JP3780410B2 - 金属メッキ用電極 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気亜鉛メッキ(EGL: Electro・Galvanizing Line)や電気すずメッキ(ETL: Electro・Tinnizing Line)に用いる不溶性陽極に関する。本発明はとくに、対向して配置した2枚の陽極間にメッキ液が存在し、対向する陽極間を鋼板が通過しながら連続的にメッキする装置において、片面のみメッキする場合、または表面と裏面とでメッキ厚の異なるメッキ(いわゆる「差厚メッキ」)を行なうような場合に、陽極でありながら陰分極されるような部分に使用して好適な、耐久性のすぐれた電極を提供する。
【0002】
本発明の電極はまた、導体上に金属のメッキを行なった後、このメッキ層を剥離して金属箔を得るという手法を採用した、金属箔の製造に使用しても好成績を示すものであって、本発明において「メッキ」の語は、この手法で金属箔を製造するためのメッキ作業をも包含する意味に用いる。したがって本発明の電極は、金属箔製造用の電極でもある。ただし、剥離による金属箔の製造はメッキ以降の問題であるから、以下は、もっぱらメッキに関して説明する。
【0003】
【従来の技術】
従来、チタンのような耐食性の高い導電性の基体上に、白金族金属およびバルブメタル(チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル)の金属−金属複合酸化物でコーティングを施した電極が、工業電解で多数用いられており、その代表的な利用分野として、食塩電解があることは広く知られている。
【0004】
近年、金属表面処理鋼板の製造、とりわけ、電気亜鉛メッキ、電気すずメッキの連続メッキラインに、この種の不溶性陽極が利用されるようになり、この用途に適した電極が、数多く提案されている(特開平5-287572号、特開平5-171483号、特許第2574699号、特許第2920040号)。
【0005】
電気亜鉛メッキ鋼板や電気すずメッキ鋼板は、図1や図2に示すように、対向する2枚の平行平板型不溶性陽極(1)の間にメッキ液(2)が存在し、メッキされる鋼板(3)は2枚の陽極間の間に連続的に搬送され、その両面に所望のメッキを電気的に施す、という手法により製造されている。対向する2枚の陽極(1)は、鋼板(3)を挟んで、それぞれから鋼板に向けて電流が流れる回路を形成しているが、対向しているがゆえに、陽極/メッキ液/鋼板/メッキ液/陽極という空間の電気的バランスによって対向する陽極の間に干渉が生じて、一方から他方の陽極に電流が流れることがある。
【0006】
これを具体的に説明すれば、上述の連続メッキに使用する陽極は、図3に示すように、その幅(H)が、搬送される鋼板の最大幅(h)よりも広く設計されていて、この陽極間をさまざまな幅の鋼板が搬送されるわけであるから、とくに空間の電気的バランスが不安定な場所は、鋼板端部の領域であって、図4に示すように、一方の陽極から他方の陽極へ電流(4)が流れるという現象が生じる。
【0007】
そのため、図5に示すように陽極の両端部は、鋼板の幅が変動するたびに、局部的にプラスの電流(5)が流れたり、マイナスの電流(4)が流れたりし、極性が頻繁に切り替わる状況で使用されることになる。これに対し、中央部は常に鋼板が通過しているため、プラスの極性のみで使用されている。その結果、陽極の中央部と両縁部では、両縁部の方が速く消耗する。陽極寿命の支配的因子、すなわち端部寿命が陽極交換周期を決定する因子となっている。
【0008】
このような現象に対応すべく、特開平10-287998号、特開平11-302892号に具体的な方法が提案されている。特開平10-287998号では、陽極両縁部の電極活物質担持量を、中央部の担持量よりも多くすることが提案されている。しかしこの方法は、担持量を増やすため、電極製造のコストが高くなるという問題がある。
【0009】
特開平11-302892号には、導電性の電極基体上に、金属換算で白金1〜20原子%およびタンタル80〜99原子%を含有する、白金金属と酸化タンタルと混合物の下地層を設け、この下地層の上に、金属換算でイリジウム70〜99.9原子%およびタンタル0.1〜30原子%を含有する酸化イリジウムと酸化タンタルとの混合物である中間層を設け、さらに、この中間層を介して、金属換算で白金60〜99.9原子%およびイリジウム0.1〜40原子%を含有する白金金属と酸化イリジウムとの上地層を設けた、三層構成のコーティング層を有する電解用電極が提案されている。
【0010】
特開平11-302892号と同じく、導電性電極基体上に白金とタンタルとからなる下地層を設ける電極は、特開平5-230682号、特開平5-255881号、特開平8-225977号および特許第2505563号、特許第2505560号などに開示されている。
【0011】
白金と酸化タンタルとの混合物の層を設けた場合、白金は金属であり、酸化タンタルは酸化物(セラミック物質)であり、白金粒子と酸化タンタル粒子とが物理的に混合された状態で、それぞれの粒子が独立して存在している。しかも、タンタルと白金は同族元素でもないため、互いに固溶した金属または酸化物を形成することもなく、粒子間の密着性に乏しいという欠点がある。
【0012】
前述したように、亜鉛メッキ鋼板やすずメッキ鋼板を製造する装置の陽極の両縁部は、極性がしばしば切り替わる状態で使用されており、酸素の発生と水素の発生とが交互に行われる場所でもある。電気化学的な水素発生は、原子半径の最も小さいプロトンが放電し、水素再結合反応によりガス化するという機構が知られているが、原子半径の小さなプロトンは、一方で電極活物質内への浸透力が高く、活物質内でのプロトン放電→再結合→ガス化が起こる。活物質内の活物質粒子間の結合力が高くないと、水素ガスの発生に伴う体積膨張力により、活物質層が機械的に破壊されることがある。したがって、粒子間の密着性に乏しい白金とタンタル酸化物、あるいはタンタル酸化物に代表されるバルブメタル(チタン、ニオブ、ジルコニウム)の酸化物の組み合せを下地層として用いることは、得策とはいえない。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、金属メッキ用の電極であって、とくに陽分極と陰分極が交互に繰り返される電極として使用するのに適した、使用寿命の長い電極を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、極性がしばしば変換するような環境で使用される電極であって、十分な耐久性を有する金属メッキ用の電極を開発することを意図して鋭意研究を重ねた結果、「導電性基体/白金・酸化イリジウムの中間層/酸化イリジウム・酸化タンタルの表面層」の構成からなる金属メッキ用電極が、すぐれた耐久性を有することを見出した。
【0015】
この新知見に基づく本発明のメッキ用電極は、導電性の基体上に、金属換算で白金60〜90原子%およびイリジウム10〜40原子%を含有する白金と酸化イリジウムとの混合物である中間層を、その担持量が金属換算で30〜80g/ m 2 となるように設け、中間層の表面に、金属換算で、イリジウム50〜90原子%およびタンタル10〜50原子%を含有する酸化イリジウムと酸化タンタルとの混合物である表面層を、その担持量が金属換算で10〜50g/ m 2 となるように設けてなり、陽分極と陰分極とが交互に繰り返される電極として使用する金属メッキ用電極である。
【0016】
【作 用】
陰分極されるような卑な電位領域で使用される電極の材料としては、水素過電圧の小さい白金が有効であることは、前掲の公報類に記載された発明の多くが認めているが、陽極として使用された場合、白金は消耗速度が速く実用に耐えないこともまた、よく知られた事実である。酸素を発生する陽極として耐久性が認められている陽極活物質は、酸化イリジウムおよび酸化イリジウムと酸化タンタルとを組み合わせた材料である。
【0017】
本発明において、中間層を、金属換算で白金60〜90原子%およびイリジウム10〜40原子%を含有する白金と酸化イリジウムとの混合物とすることにより、白金にイリジウムが固溶し、イリジウムに白金が固溶した、相互固溶型の金属−金属酸化物層が形成される。この混合物においては、既知の白金とバルブメタルの酸化物との組み合せでは得られなかった、強い粒子間の密着力が実現している。
【0018】
さらに、バルブメタルの酸化物のような絶縁物とちがって、白金も酸化イリジウムも導電性物質であり、その上、電極触媒機能を持つ物質である。白金は水素過電圧が低い物質として知られており、酸化イリジウムは酸素過電圧が低い物質として知られている。
【0019】
極性がしばしば切り替わる環境で使用される電極は、水素発生、酸素発生の双方に対して活性であることが必要である。本発明の電極においては、水素発生の際は白金が主たる触媒として機能し、酸素発生の際には、酸化イリジウムが主たる触媒になる。
【0020】
中間層と表面層との組み合わせは、水素発生は原子半径の小さいプロトンが関与する反応であって、プロトンが電極活物質層内部まで浸透して生じる反応であることに着目し、一方、酸素発生は電極活物質表層で生じる反応であることに着目し、電極基体に近い中間層を白金−酸化イリジウム層とし、その表面に、酸素発生に関して耐久性のある、酸化イリジウム−酸化タンタルからなる複合酸化物層を設ける、という選択にもとづく。
【0021】
【発明の実施形態】
本発明の電極を構成する導電性の基体としては、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタルなどのバルブメタル、またはこれらの合金から選んだ1種または2種以上の金属もしくは合金が適切である。これらの金属もしくは合金を、他の導電性材料にクラッドしたもの、蒸着、溶射、スパッタによりコーティングしたものも、同様に好ましい。
【0022】
本発明の電極において導電性の基体上に設ける中間層の組成を、金属換算で白金60〜90原子%およびイリジウム10〜40原子%を含有する白金と酸化イリジウムと定め、白金含有量をイリジウム含有量より多くしたのは、酸素発生環境で長期使用された場合、白金の消耗速度が酸化イリジウムのそれより大きいためである。しかし、酸素発生環境で長時間使用された場合、最外面にコーティングされた酸化イリジウム−酸化タンタル層が酸素発生の担い手として機能するので、それほどダメージを受けるわけではない。
【0023】
導電性の基体上に設けた中間層である白金−酸化イリジウム層の量は、金属換算で、30〜80g/m2が適切である。これに対し、表面層の酸化イリジウム−酸化タンタルからなる複合酸化物層の量は、金属換算で10〜50g/m2が適切である。どちらも、下限量より少ないと、電極の耐久性が十分でなく、一方、上限を超えて厚い層にしても、抵抗が増すだけでメリットはない。
【0024】
本発明の電極は、この種の被覆電極の製造法として常法になっている方法、つまり、白金化合物、イリジウム化合物およびタンタル化合物を含有する溶液を塗布し、乾燥したのち、大気中、400〜550℃に加熱して分解させ、コーティングを行なうという手法により製造することができる。
【0025】
より具体的には、導電性の基体の表面を、硫酸やシュウ酸でケミカルエッチングするか、またはブラスト処理するかして、粗面化する。その表面に、塩化白金酸および塩化イリジウム酸を所定の組成で溶解したブタノールその他のアルコール溶液を、塗布、乾燥、焼成する操作を繰り返して、中間層を形成する。次に、塩化イリジウム酸およびタンタル・アルコキシドを所定の組成で溶解したブタノールその他のアルコール溶液を、同様に塗布、乾燥、焼成する操作を繰り返して表面層を形成し、電極を完成させる。
【0026】
【実施例】
導電性の基体として純チタンを使用し、熱シュウ酸で処理して表面の酸化皮膜を除去した後、水洗した。つづいて熱濃硫酸を作用させてケミカルエッチングを行なって粗面化処理した。乾燥後、塩化白金酸および塩化イリジウム酸を白金:イリジウムが70:30となる組成で溶解したブタノール溶液を塗布し、120℃で乾燥し、500℃で焼成することを繰り返して、金属換算で60g/m2の中間層を形成した。その表面に、塩化イリジウム酸およびタンタル・アルコキシドをイリジウム:タンタルが70:30となる組成で溶解したブタノール溶液を塗布し、120℃で乾燥、480℃で焼成することを繰り返して、金属換算で20g/m2の表面層を完成させた。
【0027】
次に、このようにして製造した電極を、100g/リットルの無水硫酸ナトリウム溶液に硫酸を加えてpH1.2に調整した溶液を電解液として用い、電流密度100A/dm2で、陽極とし5分間通電し、陰極として5分間通電する電解を交互に繰り返した。比較のため、チタン表面に酸化イリジウム−酸化タンタル(イリジウム:タンタル=70:30)の金属換算で100g/m2の電極を用いて、同様の試験を行った。電解時間(延べ時間)の経過につれて、電極活物質中の触媒成分の量が減少する状況を記録した。その結果を図6に示す。図6のグラフにみるように、本発明の電極は、従来の酸素発生用陽極である酸化イリジウム−酸化タンタル被覆チタン電極よりも、はるかに消耗の速度が低い。
【0028】
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の電極を使用して実施する金属メッキ作業の一例を示す、電解層部分の断面図。
【図2】 本発明の電極を使用して実施する金属メッキ作業の、図1とは別の例を示す、電解層の断面図。
【図3】 本発明の電極を使用して実施する金属のメッキ作業における、陽極と陰極である鋼板の、幅の大小関係を示す横断面図。
【図4】 図3に示した、2枚の陽極と陰極との間に流れる電流を説明する観念的な図。
【図5】 図3の陽極と陰極との関係が、陰極である鋼板の幅の変動により変化することを説明する間に流れる電流を説明する、図4と同様な観念的な図。
【図6】 本発明の実施例のデータであって、電解時間の変化に伴う、電極中の触媒残存量を示すグラフ。
【符号の説明】
1 不溶性陽極
2 メッキ液
3 鋼板
4 対向する陽極に流れ込む電流
5 鋼板に流れ込む電流

Claims (1)

  1. 導電性の基体上に、金属換算で白金60〜90原子%およびイリジウム10〜40原子%を含有する白金と酸化イリジウムとの混合物である中間層を、その担持量が金属換算で30〜80g/ m 2 となるように設け、中間層の表面に、金属換算で、イリジウム50〜90原子%およびタンタル10〜50原子%を含有する酸化イリジウムと酸化タンタルとの混合物である表面層を、その担持量が金属換算で10〜50g/ m 2 となるように設けてなり、陽分極と陰分極とが交互に繰り返される電極として使用する金属メッキ用電極。
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