JP3782889B2 - 動圧型焼結含油軸受 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、焼結金属からなる多孔質の軸受本体に潤滑油又は潤滑グリースを含浸させて自己潤滑機能を持たせると共に、軸受面の動圧溝の動圧効果により軸受隙間内に潤滑油膜を形成し、その潤滑油膜によって回転軸の摺動面を非接触支持する動圧型焼結含油軸受に関する。本発明の動圧型焼結含油軸受は、情報機器のスピンドルモータに好適で、その中でも、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータや磁気ディスクドライブ装置(HDD)用のスピンドルモータのように、高速下で高回転精度が要求される機種や、DVDーROM、DVD−RAMなどの光ディスク装置あるいはMOなどの光磁気デイスク装置用のスピンドルモータのように、ディスクが載ることによって大きなアンバランス荷重が加わる条件下で高速で駆動する機種などに特に適している。
【0002】
【従来の技術】
情報機器は、大別して、データ処理及び記憶を行う主記憶装置と、記憶のみを行う補助記憶装置の2つに分けることができる。記憶部分にはディスクやテープを使用するものと、全て電子部品からなる半導体を使用するものとがあり、現在では、コストの点からディスクやテープが広く使用されている。ディスクやテープを使用する補助記憶装置としては、磁気ディスク装置(HDD、FDD)、光ディスク装置(CD、DVD)、光磁気ディスク装置(MO、ODD)、ディジタルオーディオテープレコーダ(DAT)等がある。さらに、情報機器にはレーザビームプリンタ(LBP)、ディジタルFAX、ディジタルPPC等も含まれる。
【0003】
上記のような情報機器関連の小型スピンドルモータでは、回転性能のより一層の向上と低騒音化、低コスト化が求められており、そのための手段として、スピンドルの軸受部を転がり軸受から焼結含油軸受に置き換えることが検討されている。しかし、通常の焼結含油軸受は真円軸受の一種であるため、軸の偏心が小さいところでは不安定振動が発生しやすく、回転速度の1/2の速度で振れ回るいわゆるホワールが発生しやすい欠点がある(ホワール等の不安定振動が発生すると回転精度が損なわれる)。そこで、軸受面にへリングボーン型やスパイラル型などの動圧溝を設け、軸の回転に伴う動圧溝の動圧効果によってラジアル剛性等の軸受機能を高め、不安定振動による軸振れを抑制しようとする試みが従来よりなされている(動圧型焼結含油軸受)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
動圧型焼結含油軸受は、軸受本体の内部の細孔内に保有した油を軸受本体と軸受隙間との間で循環させながら、動圧溝の作用(油の引き込み作用)によって軸受隙間内に潤滑油膜を形成し、その潤滑油膜によって回転軸を継続して非接触支持する点に特徴を有するものである。そのような安定した軸受機能を発揮させるためには、油の適切な循環と、軸支持に必要な潤滑油膜の形成を確保する必要があり、そのための重要な要素の一つとして、軸受本体の内部に含浸させる潤滑剤の選定がある。
【0005】
一般の真円軸受(軸受面に動圧溝を有しない焼結含油軸受)では、例えば、特開平7−53984号に開示されているようなポリ−α−オレフィンに各種添加材を配合した潤滑油が使用されている。この潤滑油は、使用中のスラッジの発生が少なく、使用温度範囲が広く、潤滑性に優れ、低トルクで初期なじみが良く、耐久性も良好であるなど、焼結含油軸受の専用潤滑油として優れた特性を有するものであるが、これを動圧型焼結含油軸受の含浸油として使用すると、僅かながらホワールが発生する場合のあることが認められた。その原因については今のところ明確な解明はなされていないが、ポリ−α−オレフィンを含浸油として使用した場合、油中に泡が発生しすい性質があることや、それとともに動圧型焼結含油軸受に特有の油の引き込み作用と関係しているものと推測される。
【0006】
ホワールの発生は、特に、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータのように数万回転の高速で駆動する場合や、非繰り返し精度(NRRO)が要求される磁気ディスクモータ(HDD)、高容量フロッピーディスクモータ(Zip,HiFD)、光ディスクモータ(DVD−RAM)などで問題となり、要求されるジッタ(ジッタとは、ポリゴンミラーからの反射光のパルス列におけるパルスの振幅や時間軸上のパラメータの不規則な変動、またはその変動の値をいう。)やNRRO、面振れなどの精度を維持する上で致命的となる。また、この種のスピンドルモータでは高速回転性とともに低トルク性も要求されるため、含浸油として低粘度のものが使用されるが、ポリ−α−オレフィンは蒸発量が多く、低粘度ではこの傾向が顕著になるため、高速・高温雰囲気下では長時間の耐久寿命を満足できない場合がある。
【0007】
本発明は、動圧型焼結含油軸受に含浸する潤滑剤を最適調整し、動圧型焼結含油軸受が本来有する安定した軸受機能を発揮させることにより、特にこの種のスピンドルモータにおける最大の問題であるホワール等の不安定振動の発生を防止し、かつ、軸受寿命の増大を図ることをその目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は、支持すべき回転軸の摺動面と軸受隙間を介して対向する軸受面を有し、その軸受面に軸方向に対して傾斜した動圧溝が設けられた焼結金属からなる多孔質の軸受本体と、軸受本体の内部の細孔内に含浸された潤滑油又は潤滑グリースとを備え、軸受本体の軸受面の表面開孔率が3〜15%であり、潤滑油又は潤滑グリースの基油が、(a)ポリ−α−オレフィン又はその水素化物とエステルとの混合物、及び、(b)エステルの中から選択される1の潤滑油であり、上記潤滑油又は潤滑グリースの基油が、軸受面の表面開孔を介して軸受本体の内部と軸受隙間との間を循環しつつ、動圧溝の作用により軸受隙間内に潤滑油膜を形成し、その潤滑油膜によって回転軸を非接触支持する構成を提供する。
【0009】
図3は、本発明の傾斜状の動圧溝2cが形成された軸受面2bを有する動圧型焼結含油軸受2で回転軸4を支持する際における、軸方向断面での油の流れを示している。回転軸4の回転に伴い、軸受本体2aの内部の細孔内(本明細書において「細孔」とは、多孔質体が組織として有する孔をいう。)に保有された油が軸受面2bの軸方向両側(及びチャンファー部周辺)から軸受隙間に滲み出し、さらに動圧溝2cによって軸受隙間の軸方向中央に向けて引き込まれる。その油の引き込み作用(動圧作用)によって軸受隙間に介在する油の圧力が高められ、潤滑油膜が形成される。この軸受隙間に形成される潤滑油膜によって、回転軸4はホワール等の不安定振動を生じることなく、軸受面2bに対して非接触支持される。軸受隙間に滲み出した油は、回転軸4の回転に伴う発生圧力により、軸受面2bの表面開孔(本明細書において「表面開孔」とは、多孔質体組織の細孔が外表面に開口した部分をいう。)から軸受本体2aの内部に戻り、軸受本体2aの内部を循環して、再び軸受面2b(及びチャンファー部周辺)から軸受隙間に滲み出す。尚、ここでいう「油」は、軸受本体2aに含浸された潤滑油、又は、軸受本体2aに含浸された潤滑グリースの基油(潤滑油)である。後者の場合、通常は、基油がごく微小な増稠剤成分を含みながら軸受本体2aと軸受隙間との間を循環する。
【0010】
動圧型焼結含油軸受に含浸する潤滑油又は潤滑グリースの基油として、ポリ−α−オレフィン又はその水素化物にエステルを配合した合成潤滑油を使用することにより{上記(a)の構成}、上記のような動圧型焼結含油軸受の安定した軸受機能を長期にわたって維持することができる。これは、エステルの配合により、ポリ−α−オレフィンのからの泡の発生が抑制され、あるいは、泡が発生してもすぐに消滅してしまうためと考えられる。
【0011】
ポリ−α−オレフィン又はその水素化物に対するエステルの配合割合は、重量比で5%以上とするのが好ましい。エステルの配合量が5%未満であると、ホワール等の不安定振動を完全に防止することができない。一方、エステルの配合割合の上限はなく、100重量%であっても良い{上記(b)の構成}。
【0012】
本発明で使用するポリ−α−オレフィン(以下、「PAO」と略記する。)は、平均分子量200〜1600、好ましくは400〜800のものであり、デセン−1、イソブデン等をルイス酸コンプレックス又は酸化アルミニウム触媒等で重合したものが適当である。PAOの水素化物(以下、「PAOH」と略記する。)は、PAOを水素化触媒の存在下で水素化することにより得られる。PAO又はPAOHを潤滑油又は潤滑グリースの基油の一成分として使用することにより、耐熱性を向上させ、かつ、油から生じるスラッジの量を極端に抑えることができる。
【0013】
本発明で使用するエステルは、モノエステル(1価アルコールと1価脂肪酸のエステル)、ジエステル(1価アルコールと2価脂肪酸のエステル)、ポリオールエステル(ネオペンチル骨格を有するアルコールと1価脂肪酸のエステル等)、コンプレックスエステル(ポリオールエステルを原料に多価脂肪酸を加え、ポリオールを架橋したオリゴマーエステル)の何れでも良いが、相溶性と低粘度で蒸発特性に優れたポリオールエステルが好ましい。エステルをPAO(又はPAOH)に配合することにより、あるいは、エステルを単独で使用することにより、ポリオレフィン類の欠点である溶解性を克服でき、さらに蒸発特性、潤滑性を改善することができる。また、エステルは一種の耐摩耗剤としても機能する。
【0014】
本発明で使用する潤滑油又は潤滑グリースには、下記一般式(1)で表されるリン酸エステルを配合することが好適である。このリン酸エステルとしては、例えばリン酸トリオクチルやリン酸トリクレジル等のリン酸トリエステルやリン酸モノオクチルエステル、リン酸ジオクチルエステル等の酸性リン酸エステルやアルキルリン酸エステルアミン塩(一部アミン塩)などを挙げることができるが、その中でもリン酸トリエステルが好ましい。リン酸エステルを使用することで、油膜形成能力を増大させることができる。尚、下記一般式(1)中、R1〜R3は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、アルキレン基若しくはアルコキシ置換アルキル基、炭素数6〜12のアリール基若しくはアルキル置換アリール基の中から選択されるものであり、相互に同一であっても異なっても良い。少なくとも1つは水素原子以外の基をもつ。
【0015】
【化1】
【0016】
このリン酸エステルの潤滑油又は基油に対する配合割合は、0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜3重量%である。リン酸エステルの配合割合が、0.1重量%より少ないと耐摩耗性を改善することができず、10重量%を超えて添加しても大幅な耐摩耗性能力の向上は認められない。
【0017】
本発明で使用する潤滑油又は潤滑グリースには、粘度指数向上剤又はグリースの構造安定剤として、エチレン・α−オレフィン共重合体若しくはその水素化物、あるいは、ポリメタクリレート系やポリブテン(ポリイソブチレン)系の添加材などを配合しても良い。エチレン・α−オレフィン共重合体は、例えばエチレンと1−デセン、イソブテン等をルイス酸等の触媒の存在下に重合して得られる。その水素化物は、エチレン・α−オレフィン共重合体を水素化触媒の存在下に水素化することにより得られる。これらは、数平均分子量が200〜4000程度のものであり、数平均分子量1450のものが好ましい。ポリメタクリレート系の数平均分子量は20000〜1500000程度である。せん断安定性との関係から数平均分子量は20000〜50000のものが好ましい。また、ポリブテン系の平均分子量は5000〜300000程度がよい。これら添加材の配合割合は、潤滑油又は潤滑グリースの基油に対して1〜30重量%、好ましくは1〜5重量%の範囲とするのが良い。粘度指数向上剤又はグリースの構造安定剤として機能するこれら添加物を配合することで、潤滑油又は潤滑グリースの温度特性が改善され、軸受隙間における潤滑油膜の粘性低下が抑制されるので、軸振れの防止などに効果的である。
【0018】
本発明で使用する潤滑グリースの増稠剤は、基油中に分散し、ミセル構造をとって半固体状を呈する役割を担うものであり、ナトリウム石ケン、リチウム石ケン、カルシウム石けん、カルシウムコンプレックス石ケン、アルミニウムコンプレックス石ケン、リチウムコンプレックス石ケン等の石ケン系や、ベントン、シリカエアロゲル、ナトリウムテレフタラメート、ウレア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンパウダーなどのワックス類、窒化ホウ素等の非石ケン系を用いることができる。その中でも、特に高温・高遠心力下でも耐分離性に優れる点でウレア系のものが好ましく、特にジウレア等の増稠剤が好適である。
【0019】
また、本発明で使用する潤滑油又は潤滑グリースには、金属不活性剤を配合することができる。金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール及びその誘導体が代表的であるが、その他にイミダゾリン、ピリジン誘導体を用いても良い。これらは、少なくともN−C−N結合を有する化合物中に効果のあるものが多く、金属表面に不活性被膜を形成する作用と酸化防止作用とを有する。これ以外では、N−C−S結合を有する化合物もあるが、潤滑油に対する溶解性、及び揮発性等の点から、ベンゾトリアゾール誘導体などが有効である。金属不活性剤の配合割合は、潤滑油又は潤滑グリースの基油に対して0.05〜5重量%の範囲とするのが良い。
【0020】
さらに、本発明で使用する潤滑油又は潤滑グリースには、酸化防止剤を配合することができる。酸化防止剤としては、遊離基連鎖反応停止剤として働くフェノール系、アミン系、及び過酸化物分解剤として働く硫黄系酸化防止剤の中から選択される1種以上の酸化防止剤を単独で又は混合して用いることができるが、アミン系とフェノール系を混合して用いるのが好適である。フェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−t−4−n−ブチルフェノールが挙げられる。蒸発特性及び潤滑油との相溶性の点からは、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)が好適である。また、アミン系酸化防止剤としては、ジオクチルジフェニールアミンやフェニル−α−ナフチルアミンが挙げられる。尚、蒸発特性及び潤滑油との相溶性の点からは、ジオクチルジフェニールアミンが好適である。その配合量は、潤滑油に対する溶解性を考慮して、潤滑油又は潤滑グリースの基油に対してアミン系酸化防止剤0.1〜10重量%、フェノール系酸化防止剤0.1〜10重量%が好ましい。単独使用の場合は、アミン系酸化防止剤0.1〜10重量%が好適である。フェノール系酸化防止剤はアミン系と併用する場合に効果がある。
【0021】
さらに、本発明で使用する潤滑油又は潤滑グリースには、本発明の目的及び効果が損なわれない範囲で、必要に応じて、防錆剤、流動点降下剤、無灰系分散剤、金属系清浄剤、界面活性剤、摩擦調整剤などを配合することができる。
【0022】
傾斜状の動圧溝を備えた軸受面は、軸受面に対応した形状の成形型によって、動圧溝の形成領域とそれ以外の領域とを同時成形することによって形成することができる。そのための手段として、例えば、軸受面の形状に対応した凹凸状の成形型をコアロッドの外周面に形成し、このコアロッドの成形型に焼結金属素材を供給して圧迫力を加え、焼結金属素材の内周面をコアロッドの成形型に加圧して塑性変形させる手段を採用することができる。軸受面の成形後、圧迫力を解除することによる多孔質体素材のスプリングバックを利用して、コアロッドの成形型を多孔質体素材から離型することができる。
【0023】
軸受本体の材質としては、銅、鉄、及びアルミニウムの中から選択される1種以上の金属粉末を主原料とし、必要に応じて、すず、亜鉛、鉛、黒鉛の粉末又はこれらの合金粉末を混合し、焼結して得られた焼結金属とすることができる。軸受本体の材質としてこのような焼結金属を用いると、上記のような圧縮成形法により、高精度かつ安価に軸受本体を製造することができる。
【0024】
軸受面の数は1個の軸受に対して単数、複数を問わないが、軸受本体の内周面に複数の軸受面を軸方向に相互に離隔して形成すると共に、軸受面間の領域の内径寸法を、軸受面の動圧溝以外の領域の内径寸法よりも大きくした構成とすることができる。1個の軸受に複数の軸受面を形成することにより、複数個の軸受を組み込む場合における軸受面相互間の同軸度の問題を解消することができる。軸の回転精度を確保するため、通常、軸受は複数個、例えば2個を組合わせて使用される。また、軸受はハウジングに圧入して使用される場合が多い。そのため、従来は、2個の軸受の同軸度を確保するために、矯正ピンをハウジングに挿入した後、2個の軸受を同時に圧入する方法を採用していた。しかしながら、軸受面に傾斜状の動圧溝を設けた本発明の構成では、矯正ピンを用いて強制的に矯正すると、矯正ピンの食い付きによって軸受面の動圧溝が潰れてしまい、安定した動圧効果が得られなくなる。この場合、上記のように1個の軸受に複数の軸受面を形成することで、軸受面相互間の同軸度の問題を解消することができ、従来のように矯正ピンで同軸度を確保する必要がなくなる。従って、軸受面の動圧溝が潰れてしまうという不都合も発生しなくなる。また、複数個の軸受を配置する場合に比べ、部品点数、組立工数の削減になる。さらに、軸受面間の領域の内径寸法を、軸受面の動圧溝以外の領域の内径寸法よりも大きくすることにより、トルク上昇を抑えることができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0026】
図1は、情報機器の一種であるレーザビームプリンタ(LBP)に装備されるスピンドルモータを例示している(一般にポリゴミラーモータ又はポリゴンスキャナモータ等と呼ばれる。)。このスピンドルモータは、鉛直配置された回転軸4を回転自在に支持する軸受ユニットAと、回転軸4の上端にロータハブ5を介して装着されたポリゴンミラー6と、例えばアキシャルギャップを介して対向させたステータ7及びロータマグネット8を有するモータ部Bとを主要な構成要素とする。ステータ7は、軸受ユニットAを構成するハウジング1にベース9を介して固定され、ロータマグネット8は、ロータハブ5に固定される。また、ポリゴンミラー6は予圧ばね10によってロータハブ5に弾性的に押し付けられる。ステータ7に通電すると、ロータマグネット8と一体になったロータハブ5、ポリゴンミラー6、及び回転軸4が回転する。図示されていないレーザ光源から所定の光学系を経てポリゴンミラー6に入射したレーザ光は、高速回転するポリゴンミラー6で反射されて感光ドラム面を走査する。
【0027】
軸受ユニットAは、筒状のハウジング1と、ハウジング1の内周面に圧入または接着固定され、回転軸4の外周面をラジアル方向に支持する動圧型焼結含油軸受2と、ハウジング1の下端開口部に固定され、回転軸4の下軸端面をスラスト方向に支持するスラスト軸受3とで構成される。この実施形態において、スラスト軸受3は、円板状の樹脂製スラストワッシャ3aとこれを支持する裏金3bとからなり、樹脂スラストワッシャ3aの上面で回転軸4の凸球状になった下軸端面をスラスト方向に接触支持する構成になっている。尚、樹脂製スラストワッシャ3aは、回転軸4の下軸端面と接触するように、裏金3bの中心部分に埋設しても良い。
【0028】
図2に示すように、動圧型焼結含油軸受2は、焼結金属からなる多孔質の軸受本体2aに、潤滑油又は潤滑グリースを含浸させて自己潤滑機能を持たせたものである。軸受本体2aは、銅、鉄、およびアルミニウの中から選択される1種以上の金属粉末を主原料とし、必要に応じてニッケル、すず、亜鉛、鉛、黒鉛の粉末又はこれらの合金粉末を混合し、焼結して得られた焼結金属で形成され、望ましくは銅を20〜97重量%配合し、密度が6.4〜7.2g/cm3 となるように成形される。また、軸受本体2aに含浸する潤滑油又は潤滑グリースの基油としては、ポリ−α−オレフィン又はその水素化物とエステルとの混合物、あるいは、エステルが使用される。
【0029】
この実施形態において、軸受本体2aの内周面には、軸方向に離隔した2つの軸受面2bが形成され、2つの軸受面2bの双方にそれぞれ、軸方向に対して傾斜した複数の動圧溝2cが形成される。各軸受面2bは、軸方向に対して一方に傾斜した複数の動圧溝2cを円周方向に配列形成した第1領域m1と、第1領域m1から軸方向に離隔し、軸方向に対して他方に傾斜した複数の動圧溝2cを円周方向に配列形成した第2領域m2と、第1領域m1と第2領域m2との間に位置する環状の平滑領域nとを備えている。第1領域m1の動圧溝2cと第2領域m2の動圧溝2cは、平滑領域nで区画されて相互に非連続になっている。第1領域m1の背2d(動圧溝2c間の領域)と第2領域m2の背2d(動圧溝2c間の領域)は、平滑領域nと同一レベルにある。軸受面2bには、動圧溝2cの形成領域を含む全領域にわたって表面開孔がほぼ均一に分布している。
【0030】
軸受本体2aと軸4との間に相対回転が生じると、第1領域m1と第2領域m2にそれぞれ逆向きに傾斜形成された動圧溝2cによって、軸受隙間内の油が平滑領域nに向けて引き込まれ、油が平滑領域nに集められるため、平滑領域nにおける油膜圧力が高められる。そのため、高い軸受剛性が得られる。
【0031】
動圧溝2cの傾斜角度は、任意の角度に設定すれば良いが、好ましくは軸方向と直交する方向との角度βが15〜40°、より好ましくは15〜25°になるように設定するのが良い。また、動圧溝2cと背2dとの幅比は0.8〜1.5、好ましくは1.0〜1.2の範囲内に設定するのが良い。さらに、平滑領域nの軸方向幅の比率Rは、各軸受面2bの軸方向幅を1として、R=0.1〜0.6、好ましくはR=0.2〜0.4の範囲内に設定するのが良い。Rが0.1未満では、平滑領域nを設けたことによる軸受剛性の増加効果が顕著に表れず、逆にRが0.6を超えると、第1領域m1および第2領域m2の軸方向幅が小さくなり、動圧溝2cによる動圧効果が有効に発揮されない。
【0032】
動圧溝2cの溝深さh(図4参照)と軸受半径すきまc(軸受面2bの背2dの部分の半径と回転軸4の外周面の半径との差)との比には最適な範囲があり、この範囲外では充分な動圧効果が得られない。この最適範囲を明らかにすべく、図1に示すポリゴンスキャナモータを用いてジッタを測定したところ、c/hが0.5〜2.0の範囲内であればジッタを実用上充分なレベルに抑制できることが確認された。例えば、溝深さhが2〜4μmの場合は、軸受半径すきまcは2〜4μmの範囲内に設定すると良い。
【0033】
また、軸受本体2aにおける軸受面2b間の領域の内径寸法は、軸受面2bの背2dの部分の内径寸法よりも大きく設定される。
【0034】
尚、各軸受面2bの形状は図2(a)に示すものに限定されず、例えば、軸方向に対して一方に傾斜した動圧溝と他方に傾斜した動圧溝とを対にして軸方向にV字状に連続させたものでも良い(この場合、環状の平滑領域nは存在しない。)。回転体に殆どアンバランスがなく、軸受剛性が重要な要素とならないような使用条件等では、動圧溝が軸方向に連続した形状の軸受面の方が負圧が発生しにくく、むしろ好ましい場合もある。さらに、軸受面の動圧溝は軸方向に対して傾斜した形状であれば足り、この条件を満たす限り、任意の形状とすることができる。例えば、動圧溝はスパイラル状であっても良い。
【0035】
軸受本体2aに含浸する潤滑グリースの基油としては、40°Cでの動粘度が5〜60cStに設定されたものを使用することができる。ただし、ポリゴンスキャナモータでは、数万rpmという高速回転時での低トルク性が要求されるので、動粘度が上記範囲の下限に近い5〜20cStのものが好ましい。軸受本体2aに潤滑グリースを含浸すると、せん断力を受ける軸受隙間内以外では見かけの粘度が潤滑油に比べて大きくなるので、含浸油の周囲への流失を防ぐ上で有効である。その場合、基油中に分散させる増稠剤の配合割合は0.1〜5.0重量%とするのが良い。増稠剤の配合割合が5.0重量%を超えると見かけの粘度が高くなり過ぎて、含浸工程での作業が複雑になる。すなわち、軸受が瞬時にグリース中に沈まなかったり、また、含浸後、軸受表面に付着したグリースの除去作業に手間取る。一方、増稠剤の配合割合が0.1重量%未満では潤滑グリースを含浸させることによる上記効果が得られない。
【0036】
回転軸4を動圧型焼結含油軸受2の内周面に挿入してスピンドルモータを組立てる際、軸受本体2aに含浸された潤滑油又は潤滑グリースの基油と同じ(あるいは同種の)潤滑油を、含浸油とは別に、スラスト軸受3の軸受面が油で濡れ、かつ、動圧型焼結含油軸受2の軸受隙間が油で満たされるように注油すると良い。この動圧型焼結含油軸受2では、回転軸4の回転に伴う発生圧力と温度上昇による油の熱膨張によって、軸受本体2aの内部に含浸された潤滑油又は潤滑グリースの基油が軸受本体2aの表面から滲み出し(潤滑グリースの基油はごく微小な増稠剤成分を含みながら滲み出す。)、動圧溝2cの作用によって軸受隙間内に引き込まれる。駆動初期に動圧型焼結含油軸受2の軸受隙間内が油で満たされていると、空気の巻き込みがなく、良好な潤滑油膜が形成され、安定した軸受機能が得られる。また、スラスト軸受3の軸受面が駆動初期時から油で濡れ、良好な潤滑状態になる。
【0037】
また、通常、回転軸4はハウジング1の下端開口部にスラスト軸受3を装着した状態で、動圧型多孔質含油軸受2の内周面に挿入される。この挿入時には、軸受2と回転軸4との間の軸受隙間から空気が外部に逃げることになるが、軸受隙間は数μm程度しかないため、空気がハウジング1の下方空間に閉じ込められ、回転軸4の挿入作業が難しくなる場合がある。また、モータ回転時の発熱によって、ハウジング1の下方空間に閉じ込められた空気が膨張し、回転軸4を押し上げて軸受機能を不安定化させる可能性もある。この場合、図1及び図2に示すように、軸受2の外周面とハウジング1の内周面との間に、軸受本体2aの軸方向両端に開口する空気通路Sを設けることにより、この空気通路Sを介して、ハウジング1の下方空間の空気を外部に逃がすようにすると良い。尚、この実施形態では、空気通路Sを軸受本体2aの外周面に形成しているが、空気通路Sはハウジング1の内周面に形成しても良い。また、空気通路Sは1本でも良いし、円周方向に複数本形成しても良い。
【0038】
動圧型焼結含油軸受2の軸受隙間内に正圧が発生すると、軸受面2bに表面開孔があるので、油は軸受面2bの表面開孔を介して軸受本体2aの内部に還流する。その際、軸受面2bの表面開孔や、軸受面2bから所定深さの表層部分の細孔の大きさに大小があると、軸受隙間内の油が大きな孔を通って軸受本体2aの内部に還流しやすくなる。そのため、軸受隙間内の圧力分布が不均一になり(局部的な圧力降下が生じる。)、回転精度に影響を及ぼす場合がある。この場合、軸受本体2aに含浸させる潤滑剤として潤滑グリースを用いると、潤滑グリースの増稠剤が軸受本体2aの大きな細孔に選択的に埋設され、表面開孔や細孔の大きさが見かけ上平均化されるので、軸受本体2aの内部と軸受隙間との間の油の適切な循環が確保される。これにより、上記のような圧力分布の不均一化(局部的な圧力降下)の問題が解消され、また、動圧溝2cの動圧作用で次々と新たな油が軸受隙間に押し込まれつ続けるので、潤滑油膜の油膜力およびラジアル剛性が高い状態で維持される。この結果、回転軸4がホワール等の不安定振動を生じることなく動圧型焼結含油軸受2によって継続して非接触支持され、軸振れやNRRO、ジッタなどが低減される。
【0039】
上記のような傾斜状の動圧溝2cを有する軸受面2bは、圧縮成形により形成することができる。例えば、焼結含油軸受の加工に用いられるサイジングピンなどのコアロッドの外周面に軸受面2bの形状に対応した成形型を形成し、コアロッドの外周面に軸受本体2aの素材である円筒状の焼結金属素材を供給し、焼結金属素材に圧迫力を加えてその内周面をコアロッドの成形型に加圧し、成形型の形状を焼結金属素材の内周面に転写する。この時、軸受面2bにおける動圧溝2cの形成領域と、それ以外の領域(背2dおよび平滑領域n)とを同時成形することができる。この場合、コアロッドの成形型を精度良く仕上げておけば、軸受面2bの成形精度も良くなる。コアロッドの成形型を必要とされる精度、例えば真円度1μm、円筒度2μm以内に仕上げることは比較的容易である。軸受面2bの成形後は、焼結金属素材のスプリングバックを利用して、さらには加熱によるコアロッドと焼結金属素材との熱膨張差をスプリングバックに付加して、動圧溝2cの形状を崩すことなく、コアロッドを焼結金属素材の内周面から離型することができる。
【0040】
以上の軸受面成形を行う前に、焼結金属素材の内周面に例えば回転サイジングを施し、内周面の表面開孔率(本明細書において「表面開孔率」とは、単位面積内に占める表面開孔の面積割合をいう。)を予め調整しておくのが好ましい。完成品としての軸受本体2aの軸受面2bの表面開孔率は、動圧溝を有しない一般的な焼結含油軸受の軸受面の表面開孔率(通常20〜30%程度)よりも小さくするのが良い。例えば、軸受面2bの表面開孔率を3〜15%に設定すると、充分な油膜形成を維持しつつ、適切な油の循環を確保することができ、油の変性、劣化を最小限に抑える上で有利である。表面開孔率は、駆動条件によって変わる潤滑油の粘度との関係で、例えば、低粘度のものを使用する場合は油が動きやすくなるので5%前後に、高粘度のものを使用する場合は油は動きにくくなるので10%前後に調整すれば良い。ただし、表面開孔率を3%未満にすると、たとえ低粘度の油を用いても、油の適切な循環が阻害され、油の変性、劣化が進行しやすくなる。一方、表面開孔率が15%を超えると、軸受隙間から軸受本体の内部に還流する油の量が多くなりすぎて、潤滑油膜の圧力が低下するので好ましくない。尚、表面開孔率の調整は上記のような回転サイジングによる他、軸受本体2aの密度設定により、あるいは表面処理と密度設定とを併用することにより行うこともできる。
【0041】
【実施例】
[実施例1〜3]
図1に示すポリゴンスキャナモータを用いてホワールの発生状況を比較試験した。動圧型焼結含油軸受2には下記に示す各種の潤滑油を含浸させ、また、回転軸4は上端から突出するような長いものに替え、非接触変位計で軸の挙動を測定できるようにした。
【0042】
実施例1:PAOH(1)95重量%+エステル重量5%
動粘度 23.9cSt(40℃)
実施例2:PAOH(2)重量90%+エステル重量10%
動粘度 23.6CsT(40℃)
実施例3:エステル100重量%
動粘度19cSt(40℃)
比較例1:PAOH(1)100重量%
動粘度24cSt(40℃)
比較例2:PAOH(2)100重量%
動粘度17cSt(40℃)
(*上記の重量%はPAOHとエステルとの配合割合を示している。)
PAOH(1):ポリーα−オレフィン水素化物
(新日鐵化学製:シンフルード501
炭素数30:96重量%、炭素数40:4重量%)
PAOH(2):ポリーα−オレフィン水素化物
(新日鐵化学製:シンフルード401
炭素数20:0.2重量%、30:80−90重量%
炭素数40:19.8−9.8重量%)
エステル:ポリオールエステル(HATCO社製:H2937)
試験は、回転数20000rpm、回転体のアンバランス10mg・cm以下、常温常湿雰囲気下で実施した。その結果を表1にまとめて示す。試験台数は各5台で、表1は5台中何台においてホワールが発生したかを示している。
【0043】
【表1】
【0044】
PAOHが100重量%である比較例1、2ではホワールの発生が頻繁に認められたが、エステルを所定の重量%で配合した実施例1、2、エステルが100重量%である(PAOHを含まない)実施例3ではホワールの発生が極度に減少することが認められた。この試験結果から、エステルのPAOHに対する配合割合が5重量%以上であれば、ホワールの発生防止に充分な効果があることが分かる。また、PAOHを配合せず、エステルを主成分(100重量%)としても、ホワールの発生防止に同様の効果があることが分かる。ただし、エステルの場合、周囲に樹脂、特にポリカーボネートなどがあると膨潤しやすく、クラックの発生要因となるので注意を要する。周囲に樹脂、特にポリカーボネートなどがある場合は、エステルの配合割合を40重量%以下とした方が良い。
【0045】
[実施例4〜8]
また、図1に示すポリゴンスキャナモータを用いて3000時間の耐久試験を行い、軸振れと電流値の変化を評価した。焼結含油軸受には、表2に略号で表示する各種成分を配合した潤滑油又は潤滑グリースを含浸させた。表2に略号で表示する各成分は下記の通りであり、配合割合は重量%で示している。実施例7及び実施例8は潤滑グリース、その他は全て潤滑油である。尚、表2中の「Bal」は、全体を100として、数値表示した成分の配合割合の合計量を差し引いた残部という意味である。また、軸受種類の「SG」は軸受面に傾斜状の動圧溝を有する動圧型焼結含油軸受(図2に示す形態)、「NSG」は軸受面に傾斜状の動圧溝を有しない焼結含油軸受(真円軸受)を示している。「SG」と「NSG」は、動圧溝の有無を除いて、その他の仕様は同じである。
【0046】
PAOH(1):ポリーα−オレフィン水素化物
(新日鐵化学製:シンフルード501
炭素数30:96重量%、炭素数40:4重量%)
PAOH(2):ポリーα−オレフィン水素化物
(新日鐵化学製:シンフルード401
炭素数20:0.2重量%、30:80−90重量%
炭素数40:19.8−9.8重量%)
POE:ポリオールエステル(HATCO社製:H2937)
PMMA:ポリメタクリレート(100℃動粘度:1550cSt)
TP:リン酸トリオクチル
L57:ジオクチルジフェニールアミン
BTA:金属不活性剤(ベンゾトリアゾール誘導体)
CE:アミノコハク酸エステル(防錆剤)
URE:ジウレア増稠剤
LT:ステアリン酸リチウム石けん
【0047】
【表2】
【0048】
試験は、回転数20000rpm、回転体のアンバランス10mg・cm以下、軸受隙間8μm、雰囲気温度50℃の条件下で実施した。その結果を表3にまとめて示す。表3の数値は、電流値及び軸振れを測定し、電流値が初期値の±20%を超えるか、軸振れが初期値の+40%を超えるかした時点を耐久寿命とし、その時間を示している。尚、試験は3000時間を目標として行い、3000時間経過した時点で問題なく駆動した場合、その時点で試験を終了した。この場合、試験結果は「3000↑」と表示した。また、測定は200時間ごとに行い、上記の基準を満足できなくなった時間を寿命時間hとして記載している。一般的に、ポリゴンスキャナモータには2000時間以上の耐久寿命が求められるので、2000時間以上の耐久寿命がある場合は、実用可能と判断される。
【0049】
【表3】
【0050】
表3に示す試験結果より、実施例4〜9はいずれも2000時間以上の耐久寿命を示し、実用可能なレベルにあることが確認された。特に、エステルの配合量を多くした場合(実施例4、実施例5、実施例7、実施例8、実施例9)、潤滑グリースを含浸させた場合(実施例7、実施例8)に良好な結果が得られている。一方、エステルを配合していない比較例4は、動圧型焼結含油軸受でも比較的寿命が短く、2000時間に達しないうちに寿命に至った。また、実施例9は、エステル配合量を5%より少なくしているため、他の実施例に比べて寿命がやや短くなっている。尚、真円軸受を用いた比較例5では、PAOHにエステルを10重量%配合しているが、最初の測定時間である200時間で異音を発生し、寿命に至った。
【0051】
【発明の効果】
軸受面に傾斜状の動圧溝を有する動圧型焼結含油軸受において、軸受本体の軸受面の表面開孔率を3〜15%に設定すると共に、軸受本体に含浸する潤滑油又は潤滑グリースの基油として、PAO(又はPAOH)にエステルを5重量%以上配合した潤滑油を使用し、潤滑油又は潤滑グリースの基油が、軸受面の表面開孔を介して軸受本体の内部と軸受隙間との間を循環しつつ、動圧溝の作用により軸受隙間内に潤滑油膜を形成し、その潤滑油膜によって回転軸を非接触支持する構成とすることで、ホワール等の不安定振動の発生を防止することができ、かつ、潤滑油又は潤滑グリースの基油の変性や劣化を抑え、また高温下での蒸発特性を改善して長寿命化を図ることができる。
【0052】
また、軸受本体の内周面に複数の軸受面を軸方向に離隔形成することにより、軸受面相互間の同軸度を精度良く確保することができる。また、複数の軸受を配置する場合に比べ、部品点数、組立工数を減少することができる。
【0053】
上記のような動圧型焼結含油軸受で回転軸を回転自在に非接触支持する本発明の情報機器用スピンドルモータは、軸振れ、NRRO、ジッタ等、搭載装置の高速・高性能化に伴って厳しさが増す諸要求特性を満足でき、情報機器の機能向上、高寿命化に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】情報機器としてのポリゴンスキャナモータを例示する断面図である。
【図2】動圧型焼結含油軸受の縦断面図(図a)、正面図(図b:図aにおけるb方向矢視図)である。
【図3】動圧型焼結含油軸受で回転軸を非接触支持する際の、軸方向断面での油の流れを模式的に示す図である。
【図4】動圧型焼結含油軸受における軸受面の動圧溝の深さhと軸受隙間cとの関係を模式的に示す図である。
【符号の説明】
2 動圧型焼結含油軸受
2a 軸受本体
2b 軸受面
2c 動圧溝
4 回転軸
7 ステータ
8 ロータマグネット
Claims (10)
- 支持すべき回転軸の摺動面と軸受隙間を介して対向する軸受面を有し、その軸受面に軸方向に対して傾斜した動圧溝が設けられた焼結金属からなる多孔質の軸受本体と、軸受本体の内部の細孔内に含浸された潤滑油又は潤滑グリースとを備え、
上記軸受本体の軸受面の表面開孔率が3〜15%であり、
上記潤滑油又は上記潤滑グリースの基油が、(a)ポリ−α−オレフィン又はその水素化物とエステルとの混合物、及び、(b)エステルの中から選択される1の潤滑油であり、
上記潤滑油又は上記潤滑グリースの基油が、上記軸受面の表面開孔を介して上記軸受本体の内部と軸受隙間との間を循環しつつ、上記動圧溝の作用により軸受隙間内に潤滑油膜を形成し、その潤滑油膜によって上記回転軸を非接触支持することを特徴とする動圧型焼結含油軸受。 - ポリ−α−オレフィン又はその水素化物と、エステルとの配合割合が重量比で(95:5)〜(0:100)である請求項1記載の動圧型焼結含油軸受。
- 上記エステルがポリオールエステルである請求項1又は2記載の動圧型焼結含油軸受。
- 上記焼結金属が、銅、鉄、及びアルミニウムの中から選択される1種以上の材料を主成分とする請求項1記載の動圧型焼結含油軸受。
- 上記軸受本体の内周面に複数の軸受面を軸方向に相互に離隔して形成すると共に、軸受面間の領域の内径寸法を、軸受面における動圧溝以外の領域の内径寸法よりも大きくした請求項1記載の動圧型焼結含油軸受。
- 情報機器の回転要素と共に回転する回転軸と、この回転軸を支持する軸受と、所定のギャプを介して相対向配置されたロータ及びステータとを有する情報機器のスピンドルモータにおいて、
上記軸受が、回転軸の摺動面と軸受隙間を介して対向する軸受面を有し、その軸受面に軸方向に対して傾斜した動圧溝が設けられた焼結金属からなる多孔質の軸受本体と、軸受本体の内部の細孔内に含浸された潤滑油又は潤滑グリースとを備え、
上記軸受本体の軸受面の表面開孔率が3〜15%であり、
上記潤滑油又は上記潤滑グリースの基油が、(a)ポリ−α−オレフィン又はその水素化物とエステルとの混合物、及び、(b)エステルの中から選択される1の潤滑油であり、
上記潤滑油又は上記潤滑グリースの基油が、上記軸受面の表面開孔を介して上記軸受本体の内部と軸受隙間との間を循環しつつ、上記動圧溝の作用により軸受隙間内に潤滑油膜を形成し、その潤滑油膜によって上記回転軸を非接触支持することを特徴とする情報機器のスピンドルモータ。 - ポリ−α−オレフィン又はその水素化物と、エステルとの配合割合が重量比で(95:5)〜(0:100)である請求項6記載の情報機器のスピンドルモータ。
- 上記エステルがポリオールエステルである請求項6又は7記載の情報機器のスピンドルモータ。
- 上記焼結金属が、銅、鉄、及びアルミニウムの中から選択される1種以上の材料を主成分とする請求項6記載の情報機器のスピンドルモータ。
- 上記軸受本体の内周面に複数の軸受面を軸方向に相互に離隔して形成すると共に、軸受面間の領域の内径寸法を、軸受面における動圧溝以外の領域の内径寸法よりも大きくした請求項6記載の情報機器のスピンドルモータ。
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