JP3778769B2 - 化合物半導体表面の安定化方法、それを用いた半導体レーザ素子の製造方法、および半導体レーザ素子等の半導体素子 - Google Patents

化合物半導体表面の安定化方法、それを用いた半導体レーザ素子の製造方法、および半導体レーザ素子等の半導体素子 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体素子に使用される化合物半導体の表面の安定化に関し、特に半導体レーザ素子の光出射端面に於ける劣化の抑制に好適な製造技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、半導体レーザ素子は、光ディスクや光通信における基幹部品として幅広く用いられている。
【0003】
従来、半導体レーザ素子に於いては通常、光の出射部分に反射率を調整するための反射膜(一般には誘電体膜)を形成し、光出射部分の保護と反射率の制御を行っていた。この反射膜としては、Al23(アルミナ)、SiOx(酸化シリコン)、SiNx(窒化シリコン)などが一般的に良く用いられていた。これら反射膜の形成手法としては、電子ビーム蒸着(EB蒸着)、プラズマCVD法、ECR−CVD法、スパッタ法などが用いられていた。
【0004】
上記従来の手法で形成された半導体レーザ素子の光出射端面には、半導体の界面準位が生じる上、そこへ非常に強い光が通過するため、特に高出力動作時に於いて劣化を生じやすいという問題点があった。
【0005】
この対策として、例えば特開平3−149889に開示されているように、半導体レーザ素子のウエハを劈開したバーを硫黄を含む溶液(硫化アンモニウム)に浸漬して数原子層程度の硫黄を含む膜を共振器端面に形成し、更にSi3N4などの保護層を形成する方法があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記従来の技術に於ける半導体レーザ素子端面保護層を形成する方法には下記に示す様な問題点があった。
【0007】
即ち、硫黄原子をAlGaAs半導体界面に付着させると、界面準位が抑制され、光吸収が抑制される。しかし、溶液処理によって形成された硫黄層はAlGaAsとの結合が強くないため、保護層蒸着工程に於いてそのかなりの部分がAlGaAsから脱離してしまうという問題点があった。
【0008】
又、硫黄処理を行った半導体レーザ素子光出射端面に、電子ビーム蒸着法によって保護層をコーティングする場合、電子ビームが蒸着源に当たり、蒸着源が高温に熱せられることにより蒸着が行われる。その際、蒸着物分子のイオン化されたものや、電子ビームの一部、強い光等が半導体レーザ素子端面に達し、これらが硫黄層をAlGaAs界面から取り除く働きをするという問題点があった。
【0009】
更に、密着が良く緻密な誘電体保護層を形成する条件では、通常電子ビーム強度を強くするため、硫黄処理の効果が大幅に減じられてしまうという問題点があった。
【0010】
一方、電子ビーム蒸着以外に、プラズマを用いる形成方法、具体的にはECR−CVD法、プラズマCVD法、スパッタ法などで保護層を形成する場合では、プラズマが硫黄層に当たり、硫黄層をAlGaAs界面から取り除く働きをするため、やはり硫黄処理の効果が大幅に減じられてしまうという問題点があった。
【0011】
又、上記硫黄層を形成する方法以外に第2の従来の技術として、例えば特開平7−176819には、半導体レーザ素子のウエハを劈開したバーを硫化アンモニウム溶液に浸漬するとともに、光を照射することにより、半導体レーザの光出射端端面に硫黄の多分子層を形成するという方法が提案されている。
【0012】
この方法に開示されている硫黄の多分子層は、その後の工程に於いて紫外線が照射されても硫黄層が脱離しないように働く。
【0013】
しかしながら、このように溶液中のバーに対して光を照射する工程は、光を均一に照射することが困難であり、又硫黄の多分子層も前述の硫黄層と同様に高温条件では揮発しやすく(単斜硫黄の融点は119℃)、基板温度を上げて端面反射膜をコーティングする場合の保護としては十分ではないという問題点があった。
【0014】
更に、第3の従来の技術として、例えば特開平4−345079には、半導体レーザ素子の出射端面に硫化アンモニウム溶液処理を行った後、II−VI族半導体単結晶(ZnSなど)を高真空中でMBE(分子線エピタキシ)法によって形成する方法が提案されている。
【0015】
しかしながら、この方法には、高価なMBE装置を用いる必要がある。又、このMBE装置を用いる方法には、非常に制御の困難な結晶成長の技術を要するという問題点があった。
【0016】
又、一般に電極形成後にMBE法による結晶成長を行うため、電極或いは電極に付着する物質による汚染により、II−VI族半導体単結晶の良好な成長が難しいという問題点があった。
【0017】
又、AlGaAsの劈開面上に均一な単結晶のII−VI族半導体を成長させるのは難しく、ヒロックと呼ばれる凹凸が生じる場合が多く、更に単結晶が半導体レーザ素子端面に形成された場合、熱膨張率及び格子常数の違いによって、かえって半導体レーザ素子内部に歪みを与え劣化をもたらす場合があるという問題点があった。
【0018】
本発明は上述する課題を解決するためになされたものであり、半導体レーザ素子光出射端面の様な化合物半導体表面に於ける硫黄が、蒸着などの影響によって脱離しないように、化合物半導体表面を安定化させることを目的とする。
【0019】
又、特に半導体レーザ素子の高出力動作時の寿命向上を実現することを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の一側面に係る化合物半導体表面の安定化方法は、化合物半導体の表面を、硫黄イオンを含む第1の溶液(以下、「硫黄溶液」とも言う。)に浸漬する第1の工程と、前記第1の工程によって前記化合物半導体の表面に形成された硫黄と反応して硫化物を生じる陽イオンを含む第2の溶液(以下、「陽イオン溶液」とも言う。)に浸漬する第2の工程と、を含んでいる。
前記第2の溶液は、硫黄を含んでいない溶液であってもよい。
【0021】
上記構成によれば、化合物半導体の表面を、硫黄イオンを含む第1の溶液に浸漬して硫黄層を形成した後に、前記硫黄層の硫黄と反応して硫化物を生じる陽イオン溶液に浸漬することにより、硫黄層を保護するための硫化物層を形成する。これにより、硫黄層が加熱或いは電子・プラズマ中のイオン、光の照射などによって脱離することを防止することができる。従って、従来の技術(例えば特開平3−149889)に於いて生じていた硫黄の脱離の問題を解決することが可能になる。又、ここで形成した硫化物層は、第2の従来の技術(例えば特開平7−176819)で形成される硫黄の多分子層より高温での安定性に優れており、高温処理を経ても硫黄の脱離を防止することが可能になる。又、溶液中の硫黄イオンが残存する状態で陽イオン溶液に曝すという溶液反応を利用することにより、非晶質もしくは多結晶の硫黄層及び硫化物層が形成されるため、第3の従来の技術(例えば特開平4−345079)に比べて非常に簡単に硫化物層の形成が実現でき、しかも、形成された硫化物は、単結晶の場合のようには化合物半導体内部に歪みを及ぼすことがない。又、第3の従来の技術では、一旦溶液処理で付けた硫黄層にII−VI族半導体単結晶を形成するために350℃の高温にすることにより単分子層だけ残して脱離させ、その上にII-VI族半導体単結晶を形成しているのに対し、本発明では、硫化物層をそのような高温処理を行うことなく形成することにより、硫化物層形成時の硫黄層の脱離を防止するようにしている点も特徴である。
【0022】
一実施形態においては、前記第1の工程と、前記第2の工程の間に、前記化合物半導体を水洗する第1の水洗工程が含まれている。
前記第2の工程の後に、前記化合物半導体を水洗する第2の水洗工程があってもよい。
【0023】
上記水洗工程を含む構成によれば、化合物半導体を硫黄溶液に浸漬して表面に硫黄層を形成した後に、一旦水洗を行って余分な硫黄を除去し、その後で硫化物を生じる陽イオン溶液に浸漬し、更に必要に応じて再び水洗を行うことにより、化合物半導体表面上に薄く均一な硫化物保護層を形成する。これにより、水洗を行わない場合に生じる硫化物の不均一な析出を防止することが可能になる。
【0024】
また、上述の4つの工程、つまり、化合物半導体を硫黄溶液に浸漬して表面に硫黄層を形成した後に、一旦水洗を行って余分な硫黄を除去し、その後で硫化物を生じる陽イオン溶液に浸漬し、水洗する工程を繰り返すことにより、化合物半導体表面上に均一かつ厚い硫化物保護層を形成することが可能になる。これにより、保護層としての効果が増大する。
【0025】
硫黄イオンを含む溶液としては、硫化アンモニウム溶液(無色)、硫化アンモニウム溶液(黄色)、硫化ナトリウム溶液、あるいは、硫化カリウム溶液を用いることができる。
【0026】
硫化アンモニウム溶液(無色)、硫化アンモニウム溶液(黄色)(ポリ硫化アンモニウム溶液とも言う)、硫化ナトリウム溶液、および、硫化カリウム溶液はいずれも、硫黄イオンのイオン化率が高いため、これらの溶液のいずれかを用いることによって、化合物半導体の表面に効果的に硫黄層を形成することが可能になる。
【0027】
前記陽イオンを含む第2の溶液として、Zn、Cd、Caのうちのいずれかの陽イオンを含む溶液を用いることができる。
【0028】
Zn、Cd、あるいはCaを含む溶液は、水に対する溶解度が小さく、溶液中で安定な硫化物が形成されるため、溶液処理に適している。更に、形成された硫化物は昇華温度或いは融点が高い安定な化合物であるため、溶液処理の後で高温にする工程を入れることが可能になる。例えば、アルミナなどの膜を高温で形成しても脱離することがないので、下地に対する保護効果を有し続ける。
【0029】
前記陽イオンを含む第2の溶液は、化合物半導体がAs、P、Al、Ga、Inのいずれかの元素含む場合に、少なくとも元素と同じ陽イオンを含む溶液であるのが望ましい。
【0030】
上記構成によれば、陽イオン溶液として化合物半導体の構成元素であるAs、P、Al、Ga、あるいはInを含む溶液を用いることにより、高温処理で母体の化合物半導体と相互拡散が生じても母体への悪影響が少ない。又昇華温度或いは融点が高い安定な硫化物が形成されるため、溶液処理の後で高温にする工程を入れることが可能になる。例えばアルミナなどの膜を高温で形成しても脱離することがないので、下地に対する保護効果を有し続ける。
【0031】
一実施形態において、前記陽イオンを含む第2の溶液は、陽イオンと酢酸イオンを含む溶液である。
【0032】
上記構成によれば、陽イオン溶液として、陽イオンと酢酸イオンを含む溶液を用いることより、酢酸が弱い酸であることを利用して、化合物表面をエッチングしない穏やかな保護層の形成を行なうことが可能になる。
【0033】
また、一実施の形態において、前記陽イオンを含む第2の溶液は、酢酸亜鉛溶液である。
【0034】
上記構成によれば、陽イオン溶液として酢酸亜鉛溶液を用いることにより、化合物表面をエッチングしない穏やかな工程によって、低水溶性で、半導体レーザ素子の発光波長に対して光吸収を生じない硫化亜鉛保護層の形成行なうことが可能になる。
【0035】
前記陽イオンを含む第2の溶液は、陽イオンと塩素イオン又は、陽イオンと硫酸イオンを含む溶液であってもよい。
【0036】
陽イオン溶液(第2の溶液)として、陽イオンと塩素イオンもしくは硫酸イオンを含む溶液を用いることにより、塩酸(塩素イオン)もしくは硫酸が強い酸であることを利用して、化合物表面の酸素などが除去できるため硫黄処理の効果が高まり、更に硫化物による保護層の形成行なうことが可能になる。
【0037】
一実施形態において、前記陽イオンと塩素イオンを含む溶液は塩化亜鉛溶液であり、前記陽イオンと硫酸イオンを含む溶液は硫酸亜鉛溶液である。
【0038】
上記構成によれば、陽イオン溶液として、塩化亜鉛溶液もしくは硫酸亜鉛溶液を用いることにより、塩酸もしくは硫酸が強い酸であることを利用して、化合物表面の酸素などが除去でき、更に低水溶性で、半導体レーザ素子の発光波長に対して光吸収を生じない硫化亜鉛保護層の形成行なうことが可能になる。
【0039】
また、本発明の別の側面に係る半導体素子は、請求項3又は4に記載の化合物半導体表面の安定化方法を用いて、化合物半導体の表面に、非晶質もしくは多結晶の硫黄層と、前記硫黄層と前記第2の溶液中の陽イオンとの反応によって形成された非晶質もしくは多結晶の硫化物層とが順次形成されていることを特徴としている。
本発明のさらに別の側面に係る半導体素子は、化合物半導体の表面に、非晶質もしくは多結晶の硫黄層と、前記硫黄層と陽イオンとの反応によって形成された非晶質もしくは多結晶の硫化物層とが順次形成され、前記硫化物層は均一に形成された複数の硫化物層からなり、層厚が350Å以下であることを特徴としている。この半導体素子の硫黄層と硫化物層は、請求項5に記載の化合物半導体表面の安定化方法を用いて形成できる。
【0040】
前記半導体素子は、一実施形態においては、半導体レーザ素子であり、この場合、前記化合物半導体の表面は、光出射部を含む端面である。
【0041】
この構成によれば、硫黄層も硫化物層も単結晶ではなく、非晶質もしくは多結晶であるため、内部に歪みを生じさせることがなく、したがって、このような内部歪みに起因する素子劣化を防止することができる。よって、素子の寿命を向上させることができる。
【0042】
前記硫化物層は、層厚が350Å以下であるので、硫化物層の光吸収・散乱による素子のスロープ効率劣化の影響がほとんどなく、良好な素子特性を得ることが可能になる。
【0043】
前記半導体レーザ素子は、前述した本発明の化合物半導体表面の安定化方法を用いて、半導体レーザの光出射部を含む端面上に、硫黄層及び硫化物層を積層形成することによって、製造することができる。
【0044】
本発明によれば、半導体レーザの光出射端面を含む領域を、硫黄イオンを含む第1の溶液と、硫黄と反応して硫化物を生じる陽イオンを含む第2の溶液に順次浸漬して、前記端面に硫黄層と、この硫黄層中の硫黄と陽イオンとの反応生成物である硫化物層を形成することにより、端面劣化に起因する素子劣化を抑える硫黄層を硫化物層で覆うことができるので、長期連続動作に対して安定化することが可能になる。従って、硫黄層のみを設けた従来の技術(例えば特開平3−149889)の場合より信頼性の向上が図れる。又、第2の従来の技術(例えば特開平7−176819)で形成していた硫黄の多分子層よりも昇華温度の高い安定な硫化物で硫黄層を覆うことができ、光照射を行う必要がなく単純な工程で作製することが可能になる。又、第3の従来の技術(例えば特開平4−345079)と異なり、硫化物層は硫黄層を形成する溶液処理工程と連続して簡便に作製でき、単結晶でなく、非結晶もしくは多結晶であるため、素子内部に歪みを生じることがない。又、第3の従来の技術では、一旦溶液処理で付けた硫黄層を350℃の高温にすることにより単分子層だけ残して脱離させ、その上にII−VI族半導体単結晶を形成しているのに対し、本発明では、硫化物層をそのような高温処理を行うことなく形成することにより、硫化物層形成時の硫黄層の脱離を防止するようにしている点も特徴である。
【0045】
前記半導体レーザ素子は、硫化物層の上に、反射膜を備えていてもよい。この構成において、硫化物層は、硫黄層と反射膜との間の障壁層として機能する。つまり、硫化物層の働きで、硫黄層が長期連続動作中に反射膜中に拡散して徐々に効果を失い、半導体レーザ素子の劣化をひき起こすのを防止することが可能になる。尚、第3の従来技術では、ZnS膜上に反射膜は設けていない。
【0046】
硫化物層上への反射膜の形成は、電子ビーム蒸着法、もしくはプラズマCVD法、ECR−CVD法、スパッタ法、その他のプラズマを用いる方法(プラズマ法)を用いて行うことができる。
【0047】
本発明によれば、電子ビーム蒸着時に照射される電子ビーム・イオンビーム・光或いはプラズマ法におけるプラズマイオンによる端面への衝撃は硫化物層によって大幅に抑制されるため、端面劣化に起因する素子劣化を抑える硫黄層を長期連続動作に対して安定化することが可能になり、信頼性の向上が図れる。
【0048】
【発明の実施の形態】
<第1の実施の形態>
図1、2を用いて、化合物半導体表面の安定化方法の本発明による第1の実施の形態を説明する。
【0049】
図1(a)乃至(c)は従来の技術を用いた硫黄処理後の処理面断面の模式図、(d)乃至(f)は本発明の処理後の処理面断面の模式図、図2は本発明を用いて作成した半導体レーザ素子の斜視構造図である。
【0050】
尚、本第1の実施の形態はAlGaAs系半導体レーザ素子の端面コーティングに本発明を適用するものである。AlxGa1-xAsは、AlGaAsと略記する。
【0051】
図2に示す様に、n型GaAs基板11上に、n型GaAsバッファ層12、n型AlGaAs(x=0.48)クラッド層13、アンドープAlGaAs活性領域14、p型第1AlGaAs(x=0.48)クラッド層15、p型GaAs層16、p型第2AlGaAs(x=0.48)クラッド層17、p型GaAs第1キャップ層18、n型AlGaAs(x=0.7)ブロック層19、p型GaAs第2キャップ層20を形成する。更に、n型GaAs基板11側表面にn側電極25、p型GaAs第1キャップ層20表面にp側電極26を形成する。アンドープAlGaAs活性領域14は、AlGaAs(x=0.10)量子井戸2層をAlGaAs(x=0.34)層で挟んだ構造である。
【0052】
このような半導体レーザ素子構造が複数形成されたウエハを共振器長800μmのバーに劈開する。バーを劈開後すみやかに、硫化アンモニウム溶液(無色)に10秒浸漬し、純水で洗浄を行ったのち、酢酸亜鉛溶液(0.1mol/l)に30秒浸漬し、純水で洗浄し、バーを乾燥する。この処理によって硫黄層27・硫化物層28が光出射端面を形成する。
【0053】
バーを整列し、電子ビーム蒸着機に入れ、温度を250℃にしたのち、光出射端面(前面)にアルミナ反射膜29(反射率12%)を形成する。次に、光出射端面(後面)にアルミナ/シリコン/アルミナ/シリコン/アルミナの5層反射膜30(反射率95%)を形成する。
【0054】
バーをチップに分割し、パッケージングする。
【0055】
なお、比較のため、酢酸亜鉛溶液による処理を行わず、劈開後のバーを硫化アンモニウム溶液(無色)に10秒浸漬し、水洗、乾燥したのち、本実施例と同じ反射膜を形成した半導体レーザ素子も作製した。
【0056】
本第1の実施の形態及び比較例について素子特性の測定を行った。半導体レーザ素子の発振波長は785nmであり、端面が破壊されるまで光出力を増加していく最大光出力試験の結果は、本第1の実施の形態の最大光出力は240mW、比較例の最大光出力は220mWであり大差はなかった。
【0057】
しかし、これらを60℃、85mWの連続動作試験を行ったところ、比較例の平均寿命は約190時間であるのに対し、本第1の実施の形態は推定約2000時間と約10倍も平均寿命が向上した。
【0058】
この理由としては、以下のように推定される。
【0059】
比較例の様な通常の硫黄処理後は、図1(a)に示すように、化合物半導体1の表面に薄く硫黄層2が形成されている。その上に図1(b)に示すように反射膜3を電子ビーム蒸着によって形成することにより、電子・イオン・光の衝撃或いは蒸着時の加熱の影響により、硫黄層2は図1(a)に比べて薄くなる。更に半導体レーザ素子の連続動作を行うと、図1(c)に示すように硫黄層2は比較的多孔質の反射膜3に拡散して更に薄くなり、部分的には全くなくなってしまう。そのため硫黄処理の効果もなくなり、半導体レーザ素子の劣化をひき起こす。一方、本第1の実施の形態の様に硫黄処理に引き続いて本発明の陽イオン溶液処理を行うと、図1(d)に示すように、硫黄層2の上を硫化物層4が覆う。この硫化物層4は、図1(e)に示す反射膜3形成の際も、光・電子・イオンの衝撃に対しても強固に付着している。その結果としてその下の硫黄層2も厚いまま保たれる。更に連続動作試験を行った場合、図1(f)に示すように硫化物層4は硫黄層2から硫黄が拡散するのを防止する働きがあるため、硫黄層は厚いまま保たれる。このような機構によって硫黄処理の安定化が図れ、従って半導体レーザ素子の平均寿命が大幅に増加すると考えられる。
【0060】
尚、硫化物層の厚さは約50Åであった。
【0061】
本第1の実施の形態では、酢酸亜鉛溶液を用いたが、亜鉛以外の陽イオンの溶液であってもよい。硫化アンモニウムと反応して生成する硫化物としては、水溶液に対して溶解度が低く、高温まで(例えば本第1の実施の形態で用いた250℃まで)昇華或いは溶融しにくい物質が適している。又、特に半導体レーザ素子をはじめとする発光・受光素子の光透過面に用いる場合には、使用波長(例えば590nm〜1.5μm)に対して透明であることが望ましい。色が無色・白色・黄色であれば、赤色から赤外の波長領域に対して透明である。特に溶解度が低い点で好適な硫化物として、硫化亜鉛(白、昇華温度1180℃、溶解度0.688mg/100ml)、硫化カドミウム(黄色、昇華温度980℃、溶解度0.13mg/100ml)、硫化カルシウム(無色、融点2400℃、冷水に難溶)がある。又、AlGaAsもしくは後述するAlGaInP半導体の構成要素であり相互拡散しても影響が少ないという観点から、硫化砒素(黄色、融点300℃)、硫化リン(黄色、融点290℃)、硫化アルミニウム(黄色、昇華1300℃)、硫化ガリウム(黄色、融点1255℃)、硫化インジウム(黄色、昇華850℃)も適している。
【0062】
これらの硫化物を生成するための陽イオン溶液としては、陽イオンの水に対する溶解度の高いものが望ましい。酢酸・塩酸・硫酸とこれらの陽イオンとの間の塩は比較的水に対する溶解度が高く適している。具体的には、酢酸亜鉛(溶解度30g/100ml)、塩化亜鉛(溶解度432g/100ml)、硫酸亜鉛(溶解度42g/100ml)、酢酸カドミウム(冷水に難溶)、塩化カドミウム(溶解度90g/100ml)、硫酸カドミウム(溶解度76.2g/100ml)、酢酸カルシウム(溶解度34.73g/100ml)、塩化カルシウム(溶解度59.5g/100ml)、硫酸カルシウム(溶解度0.298g/100ml)、塩化砒素、塩化リン、酢酸アルミニウム、硫酸アルミニウム(溶解度36.15g/100ml)、硫酸ガリウム、塩化インジウム、硫酸インジウムなどがあげられる。中でも酢酸系の塩は、弱い酸である酢酸を含んでいるので、Alの混晶比が高いAlGaAs(x>0.6)に用いても表面のエッチングはわずかであり、幅広く用いることができる。
【0063】
<第2の実施の形態>
更に、第2の実施の形態として、第1の実施の形態の酢酸亜鉛溶液による処理は行うが、劈開後のバーを硫化アンモニウム溶液(無色)に10秒浸漬したのち、水洗をせずに直接酢酸亜鉛溶液に30秒浸漬し、乾燥したのち、本実施例と同じ反射膜を形成した半導体レーザ素子も作製した。図面は第1の実施の形態と略同じなので省略する。
【0064】
本第2の実施の形態では、厚い硫化亜鉛層が形成されたが、均一でなく、薄い部分で300Å、厚い部分では数千Åであり、半導体レーザ素子の光出射部の多くが粒状に厚くなった硫化物で覆われてしまった。これは光の出射を妨げるため、半導体レーザ素子用としては歩留の低下をきたし不適である。
【0065】
しかし、光出射をしない面の単なる保護として厚い硫化物層を形成したい場合には、このように硫黄イオン溶液処理後或いは陽イオン溶液処理後の水洗をしない方法が適している。
【0066】
尚、第1の実施の形態及び2では、酢酸亜鉛溶液を常温(20℃程度)で使用したが、高温(例えば60℃)にすることにより反応速度が増大するため、より短時間の浸漬で硫化物層を形成することができる。又、高温では一般に溶解度が増大するため、より濃い溶液を用いて更に短時間の浸漬で硫化物層を形成することができる。
【0067】
又、硫黄イオンを含む溶液としては、硫化アンモニウム溶液(無色)の他、硫化アンモニウム溶液(黄色)(ポリ硫化アンモニウム溶液とも言う)、硫化ナトリウム溶液、硫化カリウム溶液などを用いることができる。硫化アンモニウム溶液(黄色)は硫化アンモニウム溶液(無色)より化合物半導体表面の酸素除去能力が強くエッチング能力も強い。硫化ナトリウム溶液、硫化カリウム溶液は硫黄イオンの活性化率が高く、更に化合物半導体表面の酸素除去能力が強い。
【0068】
<第3の実施の形態>
図3を用いて、化合物半導体表面の安定化方法の本発明による第3の実施の形態を説明する。
【0069】
図3は本発明を用いて作成した半導体レーザ素子の斜視構造図である。
【0070】
尚、本の実施の形態は、AlGaInP系半導体レーザ素子の光出射端面に本発明を適用するものである。以下、(AlyGa1-y0.5In0.5Pは、AlGaInPと略記する。
【0071】
図3に示す様に、n型GaAs基板70上に、n型GaAsバッファ層71、n型GaInPバッファ層72、n型AlGaInP(y=0.7)クラッド層73、アンドープAlGaInP活性領域74、p型第1AlGaInP(y=0.7)クラッド層75、p型GaInP層76、p型第2AlGaInP(y=0.7)クラッド層77、p型GaInPキャップ層78、n型AlInPブロック層79、p型GaAsキャップ層80を形成する。n型GaAs基板70の表面にn側電極85、p型GaAsキャップ層80の表面にp側電極86を形成する。アンドープAlGaInP活性領域74は、GaInP歪み量子井戸2層をAlGaInP(y=0.5)で挟んだ構造である。
【0072】
第3の実施の形態では、半導体レーザ素子構造を形成したウエハを共振器長600μmのバーに劈開する。バーを劈開後すみやかに、硫化アンモニウム溶液(無色)に10秒浸漬し、純水で洗浄を行ったのち、塩化亜鉛溶液(0.1mol/l)に30秒浸漬し、純水で洗浄する工程を行った後、バーを乾燥する。これにより、光出射端面に、硫黄層87及び硫化物層88が形成される。
【0073】
バーを整列し、固体ソースECR−CVD装置に入れ、基板温度を室温のまま、酸素、アルゴン混合雰囲気中で、端面(前面)にアルミナ反射膜89(反射率8%)を形成する。次に、端面(後面)にアルミナ/シリコン/アルミナ/シリコン/アルミナの5層反射膜90(反射率95%)を形成する。
【0074】
バーをチップに分割し、パッケージングする。
【0075】
尚、比較のため本第の実施の形態の溶液処理を行わず、劈開後のバーを硫化アンモニウム溶液(無色)に10秒浸漬し、水洗、乾燥したのち、本第の実施の形態と同じ反射膜を形成した半導体レーザ素子も作製した。
【0076】
完成した半導体レーザ素子の発振波長は640nmであった。本第の実施の形態の最大光出力は90mW、比較例の最大光出力は65mWでありかなり差が生じた。
【0077】
これらを60℃、30mWの連続動作試験を行ったところ、比較例の平均寿命は約100時間であるのに対し、本第の実施の形態は推定約2000時間と約20倍の平均寿命向上が見られた。
【0078】
<第4の実施の形態>
次に、第4の実施の形態として、以下の処理を行ったバーも作製した。図面は第3の実施の形態と同じなので省略する。
【0079】
本第4の実施の形態では、半導体レーザ素子構造を形成したウエハを共振器長600μmのバーに劈開する。バーを劈開後すみやかに、硫化アンモニウム溶液(無色)に10秒浸漬し、純水で洗浄を行ったのち、酢酸亜鉛溶液(0.1mol/l)に30秒浸漬し、純水で洗浄した後、バーを乾燥する。以下は第3の実施の形態と同じ処理を行う。
【0080】
これに対して60℃30mWの連続動作試験を行ったところ、先述の第3の実施の形態である塩化亜鉛処理品の寿命は推定約2000時間であるのに対し、本第4の実施の形態である酢酸亜鉛処理品は推定約1000時間であったが、比較例の平均寿命は約100時間であるのに対し、本第4の実施の形態は約10倍の平均寿命向上が見られた。
【0081】
これに対しては以下のように考えられる。
【0082】
ECR−CVD法による反射膜形成に於いては、基板温度を上げていないにもかかわらず、比較例と本第3の実施の形態及び4との間で有意な最大光出力の差及び寿命の差がある。ECR−CVD法に於いて基板温度を上げなくてよいのは、ECR−CVD法あるいは一般にプラズマを用いる方式自体が表面をプラズマでクリーニングする効果があるからだが、単なる硫黄処理では硫黄層がプラズマクリーニングにより除去されてしまうことを示している。このため硫黄処理だけのものは、事実上硫黄処理なしと同じになってしまい、最大出力レベルが低くなる。一方、硫化物層を形成した場合には、これがECR−CVD中のプラズマイオンに対して硫黄層を保護する働きがあることを示している。
【0083】
AlGaInP系半導体レーザ素子に対しては、従来の硫化アンモニウム処理で界面に存在する酸素を除去する働きは十分でない。酢酸亜鉛処理は、単に硫化アンモニウム処理後の硫黄層をカバーするだけであり、界面に酸素が残存していると考えられる。一方塩化亜鉛処理の場合、塩素イオンによるエッチング能力があり、界面の酸素を更に除去する。そのため連続動作試験の平均寿命がより向上する。
【0084】
なお、塩化亜鉛などの塩素イオン含有物でなく、硫酸亜鉛などの硫酸イオン含有物でも、表面のエッチング能力があるため類似の効果がある。
【0085】
<第5の実施の形態>
図4を用いて、化合物半導体表面の安定化方法の本発明による第5の実施の形態を説明する。
【0086】
図4は本発明を用いて作成した半導体レーザ素子の斜視構造図である。
【0087】
尚、本第5の実施の形態は、低出力AlGaAs系半導体レーザ素子の光出射端面に本発明を適用するものである。
【0088】
図4に示す様に、n型GaAs基板50上に、n型GaAsバッファ層51、n型AlGaAsクラッド層52、アンドープAlGaAs活性層53、p型第1AlGaAsクラッド層54、n型AlGaAsブロック層55、p型第2AlGaAsクラッド層56、p型GaAsキャップ層57を形成する。n型GaAs基板側表面にn側電極58、p型GaAsキャップ層表面にp側電極59を形成する。
【0089】
次に、半導体レーザ素子構造を形成したウエハを共振器長250μmのバーに劈開する。バーを劈開後すみやかに、
A:硫化アンモニウム溶液(無色)に10秒浸漬、純水で洗浄
B:塩化亜鉛溶液(0.1mol/l)に10秒浸漬、純水で洗浄
のAからBの工程を10回、20回、40回、80回繰り返したものをそれぞれ作製する。最初の工程Aで硫黄層60が形成され、その後の交互浸漬(BAB...AB)で硫化亜鉛層61を形成する。
【0090】
その後、プラズマCVDによって前面・後面同時に光学膜厚が硫化亜鉛層と合わせてλ/2となる厚さの窒化シリコン膜67、68を形成した半導体レーザ素子を作製する。尚、原料ガスとしては、シランとアンモニアを用いる。
【0091】
この後、バーをチップに分割し、パッケージングする。
【0092】
AからBの工程を10回、20回、40回、80回繰り返したものの硫化物層の厚さを測り、それぞれ200Å、350Å、500Å、600Åであった。このように厚くすることにより、端面の保護能力は増すが、膜の光吸収・散乱が増えるなどのため、スロープ効率(電流対光効率)が低下する。スロープ効率は、無処理の場合を100%として、200Åの場合が95%、350Åの場合が90%、500%の場合が75%、600Åの場合が65%であり、仕様である90%以上を満たすのは膜厚が350Å以下の場合であった。
【0093】
又、AからBの工程を10回、20回、40回、80回繰り返したものの硫化物層のX線回折を行い、形成されたZnSがいずれも多結晶状であることが分かった。単結晶でないため、半導体レーザ素子を構成するAlGaAs単結晶に対して格子不整合による強い歪みをかけることはない。従って厚さを厚くする程歪みのかかり方が大きくなることはない。
【0094】
<第6の実施の形態>
次に、第6の実施の形態として、以下の処理を行った半導体レーザ素子も作製した。この半導体レーザ素子を図5に示す。図5において、図4に示した膜と同じ膜には図4と同じ番号を付している。
【0095】
本第6の実施の形態では、上記第5の実施の形態に於ける溶液処理を繰り返し20回行った後、スパッタ法によって前面・後面同時に光学膜厚が硫化亜鉛層61と合わせてλ/2となる厚さのアルミナ膜63、64を形成した半導体レーザ素子を作製した。
【0096】
<第7の実施の形態>
次に、第7の実施の形態として、以下の処理を行った半導体レーザ素子も作製した。この半導体レーザ素子を図6に示す。図6において、図4に示した膜と同じ膜には図4と同じ番号を付している。
【0097】
本第7の実施の形態では、上記第5の実施の形態に於ける溶液処理を繰り返し20回行った後、反射膜を形成せず、バーを窒素中250℃で1時間加熱し、硫化物層を安定化した半導体レーザ素子を作製した。
【0098】
又、比較のため、本第5乃至7の実施の形態の溶液処理を行わず、劈開後のバーに対してプラズマCVDによって前面・後面同時に光学膜厚がλ/2の窒化シリコン膜67、68を形成した半導体レーザ素子を作製した。原料ガスとしては、シランとアンモニアを用いた。
【0099】
これらを60℃、7mWの連続動作試験を行ったところ、第5の実施の形態(繰り返し10回、20回とも)及び第6の実施の形態では、共に平均寿命は推定約10000時間以上であり、優れていることが分かった。又、第7の実施の形態、比較例とも平均寿命は推定約5000時間以上と実用上十分な性能を示した。
【0100】
第5の実施の形態及び第6の実施の形態に於いて、陽イオン含有溶液処理に引き続いてプラズマCVD法或いはスパッタ法で半導体レーザ素子端面を形成することにより、通常のプラズマCVD法のみの場合よりも連続動作試験寿命が増大することが分かったが、これは本発明による保護が、電子ビーム蒸着法やECR−CVD法だけでなく、プラズマを用いる反射膜形成法全般に対して効果的であることを示している。
【0101】
又、第7の実施の形態は、第5の実施の形態、第6の実施の形態及び比較例に較べ、半導体レーザ素子端面に保護を兼ねた反射膜を形成する必要がなく、安全かつ簡便に作製できる点が特に優れている。
【0102】
なお、本発明の処理は、硫黄層形成による界面安定化処理を適用して効果のあるすべての化合物半導体に対して適用することができる。AlGaAs、AlGaInP系だけでなく、InGaAsP、InGaAs、GaInNAs、AlGaInN系化合物半導体に適用してもよい。又LEDや面発光半導体レーザ素子の出射面、チップ分割面に適用することもできる。化合物半導体を用いたFETの界面安定化のために必要に応じて用いることもできる。
【0103】
【発明の効果】
本発明によれば、
従来、化合物半導体表面の安定化に用いられていた硫黄処理が不安定であり、引き続いて電子ビーム蒸着法・プラズマを用いる形成法などを行った場合に効果が大幅に減じる点を克服する簡便な溶液処理方法を提供する。
【0104】
これにより、特に半導体レーザ素子の高出力動作時寿命の大幅な向上が図れ、又低出力動作に耐えうる半導体レーザ素子を簡便に作製することができる。
【0105】
具体的には、化合物半導体の表面を硫黄イオンを含む第1の溶液に浸漬して前記表面上に硫黄層を形成した後に、前記硫黄層の硫黄と反応して硫化物を生じる陽イオンを含む第2の溶液に浸漬することにより、硫黄層を保護するための硫化物層を硫黄層上に形成する。これにより、硫黄層が加熱或いは電子・プラズマ中のイオン、光の照射などによって脱離することを防止することができる。又、溶液中の硫黄イオンが残存する状態で陽イオン溶液に曝すことにより、溶液反応を利用した簡便な硫化物保護層の形成が実現できる。
【0106】
又、化合物半導体の表面を硫黄溶液に浸漬してその表面に硫黄層を形成した後に、一旦水洗を行って余分な硫黄を除去し、その後で化合物半導体表面の硫黄層の硫黄と反応して硫化物を生じる陽イオン溶液に浸漬し、更に必要に応じて再び水洗を行うことにより、化合物半導体表面上に薄く均一な硫化物保護層を形成する。これにより、水洗を行わない場合に生じる硫化物の不均一な析出が防止できる。
【0107】
更に、化合物半導体の表面を硫黄溶液に浸漬してその表面に硫黄層を形成した後に、一旦水洗を行って余分な硫黄を除去し、その後で化合物半導体表面の硫黄層の硫黄と反応して硫化物を生じる陽イオン溶液に浸漬し、水洗する工程を繰り返すことにより、化合物半導体表面上に均一かつ厚い硫化物保護層を形成する。これにより、保護層としての効果が増大する。
【0108】
又、陽イオン溶液としてZn、Cd、Caを含む溶液を用いることにより、水に対する溶解度が小さく、溶液中で安定な硫化物が形成されるため溶液処理に適している。
【0109】
更に、昇華温度或いは融点が高い安定な化合物であるため、溶液処理の後で高温にする工程を入れることができる。例えばアルミナなどの膜を高温で形成しても脱離することがないので、下地に対する保護効果を有し続ける。
【0110】
又、陽イオン溶液として化合物半導体の構成元素であるAs、P、Al、Ga、Inを含む溶液を用いることにより、高温処理で母体の化合物半導体と相互拡散が生じても母体への悪影響が少ない。又昇華温度或いは融点が高い安定な硫化物が形成されるため、溶液処理の後で高温にする工程を入れることができる。例えばアルミナなどの膜を高温で形成しても脱離することがないので、下地に対する保護効果を有し続ける。
【0111】
又、陽イオン溶液として、陽イオンと酢酸イオンを含む溶液を用いることより、酢酸が弱い酸であることにより化合物表面をエッチングしない穏やかな保護層の形成が行なえる。
【0112】
又、陽イオン溶液として酢酸亜鉛溶液を用いることにより、化合物表面をエッチングしない穏やかな工程によって、低水溶性で、半導体レーザ素子の発光波長に対して光吸収を生じない硫化亜鉛保護層の形成が行なえる。
【0113】
又、陽イオン溶液として、陽イオンと塩素イオンもしくは硫酸イオンを含む溶液を用いることにより、塩酸(塩素イオン)もしくは硫酸が強い酸であることにより化合物表面の酸素などが除去できるため硫黄処理の効果が高まり、更に硫化物による保護層の形成が行なえる。
【0114】
又、陽イオン溶液として、塩化亜鉛溶液もしくは硫酸亜鉛溶液を用いることにより、塩酸もしくは硫酸が強い酸であることにより化合物表面の酸素などが除去でき、さらに低水溶性で、半導体レーザ素子の発光波長に対して光吸収を生じない硫化亜鉛保護層の形成が行なえる。
【0115】
更に、前記硫黄イオンを含む溶液として、硫化アンモニウム溶液(無色)、硫化アンモニウム溶液(黄色)、硫化ナトリウム溶液、硫化カリウム溶液を用いることにより、これらが硫黄イオンのイオン化率が高いため、化合物半導体の表面に効果的に硫黄層を形成できる。
【0116】
又、半導体レーザ素子の光出射端端面に対して非晶質もしくは多結晶の硫黄層と硫化物層を形成することにより、半導体レーザ素子の端面に起因する劣化を抑える硫黄層を硫化物層で覆うことによって長期連続動作に対して安定化することができ、また歪みを加えることがないので、信頼性の向上が図れる。
【0117】
この製造方法として,上記の溶液処理を行うことにより、硫化物層は硫黄層を形成する溶液処理工程と連続して簡便に作製できる。
【0118】
又、半導体レーザ素子の光出射端面に対して上記の処理を行い硫黄層、硫化物層、反射膜を順次形成することにより、硫黄層が長期連続動作中に反射膜中に拡散して徐々に効果を失い、半導体レーザ素子の劣化をひき起こすのを防止することができる。
【0119】
更に、半導体レーザ素子出射端面に対して上記の処理を行い形成される硫化物層の厚さが350Å以下である場合、硫化物層の光吸収・散乱による半導体レーザ素子のスロープ効率劣化の影響がほとんどなく良好な素子特性を得られる。
【0120】
又、半導体レーザ素子出射端面に対して上記の処理を行い硫黄層、硫化物層を形成した光出射面に半導体レーザ素子の反射膜を形成する方法として、電子ビーム蒸着或いはプラズマを用いる形成法(プラズマCVD・ECR−CVD・スパッタなど)を用いた場合、電子ビーム蒸着時に照射される電子ビーム・イオンビーム・光或いはプラズマ法におけるプラズマイオンによる端面への衝撃が硫化物層によって大幅に抑制されるため、半導体レーザ素子の端面に起因する劣化を抑える硫黄層を長期連続動作に対して安定化することができ、信頼性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)乃至(f)は各処理段階における従来及び本発明の第1の実施の形態の処理面断面を示す模式図である。
【図2】 本発明の第1の実施の形態の半導体レーザ素子の斜視構造図である。
【図3】 本発明の第3の実施の形態の半導体レーザ素子の斜視構造図である。
【図4】 本発明の第5の実施の形態の半導体レーザ素子の斜視構造図である。
【図5】 本発明の第6の実施の形態の半導体レーザ素子の斜視構造図である。
【図6】 本発明の第7の実施の形態の半導体レーザ素子の斜視構造図である。
【符号の説明】
1 化合物半導体
2,27,60,87 硫黄層
3,29,30,63,64,67,68,89,90 反射膜
4,28,61,88 硫化物層

Claims (18)

  1. 化合物半導体の表面を、硫黄イオンを含む第1の溶液に浸漬する第1の工程と、
    前記第1の工程によって前記化合物半導体の表面に形成された硫黄と反応して硫化物を生じる陽イオンを含む第2の溶液に浸漬する第2の工程と、
    を含むことを特徴とする化合物半導体表面の安定化方法。
  2. 前記第2の溶液は、硫黄を含まないことを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体表面の安定化方法。
  3. 請求項1又は2に記載の化合物半導体表面の安定化方法において、
    前記第1の工程と、前記第2の工程の間に、前記化合物半導体を水洗する第1の水洗工程を含むことを特徴とする化合物半導体表面の安定化方法。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1つに記載の化合物半導体表面の安定化方法において、
    前記第2の工程の後に、前記化合物半導体を水洗する第2の水洗工程を含むことを特徴とする化合物半導体表面の安定化方法。
  5. 請求項1乃至4のいずれか1つに記載の化合物半導体表面の安定化方法における工程を、複数回繰り返すことを特徴とする化合物半導体表面の安定化方法。
  6. 請求項1乃至5のいずれか1つに記載の化合物半導体表面の安定化方法において、
    前記第1の溶液は、硫化アンモニウム溶液(無色)、硫化アンモニウム溶液(黄色)、硫化ナトリウム溶液、および硫化カリウム溶液のうちのいずれかであることを特徴とする化合物半導体表面の安定化方法。
  7. 請求項1乃至6のいずれか1つに記載の化合物半導体表面の安定化方法において、
    前記第2の溶液は、Zn、Cd、Caのうちのいずれかの陽イオンを含む溶液であることを特徴とする化合物半導体表面の安定化方法。
  8. 請求項1乃至6のいずれか1つに記載の化合物半導体表面の安定化方法において、
    前記第2の溶液は、前記化合物半導体がAs、P、Al、Ga、Inのいずれかの元素を含む場合に、少なくとも前記元素と同じ陽イオンを含む溶液であることを特徴とする化合物半導体表面の安定化方法。
  9. 請求項1乃至8のいずれか1つに記載の化合物半導体表面の安定化方法において、
    前記第2の溶液は、陽イオンと酢酸イオンを含む溶液であることを特徴とする化合物半導体表面の安定化方法。
  10. 請求項1乃至9のいずれか1つに記載の化合物半導体表面の安定化方法において、
    前記第2の溶液は、酢酸亜鉛溶液であることを特徴とする化合物半導体表面の安定化方法。
  11. 請求項1乃至8のいずれか1つに記載の化合物半導体表面の安定化方法において、
    前記第2の溶液は、陽イオンと塩素イオン、又は、陽イオンと硫酸イオンを含む溶液であることを特徴とする化合物半導体表面の安定化方法。
  12. 請求項11に記載の化合物半導体表面の安定化方法において、
    前記第2の溶液は、塩化亜鉛溶液又は硫酸亜鉛溶液であることを特徴とする化合物半導体表面の安定化方法。
  13. 請求項3又は4に記載の化合物半導体表面の安定化方法を用いて、化合物半導体の表面に、非晶質もしくは多結晶の硫黄層と、前記硫黄層と前記第2の溶液中の陽イオンとの反応によって形成された非晶質もしくは多結晶の硫化物層とが順次形成されていることを特徴とする半導体素子。
  14. 化合物半導体の表面に、非晶質もしくは多結晶の硫黄層と、前記硫黄層と陽イオンとの反応によって形成された非晶質もしくは多結晶の硫化物層とが順次形成されており、
    前記硫化物層は、均一に形成された複数の硫化物層からなり、層厚が350Å以下であることを特徴とする半導体素子。
  15. 請求項13又は14に記載の半導体素子において、
    前記半導体素子は半導体レーザ素子であり、前記化合物半導体の表面は、光出射部を含む端面であることを特徴とする半導体素子。
  16. 請求項15に記載の半導体素子において、
    前記硫化物層上に、反射膜を形成したことを特徴とする半導体素子。
  17. 請求項1乃至12のいずれか1つに記載の化合物半導体表面の安定化方法を用いて、半導体レーザの光出射部を含む端面上に、硫黄層及び硫化物層を積層形成することを特徴とする半導体レーザ素子の製造方法。
  18. 請求項17に記載の半導体レーザ素子の製造方法において、
    電子ビーム蒸着法、もしくはプラズマCVD法、ECR−CVD法、スパッタ法、その他のプラズマを用いる方法を用いて、前記硫化物層上に、反射膜を形成することを特徴とする半導体レーザ素子の製造方法。
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