検出と同様に精度が低下し、各タップTのに加わる負荷を正確に検出して折損を事前に検知することはできない。また、各工具主軸13と送りユニット12の慣性および負荷抵抗は互いに無関係であり、特に各工具主軸13の負荷抵抗は相当に変動するので、工具主軸13の回転と送りユニット12の移動の間に同期のずれを生じる。
【0016】
この実施の形態では、加工の際にZ軸モータ16の回転量目標値tzを補正することにより、工具主軸13の回転と送りユニット12の移動の間に同期のずれが生じないようにして、タップTの折損の直前などに生じる負荷の急激な増大を正確に検出するようにしている。先ず図2のフローチャートにより、加工の全体の流れを説明する。先ず加工開始に先立ち、各モータ15,16に対する指令回転速度Fs,Fz、各エンコーダ15a,16aの分解能Ms,Mz、およびしきい値Bを入出力装置23からRAM22に入力しておく。入出力装置23からねじ孔加工開始の指令が与えられれば、CPU20はZ軸モータ16を早送り正転させて送りユニット12を早送り前進させ(ステップ101)、タップTが所定位置まで工作物Wに接近したところで、主軸モータ15を指令回転速度Fsで正転させてタップTを装着した工具主軸13を正転させ、これと同時にZ軸モータ16を指令回転速度Fzで正転させて送りユニット12を前進させる(ステップ102)。前述のように各指令回転速度Fs,Fzは、工具主軸13の1回転に対する送りユニット12の送り量がタップTのリードとなるように定められているので、これにより工作物Wに対するねじ孔の加工がなされる。
【0017】
そして送りユニット12が加工の前進端に達してねじ孔の加工が終了したところで(ステップ103)、CPU20は主軸モータ15を指令回転速度Fsで逆転させてタップTを装着した工具主軸13を逆転させ、これと同時にZ軸モータ16を指令回転速度Fzで逆転させて送りユニット12を後退させる(ステップ104)。これによりタップTは工作物Wに加工されたねじ孔から抜き出され、この抜き出しが完了したところでCPU20はZ軸モータ16を早送り逆転させ、送りユニット12を早戻しさせて(ステップ105)ねじ孔加工を終了する。この早戻しの際には、主軸モータ15を停止させてもよい。なお、ステップ104におけるタップTの抜き出しの際の両モータ15,16の逆転速度は同じ比率だけ指令回転速度Fs,Fzより速くしてもよく、そのようにすればこの抜き出しに要する時間は短縮される。
【0018】
ステップ102によるねじ孔の加工の際にはタップTに加わる負荷の検出を行っている。次にその詳細を、図3に示すフローチャートにより説明する。CPU20は先ずRAM22内に記憶された各変数ts,tz,fs,fz,es,ez,Eを初期化してこれらを全て0にし(ステップ201)、比例値k(=Fz×Mz/Fs×Ms)を演算する(ステップ202)。Fz×MzおよびFs×Msは、それぞれ主軸モータ15とZ軸モータ16に与える各制御量(パルス/分)であり、比例値kは、工作物Wと切削工具Tの間の回転速度と移動速度を前述した所定の比例関係とするために必要な主軸モータ15とZ軸モータ16に与える各制御量の間の比率である。
【0019】
次いでCPU20は、加工開始時からの時間と各指令回転速度Fs,Fzに基づき各モータ15,16の正転方向における回転量目標値ts,tzを演算し(ステップ203)、RAM22に記憶されている誤差量Eを読み出し(ステップ204)、この誤差量Eをステップ203で演算したZ軸モータ16の回転量目標値tzに加える補正を行い(ステップ205)、補正された各回転量目標値ts,tzを各駆動ユニット25,26に出力して各モータ15,16を回転駆動する(ステップ206)。ある制御サイクルのステップ205で行う回転量目標値tzの補正に使用する誤差量Eは、その直前の制御サイクルのステップ209,210で演算されてRAM22に記憶されたものであり、加工開始時には誤差量Eは0に初期化されているので、最初に行われる制御サイクルのステップ205で使用される誤差量Eは0である。
【0020】
次いでCPU20は、各エンコーダ15a,15aにより検出された主軸モータ15とZ軸モータ16の各回転量現在値fs,fzを読み取り(ステップ207)、主軸モータ15およびZ軸モータ16の各目標値ts,tzと各現在値fs,fzの偏差es,ezを演算して(ステップ208)、Z軸モータ16の回転量に換算された誤差量E(=ez−k×es)を演算する(ステップ209)。後述するように、この誤差量EによりタップTに加わる負荷の急激な増大が検出される。次いでCPU20はこの誤差量EをRAM22の記憶領域に記憶させ(ステップ210)てから、誤差量Eをしきい値Bと比較し(ステップ211)、E≧|B|でなければ送りユニット12が加工の前進端に達してねじ孔の加工が終了するまで、ステップ203〜211の制御サイクルを所定の制御周期(例えば1ミリ秒)毎に繰り返し(ステップ212)、送りユニット12が加工の前進端に達すればステップ104に移行し、送りユニット12を後退させてタップTを加工されたねじ孔から抜き出す。ステップ211においてE≧|B|となれば、CPU20は異常処理を行って(ステップ213)、ねじ孔加工装置の作動を停止させる。この異常処理は送りユニット12の停止またはステップ104と同様なねじ孔からのタップTの抜き出しである。
【0021】
ステップ104におけるねじ孔からのタップTの抜き出しも、図3のフローチャートに基づいてなされ、この際にもタップTに加わる負荷の急激な増大が検出される。なおこの場合は、各モータ15,16の逆転方向における回転量目標値ts,tzは、抜き出し開始時からの時間と各指令回転速度Fs,Fz(または同じ比率だけこれより大きくした値)に基づき演算され、またステップ212の判断はタップTが加工されたねじ孔から抜き出される位置に送りユニット12が達した際に行われる。
【0022】
この実施の形態では、各制御サイクルにおいてその直前の制御サイクルで演算された誤差量Eに基づき、Z軸モータ16の回転量目標値tzを補正しているので、サーボ制御系の応答の遅れは補償され、主軸モータ15の回転量に対するZ軸モータ16の回転量の同期のずれは補正される。したがって、工具主軸13および送りユニット12の慣性および負荷などによる抵抗が定常的で変動が少ない場合は誤差量Eは0付近の小さい値となる。
【0023】
図5は図1に示すようなねじ孔加工装置において、送りユニット12の前進の際には異常はなかったが、後退の際に切り屑を咬み込むなどにより何れかのタップTが折損した場合における、時間に対する誤差量Eの変動の例を示すものである。この例では送りユニット12の前進の範囲では工具主軸13および送りユニット12の慣性および負荷などによる抵抗が定常的で変動が少ないので、誤差量Eは多少の一時的変動はあるが0付近の小さい値である。また送りユニット12が前進から後退に切り換えられた直後には、回転速度の急激な変化にともなう各モータ15,16の慣性力の変動により、誤差量Eが一時的に大きくなった部分Pがある。この例では、送りユニット12の後退の範囲において、切り屑を咬み込むなどにより何れかのタップTに加わる負荷が急激に増大し、このため制御システムのサーボ系が追従しきれなくなって誤差量Eがマイナス方向に急激に増大し(部分Q参照)、マイナス側のしきい値Bを越えてからそのタップが折損した(部分R参照)状態を示している。折損後はそのタップTに加わる負荷が0になるので誤差量Eは急激に0に戻り、プラス方向にオーバシュートしている。
【0024】
上述した実施の形態によれば、このように誤差量Eがマイナス方向に急増した場合、マイナス側のしきい値Bを越えたところでCPU20はステップ213の異常処理を行う。この場合の異常処理は主軸モータ15およびZ軸モータ16を直ちに停止させることであり、これによりそのタップTに加わる負荷の増大は停止されるので折損は防止される。その後に各タップTを各工具主軸13に装着するチャックを全てゆるめて、工作物WをタップTとともに取り外し、各タップTを折損しないように手動により静かに抜き出す。この工作物Wは再加工により使用可能である。
【0025】
送りユニット12の後退の範囲ではなく前進の範囲で何らかの原因により何れかのタップTに加わる負荷が急激に増大して誤差量Eが急増した場合も、しきい値Bを越えたところでCPU20はステップ213の異常処理を行う。この場合の異常処理は主軸モータ15およびZ軸モータ16を直ちに停止させてタップTの折損を防止し、ステップ104による加工されたねじ孔からの各タップTの抜き出しである。この場合は各タップTの抜き出しは自動的に行われる。なおこの抜き出しの際にタップTに加わる負荷が急激に増大した場合は、前述した送りユニット12の後退の範囲においてタップTに加わる負荷が急激に増大した場合と同様の異常処理を行う。
【0026】
上述した実施の形態の誤差量Eは、工具主軸13に加わる負荷の変動が少なければその負荷の値の大小とはあまり関係なくほとんど0であり、何れかのタップTに加わる負荷の急激な増大により工具主軸13の負荷が急激に増大すれば誤差量Eも急激に増大するので、工具主軸13に加わる負荷の大小の影響を受けることなくそのタップTに加わる負荷の急激な増大を正確に検出することができ、これによりタップTの折損を事前に正確に検知して予防することができる。
【0027】
また切削開始前における送りユニット12の早送りの際に、タップTに加わる負荷の急激な増大を検出することにより切削加工が開始されたことを検知して、送りユニット12を自動的に早送りから切削送りに切り換えるようにすることもでき、このようにすれば空切削時間を減少させて加工能率を向上させることもできる。
【0028】
また、送りユニット12を用いる工作機械には、複数の工具主軸13を取り付ける部分であるギャングヘッドを交換して異なる工作物Wの加工を行うようにしたものがあるが、このような各ギャングヘッドは各切削工具により切削を行っていない状態での駆動に要する負荷がそれぞれ異なっている。従って、前述したように主軸モータの電流値により切削工具に加わる負荷を検出するものでは、切削工具それ自体の異常判断のためのしきい値が同じであっても、ギャングヘッドを交換する毎にしきい値を変更する必要がある。しかしこのような各ギャングヘッドは、非切削状態における負荷は互いに異なっても各負荷の時間的変動は僅かである。従って上述したような誤差量Eにより各切削工具に加わる負荷の急激な増大を検出する上記実施の形態によれば、切削工具それ自体の異常判断のためのしきい値が同じであるかぎりギャングヘッドを交換する毎にしきい値を変更する必要はなく、交換に要する手間は減少する。
【0029】
なお上記実施の形態では、工具主軸13の回転と送りユニット12の移動とが互いに同期されるように、Z軸モータ16の回転量目標値tzを主軸モータ15の回転量目標値tsに合わせて補正しているが、主軸モータ15の回転量目標値tsをZ軸モータ16の回転量目標値tzに合わせて補正するようにしてもよい。この場合には、ステップ205における目標値補正の演算式tz=tz+Eに代えて演算式ts=ts−E/kを用いればよい。
【0030】
上記実施の形態は、タップTによるねじ孔加工の場合について説明したが、本発明はドリルによる孔あけ加工、旋盤による旋削加工、フライスによる平面加工など、工作物Wと切削工具Tを相対回転させるとともに切込み送りを与えることにより行われる切削加工に広く適用可能である。
【0031】
【発明の効果】
上述のように、本発明による切削工具の負荷検出方法および装置における誤差量は、工具主軸に加わる負荷の変動が少なければその負荷の値の大小とはあまり関係なくほとんど0であり、切削工具に加わる負荷の急激な増大により工具主軸の負荷が急激に増大すれば誤差量も急激に増大するので、工具主軸に加わる負荷の大小の影響を受けることなく工作機械における切削工具の負荷の急激な増大を正確に検出することができる。これにより切削工具の折損を事前に正確に検知して予防し、あるいは空切削時間を減少させて加工能率を向上させるなどの各効果を得ることができる。しかも本発明は従来に比して新しい機械的装置を必要としないので、実施に際して設備の製造コストが増大することはない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による切削工具の負荷検出方法を実施したねじ孔加工装置とその制御システムを示す図である。
【図2】 図1に示すねじ孔加工装置における加工の全体の流れを説明するフローチャートである。
【図3】 図1に示すねじ孔加工装置における負荷検出制御の流れを示すフローチャートである。
【図4】 各モータの回転量目標値に対する回転量現在値の差である偏差を説明する図である。
【図5】 図1に示すねじ孔加工装置における時間に対する誤差量の変動の一例を示す図である。
【図6】 従来技術によるドリルの折損検査装置の一例を示す側面図である。
【符号の説明】
15…主軸モータ、15a…主軸エンコーダ、16…Z軸モータ、16a…Z軸エンコーダ、T…切削工具(タップ)、W…工作物。
Claims (4)
- 工作物に対し切削工具を相対的に回転させる主軸モータと、前記工作物に対し前記切削工具をZ方向に相対的に移動させて切込み送りを与えるZ軸モータを備えてなる工作機械において、前記工作物に対する前記切削工具の回転速度と移動速度が所定の比例関係となるように前記両モータを制御し、前記主軸モータに出力された回転量目標値と主軸エンコーダにより検出された同主軸モータの回転量現在値との偏差および前記Z軸モータに出力された回転量目標値とZ軸エンコーダにより検出された同Z軸モータの回転量現在値との偏差を演算し、前記工作物と切削工具の間の回転速度と移動速度を前記所定の比例関係とするために必要な前記主軸モータとZ軸モータに与える各制御量の間の比例値により重み付けが与えられた前記両偏差の差として誤差量を演算し、この誤差量にもとづき前記主軸モータまたはZ軸モータの回転量目標値を補正する制御サイクルを繰り返し、前記誤差量により前記切削工具に加わる負荷を検出することを特徴とする工作機械における切削工具の負荷検出方法。
- 前記重み付けは、前記両モータに対する指令回転速度および前記両エンコーダの分解能にもとづき行うことを特徴とする請求項1に記載の工作機械における切削工具の負荷検出方法。
- 工作物に対し切削工具を相対的に回転させる主軸モータと、前記工作物に対し前記切削工具をZ方向に相対的に移動させて切込み送りを与えるZ軸モータを備えてなる工作機械において、前記工作物に対する前記切削工具の回転速度と移動速度が所定の比例関係となるように前記両モータを制御する制御手段と、この制御手段から前記主軸モータに出力された回転量目標値と主軸エンコーダにより検出された同主軸モータの回転量現在値との偏差および前記制御手段から前記Z軸モータに出力された回転量目標値とZ軸エンコーダにより検出された同Z軸モータの回転量現在値との偏差を繰り返し演算する偏差演算手段と、前記工作物と切削工具の間の回転速度と移動速度を前記所定の比例関係とするために必要な前記制御手段から前記主軸モータとZ軸モータに与える各制御量の間の比例値により重み付けが与えられた前記両偏差の差として誤差量を繰り返し演算する誤差量演算手段と、この誤差量にもとづき前記主軸モータまたはZ軸モータの回転量目標値を繰り返し補正する目標値補正手段を備えてなり、前記誤差量により前記切削工具に加わる負荷を継続的に検出することを特徴とする工作機械における切削工具の負荷検出装置。
- 前記重み付けは、前記両モータに対する指令回転速度および前記両エンコーダの分解能にもとづき行うことを特徴とする請求項3に記載の工作機械における切削工具の負荷検出装置。
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