JP3782958B2 - 熱流束計 - Google Patents

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Description

【0001】
本発明は、一対の熱電対を使用し、自動車のエンジンのシリンダ壁等の被測定物の或る2点の温度差を測定することにより、被測定物の材料内で伝導する熱流束を測定するために熱流束計に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱流束計は、被測定物の中で熱流束が伝導する方向に離して一対の熱電対の測温点を被測定物内に埋め込み、その2点における温度差を測定することにより、被測定物内を伝導する熱流束を測定するものである。例えば、自動車のエンジンの駆動時のエンジンシリンダ壁の熱解析を行うための測定値を得るために使用される。
【0003】
現実にはエンジンのシリンダ壁等の被測定物にそのまま熱電対の測温点を埋め込むことはできないため、金属ブロック状の伝熱体に熱電対とその測温点を埋め込み、被測定物に設けた孔の中に前記伝熱体を密に嵌め込むことが行われている。図5と図6は、このような従来の熱流束計において、熱電対の先端を埋設した金属ブロック状の伝熱体1を被測定物8の孔に嵌め込んだ状態を示す。
【0004】
図5と図6に示すように、エンジンのシリンダ壁のような被測定物8には孔が開けられ、この孔に円筒形の金属ブロック状の伝熱体1が嵌め込まれる。この伝熱体1には、その一方の端面側からその内部に向けて一対の穴5a、5bが穿たれ、その中に熱電対3a、3bが埋め込まれている。そしてこの熱電対3a、3bの先端の測温点6a、6bは、前記穴5a、5bの内奥部の先端部分で伝熱体1に接触している。前記の穴5a、5bの深さは互いに異なっており、これらの穴5a、5bに取り付けられた熱電対3a、3bの測温点6a、6bは、伝熱体1の中心軸方向、すなわち被測定物8の厚さ方向にずれて配置されている。
【0005】
図5で示した従来例では、穴5a、5bは伝熱体1の周面近くに設けられた断面U字形の溝状のものである。他方、図6で示した従来例では、穴5a、5bは伝熱体1の中心近くに設けられたものである。何れの従来例でも、穴5a、5bは互いに平行に設けられており、従って熱電対3a、3bの測温点6a、6bは、伝熱体1の中心軸方向にずれているだけでなく、その円周方向や径方向にもずれている。
【0006】
【発明が解決しようとしている課題】
従来構造の図5に示す熱流束計では、熱電対3a、3bの測温点6a、6bが伝熱体1の周面近くの溝状の穴5a、5bに設けられているため、伝熱体1と被測定物8との接触状態の違いによって伝熱体1と被測定物8との温度分布が異なり測定誤差が生じる。特に、伝熱体1は円筒形であるため、その加工精度による被測定物8の穴との寸法公差により、その周面の被測定物8との接触状態が微妙に異なり、これが測定誤差を生じる原因となる。さらに、溝状の穴5a、5bとそれに設けた熱電対3a、3bのリードが伝熱体1より外部に出ていることにより、その部分だけが局部的に表面積が大きくなり、いわゆるフィン効果により、その部分だけ放熱量が大きくなる。このため、熱電対3a、3bの測温点6a、6bの部分が被測定物8の熱流束の伝導を正確に再現できず、これが測定誤差の原因となる。
【0007】
また、図6に示す熱流束計では、熱電対3a、3bの測温点6a、6bが伝熱体1の周面より内奥に設けられているため、伝熱体1と被測定物8との接触状態の違いによる測定誤差は或る程度解消できる。しかし、測温点6a、6bが伝熱体1の径方向にずれることにより、熱電対3a、3bのリードが伝熱体1より外部に出ることによるフィン効果が生じ、熱電対3a、3bが埋め込まれた部分の温度が下がる。このため、被測定物8の厚み方向に伝導する熱流束を測定する場合に誤差が生じる。さらに、伝熱体1の内奥部の中心軸方向に穴5a、5bを設けることにより、伝熱体1の中心付近をその中心軸方向に伝導する熱流束に影響を与えるため、被測定物8の実際の熱流束を正確に測定できないという問題がある。
【0008】
本発明は、このような従来の熱流束計における課題に鑑み、被測定物と伝熱体との接触状態の変動を無くし、さらに被測定物の内部を伝導する熱流を熱電対の測温点の部分で正確に再現することができ、これにより熱流束をその実際に近い状態で正確に測定することが可能な熱流束計を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明では、前記の目的を達成するため、金属ブロック状の伝熱体10を被測定物19と同じ材質とし、被測定物19の熱流に近似した熱流を伝熱体10に再現できるようにすると共に、それを単に被測定部材19の孔に嵌め込むだけでなく、伝熱体10に雄ねじ部11を設け、被測定部材19に設けたねじ孔20にこの雄ねじ部11をねじ込んで、伝熱体10と被測定部材19との接触面積の増大と安定を図った。
【0010】
さらに、熱電対16a、16bは、主に雄ねじ部11の外周面付近に縦方向、すなわち雄ねじ部11の中心軸と平行な方向に設けた溝14a、14bに埋設するが、その熱電対16a、16bの測温点17a、17bは、雄ねじ部11の径方向に穿った穴15a、15bにより雄ねじ部11の中心付近に導入し、そこで雄ねじ部11に接触させるようにした。これにより、熱電対16a、16bの測温点17a、17bは、雄ねじ部11の中心軸方向から大きくずれずに、中心軸方向に列んで配置されることになり、その方向に伝導する熱流束を正確に測定できるようになる。また、熱電対16a、16bの測温点17a、17bを雄ねじ部11の中心に導く穴15a、15bは、雄ねじ部11の径方向に穿たれているので、熱流に与える影響は極めて少なく、被測定物19の熱流に近似した熱流を伝熱体10にそのまま再現することができる。
【0011】
すなわち、本発明による熱流束計は、被測定物19と同じ材質で、且つ被測定物19に設けたねじ孔20にねじ込まれた雄ねじ部11を有する伝熱体10と、この雄ねじ部11の端面から外周面の縦方向に設けた一対の溝14a、14bと、これらの溝14a、14bの先端部から雄ねじ部11の径方向に穿孔され、先端が雄ねじ部11の中心付近に達した穴15a、15bと、これら溝14a、14b及び穴15a、15bに埋設され、先端の測温点17a、17bが穴15a、15bの先端付近に達した一対の熱電対16a、16bとを有し、これら一対の熱電対16a、16bの測温点17a、17bが雄ねじ部11の中心軸方向にずれて配置されているものである。
【0012】
この場合に、雄ねじ部11に設けられた一対の溝14a、14bによる熱電対16a、16bの測温点17a、17bの付近での熱流の影響を小さくするため、一対の溝14a、14bは、出来るだけ離して設けるのが好ましい。すなわち、雄ねじ部11に設けられた一対の溝14a、14bは、雄ねじ部11の中心を挟んで対向する外周面の互いに反対側の位置に設けるのがよい。
【0013】
さらに、熱電対16a、16bの高温下で測温点17a、17bに発生する起電力に対する熱電対16a、16bのノイズの影響を低減するため、熱電対16a、16bは、熱電対素線をシース内でツイスト状に配置したツイストペアケーブル型のものを使用するのがよい。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について、具体的且つ詳細に説明する。
図1と図2は、熱流束計の熱電対を取り付け、被測定物に埋め込むための伝熱体10の形状を示す。
【0015】
この伝熱体10は、後述する被測定物と同じ材質からなり、外周にねじ溝を形成した雄ねじ部11と、この雄ねじ部11を被測定物のねじ孔にねじ込むため、スパナ等を掛ける頭部13とを有している。さらに、この頭部13と雄ねじ部11との間に円柱形で雄ねじ部11のねじ径より径の大きな中間部12を有している。
【0016】
前記雄ねじ部11の外周面の中心を挟んで対向した位置には、雄ねじ部11の端面から中間部12側に向けて長さが違う一対の溝14a、14bが掘られている。図示の例では、一方の溝14aは、雄ねじ部11の全長にわたっており、雄ねじ部11の端面から中間部12との境の部分にまで達している。他方の溝14bは、雄ねじ部11の端面からごく僅かの距離だけ掘られておいる。
【0017】
さらに、それぞれの溝14a、14bの終端からそれらの溝14a、14bと直角に、すなわち雄ねじ部11の径方向に穴15a、15bが掘られ、その先端は雄ねじ部11の中心に達している。これらの穴15a、15bの径は二段になっており、溝14a、14bに近い開口部付近の部分は太く、それから雄ねじ部11の中心までの部分の穴径はそれより小さい。
【0018】
さらに図3に示すように、これらの溝14a、14bにはそれぞれ熱電対16a、16bの先端側が埋設され、さらにその先端部が穴15a、15bに挿入されている。そして、熱電対16a、16bの先端の測温点17a、17bが雄ねじ部11の中心にある穴15a、15bの最奥部にまで達し、そこで雄ねじ部11の穴15a、15bの奥の壁面に接している。すなわち、熱電対16a、16bの測温点17a、17bは、雄ねじ部11の中心に達し、そこで雄ねじ部11と接触している。そして、これら一対の熱電対16a、16bの測温点17a、17bは、雄ねじ部11の中心軸方向に離れて配置されている。
【0019】
熱電対16a、16bは、耐熱性、強度、耐ノイズ性が要求されることから、極細のメタルシース型熱電対を使用し、メタルシースを接地しない非接地型として使用するのがよい。特に耐ノイズ性を考慮すると、熱電対16a、16bの素線をシース内でツイストにしたツイストペアケーブル型の熱電対16a、16bを使用するのが好ましい。図3に示すように、熱電対16a、16bの末端にはターミナル18a、18bを設け、その測温点17a、17bに発生する起電力を測定するための計器に接続する。
【0020】
他方、図4に示すように、前記の伝熱体10を埋め込む側のエンジンのシリンダ壁のような被測定物19には、それを貫通するようにねじ孔20を設ける。このねじ孔20の雌ねじは、前記伝熱体10の雄ねじ部11のねじと適合している。図示に例では、ねじ孔20の深さは被測定物19の幅より僅かに浅く、このねじ孔20を越える部分の熱源側、例えばエンジンのシリンダ壁であれば、シリンダーの内側の面側には、浅い座穴が設けられている。この座穴の径は前記伝熱体10の中間部12が密に嵌合されるとなっている。
【0021】
前述のようにして熱電対16a、16bを取り付けた伝熱体10は、その雄ねじ部11が被測定物19の熱源側からねじ孔20にねじ込まれる。この雄ねじ部11を被測定物19のねじ孔20に一杯にねじ込むと、伝熱体10の中間部12の雄ねじ部11側の端面がねじ孔20の熱源側の座穴の奥の面に当たり、停止される。この状態では、伝熱体10の雄ねじ部11の端面が被測定物19の熱源側と反対側の面と面一となる。さらにこの状態で、図4に二点鎖線で示した部分、すなわち、頭部13と中間部12の一部を、被測定物19の熱源側の面と面一となるよう切断し、取り除く。これにより、伝熱体10の両端面は、被測定物19の熱源側の面とその反対側の面の双方の面で面一となる。
【0022】
このような熱流束計では、一対の熱電対16a、16bの測温点17a、17bが伝熱体10の中心にあって、その中心軸方向に離れて配置されているため、その2つの測温点17a、17bで測定される温度差により、伝熱体10内をその中心軸方向、すなわち被測定物19の厚さ方向に伝導する熱流束を測定することができる。
【0023】
例えば、伝熱体10の熱伝導率がλ(W/mk)、2つ熱電対16a、16bの温接点17a、17bの距離をL(m)とすると、熱電対16aの温度測定値T1と熱電対16bの温度測定値T2から熱流束q(W/m2 )は次式で求められる。
q=λ(T1−T2)/ L
【0024】
この場合に、被測定物19と伝熱体10の材質が異なると、伝熱体10に被測定物19本来の熱流束を再現できず、測定温度誤差を生じる原因となる。従って、伝熱体10の材質は、被測定物19と同じにする。伝熱体10の材質を被測定物19と同じにすれば両者は熱伝導率が同じであるために、熱流方向に対する伝熱体10と被測定物19の温度勾配が等しくなり、伝熱体11には本来の熱流方向以外の熱流が発生しないので、測定誤差が改善される。
【0025】
また、熱電対16a、16bの測温点17a、17bで測定される温度測定値の誤差を極力抑えるために、熱電対16a、16bの直径、伝熱体10の雄ねじ部11の溝14a、14bの幅と深さ及び穴15a、15bの径はできるだけ小さく、穴15a、15bの深さはできるだけ深い方が好ましい。前述のように、穴15a、15bの最奥部が雄ねじ部11の中心に達する必要があり、これにより、測温点17a、17bが存在する中心軸上に伝熱体10の物質本来の温度分布が生じることになる。熱電対16a、16bのシースの外径をdとすると、熱電対16a、16bの測温点17a、17bをd×8以上の深さまで埋め込めば、熱電対のフィン効果によって放熱する熱影響範囲から抜け出すことができる。この条件を満たすためには、伝熱体10の雄ねじ部11の直径はd×16である必要があることになる。より望ましくは熱電対16a、16bの測温点17a、17bが位置する穴15a、15bの最奥部の深さは熱電対直径の8.3倍以上がよい。
【0026】
例えば、直径0.3mmのメタルシース型熱電対を用いる場合、穴15a、15bの深さは熱電対直径の約8.3倍以上の2.5mm以上が適当であるということになる。従って、伝熱部材10の雄ねじ部11の直径は5mm以上が必要となる。
【0027】
また、熱電対16a、16bを雄ねじ部11の溝14a、14b等に固定するのに樹脂系接着剤等を用いるが、この樹脂系接着剤を収めるために必要最小限の溝14a、14bの幅と深さも必要である。例えば、熱電対16a、16bにシース外径0.3mmのメタルシース型熱電対を用いる場合、溝14a、14bの幅は0.7mm、溝14a、14bの深さは雄ねじ部11のねじ山から1.5mm、穴15a、15bの径は0.35mmが必要である。
【0028】
このようにして、伝熱体10への熱電対16a、16bの取付に伴う測定温度誤差を考慮した寸法や構造とし、また伝熱体10を被測定物19に取り付けるのが容易で、しかも伝熱体10と被測定物19とが平均的且つ安定した接触状態となるように、雄ねじ部11とねじ孔20によるねじ方式の取付手段を採用することにより、より正確な熱流束が測定できるようになる。
【0029】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明によれる熱流束計では、被測定物と伝熱体との接触状態の変動を無くし、さらに熱流束が伝導する方向の熱流束の変動を正確に測定することができ、これにより実際の熱流束をその実際に近い状態で正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による熱流束計に使用する伝熱体の外形を示す側面図である。
【図2】同実施形態による熱流束計に使用する伝熱体の縦断側面図である。
【図3】同実施形態による熱流束計に使用する伝熱体に熱電対を組み込んだ状態の の縦断側面図である。
【図4】同実施形態による熱流束計に使用する伝熱体に熱電対を組み込み、この伝熱体を被測定物に取り付けた状態の縦断側面図である。
【図5】従来例である熱流束計に使用する伝熱体に熱電対を組み込み、この伝熱体を被測定物に取り付けた状態の正面図と縦断側面図である。
【図6】他の従来例である熱流束計に使用する伝熱体に熱電対を組み込み、この伝熱体を被測定物に取り付けた状態の正面図と縦断側面図である。
【符号の説明】
10 伝熱体
11 伝熱体の雄ねじ部
14a 伝熱体の溝
14b 伝熱体の溝
15a 伝熱体の穴
15b 伝熱体の穴
16a 熱電対
16b 熱電対
17a 熱電対の測温点
17b 熱電対の測温点
19 被測定物
20 被測定物のねじ孔

Claims (3)

  1. 一対の熱電対(16a)、(16b)により、被測定物(19)の材料内の熱流束を測定する熱流束計において、被測定物(19)と同じ材質で、且つ被測定物(19)に設けたねじ孔(20)にねじ込まれた雄ねじ部(11)を有する伝熱体(10)と、この雄ねじ部(11)の端面から外周面の縦方向に設けた一対の溝(14a)、(14b)と、これらの溝(14a)、(14b)の先端部から雄ねじ部(11)の径方向に穿孔され、先端が雄ねじ部(11)の中心付近に達した穴(15a)、(15b)と、これら溝(14a)、(14b)及び穴(15a)、(15b)に埋設され、先端の測温点(17a)、(17b)が穴(15a)、(15b)の先端付近に達した一対の熱電対(16a)、(16b)とを有し、これら一対の熱電対(16a)、(16b)の測温点(17a)、(17b)が雄ねじ部(11)の中心軸方向にずれて配置されていることを特徴とする熱流束計。
  2. 一対の溝(14a)、(14b)は、雄ねじ部(11)の中心を挟んで対向する外周面の互いに反対側の位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の熱流束計。
  3. 一対の熱電対(16a)、(16b)は、熱電対素線をシース内でツイスト状に配置したツイストペアケーブル型であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱流束計。
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