JP3783629B2 - ドリル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に高速乾式切削のような過酷な加工条件下でも円滑かつ安定した穴明け加工が可能なドリルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
軸線回りに回転されるドリル本体の先端部外周に後端側に向けて延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝のドリル回転方向を向く内壁面と上記ドリル本体の先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルとしては、例えば従来より特許第2674124号公報に記載されたものが知られている。また、上述のような乾式あるいは微量の切削油剤しか用いない過酷な加工条件に対応することを目的としたドリルとしては、例えば特開2000−198011号公報に記載されたようなものが提案されており、すなわちこの公報記載のドリルでは、ドリル本体先端に形成される切刃の外周側に、この切刃の中間部から角度をつけてドリル回転方向に後退する外方コーナー切刃が形成されていて、この外方コーナ切刃とドリル本体外周のマージン部との交差角を鈍角にすることができるため、上述のような加工条件でも切刃の外周端に欠けが生じたりするのを防ぐことが可能となる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、このようなドリルにおいては通常、上記切刃に直交する断面における該切刃のすくい角、すなわち切刃の直角すくい角は、ドリル本体の上記軸線側すなわち内周側から外周側に向かうに従い漸次大きくなるようにされており、これは、上記2つの公報に提案されたドリルでも例外ではない(例えば、後述するドリルE,F、および図11参照。)。このため、切刃がドリル本体内周側のシンニング部を除いて直線状に形成された前者の公報に記載のドリルでは、上記すくい角は切刃の外周端において最大となり、逆に切刃の刃先角は最も小さくなるので、ドリル本体の回転中心となる上記軸線から離れて最も切削速度が大きくなるために上記乾式高速切削となる穴明け加工にあっても最も過酷な状態となる切刃の外周端において、その切刃強度を確保し難くなり、これにより切刃にチッピングや欠けが生じる可能性が高く、また逃げ面摩耗の進行も早いという問題が生じる。
【0004】
一方、切刃の外周側にドリル回転方向に後退する外側コーナー切刃を設けた後者の公報に記載のドリルでは、この外側コーナー切刃で切刃の径方向すくい角が負角側に大きくなる分だけ切刃の直角すくい角も小さくなるが、このすくい角が外周側に向けて漸増させられていることには変わりはなく、従って上述のような過酷な条件に対しても十分な切刃強度を確保するには切刃の全長に亙ってすくい角を小さくしなければならない。このため、切刃全体で切れ味が悪くなってしまって切削抵抗の増大を招き、高速乾式切削のような過酷な切削条件では摩耗の進行が著しくなって早期に寿命が費えたり、場合によっては抵抗の増大によって過大なトルクが作用してドリル本体の折損を招いたりするおそれすらある。
【0005】
本発明は、このような背景の下になされたもので、切刃全体の切れ味の悪化を抑えながらも特に切刃の外周端側での強度を確保して、高速乾式切削等の過酷な加工条件でも摩耗や折損による工具寿命の短縮を防ぐことが可能なドリルを提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転されるドリル本体の先端部外周に後端側に向けて延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝のドリル回転方向を向く内壁面と上記ドリル本体の先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されてなるドリルにおいて、上記切刃を、この切刃に直交する断面におけるすくい角が、上記ドリル本体の内周から外周側に向かうに従い漸次増大させられて該切刃上の変移点に達し、この変移点よりも外周側では外周側に向かうに従い上記すくい角が漸次減少させられるようにしたことを特徴とする。従って、このように構成されたドリルでは、上記変移点よりも内周側では切刃の直角すくい角が外周側に向かうに従い大きくなるので、良好な切れ味を維持して切削抵抗を低く抑えることができる一方、この変曲点よりも外周側ではすくい角が減少させられるので刃先角は大きくなり、これにより切刃強度を確保してチッピングや欠け、逃げ面摩耗の早期の進行等を抑制することが可能となる。
【0007】
ここで、切刃の上記すくい角が内周から外周側に向けて漸増傾向から漸減傾向へと変移する上記変移点は、上記軸線から径方向外周側に向けて上記切刃の回転半径の70〜90%の範囲内に位置させられるのが望ましい。これは、この変移点が軸線から切刃の回転半径の70%よりも内周側にあると、外周側に向けてすくい角が漸減する切刃部分が長くなって切刃全体としての切削抵抗を十分に抑えることができなくなるおそれがあるからであり、逆に変移点が軸線から切刃の回転半径の90%よりも外周側にあると、このすくい角が漸減する切刃部分が短すぎて外周側での切刃強度を確実に確保することができなくなるおそれがあるからである。
【0008】
また、上記切刃の外周端側に、上記ドリル回転方向に凸となる曲線状をなす凸曲線状切刃部が形成されるとともに、この凸曲線状切刃部の内周側には、ドリル回転方向の後方側に凹となる曲線状をなして上記凸曲線状切刃部に滑らかに連なる凹曲線状切刃部を形成した場合には、上記凸曲線状切刃部の外周側、すなわちドリル本体外周のマージン部との交差部ではその交差角を大きくして切刃強度を一層向上させてチッピングや欠けの発生を防止することができる一方、この凸曲線状切刃部の内周側では上記凹曲線状切刃部から凸曲線状切刃部にかけての切刃の外周端までが滑らかな曲線状に形成されることとなるので、切刃がその中間部で角度をつけてドリル回転方向の後方側に後退している上記後者の公報に記載されたドリルのように切刃の内外周で切屑が分断されるようなことがなく、上記凹曲線状切刃部によって切屑を内周側に巻き込むようにして十分にカールさせ、円滑に処理することが可能となる。そして、さらにこの場合には、上記変移点をこの凹曲線状切刃部と上記凸曲線状切刃部との変曲部に位置させることにより、すくい角が漸増傾向から漸減傾向へと変移することによってこの変移点で切刃に生じる応力を分散させることができ、高速乾式切削における過酷な切削条件によりこの変移点に応力が集中して損傷が生じるような事態をも防止することが可能となる。
【0009】
なお、このように内周から外周側に向けて上記変移点の前後で漸増・漸減傾向に変移する上記切刃のすくい角γは、上記軸線からの径方向外周側に向けての上記切刃の回転半径rの37.5%以上82.6%未満の範囲の位置では、上記回転半径rに対するこの位置の上記軸線からの半径の比率xについて次式1により近似される角度yの±7°の範囲において、上記切刃の回転半径rの82.6%以上100%までの範囲の位置では上記比率xについて次式2により近似される角度yの±7°の範囲において、それぞれ変移させられるのが望ましい。すなわち、この切刃のすくい角γが式1、2の範囲を上回ると、切刃に刃先角が小さくなりすぎる部分が生じて特に高速乾式切削ではその部分で切刃が損傷し易くなるおそれがある一方、逆に式1、2の範囲を下回ると、その部分で切削抵抗が増大して切刃の摩耗が促進されたり過大なトルクが生じたりするおそれがある。また、ドリル本体の少なくとも先端部の表面に、TiN、TiCN、TiAlN等の硬質皮膜を被覆すれば、このドリル本体先端部の耐摩耗性の向上を図ってその寿命の一層の延長を促すことができる。
【0010】
【数3】
【0011】
【数4】
【0012】
【発明の実施の形態】
図1ないし図9は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態においてドリル本体1は、超硬合金等の硬質材料により軸線Oを中心とした略円柱状に形成されており、その先端部には、先端逃げ面2から後端側に向かうに従い一定の捩れ角でドリル回転方向Tの後方側に捩れる一対の切屑排出溝3,3が軸線Oに対して対称に形成されていて、これらの切屑排出溝3,3のドリル回転方向T側を向く内壁面4,4と上記先端逃げ面2との交差稜線部にそれぞれ切刃5,5が形成されている。なお、このドリル本体1先端部には、その外周面や先端逃げ面2、切屑排出溝3に、TiN、TiCN、TiAlN等の硬質皮膜が被覆されている。
【0013】
ここで、上記内壁面4は、その外周側に位置してマージン部6に交差し、軸線Oに直交する断面において図2に示すようにドリル回転方向Tに凸となる凸曲線をなす第1の凸曲面部7と、この第1凸曲面部7の内周側に位置して、上記断面においてドリル回転方向Tの後方側に凹む凹曲線状をなす第1凹曲面部8とから構成されており、これら第1の凸凹曲面部7,8の断面がなす上記凸凹曲線は接点P1において滑らかに接するように連ねられている。また、本実施形態では切屑排出溝3のドリル回転方向T後方側を向く内壁面9も、その外周側に位置してヒール部10に達し、上記断面がドリル回転方向T後方側に凸となる凸曲線をなす第2凸曲面部11と、この第2凸曲面部11の内周側に位置してその断面がドリル回転方向T側に凹む凹曲線状をなす第2凹曲面部12とから構成され、これら第2の凸凹曲面部11,12がなす上記凸凹曲線も接点P2において滑らかに接するように連ねられるとともに、両内壁面4,9の第1、第2凹曲面部8,12同士も、その断面がなす凹曲線が接点P3において滑らかに接して連なるようにされている。なお、上記マージン部6からドリル回転方向T後方側に上記ヒール部10に至るランド部の外周面は、マージン部6から一段内周側に後退した円筒面状に形成されている。
【0014】
さらに、本実施形態では、上記断面において、第1、第2の凸凹曲面部7,8,11,12がなす凸凹曲線がそれぞれ点C1〜C4を中心とした半径R1〜R4の円弧となるようにされており、このうち第1凸曲面部7がなす凸円弧の中心C1は、この第1凸曲面部7とマージン部6との交点すなわち上記内壁面4の外周端13において該マージン部6に接する直線Q1よりも内周側に位置させられるとともに、第2凸曲面部11がなす円弧の中心C3は、上記外周端13が軸線O回りになす円と第2凸曲面部11がなす円弧の延長線との交点14において上記円に接する直線Q2よりもやはり内周側に位置させられている。従って、上記第1凸曲面部7は、軸線Oと内壁面4の外周端13とを結ぶ第1仮想直線S1よりもドリル回転方向T側に凸となって、この外周端13における第1凸曲面部7の接線は、外周側に向かうに従いドリル回転方向T後方側に延びるように第1仮想直線S1に対して傾斜させられるとともに、この第1仮想直線S1と直交する上記直線Q1とは鈍角をなして交差させられる。また、第2凸曲面部11も、ヒール部10との交点と軸線Oとを結ぶ直線よりもドリル回転方向T後方側に凸となるようにされている。一方、第1、第2凹曲面部8,12がなす円弧の中心C2,C4は、これらの円弧が接点P3で接していることから、両者とも軸線Oからこの接点P3を通る直線の延長線上に位置することとなる。さらに、この接点P3が切屑排出溝3の溝底となることから、本実施形態では軸線Oを中心としてこの接点P3を通る円がドリル本体1の芯厚円となり、この芯厚円の直径すなわちドリル本体1の芯厚dは、上記切刃5の外周端15が軸線O回りになす円の直径すなわち切刃5の外径Dに対し、0.15×D〜0.3×Dの範囲に設定されている。
【0015】
なお、第1凸凹曲面部7,8がなす凸凹曲線の接点P1は、軸線Oを中心として上記切刃5の外径Dの2/3の直径を有する円よりも外周側に位置させられており、より望ましくは軸線Oを中心として外径Dの5/6の直径を有する円よりも外周側に位置させられる。また、第1凹曲面部8のドリル回転方向T後方側への凹みの大きさは、上記第1仮想直線S1からの凹み量L1が切刃5の外径Dに対して−0.06×D〜0の範囲に設定されるとともに、第2凹曲面部12のドリル回転方向T側への凹みの大きさは、上記断面において第1仮想直線S1に軸線Oで直交する第2仮想直線S2からの凹み量L2が−0.06×D〜0.06×Dの範囲となるように設定されている。ただし、これらの凹み量L1,L2は、それぞれ上記断面において第1、第2仮想直線S1,S2に平行で第1、第2凹曲面部8,12がなす凹曲線に接する直線と第1、第2仮想直線S1,S2との間の距離とされており、かつ図2に示すように、第1凹曲面部8の凹み量L1については第1仮想直線S1からドリル回転方向T側を正、後方側を負とし、逆に第2凹曲面部12の凹み量L2については第2仮想直線S2からドリル回転方向T側を負、後方側を正としている。従って、本実施形態においては、第1凹曲面部8の全体が上記第1仮想直線S1よりもドリル回転方向T側に位置することはない。
【0016】
さらに、上記断面において第1、第2凸凹曲面部7,8,11,12がなす円弧の半径R1〜R4は、切刃5の外径Dに対し、第1凸曲面部7の半径R1が0.1〜0.8×Dの範囲に、第1凹曲面部8の半径R2が0.18〜0.35×Dの範囲に、第2凸曲面部11の半径R3が0.1〜0.8×Dの範囲に、第2凹曲面部12の半径R4が0.2〜0.5×Dの範囲に、それぞれ設定されている。そして、本実施形態では、このうち第2凹曲面部12の半径R4が、第1凹曲面部8の半径R2よりも大きくされている。なお、こうして形成された切屑排出溝3の溝幅比は、本実施形態では0.8〜1.2:1の範囲とされている。
【0017】
このような切屑排出溝3の上記内壁面4と先端逃げ面2との交差稜線部に形成される切刃5においては、この内壁面4が上記第1凸凹曲面部7,8によって形成されることにより、その外周端15側には、ドリル回転方向Tに凸となる曲線状をなす凸曲線状切刃部16が形成されてその後端側に上記第1凸曲面部7が連なるとともに、この凸曲線状切刃部16の内周側には、ドリル回転方向Tの後方側に凹となる曲線状をなして凸曲線状切刃部16に滑らかに接して連なる凹曲線状切刃部17が形成され、その後端側に上記第1凹曲面部8が連なることになって、これら凸凹曲線状切刃部16,17間で切刃5は軸線O方向先端視に緩やかに湾曲するS字状を呈することとなる。ただし、この切刃5には、先端逃げ面2が内周側から外周側に向かうに従いドリル本体1の後端側に向けて傾斜させられることにより先端角が付されており、これと切屑排出溝3が螺旋状に捩れていることとから、この切刃5の凸凹曲線状切刃部16,17が軸線O方向先端視においてなす上記S字状の凸凹曲線は、内壁面4の第1凸凹曲面部7,8が軸線Oに直交する断面においてなす凸凹曲線が、内周側に向かうに従いドリル回転方向T側に漸次ずれたような形状をなすこととなる。従って、この軸線O方向先端視において上記凸曲線状切刃部16は、その外周端15における接線が、上記断面において第1凸曲面部7がなす凸曲線の外周端13における接線よりも大きな傾斜で外周側に向かうに従いドリル回転方向T後方側に延びるようにされるとともに、マージン部6との交差角も第1凸曲面部7がなす鈍角より大きくされ、これにより切刃5が上記外周端15においてなす径方向すくい角αは負角側に設定される。
【0018】
一方、切屑排出溝3の内壁面4,9の先端側には、上記第1凹曲面部8の内周側から第2凹曲面部12および第2凸曲面部11までの先端逃げ面2との交差稜線部分を、ドリル本体1の後端側に向かうに従い切屑排出溝3の内側に向けて切り欠くようにして、ヒール部10に達するシンニング部18が形成されており、従って切刃5の内周端側は、このシンニング部18と先端逃げ面2との交差稜線部に形成されて、上記凹曲面状切刃部17の内周端から先端逃げ面2の中心の上記軸線Oに向けて延びるシンニング切刃部19とされている。なお、切刃5においてこのシンニング切刃部19と上記凹曲線状切刃部17とが交差する部分は、軸線O方向先端視にドリル回転方向Tに凸となる曲線または直線によって滑らかに接続されている。
【0019】
ここで、このシンニング部18のうち、切屑排出溝3の内壁面4,9に交差して先端側に延びる部分は第1シンニング部20とされており、この第1シンニング部20は、ドリル回転方向T後方側を向く切屑排出溝3の内壁面9と交差してヒール部10側に延びる部分においては平面状に形成される一方、この内壁面9とドリル回転方向T側を向く内壁面4とが交差する部分、すなわち上記第1、第2凹曲面部8,12の接点P3部分から、先端逃げ面2の中心に向けて延びる部分は、図3に示すようにこの先端逃げ面2の中心に向かう方向から見た場合に凹曲面状の谷形をなすように形成されており、その凹曲する谷底部21は、上記内壁面4,9に対してドリル本体1の内周側に後退するように傾斜しつつ、切刃5の内周端すなわちシンニング切刃部19の内周端に向けて先端側に延びるように形成されている。なお、この第1シンニング部20の凹曲する谷底部21がその断面においてなす凹曲線の曲率半径は、0.1〜0.5mmの範囲に設定されている。なお、この谷底部21の断面がなす凹曲線の曲率半径は、後端側に向かうに従い大きくなるようにされていてもよい。
【0020】
さらに、この第1シンニング部20の最先端の上記谷底部21が切刃5の内周端に達しようとする部分には、この谷底部21に対してさらにドリル本体1の内周側に後退するように一段傾斜しつつ切刃5内周端側に向けて延びる谷形の第2シンニング部22が形成されており、先端逃げ面2の中心の軸線O近傍においてはこの第2シンニング部22が先端逃げ面2に交差してその交差稜線部上に切刃5の内周端が形成される。ここで、この第2シンニング部22の谷底部の曲率半径は、第1シンニング部20の谷底部21の曲率半径よりも小さく、0.1mm未満とされており、場合によっては曲率半径が0、すなわちこの谷底部が凹湾曲しないV字谷状に形成されていてもよく、さらに第1シンニング部20の谷底部21と同様にドリル本体1の後端側に向かうに従い大きくなるようにされていてもよい。また、このように第1シンニング部20よりもさらに一段傾斜する第2シンニング部22と先端逃げ面2との交差稜線部に切刃5の内周端が形成されることにより、ドリル本体1先端の一対の切刃5,5間の間隔すなわち先端逃げ面2の中心に画成されるチゼルの幅は、第1シンニング部20をそのまま先端逃げ面2に交差させて切刃5の内周端を形成するのに比べて狭くなり、このチゼル幅は本実施形態では0〜0.2mmの範囲とされていて、すなわちこれら切刃5,5の内周端が軸線O上で一致するようにされていてもよい。
【0021】
そして、さらにこの切刃5は、該切刃5に直交する断面におけるそのすくい角γすなわち直角すくい角が、ドリル本体1の内周から外周側に向かうに従い漸次増大させられて該切刃5上の変移点Xに達し、この変移点Xよりも外周側では外周側に向かうに従い漸次減少させられるようにされている。すなわち、本実施形態では、図4ないし図9に示すように上記すくい角γは、切刃5上の1点において該切刃5に直交する断面をとったとき、この切刃5に連なってすくい面となる上記内壁面4の第1凸凹曲面部7,8が該断面においてなす曲線が軸線Oを含んで上記1点を通る基準面に対し該1点においてなす角度とされており、このすくい角γが図10に線Yで示すように、上記1点が切刃5に沿ってドリル本体1の内周側から外周側に向け移動したときには、該切刃5上の所定の位置に設定された上記変移点Xに至るまで漸次増大する傾向とされ、変移点Xで最大となり、この変移点Xを越えてさらに外周側に移動したときには変移してすくい角γが漸次減少する傾向となるようにされている。
【0022】
さらに、本実施形態ではこの変移点Xは、切屑排出溝3の内壁面4の上記第1凸凹曲面部7,8が軸線Oに直交する断面においてなす凸凹曲線の接点P1を螺旋状の切屑排出溝4に沿って先端側に延長した位置、すなわち図1に示すように切刃5の凹曲線状切刃部16と凸曲線状切刃部17との変曲点周辺の変曲部に位置させられている。因みに本実施形態では、上記変移点Xは、ドリル本体1の軸線Oから径方向外周側に向けて、この切刃5の回転半径r(=D/2)の82.6%の位置(rに対する比率xが0.826の位置)に配設され、図7に示すようにこの変移点Xで切刃5のすくい角γは33°と最大となる。
【0023】
なお、切刃5が、本実施形態のように上記凸凹曲線状切刃部16,17によってS字状に形成されている場合など曲線状である場合には、上記切刃5に直交する断面は上記1点におけるこの曲線の接線に直交する断面をとればよい。また、上述のように先端逃げ面2が内周側から外周側に向かうに従いドリル本体1の後端側に向けて傾斜させられることにより切刃5に先端角が付されている場合、この切刃5に直交する断面は上記1点から後端側に向かうに従い内周側に向けて傾斜させられて軸線Oに斜交する面となる。さらに、切刃5の内周端側にシンニング切刃部19が形成されている場合には、このシンニング切刃部19においてはすくい角γが上述のように外周側に向かうに従い漸増する傾向とならずともよい。すなわち、上記すくい角γはこのシンニング切刃部19を除いたドリル本体1の内周から外周側で上述のような漸増・漸減傾向を呈すればよく、より具体的には、ドリル本体1の上記芯厚dの大きさなどにもよるが、図10に示したように軸線Oからドリル本体1の径方向外周側に向けて、切刃5の外周端15が軸線O回りになす円の半径すなわち切刃5の回転半径r(=D/2)の37.5%の位置、すなわち軸線Oから0.375×rの位置(比率xが0.375の位置)よりも外周側でこのような傾向となればよい。
【0024】
従って、このように構成されたドリルにおいては、上記切刃5に直交する断面における該切刃5のすくい角(直角すくい角)γが、シンニング切刃部19を除いたドリル本体1の内周から外周側に向かうに従い漸次増大させられて該切刃5上の変移点Xに達するようにされているので、この変移点Xよりも内周側では、外周側に向かうに従い軸線Oからの回転半径が大きくなるために切削速度が漸次増大して切削抵抗も大きくなるのに対し、すくい角γも漸次大きくなってゆくため切刃5の切れ味を高めてゆくことができ、増大する抵抗を抑えることができてドリル本体1に過大なトルクが作用するのを防ぎ、ドリル本体1の折損や摩耗の進行を防止することができる。その一方で、この変移点Xよりも外周側では上記すくい角γは外周側に向かうに従い漸次減少させられるようにされているので、切刃5の刃先角は逆に漸次大きくなってゆくこととなり、このためドリル本体1の最も外周側に位置して最大の切削抵抗が作用する切刃5の外周端15側では、高い切刃強度を確保することができ、この部分におけるチッピングや欠け、あるいは逃げ面摩耗の早期の進行を防止することができる。このため、上記構成のドリルによれば、たとえ高速乾式切削となるような過酷な加工条件においても、これら摩耗や損傷によってドリル寿命が短縮されてしまうのを防ぐことができ、長期に亙って安定かつ円滑な穴明け加工を行うことが可能となる。しかも、本実施形態のドリルでは、この切刃5を含めたドリル本体1の先端部にTiN、TiCN、TiAlN等の硬質皮膜が被覆されているので、ドリル本体1の耐摩耗性の向上を図ることができ、これによってもドリル寿命の一層の延長を促すことが可能となる。
【0025】
なお、このように切刃5のすくい角γがドリル本体1の内周から外周側に向けて漸増傾向から漸減傾向へと変移する変移点Xは、これが切刃5上においてドリル本体1の内周側に位置しすぎていると、この変移点Xよりも内周側のすくい角γが外周側に向けて漸増傾向となる部分が短くなりすぎ、逆にすくい角γが外周側に向けて漸減傾向となる部分が長くなってしまうため、上記構成を採ることによる切削抵抗の低減効果が十分に奏功されなくなるおそれが生じる。しかしながら、かといってこの変移点Xが切刃5上においてドリル本体1の外周側に位置しすぎていると、上記とは逆にすくい角γが外周側に向けて漸減傾向となる部分が短くなり、特に高速乾式切削の場合において、最も大きな抵抗が作用する切刃5の外周端15側において十分な切刃強度を確保することが困難となるおそれが生じる。このため、この変移点Xの位置は、ドリル本体1の軸線Oから径方向外周側に向けて、切刃5の回転半径rすなわち切刃5の外径Dの1/2に対し、70〜90%の範囲内に位置させられるのが望ましい。
【0026】
ところで、本実施形態では上述のように、切刃5の外周端15側にドリル回転方向Tに凸となる曲線状をなす凸曲線状切刃部16が形成されるとともに、この凸曲線状切刃部16の内周側には逆にドリル回転方向Tの後方側に凹となる曲線状をなして上記凸曲線状切刃部16に滑らかに連なる凹曲線状切刃部17が形成されている。このため、上記凸曲線状切刃部16の外周側、すなわち最も大きな切削抵抗が作用する切刃5の外周側では、切刃5の径方向すくい角が外周側に向かうに従い漸次減少させられて負角側へ大きくされるために一層確実に切刃強度を確保することができるとともに、特にドリル本体1外周のマージン部6と切刃5との交差部の角度を大きくすることができるので、この交差部におけるドリル本体1の強度を向上させてチッピングや欠けの発生を防止することができる。その一方で、この凸曲線状切刃部16とその内周側に形成される上記凹曲線状切刃部17とは滑らかな連続して形成されているので、例えば切刃がその中間部で角度をつけてドリル回転方向の後方側に後退した外方コーナー切刃を有する上記特開2000−198011号公報記載のドリルのように上記中間部の内外周で切屑が分断されることがなく、凹曲線状切刃部17によって切屑を内周側に巻き込むようにして十分にカールさせ、円滑に処理することが可能となる。
【0027】
そして、さらに本実施形態では、このように構成された切刃5の凹曲線状切刃部17とが凸曲線状切刃部16とが滑らかに接して曲線が変曲する変曲点近傍の変曲部に上記変移点Xが位置するようにされていて、この変曲部で切刃5の上記すくい角γが外周側に向けて漸増傾向から漸減傾向へと変移するようにされている。しかるに、このように切刃5のすくい角γが変移する部分では、該切刃5に作用する切削抵抗も外周側に向けて漸減傾向から漸増傾向へと変移させられるため、この切削抵抗による切刃5への応力も集中しがちであるのに対し、本実施形態においてはこの変移点を上述のように凹凸曲する切刃5の凸凹曲線状切刃部16,17が滑らかに接する変曲部に位置させることにより、例えばこの変移点Xが凸曲線状切刃部16の回転方向Tに最も凸となる部分に位置していたり、逆に凹曲線状切刃部17の回転方向T後方側に最も凹んだ部分に位置していたりした場合に比べ、かかる応力を分散させることができて、応力集中により変移点Xの近傍で切刃5に損傷が生じたりするのを防止することが可能となる。
【0028】
なお、このように変移点Xを切刃5の変曲部に位置させる場合、本実施形態ではこの変曲部(変曲点)が上記内壁面4の第1凸凹曲面部7,8の接点P1の延長上に位置させられていて、このP1の位置が軸線Oを中心として切刃5の外径Dの2/3の直径を有する円よりも外周側、より望ましくは外径Dの5/6の直径を有する円よりも外周側に位置させられるとされているので、これと上述した変移点Xの切刃5の回転半径rに対する範囲とを勘案すると、この回転半径rに対して70〜83%の範囲内に位置させられるのがより一層望ましい。ただし、この変移点Xは必ずしも厳密に上記切刃5の変曲点と一致させられている必要はなく、上述のように凸曲線状切刃部16の回転方向Tに最も凸となる部分や凹曲線状切刃部17の回転方向T後方側に最も凹んだ部分に位置していたりしなければ、これらの部分の間の上記変曲点の近傍に配設されていてもよい。
【0029】
さらに、本実施形態における切刃5の上記すくい角γの変移は図10に線Yで示した通りであるが、本発明に係るドリルにおいては、この図10に示した線Aと線Bとで囲まれる範囲内ですくい角γが変移させられるのが望ましく、これを近似式で表すと、上記軸線Oからの径方向外周側に向けての上記切刃5の回転半径rの37.5%以上82.6%未満の範囲の位置では、回転半径rに対するこの位置の上記軸線Oからの半径の比率xについて次式1により近似される角度yの±7°の範囲において、また上記切刃5の回転半径rの82.6%以上100%までの範囲の位置では上記比率xについて次式2により近似される角度yの±7°の範囲において、それぞれ変移させられるのが望ましい。
【0030】
【数5】
【0031】
【数6】
【0032】
これは、すなわち、上述のように変移する切刃5のすくい角γが上記式1、2で得られる角度yの+7°の範囲を上回って、すくい角γが線Yに対し大きくなりすぎると、このすくい角γが大きくなった部分で切刃5の刃先角が小さくなりすぎ、特に高速乾式切削においては切刃強度を十分に確保することができなくなって切刃5に損傷が生じるおそれがあるからである。その一方で、逆にすくい角γの変移が式1、2の角度yの−7°の範囲を下回って、すくい角γが線Yに対し小さくなりすぎると、切削抵抗の低減が確実に図られなくなって切刃5の摩耗が促進されたり、過大なトルクが生じてドリル本体1の折損を招くおそれが生じる。このため、上記切刃5のすくい角γは、上述のように式1、2の角度yの±7°の範囲内とされるのが望ましいのである。
【0033】
ここで、次表1は、図10に線Yで示したすくい角γの変移をなす本実施形態のドリルYと、すくい角γの変移が式1、2の角度y+7°を上回るようにされたドリルA、逆にすくい角γの変移が式1、2の角度y−7°を下回るようにされたドリルB、およびこれらに対する比較例として上述した特許第2674124号公報に記載されたドリルEと特開2000−198011号公報に記載されたドリルFとで、それぞれ切削速度vc=80,150m/minで穴明け加工を行った場合の、ドリル寿命を比較したものである。また、図11は、図10と同様に本実施形態のドリルYにおける切刃5の位置に対するすくい角γの変移を示す線Yと、比較例の上記ドリルE,Fにおける切刃の位置に対するすくい角(直角すくい角)の変移を示す線E,Fとをまとめて表したものである。
【0034】
ここで、このときのドリルY,A,B,E,Fはいずれも切刃の外径Dが8mmのものであり、S50C材よりなる被削材に送り速度fr=0.2mm/revで穴深さld=25mmの貫通穴を明ける加工を行って、その寿命に至るまでの切削長によりドリル寿命を比較した。なお、これらの加工は、当初乾式により行っていたが、特にドリルE,Fでは切削速度vc=80m/minでも比較に至る間もなく損傷が生じて加工が不能となってしまったので、すべてのドリルについて水溶性切削油剤を用いた湿式切削とした。また、表1の結果として、○印で示されているのは切刃が正常摩耗を呈していて、しかも穴数4000(切削長にして約100m)を加工してもさらに継続して使用可能であったものであり、△印は正常摩耗を呈してはいるが○印のものよりは早期に寿命が費えたものであって、表中の括弧内は○印のものによる上記加工穴数に対する穴明け可能であった切削長を示している。一方、×印は、穴明け加工中に異常摩耗が生じてその時点で寿命が費えたものであり、その原因を合わせて記載してある。
【0035】
【表1】
【0036】
この表1の結果より、切削速度vc=80m/minと小さいときでも、比較のドリルE,Fではその寿命が実施形態のドリルYやドリルAの70%程度であり、切削速度vc=150m/minと大きくなっては、肩部すなわち切刃の外周端とマージン部との交差部分でのドリル本体の欠損や初期のドリル本体の折損によって早期に寿命が費えてしまった。ところが、これに対して実施形態によるドリルYでは、切削速度vc=80m/minの場合は勿論、vc=150m/minの高速切削の場合でも上記穴数では寿命に至ることはなく、またすくい角γの変移が上記線Aを上回ったり線Bを下回ったりしているドリルA,Bでも、すくい角γが外周側に向けて漸増傾向から漸減傾向に変移しているため、ドリルYよりは寿命は短いものの、ある程度の穴数を加工可能なドリル寿命の延長を図ることができている。因みに、実施形態のドリルYでは、上記と同じ課好条件の穴明けを乾式で行っても、上記穴数までは欠損や折損等の異常摩耗が生じることはなかった。
【0037】
なお、これらに加えて上記実施形態では、切屑排出溝3の先端側にシンニング部18が形成されていて、これにより切刃5の内周端側は先端逃げ面2の中心に向かうシンニング切刃部19とされており、このシンニング切刃部19と上記凹曲線状切刃部17とが交差する部分が両切刃部17,19に滑らかに連なる凸曲線状または直線状とされるとともに、シンニング切刃部19に連なる第1シンニング部20は谷底部21が凹曲した谷形とされているので、切刃5の全長に亙って上述のような折曲点が形成されることはなく、しかもこのシンニング切刃部19によって生成された切屑の内周側部分をも、図3に黒塗り矢線で示すように第1シンニング部20の谷底部21断面がなす凹曲線に沿って内周側に巻き込むようにカールさせることができる。このため、上記凹曲線状切刃部17によって切屑が内周側に巻き込まれるのと相俟って、一層の切屑処理性の向上を図ることができ、特に難削材の加工において効果的である。なお、本実施形態ではこの第1シンニング部20の谷底部21がなす凹曲線の曲率半径を0.1〜0.5mmとしているが、これは、この曲率半径がこれよりも大きいと上記切屑の内周側部分を十分に巻き込んでカールさせることができなくなるおそれがある一方、逆にこれよりも小さいとこの切屑の内周側部分がシンニング部18内において詰まりを生じるおそれがあるからである。
【0038】
また、このシンニング部18の先端には、第1シンニング部20の上記谷底部21からさらに一段傾斜して先端逃げ面2に達する第2シンニング部22が形成されていて、この第2シンニング部22と先端逃げ面2との交差稜線部上に切刃5の内周端が形成されており、しかもこの第2シンニング部22の溝底の曲率半径が0.1mm未満と上記谷底部21よりも小さくされていることから、この切刃5の内周端はより内周側に配置されることとなり、これによってチゼルの幅が0〜0.2mmと極短い幅とされている。このため、当該ドリルが加工物に食い付く際の食い付き性や直進安定性の向上を図ってさらに安定かつ高精度の加工を行うことができるとともに、ドリル本体1にその軸線方向に作用するスラスト力を抑えることことができて、ドリル駆動力の一層の軽減を促すことも可能となる。しかも、このようにシンニング部18が切刃5の内周端に向けて傾斜の大きくなる第1、第2の複数のシンニング部20,22によって形成されることにより、先端の第2シンニング部22の溝底に沿った断面におけるドリル本体1の先端角度は、単一のシンニング部の溝底を同じチゼル幅となるように傾斜させた場合に比べて大きくなるので、本実施形態によればこのドリル本体1先端の回転中心周辺における強度も十分に確保して、食い付き時の衝撃的負荷などによっても損傷の生じることのないドリルを提供することができる。ただし、第1シンニング部20だけでドリル本体1の食い付き性や直進安定性と強度とが確保できるのであれば、第2シンニング部22はなくてもよい。
【0039】
一方、このような凸凹曲線状切刃部16,17を備えた切刃5を形成するのに、本実施形態では、切屑排出溝3のドリル回転方向Tを向く内壁面4にこれら凸凹曲線状切刃部16,17にそれぞれ連なる第1凸凹曲面部7,8を形成しており、従ってこの切刃5によって分断されることなく幅方向に連続して生成された切屑は、全体的に内周側に巻き込まれて第1凹曲面部8に摺接しつつ押し付けられることによりさらに小さくカールさせられ、ドリル本体1の回転に伴い後端側に押し出されて排出される。さらに、この第1凹曲面部7の内周側には、ドリル回転方向T後方側を向く切屑排出溝3の内壁面9の第2凹曲面部12が、この第1凹曲面部7と滑らかに連なるように形成されており、この第2凹曲面部12は第1凹曲面部8とは逆にドリル回転方向Tに凹むように形成されているので、第1凹曲面部8によってさらに小さくカールされた切屑の流れを阻害することなく、上述のようにして円滑に排出される。しかも、本実施形態ではこの第2凹曲面部12の外周側にやはり滑らかに連なるように第2凸曲面部11が形成されており、従って切屑の流れがヒール部10側で阻害されることもなく、またこのヒール部10におけるドリル本体1の強度も確保することができる。
【0040】
さらに本実施形態では、これら第1、第2凹曲面部8,12の凹み量L1,L2を、第1凹曲面部8については軸線Oと内壁面4の外周端13とを結ぶ第1仮想直線S1から切刃5の外径Dに対して−0.06×D〜0の範囲となるように(ただし、ドリル回転方向T後方側が負)、また第2凹曲面部12については軸線Oにおいて上記第1仮想直線S1と直交する第2仮想直線S2から−0.06×D〜0.06×Dの範囲となるように(ただし、ドリル回転方向T側が負)それぞれ設定されており、これにより切屑を強すぎず弱すぎずに第1、第2凹曲面部8,12に摺接させて、適度なブレーキング作用を与えることができる。このため、過大なブレーキング作用によって切屑が潰れて円滑な排出性が損なわれたりドリル回転駆動力の増大を招いたりすることなく、しかしながら確実に切屑をカールさせて処理することができる。なお、このような作用効果をより確実に奏功せしめるには、本実施形態のように軸線Oに直交する断面において、第1凹曲面部8がなす凹曲線(凹円弧)の曲率半径R2は切刃5の外径Dに対して0.18〜0.35×Dの範囲に、また第2凹曲面部12の曲率半径R4は0.2〜0.5×Dの範囲に、それぞれ設定されるのが望ましい。
【0041】
また、本実施形態では、これら第1、第2凹曲面部8,12間においても、軸線Oに直交する断面において第2凹曲面部12がなす凹曲線の曲率半径すなわち上記半径R4が、第1凹曲面部8がなす凹曲線の曲率半径すなわち上記半径R2よりも大きくなるようにされており、従って切刃5によって生成された切屑を、まず比較的小さな半径R2の第1凹曲面部8に摺接させることにより、この切屑に十分な巻き癖をつけてカールさせるとともに、こうしてカールされた切屑を比較的大きな半径R4の第2凹曲面部12側に流出させることにより、この第2凹曲面部12においては切屑があまり強く押し付けられることがなくなり、より円滑な排出を促すとともにドリル回転駆動力の一層の軽減を図ることができる。しかも、これら第1、第2凹曲面部8,12がなす凹曲線が、本実施形態では1の上記接点P3で接して連続する凹曲線を描くようにされており、第1凹曲面部8から第2凹曲面部12への切屑の流れをよりスムーズにして、一層円滑な切屑排出を促すことが可能となる。
【0042】
ただし、このように第1、第2凹曲面部8,12を、その断面がなす凹曲線が1の接点P3で接して滑らかに連なるように形成する代わりに、例えば図12に示すように、これら第1、第2凹曲面部8,12の間に、軸線Oに直交する断面において第1凹曲面部8がなす凹曲線と第2凹曲面部12がなす凹曲線との双方に接点P4,P5で接する接線状をなす接続面23を形成して、この接続面23を介して両凹曲面部8,12が滑らかに連なるようにしてもよい。この場合にも、第1凹曲面部8によって巻き癖がつけられた切屑を、その流れを損なうことなく、しかもこの接続面23に強く押し付けてドリル回転駆動力の増大を招いたりすることもなく、第2凹曲面部12側に送り出して円滑に排出することが可能となる。また、その一方で、このような接続面23を第1、第2凹曲面部8,12間に介在させた場合には、これら第1、第2凹曲面部8,12の曲率半径R2,R4に制限されることなく切屑排出溝3の溝幅を設定することができるので、例えば上記とは逆に加工物の材質などに応じて第2凹曲面部12にも切屑を十分に摺接させてカールさせなければならない場合にその曲率半径R4を小さくしたとしても、溝幅は十分に大きく確保して円滑な切屑排出性を維持することも可能となる。
【0043】
さらに、本実施形態では、上記第1、第2凸曲面部7,11が上記断面においてなす凸曲線(凸円弧)の曲率半径R1,R3が、切刃5の外径Dに対してそれぞれ0.1〜0.8×Dの範囲に設定されており、これにより、ドリル本体1の内壁面4や切刃5の外周端13,15におけるマージン部6周辺の強度やヒール部10周辺における強度を十分に確保しつつ、第1、第2凹曲面部8,12の径方向の幅が小さくなりすぎるのを防いで、確実な切屑処理性の向上を図ることができる。なお、高速乾式切削のような条件下でも、このようにドリル本体1の強度確保と切屑処理性の向上とをより確実に両立させるには、本実施形態のように上記断面において第1凸凹曲面部7,8がなす凸凹曲線の接点P1を、軸線Oから切刃5の外径Dの2/3の直径の円より外周側に、より望ましくは外径Dの5/6の直径の円よりも外周側に位置させ、また切屑排出溝3の溝幅比を0.8〜1.2:1の範囲とするのが望ましい。
【0044】
さらにまた、本実施形態ではこのように切屑処理性の向上が図られてドリル回転駆動力の低減が図られるのに伴い、加工時にドリル本体1自体が受ける負荷も小さくなり、これによってその芯厚dも切刃5の外径Dに対して0.15×D〜0.3×Dと比較的小さな範囲に設定することができる。このため、上記ドリル本体1が受ける負荷のうち特にスラスト力を軽減させるとともに、切屑排出溝3の断面積を大きくしてさらに円滑な切屑排出を促し、これらによって穴明け加工時の動力の一層の軽減を図ることができる。その一方で、ドリル本体1の断面積は、上記曲率半径R1〜R4が上述のように適当な範囲に設定されることと、特に第1、第2凸曲面部7,11によって外周側で大きくなることとにより、必要かつ十分に確保することができ、従ってドリル本体1の剛性も維持することができるので、上述のように加工動力の一層の軽減が図られることとも相俟って、加工時に折損等が生じてドリル寿命が費えてしまうような事態をさらに確実に防止することが可能となる。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、切刃のすくい角がドリル本体の内周から外周側に向けて、この切刃上の変移点までは漸次増大させられ、この変移点よりも外周側では漸次減少させられているので、切刃全体の切れ味を良好に維持して切削抵抗の増大を抑えつつ、この切刃の特に大きな抵抗が作用する外周端側に高い切刃強度を与えることが可能となる。このため、たとえ高速乾式切削となる過酷な加工条件でもドリル寿命が早期に費えてしまうような事態を防止することができ、効率的な穴明け加工を円滑かつ安定して行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態を示す軸線O方向先端視の正面図である。
【図2】 図1に示す実施形態の軸線Oに直交する断面図である。
【図3】 図1に示す実施形態のシンニング部18を示すドリル本体1先端部の斜視図である。
【図4】 軸線Oから外周側に切刃5の回転半径rに対して0.500×rの位置(x=0.500の位置)において切刃5に直交する断面を示す斜視図である。
【図5】 軸線Oから外周側に切刃5の回転半径rに対して0.625×rの位置(x=0.625の位置)において切刃5に直交する断面を示す斜視図である。
【図6】 軸線Oから外周側に切刃5の回転半径rに対して0.750×rの位置(x=0.750の位置)において切刃5に直交する断面を示す斜視図である。
【図7】 軸線Oから外周側に切刃5の回転半径rに対して0.826×rの位置(x=0.826の位置)において切刃5に直交する断面を示す斜視図である。
【図8】 軸線Oから外周側に切刃5の回転半径rに対して0.925×rの位置(x=0.925の位置)において切刃5に直交する断面を示す斜視図である。
【図9】 切刃5の外周端15の位置(回転半径rに対して1.000×r、x=1.000の位置)において切刃5に直交する断面を示す斜視図である。
【図10】 実施形態の切刃5のすくい角γの変移を示す線Y、およびこの線Yに対して±7°となる線A,Bを示す図である。
【図11】 実施形態のドリルYの切刃5のすくい角γの変移を示す線Yと、比較例となるドリルE,Fのすくい角の変移を示す線E,Fとを合わせて示した図である。
【図12】 第1、第2凹曲面部8,12間に接続面23を形成した場合を示す断面図である。
【符号の説明】
1 ドリル本体
2 先端逃げ面
3 切屑排出溝
4,9 切屑排出溝3の内壁面
5 切刃
15 切刃5の外周端
16 凸曲線状切刃部
17 凹曲線状切刃部
19 シンニング切刃部
O ドリル本体1の軸線
T ドリル回転方向
γ 切刃5のすくい角(直角すくい角)
X 変移点
Claims (5)
- 軸線回りに回転されるドリル本体の先端部外周に後端側に向けて延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝のドリル回転方向を向く内壁面と上記ドリル本体の先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されてなるドリルであって、上記切刃は、この切刃に直交する断面におけるすくい角が、上記ドリル本体の内周から外周側に向かうに従い漸次増大させられて該切刃上の変移点に達し、この変移点よりも外周側では外周側に向かうに従い上記すくい角が漸次減少させられていることを特徴とするドリル。
- 上記変移点が、上記軸線から径方向外周側に向けて上記切刃の回転半径の70〜90%の範囲内に位置させられていることを特徴とする請求項1に記載のドリル。
- 上記切刃の外周端側には、上記ドリル回転方向に凸となる曲線状をなす凸曲線状切刃部が形成されるとともに、この凸曲線状切刃部の内周側には、ドリル回転方向の後方側に凹となる曲線状をなして上記凸曲線状切刃部に滑らかに連なる凹曲線状切刃部が形成されており、上記変移点はこの凹曲線状切刃部と上記凸曲線状切刃部との変曲部に位置させられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のドリル。
- 上記ドリル本体の少なくとも先端部の表面には、硬質皮膜が被覆されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のドリル。
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