JP3782215B2 - 空気圧加振式の能動型制振器 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は、振動を抑制すべき制振対象に装着されて制振対象における振動を能動的に低減せしめる能動型制振器に係り、特に、空気圧変動を利用してマス部材を加振せしめることによって生ぜしめられる加振力を制振対象に及ぼすことによって能動的な制振効果を得るようにした空気圧加振式の能動型制振器に関するものである。
【0002】
【背景技術】
自動車の車体等のように振動が問題となる部材である制振対象において、その振動を低減するための手段の一つとして、従来から、動的吸振器(ダイナミックダンパ)が、広く知られている。また、近年では、より高度な制振効果を得るために、制振対象に加振力を及ぼすことにより、制振対象の振動を抑制乃至は制御するようにした能動型の制振装置が提案されており、その一種として、特開平3−292219号公報や特開平6−235438号公報等には、制振対象に取り付けられる取付部材に対し、ばね部材を介してマス部材を支持せしめて一振動系を構成すると共に、この振動系のマス部材に加振力を及ぼす電磁駆動機構を設けて、振動系の振動作用を利用することにより、制振対象に大きな加振力を及ぼすようにした制振器が、開示されている。ところが、このような従来の制振器では、構造が複雑で重く製作困難な電磁駆動機構を組み込まなければならず、サイズや重量が増大し、製作性やコスト性が悪いという不具合があった。
【0003】
そこで、本出願人は、先に、特願平8−326464号において、制振対象に取り付けられる取付部材に対してマス部材を離隔配置せしめて、弾性連結体によって弾性連結せしめると共に、内部の圧力変化によってマス部材に対して加振力を及ぼす密閉された作用空気室を設けてなる構造の空気圧加振式の能動型制振器を、明らかにした。このような制振器においては、電磁駆動機構等の加振手段を制振器内部に組み込む必要がなく、部品点数の減少が図られて、小型化や軽量化等が有利に達成され得るのである。
【0004】
ところで、かくの如き空気圧加振式の能動型制振器においては、作用空気室に対して圧力変化を及ぼすために、例えば、作用空気室が、エア給排路を通じて切換弁に接続せしめられ、切換弁の切換作動によって、作用空気室が、互いに異なる圧力を有する二つの空気圧源に交互に繰り返し連通せしめられるようにされる。より具体的には、例えば、二つの空気圧源として負圧源と大気を採用して、切換弁の切換作動を適当な周期で行い、作用空気室に対する負圧供給と大気開放を繰り返させることにより、マス部材に対して、切換弁の切換作動周期に対応した周波数の加振力を、有利に及ぼすことが出来るのである。
【0005】
しかしながら、このような先の出願に係る構造の制振器について、本発明者が更なる検討を加えたところ、切換弁の切換作動等によって生ぜしめられて、エア給排路を通じて作用空気室に及ぼされる空気圧の変動が、切換弁の切換周期等に対応した目的とする周波数成分だけでなく、それ以外の副次的な周波数成分をも内在し易いことが見い出された。そして、かかる副次的な周波数成分は、制振すべき振動成分とは、基本的に相関性を有するものでないために、この副次的な周波数成分を有する空気圧変動が作用空気室に及ぼされてマス部材が加振されることによって、制振効果に悪影響が及ぼされるおそれがあったのである。例えば、自動車用の制振器においては、副次的な周波数成分を有する空気圧変動に起因する加振力によって、当初の制振目的以外の周波数域で、こもり音やビビリ振動等が発生し、防振性が悪化する可能性があった。
【0006】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、空気圧加振式の能動型制振器において、制振すべき振動に対応した周波数を有する加振力だけを、制振対象に対して有効に及ぼすことを可能とし、それによって、制振効果の更なる向上と安定化を図ることにある。
【0007】
【解決手段】
そして、このような課題を解決するために、本発明の特徴とするところは、制振対象に取り付けられる取付部材に対して、マス部材が離隔配置されており、該マス部材が該取付部材に対して、弾性連結体により、防振すべき振動の入力方向に相対変位可能に弾性支持せしめられると共に、内部の圧力変化によって該マス部材に加振力を及ぼす密閉された作用空気室が設けられた空気圧加振式の能動型制振器において、前記作用空気室に圧力変化を及ぼすエア給排路上に、防振すべき振動の周波数から外れた周波数域の空気圧変動を減衰せしめる消音器を配設したことにある。
【0008】
このような本発明に従う構造とされた空気圧加振式の能動型制振器においては、エア給排路上に配設された消音器による空気圧変動の減衰効果によって、制振すべき振動に対応しない周波数成分を有する空気圧変動が、作用空気室に至るまでのエア給排路上で低減せしめられることにより、かかる周波数成分の作用空気室への伝達、ひいては制振対象における振動悪化が軽減乃至は防止されることとなる。しかも、消音器は、その特性を適当に調節することによって、制振すべき振動に対応した周波数成分の空気圧変動に対する減衰効果を低く抑えることが出来ることから、制振対象となる周波数域の振動に対しては、有効な制振効果が安定して発揮されるのである。
【0009】
また、本発明に従う構造とされた空気圧加振式の能動型制振器は、取付部材やマス部材,弾性連結体を含んで構成された制振器本体や、空気圧源等には、特別な改造を加えることなく、エア給排路上に消音器を付加するだけの極めて容易で且つ簡単な構成によって、実現されるのであり、実用化が容易であるといった利点もある。
【0010】
なお、本発明において、弾性連結体としては、例えばゴム弾性体が好適に採用される。また、消音器としては、特定の周波数域の空気圧変動に対して減衰効果を発揮し得るものであれば良く、従来から公知のレゾネータタイプ(共鳴型)の他、空洞型や干渉型など、各種のものが、単独で或いは組み合わせた態様で採用可能であるが、特に、制振すべき振動に対応した周波数成分の空気圧変動に対する減衰効果を、副次的な周波数成分の空気圧変動に対する減衰効果に比べて、充分に低く設定することの出来るものが望ましい。更に、消音器は、エア給排路上に複数配設することも可能であり、その際、各消音器に対して、異なる空気圧変動減衰効果の周波数特性を設定するようにしても良い。また、エア給排路の形態や材質等は、特に限定されるものでないが、及ぼされる空気圧変動に対して充分な変形強度を有し、少なくとも変形による閉塞が防止されるだけの強度を有する材質、例えば金属や樹脂,ゴム等が採用される。ここにおいて、エア給排路が空気圧変動によって弾性変形する場合には、エア給排路の弾性変形に起因した副次的な空気圧変動が惹起されるおそれもあるが、本発明に従う構造とされた能動型制振器においては、そのような空気圧変動に対しても、消音器によって、有効な低減効果を得ることが出来るのである。
【0011】
また、本発明に従う構造とされた能動型制振器においては、例えば、作用空気室を、エア給排路を通じて、エアシリンダ機構等の圧力制御型の空気圧源に接続することによって、作用空気室に空気圧変化を及ぼすことも可能であるが、好適には、作用空気室が、エア給排路を通じて、切換弁に接続せしめられ、該切換弁の切換作動によって、作用空気室が、互いに異なる圧力を有する二つの空気圧源に交互に繰り返し連通せしめられることにより、作用空気室に圧力変化が生ぜしめられるようにされる。なお、空気圧源としては、負圧,正圧および大気圧のうちの適当なものを組み合わせて採用することが有効である。また、切換弁としては、制御が容易であると共に応答性に優れていることから、ソレノイドバルブ等が、好適に採用される。
【0012】
このように、作用空気室に対し、切換弁によって複数の空気圧源を交互に連通させるようにすれば、極めて簡単な構造をもって、作用空気室に空気圧変化を及ぼすことが可能であり、特に、自動車用制振器においては、内燃機関の吸気系で生ぜしめられる負圧と大気圧を採用することによって、特別な空気圧源を設ける必要がなく、構造の簡略化が有利に達成される。
【0013】
しかも、本発明者が検討したところ、切換弁の切換作動により、作用空気室を異なる空気圧源に交互に連通せしめることによって、作用空気室に圧力変化を生ぜしめるような場合には、切換弁の切換作動がパルス的にON/OFF(開閉)制御されることに起因して、エア給排路内の空気圧が歪んでしまうために、作用空気室に及ぼされる空気圧に対して、制振すべき振動に対応しない副次的な周波数成分がのり易いことが認められたが、その場合に、本発明を適用して、上述の如く、エア給排路上に消音器を配設することによって、極めて優れた制振効果が発揮され得るのである。
【0014】
また、本発明に従う構造とされた能動型制振器において、作用空気室は、内部の圧力変化によってマス部材に加振力を及ぼし得るものであれば良く、例えば、取付部材とマス部材を中空形状乃至は環状形状の弾性連結体で弾性的に連結することにより、取付部材とマス部材の対向面間において、周壁部が弾性連結体で構成された作用空気室を採用することも可能であるが、その他、例えば、作用空気室の壁部の一部を可撓性膜で構成すると共に、該可撓性膜を挟んで作用空気室とは反対側に、非圧縮性流体が充填されて密閉された作用液室を形成せしめて、作用空気室の圧力変化による加振力が、作用液室を介して、マス部材に及ぼされるようにしても良い。
【0015】
このような作用液室を設けた制振器においては、作用空気室の容積を小さく設定することが可能であり、それによって、空気圧の制御による加振力の応答性の向上が図られ得る。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0017】
先ず、図1には、本発明の第一の実施形態としての能動型制振器が、示されている。この能動型制振器は、制振器本体10と、該制振器本体10に対して空気圧変化を及ぼしめて加振力を生ぜしめるための空気圧制御手段を含んで構成されている。かかる制振器本体10は、自動車のボデー等の制振対象としての振動体12に取り付けられる取付部材としての取付金具14に対して、マス部材16が、弾性連結体としてのゴム弾性体18を介して弾性的に連結支持せしめられており、それによって、マス部材16をマス系としゴム弾性体18をバネ系とする一つの振動系が構成されている。また、取付金具14とマス部材16の間には、壁部の一部がゴム弾性体18によって構成されて、外部空間に対して遮断されて密閉された作用空気室20が画成されている。そして、この作用空気室20に対して、空気圧制御手段を構成するエア給排路22を通じて圧力変化が及ぼされることにより、かかる振動系に加振力が及ぼされてマス部材16が取付金具14に対して加振変位せしめられるようになっており、この振動系における加振力を取付金具14を介して振動体12に及ぼすことにより、振動体12における振動を能動的に抑えるようになっている。なお、本実施形態の制振器本体10においては、図1中の上下方向の振動に対して、有効な制振効果を発揮し得るようにされている。
【0018】
より詳細には、取付金具14は、小径ロッド形状を有しており、軸方向一方の端部(図1中、上端部)がボルト23とされている。また、取付金具14の内部には、ボルト23側の軸方向端部から軸方向に所定長さで延びて、取付金具14の軸方向中間部分の外周面に開口するエア通路24が設けられている。なお、取付金具14には、エア通路24に対して、後述するエア給排路22を接続するために、ボルト23の軸方向端部から軸方向外方に突出するポート26が一体形成されている。
【0019】
また一方、マス部材16は、鉄系金属等の比重の大きい材質により、円形ブロック形状をもって形成されたマス本体28に対して、薄肉の有底円筒形状を有するカバー金具30が、軸方向一方の側から外挿されて一体的に固着された構造とされている。また、マス本体28には、中心軸上を軸方向に貫通するガイド孔32が設けられており、カバー金具30がマス本体28に外嵌されることにより、このガイド孔32の軸方向一方の開口部が、カバー金具30の底壁によって閉塞せしめられている。更に、カバー金具30における筒壁の開口周縁部は、マス本体28から軸方向に突出したカシメ部34とされている。
【0020】
そして、このようなマス部材16は、そのガイド孔32に対して取付金具14の軸方向下端側(ボルト23とは反対側の軸方向端部)が挿入されることにより、取付金具14と同軸的に配設されている。なお、マス部材16のガイド孔32は、取付金具14の外径寸法よりも僅かに大きな内径寸法を有しており、取付金具14に対して非接触に遊挿されて、軸方向の相対変位が許容されるようになっている。また、マス部材16におけるガイド孔32には、カバー金具30で閉塞された開口端部にガイドスリーブ36が内挿固定されており、このガイドスリーブ36の内周面によって、取付金具14の軸方向先端部が、軸方向に低摩擦で摺接案内されるようになっていると共に、取付金具14とマス部材16の軸直角方向への相対変位に起因する当接が軽減乃至は防止されるようになっている。
【0021】
さらに、これら取付金具14とマス部材16を弾性的に連結するゴム弾性体18は、略円環板形状を有しており、その内周面に金属スリーブ38が、外周部分に連結金具40が、それぞれ加硫接着されている。金属スリーブ38は円筒形状を有しており、この金属スリーブ38が取付金具14に外嵌固定されることによって、ゴム弾性体18が、取付金具14から軸直角方向外方に広がる状態で固着されている。なお、金属スリーブ38は、取付金具14に対して、エア通路24の開口部よりもボルト23側に位置して嵌着固定されており、しかも、金属スリーブ38と取付金具14の嵌着面では、充分な流体密性が保持されるようになっている。
【0022】
また一方、連結金具40は、円筒形状を有していると共に、軸方向両側がそれぞれ径方向外方に湾曲されて上下のフランジ部42,44が一体形成されており、ゴム弾性体18の外周部分に対して埋設状態で加硫接着されている。また、下フランジ部44は、ゴム弾性体18から径方向外方に突出しており、この下フランジ部44の外周縁部に対して、マス部材16を構成するカバー金具30のカシメ部34が係止されて、該カシメ部34とマス本体28の間で下フランジ部44を挟圧することにより、マス部材16が連結金具40に対して固定的に取り付けられている。なお、マス部材16の連結金具40への取付部位では、下フランジ部44とマス本体28の間でシールゴム層46が挟圧されることにより、流体密性が確保されている。
【0023】
すなわち、このようにゴム弾性体18の内周側が取付金具14に、外周側がマス部材16に、それぞれ取り付けられることによって、マス部材16が取付金具14に対してゴム弾性体18を介して弾性的に支持されているのであり、また、取付金具14とマス部材16の間には、壁部の一部がゴム弾性体18にて構成されて、外部空間に対して密閉された一つの作用空気室20が形成されている。なお、この作用空気室20は、取付金具14とマス部材16の間において、ガイド孔32の内部も含んで形成されている。また、かかる作用空気室20には、取付金具14に貫設されたエア通路24が、連通,接続せしめられている。
【0024】
そして、上述の如き構造とされた制振器本体10は、図1に示されているように、振動体12に設けられた取付孔50に対して、取付金具14がボルト23側から挿入せしめられ、取付金具14に外嵌固定された金属スリーブ38と、取付金具14に螺着されたナット52の間で、振動体12を挟圧保持せしめて、取付金具14を振動体12に固着することによって、振動体12に装着されている。また、その際、取付金具14に対するマス部材16の可動方向、即ち取付金具14の軸方向が、振動体12において防振しようとする振動の方向となるようにセットせしめられている。
【0025】
さらに、取付金具14のポート26に対して、空気圧制御手段を構成するエア給排路22が接続されており、このエア給排路22を通じて、作用空気室20が、負圧ポンプや内燃機関の吸気系等の負圧源によって生ぜしめられた負圧を蓄える負圧タンク54に接続されている。また、ポート26を負圧タンク54に接続するエア給排路22上には、切換バルブ56が設けられており、この切換バルブ56の切換作動によって、作用空気室20が、負圧タンク54と大気中とに、択一的に接続されるようになっている。なお、切換バルブ56としては、高速で切換作動可能な電磁式のもの等が好適に採用される。
【0026】
これにより、切換バルブ56を切換作動させて、作用空気室20に負圧と大気圧を交互に及ぼすことによって、作用空気室20の圧力変化に伴い、マス部材16に対し、取付金具14の軸方向で、該取付金具14に対して接近/離隔する方向の変位力が及ぼされるようになっている。即ち、取付金具14と金属スリーブ38は、それらの軸方向端面において、マス部材16に対して、作用空気室20を挟んで軸方向に対向位置せしめられていると共に、ゴム弾性体18の弾性変形に基づいて軸方向に相対変位可能に連結されていることから、作用空気室20に負圧を及ぼすことによって、マス部材16が取付金具14に対して軸方向に接近変位せしめられるのである。
【0027】
また、マス部材16は、切換バルブ56の切換周期に対応した周期で、取付金具14に対して軸方向に変位せしめられるのであり、切換バルブ56の切換周期を調節することによって、マス部材16とゴム弾性体18からなる振動系を、任意の周波数で加振することが出来ると共に、作用空気室20に及ぼされる負圧の大きさを調節することによって、マス部材16とゴム弾性体18からなる振動系における加振力乃至は振幅を制御することが出来るのである。
【0028】
それ故、防振しようとする振動体12の振動の周波数や振幅等に応じて、切換バルブ56を切換制御することにより、振動体12に対して有効な加振力を及ぼしめて、有効な振動抑制効果乃至は振動制御効果を得ることが出来るのである。特に、マス部材16とゴム弾性体18からなる振動系の共振周波数域では、その共振作用によってより大きな加振力が効率的に生ぜしめられて、一層優れた振動抑制効果乃至は振動制御効果が発揮され得るのである。
【0029】
より具体的には、本実施形態の制振器を、振動体としての自動車のボデー12に装着せしめた場合の概略構造が、図2にモデル的に示されている。なお、図2において、58は、エンジンを含むパワーユニット60をボデー12に対して防振支持せしめるエンジンマウントであり、このエンジンマウント58を通じてパワーユニット60からボデー12に伝達される振動が、制振器によって能動的に抑制されるようになっている。即ち、エンジン回転数やシフトポジション,エアコンスイッチの状態等の車両状態信号に基づいて、予め求められたデータにより、問題となるボデー振動の周波数や振幅,位相等を割り出し、かかるボデー振動と逆位相となってボデー振動を相殺的に抑制する加振力がボデー12に及ぼされるように、制御装置62において、切換バルブ56の切換制御信号が生成され、必要に応じてアンプ等で増幅されて切換バルブ56に入力されるようになっており、かかる制御信号に従って切換バルブ56が、適当な周期と位相で切換作動せしめられることにより、有効な制振効果が発揮されるようになっているのである。
【0030】
さらに、エア給排路22には、切換バルブ56の切換作動によって生ぜしめられた変動空気圧の伝達経路上、換言すれば切換バルブ56よりも制振器本体10側に位置して、消音器64が、設けられている。この消音器64は、エア給排路22の周壁面に開口,連通せしめられて、該エア給排路22から分岐して所定長さ:Lで延び出すと共に、先端部が蓋体66で気密に閉塞された中空管体68にて構成されている。これにより、かかる消音器64は、良く知られているように、中空管体68の長さ:Lを適当に調節することにより、その長さ:Lに対応した周波数(振動数)域の空気振動(空気圧変動)に対して、波動の共鳴減衰作用に基づく有効な低減効果を発揮し得るようにされている。
【0031】
ここにおいて、この中空管体68の長さ:Lは、ボデー12において抑制すべき振動周波数に対応した空気圧変動に対しては出来るだけ低減効果を発揮せずに、それ以外の空気圧変動、即ちボデー12において抑制すべき振動周波数に対応しない空気圧変動に対しては出来るだけ有効な低減効果を発揮し得るように調節されている。具体的には、例えば、切換バルブ56のパルス的な切換作動によっては、エア給排路22内において、切換バルブ56の切り換えによる基本的な空気圧変動周波数よりも高次(例えば、2次や3次等)の周波数成分が発生し易く、この高次成分がのることによって理想的な正弦波的な空気圧変動から大きく外れてしまうが、その場合には、問題となる高次の周波数の空気圧変動に対して有効な低減効果を発揮し得るように、中空管体68の長さ:Lが設定されることとなる。
【0032】
従って、上述の如き構造とされた制振器においては、エア給排路22を通じて作用空気室20に及ぼされる空気圧変動のうち、ボデー振動に対応しない雑音的な空気圧変動が消音器64によって低減乃至は消去されることにより、作用空気室20に対して、制振すべきボデー振動に対応した空気圧変動だけが有効に及ぼされて、ボデー振動を相殺的に抑制する加振力が、ボデー12に対して効果的に及ぼされるのであり、制振対象以外の周波数域における振動状態の悪化現象等の不具合が有利に回避されるのである。
【0033】
また、上述の如き制振器においては、それ自体に電磁駆動手段等のアクチュエータ部材を組み込む必要がないことから、構造が極めて簡単で製作が容易であり、軽量でコンパクト且つ安価であるといった大きな利点がある。しかも、構造が簡単であることから、耐久性や信頼性にも優れており、故障した場合でも対処が容易であるといった利点もある。
【0034】
しかも、かかる制振器では、負圧力を利用してマス部材16の変位力を得るようになっていることから、特に内燃機関を利用した自動車等においては、吸気系等に生ずる負圧を有利に活用することが出来るのであり、特別な駆動エネルギ発生手段が必要ないといった利点もある。なお、圧縮エアが容易に得られる場合には、負圧力に代えて正圧力を利用してマス部材16を変位させることも、勿論可能である。
【0035】
なお、エア給排路22上に配設される消音器64としては、上述の如きサイドブランチタイプの他、特定周波数域の空気圧変動に対して有効な低減効果を発揮し得る各種の構造のものが採用され得る。具体的には、例えば、図3に示されているように、分岐した中空管体68の先端部に所定大きさの共鳴箱70が設けられた共鳴型消音器や、図4に示されているように、所定大きさの拡径部72が軸方向に複数配列されて、エア給排路22に対して直列的に配設される共鳴型消音器、図5に示されているように、エア給排路22の外周を覆う共鳴箱74が設けられると共に、該共鳴箱74によって形成された所定大きさの内部空間に連通する連通孔76がエア給排路22の周壁部に設けられた共鳴型消音器、或いは図6に示されているように、エア給排路22に対して所定容積の膨張箱78が直列的に配設された空洞型消音器や、図7に示されているように、エア給排路22上に直列的に配設された所定容積の膨張箱80内に、エア給排路22の入力側開口端部と出力側開口端部が所定長さ差し込まれた空洞型消音器、図8に示されているように、エア給排路22の屈曲部位において所定容積の膨張箱82を実質的に直列的に設置せしめた空洞型消音器、更には、図9に示されているように、エア給排路22において軸方向に離隔位置した2点を、エア給排路22の長さとは異なる所定長さで連通せしめるバイパス管路84を設けた干渉型消音器、或いは図10に示されているように、エア給排路22上に直列的に配設された膨張箱86内に、エア給排路22の入力側を細孔88を通じて開口,連通せしめた吹出口型消音器などが、何れも、採用可能である。
【0036】
さらに、制振器本体としても、内部に形成された作用空気室に空気圧変動を及ぼすことによって、作用空気圧の変動周期に対応した周期でマス部材が加振せしめられる空気圧加振式の能動型制振器であれば良く、その構造は限定されるものではない。具体的には、例えば、図11に示されているように、非圧縮性流体が封入された作用液室90を備え、この作用液室90の液圧を介して、作用空気室の圧力変化による加振力がマス部材に及ぼされるものであっても良い。
【0037】
より詳細には、かかる図11に示された制振器本体92は、取付部材として逆向きの皿形状を有する取付金具94が用いられており、かかる取付金具94が、自動車のボデー等の制振対象である所定の振動体96の下面に重ね合わされて、底部中央から軸方向上方に突出して固設された取付ボルト98によって、振動体96に取り付けられるようになっている。
【0038】
また一方、マス部材は、円形ブロック形状のマス金具100にて構成されており、このマス金具100の軸方向上端部に円環板形状のゴム弾性体102が、その内周縁部において加硫接着されることによって、マス金具100の外周面から略径方向外方に向かって広がる状態で固着されている。また、ゴム弾性体102の外周縁部は、マス金具100の径方向外方に所定距離を隔てて配された円筒形状の連結金具104に加硫接着されている。この連結金具104は、マス金具100と同軸上で、且つマス金具100よりも軸方向上方に位置せしめられており、該連結金具104の下側開口周縁部にゴム弾性体102の外周縁部が加硫接着されている一方、該連結金具104の上側開口周縁部にカシメ部106が一体形成されている。
【0039】
そして、取付金具94とマス金具100が、軸方向に所定距離を隔てて対向配置せしめられて、連結金具104のカシメ部106に対して取付金具94の外周縁部がかしめ固定されることにより、それら取付金具94とマス金具100が、ゴム弾性体102を介して弾性的に連結されている。また、これにより、取付金具94とマス金具100の対向面間には、外部空間に対して密閉された密閉室108が形成されている。
【0040】
さらに、密閉室108には、薄肉の円板形状を有する可撓性膜としてのゴム膜110が配設されている。このゴム膜110は、中央部分に金属等の剛性材からなる薄肉円板形状の拘束板112が加硫接着されていると共に、外周縁部に円環形状の支持金具114が加硫接着されており、支持金具114が連結金具104のカシメ部106によって、取付金具94にかしめ固定されることにより、取付金具94とマス金具100の対向面間の中間部分に配設されている。また、それにより、密閉室108がゴム膜110によって流体密に二分されており、ゴム膜110とマス金具100の間に、水やアルキレングリコール等の非圧縮性流体が充填された作用液室90が形成されている一方、ゴム膜110と取付金具94の間に作用空気室118が形成されている。
【0041】
また、作用空気室118には、取付金具94に貫設されたポート120が連通されており、図示はされていないが、このポート120に対して、エア給排路22が接続されることにより、前記図1に示された第一の実施形態と同様な空気圧制御手段が接続されるようになっており、かかる空気圧制御手段によって、作用空気室118に対して、振動体96における制振すべき振動周波数に対応した周期の空気圧変動が及ぼされるようになっている。
【0042】
そして、このような構造とされた制振器本体92においては、第一の実施形態と同様に、作用空気室118に対して負圧と大気圧を交互に適当な周期で及ぼすと、ゴム膜110の変形に基づいて、該作用空気室118の圧力変動が作用液室90に及ぼされ、この作用液室90の圧力変動に基づいて、マス金具100が、取付金具94に対して接近/離隔する軸方向に変位せしめられることとなる。このマス金具100の変位によって、加振力が振動体96に及ぼされることから、本実施形態の制振器本体92を採用して制振器を構成しても、前期第一の実施形態の制振器と同様な振動抑制乃至は制御等といった効果が有効に発揮され得るのである。
【0043】
また、特に本実施形態の制振器本体92においては、取付金具94とマス金具100の間に形成された作用空気室118と作用液室90によって、マス金具100の変位許容量やゴム弾性体102の変形許容量等を充分に得ることが出来るだけの容積を確保しつつ、作用空気室118の容積を抑えて空気圧の制御によるマス金具100の変位、ひいては振動体96に及ぼされる加振力の応答性の向上を図ることが出来るのである。
【0044】
加えて、本実施形態の制振器本体92においては、作用液室90の壁部において、作用空気室118から作用液室90への圧力の入力側壁部を構成するゴム膜110の径寸法:R1よりも、作用液室90の圧力の出力側壁部を構成するマス金具100側の径寸法:R2の方が大きく設定されていることから、作用空気室118の空気圧が作用液室90で増幅されてマス金具100側に及ぼされるのであり、それによって、マス金具100に対する総変位力をより有利に得ることが出来るのである。
【0045】
なお、ゴム板92は、中央部分の変形が拘束板112で規制されていることから、局部的な変形が防止されて作用空気室118から作用液室90への圧力伝達が有利に為され得ると共に、取付金具94側やマス金具100側への局部的な当接が防止されて耐久性が有利に確保され得る。また、拘束板112とマス金具100との各対向面には、薄肉のゴム層122,124が設けられていると共に、拘束板112の取付金具94に対する対向面には、環状の緩衝ゴム126が設けられており、拘束板112のマス金具100や取付金具94に対する当接時の異音や衝撃が軽減乃至は防止されるようになっている。
【0046】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、これらの実施形態によって何等限定的に解釈されるものではない。
【0047】
例えば、作用空気室20,118の容積や壁ばね剛性等を適当に設定することにより、空気の圧縮ばね作用による共振現象も利用することが可能であり、それによって、より大きな加振力を一層効率的に得ることが出来る。
【0048】
また、図11に示された実施形態の制振器本体92において、作用空気室118から作用液室90への圧力の入力側壁部を構成するゴム膜110の径寸法:R1よりも、作用液室90の圧力の出力側壁部を構成するマス金具100側の径寸法:R2の方を小さく設定することも可能であり、それによって、作用空気室118の空気圧変動に基づくゴム膜110の変位量よりもマス金具100の変位量の方を大きくして、作用空気室118への空気給排量に対するマス金具100の変位量をより有利に確保することが出来るのである。
【0049】
また、前述の如き制振器本体10,92において、作用空気室20,118内に、コイルスプリングを配設し、マス部材16や拘束板112に対して、取付金具14,94から離隔する方向の付勢力を及ぼしめるようにしても良い。それによって、マス部材16や拘束板112の姿勢の安定化が図られると共に、ゴム弾性体18,102やゴム膜110の弾性力が補助されてヘタリ等による特性変化が軽減され得る。
【0050】
さらに、本発明が、例示の如き自動車のボデー用の制振器以外にも、自動車の各部材や自動車以外の各種装置に用いられる制振器に対して、何れも、同様に適用され得るものであることは、勿論である。
【0051】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【0052】
【発明の効果】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされた制振器においては、マス部材の加振用のアクチュエータ手段を構成するための特別な部材を組み込む必要がなく、外部から作用空気室に及ぼされる空気圧に基づいてマス部材が変位せしめられることから、能動的な振動低減効果を発揮し得る制振器が、簡単な構造と少ない部品点数をもって有利に実現され得るのである。
【0053】
しかも、エア給排路を通じて作用空気室に及ぼされる空気圧変動に対して、制振対象において制振すべき振動に対応しない周波数域の空気圧変動が何等かの原因でのった場合でも、そのような振動に対応しない空気圧変動を、消音器によって低減せしめることが出来ることから、制振すべき振動に対して高精度に対応した加振力だけを制振対象に及ぼすことが可能となり、それによって、空気圧加振による極めて高度な制振効果が発揮されるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一の実施形態としての制振器の構成を概略的に示す縦断面説明図である。
【図2】図1に示された制振器の自動車への装着状態をモデル的に示す説明図である。
【図3】図1に示された制振器において採用され得る消音器の別の具体例を示す説明図である。
【図4】図1に示された制振器において採用され得る消音器の別の具体例を示す説明図である。
【図5】図1に示された制振器において採用され得る消音器の別の具体例を示す説明図である。
【図6】図1に示された制振器において採用され得る消音器の別の具体例を示す説明図である。
【図7】図1に示された制振器において採用され得る消音器の別の具体例を示す説明図である。
【図8】図1に示された制振器において採用され得る消音器の別の具体例を示す説明図である。
【図9】図1に示された制振器において採用され得る消音器の別の具体例を示す説明図である。
【図10】図1に示された制振器において採用され得る消音器の別の具体例を示す説明図である。
【図11】図1に示された制振器において採用され得る制振器本体の別の具体例を示す縦断面説明図である。
【符号の説明】
10,92 制振器本体
12,96 振動体
14,94 取付金具
16 マス部材
18,102 ゴム弾性体
20,118 作用空気室
22 エア給排路
54 負圧タンク
56 切換バルブ
62 制御装置
64 消音器
100 マス金具
Claims (3)
- 制振対象に取り付けられる取付部材に対して、マス部材が離隔配置されており、該マス部材が該取付部材に対して、弾性連結体により、制振すべき振動の入力方向に相対変位可能に弾性支持せしめられると共に、内部の圧力変化によって該マス部材に加振力を及ぼす密閉された作用空気室が設けられた空気圧加振式の能動型制振器において、
前記作用空気室が、前記取付部材と前記マス部材との間に画成されていると共に、該作用空気室に圧力変化を及ぼすエア給排路が、該取付部材を通じて該作用空気室に連通せしめられており、更に、該作用空気室が、該エア給排路を通じて、切換弁に接続されており、該切換弁の切換作動によって、該作用空気室が、互いに異なる圧力を有する二つの空気圧源に交互に繰り返し連通せしめられることにより、該作用空気室に圧力変化が生ぜしめられるようになっている一方、かかるエア給排路上には、制振すべき振動の周波数から外れた高次の周波数域の空気圧変動を低減せしめ得るように設定された消音器を配設して、前記切換弁の切り換えによる基本的な空気圧変動周波数よりも高次の周波数の空気圧変動を低減するようにしたことを特徴とする空気圧加振式の能動型制振器。 - 前記消音器が、先端を気密に閉塞せしめてなる中空管体を前記エア給排路に連通するように設けることによって構成され、且つ該中空管体の長さが、前記制振すべき振動の周波数から外れた高次の周波数域の空気圧変動を低減せしめ得るように調節されている請求項1に記載の空気圧加振式の能動型制振器。
- 前記作用空気室の壁部の一部が可撓性膜で構成されて、該可撓性膜と前記取付部材との間に、該作用空気室が位置せしめられていると共に、該可撓性膜を挟んで該作用空気室とは反対側となる、前記マス部材の側に、非圧縮性流体が充填されて密閉された作用液室が形成されており、該作用空気室の圧力変化による加振力が、該作用液室を介して、前記マス部材に及ぼされるようになっている請求項1又は2に記載の空気圧加振式の能動型制振器。
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