JP3780617B2 - 車両の自動操舵装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両を車線に沿って走行させるために当該車両の操舵を自動的に行う車両の自動操舵装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
このような従来の車両の自動操舵装置としては、例えば特開平7−81602号公報に記載されるものがある。
【0003】
この従来例に記載される車両の自動操舵装置は、操舵に係る種々の条件,特にカーブに沿って走行するときに、より人為的な操舵が行われるように操舵特性を規定するものである。これにより、乗員により自然な走行感や快適な乗心地を与えるようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記公報に記載される車両の自動操舵装置は、道路情報,より具体的には車線の状態、つまり直線路か曲線路か、曲線路の場合、その曲率は如何程かといった情報をカメラ等の画像情報から得ることを前提としている。一方、磁気ネイルと呼ばれる磁石などの磁力源を車線に沿って埋設し、これを車両に取付けた磁気センサで検出して、当該車両の横変位(磁力源に対する横位置情報であり、つまり車線に対する自車位置情報である)を検出し、この検出される横変位が目標とする横変位に一致するように、前輪又は後輪をアクチュエータで操舵制御するものもある。なお、原則的に磁力源は車線の中央に埋設されており、磁気センサと車両との相対位置関係は変わらない。
【0005】
しかしながら、実際の車両に、このような自動操舵装置を搭載して自動操舵を行わせると、制御の正確性が低下してしまうことがある。そして、これは、検出される横変位のノイズが車両の走行状態に応じて変化することに起因することや、こうした自動操舵装置が離散化されたシステムで構築されていることが関与していることも分かった。
【0006】
本発明はこれらの諸問題に鑑みて開発されたものであり、例えば車両の走行状態に応じてローパスフィルタの特性やオブザーバの補正を変更可能とし、検出される横変位のノイズを的確に抑制防止して制御の応答性と正確性とを両立し得る自動操舵装置を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に係る車両の自動操舵装置は、車線に沿って埋設された磁力源を検出する磁気センサと、この磁気センサの検出信号から車両の横変位を検出する横変位検出手段と、この横変位検出手段で検出される横変位のノイズを除去するためのローパスフィルタと、前輪又は後輪を操舵する操舵アクチュエータと、この操舵アクチュエータによって操舵される前輪又は後輪の舵角を検出する舵角検出手段と、車両の走行状態に関する情報を検出する走行状態情報検出手段と、前記検出された車両の横変位が目標とする横変位になるように前記操舵アクチュエータを制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記走行状態情報検出手段で検出された走行状態情報に応じて前記ローパスフィルタの特性を変更するフィルタ特性変更手段を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明のうち請求項2に係る車両の自動操舵装置は、前記請求項1に係る発明において、前記走行状態情報検出手段として車線の曲率を検出する車線曲率検出手段を備え、前記フィルタ特性変更手段は、前記車線曲率検出手段で検出される車線の曲率が大きくなるほど、前記ローパスフィルタの特性を強めることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のうち請求項3に係る車両の自動操舵装置は、前記請求項1又は2に係る発明において、前記走行状態情報検出手段として車速を検出する車速検出手段を備え、前記フィルタ特性変更手段は、前記車速検出手段で検出される車速が大きくなるほど、前記ローパスフィルタの特性を強めることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のうち請求項4に係る車両の自動操舵装置は、前記請求項1乃至3の何れかに係る発明において、前記走行状態情報検出手段として前記磁気センサが車両横方向に進むセンサ横滑り速度を検出するセンサ横滑り速度検出手段を備え、前記フィルタ特性変更手段は、前記センサ横滑り速度検出手段で検出される速度が大きくなるほど、前記ローパスフィルタの特性を強めることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のうち請求項5に係る車両の自動操舵装置は、前記請求項2乃至4の何れかに係る発明において、前記ローパスフィルタが一次遅れフィルタで構成され、前記フィルタ特性変更手段は、この一次遅れフィルタの時定数を大きくすることでローパスフィルタの特性を強めることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のうち請求項6に係る車両の自動操舵装置は、前記請求項2乃至4の何れかに係る発明において、前記ローパスフィルタがサンプリングされる横変位の移動平均を算出する移動平均算出手段で構成され、前記フィルタ特性変更手段は、この移動平均算出手段でサンプリングされる横変位の数を多くすることでローパスフィルタの特性を強めることを特徴とするものである。
【0013】
【発明の効果】
而して、本発明のうち請求項1に係る車両の自動操舵装置によれば、車線に沿って埋設された磁力源の磁力を磁気センサで検出して、その検出信号から車両の横変位を検出し、この検出された横変位が目標とする横変位に一致するように操舵アクチュエータを制御して前輪又は後輪を自動操舵するにあたり、車両の走行状態情報に応じて、検出される横変位のノイズを除去するためのローパスフィルタの特性を変更する構成としたため、車両,つまり磁気センサと磁力源との相対速度が大きくなるに従って、ローパスフィルタの特性,つまり高周波除去特性を強めることで、離散化に伴うノイズを除去して制御の正確性を高めることができると共に、前記車両,つまり磁気センサと磁力源との相対速度が小さいときにはローパスフィルタの応答遅れを小さくして制御の応答性を高めることも可能となる。
【0014】
また、本発明のうち請求項2に係る車両の自動操舵装置によれば、車両が走行している車線の曲率を検出し、この車線の曲率が大きくなるほど、磁気センサと磁力源との横方向への相対速度,つまり横滑り速度が大きいから、この曲率が大きくなるほど、ローパスフィルタの高周波除去特性を強めることで、離散化に伴うノイズを確実に除去して制御の正確性を高めると共に、車線の曲率の小さいときには応答遅れを小さくして制御の応答性を高めることも可能となる。
【0015】
また、本発明のうち請求項3に係る車両の自動操舵装置によれば、検出される車速が大きくなるほど、磁気センサと磁力源との前後方向への相対速度が大きいから、この車速が大きくなるほど、ローパスフィルタの高周波除去特性を強めることで、離散化に伴うノイズを確実に除去して制御の正確性を高めると共に、車速の小さいときには応答遅れを小さくして制御の応答性を高めることも可能となる。
【0016】
また、本発明のうち請求項4に係る車両の自動操舵装置によれば、磁気センサが車両横方向に進むセンサ横滑り速度,つまり磁気センサと磁力源との横方向への相対的な横滑り速度を検出し、このセンサ横滑り速度が大きくなるほど、ローパスフィルタの高周波除去特性を強めることで、離散化に伴うノイズを確実に除去して制御の正確性を高めると共に、センサ横滑り速度の小さいときには応答遅れを小さくして制御の応答性を高めることも可能となる。
【0017】
また、本発明のうち請求項5に係る車両の自動操舵装置によれば、前記ローパスフィルタを一次遅れフィルタで構成し、前述したような車両の走行状態の情報に応じて、この一次遅れフィルタの時定数を大きくすることでローパスフィルタの特性を強めることにより、前記請求項1乃至4の自動操舵装置を実施化できる。
【0018】
また、本発明のうち請求項6に係る車両の自動操舵装置によれば、前記ローパスフィルタを、サンプリングされる横変位の移動平均を算出する移動平均算出手段で構成し、前述したような車両の走行状態の情報に応じて、この移動平均算出手段でサンプリングされる横変位の数を多くすることでローパスフィルタの特性を強めることにより、前記請求項1乃至4の自動操舵装置を実施化できる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ここでは、前輪のみを操舵する自動操舵装置について説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態の自動操舵装置を示す概略構成図である。同図の符号12は前左右輪、15は後左右輪を示し、前左右輪12にはごく一般的なラックアンドピニオン式の操舵機構が付加されている。この操舵機構は、前左右輪12の操舵軸(タイロッド)に接続されるラック11と、これに噛合するピニオン10と、このピニオン10をステアリングホイール14に与えられる操舵トルクで回転させるステアリングシャフト9とを備えている。
【0021】
また、前記ステアリングシャフト9には、前左右輪12を自動操舵するための自動操舵機構も付加されている。この自動操舵機構は、前記ステアリングシャフト9に同軸に取付けられたドリブンギヤ8と、これに噛合するドライブギヤ7と、このドライブギヤ7を回転駆動するモータ5である。なお、モータ5とドライブギヤ7との間にはクラッチ機構6が介装されており、自動操舵制御時にのみクラッチ機構6が接続され、そうでないときにはクラッチ機構6が離間してモータ5の回転力がステアリングシャフト9に入力されないようにしている。そして、これらの機構で操舵アクチュエータを構成し、前記モータ5を含む自動操舵機構は、後述する制御手段たる自動操舵コントロールユニット13からの制御信号で制御される。
【0022】
また、この車両には、走行状態情報検出手段である種々のセンサ類が取付けられている。符号3は舵角センサ(舵角検出手段)であり、ステアリングシャフト9の回転角から前左右輪12の実前輪舵角δを割出して自動操舵コントロールユニット13に出力する。また、図中の符号4は車速センサであり、例えば変速機の出力軸の回転速度から車両の移動速度(車速v)を割出して自動操舵コントロールユニット13に出力する。また、図中の符号16は車線の曲率を検出する車線曲率検出装置であり、例えば車線脇から無線送信される車線曲率情報を得て、その車線曲率ρを自動操舵コントロールユニット13に出力する。なお、この車線曲率検出装置は、コントロールユニット13内で実行される演算処理によって構成されるようにソフト化してもよく、その簡潔な内容については後述する。
【0023】
一方、磁力源として車線に沿って埋設された図示されない磁石の磁力は、車両の前方下部に取付けられた磁気センサ1で検出される。この磁気センサ1は、単に磁石の磁力の大きさだけでなく、その磁力ベクトルを、車両上下方向に相当する縦成分と、車両幅方向に相当する横成分とに分解して、その夫々の方向と大きさとを検出することができる。
【0024】
この磁気センサ1の検出信号は、横変位検出手段を構成する横変位検出装置2に出力される。この横変位検出装置2は、後述する原理に基づいて、検出される磁力ベクトルの縦横成分比から車両(厳密には磁気センサ1)の車線(厳密には磁石)に対する横変位の方向と大きさとを検出(算出)する。なお、この横変位検出装置2は、図示されないマイクロコンピュータ等の離散化したディジタルシステムで構成されているため、前述したような横変位のサンプリングは、予め設定されたサンプリングタイミングでしか行われない。この横変位検出装置2で検出された車両の横変位yは、制御手段を構成し且つ自動操舵制御を司る自動操舵コントロールユニット13に出力される。
【0025】
前記自動操舵コントロールユニット13は、図示されないマイクロコンピュータのような離散化されたディジタルシステムで構成されている。このディジタルシステムは、既存のマイクロコンピュータと同様に、前記各センサ類からの検出信号を読込むための入力インタフェース回路や、必要なプログラムや演算結果等を記憶するROM,RAM等の記憶装置や、実際に演算処理を行うと共に或る程度のバッファ機構を備えたマイクロプロセサユニット等の演算処理装置や、この演算処理装置で設定した制御信号を前記自動操舵機構のモータ5に出力するための出力インタフェース回路等を備えている。
【0026】
次に、前記コントロールユニット13内で実行される本実施形態の演算処理について図2のフローチャートを用いて説明する。なお、このフローチャートでは、特に情報の授受のためのステップを設けていないが、演算処理装置で読込まれた情報や物理量或いは演算された演算結果は随時記憶装置に更新記憶されるし、演算処理に必要はプログラムやマップ,テーブル等は随時記憶装置から演算処理装置のバッファに読込まれる。
【0027】
この演算処理は、例えば10msecといった予め設定されたサンプリング時間ΔT毎にタイマ割込処理として実行され、まずステップS1で前記横変位検出装置2からの横変位yを読込む。
【0028】
次にステップS2に移行して、前記車線曲率検出装置16からの車線曲率ρを読込む。
次にステップS3に移行して、前記車速センサ4からの車速vを読込む。
【0029】
次にステップS4に移行して、下記1式に従ってセンサ横滑り速度vsを算出する。なお、下記1式の算出原理については後段に詳述する。
【0030】
s=Ls・ρ・v+v・b・ρ
−(m・a・ρ・v)/((a+b)・C) ………(1)
但し、
:磁気センサと車両重心点との平面視における距離
a :前輪軸と車両重心点との平面視における距離
b :後輪軸と車両重心点との平面視における距離
m :車両質量
:後左右二輪のコーナリングスティフネス
である。
【0031】
次にステップS5に移行して、ローパスフィルタの時定数τを、例えば図3の制御マップに従って設定する。この制御マップでは、横軸を車速vとし、更にセンサ横滑り速度vsをパラメータとして、縦軸にローパスフィルタの時定数τを設定する。そして、車速vが大きいほど、またセンサ横滑り速度vsが大きいほどローパスフィルタの時定数τは二次関数的に大きく設定される。なお、後述のように横滑り速度vsに代えて又はこれに加えて車線曲率ρを用いてもよい。
【0032】
次にステップS6に移行して、前記ステップS5で設定された時定数τを用いて、前記読込まれた横変位に、下記10式で表される一次遅れ伝達関数G(S)からなるローパスフィルタ処理を施して、高周波成分,つまりノイズ成分が除去された横変位(以下、単にノイズ除去横変位とも記す)yを算出する。
【0033】
(S)=1/(τS+1) ………(10)
次にステップS7に移行して、前記ノイズ除去横変位y,車速v,車線曲率ρを用いて、下記2〜4式に従って目標前輪舵角δfdを算出設定する。なお、各算出式の算出原理については後段に詳述する。また、4式中の比例ゲインK,微分ゲインK,積分ゲインKの夫々は、何れも車速v及び車線曲率ρの関数であり、車速vが大きくなるほど、また車線曲率ρが大きくなるほど、算出される補正前輪舵角Δδfdが小さくなるように設定されている。また、3式で算出されるδf0を、その車線の曲率に応じて定常的に設定される定常前輪舵角と定義する。
【0034】
δfd=δf0+Δδfd ………(2)
δf0=(a+b)・ρ
+(m・ρ・v・(b・C−a・C))/((a+b)・C・C
………(3)
Δδfd=(K+K・S+K/S)・(y−y) ………(4)
但し、
:前左右二輪のコーナリングスティフネス
S :ラプラス演算子
である。
【0035】
また、yを目標横変位とする。
【0036】
次にステップS8に移行して、前記設定された目標前輪舵角δfdに実前輪舵角δを一致させるフィードバック制御の制御信号を創成し出力してからメインプログラムに復帰する。
【0037】
次に、前記1式の算出原理について説明する。本実施形態のように後輪を操舵しない場合,つまり後輪舵角が常時零であるときの運動方程式は、二輪モデルを用いて下記5式及び6式で表される。
【0038】
m・v・(ψ'+β')=C・(δ−(a・ψ'+v・β)/v)
+Cr・(−(v・β−b・ψ' )/v)
………(5)
I・ψ''=a・C・(δ−(a・ψ'+v・β)/v)
−b・C・(−(v・β−b・ψ' )/v) ………(6)
但し、
ψ' :ヨーレイト
β' :車両重心点の横滑り角速度
β :車両重心点の横滑り角
I :車両の慣性モーメント
ψ'' :ヨー角加速度
である。
【0039】
また、旋回運動の定常状態におけるヨーレイトψ'は車線曲率ρと車速vとから下記7式で表される。
【0040】
ψ'=ρ・v ………(7)
また、旋回運動の定常状態では車両重心点の横滑り角速度β'もヨー角加速度ψ''も共に零であるから、それを下記8式で表す。
【0041】
β'=ψ''=0 ………(8)
また、磁気センサ位置での横滑り速度vは、ヨーレイトψ' 及び横滑り角βを用いて下記9式で与えられるものである。
【0042】
=L・ψ'+v・β ………(9)
この5式乃至9式を解いて前記1式を得る。次に、前記3式及び4の算出原理についても、本実施形態のように後輪を操舵しない場合,つまり後輪舵角が常時零である場合には、前記5式乃至8式において、定常的な前輪舵角δを定常前輪舵角δf0として、この定常前輪舵角δf0について解けば前記3式を得る。また、補正前輪舵角Δδfdについては、前記定常前輪舵角δf0を与えたときのノイズ除去横変位yのフィードバック制御による補正分と考えれば、固定制御理論にいう所謂PID制御から前記4式が与えられる。なお、前記比例ゲインK,微分ゲインK,積分ゲインKの調整手法については十分に周知であるから、その説明を省略する。
【0043】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0044】
ここで、磁力源として磁石を用いた場合、当該磁石からの磁力に基づいて車線に対する車両の横変位を検出する原理について簡潔に説明する。磁石からの磁力線が図4のように発生しているとき、磁気センサのレベル(高さ)は一定であるから、検出される磁力ベクトルの縦横成分の比が分かれば、磁気センサ,つまり車両は磁石,つまり車線に対してどの程度横方向にずれているかが分かる。即ち、磁気センサが磁石の真上にあれば、検出される磁力ベクトルの縦横成分の比は1:0になるし、それが横方向にずれればずれるほど、検出される磁力ベクトルの横成分が大きくなり、縦成分は小さくなる。また、磁力ベクトルの横成分の発生方向から、磁気センサ,つまり車両が磁石,つまり車線に対して、どちらにずれているかも分かる。
【0045】
次に、この原理を用いて車線に対する車両の横変位を検出するタイミングについて簡潔に説明する。今、車両に取付けられた磁気センサが、図4で説明したように磁石に対して横方向にずれていないとしたとき(ずれていても横変位が同じなら結局は同じ)、図5aに示すように磁気センサと磁石との距離をDとすると、距離Dと磁力との関係は図5bのように表れる。つまり、磁気センサが磁石に最も近いときに、検出される磁力も最大になる。従って、検出される磁力が最大になったとき、その磁力ベクトルの縦横成分比から車両の横変位を正確に検出することが可能となる。
【0046】
そこで、この検出された横変位を用いて前述のように目標とする横変位に一致するように操舵アクチュエータを制御する場合に、本実施形態では、前記検出された横変位にローパスフィルタをかけてノイズを除去する。
【0047】
次に、前述のようにして検出される横変位yのノイズ成分について説明する。このような車線に沿って埋設された磁石等の磁力源の磁力を磁気センサで検出して車線に対する車両の横変位を検出する手法では、実際の車両で検出される横変位にノイズ(誤差成分を含む)が多い。これについては、例えば図6に示すように、車線の幅を示す二本の白線の中央に相当する車線中央に磁石等の磁力源が正確に埋設されていないせいだと考えられてきた。つまり、本来、車線中央にあるべき磁石等の磁力源が横方向にずれて埋設されていれば、検出される横変位は図7に示すように、車両(正確には磁気センサ)が仮に車線中央に沿って移動したとしても、恰も横方向にずれているかのように誤認識してしまう。
【0048】
しかしながら、この検出される横変位yのノイズ成分には、この他に、以下のようなノイズ成分もある。即ち、前述のような車両の自動操舵装置は、一般に高度な演算処理を必要とすることから離散化したディジタルシステムで構成される。従って、例えば前述のように磁気センサで磁石の磁力を検出する,そのサンプリングタイミングと、実際に磁気センサが磁石に最も近づくタイミングとがずれてしまう可能性がある。この可能性は、磁石と磁気センサ,つまり車両との相対速度が大きくなればなるほど大きくなる。
【0049】
これを実際の車両で再現すると、例えば車速vが大きくなるほど、或いは車線曲率ρが大きくなるほど、検出される横変位のノイズ成分が大きくなり、結果的に自動操舵制御の正確性が低下する。このうち、車線曲率ρが大きくなるということは、図8に示すように、車線中心線に沿って移動しようとする車両の移動方向と実際に車両が向いている方向との角度,つまりヨー角が大きいということであり、それは同時に磁気センサの横滑り速度が大きいということである。定常的な旋回運動中であれば、両者は互いに等価であると評価できるが、前述した磁力のサンプリングタイミングと磁気センサの最接近タイミングとのずれは、磁石と磁気センサ,つまり車両との相対速度に起因すると考えると、磁気センサの横滑り速度が大きくなるほど、検出される横変位のノイズ成分が大きくなると考えるのが妥当であろう。
【0050】
一方、こうして検出される横変位からノイズ成分,つまり高周波成分を除去するためのローパスフィルタは、一般に一次遅れの伝達関数を有し、前記10式で表される。この分母のτが時定数と呼ばれ、この時定数τを大きくするほど、目標値に実績値が追従するまでの時間が長くなり、従って高周波成分の追従性が低下する,つまり高周波ゲインが小さくなって高周波成分の除去が高まることは、古典制御理論から十分に周知である。また、これを、一般にローパスフィルタの特性が強まると称する。そこで、本実施形態では、車速vが大きくなるほど、或いはセンサ横滑り速度vが大きくなるほど、時定数τを二次関数的に大きく設定し、これにより、前述のように磁石と磁気センサ,つまり車両との相対速度が大きくなるにつれて大きくなる検出横変位のノイズを効果的に除去し、自動操舵制御の正確性を向上する。また、相対的に、車速vが小さくなるほど、或いはセンサ横滑り速度vが小さくなるほど、時定数τは小さく設定されるために検出横変位のノイズ除去効果は低下するが、このように磁石と磁気センサ,つまり車両との相対速度が小さいときには検出横変位のノイズ成分も小さいから、そのノイズ除去効果はさほど大きくなくてもよい。むしろ、時定数τを小さく設定することで、制御の応答性が向上する。このように本実施形態の自動操舵装置では、車速やセンサ横滑り速度等の走行状態に関する情報を得、その走行状態情報に応じてローパスフィルタのノイズ除去特性を可変とすることで、自動操舵制御の正確性と応答性とを両立することができる。
【0051】
以上より、本実施形態は、本発明のうち請求項1又2又は3又は4又は5に係る車両の自動操舵装置を実施化したものであり、前記横変位検出装置及び図2の演算処理のステップS1が本発明の横変位検出手段を構成し、以下同様に、車線曲率検出装置16及び図2の演算処理のステップS2が車線曲率検出手段及び走行状態情報検出手段を構成し、車速センサ4及び図2の演算処理のステップS3が車速検出手段及び走行状態情報検出手段を構成し、図2の演算処理のステップS4がセンサ横滑り速度検出手段及び走行状態情報検出手段を構成し、図2の演算処理全体及び自動操舵コントロールユニット13が制御手段を構成し、図2の演算処理のステップS5がフィルタ特性変更手段を構成する。
【0052】
なお、前記第1実施形態では、車線曲率ρや車速vからセンサ横滑り速度vを算出し、このセンサ横滑り速度vと車速vとの双方から一次遅れフィルタの時定数τを設定することとしたが、前述のように例えばセンサ横滑り速度vに代えて或いはそれらに加えて車線曲率ρを用いてもよく、その場合には車線曲率ρが大きくなるほど時定数τを大きく設定して、ローパスフィルタの特性を強めてもよい。また、前述したローパスフィルタとしては、サンプリングされる横変位の移動平均を算出する手段で構成してもよい。この移動平均手段からなるローパスフィルタでは、移動平均に用いられるサンプリング横変位の数が多ければ多いほど、目標値への追従性が低下するから、前記第1実施形態のように走行状態情報に応じて、このローパスフィルタの特性を強める場合には、サンプリング横変位の数を多くしてやればよい。
【0053】
また、前記第1実施形態では、共に車線曲率ρを、外部からの情報として読込む場合についてのみ詳述したが、この車線曲率ρは、前述した横変位やヨーレイト,ヨー角,車速等の運動方程式で表れることは周知であるから、これらを用いて推定することも可能である。
【0054】
また、前記第1実施形態では、共に前輪を操舵することだけで、車線追従,つまり検出される横変位を目標とする横変位に一致させることとしたが、これに代えて又はこれに加えて後輪を操舵するようにしてもよいし、或いはヨーイング運動に着目しながら横変位を制御するならば、それらに加えて前後各輪のトラクション,つまり駆動力を制御してステアリング特性を制御するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の車両の自動操舵装置の一例を示す車両概略構成図であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図2】 本発明の車両の自動操舵装置の第1実施形態の演算処理を示すフローチャートである。
【図3】 図2の演算処理で用いられるローパスフィルタの時定数設定マップである。
【図4】 車線に埋設された磁石からの磁力ベクトルの説明図である。
【図5】 車両に取付けられた磁気センサで磁石の磁力を検出する説明図である。
【図6】 車線に埋設された磁石の説明図である。
【図7】 検出された磁力に応じて得られる車両横変位の説明図である。
【図8】 磁気センサの横滑り速度の説明図である。
【符号の説明】
1は磁気センサ
2は横変位検出装置(横変位検出手段)
3は舵角センサ(舵角検出手段)
4は車速センサ(車速検出手段)
5はモータ
6はクラッチ機構
7はドライブギヤ
8はドリブンギヤ
9はステアリングシャフト
10はピニオン
11はラック
12は前左右輪
13は自動操舵コントロールユニット(制御手段)
14はステアリングホイール
15は後左右輪
16は車線曲率検出装置(車線曲率検出手段)

Claims (6)

  1. 車線に沿って埋設された磁力源を検出する磁気センサと、この磁気センサの検出信号から車両の横変位を検出する横変位検出手段と、この横変位検出手段で検出される横変位のノイズを除去するためのローパスフィルタと、前輪又は後輪を操舵する操舵アクチュエータと、この操舵アクチュエータによって操舵される前輪又は後輪の舵角を検出する舵角検出手段と、車両の走行状態に関する情報を検出する走行状態情報検出手段と、前記検出された車両の横変位が目標とする横変位になるように前記操舵アクチュエータを制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記走行状態情報検出手段で検出された走行状態情報に応じて前記ローパスフィルタの特性を変更するフィルタ特性変更手段を備えたことを特徴とする車両の自動操舵装置。
  2. 前記走行状態情報検出手段として車線の曲率を検出する車線曲率検出手段を備え、前記フィルタ特性変更手段は、前記車線曲率検出手段で検出される車線の曲率が大きくなるほど、前記ローパスフィルタの特性を強めることを特徴とする請求項1に記載の車両の自動操舵装置。
  3. 前記走行状態情報検出手段として車速を検出する車速検出手段を備え、前記フィルタ特性変更手段は、前記車速検出手段で検出される車速が大きくなるほど、前記ローパスフィルタの特性を強めることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の自動操舵装置。
  4. 前記走行状態情報検出手段として前記磁気センサが車両横方向に進むセンサ横滑り速度を検出するセンサ横滑り速度検出手段を備え、前記フィルタ特性変更手段は、前記センサ横滑り速度検出手段で検出される速度が大きくなるほど、前記ローパスフィルタの特性を強めることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の車両の自動操舵装置。
  5. 前記ローパスフィルタが一次遅れフィルタで構成され、前記フィルタ特性変更手段は、この一次遅れフィルタの時定数を大きくすることでローパスフィルタの特性を強めることを特徴とする請求項2乃至4の何れかに記載の車両の自動操舵装置。
  6. 前記ローパスフィルタがサンプリングされる横変位の移動平均を算出する移動平均算出手段で構成され、前記フィルタ特性変更手段は、この移動平均算出手段でサンプリングされる横変位の数を多くすることでローパスフィルタの特性を強めることを特徴とする請求項2乃至4の何れかに記載の車両の自動操舵装置。
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