JP3783315B2 - 核酸分析方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は核酸を用いた診断、核酸の特性評価法、分析方法、及びこれに用いるDNAプライマーセットに関する。
【0002】
【従来の技術】
DNAを病気の診断等に用いることが盛んになりつつある。この診断では、目的とするDNAと相補的な塩基配列をもつDNAプローブを作り、このDNAプローブが目的とするDNAとハイブリダイズするか否かをみるプローブ検査を行なったり、目的とするDNAの塩基配列の特定の領域を選び、2つのDNAプローブ(プライマー)を用いてPCR増幅により生成したDNA断片の塩基配列情報を得て診断等に用いている。これらの方法は1種類〜数種類のDNAを調べるのには良いが、非常に多数のDNA断片を含むDNAの検査や長いDNAの評価には適していない。しかし、生体内でのDNA又は遺伝子は相互に関連しながら働いており、染色体又は含まれる全てのDNAを総合して把握し評価したいという要求が強い。例えば、ゲノム解析プロジェクトの中で注目されているc−DNAプロジェクトでは、DNAが生体中で機能する場合、DNA情報はまずm−RNAに転写され、蛋白が合成され生体が機能する事に注目し、m−RNAからその相補鎖であるc−DNAを作り、c−DNAの種類と量の情報から生体を総合的に理解しようとする試みがなされている。
【0003】
細胞中で機能しているm−RNAに対応するc−DNAを分離し個々のc−DNAの塩基配列を決め、c−DNAの塩基配列が1つの組織に現われる頻度を調べている。このためにまず、m−RNAからc−DNAを作り(種々のc−DNAが混合した状態)目的とするc−DNAをクローニングする。c−DNAを含んだ大腸菌を寒天培地に撒き、培養しコロニーを得る。各コロニーには目的とするc−DNAのうち何れか1種類が入っているので、目的とするc−DNAを取り出し塩基配列を決定し、c−DNAの種類を同定する。次々に各コロニーに関してc−DNAの種類を同定していくと、同一種類のc−DNAが出現する。1つの組織中にある特定のc−DNAに注目した時、その量が多いほどその組織で強く発現している遺伝子に相当するので、コロニー中での出現頻度も高い。そこでc−DNAの塩基配列解析を多数のコロニーで行ない、どのc−DNAが何回出現するかの頻度を求めている(文献:K.Murakawa et.al.、Genomics、23、p379−p389(1994))。
【0004】
一方、ゲノム(全ての染色体中DNA)又は特定の染色体全体に注目し、DNA診断を行なう試みも行なわれている。Gene Scan法(制限酵素ランドマークゲノムスキャニング法)と呼ばれる分析法がある(文献:Y.Hayashizaki et.al.、「DNA多型(DNA POLYMORPHISM)」、vol.3、p10−p15(1995)(東洋書店))。この方法では、まずDNAを第1の制限酵素(例えば、NotI等の8塩基認識酵素(平均64k塩基に1回の頻度で切断される)を用いる)で切断し、切断部にラジオアイソトープ又は蛍光標識をしたヌクレオチドを結合し、アガロースゲルを用いて第1の方向に電気泳動する。泳動分離後、第2の制限酵素(例えば、4塩基認識酵素(平均256塩基に1回の頻度で切断される)を用いる)により、アガロースゲル中で泳動分離したDNA断片をさらに切断した後、第1の方向と直交する第2の方向に電気泳動し、2次元泳動パターンを得る。この2次元泳動パターンをフィンガープリントとして利用して、DNA全体の検査を行なう。正常細胞中のDNAとガン等の異常のある細胞のDNAとでは、2次元泳動パターンが異なることを利用して、診断に用いる等の試みがなされている。しかし、大きなDNAのどこに異常があるかを調べるには良い方法がないのが現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
以上説明したように、長塩基長のDNAを調べたり、複数種類のDNAが含まれる試料の全体像を把握し、検査することは、病気の早期発見、DNAが細胞中で果している機能の理解の上で重要であるが、従来技術では良い方法がないのが現状である。c−DNA解析に関する従来技術では、非常に多くのクローンに含まれる試料の塩基配列を決定する必要があり、手間と時間がかかるため種々の試料に適用するには現実的ではないという問題があった。また、従来のDNAプローブを用いる方法では、せいぜい数種類〜十種類のDNAを一度に分析できるだけで、数百〜数万種類にも及ぶc−DNAやDNA断片の検査には不向きであり、更に、どこに異常があるか不明な長いDNAの検査にも適用できないという問題があった。
【0006】
一方、従来技術のGene Scan法では長塩基長のDNAの検査ができるが、サンプルDNAの量を多く必要とすること、第1方向に泳動分離されたDNA断片を切断するために使用される第2の制限酵素の量が厖大であること、2次元泳動パターンの各DNA断片の位置が2つの電気泳動方向で常に定量的に得られず、2次元電気泳動分離された各DNA断片の長さが正確に決定できないため、フィンガープリントとしてデータベース化しにくい等の問題があった。本発明の目的は、これら従来技術の問題点を克服する新しいフィンガープリント法、DNA検査法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明では、まず2本鎖の試料DNAを2種類以上の制限酵素により切断し、複数種類の長さをもつ試料DNAに固有な2本鎖DNA断片群を生成する。2本鎖DNA断片の両側の3’末端に、既知塩基配列をもつオリゴヌクレオチドを結合し、DNAプライマーの一部がハイブリダイズできる領域を設ける。この領域と使用した制限酵素が認識する塩基配列及びそれに続く数塩基の位置にハイブリダイズするDNAプライマーセットを複数種用意する。DNAプライマーセットのプライマーの3’末端の1〜3塩基は、実質全ての塩基(A、T、G、C)の組合わせからなる、DNA断片の制限酵素の認識配列に続く1〜3塩基の配列を識別(分類)するための選択塩基配列である。使用する制限酵素の数と用意するDNAプライマーセットの数は同一である。各DNAプライマーセットのプライマーの組合わせの数に、2本鎖DNA断片群を分画して、各分画に異なるプライマーの組合わせを添加して、ハイブリダイズさせ相補鎖合成反応を行なう。各DNAプライマーセットのプライマーは蛍光体等で標識しておく。各分画で得た相補鎖合成反応生成物を別々の泳動路でゲル電気泳動分離し、各DNA断片の長さを測定してフィンガープリントを得る。
【0008】
2本鎖DNA断片群が多数のDNA断片を含み、長さが識別しにくい場合でも、ほとんどの場合、各DNA断片は制限酵素切断部に続く塩基配列が異なる。そこでDNA断片の制限酵素切断部に続く塩基配列の違いを利用してDNA断片の分類を行なう。DNA断片を分類するには、3’末端の1塩基〜3塩基が全ての組合わせの塩基配列をもつ、4種類〜64種類のDNAプライマーを用いて相補鎖合成反応を行なう。DNAプライマーの末端2塩基〜3塩基がDNA断片に完全にハイブリダイズしている時は、相補鎖合成反応が進行するが、そうではないときは反応は進行しない。
【0009】
m−RNAから2本鎖c−DNAを作製する場合には、ビオチン化オリゴdTを含むプライマーを用いて、m−RNAの3’末端側に相補鎖結合させて、DNAポリメラーゼにより2本鎖c−DNAを調製する。なお、キャップ構造を利用してm−RNAの5’末端側に相当するc−DNA末端にビオチンを入れて同様の操作により2本鎖c−DNAを調製してもよい。この2本鎖c−DNAを2つの分画に分け、各分画に第1及び第2の制限酵素を添加して2本鎖c−DNAを切断する。ビオチンが結合した断片以外を除去し、切断されたDNA末端にそれぞれ第1及び第2のオリゴヌクレオチドを結合させる。
【0010】
次いで、第1の制限酵素を添加した分画に第2の制限酵素を添加し、第2の制限酵素を添加した分画に第1の制限酵素を添加して再切断を行ない、切断部にそれぞれ第1及び第2のオリゴヌクレオチドを結合させる。ビオチンが結合した断片を除去すると、第1及び第2の制限酵素により両末端が切断され、第1及び第2のオリゴヌクレオチドにより挟まれたDNA断片が生じる。即ち、両末端が異なる制限酵素により切断された断片が生じる。各制限酵素の認識配列の一部又は全部に相補結合する各DNAプライマーセットのプライマー(標識されている)の組合わせを用いて相補鎖合成を行なうと、両末端が異なる制限酵素により切断されたDNA断片のうち、プライマーの末端塩基がハイブリダイズしたDNA断片のみで反応が進行する。
【0011】
相補鎖合成されたDNA鎖は元のDNA断片鎖と実質的に同じ長さであるので、ゲル電気泳動分離等によりDNA鎖の長さを計測できる。1度の相補鎖合成反応では合成されるDNA断片が検出感度に満たない場合には、耐熱性DNAポリメラーゼを用いて複数回の相補鎖合成反応を行ない、合成されるDNA断片の量を増幅できる。この場合、プライマーの末端塩基配列を変化させ、相補鎖合成するか否かをコントロールできる。この3’末端の塩基配列を選択配列と呼ぶが、選択配列をもち第1及び第2のオリゴヌクレオチドに相補的なプライマーを用いて、特定のDNA断片だけを選択的に増幅できる。例えば、選択配列として2塩基を用いると、DNA断片を42×42=256の種類に分類して得ることができる。
【0012】
この256の種類に分類されたDNA断片を、種類毎とに異なる泳動路で電気泳動してフィンガープリントパターンを得る。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による長い核酸の検査を可能とするフィンガープリント法を提供する核酸分析方法を図を用いて詳細に説明する。
【0014】
(第1の実施例)
図1は、複数種類の制限酵素を用いて、試料DNAからDNA断片混合物の作成し、第1、第2のDNAプライマーセットを用いた相補鎖合成反応により、制限酵素の認識配列の全部又は認識配列の3’末端側の一部に相補な塩基配列に続く所定の2塩基の塩基配列を5’末端側にもつDNA断片を得る手順を説明する図である。第1の実施例では、試料DNAとして、大腸菌ゲノムDNA1(〜5Mb)を用いる。NotI(8塩基認識制限酵素であり、塩基配列GCGGCCGCを認識する)の認識配列は平均64kbに1回出現するので、大腸菌ゲノムDNA1をNotIにより切断すると、約100本の2本鎖DNA断片2−1、2−2、2−3、……が生じる。生じた2本鎖DNA断片2の両末端(即ち、NotIによる切断部位)に、2本鎖のビオチン化オリゴヌクレオチド(既知塩基配列をもつ)100を結合してDNA断片3−1、3−2、……を得る(以下、各図ではビオチンを簡単のためにbで表わす)。2本鎖のビオチン化オリゴヌクレオチド(第1のオリゴヌクレオチド)100は、5’末端がビオチン化された1本鎖オリゴヌクレオチド(塩基長は10〜30が望ましい)10と、オリゴヌクレオチド10に相補な塩基配列101とNotIの認識する塩基配列に相補な塩基配列(CGCCGGCG)102の全て又は一部とを5’末端にもつ1本鎖オリゴヌクレオチド11からなる。
【0015】
次いで、制限酵素NlaIII(4塩基認識酵素であり、塩基配列CATGを認識する)により、DNA断片3−1、3−2、……をさらに切断する。NlaIIIの認識配列は平均256塩基に1回出現するので、各DNA断片3−1、3−2、……は両末端近傍で切断される。制限酵素NlaIIIにより断片化されたDNA断片4−1、4−2、……、4−n、4’−1、4’−2、……、4’−mの両末端(即ち、NlaIIIによる切断部位)に、2本鎖の第2のオリゴヌクレオチド110を結合する。2本鎖の第2のオリゴヌクレオチド(既知塩基配列をもつ)110は、1本鎖オリゴヌクレオチド12(塩基長は10〜30が望ましい)と、オリゴヌクレオチド12に相補な塩基配列111とNlaIIIの認識する塩基配列に相補な塩基配列(GTAC)112の全部又は一部とを5’末端にもつ1本鎖オリゴヌクレオチド13からなる。この結果、両末端に第2のヌクレオチド110をもつDNA断片4”−1、4”−2、……と、一方の末端に第1のオリゴヌクレオチド100をもち、他方の末端に第2のオリゴヌクレオチド110をもつDNA断片5−1、5−n、……が生成される。
【0016】
これら生成物から、ビーズ14に結合したアビジン15を用いて、一方の末端に第1のオリゴヌクレオチド100をもち、他方の末端に第2のオリゴヌクレオチド110をもつDNA断片5−1、5−n、……を捕捉する。以上のようにして得られる断片の総数は、NotIにより切断された1つの断片の両末端近傍が切断され2つの断片を得るので約200となる。
【0017】
次いで、捕捉された断片を昇温変性又はアルカリ変性させてビオチンbを含まない相補鎖(DNA断片)6(6−1、6−2、6−3、……)を遊離させる。このようにして得た相補鎖6は、3’末端側に、オリゴヌクレオチド10に相補な塩基配列101とNotIの認識する塩基配列に相補な塩基配列(CGCCGGCG)102を5’末端にもつ1本鎖オリゴヌクレオチド11をもち、5’末端側に、オリゴヌクレオチド12に相補な塩基配列111とNlaIIIの認識する塩基配列に相補な塩基配列(GTAC)112を5’末端にもつ1本鎖オリゴヌクレオチド13をもつ断片である。
【0018】
NotIの認識配列全て又はNotIの認識配列の3’末端側の一部からなる、塩基配列16−1と、この塩基配列16−1に続く2塩基からなる選択配列16−2をもつ第1のDNAプライマーセットのプライマー16−▲1▼、16−▲2▼、……を用意する(図1では16−▲1▼のみを示す)。この第1のDNAプライマーセット16は、3’末端の2塩基の選択配列の塩基配列が異なる16種類のプライマーから構成されている。即ち、3’末端の2塩基の選択配列の塩基配列は、A、T、G、Cからの2塩基の全ての組合わせに対応した4×4=16通りある。同様にして、NlaIIIの認識配列全て又はNlaIIIの認識配列の3’末端側の一部からなる、塩基配列17−1と、この塩基配列17−1に続く2塩基からなる選択配列17−2をもつ第2のDNAプライマーセットのプライマー17−▲1▼、17−▲2▼、……を用意する(図1では17−▲1▼のみを示す)。第2のDNAプライマーセット17も第1のDNAプライマーセット16と同様に、3’末端の2塩基の選択配列の塩基配列が異なる16種類のプライマーから構成されている。なお、第1のDNAプライマーセット16の各プライマーは5’末端を蛍光標識(蛍光標識を*で示す)しておく。
【0019】
相補鎖6を含む溶液を256個の容器(図示せず)に分注して、256個の容器の各々に、第1のDNAプライマーセット16から選ばれた1種類のプライマーと、第2のDNAプライマーセット17から選ばれた1種類のプライマーとを添加する。第1、及び第2のDNAプライマーセットからのプライマーの種類の選択は、第1、及び第2のDNAプライマーセットのプライマーの組合わせの合計16×16=256通りについて行なう。各容器には異なる組合わせにより選択された2種類のプライマーが添加される。即ち、第1のDNAプライマーセット、第2のDNAプライマーセットとともに16種類であるから、プライマーの組合わせは16×16=256通りであり、この256通りのプライマーの組合わせで、256個の容器内で相補鎖6の相補鎖合成反応を行なう(図1では簡単のために1つの容器についてのみ図示する)。この相補鎖合成反応では、まずDNA断片6−i(−鎖)に対して、第1のDNAプライマーセット16のプライマー16−▲1▼をプライマーとして伸長反応が進行し、2本鎖が生成する。この2本鎖が昇温変性されて1本鎖となった+鎖に対して、第2のDNAプライマーセット17のプライマー17−▲1▼が、−鎖に対して第1のプライマーセット16のプライマー16−▲1▼が、それぞれプライマーとして伸長反応が進行し、2本鎖が生成する。このようにして得た相補鎖合成反応生成物をゲル電気泳動してスペクトルを測定する。ゲル電気泳動では変性ポリアクリルアミドを使用して、256個の容器内での相補鎖合成反応生成物は、容器に対応する256個の泳動路で1本鎖の状態で電気泳動分離される。なお、第1のDNAプライマーセット16の各プライマーの5’末端の蛍光標識として、異なる4種類を使用する場合には、異なる4種類の蛍光標識をもつ第1のDNAプライマーセット16のプライマーを使用する相補鎖合成反応は同一の容器で行なうことができ、64個の容器内での相補鎖合成反応生成物は、容器に対応する64個の泳動路で1本鎖の状態で電気泳動分離できる。
【0020】
図2は、上記の相補鎖合成反応生成物のDNA断片のゲル電気泳動スペクトルの一部を示す図である。図2において、21は上記の相補鎖合成反応生成物の全てのDNA断片を同時に電気泳動分離した場合のスペクトル、22は上記の容器毎の相補鎖合成反応生成物のDNA断片によるスペクトル、16−2、17−2は使用したプライマーの選択塩基部分の塩基配列、24はDNA断片の塩基長を表わす。また、R1、R2はそれぞれ、第1のDNAプライマーセット16のプライマー16−▲1▼、16−▲2▼、……の5’末端側にあるNotIの認識配列の一部又は全ての塩基配列、第2のDNAプライマーセット17のプライマー17−▲1▼、17−▲2▼、……5’末端側にあるNlaIIIの認識配列の一部又は全ての塩基配列である。全てのDNA断片の長さを同一の泳動路で同時に測定すると、スペクトル21のように多くのピークが重なって各DNA断片が分離ができず分析不可能になる。スペクトル22は、各々第1、第2のDNAプライマーセットのプライマーの選択配列(各DNA断片を識別する)2塩基16−2、17−2の組合わせを、変化させて相補鎖合成反応を行ない、DNA断片の両末端の塩基配列により識別を行ない、選択配列16−2、17−2の組合わせ毎に異なる泳動路でDNA断片をゲル電気泳動分離したスペクトルである。DNA断片群を選択配列16−2、17−2の組合わせ毎に分離してスペクトルを得ているので各ピークは分離しており、スペクトルに含まれるDNA断片の長さ(塩基長24)を知ることができる。第1の実施例の場合、第1、第2のDNAプライマーセットの256通りのプライマーの組合わせを使用して相補鎖合成反応を行なっているので、256通りのelectropherogram(DNA断片スペクトル)が得られるが、このDNA断片のelectropherogramは元のDNA試料に固有のものであり、試料DNAが異なると別の異なるパターンを示すので、DNAの診断等に広く使用できる。即ち、第1、第2のDNAプライマーセットのプライマーによる選択配列の複数通りの組み合せにより(図2では、一方の選択配列をAAと固定して、他方の選択配列をAA、AC、AG、…、TG、TTからなる16通りに変化させた組合わせの例を示す)、試料DNAをより正確に分析できる。 なお、実施例1において、DNA断片4”−1、4”−2、……、DNA断片5−1、5−n、……の生成に引き続いて、制限酵素MboI(4塩基認識酵素であり、塩基配列GATCを認識する)により、DNA断片4”−1、4”−2、……、DNA断片5−1、5−n、……をさらに切断してもよい。この場合には、制限酵素MboIにより断片化されたDNA断片の両末端(即ち、制限酵素MboIによる切断部位)に、2本鎖の第3のオリゴヌクレオチドを結合してもしなくてもよい。このように第3番目の制限酵素によるDNA断片の切断を行なう場合、例えば、第3番目の制限酵素が図1に示す5−1、5−nを切断した場合、図1において相補鎖合成反応を行っても2本鎖DNA断片が得られないので、相補鎖合成反応生成物の電気泳動パターン(electrophoreogram)が単純となるので、フインガープリントパターンの識別が容易となり、試料の分析がより正確となるという効果がある。
【0021】
(第2の実施例)
第2の実施例はm−RNAの分析に利用した例である。
【0022】
図3は、本発明の第2の実施例で使用する、m−RNAから2本鎖c−DNAを合成して試料DNAを得る従来技術の反応の手順を説明する図、図4は、本発明の第2の実施例において、2種類の制限酵素により試料DNAを切断し、2種類のDNAプライマーセットを用いて相補鎖合成反応により、制限酵素の認識配列に続く所定の1塩基を有する塩基配列を5’末端側にもつDNA断片を得る手順を説明する図である。
【0023】
図3は、本発明の第2の実施例で使用する、m−RNAから2本鎖c−DNAを合成する従来技術(文献:S.Sugano et.al.、「蛋白質核酸酵素(PROTEIN NUCLEIC ACID AND ENZYME)」、vol.38、No.3、p276−p281(1993)(共立出版))の反応の手順を説明する図である。図3に示すように、細胞から抽出したm−RNAは、3’末端にポリA尾部33をもち、5’末端にキャップ塩基31及びリン酸基32をもつ完全長m−RNA34−1と、5’末端にリン酸基32をもつ不完全長m−RNA35−1とを含む。まず、m−RNA34−1、35−1をバクテリアアルカリフォスファターゼで処理して、キャップ構造をもたない不完全長のm−RNA35−1の5’末端のリン酸基32を除去し、m−RNA35−1を、水酸基36を露出させた構造35−2に変化させる。
【0024】
次いで、タバコアシッドピロフォスファターゼで処理して、キャップ構造をもつ完全長m−RNA34−1の5’末端にだけリン酸基32を露出させ、m−RNA34−1を、リン酸基32を露出させた構造34−2に変化させる。次に、RNAリガーゼを用いて、m−RNA34−2の5’末端に合成RNAオリゴヌクレオチド37を導入したm−RNA34−3を得る。RNAリガーゼはリン酸基にRNAオリゴヌクレオチドを結合し、5’末端の水酸基にはRNAオリゴヌクレオチドを結合しないので、完全長m−RNA34−2にのみに合成オリゴヌクレオチドが結合する。
【0025】
以上のようにして完全長のm−RNA34−1にのみ合成オリゴヌクレオチド37を導入した後に、オリゴdTプライマー、リバーストランスクリプターゼを用いて、m−RNAをc−DNA38に変換する。さらに、DNAポリメラーゼを用いてc−DNA38の2本鎖を合成して、細胞から抽出した各種のm−RNAに関してそれぞれ得られた2本鎖c−DNA39の混合物を2本鎖の試料DNA40として得る。
【0026】
図4は、2種類の制限酵素により2本鎖の試料DNAを切断し、2種類のDNAプライマーセットを用いて相補鎖合成反応により、制限酵素の認識配列に続く所定の1塩基を有する塩基配列を5’末端側にもつDNA断片を得る手順を説明する図である。図4に示す方法は、単一の長い2本鎖DNA試料にも適用できることは言うもない。まず、2本鎖c−DNAの混合物からなる2本鎖の試料DNA40を、制限酵素NlaIIIとHhaIにより断片化する。制限酵素NlaIII、HhaIは各々、2本鎖DNAをCATG↓、GCG↓Cのように切断する。切断により生成する各断片の3’末端は、NlaIIIで切断された場合には、CATG(NlaIII切断末端)46、HhaIで切断された場合には、GCG(HhaI切断末端)47となる。50は、各制限酵素の認識配列部位(NlaIII切断末端、HhaI切断末端)に続く5’末端側の1塩基であり、Nは、A、T、G、Cの何れかを表す。各DNA断片41−1、41−2、41−3、……の3’末端に、ライゲーションによりオリゴヌクレオチドを導入するか、又はターミナルヌクレオチジルトランスフェラーゼを用いポリ鎖(ポリA鎖、ポリC鎖、ポリG鎖、ポリT鎖いずれか1種類)を付加する。以下では、ポリA鎖42を付加する場合を例にとって説明する。
【0027】
DNA断片の3’末端にポリA鎖42を付加すると、41’−1、41’−2に示すように、NlaIIIで切断された3’末端の塩基配列はCATGAA…A3’となり、41’−3に示すように、HhaIで切断された3’末端の塩基配列はGCGAA…A3’となる。
【0028】
2組のDNAプローブ(プライマー)セット49’、49”を用意する。DNAプライマーセット49’、49”の各プライマーは蛍光体等により標識されている。NlaIIIによる切断部位に相補鎖結合可能なプライマーとして、塩基配列が5’T…TTCATGX3’(X=AorCorGorT)であるプライマーの4種類からなる第1のDNAプライマーセット(R1−X、R1=*T…TTCATG、*は蛍光標識を表す)を用意する。HhaIによる切断部位に相補鎖結合可能なプライマーとして、塩基配列が5’T…TTCGCX3’(X=AorCorGorT)であるプライマーの4種類からなる第2のDNAプライマーセット(R2−X、R2=*T…TTCGC、*は蛍光標識を表す)を用意する。
【0029】
第1のDNAプライマーセットのプライマーの5’末端からCATGまでの塩基配列はNlaIIIにより切断されたDNA断片の全てと相補的であるので、NlaIIIにより切断されたDNA断片の末端にハイブリダイズするが、塩基配列Xの部分は、塩基Xに相補な塩基をもつ断片にだけハイブリダイズする。例えば、X=Aの場合には、塩基Xの部分は塩基Nの部分50が相補な塩基Tをもつ断片にだけハイブリダイズする。塩基Nの部分50が相補な塩基でない場合には、52のように塩基Xの部分がハイブリダイズしない。同様に、第2のDNAプライマーセットのプライマーの5’末端からCGCまでの塩基配列はHhaIにより切断されたDNA断片の全てと相補的であるので、HhaIにより切断されたDNA断片の末端にハイブリダイズするが、塩基配列Xの部分は、塩基Xに相補な塩基をもつ断片にだけハイブリダイズする。塩基Xが完全にハイブリダイズしたか否かは、ハイブリダイゼーションの安定性を見るだけでは明確にわからない。それは、DNAプライマーの殆どの部位がどの断片ともハイブリダイズする共通部分を有し、末端の数塩基部分だけのハイブリダイゼーションの安定性の差では十分大きな差にならないからである。しかし、DNAポリメラーゼを用いた相補鎖合成反応を用いることにより、末端数塩基が完全にハイブリダイズしているか否か見分けることができる。
【0030】
2種類の制限酵素により切断されたDNA断片の3’末端にポリA鎖42を付加した断片を含む溶液を16個のフラクション55(55−1、55−2、……、55−16のうち55−2、55−3を図示する)に分割する。16個のフラクション55−1、55−2、……、55−16には、第1のDNAプライマーセット49’(R1−X:X=AorCorGorT)のプライマーと、第2のDNAプライマーセット49”(R2−X’:X’=AorCorGorT)のプライマーとの異なる16種類の組合わせからなる2種類のプライマーを、16種類の組合わせに対応させて16個のフラクションに添加して、相補鎖合成反応を行なう。図4では、フラクション55−2に添加する2種類のプライマー(49−2)(R1−C、R2−T)と、フラクション55−3に添加する2種類のプライマー(49−3)(R1−A、R2−T)とを示す。プライマーはDNA断片にハイブリダイズするが、両方の3’末端が完全に51(塩基Nの部分が完全にハイブリダイズした状態)のようにハイブリダイズしたプライマーだけが、相補鎖伸長して伸長した相補鎖を形成する。片方の3’末端だけが52(塩基Nの部分がハイブリダイズしていない状態)のようにハイブリダイズしたプライマーは、相補鎖伸長せず伸長した相補鎖を形成しない。
【0031】
相補鎖合成反応をnサイクルを行なうことによって、DNA断片と同じ長さの相補鎖53は2n倍に増幅される。プライマーが片方の3’末端だけが完全にハイブリダイズしている場合(52)には、相補鎖合成をnサイクル行なっても相補鎖はn倍に増幅されるだけなので、両方の3’末端が完全にハイブリダイズした場合とは容易に区別できる。プライマーは、例えば、蛍光標識してあるので、伸長した相補鎖の長さを蛍光式ゲル電気泳動装置を用いて知ることができる。
【0032】
あとは第1の実施例の場合と同様に、各フラクションから得た相補鎖合成反応生成物を別々の泳動路で電気泳動して、即ちプライマーの組合わせ毎に対応して別々の泳動路で電気泳動して、ゲル電気泳動スペクトルを比較することによって、試料DNAの分析ができる。この場合、プライマーの組合わせは4×4=16通りであるので、16種類のDNA断片スペクトルが得られる。このDNA断片のスペクトルは、元のm−RNAに固有であるので、分析だけでなくm−RNAの診断等にも使用できる。なお、第1のDNAプライマーセットの各プライマーの5’末端の蛍光標識として、異なる4種類を使用する場合には、異なる4種類の蛍光標識をもつ第1のDNAプライマーセットのプライマーを使用する相補鎖合成反応は同一の容器で行なうことができ、4個の容器内での相補鎖合成反応生成物は、容器に対応する4個の泳動路で1本鎖の状態で電気泳動分離できる。
【0033】
第2の実施例において、3種類の制限酵素により2本鎖の試料DNAを切断し、3種類のDNAプライマーセットを用いて相補鎖合成反応により、制限酵素の認識配列に続く所定の1塩基を有する塩基配列を5’末端側にもつDNA断片を得ることもできる。この場合、第1、第2のDNAプライマーセット(R1−X、R2−X:X=AorTorGorC)に加えて、第3のDNAプライマーセット(R3−X:X=AorTorGorC)を使用する。3種類の制限酵素により切断されたDNA断片の3’末端にポリA鎖42を付加した断片を含む溶液を、蛍光標識された第1、第2、第3のDNAプライマーセット(R1−X、R2−X、R3−X、:X=AorTorGorC)の各プライマーの組合わせ、即ちR1−XとR2−Xに組合わせ16通り、R1−XとR3−Xに組合わせ16通り、R2−XとR3−Xに組合わせ16通りの合計48通りに対応する48個のフラクションに分割した後に、上記と同様の処理を行ない、各フラクションから得た相補鎖合成反応生成物を別々の48の泳動路で電気泳動して、即ちプライマーの組合わせ毎に対応して別々の泳動路で電気泳動して、ゲル電気泳動スペクトルを比較することによって、試料DNAの分析ができる。この場合、プライマーの組合わせは48通りであるので、48種類のDNA断片スペクトルが得られる。このDNA断片のスペクトルは、より詳細なm−RNAの分析だけでなくm−RNAの診断等に使用できる。
【0034】
図4で説明した第1、第2のDNAプライマーセット(R1−X、R2−X:X=AorTorGorC)の代わりに、それぞれR1−XY、R2−ZW(X、Y、Z、Wは、A、T、G、Cに何れかである)の塩基配列をもつプライマーから構成される第1、第2のDNAプライマーセットを用いてもよい。このような第1、第2のDNAプライマーセットは、第1の実施例で説明したように、塩基X及びYの組合わせの16種類、塩基Z及びWYの組合わせの16種類からなり、プライマーの組合わせは16×16=256通りである。従って、2種類の制限酵素により切断されたDNA断片の3’末端にポリA鎖42を付加した断片を含む溶液を256個のフラクションに分割した後に、上記と同様の処理を行なう。このような処理を行ない、256の泳動路で電気泳動を行なった結果、図2に示したのと全く同様の結果を得ることができる。なお、第1のDNAプライマーセットの各プライマーの5’末端の蛍光標識として、異なる4種類を使用する場合には、異なる4種類の蛍光標識をもつ第1のDNAプライマーセットのプライマーを使用する相補鎖合成反応は同一の容器で行なうことができ、64個の容器内での相補鎖合成反応生成物は、容器に対応する64個の泳動路で1本鎖の状態で電気泳動分離できる。
【0035】
以上のように、複数種類の制限酵素により試料DNAを切断し、複数種類のDNAプライマーセットを用いて相補鎖合成反応により、制限酵素の認識配列全て又は認識配列の3’末端側の一部に相補な塩基配列に続く所定の塩基配列を5’末端側にもつDNA断片を分離して得ることができ、試料DNAから得る複数種類のDNA断片スペクトルが得られる。このDNA断片のスペクトルは、より詳細な試料DNAの分析だけでなく診断等に使用できる。
【0036】
(第3の実施例)
第3の実施例は、細胞からポリA尾部を利用して抽出したm−RNAの分析に本発明を利用した例を示す。
【0037】
図5は、本発明の第3の実施例であり、m−RNAから調整した2本鎖c−DNA混合物を2種類の制限酵素により切断し、相補鎖合成反応により、制限酵素の認識配列に続く所定の塩基配列を5’末端側にもつDNA断片を得る手順を説明する図である。従来技術(文献:Sambrook et.al.、MOlecular Clonong a laboratory manual 2nd edition、7.1〜7.36(1987)(Cold SpringHarbor Laboratory Press))に従って、培養細胞を1%SDSを含むバッファーで処理して細胞膜を破壊した後、proteinaseKで処理し、遠心分離を行なって細胞中の核酸を抽出する。オリゴdTカラムを用いて核酸成分からポリA尾部をもつ成分、即ちm−RNA60(混合物)を得る。m−RNA60からリバーストランスクリプターゼ、ビオチン化オリゴdTプライマー70、DNAポリメラーゼを用いて、2本鎖c−DNA61(混合物)を調整する。得られた2本鎖c−DNA61(混合物)を分画A(62)、分画B(63)に分ける。分画A(62)の2本鎖c−DNAを制限酵素NlaIIIで切断し、分画B(63)の2本鎖c−DNAを制限酵素HhaIで切断する。
【0038】
切断生成物のうち、ビオチンbを含む2本鎖c−DNAのNlaIIIによる切断断片64、ビオチンbを含む2本鎖c−DNAのHhaIによる切断断片65をビーズに結合したアビジン71を用いて捕捉し、ビオチンbを含まない2本鎖c−DNAのNlaIIIによる切断断片66、ビオチンbを含まない2本鎖c−DNAのHhaIによる切断断片67を除去する。各分画中の2本鎖c−DNAの末端に各制限酵素の切断部位に相補結合する既知塩基配列をもつ2本鎖オリゴヌクレオチド72(NlaIII切断部位に相補結合する)、73(HhaI切断部位に相補結合する)を結合させる。
【0039】
分画A(62)の2本鎖c−DNAを制限酵素HhaIで切断し、分画B(63)の2本鎖c−DNAを制限酵素NlaIIIで切断する。各分画からビーズを除去して、ビーズに結合したアビジン71とビオチンbとの結合により、ビーズに捕捉された2本鎖c−DNAを各分画から除いて、ビーズに捕捉されていないHhaIによる切断断片68、ビーズに捕捉されていないNlaIIIによる切断断片69を各分画に残す。各制限酵素の切断部位に相補結合する既知塩基配列をもつ2本鎖オリゴヌクレオチド72、73を結合させた、2本鎖c−DNA断片81、81’を得る。
【0040】
制限酵素認識部位が、3’末端側からNlaIII、HhaIの順に存在する2本鎖c−DNAでは、分画Bにおいて2種類の制限酵素部位で切断された2本鎖c−DNA断片81が得られ、逆に、HhaI、NlaIIIの順に存在する2本鎖c−DNAでは、分画Aにおいて2種類の制限酵素部位で切断された2本鎖c−DNA断片81’が得られる。なお、両末端とも同一の制限酵素で切断された2本鎖c−DNA断片80が生じることもあるが、このような断片は、以下で行なう相補鎖合成反応で区別できる。
【0041】
後は、分画A、分画Bから得られた2本鎖c−DNA断片を混合あわせ、第1、又は第2の実施例と同様に、第1のDNAプライマーセット(制限酵素NlaIIIの認識配列に相補な塩基配列部分をもつ)、第2のDNAプライマーセット(制限酵素HhaIの認識配列に相補な塩基配列部分をもつ)を用いて相補鎖合成反応を行ない、第1、第2のDNAプライマーセットのプライマーの組合わせに対応して、相補鎖合成反応生成物を別々の泳動路で電気泳動分離して泳動スペクトルを測定して、DNAの分析等に使用する。第1の実施例で説明した16種類からなるDNAプライマーセットを用いる場合には、得られる泳動スペクトルは16×16=256通りとなり、第2の実施例に示した4種類からなるDNAプライマーセットを用いる場合には、得られる泳動スペクトルは4×4=16通りとなる。また、選択配列を1塩基として第1のDNAプライマーセットを4種類からなるプライマーから構成し、選択配列を2塩基として第2のDNAプライマーセットを16種類からなるプライマーから構成する場合には、第1、第2のDNAプライマーセットのプライマーの組合わせは4×16=64通りになるので、得られるDNA断片の電気泳動スペクトルは64通りとなる。
【0042】
以上説明したように、従来技術のDNAプライマーを用いるDNA診断方法では、せいぜい数種類〜十種類のDNA断片を一度に調べられるだけで、数百〜数千種類にも及ぶc−DNAやDNA断片の検査には不向きであり、どこに異常があるか不明な長いDNAの検査には適用できなかったが、本発明では、DNA断片の3’末端に結合したオリゴヌクレオチドと、制限酵素が認識する塩基配列の全部又は一部とにハイブリダイズし、3’末端に目的とするDNA断片とハイブリダイズするか否かを判別する1〜4塩基からなる塩基配列(選択配列)をもつDNAプライマーセットを複数種類用いて、選択的にDNA断片を識別して相補鎖合成を行ない増幅し、複数種類のDNAプライマーセットのプライマーの組合わせに対応させて、別々の泳動路でゲル電気泳動で分離して、合成された相補鎖の長さを表わす泳動パターンからフィンガープリントを得ることができ、従来技術の問題点を克服する新しいフィンガープリント法、DNA検査法を可能とする。このように複数のDNAプライマーセットを用いて、簡便に試料DNAの分類が可能になり、多数のDNA断片を含む試料の分析が可能になる。
【0043】
本発明で使用する制限酵素は、3’突出末端、3’平滑末端、5’突出末端の何れかを与える。3’平滑末端を与える制限酵素によるDNA断片の末端に結合させるオリゴヌクレオチドとして、ポリ鎖(ポリA鎖、ポリC鎖、ポリG鎖、ポリT鎖いずれか1種類)を付加するのが簡便である。
【0044】
また、以上で説明した各実施例において、電気泳動分離による泳動分離パターン(フインガープリントパターン)が非常に複雑である場合には、上記各実施例において使用する各DNAプライマーセットの各DNAプライマーにビオチン付加しておき、最終的に合成された相補鎖だけを捕捉し、捕捉されたDNA断片を新たな試料と見なして、上記各実施例において使用する制限酵素の種類を変更して、再び各実施例における処理を行う。この結果得られる電気泳動分離による泳動分離パターン(フインガープリントパターン)がより識別しやすくなり、試料の分析がより正確にできる。即ち、本発明では、多数のDNA断片の長さ情報をそのままフィンガープリントとして利用するのではなく、複数の制限酵素を用いて試料DNAを切断して、制限酵素の切断部に続く末端塩基配列によりDNA断片のグループ分けをして、各グループ毎に断片長を計測しフィンガープリントとするので、同じ断片長でも重ならず高いDNA断片の識別能が得られる利点や、制限酵素の組合わせを変化させて、識別能の調節ができる利点がある。
【0045】
以上説明した本発明を要約して説明すると、本発明の核酸分析方法は、
1)核酸試料を2種類以上の制限酵素で試料DNAを切断してDNA断片を得る工程と、
2)DNA断片の両末端にデオキシヌクレオチド又はそのアナログを含むオリゴヌクレオチドを結合する工程と、
3)結合したオリゴヌクレオチドの塩基配列、及び結合したオリゴヌクレオチドの塩基配列に続く制限酵素が認識する塩基配列の一部又は全部と相補な塩基配列と、3’末端に1塩基〜3塩基からなる選択塩基配列をもち、かつ標識されたDNAプライマーセット(選択塩基配列が1塩基の時は4種類、2塩基の時は16種類、3塩基の時は64種類の標識されたDNAプライマーからなる)の、少なくとも2セット以上をプライマーとして、異なる制限酵素が認識する塩基配列に挟まれた領域の相補鎖合成反応を行なう工程と、
4)相補鎖合成生成物を電気泳動分離してDNA断片を検出する工程とを含むことに特徴を有し、さらに以下の特徴がある。
【0046】
イ)核酸試料がRNAであり、RNAをリバーストランスクリプターゼを用いてDNA鎖に変換すること。
【0047】
ロ)DNAプライマーの3’末端の1塩基〜3塩基の塩基配列は、実質全ての塩基種の組合わせからなり、DNAプライマーは、放射性同位体、ビオチン、蛍光体等の何れかで標識されていること。
【0048】
ハ)3’末端1基〜3塩基が全ての可能な塩基配列をもつDNAプライマーセットを同時に複数種用いて、2種類の制限酵素が認識する塩基配列に挟まれる領域を相補鎖合成により生成した標識されたDNA断片であること。
【0049】
ニ)制限酵素は、3’突出末端、3’平滑末端、5’突出末端の何れかを与えること。
【0050】
また、本発明の核酸分析方法において用いるDNAプライマーセットの各DNAプライマーは、5’N1N2…NnX1X2…XmZ1Z2…ZhY1Y2…Yk3’の構造を有し、N1N2…Nn(5≦n≦27)はDNA断片の末端に結合したオリゴヌクレオチドと実質相補な塩基配列であり、X1X2…Xm(1≦m≦6)は制限酵素が認識する塩基配列の一部と相補な塩基配列であり、Z1Z2…Zh(0≦h≦3)は複数種のヌクレオチドとハイブリダイズし得るヌクレオチドアナログであり、Y1Y2…Yk(1≦k≦4)はA、C、G及びTの組合わせ(4のk乗)の種類からなり、N1N2…Nnを構成する何れかのヌクレオチドが標識されていることに特徴がある
【0051】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、試料DNAを2種類以上の制限酵素で切断し、所定のDNAプライマーセットを用いて相補鎖合成反応を行ない、DNA断片を増幅し、多数のDNA断片をグループに区分けし、各グループのDNA断片数を減らし、各グループのDNA断片数の電気泳動分離スペクトルパターンの比較から試料DNAの構成を知ることができる。試料DNAを2種類の制限酵素で切断して、DNA断片の両端部の塩基配列を明確に特定し、断片長を確定するとともに、DNA断片をグループの区分けの数を多くできる。DNA断片末端の配列を識別するためのプライマーの選択塩基配列の数を、例えば、3塩基とすると、43=64通りにDNA断片をグループに区分けできる。この64通りの選択塩基配列をもつプライマーからなるDNAプライマーセットを2組用いると、64×64=4096通りにDNA断片をグループに区分けできる。ゲル電気泳動の分解能では、各区分当たり100種類以上のDNA断片を分離して識別できるので、4096区分では合計4096×100≒400000種類以上ものDNA断片を区別できる。本発明では、長い核酸から制限酵素により得られる多数のDNA断片から、長い核酸の検査を可能とするフィンガープリントパターンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例であり、試料DNAからDNA断片混合物の作成し、相補鎖合成反応によりDNA断片を得る手順を説明する図。
【図2】本発明の第1の実施例における相補鎖合成反応生成物のDNA断片のゲル電気泳動スペクトルの一部を示す図。
【図3】本発明の第2の実施例で使用する、m−RNAから2本鎖c−DNAを合成して試料DNAを得る従来技術の反応の手順を説明する図。
【図4】本発明の第2の実施例において、2種類の制限酵素を用いて2本鎖c−DNA混合物を切断し、相補鎖合成反応によりDNA断片を得る手順を示す図。
【図5】本発明の第3の実施例であり、m−RNAから調整した2本鎖c−DNA混合物を2種類の制限酵素を用いて切断し、相補鎖合成反応によりDNA断片を得る手順を説明する図。
【符号の説明】
1…大腸菌ゲノムDNA、2−1、2−2、〜…2本鎖DNA切断断片、3−1、3−2、〜…両末端に第1のヌクレオチドが結合したDNA断片、4−1、4−2、〜、4’−1、4’−2、〜…NlaIIIにより切断されたDNA断片、4”−1、4”−2、〜…両末端に第2のヌクレオチドをもつDNA断片、5−1、5−2、〜…一方の末端に第1のヌクレオチド、他方の末端に第2のヌクレオチドが結合したDNA断片、6(6−1、6−2、〜)…ビオチンを含まない相補鎖、10…NotI認識配列に対合する1本鎖のビオチン化ヌクレオチド、101…オリゴヌクレオチド10に相補な塩基配列、102…NotIの認識する塩基配列に相補な塩基配列、11…塩基配列101と塩基配列102の全て又は一部とを5’末端にもつ1本鎖オリゴヌクレオチド、100…2本鎖のビオチン化オリゴヌクレオチド、12…1本鎖オリゴヌクレオチド、111…オリゴヌクレオチド12に相補な塩基配列、112…NlaIIIの認識する塩基配列に相補な塩基配列、13…塩基配列111と塩基配列112の全部又は一部とを5’末端にもつ1本鎖オリゴヌクレオチド、110…2本鎖の第2のオリゴヌクレオチド、14…ビーズ、15…アビジン、16−1…NotIの認識配列全て又はNotIの認識配列の3’末端側の一部からなる塩基配列、16−2…2塩基からなる選択配列、16(16−▲1▼、16−▲2▼、〜)…蛍光標識した第1のDNAプライマーセットのプライマー、17−1…NlaIIIの認識配列全て又はNlaIIIの認識配列の3’末端側の一部からなる塩基配列、17−2…2塩基からなる選択配列、17(17−▲1▼、17−▲2▼、〜)…第2のDNAプライマーセットのプライマー、21…全てのDNA断片を区分けしないで同時に測定した場合のスペクトル、22…区分けされたDNA断片によるスペクトル、24…塩基長、31…キャップ塩基、32…リン酸基、33…ポリA尾部、34−1…完全長m−RNA、35−1…不完全長m−RNA、34−2…m−RNA34−1のリン酸基32を露出させた構造、37…合成RNAオリゴヌクレオチド、34−3…合成RNAオリゴヌクレオチド37を導入したm−RNA、36…水酸基、35−2…m−RNA35−1の水酸基36を露出させた構造、38…c−DNA、39…2本鎖c−DNA、40…2本鎖の試料DNA、41−1、41−2、〜…c−DNA断片、42…ポリA鎖、41’−1、41’−2、〜…ポリA鎖42を3’末端に付加したDNA断片、46…NlaIII切断末端、47…HhaI切断末端、49’、49”…DNAプライマーセット
49−1、49−2、49−3、〜…フラクションに添加する2種類のプライマー、50…N部分、51…N部分が完全にハイブリダイズした状態、52…N部分がハイブリダイズしていない状態、53…伸長した相補鎖、55(55−1、55−2、〜)…フラクション、60…m−RNA混合物、61…2本鎖c−DNA混合物、62…分画A、63…分画B、64…ビオチンを含むc−DNAのNlaIII切断断片、65…ビオチンを含むc−DNAのHhaI切断断片、66…ビオチンを含まないc−DNAのNlaIII切断断片、67…ビオチンを含まないc−DNAのHhaI切断断片、68…ビーズに捕捉されていないHhaI切断断片、69…ビーズに捕捉されていないNlaIII切断断片、70…ビオチン化オリゴdTプライマー、71…ビーズに結合したアビジン、72…NlaIII切断部位に対応するオリゴヌクレオチド、73…HhaI切断部位に対応するオリゴヌクレオチド、80…両末端とも同一の制限酵素で切断されたc−DNA断片、81、81’…2種類の制限酵素で切断され各々の切断部位にオリゴヌクレオチドを結合したc−DNA断片。
Claims (3)
- m-RNAを用いて、一方の鎖の端部に標識を有してかつ2本鎖のc-DNAを調整する工程と、
前記c-DNAの一部を第1の制限酵素により切断し、第1の切断断片を得る工程と、
前記c-DNAの一部を第2の制限酵素により切断し、第2の切断断片を得る工程と、
前記第1の切断断片のうちの前記標識を含む第1の標識断片について、前記第1の制限酵素による切断部位に相補結合する第1の2本鎖オリゴヌクレオチドを結合させて第1の結合体を得、前記第1の結合体を前記第2の制限酵素で切断し、第1の再切断断片を得る工程と、
前記第2の切断断片のうちの前記標識を含む第2の標識断片について、前記第2の制限酵素による切断部位に相補結合する第2の2本鎖オリゴヌクレオチドを結合させて第2の結合体を得、前記第2の結合体を前記第1の制限酵素で切断し、第2の再切断断片を得る工程と、
前記第1の再切断断片のうちの前記標識を有さない断片と、前記第2の2本鎖オリゴヌクレオチドを結合させて第1の再結合体を得る工程と、
前記第2の再切断断片のうちの前記標識を有さない断片と、前記第1の2本鎖オリゴヌクレオチドを結合させて第2の再結合体を得る工程と、
前記第1の再結合体と前記第2の再結合体とプライマーを用いて相補鎖合成反応を行なう工程と、
前記相補鎖合成の生成物について分析する工程とを有し、
前記プライマーは、前記第1の再結合体と前記第2の再結合体との各々の少なくとも1の末端の塩基配列の違いを、前記プライマーの3’末端の1塩基〜4塩基の塩基配列により識別するものであり、前記1塩基〜4塩基の塩基配列は、アデニン、チミン、グアニン、およびシトシンからの全ての組合せに対応するものであることを特徴とする核酸分析方法。 - 前記プライマーは、前記第1の制限酵素の認識配列の相補配列を有しかつ前記違いを3’末端の2塩基の塩基配列により識別する第1のプライマー群と、前記第2の制限酵素の認識配列の相補配列を有しかつ前記違いを3’末端の2塩基の塩基配列により識別する第2のプライマー群とからなり、前記第1のプライマー群の前記2塩基と前記第2のプライマー群の前記2塩基とは、各々、アデニン、チミン、グアニン、およびシトシンからの全ての組合せに対応するものであることを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
- 前記プライマーは、前記第1の制限酵素の認識配列の相補配列を有しかつ前記違いを3’末端の1塩基の塩基配列により識別する第1のプライマー群と、前記第2の制限酵素の認識配列の相補配列を有しかつ前記違いを3’末端の2塩基の塩基配列により識別する第2のプライマー群とからなり、前記第1のプライマー群の前記1塩基と前記第2のプライマー群の前記2塩基とは、各々、アデニン、チミン、グアニン、およびシトシンからの全ての組合せに対応するものであることを特徴とする請求項1に記載の核酸分析方法。
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