JP3775521B2 - 水槽用または貯水池用の内装シート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、水槽用または貯水池用の内装シート、および該内装シートを内部に装着した水槽または貯水池に関する。より詳細には、本発明は、水槽または貯水池の内部に装着した場合に、水槽また貯水池からの漏水を完全に且つ簡単に防ぐことのできる水槽用または貯水池用の内装シート、およびそのような内装シートを装着した水槽または貯水池に関する。
【0002】
【従来の技術】
貯水槽、防火用水槽、養魚用水槽、雑排水用水槽などとしてコンクリート製の水槽が従来から広く用いられている。コンクリート製水槽の現場での設置方法としては、工場でコンクリート製の水槽を予め製作してからそれを現場に搬入して設置する方法、現場でコンクリートの打設を直接行って水槽を構築する方法などが従来から採用されている。また、コンクリート製の水槽と同種または類似したものとして、コンクリート製の貯水池、防火用水池、養殖池、雑排水用池なども従来から汎用されており、これらの池の場合は現場でコンクリートの打設を直接行って構築する方法などが一般に採用されている。そしてそのいずれの場合も、水槽や池からの漏水の防止や止水のために、水槽や池の内部にコーキング処理を施す方法、防水塗料を被覆する方法などが一般に広く採用されている。
【0003】
しかしながら、コンクリート製の水槽や池では、コンクリートの乾燥収縮、地震、地盤沈下、侵食、老化などによってコンクリートにひび割れ、破損、歪み、変形などが生じ易く、そのような場合には、上記した従来のコーキング処理や防水塗料処理による場合は水槽や池からの漏水を完全に防止することが極めて困難であり、水槽や池に貯ためた水などの液体の減少、水槽や池から漏れた水などの液体による環境汚染などが生ずるという問題がある。
【0004】
そのため、コンクリート製の水槽や池からの漏水を防止する目的で、水槽や池の内部にその内壁に沿ってプラスチックシートから作製した内袋を取り付け、そのプラスチックシート製の内袋の内部に貯水する方法が一部で試みられている。しかしながら、プラスチックシート製内袋はその強度や耐久性が充分ではなく、コンクリート製の水槽や池の内部への装着時に破損を生じたり、水槽や池の内部に装着して使用したときに短期間のうちに劣化や破損が生じてその防水能や漏水防止能が短期間に失われ易いという欠点がある。特に、コンクリート製の水槽や池では、コンクリートから溶出してくるアルカリ分によって水槽や池の水がアルカリ性になり、プラスチックシート製内袋の劣化が一層促進され易い。
【0005】
また、水槽や池からの漏水はコンクリート製の水槽や池に限ったものではなく、鋼材などの金属、木材、プラスチック、ガラス、土などから形成されている水槽や池などでも同様の問題をかかえており、これらの水槽や池においても簡便な方法でしかも長期に亙って安定してその漏水を防止し得る対策が望まれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、コンクリート製の水槽や池、さらには木材、鋼材などの金属、プラスチック、ガラス、土などから形成された水槽や池からの漏水を、簡便な方法で、完全に且つ長期に亙って防止し得る対策を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らは色々検討を重ねてきた。そして、プラスチックシートから作製した内袋を水槽や池の内部に取り付ける上記した従来技術において、その内袋をプラスチックのみからなるシートから作製せずに、繊維で補強されたプラスチックシートから作製すれば耐久性が向上して長期に亙って水槽や池からの漏水を防止できるのではないかということに思い至った。そしてそのような着想に基づいて、繊維基布の表面にポリ塩化ビニルなどのプラスチックフイルムを貼着して積層シートをつくり、その積層シートを裁断し、その裁断片を水槽の内部形状に合うように端部で溶着して内袋を作製して、その内袋を水槽の内側に装着して漏水の有無を調査する実験を行った。
【0008】
ところが、そのような実験の結果、内袋の内側に入れた水が内袋の外側に少しずつ漏れ出して内袋の外側と水槽内壁との間に水が溜まるという問題が生じ、そのため水槽の壁部分などに亀裂などが生じていた場合には内袋と水槽内壁との間に溜まった水が水槽外に漏れてしまい、水槽内にそのような内袋を装着しても漏水の防止が完全には行えないことが判明した。そして、その原因について更に詳細に調査を重ねた結果、図1で例示するように(図1は内袋Aを装着した水槽1を上方から見た場合を例示した図である)、内袋Aを構成する積層シートの裁断片2の溶着端部3に、積層シートの裁断片2の繊維基布4が露出していて、その露出部を伝って内袋に入れた水が毛管現象などによって積層シートの裁断片2の内部の繊維基布4の層を伝わって内袋Aを構成する積層シートの裁断片2の別の溶着端部3’から漏れ出て、内袋Aの外側と水槽1の内壁との間の僅かな空間5に水が溜ることが明らかになった。
【0009】
そこで、本発明者らは、上記のような知見を踏まえて更に検討を重ねたところ、内袋を作製するためのシートとして、繊維基布に熱可塑性重合体を含浸させ、その熱可塑性重合体を含浸させた繊維基布の両面に、繊維基布に含浸させた熱可塑性重合体と親和性の熱可塑性重合体からなるフィルムまたはシートを被覆層として更に積層して熱プレスにより一体化して含浸積層シートを形成し、その含浸積層シートを用いて内袋を作製し、それを水槽や池の内部に装着したところ、内袋の内側に水を入れても、内袋を構成する含浸積層シート裁断片の接合端部での水の浸入が防止されて内袋の外側に水が漏れ出なくなることを見出して、そのような知見に基づいて本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、繊維基布に含浸用熱可塑性重合体の溶融液またはペーストを含浸させた後に該繊維基布の両面に前記含浸用熱可塑性重合体と親和性のある熱可塑性重合体からなるフィルムまたはシートを更に積層して熱プレスにより一体化して形成した含浸積層シートを用いて作製した水槽用または貯水池用の袋状の内装シートであって、水槽または貯水池の内部形状と同じかまたはほぼ同じ立体形状に作製してあることを特徴とする水槽用または貯水池用の袋状の内装シートである(以下、本発明の袋状の内装シートを単に「内装シート」という)。
そして、本発明は、上記の内装シートを内部に装着してあることを特徴とする水槽または貯水池である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明では、本発明の内装シートを装着するための水槽および貯水池の種類、形状、規模、材質などは特に制限されず、漏水の防止が必要な水槽(タンクも含む)および貯水池のいずれに対しても適用できる。限定されるものではないが、本発明の内装シートは、例えば、飲料水、工業用水、防火用水、農業用水、雑排水、養魚用水などの水を貯めるための水槽または池(すなわち貯水池)に対して用いることができ、場合によっては水泳用プールなどに対して用いてもよい。その場合に、水槽または貯水池に溜められる水は、水のみからなっている必要はなく、水以外の液体、水溶性成分、水不溶性成分、固体物などを勿論含有していてもよい。
【0012】
内装シート用の含浸積層シートに用いる繊維基布は、耐水性に優れる繊維から製造された基布であればいずれでもよく、合成繊維、天然繊維、半合成繊維、人造繊維、それらの2種または3種以上からなる混合繊維のいずれから製造されていてもよいが、吸水性の低い繊維から形成してあるものが好ましく、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、それらの混合繊維などの合成繊維から形成した基布であるのが好ましい。そのうちでも、コンクリート製の水槽や貯水池に使用する内装シートの場合は、繊維基布が耐アルカリ性に優れていることが望ましく、例えばビニロン、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、それらの混合繊維や複合繊維から形成された繊維基布を用いるのが望ましい。繊維基布を構成する繊維の太さなどは特に制限されない。
また、繊維基布は、紡績糸、フィラメント糸、短繊維などのいずれか製造してあってもよい。
【0013】
また、内装シート用の含浸積層シートに用いる繊維基布は、織布、編布、不織布、網などのいずれの形態であってもよい。そのうちでも、織布を繊維基布として用いると、含浸積層シートの寸法変化が小さくなり、所定の強度の含浸積層シートが製造し易い。
【0014】
内装シートの製作の容易性、内装シートの水槽や貯水池への装着性などの点から、含浸積層シートにおける繊維基布含浸用の熱可塑性重合体(以下「含浸用熱可塑性重合体」ということがある)としては、常温で可撓性を示す熱可塑性重合体を用いるのが好ましい。
含浸用熱可塑性重合体の例としては、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、アクリル樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアミド、熱可塑性エラストマー(ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなど)を挙げることができ、これらの熱可塑性重合体は単独で用いても、または2種以上を併用してもよい。そして、前記した熱可塑性重合体のうちでも、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリウレタンなどが取り扱い性、経済性、耐アルカリ性などの点から好ましい。特に、コンクリート製の水槽や貯水池に用いる内装シート用の含浸積層シートでは、含浸用熱可塑性重合体としてポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体を用いるのが耐アルカリ性が優れている点から好ましい。その場合に、上記した含浸用熱可塑性重合体は、必要に応じて可塑剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、無機充填剤などの他の成分を含有した熱可塑性重合体組成物の形態であってもよい。
【0015】
また、熱可塑性重合体を含浸した繊維基布の両面に被覆層を形成させる熱可塑性重合体フィルムまたはシートを構成する熱可塑性重合体(以下「被覆用熱可塑性重合体」ということがある)としては、繊維基布に含浸させた熱可塑性重合体と親和性のあるものを使用することが必要である。含浸用熱可塑性重合体に対する被覆用熱可塑性重合体の親和性が低いと、含浸用熱可塑性重合体を含浸させた繊維基布と被覆用熱可塑性重合体との間の接着および密着などが不良となって、耐漏水性に優れる含浸積層シートおよび内装シートが得られなくなる。一般に、含浸用熱可塑性重合体および被覆用熱可塑性重合体として同じ熱可塑性重合体を用いたり、同類の熱可塑性重合体を用いるのが親和性が高く、好ましい。限定されるものではないが、含浸用熱可塑性重合体としてポリ塩化ビニル、塩化ビニル系共重合体などを用いた場合は、被覆用熱可塑性重合体としてポリ塩化ビニルおよび塩化ビニル系共重合体のうちの1種または2種以上が好ましく用いられ、含浸用熱可塑性重合体として例えば、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体を用いた場合は被覆用熱可塑性重合体としてポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、その他のオレフィン系重合体のうちの1種または2種以上が好ましく用いられ、含浸用熱可塑性重合体として例えば熱可塑性ポリウレタン、アクリル樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂を用いた場合は被覆用熱可塑性重合体として熱可塑性ポリウレタン、アクリル樹脂または熱可塑性ポリエステル樹脂がそれぞれ好ましく用いられる。また、被覆用熱可塑性重合体も、必要に応じて他の添加剤、成分、他のポリマーなどを含む熱可塑性重合体組成物の形で用いることができる。
【0016】
そして、含浸用および被覆用の熱可塑性重合体または熱可塑性重合体組成物は、いずれも、水槽や貯水池中に溜められる水の性質や用途などを考慮して、それぞれの水槽や貯水池に適したものを選択して使用することが必要であり、例えば飲料水用の水槽などに用いる場合は、毒性成分を含まない、安全性に優れる熱可塑性重合体や熱可塑性重合体組成物を選択して用いる必要がある。上記したポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、熱可塑性ポリウレタン、アクリル樹脂、またはそれらの組成物は安全性が高く、飲料水の水槽用の内装シートに用いる含浸積層シートにおける含浸用熱可塑性重合体および被覆用熱可塑性重合体として用いることができる。
【0017】
含浸積層シートでは、熱可塑性重合体を含浸させた繊維基布の両面に、熱可塑性重合体からなるフィルムまたはシートを更に積層して熱プレスにより一体化して形成した被覆用熱可塑性重合体の被覆層が形成されている。両面に当該被覆用熱可塑性重合体の層が形成されていることにより、含浸積層シートから形成される内装シートの耐漏水性が一層良好になり、しかも含浸積層シートから水槽や貯水池の内部形状に合致した内装シートを溶着などによって形成する際の溶着性、作業性などが良好になる。含浸積層シートにおける被覆熱可塑性重合体の層の厚さも特に制限されず、それが用いられる水槽や貯水池の種類や規模などに応じて調節できるが、一般に約0.05〜1mm程度であるのが好ましく、約0.1〜0.7mm程度であるのがより好ましい。
【0018】
内装シート用の含浸積層シートの厚さはそれが用いられる水槽や貯水池の種類や規模などに応じて調節できるが、一般に含浸積層シートの全体の厚さを約0.3〜3mm程度としておくのが好ましく、約0.4〜2.0mm程度であるのがより好ましく、0.5〜1mm程度であるのが更に好ましい。含浸積層シートの全体の厚さが0.3mmよりも小さいと、含浸積層シートから形成される内装シートの機械的強度等が小さくなり易く、しかも耐漏水性も不充分になり易く、耐久性および耐漏水性に優れる内装シートが得られにくくなる。一方、含浸積層シートの全体の厚さが3mmよりも大きいと、水槽や貯水池の内部形状に合致した内装シートを溶着などによって製造する際の作業性が不良となり易く、含浸積層シートから形成内装シートを水槽や貯水池の内部に装着する際の展張作業などが行いにくくなる。
【0019】
含浸積層シートの製造法としては、繊維基布に含浸用熱可塑性重合体の溶融液またはペーストを均一に隙間なく含浸させた後に該熱可塑性重合体含浸繊維基布の両面に被覆用熱可塑性重合体からなるフィルムまたはシートを更に積層して熱プレスにより一体化して、熱可塑性重合体含浸繊維基布の両面に被覆熱可塑性重合体からなる被覆層が密に形成されている含浸積層シートを形成し得る方法が採用される。
含浸積層シートの製法としては、例えば、繊維基布を含浸用熱可塑性重合体の溶融液またはペースト中に浸漬した後、液切し、その後ヒートロールで熱処理して該熱可塑性重合体を固化するか又は含浸熱可塑性用重合体の溶融液またはペーストを噴霧、塗布などによって繊維基布上に施した後ロールなどで押圧して該溶融液またはペーストを繊維基布中に浸透(含浸)させた後に、或いは前記のいずれかの方法において繊維基布中に含浸または浸透させた含浸用熱可塑性重合体が未だ液状を呈している間に、繊維基布の両面に含浸用熱可塑性重合体と親和性のある被覆用熱可塑性重合体からなるフィルムやシートを積層して熱プレスにより一体化して含浸積層シートを製造する方法などを挙げることができる。
【0020】
上記した方法を行う際に、含浸用熱可塑性重合体を含浸させた繊維基布の両面に被覆用熱可塑性重合体のフィルムまたはシートを用いて被覆層を形成するに当たっては、繊維基布の両面への被覆層の形成を同時に行っても、または一方の面に被覆層を形成した後それに続いて残りの面に被覆層を形成するようにしてもよい。
【0021】
そして、上記した含浸積層シートを用いて水槽や貯水池の内部に装着する内装シートを作製する。内装シートの作製方法は特に制限されず、内装シート内に入れた水や液体が外部に漏れでないような方法であればいずれでもよい。一般的には、例えば上記した含浸積層シートを適当な大きさの片に裁断し、その裁断片を水槽や貯水池の大きさや形状などに合わせて、複数枚接合して、袋状に作製することによって内装シートを得ることができる。その際に、含浸積層シートの裁断片の接合方法としては、その接合部から漏水を生じないような接合法であればいずれも採用でき、例えば溶着加工、耐水性接着剤による接着加工などを採用できる。そのうちでも、含浸積層シートの表面における被覆用重合体として熱可塑性重合体またはその組成物を用いているので、溶着加工による接合法が好ましく用いられ、それによって漏水のない内装シートを円滑に且つ簡単に製作することができる。内装シートの製造に際して、裁断した含浸積層シートの接合を縫製、ホチキス止めなどのような、針穴やその他の穴の形成を伴う接合法によって行ったり、非接合部が存在するような接合法により行うと、穴の部分や非接合部から漏水を生ずるので適当でない。
【0022】
含浸積層シートの裁断片の溶着方法は特に制限されず、プラスチックの溶着に通常用いられている溶着法が採用でき、例えば、高周波ウエルダー溶着、超音波溶着、熱風溶着、熱ローラ溶着、インパルス溶着などの溶着法を挙げることができ、そのうちでも高周波ウエルダー溶着および熱風溶着が好ましく用いられる。
【0023】
内装シートを作製する際の含浸積層シートの裁断片の溶着は、通常、裁断片の端部同士を溶着することによって行われる。その際の端部の接合構造は特に制限されず、漏水が生じないような接合構造であればよく、例えば図2の(a)〜(d)に示すような接合構造を挙げることができる。なお、図2において、6および6’は含浸積層シートBを裁断して得たそれぞれの裁断片を示す。そのうちでも、接合が簡単である点から、図2の(a)および(b)の接合構造が好ましく、(a)の接合構造がより好ましい。そして、図2の(a)および(b)に示すような接合構造を採用した場合には、裁断片6,6’の裁断端部において含浸積層シートB,B’に含まれる繊維基布層7、7’の一部が露出するが、その繊維基布層7,7’には重合体が含浸されていて毛管現象による水などの吸い上げが生じないようにしてあるので、裁断片6,6’の裁断端部から水槽や貯水池内の水が浸入して含浸積層シートの内部を伝わって内装シートの外側に水などの液体が漏れるというような問題は生じない。
【0024】
本発明では、含浸積層シートから作製される内装シートの形状や大きさなどは特に制限されず、内装シートを装着する水槽や貯水池の形状や大きさなどに応じて決めればよい。何ら限定されるものではないが、例えば、方形の水槽内に内装シートを装着する場合は、内装シートを水槽の内部形状および寸法に合致させて方形の袋状とするのがよく、また水槽が円筒形の場合は内装シートもその内部形状に合わせて有底円筒形にすればよい。また、内部に凹凸部などを有する水槽や貯水池に装着する内装シートの場合は、内装シートも水槽や貯水池の内部形状や寸法に合わせた凹凸部を有する形状や寸法とすればよい。
また、内装シートを取り付ける水槽や貯水池などの構造や用途などに応じて、その内部に取り付ける内装シートは、上部の開放した構造であっても、水の出入口を有する上部閉鎖型の構造であっても、またはその他の構造であってもよい。
【0025】
また、内装シートを水槽や貯水池の内側にずれ、外れ、移動などを生ずることなく強固に安定して装着するために、内装シートを適当な固定手段を用いて水槽や貯水池の内壁、内底、開口部などに固定するのが望ましい。その際の固定法は、固定部分からの漏水が生じないような方法であることが必要であり、例えばボルト・ナットによる固定法などのような内装シートに穴あけの伴う固定方法は不適当である。但し、水槽や貯水池の水の存在しない外部において、水槽や貯水池の上部外方まで延長して設けた内装シートの一部をボルトやナットなどの穴あけの伴う固定方法で固定する分には構わない。内装シートは接着剤によって水槽や貯水池の内壁などに接着・固定してもよいが、着脱可能な固定手段を用いるのが、内装シートが古くなったときにその取り替え作業が容易であり好ましい。
【0026】
内装シートを水槽や貯水池の内壁や内底などに着脱可能に固定する方法としては、面ファスナーによる固定方法を挙げることができる。面ファスナーによって内装シートを水槽や貯水池の内部に固定した場合には、固定部分での漏水を生ずることなく、内装シートを水槽や貯水池の内部に円滑に固定して取り付けることができる。面ファスナーを使用する場合は、面ファスナーの凸状係合部を内装シートの外側の部分に取り付け、一方水槽や貯水池の内壁等に面ファスナーの凹状係合部を取り付けて両者を係合して固定するようにしても、面ファスナーの凹状係合部を内装シートの外側の部分に取り付け、一方水槽や貯水池の内壁等に面ファスナーの凸状係合部を取り付けて両者を係合して固定するようにしても、または前2者を組み合わせて固定するようにしてもよい。その場合に、面ファスナーの種類や面ファスナーにおける凹状係合部や凸状係合部の構造や形状なども特に制限されず、内装シートを水槽や貯水池の内部に安定して強固に固定し得るものであればいずれも使用することができる。
【0027】
何ら限定されるものではないが、内装シートを水槽の内壁や内底などに着脱可能に固定する具体的な方法としては、例えば図3に示すように、水槽1の内壁に面ファスナー8の凹状係合部8a(または凸状係合部8b)を接着剤やその他の固着手段で取り付けており、一方内装シートAの外側の相当する位置に面ファスナー8の凸状係合部8b(または凹状係合部8a)を接着剤や溶着などの適当な方法で取り付けておいて、内装シートAを水槽1の内部に配置した後に、面ファスナー8の凹状係合部8aと凸状係合部8bを互いに係合させることによって、内装シートAを水槽1内に安定した状態で固定することができる。その際に、使用する面ファスナーの数、それぞれの面ファスナーの大きさ(係合部の面積)、面ファスナーを取り付ける位置などは特に制限されず、各々の状況に応じて選択することができる。
【0028】
【実施例】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明はそれにより何ら制限されない。
【0029】
《試験例1》[耐漏水性試験]
(1)含浸積層シートの製造:
(i) ビニロンマルチフィラメント糸(1000デニール/150フィラメント)を3本引き揃えて1本の糸条として、これを用いて製織してビニロン製平織物を製造した(緯20本/インチ、経18本/インチ)。
(ii) 上記(i)で製造したビニロン製平織物をポリ塩化ビニルペースト(平均重合度800、可塑剤量100重量部/ポリ塩化ビニル100重量部)中に浸漬し、液切りした後、約170℃のヒートローラで含浸熱圧処理して、ポリ塩化ビニルペーストの含浸量が約200g/m2の平織物であるポリ塩化ビニル含浸繊維基布を製造し、これを繊維基布の緯経に沿って楕円形(長辺50cm、短辺30cm)に裁断した。
(iii) 平均重合度2300のポリ塩化ビニル100重量部、ニトリルゴム5重量部、ポリエステル系可塑剤70重量部、エポキシ系大豆油約3重量部、安定剤約2重量部および紫外線吸収剤約1重量部からなるポリ塩化ビニル樹脂組成物を用いて、常法によってカレンダー成形して、厚さ0.23mmの無毒性の軟質ポリ塩化ビニルフイルムを製造し、このフイルムから楕円形(長辺50cm、短辺30cm)の裁断片を2枚作製した。
(iv) 上記(ii)で作製したポリ塩化ビニル含浸繊維基布の楕円形の裁断片の表裏面に、上記(iii)で作製した軟質ポリ塩化ビニルフイルムの楕円形の裁断片を重ねて、温度170℃、圧力20kgf/cm2の条件下に30秒間熱プレス処理を行って、ポリ塩化ビニル含浸繊維基布の両面に軟質ポリ塩化ビニルの被覆層を有する楕円形の含浸積層シートを製造した。
【0030】
(2)含浸積層シートの耐漏水性試験:
(i) 上記(1)の(iv)で製造した楕円形の含浸積層シートを、繊維基布の緯経糸に沿って裁断して、図4に示す形状および寸法を有する、中央に方形の穴9のあいた試験片Cを作製した。
(ii) 上記(i)で作製した含浸積層シートの試験片Cをその方形の穴9が中央に位置するようにして、図5に示す構造を有する加圧液密試験機D(耐水圧試験機)(クラレプラスチックス社製;加圧液密試験機Dの空間部10の内径50mm、長さ200mm)の上部装置11と下部装置11’の円形のつば12とつば12’の間に挟持した後、入口13からその空間部10に水を50mmの深さに入れた。
(iii) 次いで、入口13から加圧空気を0.5kgf/cm2の圧力になるように導入して加圧し、試験片Cの端部14から水が滴下するまでの時間を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0031】
(3)積層シート(非含浸積層シート)の製造:
上記(1)の(i)で製造したビニロン製平織物の表裏面に、上記(1)の(iii)と同様にして製造した軟質ポリ塩化ビニルフイルムの楕円形の裁断片を重ねて、温度170℃、圧力20kgf/cm2の条件下に30秒間熱プレス処理を行った後、ビニロン製平織物を同じ楕円形に揃えて裁断して、繊維基布の両面に軟質ポリ塩化ビニルの被覆層を有する楕円形の積層シート(非含浸積層シート)を製造した。
【0032】
(4)積層シート(非含浸積層シート)の耐漏水性試験:
(i) 上記(3)で製造した楕円形の積層シートを、繊維基布の緯経糸に沿って裁断して、図4に示す形状および寸法を有する、中央に方形の穴9のあいた試験片Cを作製した。
(ii) 上記(i)で作製した積層シートの試験片Cをその方形の穴9が中央に位置するようにして、上記(2)で使用したのと同じ図5に示す加圧液密試験機Dの上部装置11と下部装置11’の円形のつば12とつば12’の間に挟持した後、入口13からその空間部10に水を50mmの深さに入れ、入口13から加圧空気を0.5kgf/cm2の圧力になるように導入して加圧し、試験片Cの端部14から水が滴下するまでの時間を測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0033】
【表1】
【0034】
上記の表1の結果から、熱可塑性重合体を含浸させた繊維基布の両面に該含浸熱可塑性重合体と親和性の熱可塑性重合体からなるフィルムを更に積層して熱プレスにより一体化して被覆層を有する含浸積層シートの場合は、空気加圧後900秒経っても、含浸積層シートの試験片Cの切断部分(試験片Cの方形の穴9の部分)に露出している繊維基布層への水の浸入がなく、そのため漏水が生じないのに対して、繊維基布に重合体を含浸させずに作製した積層シートでは、空気加圧後210秒後にその試験片の端部14から水が滴下するようになり、耐漏水性に劣っていることがわかる。
【0035】
《実施例 1》
(1) 参考例1の(1)の(i)と同じビニロン製平織物(緯20本/インチ、経18本/インチ)を製造した後、この平織物に参考例1の(1)の(ii)と同様にしてポリ塩化ビニルを含浸させてポリ塩化ビニル含浸繊維基布を製造した。
(2) 上記(1)とは別に、参考例1の(1)の(iii)で用いたのと同じポリ塩化ビニル樹脂組成物を用いて、厚さ0.23mmの無毒性の軟質ポリ塩化ビニルフイルムを製造した。
(3) 上記(1)で製造したポリ塩化ビニル含浸繊維基布の表裏面に上記(2)で製造した軟質ポリ塩化ビニルフイルムを重ねて、温度170℃、圧力20kgf/cm2の条件下に30秒間熱プレス処理を行って、ポリ塩化ビニル含浸繊維基布の両面に軟質ポリ塩化ビニルの被覆層を有する含浸積層シート(幅50cm)を製造した。
【0036】
(4) 上記(3)で製造し含浸積層シートを適当な大きさに裁断して複数の裁断片をつくり、その裁断片の端部を重ねた状態で(重ね幅50mm)、高周波ウエルダーを用いて溶着させて、図6の(a)に示す構造および寸法を有する水槽用の内装シートAを作製した。
(5) 上記(4)で作製した内装シートAの外部の所定位置に複数の面ファスナー8[(株)クラレ製「マジックハードKDA004」;1個の面ファスナーの面積100cm2)の凹状係合部8aを溶着によって取り付けた。
(6) 一方、その内部の形状および寸法が、上記(4)で作製した内装シートAとほぼ同じになっている図6の(b)に示すコンクリート製の水槽1(水槽の壁部、底部および天井部の厚さ約30cm)の内壁、内底および天井部の所定位置に、上記した面ファスナー8の凸状係合部8bを接着剤で取り付けた。
【0037】
(7) 上記(6)で準備した面ファスナーの凸状係合部8bを取り付けた水槽1内に、上記(5)で準備した面ファスナーの凹状係合部8aを外部に有する内装シートAを水槽1に挿入して、面ファスナー8の凹状係合部8aと凸状係合部8bを係合させて、図6の(b)に示すようにして、内装シートAを水槽1に固定させた。
(7) 次いで、内装シートAの開口部15からほぼ満水状態になるまで水を入れて、12カ月にわたって漏水試験を行ったが、水槽Aの壁部、底部および天井部においてその外側での漏水が全く認められなかった。
【0038】
【発明の効果】
熱可塑性重合体を含浸させた繊維基布の両面に該含浸させた熱可塑性重合体と親和性の熱可塑性重合体からなるフィルムまたはシートを更に積層して熱プレスにより一体化して形成した被覆層を有する含浸積層シートを用いて作製した本発明の内装シートを用いた場合には、該内装シートを水槽や貯水池に装着するという極めて簡便な方法で、水槽や貯水池からの漏水を長期に亙って防止することができる。
そして、本発明による場合は、水槽や貯水池の内部形状に応じて、それに合った形状や寸法の内装シートを簡単に製造することができる。特に、内装シート用の含浸積層シートの一面または両面の被覆層を熱可塑性重合体またはその組成物から形成した場合には、該含浸積層シートの片を溶着によって接合して、耐漏水性に優れる内装シートを簡単に作製することができる。
【0039】
さらに、本発明の内装シートは、コンクリート製、鋼材などの金属製、木材製、プラスチック製、ガラス製の水槽や貯水池、土から形成された水槽や貯水池のいずれに対しても、その漏水防止のために有効に使用することができ、特に亀裂、破損、アルカリによる侵食などによって漏水が生じ易い、コンクリート製の水槽や貯水池に有効に使用することができる。
そして、本発明による場合は、内装シートを装着する水槽や貯水池中に溜められる水や液体の種類に応じて内装シートを構成する含浸積層シートにおける繊維基布の種類、含浸用熱可塑性重合体や被覆用熱可塑性重合体の種類などを選択することによって、各々の水槽や貯水池に適した内装シートを作製することができる。
また、本発明において、内装シートの水槽や貯水池の内部への固定を面ファスナーによって行った場合には、漏水を生ずることなく内装シートや水槽や貯水池の内部に極めて簡単に且つ強固に取り付けることができ、しかも内装シートの取り替えや着脱を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】繊維基布に重合体を含浸していない繊維基布と重合体被覆層からなる積層シート製の内袋Aを装着した水槽を上方から見た場合の図である。
【図2】内装シートの作製に当たって含浸積層シートの裁断片を接合する場合の接合構造の例を示す図である。
【図3】面ファスナーを用いて内装シートを水槽の内壁に固定する場合の例を示す図である。
【図4】耐漏水性試験を行うのに用いた試験片Cの形状および寸法を示す図である。
【図5】耐漏水性試験を行うのに用いた加圧液密試験機の構造を示す図である。
【図6】本発明の内装シートの一例を示す図である。
【符号の説明】
A 内装シート(内袋)
B 含浸積層シート
B' 含浸積層シート
C 試験片
D 加圧液密試験機
1 水槽
2 裁断片
3 溶着端部
3’ 溶着端部
4 繊維基布
5 空間
6 含浸積層シートの裁断片
6’ 含浸積層シートの裁断片
7 繊維基布層
7’ 繊維基布層
8 面ファスナー
8a 面ファスナーの凹状係合部
8b 面ファスナーの凸状係合部
9 試験片Cの穴
10 空間部
11 加圧液密試験機の上部装置
11' 加圧液密試験機の下部装置
12 つば
12’ つば
13 入口
14 試験片Cの端部
15 内装シートの開口部
Claims (5)
- 繊維基布に含浸用熱可塑性重合体の溶融液またはペーストを含浸させた後に該繊維基布の両面に前記含浸用熱可塑性重合体と親和性のある熱可塑性重合体からなるフィルムまたはシートを更に積層して熱プレスにより一体化して形成した含浸積層シートを用いて作製した水槽用または貯水池用の袋状の内装シートであって、水槽または貯水池の内部形状と同じかまたはほぼ同じ立体形状に作製してあることを特徴とする水槽用または貯水池用の袋状の内装シート。
- 含浸積層シート片の溶着によって水槽または貯水池の内部形状と同じかまたはほぼ同じ立体形状に作製してある請求項1の袋状の内装シート。
- 請求項1または2の袋状の内装シートを内部に装着してあることを特徴とする水槽または貯水池。
- 袋状の内装シートに対する穴あけを伴わない固定手段によって該袋状の内装シートを内部に装着してある請求項3の水槽または貯水池。
- 面ファスナーを利用した固定手段によって袋状の内装シートを内部に装着してある請求項5の水槽または貯水池。
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