JP3775637B2 - 義歯及び人工歯 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、咬合(噛み合せ)機能を改善することのできる義歯及び人工歯に関する。また、そのような形状に義歯を調整する調整方法に関する。さらに、本発明は、そのような、特定形状の義歯によって得られる咬合により、各種症状の治療及び予防方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、咬合の異常と全身的な症状(頭痛、肩こり、背中の痛み等)との因果関係が研究されてきている。例えば、総義歯の調整や口腔内にスプリントを装着することにより患者の咬合状態を矯正することによって、種々の全身症状が改善されたことがこれまでにも報告されている(例えば、中村昭二「咬合関連症の発症因子およびその診断と治療」:P.J.A.Occlusion.Health.Vol.1(1995))。
【0003】
一方、従来の義歯は、天然歯の代用として使用されることから原則として、ヒトの天然歯と同等の形状・機能を有するように設計・作製されている。従って、臼歯の咬合面の形状についてみても、天然臼歯(小臼歯および/または大臼歯)の咬合面と同等の形状を有するように設計・構築されていた。
以下、従来の義歯を構成する人工臼歯における典型的な形状及び咀嚼時の動きを説明する。なお、図8は従来の人工臼歯100,110(ここでは左側第一大臼歯について図示する。)の咬合した状態を対向する一組(即ち咬合する上顎側臼歯100と下顎側臼歯110)について示した断面図である。本図および後述する図8においては、人工臼歯100,110を遠心側(後方)からみており、図面の左側が頬側になり右側が舌側になる。
【0004】
図8に示すように、人工臼歯100,110の咬合面102,112には、天然臼歯と同様の咬頭といわれる隆起が形成されており、対向する臼歯相互の咬頭が摺り合わさることによっていわゆる咀嚼運動が行われる。すなわち、図8に示すように、人工臼歯100,110の咬合面102,112には、大まかにいって、頬側および舌側にそれぞれほぼ円錐状の咬頭104,106,114,116が形成されている。而して、咀嚼運動が行われていない通常の咬合状態時(普通に顎を閉じた通常状態での咬頭嵌合位:以下「中心咬合位」という。)には、図8に示すように、上顎側臼歯100の舌側咬頭106が下顎側臼歯110の二つの咬頭114,116の間の窪み(中心溝部分)に嵌合されるとともに下顎側臼歯110の頬側咬頭114が上顎側臼歯100の二つの咬頭104,106の間の窪み(中心溝部分)に嵌合される状態が形成される。
そして、この中心咬合位の状態では、両臼歯100,110は図8において接触点A,B,Cで示す咬合面上の異なった3箇所(3部位)で相手の臼歯と接触(典型的には咬合面に点状に接触)することとなる。
【0005】
而して、咀嚼時には側方運動(そしゃく運動)等の下顎運動が行われることによって、支持咬頭(機能咬頭)である上顎側臼歯100の舌側咬頭106と下顎側臼歯110の頬側咬頭114との間で食物等の噛み砕きおよび摺り潰しがなされている。すなわち、図9に示すように、咀嚼時の下顎の動きに伴って、上顎側臼歯100の舌側咬頭106および下顎側臼歯110の頬側咬頭114は、それぞれ、誘導咬頭(非機能咬頭)である下顎側臼歯110の舌側咬頭116および上顎側臼歯100の頬側咬頭104に接触(図9中の接触点D,E参照)しつつ当該咬頭表面に沿って側方に誘導されることとなる。そして、図8に示すポジション(中心咬合位)と図9に示すような側方運動に係るポジションとの間の上下の移動等を咀嚼時に繰り返すことによって、上記両支持咬頭106,114間における間隙と上顎側人工臼歯100、下顎側人工臼歯110の上下運動等により、食物等の噛み砕きおよび摺り潰しが実現される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、対合する上下の人工歯(特に臼歯)の形状や機能を考慮しつつ義歯を調製してはいるものの、従来、義歯全体の咬合時における咬合力のバランス(例えば隣接する臼歯間及び左右の対応する臼歯間)や咬合重心の位置についてはあまり考慮されていなかった。
従って、上記咬合異常に伴う全身症状を未然に防止するという観点から、個々の歯の形状のみならず、咬合(咀嚼)時における咬合力のバランスを考慮した義歯の提供及びそれを具現化し得る形状の人工歯(臼歯)の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、上記咬合異常と全身症状の関係に鑑みて創出されたものであり、その目的とするところは、咬合時における咬合力の全体バランスを容易に保ち易る咬合構造を提供し、同時にかかる咬合構造を形成するのに適した義歯およびそれを構成する各人工歯(臼歯)を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、上下顎の第二小臼歯及び第一大臼歯のうち1歯以上に相当する人工歯を備える義歯であって、備えられた人工歯は、この人工歯以外の上下顎の第二小臼歯及び第一大臼歯との関係において、以下の特徴を有するように形成される義歯を提供する。
すなわち、本発明の義歯を特定し得る一つの特徴は、
上顎第二小臼歯の支持咬頭頂と上顎第一大臼歯の支持咬頭頂とを包含する仮想平面は、咬合平面に対してほぼ平行となることである。
また、他の一つの特徴は、
下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯の咬合面に形成される対合歯接触域における底部を包含する仮想平面は、咬合平面に対してほぼ平行となることである。
また、他の一つの特徴は、中心咬合位において、該上顎第二小臼歯の支持咬頭および上顎第一大臼歯の支持咬頭は、該下顎第二小臼歯および下顎第一大臼歯の咬合面に形成される各々対応する対合歯接触領域の底部に接触することである。以下、本明細書において、このような義歯を第1の義歯ともいう。
【0009】
なお、本明細書において「咬合面」とは、特にことわらない限り、いわゆる咬頭および辺縁に囲まれる対合歯に面する部分(典型的には解剖学的咬合面)をいう。また、本明細書において「咬合平面」とは、特にことわらない限り、咬頭嵌合位(中心咬合位)においてカンペル平面とフランクフルト平面をもとに術者が決めた仮想咬合平面とほぼ平行な位置関係にある、臼歯部の咬合面の少なくとも一部を含む一平面をいう。
本発明の第1の義歯では、上記特徴を有する結果、第二小臼歯から第一大臼歯に及ぶ咬合域において咬合時のバランスを得ることができる。
このため、本発明の義歯によれば、かみしめ時における咬合力の左右前後のバランスを保ち易い一方、咬合力が左右前後にアンバランスになることを抑制し得る。従って、本発明の義歯によれば、咬合異常に関連づけられる全身症状の発生を抑制し得る。
【0010】
また、本発明は、上記義歯において、下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯の咬合面に形成される対合歯接触域における頂部を包含する仮想平面は、咬合平面に対してほぼ平行となるように形成される、義歯(以下、本明細書において、第2の義歯ともいう。)も提供する。
この義歯によれば、咀嚼時に安定した咬合が得られ易くなる。
【0011】
また、本発明は、上記いずれかの義歯において、前記上顎第二小臼歯の支持咬頭および上顎第一大臼歯の支持咬頭は、下顎第二小臼歯および下顎第一大臼歯の咬合面に形成されるそれぞれ対応する対合歯接触領域に同時に接触し得るように形成される、義歯(以下、本明細書において、第3の義歯ともいう。)も提供する。
この義歯によれば、前方運動時及び側方運動時等の咀嚼時に安定した咬合が得られ易くなる。
【0012】
また、本発明は、下顎の第二小臼歯及び第一大臼歯のうち1歯以上に相当する人工歯を備える上記いずれかの義歯であって、
その人工歯の咬合面に形成される対合歯接触域の形状は、それぞれ、以下の角度条件:
(a)矢状切歯路角≧矢状顆路角;及び
(b)側方切歯路角>矢状顆路角;
を有する、義歯(以下、本明細書において、第4の義歯ともいう。)を提供する。
この義歯によれば、下顎第二小臼歯から下顎第一大臼歯に及ぶ咬合域において咬合時のバランスを得ることができる。また、咀嚼時に安定した咬合が得られ得る。
【0013】
さらに好ましい本発明の義歯は、下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯のうち1歯以上に相当する人工歯を備える、前記いずれかの義歯であって、
この人工歯の咬合面に形成される対合歯接触域が滑面状である、義歯(以下、本明細書において、第5の義歯ともいう。)である。
かかる義歯においては、咬合時において上顎側臼歯(咬頭)とそれと対合する下顎側臼歯(咬合面接触域)との接触が常に安定して行われる。このため、咀嚼時の側方運動等をスムーズに行うことができ、咬合力のアンバランス防止に寄与し得る。
【0014】
また、上下顎の第一小臼歯および/または第二大臼歯のうち1歯以上に相当する人工歯を備える、上記いずれかの義歯において、以下の特徴:
備えられた下顎側人工歯の咬合面は、咬合平面に対してほぼ平行となる;
および/または
備えられた上顎側人工歯の支持咬頭頂を包含する仮想平面は、咬合平面に対してほぼ平行となるように形成される、
義歯(以下、本明細書において、第6の義歯ともいう。)も提供する。
かかる特徴をさらに有する義歯では、上記第二小臼歯及び第一大臼歯の咬合時における接触を上記備えられた上下顎の第一小臼歯相当人工歯および/または第二大臼歯相当人工歯が阻害することがない。このため、バランスのとれた咬合をより高次元に保つことができる。
【0015】
また、他の好ましい義歯の形態としては、上記したいずれかの義歯において、少なくとも上下顎の第二小臼歯および第一大臼歯の各々に相当する人工歯を備える義歯であって、前記上顎の第二小臼歯と第一大臼歯は同じ硬度を有し、前記下顎の第二小臼歯と第一大臼歯とは同じ硬度を有し、下顎第二小臼歯及び第一大臼歯は、前記上顎第二小臼歯及び第一大臼歯の硬度と同じかそれよりも低い硬度を有する、義歯(以下、本明細書において、第7の義歯ともいう。)である。
この義歯によれば、上下顎の第二小臼歯と第一大臼歯との硬度のバランスが良好であるために、安定的に良好な咬合を得ることができる。特に、長期にわたって良好な咬合が得られる。
【0016】
この義歯においては、さらに、上下顎の第一小臼歯及び第二大臼歯の各々に相当する人工歯を備え、前記上顎の第二小臼歯と第一大臼歯は、上顎の第一小臼歯及び第二大臼歯の硬度と同じかそれよりも高い硬度を有し、下顎の第二小臼歯と第一大臼歯は、下顎の第一小臼歯及び第二大臼歯の硬度と同じかそれよりも高い硬度を有することが好ましい。
この形態であると、より好ましい状態で安定した咬合を得ることができる。
【0017】
このような本発明の義歯においては、いずれもその中心咬合位において、1歯対1歯での対咬接触することが好ましい。
【0018】
さらに、上記義歯においては、中心咬合位において、1歯対1歯の対咬接触が得られることが好ましい。側方運動時及び前方運動時において、1歯対1歯の対咬接触が得られることがより好ましい。
また、上顎第二小臼歯及び第一大臼歯が連結人工歯であることが好ましく、下顎第二小臼歯及び第一大臼歯が連結人工歯であることも好ましい。
【0019】
また、本発明は、以下の下顎側の臼歯を備える義歯を提供する。
すなわち、下顎の第二小臼歯および第一大臼歯に相当する人工歯を備える義歯であって、
以下の特徴;
下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯の咬合面に形成される対合歯接触域における底部を包含する仮想平面は、咬合平面に対してほぼ平行となる;及び
前記下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯の咬合面に形成される対合歯接触域における頂部を包含する仮想平面は、咬合平面に対してほぼ平行となるように形成される、義歯も提供する。
また、下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯のうち1歯以上に相当する人工歯を備える義歯であって、
その人工歯の咬合面に形成される対合歯接触域の形状は、以下の角度条件:
(a)矢状切歯路角≧矢状顆路角;及び
(b)側方切歯路角>矢状顆路角;
を有する、義歯も提供する。
下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯のうち1歯以上に相当する人工歯を備える義歯であって、その人工歯の咬合面に形成される対合歯接触域は滑面状である、義歯も提供する。
【0020】
下顎第一小臼歯及び第二大臼歯のうち1歯以上に相当する人工歯を備える義歯であって、
その人工歯の咬合面の底部は、咬合平面に対してほぼ平行となる、義歯を提供する。
さらに、下顎第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、及び第二大臼歯にそれぞれ相当する人工歯を備える義歯であって、
前記第一小臼歯及び第二大臼歯の各咬合面の各底部は、咬合平面にほぼ平行であり、
前記第二小臼歯及び第一大臼歯の各咬合面の各底部は、咬合平面にほぼ平行であり、かつ第一小臼歯及び第二大臼歯の各咬合面の各底部よりも下方に位置される、義歯を提供する。
【0021】
また、本発明では、以下の上顎側臼歯を備える義歯も提供する。
すなわち、上顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、及び第二大臼歯にそれぞれ相当する人工歯を備える義歯であって、
中心咬合位において、前記第一小臼歯及び第二大臼歯の各支持咬頭頂は同じ高さに配置され、前記第二小臼歯及び第一大臼歯の各支持咬頭頂は、第一小臼歯及び第二大臼歯の各支持咬頭頂の位置よりも下方でかつ同じ高さに配置されるように形成される、義歯を提供し、さらに、前記第一小臼歯及び第二大臼歯の各支持咬頭頂を結ぶ線、及び前記第二小臼歯及び第一大臼歯の各支持咬頭頂を結ぶ線は、それぞれ、咬合平面にほぼ平行である、義歯も提供する。
【0022】
本発明は、また、以下の人工歯も提供する。
下顎第二小臼歯または下顎第一大臼歯に相当する人工歯であって、
その人工歯の咬合面に形成される対合歯接触域の形状は、以下の角度条件:
(a)矢状切歯路角≧矢状顆路角;及び
(b)側方切歯路角>矢状顆路角;
を有する、人工歯を提供する。
また、下顎第二小臼歯または下顎第一大臼歯に相当する人工歯であって、
その人工歯の咬合面に形成される対合歯接触域は滑面状である、人工歯を提供する。
また、下顎第二小臼歯および下顎第一大臼歯に相当する人工歯であって、
各人工歯の咬合面に形成される対合歯接触域の形状は、以下の角度条件:
(a)矢状切歯路角≧矢状顆路角;及び
(b)側方切歯路角>矢状顆路角;
を備え、かつ連結されている、人工歯も提供する。
また、下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、及び第二大臼歯に相当する人工歯を備える人工歯のセットであって、
前記第二小臼歯及び第一大臼歯の各咬合面に形成される対合歯接触域の形状は、以下の角度条件:
(a)矢状切歯路角≧矢状顆路角;及び
(b)側方切歯路角>矢状顆路角;
を有し、
前記第一小臼歯及び第二第大臼歯の各咬合面の対合歯接触域の形状は、以下の角度条件:
(a)矢状切歯路角≧矢状顆路角;及び
(b)側方切歯路角>矢状顆路角;
を有するか、又は、
はこの角度条件を充足する形状よりもなだらな形状を有する、人工歯のセット。
さらに、上顎第二小臼歯及び上顎第一大臼歯に相当する人工歯であって、
人工歯は対合接触部位として舌側咬頭のみを有し、かつ舌側咬頭は略球状であり、各人工歯は連結されている、人工歯も提供する。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明は、特定の咬合構造を得るのに適した義歯及び人工歯である。
かかる咬合構造とは、左右の上顎の第二小臼歯及び、第一大臼歯において、左右2歯づつの4点での対咬接触が得られる構造(以下、第1の咬合構造ともいう。)をいう。より好ましくは、左右の上顎第二小臼歯の舌側咬頭頂部から上顎第一大臼歯の近心舌側咬頭頂部において4点での対咬接触が得られる構造(以下、第2の構造構造ともいう。)である。
これらの4点支持の咬合構造においては、左右均等な接触状態が形成されていることが好ましい。
【0024】
さらに、好ましい咬合構造は、前記第一の咬合構造において、上顎第一小臼歯と上顎第二大臼歯が、上顎第二小臼歯と上顎第一大臼歯による4点での対咬接触を妨げないようになっている構造(以下、第3の咬合構造ともいう。)である。具体的には、中心咬合位では、上顎第一小臼歯及び第二大臼歯は、それぞれ点状に対咬接触(計8点の対咬接触)し、側方及び前方運動時には、上顎第一小臼歯及び第二大臼歯は、対咬接触しないことが好ましい。
【0025】
本発明の第1から第7の義歯及び上顎臼歯義歯及び下顎臼歯義歯(以下、本発明の義歯という。)によれば、かかる咬合構造をそのまま、あるいは、容易な調整により得ることができる。
よって、本発明は、本発明の義歯のいずれかを用いて、上記第1から第3の咬合構造のいずれかを得るように義歯を製作する方法も提供する。
【0026】
また、本発明は、本発明の義歯のいずれかの義歯であって、前記第1から第3の咬合構造のいずれかを有する義歯を提供するものでもある。
【0027】
さらに、本発明の義歯のいずれかを用いて、前記した咬合構造を得るように咬合調整することにより、咬合が関連して発症していると考えられる症状(以下、咬合関連症状ともいう。)が改善され、あるいは予防される。これらの義歯によれば、上記した、好ましい咬合構造が得られるからである。
したがって、本発明は、本発明の義歯のいずれかを用いて、咬合関連症状を改善し、治療する方法も提供する。また、同時に、本発明の義歯のいずれかを用いて、咬合関連症状を予防する方法も提供するものである。
なお、咬合関連症状として見いだされる主な症状としては、偏頭痛、緊張型頭痛等の頭痛、肩こり、腰痛、背中の痛み、膝痛、手足のふるえ、しびれ及び痛み、眼の痛み、眼精疲労、飛蚊症、耳鳴り、難聴、不眠、倦怠感、高血圧等がある。
【0028】
なお、本発明の第1〜第7の義歯は、いずれも左右上下顎の第二小臼歯及び第一大臼歯のうち上顎側あるいは下顎側について3歯以上に相当する人工歯を備えることが好ましく、より好ましくは、上下顎について各3歯以上に相当する人工歯を備えることが好ましく、さらに好ましくは、これらのすべての歯に相当する人工歯(すなわち、合計8歯)を備えることが好ましい。
本発明の義歯としては、特に、好ましいものを以下に挙げる。
(1)少なくとも左右上下顎の第二小臼歯および第一大臼歯の各々に相当する人工歯を備える義歯であって、以下の特徴:
上顎第二小臼歯の支持咬頭頂と上顎第一大臼歯の支持咬頭頂とを包含する仮想平面は、咬合平面に対してほぼ平行となる;
下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯の咬合面に形成される対合歯接触域における底部を包含する仮想平面は、咬合平面に対してほぼ平行となる;
中心咬合位において、該上顎第二小臼歯の支持咬頭および上顎第一大臼歯の支持咬頭は、該下顎第二小臼歯および下顎第一大臼歯の咬合面に形成される各々対応する対合歯接触領域の底部に接触する;
を有するように形成される、義歯。
【0029】
(2)前記下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯の咬合面に形成される対合歯接触域における頂部を包含する仮想平面は、咬合平面に対してほぼ平行となる;
を有するように形成される、前記(1)記載の義歯。
【0030】
(3)前記上顎第二小臼歯の支持咬頭および上顎第一大臼歯の支持咬頭は、下顎第二小臼歯および下顎第一大臼歯の咬合面に形成されるそれぞれ対応する対合歯接触領域に同時に接触し得る、
を有するように形成される、上記(1)又は(2)記載の義歯。
【0031】
(4)前記下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯の咬合面に形成される対合歯接触域の形状は、それぞれ、以下の角度条件:
(a)矢状切歯路角≧矢状顆路角;及び
(b)側方切歯路角>矢状顆路角;
を有する、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の義歯。
(5)前記備えられた下顎側の人工歯の咬合面に形成される対合歯接触域は、滑面状である、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の義歯。
(6)上下顎の第一小臼歯および/または第二大臼歯に相当する人工歯を備え、以下の特徴:
備えられた下顎第一小臼歯および/または下顎第二大臼歯歯の咬合面は、咬合平面に対してほぼ平行となる;
および
備えられた上顎第一小臼歯および/または上顎第二大臼歯の各支持咬頭頂を包含する仮想平面は、咬合平面に対してほぼ平行となる;
を有する、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の義歯。
(7)前記下顎の第一小臼歯および/または第二大臼歯に相当する人工歯の咬合面の対合歯接触域の形状は、以下の角度条件:
(a)矢状切歯路角≧矢状顆路角;及び
(b)側方切歯路角>矢状顆路角;
を有するか、又は、
この角度条件を充足する形状よりもなだらかな形状を有する、前記(6)記載の義歯。
(8)中心咬合位において、1歯対1歯の対咬接触が得られる、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の義歯。
(9)側方運動時及び前方運動時において、1歯対1歯の対咬接触が得られる、前記(8)に記載の義歯。
(10)前記上顎の第二小臼歯及び第一大臼歯は、連結歯である、前記(1)〜(9)のいずれかに記載の義歯。
【0032】
また、本発明の人工歯は、上記咬合構造を得るのに、また、上記した義歯を得るのに適した人工歯である。
【0033】
以下、本発明の義歯の好適な一実施形態を図面を参照しつつ説明する。なお、図1は、本実施形態に係る本発明の義歯を構成する左頬側の上顎第一小臼歯相当人工歯10、第二小臼歯相当人工歯30、第一大臼歯相当人工歯50および第二大臼歯相当人工歯70ならびに左顎側の下顎第一小臼歯相当人工歯20、第二小臼歯相当人工歯40、第一大臼歯相当人工歯60および第二大臼歯相当人工歯80を所定の位置に排列し且つ中心咬合位の状態を頬側からみたときの模式図であって、上顎側各臼歯10,30,50,70の支持咬頭頂を結んだ線(咬合面より見た場合、これらの支持咬頭頂はほぼ直線状に排列されている)での縦断面で表した模式図である。なお、図1中において符号Pで指示される仮想平面は、咬合平面である。
【0034】
また、図2は本実施形態に係る義歯の前方運動時における一状態を図1と同様の態様で示す模式図である。また、図3は本実施形態に係る義歯の下顎側各人工臼歯20,40,60,80の咬合面の状態を模式的に示す排列平面図である。また、図4は、図1の状態(中心咬合位)における各対合歯の咬合状態を示す模式図であって、上顎側各臼歯10,30,50,70の支持咬頭頂を通る線で頬側(向かって左側)から舌側(向かって右側)に至る断面で表している。図4における(a)(b)(c)および(d)は、それぞれ、上下顎の第一小臼歯相当人工歯10,20、第二小臼歯相当人工歯30,40、第一大臼歯相当人工歯50,60および第二大臼歯相当人工歯70,80の咬合状態を示している。また、図5および図6は、それぞれ側方運動時の作業側および平衡側における各対合歯の一咬合状態を図4と同じ態様で断面的に示した模式図であり、(a)(b)(c)および(d)は、図4と同様、それぞれ上下顎の第一小臼歯相当人工歯10,20、第二小臼歯相当人工歯30,40、第一大臼歯相当人工歯50,60および第二大臼歯相当人工歯70,80の咬合状態を示している。
なお、本実施形態に係る義歯に関する以後の記載および図面は、いずれも左頬側についてのものであるが、本実施形態においては右頬側も同様の人工臼歯が対称に備えられている。
また、本実施形態において図示された臼歯はいずれも人工歯であることが明らかであるため、以後の説明では臼歯の種類のみ記載し、いちいち人工歯である旨の記載はしない。
【0035】
図1および図3に示すように、本実施形態に係る義歯を構成する臼歯10,20,30,40,50,60,70,80は、その大まかな外観は従来の義歯におけるものと同様にヒトの天然臼歯に近似した形状をしており、典型的にはセラミック、金属あるいはプラスチック(レジン)から成形される人工臼歯である。また、従来の人工臼歯と同様、適当な義歯床用材を介してあるいは直接的に口腔内の所定の位置に排列・装着される。
【0036】
先ず、下顎側の各臼歯20,40,60,80の形状および排列状況について説明する。
図1および図4に示すように、下顎第一小臼歯20および第二大臼歯80の咬合面Sは、これらの歯を側方からみた場合に目立った凸の無いほぼフラットな形状(略平坦状)に形成されている。なお、下顎第二小臼歯40,第一大臼歯60の咬合面の対合歯接触域の形状と同じ程度か、あるいはそれよりもなだらかな皿形状に形成されていてもよい。また、対合する上顎側の臼歯の咬頭頂が係合あるいは係止しない程度の滑らかな面状に形成されている。すなわち、滑面状に形成されている。かかる咬合面S2,S8は、上顎側の咬頭頂が係合等しないでスムーズに咬合できる範囲内で溝部や凹部を有していてもよい。
そして、図示されるように、これらフラットな咬合面S2,S8は、咬合平面Pに対してほぼ平行となる(ここではほぼ一致する)仮想平面にともに包含されるように形成・配置されている。
【0037】
一方、図1および図3に示すように、本実施形態における下顎第二小臼歯40および第一大臼歯60は別個に調製された二つの歯として提供されている。而して、かかる臼歯40,60のそれぞれの咬合面S4,S6には、上記従来の臼歯110と異なり、対合する上顎第二小臼歯30および第一大臼歯50の支持咬頭32,52が咀嚼運動時に接触し得る接触域R4,R6(図3)が凹部形状に形成されている。図1および図4に示すように、これら接触域R4,R6は、その断面が浅いすり鉢状の曲面で表されるように形成された目立った凸のない浅い凹部を構成している。この曲面も、対合する上顎側の咬頭頂が係合あるいは係止しない程度の滑らかな面を有するように(滑面状)に形成されている。なお、前記咬合面Sと同様、上顎側の咬頭頂が係合あるいは係止しない範囲で溝部や凹部を有していてもよい。
【0038】
而して、これら臼歯40,60は、中心咬合位において当該接触域R4,R6の底部(即ち咬合面S4,S6の底部)が咬合平面Pに対してほぼ平行となるように形成・配置されている。この底部を包含する平面は、咬合面S2,S8を包含する平面よりも下方に位置されている。
さらに、これら臼歯40,60は、中心咬合位において当該接触域R4,R6における頂部(ここでは図示されるように接触域R4,R6の遠心側縁部)が咬合平面Pに対してほぼ平行となるように形成・配置されている。
このことから、本実施形態に係る義歯では、中心咬合位において、最も上顎側に近い位置(即ち上方)に下顎が配置されることとなる。而して、後述する咀嚼時における下顎の前方運動時および側方運動時においては、下顎のポジションは中心咬合位よりも相対的に上顎側から離れた位置(即ち下方)となる。
なお、下顎第二小臼歯40及び第1大臼歯60は、融合歯として一体形状で提供されていてもよい。また、上顎第二小臼歯と第一大臼歯とが連結歯である場合には、下顎第二小臼40と第一大臼歯60とは、別個に形成されていることが好ましい。
【0039】
ところで、本実施形態に係る義歯では、かかる接触域R4,R6の径およびその表面を構成する鉢状曲面形状(勾配等)は咀嚼時における下顎の前方運動および側方運動を考慮して形成されている。すなわち、接触域R4,R6における曲面形状は、後述する上顎側の対合臼歯30,50に形成された支持咬頭32,52が咀嚼時における下顎の前方運動および側方運動時において当該接触域R4,R6のすり鉢状曲面に沿って同時に接触し得るように形成される。
特に限定するものではないが、好ましくは、かかる曲面形状はいわゆる調節型咬合器(図示せず)を使用して人工歯を製作する場合において、以下の諸角度条件を具備し得るように形成され得る。すなわち、(i). 矢状切歯路角≧矢状顆路角とし、且つ、(ii).側方切歯路角>矢状顆路角とすることにより、かかる曲面形状を決定し、それを具現化するように形成することができる。このことによって、咬合バランスに優れる咀嚼時下顎運動を好適に実現することができる。なお、この場合、側方顆路角=矢状顆路角/8+12とすることが好ましい。
【0040】
一方、図3に示すように、これら下顎側臼歯20,40,60,80の上面に相当する咬合面S2〜S8は、天然臼歯と同様、咀嚼時に咀嚼物を咬合面から容易に排出させるのに寄与する溝Gが随所に設けられている。しかしながら、図3から明らかなように、下顎第一小臼歯20および第二大臼歯80の咬合面S2,S8であって、後述する咬合時にこれらと対合する臼歯(即ち上顎第一小臼歯10および第二大臼歯70)が接触し得る部分(図中、T2,T8で示す部分)及びその周辺部には目立った凸部が形成されていない。すなわち、当該部分T2,T8は、対合する上顎側の咬頭頂が係合あるいは係止しない程度の滑らかな面を有するように(滑面状)に形成されている。このことによって、咬合時において対合歯相互の接触をバランスよく安定に行うことができる。対合する歯の咬頭の一部が凸部等に填ったり引っかかったりすることがないからである。このため、後述する咀嚼時の側方運動をスムーズに行うことができる。なお、この接触部分T2,T8においても、咬合時に対合する上顎臼歯が係合あるいは係止しない程度の凹部や溝部が形成されていてもよい。
【0041】
次に、上顎側臼歯10,30,50,70について説明する。これらの上顎側臼歯は、それぞれ、上述の各下顎側臼歯20,40,60,80に対応(対合)する。
図1および図4に示すように、上顎側各臼歯10,30,50,70にはそれぞれ支持咬頭12,32,52,72が一つずつ形成されている。すなわち、図4に示すように、各臼歯10,30,50,70にはそれぞれ舌側に一つの支持咬頭が形成されている。上顎第一大臼歯50および第二大臼歯70の支持咬頭52,72はそれぞれ近心側に形成されている(図1)。なお、いずれの臼歯10,30,50,70にも、頬側咬頭は形成されているが、実質的に対合接触しないような形態に形成されている。
而して、これら支持咬頭12,32,52,72それぞれの頂部すなわち支持咬頭頂12a,32a,52a,72aを結ぶ線が、咬合面より見た場合にほぼ直線となるように、これら臼歯は上顎側に排列されている。また、これら支持咬頭頂12a,32a,52a,72aは、擂り粉木先端のように角張っていないなだらかな曲面から成るこぶ状に形成されている。すなわち、略球状に形成されている。
一方、本実施形態に係る上顎側臼歯10,30,50,70のいずれにも他の支持咬頭および誘導咬頭は形成されていない。従って、上記従来の人工臼歯100,110とは異なり、咬合時(咀嚼時)には当該支持咬頭12,32,52,72のみが、対合する下顎側の臼歯咬合面S2,S4,S6,S8と接触して食物等の噛み砕きおよび摺り潰しを行うこととなる。
【0042】
また、上顎臼歯10、70の支持咬頭頂12a、72aは、ほぼ同じ高さ位置に配置されており、また、上顎臼歯30,50の支持咬頭頂32a,52aも、それぞれ同じ高さで、かつ支持咬頭頂12a、72aよりも下方の位置に配置されている。すなわち、支持咬頭頂12a、72aを包含する平面と、支持咬頭頂32a、52aを包含する平面とは、平行であり、かつ、後者の平面が下方位置に配置されている。
【0043】
而して、図1および図4に示すように、上顎第二小臼歯30および第一大臼歯50の支持咬頭32,52(即ち支持咬頭頂32a,52a)は、中心咬合位において、各々対応(対合)する下顎第二小臼歯40および第一大臼歯60の上記咬合面S4,S6中の接触域R4,R6の底部にちょうど接触するように形成されている。さらにこのとき、支持咬頭頂32a,52aを包含する仮想平面(図中の二点鎖線参照)が咬合平面Pに対してほぼ平行となるように形成され、所定の口腔内位置に配置されている。
他方、図1および図4に示すように、中心咬合位において、上顎第一小臼歯10および第二大臼歯70の支持咬頭12,72は、各々対応(対合)する下顎第一小臼歯20および第二大臼歯80に形成されている上記咬合面S2,S8の接触部分T2,T8と僅かに接触するように形成されている。さらにこのとき、支持咬頭頂12a,72aを包含する仮想平面(図中の二点鎖線参照)が咬合平面Pに対してほぼ平行となるように形成され、口腔内の所定位置に配置されている。
このようにして上顎側臼歯10,30,50,70の支持咬頭12,32,52,72が図示される左頬側および図示しない右頬側のいずれにも形成されている。
【0044】
次に、このように形成した本実施形態の義歯によって得られる咬合状態について説明する。
まず、中心咬合位においては、当該こぶ状曲面の上顎側の支持咬頭頂12a,32a,52a,72aと対合する下顎側臼歯20,40,60,80の咬合面(即ち上記接触部分T2,T8、接触域R4,R6)との安定した1歯対1歯での、計8点の接触状態が維持され得る。
【0045】
さらに、咬合平面Pに対してほぼ平行となる下顎第二小臼歯40の咬合面S4中の接触域R4の底面および第一大臼歯60の咬合面S6中の接触域R6の底面に、やはり咬合平面Pに対してほぼ平行状態の上顎第二小臼歯30の支持咬頭32および第一大臼歯50の支持咬頭52がそれぞれ接触する結果、この二対の臼歯(第二小臼歯30,40および第一大臼歯50,60)によって咬合バランスをとることができる。
すなわち、左右計4点での対咬接触構造が形成されている。この状態での咬合力(圧)は、咬合平面Pに対してほぼ垂直方向に左右にバランスをとりつつ当該二対の臼歯30,40,50,60に均等に加わるからである。このとき、残りの二対の臼歯(第一小臼歯10,20および第二大臼歯70,80)は、上述のとおり、上記接触部分T2,T8で接触されているのみであり、かかる咬合バランスを阻害するおそれはない。
【0046】
次に、咀嚼時の前方運動および側方運動時における本実施形態に係る義歯の動きを説明する。
先ず、前方運動時の動きを説明する。
咀嚼の際の図2に示す下顎前方運動時において、上顎第二小臼歯30および第一大臼歯50の支持咬頭32,52(咬頭頂32a,52a)は、それぞれ、対合する下顎第二小臼歯40および第一大臼歯60の咬合面接触域R4,R6の頂部(遠心側縁端部に相当する。)に同時に接触する。すなわち、図1および図2から明らかなように、上述のように接触域R4,R6の曲面形状を形成した結果、当該二つの支持咬頭32,52(咬頭頂32a,52a)は、下顎前方運動時において、上記咬合平面Pとの平行状態を維持するようにして当該接触域R4,R6に同時に接触し得る。
他方、上顎第一小臼歯10および第二大臼歯70の支持咬頭12,72(咬頭頂12a,72a)は、対合する下顎第一小臼歯20および第二大臼歯80の上記フラット形状咬合面S2,S8に接触しない。すなわち、図2から明らかなように、上述のように接触域R4,R6の曲面形状を形成した結果として中心咬合位よりも相対的に下顎の位置が下がる前方運動時において、当該二つの支持咬頭頂12a,72aは上記接触部分T2,T8とは、もはや接触することはできない(即ち、当該接触部分T2,T8は、中心咬合位においてのみ対合臼歯支持咬頭頂と接触する。)。
【0047】
以上に説明した各臼歯間の動きにより、かかる前方運動時においても咬合力のバランスを保持することができる。すなわち、上下顎の第一小臼歯10,20および第二大臼歯70,80が相互に接触しない結果、咬合力は、上顎側の第二小臼歯30及び第1大臼歯50と、これら上顎側が接触する下顎側の第二小臼歯40および/または第1大臼歯60にかかることになる。本形態においては、上下顎の第2小臼歯30,40、および上下顎の第1大臼歯50,60が上下に1歯対1歯にかかることになる。このとき、上述のとおり、上顎第二小臼歯30および第一大臼歯50の支持咬頭32,52は咬合平面Pに対してほぼ平行であり且つ対応する接触域R4,R6に同時に接触する。この結果、これら臼歯には咬合平面Pに対してほぼ垂直方向に均等に咬合力(圧)が加わり、咬合バランスを保つことができるからである。
【0048】
次に、側方運動時の動きを説明する。
咀嚼の際、図5および図6に示す下顎側方運動時において、上顎第二小臼歯30および第一大臼歯50の支持咬頭32,52(咬頭頂32a,52a)は、それぞれ、対合する下顎第二小臼歯40および第一大臼歯60の咬合面接触域R4,R6の頂部(作業側では舌側縁端部、平衡側では頬側縁端部に相当する。)に同時に接触する。すなわち、上述のように接触域R4,R6の曲面形状を形成した結果、当該二つの支持咬頭32,52(咬頭頂32a,52a)は、下顎前方運動時と同様に側方運動時(作業側乃至平衡側)においても、上記咬合平面Pとの平行状態を維持するようにして当該接触域R4,R6に同時に接触することができる。
他方、上顎第一小臼歯10および第二大臼歯70の支持咬頭12,72(咬頭頂12a,72a)は、対合する下顎第一小臼歯20および第二大臼歯80の上記フラット形状咬合面S2,S8に接触しない。すなわち、図5および図6の(a)および(d)から明らかなように、接触域R4,R6の曲面形状によって側方運動時においても中心咬合位よりも相対的に下顎の位置が下がる結果、当該二つの支持咬頭頂12a,72aは上記接触部分T2,T8とは、もはや接触することはできない。
【0049】
以上に説明した各臼歯間の動きにより、かかる側方運動時においても咬合力のバランスを保持することができる。すなわち、上下顎の第一小臼歯10,20および第二大臼歯70,80が相互に接触しない結果、咬合力(圧)は第二小臼歯30,40および第一大臼歯50,60に加わる。このとき、上述のとおり、上顎第二小臼歯30および第一大臼歯50の支持咬頭32,52は咬合平面Pに対してほぼ平行であり且つ同時に対応する接触域R4,R6に接触する結果、これら臼歯には、咬合平面Pに対してほぼ垂直方向に均等に咬合力が加わり、咬合バランスを保つことができるからである。
【0050】
以上のように、本実施形態に係る義歯によれば、中心咬合位においても、さらには咀嚼時における前方運動時および側方運動時においても、咬合バランスを維持することができる。このため、かみしめ時及び咀嚼時におけるアンバランスな対咬接触を除去し得て、結果的に調和のとれた安定した咬合を得ることができる。また、かかる咬合によれば、咬合異常に関連づけられる全身症状を予防し、あるいは改善させることができる。
【0051】
以上、本発明の義歯の好適な一実施形態を説明したが、本発明の義歯では、本発明を特定し得る上記各特徴を有するように形成されたものであればよく、上記図示した実施形態に限るものではない。例えば、上記実施形態では、中心咬合位において上下顎の第一小臼歯10,20および第二大臼歯70,80が上記接触部分T2,T8にて接触しているがこれに限られず例えば非接触状態のものであってもよい。かかる構成によっても、上述の実施形態と同様、上下顎の第二小臼歯30,40と第一大臼歯50,60の4歯における咬合域での対咬接触によって、全体の咬合バランスを維持することができる。
【0052】
なお、本発明の義歯は、本実施形態に係る義歯に限定するものではないのはいうまでもない。
また、本実施形態の義歯においても、例えば、顎が小さい被験者の場合、第二大臼歯を省く場合もあり得る。あるいは、第一小臼歯および第二大臼歯が残留する天然歯あるいは残存歯であってもよい。この場合、第二小臼歯相当人工歯および第一大臼歯相当人工歯における上記咬合バランスを阻害しないよう、かかる第一小臼歯および第二大臼歯を、中心咬合位において接触若しくは非接触状態となるように調整することが必要となる。
【0053】
また、上記実施形態においては、本発明を実現する義歯およびそれを構成する人工歯の形状を説明したが、本発明の効果を維持し得あるいはそれを向上し得る限りにおいて、種々の内部形状および人工歯材質をとり得る。
例えば、性状の異なるレジンや、金属やセラミックベース等の二層または三層構造(即ち表面層と基底部層との二層構造あるいは表面層と中間層と基底部層との三層構造)からなる人工臼歯において、その各層の境界面が上記咬合平面Pとほぼ平行となるようにしてもよい。
例えば、下顎側臼歯(特に第二小臼歯および第一大臼歯)の咬合面の頂部を構成する部分が上記二層構造または三層構造である場合、かかる中間層や基底部層の境界面が、中心咬合位における頬舌方向の断面からみて上記咬合平面Pに対してほぼ平行となるように形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、レジン製や金属製やセラミック製等の人工歯を構成する各層位間における質量、硬度、密度等の差異が咬合時のバランスに影響するのを回避することができる。このため、より精密な咬合バランスを保つことができる。特にかかる効果は、下顎側の第二小臼歯および第一大臼歯において著しく奏させることができる。
また、かかる多層構造の場合、上下顎の第二小臼歯および第一大臼歯の表層部(特に下顎の第二小臼歯および第一大臼歯の表層部)の硬度および/または耐磨耗性を他の人工臼歯よりも高いものにすることは、上記咬合バランスを長期間維持するという観点から好ましい。
【0054】
あるいは、本発明の義歯を構成する各人工臼歯の材質(硬度等)を臼歯の種類ごとに異ならせてもよい。臼歯の種類によって加わる咬合力(咬合圧)が異なるからである。
例えば、上記咬合バランスを好適に保つうえでは、単層構造あるいは多層構造(典型的には上記二層または三層構造)に関わらず、その表層部の硬度は、上顎第二小臼歯と上顎第一大臼歯の硬度は等しいものがよい。また、下顎第二小臼歯と下顎第一大臼歯の硬度は等しいものがよい。また、下顎第二小臼歯および下顎第一大臼歯の硬度は、上顎第二小臼歯および上顎第一大臼歯の硬度と等しいかそれよりも低いものがよい。
さらに、上下顎の第一小臼歯および/または第二大臼歯を備える場合には、その表層部の硬度について、上顎の第一小臼歯と第二大臼歯との間ならびに下顎の第一小臼歯と第二大臼歯との間でそれぞれ等しいものがよい。さらにまた、上顎の第二小臼歯と第一大臼歯の硬度は上顎の第一小臼歯と第二大臼歯の硬度と等しいかそれよりも高いものがよい。同様に、下顎の第二小臼歯と第一大臼歯の硬度は下顎の第一小臼歯と第二大臼歯の硬度と等しいかそれよりも高いものがよい。より好ましくは、上顎第1小臼歯、第2小臼歯、第1大臼歯および第2大臼歯は、すべて同じ硬度である。
【0055】
次に、本発明の義歯及び人工歯を用いて、咬合異常により発症した全身症状を改善した例について説明する。
【0056】
(症例1)
(対象者)
72才、女性
(症状)
頭痛、肩痛、肩こり、膝痛、耳鳴り
(使用した人工歯)
上顎 左右側全歯(計14本)
下顎 右側犬歯を除く全歯(計13本)
このうち、上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯の各歯相当人工歯(合計16歯)については、上記実施形態で具体的に説明した、図1〜図6に示す形態を有する人工歯を用い、その他の人工歯については、通常用いられているものを用いた。また、人工歯でない歯(下顎右側犬歯)は、対象者の残存歯であった。
【0057】
(義歯の製作)
上記人工歯を利用して、義歯を製作した。
義歯製作においては、咬合器を用いて、中心咬合位において、上顎第二小臼歯および第一大臼歯の支持咬頭(支持咬頭頂)が下顎第二小臼歯および第一大臼歯の咬合面中の接触域の底部にちょうど接触し、上顎第一小臼歯および第二大臼歯の支持咬頭は、下顎第一小臼歯および第二大臼歯に形成されている咬合面と僅かに接触するように製作した。
また、同様に咬合器を用いて、下顎前方運動時において、上顎第二小臼歯および第一大臼歯の支持咬頭(支持咬頭頂)が、それぞれ、対合する下顎第二小臼歯および第一大臼歯の咬合面の接触域中の頂部に同時に接触するようにし、上顎第一小臼歯および第二大臼歯の支持咬頭(支持咬頭頂)は、対合する下顎第一小臼歯および第二大臼歯のフラット形状咬合面に接触しないように製作した。
また、同様に咬合器を用いて、下顎側方運動時において、上顎第二小臼歯および第一大臼歯の支持咬頭(支持咬頭頂)は、それぞれ、対合する下顎第二小臼歯および第一大臼歯の咬合面接触域の頂部(作業側では舌側縁端部、平衡側では頬側縁端部に相当する。)に同時に接触し、上顎第一小臼歯および第二大臼歯の支持咬頭(支持咬頭頂)は、対合する下顎第一小臼歯および第二大臼歯のフラット形状咬合面に接触しないように製作した。
【0058】
(咬合調整)
上記した義歯を装着後、左右側上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、及び第二大臼歯について、歯科医師により、以下の咬合調整が行われた。なお、前歯については、側方運動時に、左右側犬歯が接触し、前方運動時に左右側中切歯が接触するように実施した。
中心咬合位において、上顎第二小臼歯および第一大臼歯の支持咬頭(支持咬頭頂)が下顎第二小臼歯および第一大臼歯の咬合面中の接触域の底部にちょうど接触し、上顎第一小臼歯および第二大臼歯の支持咬頭は、下顎第一小臼歯および第二大臼歯に形成されている咬合面と僅かに接触するように実施した。
また、下顎前方運動時において、上顎第二小臼歯および第一大臼歯の支持咬頭(支持咬頭頂)が、それぞれ、対合する下顎第二小臼歯および第一大臼歯の咬合面の接触域中の頂部に同時に接触するようにし、上顎第一小臼歯および第二大臼歯の支持咬頭(支持咬頭頂)は、対合する下顎第一小臼歯および第二大臼歯のフラット形状咬合面に接触しないように、実施した。
また、下顎側方運動時において、上顎第二小臼歯および第一大臼歯の支持咬頭(支持咬頭頂)は、それぞれ、対合する下顎第二小臼歯および第一大臼歯の咬合面接触域のの頂部(作業側では舌側縁端部、平衡側では頬側縁端部に相当する。)に同時に接触し、上顎第一小臼歯および第二大臼歯の支持咬頭(咬頭頂)は、対合する下顎第一小臼歯および第二大臼歯のフラット形状咬合面に接触しないように実施した。
【0059】
このような咬合調整によって得られる、好ましい咬合状態を図7に例示する。
すなわち、この図は、咬合紙を使用して、中心咬合位、前方運動時、及び側方運動時における左右上下歯の咬合状態を確認したものである。
この図によれば、中心咬合位では、すべての臼歯は、対咬接触しているが、左右上下顎の第一小臼歯及び第二大臼歯においては、4対の点状接触となっている。これに対し、左右上下顎の第二小臼歯及び第一大臼歯においては4対の十分な対咬接触部が得られており、これら上下4対の臼歯を主体とする4点支持構造が明らかである。
また、前方運動時及び側方運動時においては、この左右上下顎の第二小臼歯及び第一大臼歯の十分な対咬接触が得られているとともに、左右上下顎の第一小臼歯及び第二大臼歯においてほとんど接触しないことが明らかである。すなわち、前方運動時及び側方運動時における、左右上下顎第二小臼歯及び第一大臼歯による4点支持構造が明らかである。
【0060】
(経過)
咬合調整は、義歯を装着後、1回の調整で、主訴としていた自覚症状は著しく改善した。なお、歯科医師による咬合調整は、短時間でかつ容易に実施された。その後、約2ヶ月にわたり、体の変化に伴う咬合の変化及び自覚症状の改善の確認ならびに自覚症状が再発していないことを確認するために、計6回の診察を行い、治療を終了した。すなわち、上記治療過程において、対象者の頭痛、肩痛、肩こり、膝痛、耳鳴りの自覚症状は改善した。特に、頭痛、肩痛、肩こりは顕著に改善した。
【0061】
(症例2)
(対象者)
72才、女性
(症状)
腰痛、難聴
(使用した人工歯)
上顎 左右側全歯(計14本)
下顎 左右側全歯(計14本)
このうち、上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯の各歯相当人工歯(上下各8歯、合計16歯)については、上記実施形態で具体的に説明した、図1〜図6に示す形態を有する人工歯を用い、その他の人工歯については、通常用いられているものを用いた。
これらの人工歯を用いて、症例1と同様の義歯製作を行った。
【0062】
(咬合調整)
上記した義歯を装着後、左右側上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、及び第二大臼歯について、歯科医師により、症例1におけるのと同様の咬合調整が行われた。咬合調整は、義歯を装着後、1回の調整で、主訴としていた自覚症状は著しく改善した。本例においても、歯科医師による咬合調整は、短時間でかつ容易に実施された。
その後、約2ヶ月半にわたり、体の変化に伴う咬合の変化及び自覚症状の改善の確認ならびに自覚症状が再発していないことを確認するために、計7回の診察を行い、治療を終了した。すなわち、対象者の腰痛、難聴は顕著に改善した。
【0063】
(症例3)
(対象者)
50才、女性
(症状)
頭痛、肩痛、肩こり、首筋こり、眼精疲労
(使用した人工歯)
上顎 右側第一小臼歯を除いた残余の歯(計13本)
下顎 右側犬歯及び左側側切歯、犬歯、及び第二小臼歯を除いた残余の歯(計10本)
このうち、上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯の各歯(上下各8歯、合計16歯)に該当する人工歯については、上記実施形態で具体的に説明した、図1〜図6に示す形態を有する人工歯を用い、その他の人工歯については、通常用いられているものを用いた。また、人工歯でない歯(計5本)は、対象者の残存歯であった。これらの人工歯を用いて、症例1と同様の義歯製作を行った。
【0064】
(咬合調整)
上記した義歯を装着後、左右側上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、及び第二大臼歯(人工歯及び残存歯)について、歯科医師により、症例1におけるのと同様の咬合調整が行われた。咬合調整は、義歯を装着後、1回の調整で、主訴としていた自覚症状は著しく改善した。本例においても、歯科医師による咬合調整は、短時間でかつ容易に実施された。
その後、約1ケ月半にわたり、体の変化に伴う咬合の変化及び自覚症状の改善の確認ならびに自覚症状が再発していないことを確認するために、計4回の診察を行い、治療を終了した。すなわち、対象者の頭痛、肩痛、肩こり、首筋こり、眼精疲労は顕著に改善した。
【0065】
(症例4)
(対象者)
73才、男性
(症状)
頭痛、顎痛、肩こり、首筋こり、背痛、腰痛
(使用した人工歯)
上顎 右側第二小臼歯を除いた残余の歯(計13本)
下顎 左右側全歯(計14本)
このうち、上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯の各歯(上下各8歯、合計16歯)に該当する人工歯については、上記実施形態で具体的に説明した、図1〜図6に示す形態を有する人工歯を用い、その他の人工歯については、通常用いられているものを用いた。また、人工歯でない歯(1本)は、対象者の残存歯であった。これらの人工歯を用いて、症例1と同様の義歯製作を行った。
【0066】
(咬合調整)
上記した義歯を装着後、左右側上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、及び第二大臼歯(人工歯及び残存歯)について、歯科医師により、症例1と同様の咬合調整が行われた。咬合調整は、義歯を装着後、1回の調製で、主訴としていた自覚症状は著しく改善した。本例においても、歯科医師による咬合調整は、短時間でかつ容易に実施された。
その後、約10日間にわたり、体の変化に伴う咬合の変化及び自覚症状の改善の確認ならびに自覚症状が再発していないことを確認するために、計2回の診察を行い、治療を終了した。すなわち、対象者の頭痛、肩こり、首筋こり、背痛、腰痛などの自覚症状は改善した。特に、肩こり、背痛、腰痛の自覚症状は顕著に改善した。
【0067】
(症例5)
(対象者)
53才、女性
(症状)
頭痛、顎痛、肩痛、肩こり、背痛、腰痛、眼精疲労
(使用した人工歯)
上顎 右側中切歯、左側第二小臼歯及び第一大臼歯を除いた残余の歯(計11本)
下顎 右側中切歯、側切歯及び犬歯、及び左側第一大臼歯を除いた残余の歯(計11本)
このうち、上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯の各歯(上下各8歯、合計16歯)に該当する人工歯については、上記実施形態で具体的に説明した、図1〜図6に示す形態を有する人工歯を用い、その他の人工歯については、通常用いられているものを用いた。また、人工歯でない歯(計6本)は、対象者の残存歯であった。これらの人工歯を用いて、症例1と同様の義歯製作を行った。
【0068】
(咬合調整)
上記した義歯を装着後、左右側上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、及び第二大臼歯(義歯及び残存歯)について、歯科医師により、症例1におけるのと同様の咬合調整が行われた。咬合調整は、義歯を装着後、1回の調整で、主訴としていた自覚症状は著しく改善した。歯科医師による咬合調整は、短時間でかつ容易に実施された。
その後、約1ヶ月にわたり、体の変化に伴う咬合の変化及び自覚症状の改善の確認ならびに自覚症状が再発していないことを確認するために、計2回の診察を行い、治療を終了した。すなわち、対象者の頭痛、顎痛、肩痛、肩こり、背痛、腰痛、眼精疲労は改善した。特に、頭痛、顎痛、肩痛、肩こり、背痛は、顕著に改善した。
【0069】
以上の症例からは、本発明による人工歯は、対象者が総義歯であっても部分義歯のいずれであっても、咬合力のバランスを中心とした治療を行うために有効であることが確認できた。
すなわち、本発明によれば、咬合異常により発症するかもしれない全身症状の予防及び咬合異常により発症した全身症状の改善という観点から、咀嚼時における咬合バランスに優れる義歯を提供することができた。
すなわち、本発明によれば、咬合異常の原因といわれる咬合重心の異常、咬頭干渉、下顎の運動制限が改善されることにより咬合力のバランスを取ることができることが明らかであった。
【0070】
【発明の効果】
本発明によれば、咬合バランスを容易に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一実施形態に係る本発明の義歯を構成する左頬側人工臼歯の中心咬合位の状態を、上顎側臼歯の支持咬頭頂を結んだ直線での断面で表した模式図である。
【図2】一実施形態に係る本発明の義歯を構成する左頬側人工臼歯の前方運動時における一定の状態を、上顎側臼歯の支持咬頭頂を結んだ直線での断面で表した模式図である。
【図3】一実施形態に係る本発明の義歯の左下顎側各人工臼歯の咬合面の状態を模式的に示す排列平面図である。
【図4】図1における各対合歯の咬合状態を模式的に示す頬舌方向の断面図であって、(a)(b)(c)および(d)は、それぞれ、上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯および第二大臼歯の咬合状態を示す。
【図5】図1における各対合歯の側方運動時(作業側)における咬合状態を模式的に示す頬舌方向の断面図であって、(a)(b)(c)および(d)は、それぞれ、上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯および第二大臼歯の咬合状態を示す。
【図6】図1における各対合歯の側方運動時(平衡側)における咬合状態を模式的に示す頬舌方向の断面図であって、(a)(b)(c)および(d)は、それぞれ、上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯および第二大臼歯の咬合状態を示す。
【図7】本発明における好ましい咬合状態の一例を示す図である。
【図8】従来の人工臼歯における中心咬合位を模式的に示す断面図である。
【図9】従来の人工臼歯における咀嚼時の一状態を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
10,20 第一小臼歯相当人工歯
30,40 第二小臼歯相当人工歯
50,60 第一大臼歯相当人工歯
70,80 第二大臼歯相当人工歯
12,32,52,72 支持咬頭
12a,32a,52a,72a 咬頭頂
G 溝
P 咬合平面
R4,R6 接触域
S1,S2,S3,S4,S5,S6,S7,S8 咬合面
T2,T8 接触部分
Claims (3)
- 上下顎の第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、及び第二大臼歯にそれぞれ相当する人工歯を備える義歯であって、備えられた人工歯は、以下の(A)から(H)の特徴;
(A)上顎第二小臼歯の支持咬頭頂と上顎第一大臼歯の支持咬頭頂とを包含する仮想平面は、咬合平面に対して平行となる;
(B)下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯の咬合面に形成される対合歯接触域における底部を包含する仮想平面は、咬合平面に対して平行となる;
(C)中心咬合位において、該上顎第二小臼歯の支持咬頭および上顎第一大臼歯の支持咬頭は、該下顎第二小臼歯および下顎第一大臼歯の咬合面に形成される各々対応する対合歯接触領域の底部に接触する;
(D)下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯の咬合面に形成される対合歯接触域における頂部を包含する仮想平面は、咬合平面に対して平行となる;
(E)上顎第二小臼歯の支持咬頭および上顎第一大臼歯の支持咬頭は、下顎第二小臼歯相当人工歯および下顎第一大臼歯相当人工歯の咬合面に形成されるそれぞれ対応する対合歯接触領域に同時に接触し得る;
(F)下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯のうち1歯以上に相当する人工歯の咬合面に形成される対合歯接触域の形状は、以下の角度条件:
(a) 矢状切歯路角≧矢状顆路角;及び
(b) 側方切歯路角>矢状顆路角;を満たすように形成されている;
(G)下顎第二小臼歯及び下顎第一大臼歯のうち1歯以上に相当する人工歯の咬合面に形成される対合歯接触域の形状は、すり鉢状でありかつ滑面状である;
(H)中心咬合位において、上顎の第一小臼歯及び第二大臼歯の各支持咬頭頂は同じ高さに配置され、上顎の第二小臼歯及び第一大臼歯の各支持咬頭頂は、上顎の第一小臼歯及び第二大臼歯の各支持咬頭頂の位置よりも下方でかつ同じ高さに配置される;
を有するように形成されている義歯。 - 請求項1に記載の義歯であって、
上顎の第二小臼歯と第一大臼歯は同じ硬度を有し、下顎の第二小臼歯と第一大臼歯とは同じ硬度を有し、下顎第二小臼歯及び第一大臼歯は、前記上顎第二小臼歯及び第一大臼歯の硬度と同じかそれよりも低い硬度を有する、義歯。 - 請求項2に記載の義歯であって、
上顎の第二小臼歯と第一大臼歯は、上顎の第一小臼歯及び第二大臼歯の硬度と同じかそれよりも高い硬度を有し、下顎の第二小臼歯と第一大臼歯は、下顎の第一小臼歯及び第二大臼歯の硬度と同じかそれよりも高い硬度を有する、義歯。
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