JP3779335B2 - キャブオーバ−形運転室を有する車両のドアビーム - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、例えばトラック等のようなキャブオーバ形の運転室を有する車両のドアに内蔵されるドアビ−ムに係り、特に、前面衝突時の耐衝撃能力に優れた軽量な車両用ドアビ−ムに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車のドアを補強するための手段として、乗用車などでは側面衝突対策用のドアビ−ム(ドアインパクトビ−ム)が知られている。この種のドアビ−ムは、車両前後方向に水平に延びるビーム本体を備えている。ビーム本体は、例えば鉄板を所定形状にプレス成形したものや、中空丸断面あるいは中空正方形断面の金属材料からなる。通常、ビーム本体の両端部にはブラケットが溶接されており、このブラケットをそれぞれドアフレームにスポット溶接している。このような乗用車用ドアビームを備えたドアに側面方向から衝突荷重が加わった場合、ドアビームが塑性変形を生じることにより、衝突エネルギーが吸収されかつドアの変形が抑制される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、トラック用ドアに使われるドアビームの場合には、乗用車用ドアビームとは異なり、主に前面衝突時の運転室内の乗員生存空間を確保することを目的としているため、乗用車用ドアビームとは異なった方向から圧潰荷重を受けることを考慮しなければならない。しかもトラック用のドアは、ドア下部に左折時の巻込み防止用小窓を設けることがあり、その場合には、巻込み防止用小窓を避けるようにしてドアビームを配置しなければならず、しかも、ドアに内蔵されたウインドレギュレータやドアロック等の補機類との干渉も避けなければならない。このため、トラック用のドアビームのレイアウトは、車両前後方向の水平ラインに対して、ドアビームの前端側と後端側の高さを違えて上下に斜めに配置せざるを得ない。
【0004】
しかし上述のようにドアビームが斜めに配置されている場合には、図7に模式的に示すように、前後方向の荷重Pが入力された時に、ドアビームの両端の高さの差eに応じた大きさの曲げモーメントM(M=P・e)を生じることがある。特に、ドアビームを固定しているブラケット等が壊れるなどしてドアビームの一端側(図7において右端側)が自由になった時に、前後方向の荷重Pによって曲げモーメントMが生じやすくなり、ドアビームが上下いずれかに曲ってしまう。その場合、ドアビームを水平方向(車両前後方向)にまっすぐに配置した場合に比べて、耐えうる座屈荷重が低下し、要求性能を満足できない。
【0005】
また、図8に示されるように、ドア外板aの近くにドアビームbを配置する必要がある場合には、窓ガラス昇降用金具cの昇降軌跡とドア外板aとの間の狭い空間dにドアビームbを収容しなければならない。しかしこの空間dは、車両幅方向に十分な距離を確保することが困難であり、このような狭い空間dに収容できるような丸パイプや正方形断面のパイプでは、前後方向の衝突荷重に対して必要な剛性を得にくい。
【0006】
なお実開平4−89418号公報に記載されているように、フロントドアとリヤドアの内部にそれぞれインパクトバーを設けた車両において、後突時にフロントドアにデッドロックが生じることを防ぐために、リヤドアのインパクトバーを後上がりに傾斜した姿勢で設けるとともに、その前端部をフロントドアのインパクトバーの後端部に対して下方側にオフセットさせることが提案されている。しかしこの従来例のインパクトバーは、平板状のプレート部材にハット形断面のビーム部材をスポット溶接等によって接合した複合材であり、しかも断面の各コーナー部が直角に角張った形状となっているため、前後方向の荷重入力に対して座屈による破断を生じやすく、その変形挙動も不安定になりやすいなどの問題がある。
従って本発明の目的は、トラック用ドアのようにドアビームを上下斜めに配置する必要がある場合でも、前後方向の荷重入力に対して十分な剛性を発揮でき、しかもドア内部の狭い空間に収容することが可能なキャブオーバ−形運転室を有する車両のドアビームを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を果たすために開発された本発明は、キャブオーバ−形運転室を有する車両のドアの内部に車両の前後方向に配置されるドアビームであって、上記ドアのウインドはその下縁部の前部が後部よりも低くなる形状であり、該ウインドの下縁部に沿って前端側が後端側よりも低くなるよう高さを違えて上下に斜めに設けるビーム本体と、上記ビーム本体の前端と後端をドアフレームに固定する固定手段とを備え、上記ビーム本体は、円形断面の丸パイプからなる原管を矩形断面となるよう成形したもので、車両幅方向に沿う上下一対の短辺と、高さ方向に沿いかつ上記短辺よりも長い左右一対の長辺と、これら各辺が交わる部位に形成された4個所の円弧状コーナー部とを有する単一部材の縦長な閉断面矩形パイプからなることを特徴とする。
【0008】
上記コーナー部は、衝突荷重が入力した時のビーム本体の急激な座屈を避けるために、必要に応じて、適当な曲率半径の湾曲面にするとよい。ビーム本体の材料は、1.47KN/mm2 以上の引張り強さをもった高張力鋼管が推奨されるが、強度的に満足するものであれば、上記引張り強さ以下の強度のパイプが使われてもよい。このようなビーム本体は、断面円形の丸パイプを材料として、圧延成形等の塑性加工によって上述の矩形断面形状に成形することができる。
【0009】
【作用】
本発明のドアビームは、ドア内部でのレイアウトの都合上、上下に斜めに配置されるため、前後方向の荷重を受けた時にビーム本体を上下に曲げるようなモーメントが働く。本発明のビ−ム本体は、車両幅方向と上下方向とで剛性が異なっており、前面衝突時に曲げモーメントが生じやすい上下方向に強化された断面形状となっている。このため、軽量でコンパクトでありながら適度なエネルギ−吸収性能が発揮される。
【0010】
しかもこのビーム本体は、1本のパイプからなる単一部材であるから、安定した荷重・撓み特性を発揮できる。このビーム本体は車両幅方向の寸法が上下方向に比べて小さいため、ドア内部のように車両幅方向の寸法規制が厳しいものにおいても収容可能でありかつ必要とする剛性も確保される。
【0011】
【実施例】
以下にこの発明の一実施例について、図1ないし図6を参照して説明する。 図1,2に示されるように、トラック等のようなキャブオーバ形運転室を有する車両用ドア10の内部に、本発明に係るドアビ−ム11が設けられている。このドアビーム11は、図2に示すように、ドア10の前後方向に延びる長尺なビーム本体12と、ビーム本体12の両端12a,12bに溶接された固定手段の一例としてのブラケット15,16を備えている。ブラケット15,16は、ドアフレーム17にスポット溶接されている。符号18は溶接部を示す。
【0012】
ビーム本体12は、左折巻込み防止用の小窓20とウインド21を避けかつウインドレギュレータやドアロックなどの補機類を避けるために、前端12aと後端12bの高さを違えて上下に斜めに配置されている。図2において図示左側が車体の前方である。図1に示されるようにビーム本体12はドア外板25の近くを通っており、窓ガラス昇降用金具26の昇降軌跡とドア外板25との間の空間27にビーム本体12が収容されている。
【0013】
ビ−ム本体12は、下記断面形状の矩形パイプ30からなる。図3に示されるように、矩形パイプ30の断面は、上下一対の短辺31,32と、左右一対の長辺33,34と、これら各辺31〜34が交わる部位の合計4箇所のコーナー部35とからなり、縦長な四辺形枠状の閉断面となっている。この明細書では上記断面形状を矩形断面と称している。上記4つの辺31〜34のうち、短辺31,32は車両幅方向に沿い、長辺33,34は車両高さ方向に沿っている。
【0014】
短辺31,32の長さHの一例は19.1mm、長辺33,34の長さBの一例は24.6mm、肉厚tの一例は1.8mm、コーナー部35の曲率半径Rの一例は3.8mmである。肉厚tは、パイプ30の全長にわたって一定である。
【0015】
矩形パイプ30の材料は、図4に示すような円形断面の丸パイプ(原管40と称す)である。原管40の一例はボロンが添加された炭素鋼管であり、成分の一例は、C:0.22〜0.28%,Si:0.15〜0.35%,Mn:0.3〜0.6%,P:0.03%以下、S:0.035%以下、B:0.0005%以上であり、不純物として若干のCu,Ni,Crなどが含まれていてもよい。この原管40を圧延成形することにより、上述の矩形パイプ30からなるビーム本体12が作られている。従ってこのビーム本体12は単一部材であり、製造が容易でかつ品質のばらつきが少ないという利点がある。
【0016】
ビーム本体12には、必要に応じて、高周波焼入れあるいは通電加熱等の急速加熱と急冷による熱処理が全長にわたって施されている。なお、焼入れ後に焼戻しが行われていてもよい。ブラケット15,16は、熱処理されていない高張力鋼板からなる。なお、ブラケット15,16は、ドア10の前部と後部に設けられた適宜の補強部材(図示せず)に固定されるようにしてもよい。
【0017】
次表1は、上記矩形パイプ30(本実施例)と、正方形角パイプ(比較例1)と、中実丸棒(比較例2)との3種類の断面形状のドアビームについて、それぞれ車両幅方向の寸法を同一(19.1mm)とした場合に、断面2次モーメント等を比較したものである。これらはいずれも、図1に示すドア断面のように車両幅方向のスペース制約を受ける場合に、ドア内部に配置できるサイズである。
【0018】
【表1】
Figure 0003779335
表1に示されるように、車両幅方向の寸法が19.1mmに規制されている条件下で、各断面のビームにおける車両上下方向(前後方向の荷重入力があった時に、曲げモーメントが積極的に入りやすい方向)の断面2次モーメントが同等に近くなるように設計した場合、正方形角パイプを用いたものは矩形パイプに比べて断面積が約1.56倍になる。すなわち、単位長さ当りの重量が矩形パイプの1.56倍になってしまう。丸断面の中実棒の場合、矩形パイプに比べて上下方向の断面2次モーメントがかなり不足しており、必要な上下方向の剛性が得られないから、前面衝突時の水平方向荷重に対して所期の剛性が得られない。しかも断面積が矩形パイプの約1.61倍になってしまい、重量的にも不利になる。
【0019】
次表2は、前記実施例の矩形パイプ30と、正方形角パイプ(比較例3)と、丸パイプ(比較例4)との3種類の断面形状のドアビームについて、それぞれ車両幅方向の寸法を同一(19.1mm)とした場合に、断面積が同等に近くなるように設計した場合を示している。
【0020】
【表2】
Figure 0003779335
表2に示されるように、正方形角パイプは、矩形パイプに比べて、上下方向の断面2次モーメントが66%、断面係数が85%、塑性断面係数が82%にそれぞれ減少してしまっている。一方、丸パイプの場合は、矩形パイプに比べて、上下方向の断面2次モーメントが53%、断面係数が69%、塑性断面係数が67%に低下している。
【0021】
図5は、前記表2に示された3種類の断面形状のドアビームについて、前後方向の荷重入力を与えた時の各ビームの荷重・撓み特性を示している。ビームの傾き角θ(図7参照)は15°に設定した。このようにビームが傾斜した状態で前後方向の荷重Pが付加された場合、曲げモーメントMが発生するために、各断面形状のビームの上下方向の断面2次モーメントの大きさの違いにより、荷重発生効率(荷重・撓み特性)に大きな相違が現れている。
【0022】
すなわち、同一重量であるなら、荷重発生効率の点で矩形パイプが最も優れている。また、車両幅方向の寸法を同一とした場合には、前後方向の荷重入力に対して矩形パイプが最も高い剛性が得られる。この矩形パイプは、車両幅方向の規制スペースの中で、上下方向の寸法を大きくすることによって、肉厚を増やすことなく、目的とする剛性が得られる。すなわち、正方形角パイプや丸パイプでは肉厚を増やさざるを得ないのに対し、矩形パイプでは肉厚を増やす必要がないため重量増加の原因を排除できる。
【0023】
本実施例のドアビーム11は、荷重入力時の急激な座屈を避けるために、ビーム本体12の各コーナー部35を曲率半径Rの湾曲面としている。前述した原管40(外径D,肉厚t)から矩形断面のビーム本体12(短辺寸法H,長辺寸法B)を加工する場合に、D′で表される加工度の設計許容範囲を実験によって調べたところ、図6に示す結果が得られた。D′は、D−2/π(B−H)で表される値である。
【0024】
図6において、横軸のt/D′は、その値が大きいほど肉厚tの割合が大きくなって中実材に近付いてゆき、破断しやすくなる。横軸の(D′−H)/D′はその値が大きくなるほどコーナー部の曲率半径Rが小さくなって、いわゆる角張った断面になることを意味する。Rが小さくなると、座屈による破断を生じやすくなる。図6においてハッチングで示す領域が設計許容範囲である。
【0025】
【発明の効果】
本発明によれば、キャブオーバ−形運転室のドアのウインドの下縁部に沿って前端側が後端側よりも低くなるよう高さを違えて上下に斜めに設けるビーム本体を有し、該ビーム本体は、丸パイプからなる原管を縦長な閉断面矩形パイプとなるよう成形したもので、車両の幅方向に沿う短辺と、上下方向に沿う長辺と、これら各辺が交わる部位に形成された円弧状コーナー部とを有したことにより、キャブオーバ−形運転室を有するトラックのドアのようにウインドの下縁部に沿って前下がりに傾斜した姿勢で取付けられかつ前後方向の衝突荷重入力を前提した使われ方をするドアビームにおいて、丸断面の材料や正方形断面のパイプなどに比べて、前後方向の荷重に対して有効な車両上下方向の曲げ剛性を上げることができ、かつ、車両の前後方向からの荷重入力に対して座屈による破断を生じにくくすることができる。このため、車両幅方向のスペースが規制されていても、軽量でありながら所定の剛性と座屈に対する強度を満足することができる。
【0026】
また、本発明の矩形パイプ製ドアビームは、丸パイプなどの原管から塑性加工によって得られるため製造が容易である。本発明では単一部材であるパイプを用いるため、補強材を付加したり何らかの複雑な形状にすることなく目的の剛性を得ることができ、低コストで提供できる。また、単一部材であることから、補強材等と組合わせる複合部材に比較して特性が安定している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すドアビ−ムを備えたドアの断面図。
【図2】図1に示されたドアビ−ムを備えたドアの内部の様子を示す側面図。
【図3】図1に示されたドアビ−ムのビーム本体の断面図。
【図4】図1に示されたドアビ−ムの材料に使われる原管の断面図。
【図5】3種類の断面形状のパイプの荷重と撓みとの関係を示す図。
【図6】原管から矩形パイプ製ドアビーム本体を加工する場合の各部寸法の設計許容範囲を示す図。
【図7】ドアビ−ムに負荷される荷重とモーメント等を示す概略図。
【図8】従来のドアビ−ムを備えたドアの断面図。
【符号の説明】
10…トラック用ドア
11…ドアビーム
12…ビーム本体
15,16…ブラケット(固定手段)
17…ドアフレーム
30…矩形パイプ
31,32…短辺
33,34…長辺
35…コーナー部

Claims (1)

  1. キャブオーバ−形運転室を有する車両のドアの内部に車両の前後方向に配置されるドアビームであって、上記ドアのウインドはその下縁部の前部が後部よりも低くなる形状であり、該ウインドの下縁部に沿って前端側が後端側よりも低くなるよう高さを違えて上下に斜めに設けるビーム本体と、上記ビーム本体の前端と後端をドアフレームに固定する固定手段とを備え、上記ビーム本体は、円形断面の丸パイプからなる原管を矩形断面となるよう成形したもので、車両幅方向に沿う上下一対の短辺と、高さ方向に沿いかつ上記短辺よりも長い左右一対の長辺と、これら各辺が交わる部位に形成された4個所の円弧状コーナー部とを有する単一部材の縦長な閉断面矩形パイプからなることを特徴とするキャブオーバ−形運転室を有する車両のドアビーム
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