JP3781498B2 - フッ素樹脂成形体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、帯電防止性を有するフッ素樹脂成形体の新規な製造方法に関する。詳しくは、イオン交換基を実質的に含有しないフッ素樹脂よりなる基材の表層にフッ素樹脂よりなる帯電防止層を有することにより、フッ素樹脂固有の特性を維持しながら、良好な帯電防止効果を有し、且つ汚染性が極めて低いフッ素樹脂成形体を効率よく製造することが可能な、帯電防止性を有するフッ素樹脂成形体の製造方法である。
【0002】
【従来の技術】
フッ素樹脂は耐薬品性、耐熱性、電気的絶縁特性、耐汚染性に優れており、広い産業分野において使用されている。ところが、フッ素樹脂の表面抵抗は極めて高いために静電気を帯電し易いという大きな欠点を有する。
【0003】
例えば、半導体製造工程に用いられるフッ素樹脂製のウエハーキャリアーは、フッ素樹脂の有する帯電性により、雰囲気中の微粒子を吸着し易く、その結果、ウエハーキャリアーに吸着した微粒子が、これに保持されるウエハーを汚染し、該ウエハーを使用して得られる製品の不良率を高くするといった問題を有する。
【0004】
また、可燃性液体を移送するパイプにおいては、該パイプ内を可燃性液体が通過することによる摩擦で静電気が発生し、これによる着火の危険性がある。
【0005】
従来、フッ素樹脂成形体に帯電防止性を付与することを目的として、フッ素樹脂に導電性粉末を配合した樹脂組成物および該組成物より成る成形体が知られている。例えば、特開昭61−37842号公報、特開昭62−223255号公報、特開平2−255751号公報には、テトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂に炭素粉末と炭素繊維粉末、繊維状導電性酸化チタンと酸化亜鉛などの導電性粉末を混合した樹脂組成物により成形体を得る方法が開示されている。
【0006】
また、特開平8−59864号公報には、フッ素樹脂成形体の表層をプラズマ処理することにより、C−F結合を切断したC=C結合とすることにより、表面を導電性としたフッ素樹脂成形体の製造方法が開示されている。
【0007】
また、フッ素樹脂成形体に親水性を付与することを目的として、特開平1−98641号公報には、放射線照射により、イオン交換基を含有する親水性モノマーをフッ素樹脂の多孔質チューブの表面にグラフト重合させる方法が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のうち、導電性粉末を混合した樹脂組成物により得られる成形体は、帯電防止能を付与するために多量の導電性粉末を混合することが必要であり、そのため、得られるフッ素樹脂成形体より導伝性粉末又はそれに含まれる不純物が溶出するといった問題を有する。かかる問題は、該成形体と接触する物質を汚染するという現象を招き、特に、該フッ素樹脂成形体をウエハーキャリアーに使用した場合、該溶出した導電性粉末に起因するパーティクル等により、該ウエハーキャリアーに保持されるウエハーが汚染されるという現象を招く。また、流体の移送用パイプの用途においては、該流体の汚染という現象を招くおそれがある。
【0009】
また、上記成形体は、全体が該導電性粉末を含むフッ素樹脂で構成されることにより、フッ素樹脂の特性である電気的絶縁特性、耐汚染性が損なわれ、かかる特性が要求される用途において使用が制限される。
【0010】
一方、親水性を付与する目的で、親水性モノマーをグラフト反応によって導入する方法の場合、フッ素樹脂は本来このような反応においては分解型の樹脂に属し、モノマー等を定量的に且つ大量に導入することが難しく、表面より数百オングストローム程度の極薄い厚さでイオン交換基が付与されるに止まる。また、フッ素樹脂成形体の表面を放射線照射することにより分解した樹脂がパーティクル発生の原因となることも懸念される。
【0011】
その結果、上記製造方法によって得られるフッ素樹脂成形体は、表面抵抗が十分に低下せず、帯電防止効果、汚染性等において未だ改良の余地があった。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題に関し、本発明者らは鋭意研究をおこなった。その結果、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素樹脂単独又は該フッ素樹脂とイオン交換基に変換できる基を実質的に有さないフッ素樹脂との混合物により成形体に成形し、該成形体の表層に存在するイオン交換基に変換できる基をイオン交換基に変換する事により、フッ素樹脂の元来有する電気的絶縁特性を維持しながら、良好な帯電防止効果を発揮するフッ素樹脂成形体を効率よく得ることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素樹脂単独又はイオン交換基に変換できる基を実質的に有さないフッ素樹脂との混合物より成る成形体を成形し、該成形体の表層に存在するイオン交換基に変換できる基をイオン交換基に変換する事を特徴とする、帯電防止能を有するフッ素樹脂成形体の製造方法である。
【0014】
本発明において、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素樹脂は、該基を有し、且つイオン交換基を実質的に有さない公知のフッ素樹脂が特に制限無く使用される。例えば、テトラフルオロエチレンとイオン交換基に変換できる基を有するモノマーとの共重合体が好適に使用される。
【0015】
この場合、共重合体の成形性、物性の改善の目的でテトラフルオロエチレンに対して30モル%以下のヘキサフルオロプロピレン、下記一般式
CF2=CFO(CH2)aCbF2b+1
(但し、aは0又は1であり、bは1〜10の整数である。)
で示されるアルキルビニルエーテル類、またはモノクロロトリフルオロエチレン等の含フッ素モノマーを混合して使用することができる。
【0016】
また、イオン交換基に変換できる基を有するモノマーとしてはパーフルオロスルホン酸イオン交換基に変換できる基を有するモノマーとして下記一般式
CF2=CFO〔CF2CF(CF3)O〕oCF2CFRFSO2X
(但し、XはF又はClであり、RFはF又はCF3であり、oは1〜3の整数である。)
で示されるモノマーが、又パーフルオロカルボン酸イオン交換基に変換できる基を有するモノマーとしては、下記一般式
CF2=CFO〔CF2CF(CF3)O〕p(CF2)qY
(但し、YはCO2R(但しRは低級アルキル基である。)、CN、COF、COClであり、pは1〜3の整数であり、qは2〜8の整数である。)
又は、
CF2=CFO(CF2)rOCF(CF3)Y
(但し、YはCO2R(但しRは低級アルキル基である。)、CN、COF、COClあり、rは2〜8の整数である。)
で示されるモノマーが好適に用いられる。
【0017】
これらイオン交換基に変換できる基を有するモノマーを具体的に例示すれば、
CF2=CFOCF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF(CF3)SO2F、
CF2=CFO(CF2)3-8CO2CH3、
CF2=CFOCF2CF2OCF2CF(CF3)CO2CH3
が挙げられる。
【0018】
更に、これらのモノマーは単独で用いても良く、また混合して用いても何等差しつかえ無い。
【0019】
上記のテトラフルオロエチレンとイオン交換基に変換できる基を有するモノマーとの共重合は公知の方法を何等制限なく用いることができる。即ち、溶液重合法、懸濁重合法、及び乳化重合法のうち共重合性等の条件を考慮して最適な重合方法を選択すれば良い。
【0020】
何れの場合も、イオン交換基に変換できる基を有するモノマーの分散液又は溶液にテトラフルオロエチレンを加圧下に溶解させて共重合がおこなわれるが、イオン交換基に変換できる基を有するモノマーやテトラフルオロエチレンに加えて他のモノマーを用いる場合、そのモノマーがヘキサフルオロプロピレン等の気体であればテトラフルオロエチレンに混合して、アルキルビニルエーテル等の液体であればイオン交換基に変換できる基を有するモノマーへ混合して重合すれば良い。
【0021】
乳化重合或いは有機溶媒を使用しない懸濁重合の場合、分散媒としては水が好適である。一方、溶液重合或いは有機溶媒を使用する懸濁重合の場合、有機溶媒が連鎖移動剤として作用し、重合体の分子量を低下させ、その結果得られた共重合体の物性が劣ることがあるため、用いる溶媒はフッ素系の液体が好ましい。
【0022】
かかるフッ素系の液体としては、具体的には、パーフルオロブタン、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン等のパーフルオロアルカン類、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロシクロヘキサン等のパーフルオロシクロアルカン類、パーフルオロエーテル類、パーフルオロトリブチルアミン等のパーフルオロ3級アミン類、パーフルオロモルホリン類、トリフルオロモノクロロエタン等のクロロフルオロエタン類等が好適に用いられる。
【0023】
重合開始剤としては乳化重合の場合過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩が好適に用いられ、また溶液重合、懸濁重合の場合は公知の有機系ラジカル発生剤が用いられるが、得られる共重合体の耐熱性を考慮すると、フッ素系のジアシルパーオキシド類が好適に用いられ、具体的には次のものが挙げられる。
【0024】
(CF3CF2CO2)2、(HCF2CF2CO2)2、
(ClCF2CF2CO2)2、(CF3CF2CF2CO2)2、
(CF3CF2CF2OCF(CF3)CO2)2
また、重合時のフルオロオレフィンの圧力はモノマー組成、重合温度により一概には決定できないが、1〜30kg/cm2−Gが好ましい。また重合温度は用いる重合開始剤の分解温度によって異なるため、一概には決定できないが通常0〜100℃であり、重合開始剤としてフッ素系のジアシルパーオキシドを用いた場合は0〜50℃が好ましい。
【0025】
前記イオン交換基に変換できる基を実質的に有さないフッ素樹脂は、該基と共にイオン交換基をも実質的に有さないフッ素樹脂であれば特に制限されないが、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとアルキルビニルエーテルとの共重合体、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリモノクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとパーフルオロジメチルジオキソールとの共重合体、ポリパーフルオロアルケニルビニルエーテル等が挙げられる。
【0026】
上記アルキルビニルエーテルは、パーフルオロアルキルビニルエーテルまたは一部に水素原子を有するポリフルオロアルキルビニルエーテルである。具体的には、一般式、
Rf(CH2)lOCF=CF2
(但し、Rfはパーフルオロアルキル基、lは0または1である。)
該アルキルビニルエーテルは、得られる共重合体中に占める水素原子の割合が0.2重量%以下、好ましくは、0.15重量%以下の範囲で使用することが好ましい。
【0027】
本発明において、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素樹脂は単独で、或いはイオン交換基に変換できる基を実質的に有さないフッ素樹脂と混合して成形体に成形される。
【0028】
この場合、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素樹脂単独又は該フッ素樹脂とイオン交換基に変換できる基を実質的に有さないフッ素樹脂との混合物中のイオン交換基に変換できる基の濃度は、これを成形後、イオン交換膜に変換したときのイオン交換基の濃度が0.25〜20モル%、好ましくは、0.25〜18モル%を達成可能な濃度となるように、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素樹脂中の該イオン交換基に変換できる基の濃度及び/又は該フッ素樹脂とイオン交換基に変換できる基を実質的に有さないフッ素樹脂との混合割合を適宜調整することが、得られるフッ素樹脂成形体に十分な帯電防止効果を付与するために好ましい。
【0029】
上記イオン交換基に変換できる基を有するフッ素樹脂とイオン交換基を有さないフッ素樹脂との混合には、公知の混合方法が何等制限無く採用されるが、例示すると、ヘンシェルミキサー、ニーダブラベンダー等が挙げられる。
【0030】
また、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素樹脂単独又は該フッ素樹脂とイオン交換基に変換できる基を実質的に有さないフッ素樹脂との混合物よりなる成形体(以下、「前駆成形体」ともいう)は、目的に応じて任意の形状に行われる。例えば、ウエハーキャリアーのような構造体、チューブ、パイプ等の管状体、シート、フィルム等の薄物成形体などが挙げられる。これら成形体の成形方法は、製造しようとする構造体によって射出成形、押出成形、トランスファー成形、圧縮成形、ブロー成形等の公知の方法から適宜選択すれば良い。
【0031】
本発明において、前駆成形体の表層に存在するイオン交換基に変換できる基のイオン交換基への変換は、通常用いられる公知の方法を特に制限なく採用することができる。例えば、変換される基が陽イオン交換基の場合、アルカリ条件下での加水分解反応が好ましい。この加水分解反応は、数〜数十%のNaOH、KOH、テトラアルキルアンモニウムハイドロオキシド等のアルカリを含む水溶液に成形体を浸漬し、数時間〜百数十時間、室温〜100℃で加熱すれば良い。この加水分解を促進する為に、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒を添加することは有効である。
【0032】
上記方法によって付与されるイオン交換基は、前駆成形体に存在するイオン交換基に変換し得る基の種類によって決定される。
【0033】
即ち、イオン交換基に変換し得る基の種類によって、例えば、パーフルオロ陽イオン交換基、ポリフルオロ陰イオン交換基に変換される。上記パーフルオロ陽イオン交換基を更に具体的に示せば、パーフルオロスルホン酸基、またはパーフルオロカルボン酸基であり(以下これらのパーフルオロスルホン酸基、及びパーフルオロカルボン酸基を単に陽イオン交換基と略称する。)、また、ポリフルオロ陰イオン交換基としては、ポリフルオロ4級アンモニウム基(以下単に陰イオン交換基と略称する。)、が挙げられ、これらのイオン交換基はパーフルオロ炭素鎖又はパーフルオロエーテル鎖を介して化学的にフッ素樹脂に結合している。
【0034】
これらイオン交換基を更に詳しく説明すれば、パーフルオロスルホン酸基は下記一般式
−CFRFSO3M
(但し、RFはF又はCF3であり、Mは水素原子、アルカリ金属、又はNR'4で示される基(但しR'は水素原子又は低級アルキル基である。)である。)
で示され、又パーフルオロカルボン酸基は、下記一般式
−CFRFCO2M
(但し、RF及びMは前記と同じである。)
で示され、陰イオン交換基は
−CFRFCH2N+R"3Q-
(但し、RFは前記と同じであり、R"は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、Qはハロゲン原子である。)
で示されるものである。
【0035】
これらイオン交換基のうち、陽イオン交換基に較べ陰イオン交換基は一般には耐薬品性が低いため陽イオン交換基の方が好適である。また、パーフルオロスルホン酸基は、パーフルオロカルボン酸基に対して耐熱性が良く、結合する対イオンが水素イオンの場合、パーフルオロカルボン酸基に比べて帯電防止能が高いため好適である。
【0036】
上記変換において、前駆成形体表層に形成される帯電防止層の厚みは、加水分解条件によって調整される。しかしながら、この加水分解反応の条件は用いるアルカリの濃度、温度、有機溶媒の種類、量、イオン交換基に変換できる基の存在量、樹脂の組成等によって一概には決定できない。
【0037】
従って、予め加水分解条件と加水分解によって生成する帯電防止層の厚さ方向での濃度を測定しておけば、本発明の範囲に帯電防止層の厚みを調節することができる。条件によっては、表面がイオン交換基の濃度が高く、厚み方向にイオン交換基の濃度が低くなる濃度勾配が形成されるが、イオン交換基の濃度が0.25モル%以上の濃度である層の厚みが1μm以上となるように加水分解を実施することが好ましい。そして、この帯電防止層の下にはイオン交換基の濃度が0.20モル%未満、特に0.10モル%以下の層が存在する。もちろん、イオン交換された層とされていない成形体部分との間には、イオン交換基の濃度が、それらの中間にある遷移層が存在していても何ら差し支えない。
【0038】
加水分解はフッ素樹脂成形体の全表面でおこなうことが好ましいが、用途によっては片面、または一部の加水分解をおこなっても良い。
【0039】
加水分解後の陽イオン交換基の対イオンはNaイオン、Kイオン、水素イオンまたはアンモニウムイオンとなっているが、他の金属イオン、水素イオン、アンモニウムイオンへの変換は公知の方法がなんら問題なく採用される。
【0040】
本発明において、前駆成形体の表層に形成される帯電防止層は、前記濃度でイオン交換基を存在させることによって、一般に、表面抵抗率が1013Ω未満、好ましくは、1010Ω以下、に調整されたフッ素樹脂成形体となる。
【0041】
尚、本発明において、表面抵抗率は、JIS K−6911に記載の方法に準じて行った。
【0042】
上記の本発明の方法によって製造されたフッ素樹脂成形体は、表層を除いて実質的にイオン交換基を含有しない部分が存在するため、従来のフッ素樹脂と同等に扱うことができ、成形体内部の全体にわたってイオン交換基が存在するフッ素樹脂成形体に見られる下記の問題をほとんど回避することができる。
【0043】
即ち、イオン交換膜のように、全体にイオン交換基を有する樹脂を使用した成形体は、溶剤や薬液等に浸漬した場合、成形体の膨潤による寸法変化が生じたり、イオンや無機物、或いは有機物を吸着、透過するという現象が生じる。
【0044】
そのため、ウエハーキャリアーの用途に使用した場合、これに接触するウエハーの汚染の問題が生じる虞がある。例えば、基材にイオン交換基を有するフッ素樹脂として、フッ素系のイオン交換膜やイオン交換樹脂が知られているが、これらの樹脂はイオンの透過、吸着を目的としたものであり、通常イオン交換基を十数モル%程度含有している。そのため、上記ウエハーキャリアーのようにフッ素樹脂の特徴である耐汚染性が要求される分野においては、フッ素系のイオン交換膜やイオン交換樹脂が有する、有機物やイオン等の吸着特性は好ましくない。また、帯電防止能が要求されるフッ素樹脂よりなるフィルム、チューブの成形体の用途においても、イオン、水等の無機物、アルコール等の有機物を透過、吸着させるという問題を有する。
【0045】
本発明においては、以上の点を勘案して、イオン交換基を有する表層の厚みが1〜500μmで、かつ、成形体の厚みの80%以下となるように前記イオン交換基への変換を実施することが好ましい。
【0046】
具体的には、フッ素樹脂成形体を後記のウエハーキャリアー等の用途に使用する場合、上記帯電防止層のイオン交換基を0.25モル%以上の濃度で含有する層の厚みの上限は、成形体の厚みに対して80%以下、好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下とすることが好ましい。特に、該層の厚みの上限は絶対的な厚みで500μm以下とすることが更に好ましい。
【0047】
また、フッ素樹脂成形体を後記のフィルム、シートなどの薄物、チューブ、パイプ等の用途に使用する場合、フッ素樹脂の有する絶縁性、イオンの不透過性、耐薬品性等の特性を十分発揮するため、基材の厚みを10μm以上確保するように該層の厚みの上限を制御することが好ましい。
【0048】
本発明において、帯電防止層は成形体の全表面に存在させるのが一般的であるが、用途によっては成形体表面の一部に存在させても良い。
【0049】
例えば、フィルム、シート等々の薄物の片面、チューブ、パイプ状物の内面または外面に帯電防止層を有し、他の面には帯電防止層を有さない構造となっていても良い。例えば、フッ素樹脂成形体の片面で静電気が問題とされ、他面では静電気が問題とされないといった用途に対しては充分使用することができる。
【0050】
本発明の帯電防止層の厚み、イオン交換基の存在量及び基材の厚みは赤外吸収スペクトル(以下IRスペクトルと略称する。)を測定することによって知ることができる。即ち、本発明のフッ素樹脂成形体の表面から垂直に数十〜数百μmの厚みでフィルムを切り出し、IRスペクトルを表面より、数μmの間隔で透過、又は反射スペクトルを測定することにより、或いは本発明のフッ素樹脂成形体の表面から数〜数十μmで削りその切削面の反射スペクトルを測定するすることにより、イオン交換基が存在する場合はその基に由来する特性吸収、例えば1060cm-1付近、1680cm-1付近、及び1780cm-1付近にそれぞれパーフルオロスルホン酸塩基(−SO3Na)、パーフルオロカルボン酸塩基(−CO2Na)、及びパーフルオロカルボン酸基(−CO2H)が観測され、これらの吸収のある部分が帯電防止層の厚みとして、また吸収強度からイオン交換基の存在量が決定できる。
【0051】
一方、イオン交換基が存在しない場合はこれらの特性吸収は観測されずにポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとアルキルビニルエーテルとの共重合体、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリモノクロロトリフルオロエチレンに由来する吸収が1200〜1300cm-1に、イオン交換基に変換可能な基に由来する吸収として1420cm-1付近、1710cm-1付近、1780cm-1付近、及び2100cm-1付近にそれぞれパーフルオロスルホン酸フルオライド基(−SO2F)、パーフルオロカルボン酸クロライド基(−CO2Cl)、パーフルオロカルボン酸エステル基(−CO2CH3)、及びパーフルオロシアノ基(−CN)が観測され、その吸収のある部分をそれぞれの層の厚みとすることができる。
【0052】
但し、本発明においては、上記表層部以外のフッ素樹脂成形体におけるイオン交換基が完全に存在しない態様に限定されるものではなく、フッ素樹脂中に不可避的に存在するイオン交換基は、許容するものである。かかる許容量は、用途によって要求される寸法安定性や吸着、透過性が異なるため、一概に限定することはできないが、一般には、イオン交換基を含む単量体に換算して0.2モル%未満、特に、0.1モル%以下が好適である。
【0053】
尚、本明細書において、フッ素樹脂中に含まれるイオン交換基の量は、イオン交換基の全モノマーの単量体単位に対する組成で表す。
【0054】
かかる帯電防止層をイオン交換基を実質的に含有しないフッ素樹脂よりなる基材の表面に存在させ、表面抵抗率を下げることにより、従来の導電性物質を添加して帯電防止性を付与する手段に対して、その表面からのパーティクルの発生が極めて少なく、ウエハーキャリアー等のこれに接触する物品に対する汚染性が問題とされる用途において有用である。また、基材となるフッ素樹脂に多量の添加物を含有しないため、フッ素樹脂成形体の強度も十分あり、上記ウエハーキャリアー等の物理的負荷のかかる用途に対して最適である。また、全体にイオン交換基を有するイオン交換樹脂に比べて、不純物イオンが内部まで浸透しないため、不純物イオンの吸着量が少なく、得られるフッ素樹脂成形体に接触する物品に対する不純物イオンの汚染性が極めて少ない。
【0055】
本発明の方法によって得られるフッ素樹脂成形体について、後述する方法で測定される薬液吸着量は、50ppb/cm2以下、特に10ppb/cm2以下である。
【0056】
このことからも、本発明の方法によって得られたフッ素樹脂成形体が前記ウエハーキャリアーのように汚染性が問題とされる用途に最適であることが理解される。
【0057】
本発明において、得られるフッ素樹脂成形体の帯電防止効果は、電圧減衰率によって確認することができ、一般に、10kVの電圧を1分間かけ、その後1秒後の電圧減衰率が70%以上、好ましくは、90%以上のものが好適である。
【0058】
【発明の効果】
以上の説明により理解されるように、本発明の方法によれば、フッ素樹脂成形体の表面のみに極めて確実にイオン交換基を有する層を付与することができ、該フッ素樹脂成形体の元来有する電気絶縁性を維持しながら、確実に帯電防止性を付与することができる。
【0059】
即ち、通常のフッ素樹脂は1016Ω以上の表面抵抗を有し、1時間後の電圧減衰率は数%であるのに対し、本発明の方法によれば、フッ素樹脂成形体の表面抵抗は1013Ω未満であり、また電圧減衰率は数秒以内にほぼ100%となり、実質的にほとんど帯電しないフッ素樹脂成形体を得ることが可能である。
【0060】
従って、本発明によって製造される帯電防止層を有したフッ素樹脂成形体は、現状のフッ素樹脂と異なり静電気の発生がほとんど無く、また、静電気が発生した場合の失散も速い。また、本発明によって製造されるフッ素樹脂成形体は、基材に実質的にイオン交換基を有していないので、薬液に浸漬した場合、イオンや無機物又は有機物の吸着、透過が無いため、薬液からの汚染が無く、また、このフッ素樹脂成形体を他の薬液や水に移動した時にこれらの薬液や水を必要以上に汚染することも無く、更には成形体の寸法変化も無いなど、フッ素樹脂が本来有している優れた物性を保持することができる。
【0061】
以上のことより、本発明の方法によって得られたフッ素樹脂成形体は、半導体製造工業、食品工業、化学工業、或いは一般の理化学分野等での静電気の発生を嫌う分野において好適に用いることができる。
【0062】
具体的には、静電気による埃等の付着が無いため、半導体製造時の周辺部品として、薬液移送チューブ、継ぎ手、バルブ、チェッキ弁、ストレーナー、薬液容器、真空ピンセット、真空ピンセット用チップ、パッキン、Oリング、ガスケット、シート、ライニング材、コーティング材、ピンセット、トング、ディッパー、ホールダー、ストレーナー、フラッシャー、ファンネル、メスシリンダー、バスケット、攪拌棒、ビーカー、ワイプクリーナー、タンク、ボルト、ナット、ボトル、スノコ、トレー、プレートヒーター等に好適に用いることができる。
【0063】
また、ウエハーキャリアー等の治具としてウエハーキャリアー、ウエハーキャリアー用ハンドル、ウエハーキャリアー用ボックス、リテーナー、プロセストレー、ウエハー用プロテクター、ウエハーボード、LCDバスケット、LCDキャリアー、ウエハートレー、ウエハートレー用カバー、ウエハートレー用スプリング、ウエハーパック、ウエハーシッパー、マスクキャリアー、マスクキャリアー用ボックス、マスクキャリアー用ハンドル、マスクパック、マスクケース、デバイスキャリアー、デバイスキャリアー用ハンドル、サイドレール、チップトレー、チップトレー用カバー、チップトレー用ケース、チップ移し替えトレー、チップ洗浄用キャリアー、チップ洗浄器、チップトレー用ボックス等に好適に用いることができる。特に本発明のフッ素樹脂成形体より成るウエハーキャリアーは、帯電防止性に優れるため、静電気による使用雰囲気中の微粒子のウエハーへの付着が十分効果的に抑えられるばかりでなく、パーティクルの発生、不純イオンによる汚染等の問題もなく、その結果、ウエハーの不良率を低く抑えることができるといった効果をもたらす。
【0064】
また、本発明のチューブ(パイプを含む)を用いて可燃性液体を移送した場合、帯電防止の効果によって静電気の発生、蓄積が防止され、従って着火の危険性を防止することができるばかりでなく、パーティクルの発生、移送液体による膨潤、さらには移送液体の透過の問題もなく、極めて有用である。
【0065】
更に、食品製造分野においては本発明の成形体を用いることにより、衛生上問題となる埃の付着を防ぐことができることから、食品製造において使用される機器類の表面コーティング、例えば混合器の容器及び攪拌翼、またチューブ、トレイ、ベルト等に好適に使用できる。
【0066】
【実施例】
以下、本発明を詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
尚、フッ素樹脂成形体の表面抵抗率、電圧減衰率、及び薬液吸着量は次のようにして求めた。
【0068】
(1)表面抵抗率
JIS K−6911に準じて測定し、次の式によって表面抵抗率を算出した。
【0069】
【数1】
【0070】
ここで、 ρS:表面抵抗率(Ω)
d :表面電極の内円の外径(cm)
D :表面の環状電極の内径(cm)
RS:表面抵抗(Ω)
電圧 500V 測定時間 30秒 3回平均
(2)電圧減衰率
スタティック−ホネストメーター S−5109(宍戸商会製)を用いて、電圧10kVを1分間かけ、電圧を切ってからの電圧を測定した。
【0071】
樹脂サイズ:40×40×0.25mm
減衰率=(初期電圧−t時間後の電圧)/初期電圧(単位:%)
(3)薬液吸着量
20分間の超純水リンスをおこなった試験片を洗浄済み1lの石英容器にいれ、電子工業用硫酸500mlを加え、室温で10分間保持して硫酸を該試験片に吸着させた。
【0072】
次いで、試験片を取り出し、超純水で20分間リンスした後、超純水500mlを入れ、80℃で加熱した。2時間経過後、超純水をサンプリングし、イオンクロマトで分析し、該超純水に含まれる硫酸の量を試験片表面積1cm2当たりで算出し、薬液の吸着量とした。
【0073】
参考例1
攪拌機を有したステンレス製の500ml反応器に予め蒸留により精製した1,1,2-トリクロロトリフルオロエタン320gを入れた後、内部を脱気し、その後、窒素ガスで大気圧とした。反応器内にメタノール0.039g及び、33.5gのCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fを入れた後、攪拌モーターの回転数を800回転とし、テトラフルオロエチレンを導入し圧力を4kg/cm2−Gにした。
【0074】
次いで、反応器内を25℃に保ちつつ、ビス(ヘプタフルオロブチリル)ペルオキシドの1,1,2-トリクロロトリフルオロエタン溶液(5重量%)1.77gを導入して重合を開始した。重合中、重合温度は25℃に保った。反応開始120分後、反応器内の圧力を放出し、反応器を冷却トラップを介し、真空ポンプに接続し攪拌しつつ減圧にし、溶媒、未反応モノマー等の低沸点成分をトラップ内に回収した。留出後、反応器を解体し、共重合体を取り出し、150℃で12時間真空乾燥したところ24gの共重合体が得られた。
【0075】
核磁気共鳴スペクトル、赤外吸収スペクトルの測定結果より、上記共重合体中に、テトラフルオロエチレンに基づく単量体単位が95.7モル%、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fに基づく単量体単位が4.3モル%共重合したものであることが確認された。また、この共重合体の372℃での比溶融粘度は、4.6×106ポアズであった。
【0076】
実施例1
参考例1で得られた共重合体を厚さ0.25mmのフィルムに溶融成形し、次いで、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で24時間加水分解を行って帯電防止層を形成した。このフィルムのイオン交換基の存在量を調べたところ表面では約4.3モル%、表面から10μmのところでは約0.28モル%であり、表面から20μm、及び中心付近では0.08モル%、0.02モル%であった。従って、帯電防止層におけるイオン交換基の濃度が0.25モル%以上である層の厚みは10μmである。
【0077】
次に、このフィルムの表面抵抗率を測定したところ5.4×108Ωであり、電圧減衰率を測定したところ1秒で100%減衰した。また、このフィルムの薬液吸着を測定したところ1.0ppb/cm2であった。このフィルムをイオン交換水中に一夜浸漬したところ膨潤による伸びは観測されなかった。
【0078】
また、上記の方法によって得られた0.25mmのフィルムについて、パーティクルの発生テストを実施した。即ち、先ず、該フィルムを5cm×10cmのサンプルに切り出し、クラス1000のクリーンルーム内で超純水で10分間リンスした。その後、容器に電子工業用イソプロピルアルコールを入れ、5分間振とう後放置した。1日後電子工業用イソプロピルアルコールを入れ替え、5分間振とう後放置した。同様な入れ替え操作を繰り返し1日後、7日後、14日後のイソプロピルアルコールに含まれる0.3〜2μmのパーティクル数をパーティクルカウンター(リオン社製、KL−22)を用いて測定したところ。1日後で750個/ml、7日後で90個/ml、14日後で45個/mlのパーティクルが観測された。
【0079】
なお、この実験でもちいた電子工業用イソプロピルアルコールに含まれるパーティクルは20〜40個/mlであった。
【0080】
上記フィルムに対して、比較のため、テトラフルオロエチレンとアルキルビニルエーテルとの共重合体90重量%に対し、導電性カーボン5重量%、炭素繊維粉末5重量%を350℃に加熱されたニーダブラベンダーで20分混合し、ついで350℃で溶融し、加圧下冷却することによって0.25mm厚のシートを成形した。
【0081】
上記シートから切りだした5cm×10cmのサンプル5枚について、パーティクルの発生テストをおこなった。1日後で1250個/ml、7日後で1140個/ml、14日後で960個/mlのパーティクルが観測された。
【0082】
実施例2〜4
参考例1の共重合体の製造方法に準じて、イオン交換基に変換できる基の含有率を変えて4種類の共重合体を得、実施例1と同様にして厚さ0.25mmのフィルムに溶融成形した。次いで、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で24時間加水分解を行って帯電防止層を形成した。
【0083】
加水分解後のフィルムの、帯電防止層における表面のイオン交換基濃度、イオン交換基の濃度が0.25モル%以上の層の厚み、表面抵抗率及び、1秒後の電圧減衰率、薬液吸着量、及び純水での膨潤による伸びを測定した結果を表1に示した。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例5〜7
参考例1の共重合体の製造方法において、イオン交換基に変換できる基を有するモノマーとして表2に示すものを使用した以外は参考例1と同様にして共重合体を得た。
【0086】
次に、実施例1と同様に厚さ0.25mmのフィルムに溶融成形し、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で24時間加水分解をおこなった。
【0087】
また、帯電防止層表面におけるイオン交換基の含有量、イオン交換基の濃度が0.25モル%以上の層の厚み、表面抵抗率、1秒後の電圧減衰率、薬液吸着量、及び純水での膨潤による伸びを測定した結果を表2に示した。
【0088】
【表2】
【0089】
実施例8
参考例1で得られた共重合体を厚さ0.25mmのフィルムに溶融成形し、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で120時間加水分解をおこなった。得られたフィルムの帯電防止層におけるイオン交換基の濃度が0.25モル%以上の層の厚みは40μmであった。
【0090】
上記フィルムの表面抵抗率を測定したところ1.6×108Ωであり、電圧減衰率を測定したところ1秒で100%減衰した。また、このフィルムの薬液吸着を測定したところ1.1ppb/cm2であった。このフィルムをイオン交換水中に一夜浸漬したところ膨潤による伸びは0.1%であった。
【0091】
実施例9
参考例1で得られた共重合体を厚さ0.25mmのフィルムに溶融成形し、KOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で24時間加水分解をおこなった。得られたフィルムの帯電防止層におけるイオン交換基の濃度が0.25モル%以上の層の厚みは10μmであった。表面抵抗率を測定したところ4.4×108Ωであった。さらに、電圧減衰率を測定したところ1秒で100%減衰した。
【0092】
実施例10
参考例1で得られた共重合体を厚さ0.25mmのフィルムに溶融成形し、次いで、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で24時間加水分解をおこなった。これを1規定の塩酸溶液に浸漬し30℃で24時間攪拌した。得られたフィルムの帯電防止層におけるイオン交換基の濃度が0.25モル%以上の層の厚みは10μmであった。上記フィルムの表面抵抗率を測定したところ1.1×109Ωであった。さらに、1秒後の電圧減衰率を測定したところ1秒で100%減衰した。
【0093】
実施例11
実施例10で得られたフィルムをアンモニア水に浸漬し24時間攪拌した。得られたフィルムの表面抵抗率を測定したところ3.1×109Ωであった。さらに、1秒後の電圧減衰率を測定したところ1秒で100%減衰した。
【0094】
実施例12〜14
ポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと称する。)、またはテトラフルオロエチレンとアルキルビニルエーテルとの共重合体(以下PFAと称する。)、またはテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(以下FEPと称する。)と実施例4で得られた共重合体とを粉の状態で混合し、厚さ0.25mmのフィルムに溶融成形し、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で24時間加水分解をおこなった。
【0095】
基材とイオン交換基に変換できる基を有するフッ素樹脂の混合割合、得られたフィルムの帯電防止層における表面のイオン交換基の含有量、イオン交換基の濃度が0.25モル%以上の層の厚み、表面抵抗率、1秒後の電圧減衰率、薬液吸着量、及び純水での膨潤による伸びを測定し、その結果を表3に示した。
【0096】
【表3】
【0097】
実施例15
参考例1で得られた共重合体を厚さ1mmのフィルムに溶融成形し、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で150時間加水分解をおこなった。
【0098】
得られたフィルムのイオン交換基の濃度は表面付近、表面から約100μm、280μm及び330μmでの濃度は平均4.3モル%、3.7モル%、3.5モル%、0.1モル%であり、中心付近ではイオン交換基は検出されなかった。これより帯電防止層の厚みは約300μmであるといえる。表面抵抗率を測定したところ1.4×108Ωであった。さらに、電圧減衰率を測定したところ1秒で100%減衰した。
【0099】
実施例16
実施例6で得られたフィルムを1規定の塩酸に浸漬し、30℃で24時間攪拌してイオン交換基を酸型とした。このフィルムの表面抵抗率を測定したところ2.1×1012Ωであった。また1秒後の電圧減衰率は76%であった。
【0100】
参考例2
参考例1の製造方法に準じてCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2F 4.8モル%とテトラフルオロエチレン 95.2モル%との共重合体を製造した。
【0101】
実施例17
参考例2で得られた共重合体から、射出成形法によって6インチ用ウエハーキャリアー(25枚容量:図1に略図を示した。)を成形した。このウエハーキャリアーを、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で24時間加水分解をおこなった。
【0102】
得られたウエハーキャリアーの一部を切り出し、帯電防止層におけるイオン交換基の濃度が0.25モル%以上の層の厚みを測定した結果、15μmであった。
【0103】
このウエハーキャリアーにウエハーをセットした後、クラス1000クリーンルーム内に24時間放置した。この間、ウエハーキャリアーの最端部に保持されたウエハー全面に付着した0.3μm以上のパーティクルは5個であった。
【0104】
次に、このウエハーキャリアーの表面抵抗率を測定したところ1.8×108Ωであった。またウエハーキャリアーの一部を切り出して電圧減衰率を測定したところ1秒で100%であった。
【0105】
比較例1
市販PFAをもちいた他は実施例16と同様にしてウエハーキャリアーを成形し、ウエハーをセットした後、クラス1000クリーンルーム内で24時間放置したところ、ウエハーキャリアーの最端部に保持されたウエハーに付着した0.3μm以上のパーティクルは約300個であった。
【0106】
次に、このウエハーキャリアーの表面抵抗率を測定したところ>1×1014Ωであった。またウエハーキャリアーの一部を切り出して電圧減衰率を測定したところ5分後で0.8%、30分後で6%であった。
【0107】
実施例18
PFAと実施例4で得られた共重合体3:2(重量比)の混合物から、射出成形法によって6インチ用ウエハーキャリアー(25枚容量:図1に略図を示した。)を成形した。このウエハーキャリアーを、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で24時間加水分解をおこなった。
【0108】
得られたウエハーキャリアーの一部を切り出し、帯電防止層におけるイオン交換基の濃度が0.25モル%以上の層の厚みを測定した結果、14μmであった。
【0109】
このウエハーキャリアーにウエハーをセットした後、クラス1000クリーンルーム内に24時間放置した。この間、ウエハーキャリアーの最端部に保持されたウエハー全面に付着した0.3μm以上のパーティクルは5個であった。
【0110】
次に、このウエハーキャリアーの表面抵抗率を測定したところ1.9×108Ωであった。またウエハーキャリアーの一部を切り出して電圧減衰率を測定したところ1秒で100%であった。
【0111】
実施例19
参考例2で得られた共重合体を用い、押出成形法によって外形8mm、内径6mmのチューブを成形した。このチューブを、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で24時間加水分解をおこなった。表面抵抗率を測定したところ4.1×108Ωであり、電圧減衰率は1秒で100%であった。また、このチューブのイオン交換基の濃度は表面付近、表面から約50μm及び70μmでの濃度は平均4.7モル%、3.8モル%、0.1モル%であり、これより帯電防止層の厚みは約65μmであるといえる。
【0112】
実施例20
PFAと実施例4で得られた共重合体3:2(重量比)の混合物から、押出成形法によって外形8mm、内径6mmのチューブを成形した。このチューブを、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で24時間加水分解をおこなった。表面抵抗率を測定したところ4.5×108Ωであり、電圧減衰率は1秒で100%であった。また、このチューブのイオン交換基の濃度は表面付近、表面から約50μm及び70μmでの濃度は平均4.5モル%、3.7モル%、0.1モル%であり、これより帯電防止層の厚みは約65μmであるといえる。
【0113】
比較例2
参考例2で得られた共重合体を用い、押出成形法によっての外形8mm、内径6mmのチューブを成形した。このチューブを、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で7日間加水分解をおこなった。該チューブを切り開いて、表面抵抗率を測定したところ4.0×108Ωであり、電圧減衰率は1秒で100%であった。またほぼ中心部のイオン交換基の含有率は3.2モル%であり全層にわたってイオン交換基への変換が行われていた。また、このチューブを純水中に一夜浸漬したところ、長さ方向、直径方向の膨潤による伸びは、各々4.8%、5.3%であり、また薬液透過量は7×10-9g・cm/cm2・sであった。
【0114】
実施例21
参考例1において、共重合成分としてCF2=CFOCF2CF2CF2CO2CH3とテトラフルオロエチレンとを使用した以外は同様にして共重合体を得た。この共重合体はCF2=CFOCF2CF2CF2CO2CH3に由来する単量体単位を4.2モル%含んでいた。この共重合体を溶融成形によって厚さ0.35mmのフィルムとした。このフィルムを五塩化リン/オキシ塩化リン中で120℃24時間加熱した。次に、この膜を洗浄、乾燥した後乾燥エーテル中で、ジメチルアミンとの反応をおこなった。次いでこの膜を乾燥ジクライム中、水素化ホウ素ナトリウムで100℃18時間反応をおこない還元した後、メタノール溶液中でヨウ化メチルとの反応を60℃で16時間をおこない、陰イオン交換基へ変換した。IR分析の結果、表面付近、表面から75μm、120μmのイオン交換基の濃度は3.8モル%、0.26モル%、0モル%であり、帯電防止層は75μmであった。また得られたフィルムの表面抵抗率を測定したところ4.5×108Ωであり、1秒後の電圧減衰率は100%であった。
【0115】
実施例22
参考例1で得られた共重合体を厚さ0.25mmのフィルムに溶融成形し、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で72時間加水分解をおこなった。IRスペクトル測定の結果、フィルム表面、及び表面から50μm、60μm、70μmでのイオン交換基存在量は3.8モル%、3.7モル%、0.25モル%、0.01モル%であり、中心付近ではイオン交換基は検出されなかった。従ってこのフィルムの帯電防止層の厚みは60μmといえる。このフィルムの表面抵抗率を測定したところ5.2×108Ωであり、電圧減衰率を測定したとこ約1秒で100%減衰した。また薬液吸着は0.9ppb/cm2であり、イオン交換水中に一夜浸漬したところ膨潤による伸びは0.1%であった。
【0116】
比較例3
参考例1で得られた共重合体を厚さ0.25mmのフィルムに溶融成形し、NaOH/DMSO/H2O=15/25/60wt%の溶液に浸漬し、100℃で168時間加水分解をおこなった。IRスペクトル測定の結果、フィルム表面、表面から50μm、中心付近でのイオン交換基存在量は4.3モル%、1.0モル%、0.8モル%であり全層にわたってイオン交換基に変換されていた。表面抵抗率を測定したところ3.8×108Ωであり、電圧減衰率を測定したところ1秒で100%減衰した。また薬液吸着は65ppb/cm2であり、イオン交換水中に一夜浸漬したところ膨潤によって約4.5%伸びていた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のフッ素樹脂成形体によって構成されるウエハーキャリアーの代表的な構造を示す斜視図
【符号の説明】
1 ウエハーキャリアー本体
2 ウエハー保持用の溝
Claims (3)
- イオン交換基に変換できる基を有するフッ素樹脂単独又は該フッ素樹脂とイオン交換基に変換できる基を実質的に有さないフッ素樹脂との混合物より成る成形体を成形し、該成形体の表層に存在するイオン交換基に変換できる基をイオン交換基に変換する事を特徴とする、帯電防止能を有するフッ素樹脂成形体の製造方法。
- 表層におけるイオン交換基の濃度が0.25〜20モル%となる様に調製する、請求項1記載のフッ素樹脂成形体の製造方法。
- 表層の厚みが1〜500μmで、かつ、成形体の厚みの80%以下である、請求項1又は2記載のフッ素樹脂成形体の製造方法。
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