JP3783306B2 - 耐遅れ破壊特性に優れた懸架ばね用鋼 - Google Patents

耐遅れ破壊特性に優れた懸架ばね用鋼 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は自動車の懸架ばねに用いて好適な懸架ばね用鋼に関し、詳しくは耐遅れ破壊特性に優れた懸架ばね用鋼に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
近年、自動車の軽量化に伴い懸架ばねが高強度化されて負荷応力が大きくなる傾向にあり、これに伴って従来それほどには問題となっていなかった、自動車用巻ばねにおける耐遅れ破壊の問題が大きな問題となってきている。
【0003】
例えば北米等では路面に塩を撒いて凍結防止するといったことが行われるが、自動車走行中に石が飛び跳ねて懸架ばねに当たると、衝突部分において、予め防錆のために施してある塗装が部分的に剥げ落ちて地肌が露出し、その露出部分が塩害で腐食ピットとなりやすい。
【0004】
或いはまた自動車走行中に懸架ばねが繰り返し撓んで、その際に巻線同士の接触、即ち線間接触を起こして塗装の剥がれ,地肌の露出が生じ、同様にして腐食ピットが生成する。
【0005】
而してこのように腐食ピットが生成するとそこに大きな応力集中が生じ、長期使用の間にその応力集中箇所において懸架ばねが突然破壊する現象を生ずる。
これが遅れ破壊の問題であり、そしてこの遅れ破壊は懸架ばねが高強度化するほどより発生しやすくなるのである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本願の発明はこのような課題を解決するためになされたものである。
而して本願の発明は、懸架ばね用鋼の化学組成を、質量%でC:0.3〜0.6%,Si:1.0〜2.0%,Mn:0.1〜0.5%,Cr:0.4〜1.0%,V:0.1〜0.3%,Ni:0.5〜1.2%,Cu:0.1〜0.3%,S:≦0.005%,O:≦0.0015%,P:≦0.015%,B:0.0005〜0.0035%,Nb:0.010〜0.050%,残部Fe及び不可避的不純物から成る組成としたことを特徴とする。
【0007】
【作用及び発明の効果】
上記懸架ばねにおいて起こる遅れ破壊は、結晶粒界に有害な水素が入り込み、これによって粒界が脆弱化することが主要な原因の1つと考えられている。
【0008】
本発明はこの点に着眼して鋼中にBを上記所定量添加したもので、かかるBの添加により、強度的に弱い結晶粒界にBが優先的に侵入して粒界をBが占有し、有害な水素の粒界への侵入を防止する。
これにより結晶粒界が強化されて、上記遅れ破壊の現象を効果的に抑制する。
【0009】
本発明は、Bと併せてNbを上記所定量添加したことを骨子としており、このNbの結晶粒微細化作用によって鋼の靱性を向上させるとともに欠陥感受性を低下せしめ、遅れ破壊を抑制するようにしている。
尚、本発明ではBを0.0005〜0.0035%添加するものとしているが、より望ましい範囲は0.0010〜0.0025%であり、特に望ましい範囲は0.0010〜0.0020%である。
またNbについては0.010〜0.050%としているが、より望ましい範囲は0.020〜0.030%の範囲である。
【0010】
本発明では、また、シャルピー衝撃試験における低温焼戻し脆性域での粒界破面率を10%以下としたときに良好な耐遅れ破壊特性が得られることを知得した。
従って本発明ではこの粒界破面率を10%以下とすることが望ましい。
【0011】
懸架ばね用鋼は、低温焼戻しに際して焼戻し温度を変化させると、図1に示しているように温度上昇に伴ってシャルピー衝撃値が高まって行くが、ある温度範囲内で衝撃特性が悪化する。
【0012】
上記の低温焼戻し脆性域とは、このシャルピー衝撃値特性曲線Aにおける図1中Pの位置、即ちシャルピー衝撃特性が悪化する方向に転化してその極小となる域Pを意味する。
また粒界破面率とは、破断面における粒界破面の占める比率を意味する。
【0013】
本発明では、また、オーステナイト結晶粒度が8番以上(結晶粒径で22μm以下)とすることが望ましく、結晶粒度をこの範囲に規制したときに良好な耐遅れ破壊特性が得られる。
【0014】
次に本発明における各化学成分の限定理由を以下に詳述する。
C:0.3〜0.6%
Cは焼入れ・焼戻し後に必要な強度を得るため0.3%以上含有させる必要がある。しかし0.6%を超えて多く含有させると焼入れ・焼戻し後の鋼の靱性が低下し、疲労強度,耐遅れ破壊特性が劣化するため本発明では上限値を0.6%とする。
【0015】
Si:1.0〜2.0%
Siは1.0%以上添加することによって固溶強化により鋼の耐へたり性を高めることができる。しかしながら2.0%を超えて多く含有させると鋼の熱間加工時に生じる脱炭層が厚くなり、鋼の表面品質を損なうので上限値を2.0%とする。
【0016】
Mn:0.1〜0.5%
Mnは脱酸剤として必要な元素であり、また強度を確保する上で少なくとも0.1%含有させる。
MnはMnSの形でSを固定する働きがあるが、MnSは圧延により延伸され、腐食環境下ではそこが腐食ピットとなって亀裂発生の起点となり、耐遅れ破壊特性を劣化させる。そこで本発明ではMnSの生成量を少なくするようにMn量の上限値を0.5%とする。
【0017】
Cr:0.4〜1.0%
Crは鋼の焼入れ性を確保するため0.4%以上含有させる必要がある。但し1.0%を超えて過大に含有させると組織の均一性が損なわれて耐へたり性が劣化する。そこで本発明ではCrの上限値を1.0%とする。
【0018】
V:0.1〜0.3%
Vは0.1%以上含有させることで微細な炭化物を形成して組織を緻密化し、耐へたり性を向上させることができる。但しその含有量が0.3%を超えて多くなると炭化物の析出量が増して靱性が低下し、耐へたり性にも悪影響を及ぼすのでV含有率の上限値を0.3%とする。
【0019】
Ni:0.5〜1.2%
Niは鋼の焼入れ性と靱性とを高める上で0.5%以上必要である。但し1.2%を超えて含有させてもその効果は飽和し、コストが徒らに高くなるのでその含有量の上限を1.2%とする。
【0020】
Cu:0.1〜0.3%
Cuは鋼の耐候性を高める上で有効である。その効果を得るためには少なくとも0.1%以上添加する必要がある。但し含有率が0.3%を超えて過大になると鋼の熱間加工性が損なわれるのでその上限値を0.3%とする。
【0021】
S:≦0.005%
O:≦0.0015%
Sは鋼中のMnと結合してMnSを形成する。そのMnSは熱間圧延によって延伸され、鋼が腐食環境にさらされたとき容易に溶解消去してそこに腐食ピットを生成させる。そしてこの腐食ピットが亀裂発生起点となり、耐遅れ破壊特性の劣化を招くことが本発明者らの研究により明らかとなった。
そこで本発明ではMnSの生成量を少なくすべくS含有量を0.005%以下に規制する。
【0022】
Oは鋼中において酸化物系非金属介在物を形成し、疲労亀裂,遅れ破壊亀裂の起点となる。そこで本発明ではその含有率を0.0015%以下に規制する。
【0023】
P:≦0.015%
Pは鋼の結晶粒界に偏析して結晶粒界を脆弱化させる。そこで本発明では遅れ破壊特性を向上させるためPの含有量を0.015%以下に規制する。
【0024】
B:0.0005〜0.0035%
Bは鋼の結晶粒界に優先的に侵入して有害なPやS、特に水素の粒界への侵入を阻止し、鋼の結晶粒界を強化する。これによって懸架ばね用鋼の耐遅れ破壊特性が効果的に向上する。但しそのような効果を得るために0.0005%以上鋼に含有させておく必要がある。
但し0.0035%を超えて多く含有させると鋼の強靱性を損なうので上限を0.0035%とする。望ましい範囲は0.0010〜0.0025%であり、更に望ましい範囲は0.0010〜0.0020%の範囲である。
【0025】
Nb:0.010〜0.050%
Nbは結晶粒を微細化する働きがあり、その作用によって鋼を強靱化し、また耐遅れ破壊特性を向上させる。但しその効果を得るために0.010%以上含有させる必要がある。但し0.050%を超えて多く含有させると、効果は飽和するとともに熱間加工性や冷間加工性を低下させる。また徒らに材料の製造コストを増加させるため、本発明ではその上限値を0.050%とする。
このNbのより望ましい範囲は0.020〜0.030%である。
【0026】
【実施例】
次に本発明の実施例を以下に詳述する。
表1に示す各種化学組成の鋼を溶製し、シャルピー衝撃試験片を作製してシャルピー衝撃試験を実施し、その破面を観察して粒界破面率を求めた。
また遅れ破壊特性測定用の試験片を作製して遅れ破壊特性の測定を行った。
結果が同表に併せて示してある。
【0027】
【表1】
Figure 0003783306
【0028】
尚、各測定は以下の方法で行った。
〈粒界破面率測定〉
試験片:JIS3号シャルピー衝撃試験片(2mmUノッチ)使用
熱処理:焼入れ 900℃×30分,OQ
焼戻し 室温,200℃,250℃,300℃,350℃,400℃,450℃,500℃,550℃,600℃の各温度
具体的測定方法:上記各焼戻し温度で焼き戻ししたそれぞれについてシャルピー衝撃試験を行い、これに基づいて低温焼戻し脆性温度(脆性域)を求めた。そしてその脆性温度で焼き戻しした試験片の破面(シャルピー衝撃試験後の破面)をSEMにて観察し、粒界破面率を求めた。
【0029】
〈遅れ破壊特性測定〉
硬さHRC50,53,56の3水準に調整した、図2に示す試験片、即ち軸方向中間部位に切欠き1を有する棒状の試験片2を用意し、遅れ破壊試験を行った。
ここで遅れ破壊試験は、試験片2の一端側をホルダー3で片持ち状に保持する一方、他端側にモーメントアーム4を介してウエイト5を吊り下げて曲げ荷重を作用させ、その状態で切欠き1に0.1規定HClを滴下し続け、破断までの時間を測定した。
【0030】
そして耐遅れ破壊性は、曲げ応力と破断時間を整理した遅れ破壊曲線を作成するとともに、その30時間経過後の曲げ強度と経過時間ゼロ、即ち静曲げ強度との比率を縦軸にとり、また横軸に硬さをとって、図3に示す遅れ破壊特性曲線をプロットし、その特性曲線から実用硬さHRC53〜54の遅れ破壊強度比(30時間後曲げ強度/静曲げ強度)を求めた。
【0031】
表1の結果から明らかなように、比較例のものは粒界破面率が10%より大きく、またオーステナイト粒度番号も小さく、これに伴って遅れ破壊強度比が望ましい値の0.30未満となっているのに対して、本発明例のものは何れも粒界破面率が10%以下、オーステナイト結晶粒度番号が8以上、遅れ破壊強度比が何れも0.30以上であり、耐遅れ破壊特性に優れていることが分かる。
【0032】
以上本発明の実施例を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその主旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】焼戻し脆性域を説明するための説明図である。
【図2】本発明の実施例において行った遅れ破壊特性測定の試験方法の説明図である。
【図3】本発明の実施例において行った遅れ破壊特性の評価方法の説明図である。
【符号の説明】
1 切欠き
2 試験片
3 ホルダー
4 モーメントアーム
5 ウエイト
P 焼戻し脆性域

Claims (1)

  1. 質量%で
    C :0.3〜0.6%
    Si:1.0〜2.0%
    Mn:0.1〜0.5%
    Cr:0.4〜1.0%
    V :0.1〜0.3%
    Ni:0.5〜1.2%
    Cu:0.1〜0.3%
    S :≦0.005%
    O :≦0.0015%
    P :≦0.015%
    B :0.0005〜0.0035%
    Nb:0.010〜0.050%
    残部Fe及び不可避的不純物から成る耐遅れ破壊特性に優れた懸架ばね用鋼。
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