JP4142798B2 - 加湿エレメント及びそれを用いた加湿器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は加湿用エレメント及びそれを利用した加湿器の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
疎水性高分子の多孔質シートを用いた透湿膜式加湿器が知られている。これは、図1に示すように、水の通過を阻止し、水蒸気の通過を許容する疎水性高分子多孔質膜41に補強材42を積層したシートを用いて袋帯状の中空構造体43を加湿用部材として用いて構成したものである。中空構造体43の内部には水の流路を確保するためのスペーサ44を配置し、図2に示すように、通風路を確保するためのセパレータ45とともに渦巻状に巻き上げ、取付枠46内に収納される。
このように構成された加湿器を運転するには、注水口47より加湿用水を袋帯状の中空構造体43の内部に供給し、取付枠46の開口部へと空気を送る。これにより、中空構造体43の内部の水は、疎水性高分子多孔質膜41を介して水蒸気として外部へ放出され、加湿が行われる(特開昭60−171337号公報、特開昭61−250429号公報等)。
【0003】
ところが、このタイプの加湿器は、前記袋帯状の中空構造体の内部に給水されると、中空構造体が膨張して空気の通路を狭くするために、加湿効率が低下したり、空気の圧力損失が増大したりする。また、内部水圧によるシートの破壊を防ぐために、補強材が不可欠であった。
【0004】
このような問題点を解決するため、本出願人は、特開平8−100935号公報及び特開平8−1788376号公報において、加湿用水を吸収、保持しうる加湿用水保持層(水吸収層)の両面に、水蒸気透過性で水不透過性の透湿膜を設けた加湿用シートから構成される加湿エレメント及びそれを用いた加湿器を提案した。この加湿器は、複数の矩形状加湿エレメントをスペーサを介して積層し、通風可能な空間を持たせる一方、矩形状加湿エレメントの一端側に加湿用水の供給用貫通孔(給水口)を設けるとともに他端側に加湿用水の排出用貫通孔(排水口)を設けた構造となっている。また各加湿エレメントの給水口同士及び排水口同士は接着剤を塗布して水密構造に連結されている。このような構造とすると、加湿用水を供給してもシートの膨れが生じないため、通風路が狭くなって加湿効率が低下したり、加湿する空気の圧力損失が増大したりすることがなく、また補強材を使用せずに加湿器を構成することも可能になる。
【0005】
本出願人が提案した上記加湿エレメント及びそれを用いた加湿器は上述のように優れた効果を得るものであったが、給水口同士及び排水口同士を水密構造に連結するための接着剤の塗布工程を、給水口側と排水口側の2個所で行う必要があり、また各加湿エレメントに設けられた貫通孔の位置合わせが難しく、生産性の点でさらに改良の余地があった。また、長期間の使用による加湿性能の維持の観点から、加湿用水中の異物や不純物の堆積による加湿性能劣化が少なく、さらに長期安定性にすぐれた加湿器の実現が望まれていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題点を解決するものであって、給水後も膨れが生じず、補強材を不要とし、さらに生産性にすぐれ、且つ長期安定性にもすぐれた加湿エレメント及びそれを用いた加湿器を提供することをその課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、上記課題を解決するため、加湿用水を吸収、保持しうる加湿用水保持層の両面に、水蒸気透過性で水不透過性の透湿膜を設けてなり、且つ第1の短辺及び第2の短辺並びに第1の長辺及び第2の長辺を有する略矩形状の加湿シートを用いて構成され、該加湿シートの周縁部は水密に閉じられており、該第1の短辺側に、加湿用水を供給するための供給用貫通孔と、加湿用水を排出するための排出用貫通孔を有し、さらに該供給用貫通孔から供給された加湿用水が当該加湿エレメントの第1の長辺、第2の短辺及び第2の長辺にそって流れた後に該排出用貫通孔に至る流路を形成するために加湿用水保持層に設けられた仕切り部を有することを特徴とする加湿エレメントが提供される。
また、本発明によれば、上記加湿エレメントが被加湿空気を通過させるための間隔をおいて複数枚積層されてなり、且つ該供給用貫通孔及び排出用貫通孔はそれぞれ水密に連結されて共通の加湿用水供給口及び加湿用水排出口が形成されていることを特徴とする加湿器が提供される。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明の加湿エレメントは、図3に示すように加湿用水を吸収、保持しうる加湿用水保持層1の両面に、水蒸気透過性で水不透過性の透湿膜2A、2Bを設けた加湿用シート3から構成され、その周縁部4は図4に示すように水密に閉じられている。また、本加湿エレメントは、図5に示すように、全体が矩形状をなし、第1の短辺S1及び第2の短辺S2並びに第1の長辺L1及び第2の長辺L2を有している。また、本加湿エレメントの第1の短辺S1側には、加湿用水を供給するための供給用貫通孔Hと、加湿用水を排出するための排出用貫通孔H’が設けられている。本加湿エレメントにおいては、加湿用水保持層1に仕切り部6が設けられており、この仕切り部6により、供給用貫通孔Hから供給された加湿用水が第1の長辺L1、第2の短辺S2及び第2の長辺L2に沿って流れた後に排出用貫通孔H’に至って排出される流路Pが形成される。
【0009】
加湿用水保持層1は、加湿用水を吸収、保持することが可能なシート状材料からなる。この加湿用水保持層材料は、当該加湿用エレメントを使用した加湿器の運転時に、透湿膜2A、2Bを介して加湿用水を水蒸気として放出するものであればよく、適宜の材料が使用可能であるが、(i)不織布、(ii)織布、(iii)編布、(iv)発泡性材料、(v)多孔性焼結体の使用が特に好ましい。
【0010】
上記(i)の不織布としては、一般的には、厚み1〜5mm、好ましくは1〜2mm、目付け10〜5000g/m2、好ましくは50〜500g/m2のものが使用される。例えば、ポリエチレン樹脂の不織布(一例として厚さ2mm、目付け300g/m2)、ポリプロピレン樹脂の不織布(一例として厚さ2mm、目付け50g/m2)等を用いることができる。
【0011】
上記(ii)の織布としては、一般的には、5〜5000デニール、好ましくは200〜1000デニールの繊維を織ったもの、例えば、500デニールのポリエステル繊維の平織の織布、200デニールのナイロン繊維を織り込んだもの等を用いることができる。厚さは1〜5mm、好ましくは1〜2mm程度のものを用いる。
【0012】
上記(iii)の編布としては、一般的には、厚み1〜5mm、好ましくは1〜2mm、開孔率30〜98%、好ましくは60〜90%のもの、例えば、500デニールのポリプロピレン繊維を20×22メッシュ/インチに編みこんだもの、編み目が5×5mm、厚さ1.5mmのネット等を用いることができる。
また、上記編布の特別な形態として、三次元構造布帛を用いることもできる。この三次元構造布帛は、表地組織と裏地組織とこれらを層全面にわたって一定間隔に保って連結する連結糸とから構成されるものである。加湿用水保持層に三次元構造布帛を用いると、注水された低圧力の水が加湿用シート内部の各部分に短時間で移動可能であり、加湿用水中の異物や不純物(赤錆、水苔など)によって水通路が容易に目詰まりしない利点がある。
前記三次元構造布帛において、表地組織と裏地組織は、合成繊維のモノフィラメントを用いて編成される。このような合成繊維としてはポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等を使用することができる。表地組織及び裏地組織の編成形態は円織り、平織り等とすることができる。表地組織と裏地組織に使用するモノフィラメントの種類は同じでも異なっていてもよく、また編成形態も同じでも異なっていてもよい。表地組織及び裏地組織に使用するモノフィラメントの直径は0.1〜1mm、好ましくは0.2〜0.3mmである。
表地組織と裏地組織を連結する連結糸は、これら組織に用いる合成繊維のモノフィラメントと同じであっても異なっていてもよい。連結糸に使用するモノフィラメントの直径は0.04〜1mm、好ましくは0.04〜0.06mmである。
前記三次元構造布帛の厚さは1〜5mm、好ましくは1〜2mmであり、下記式で示す空隙指数Kは50〜90、好ましくは85〜90である。
K=1−W/CT
ただし、Wは三次元構造布帛の目付(g/m2)、Cはモノフィラメントの平均密度(g/cm3)、Tは三次元構造布帛の体積(cm3/m2)である。
【0013】
上記(iv)の発泡性材料としては、連続孔を有する発泡体、例えばポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム等を使用することができる。一般的に、発泡性材料で形成したシートの厚みは1〜5mm、好ましくは1〜2mm、空隙率は20〜98%、好ましくは60〜90%、セル数3〜500個/インチ、好ましくは5〜15個/インチである。
【0014】
上記(v)の多孔性焼結体としては、プラスチックのビーズを熱もしくは接着剤を用いて接合、一体化した多孔性材料、例えば、直径が100μm程度のポリビニルアルコールビーズなどを焼結させたもの、直径が300μm程度のポリエチレンビーズを焼結させたもの等を用いることができる。一般的に多孔性焼結体で形成したシートの厚みは1〜5mm、好ましくは1〜2mm、空隙率は20〜95%、好ましくは60〜80%である。
【0015】
透湿膜2A、2Bは、水蒸気透過性で水不透過性であることが必要で、加湿用水保持層1に吸収、保持された加湿用水の漏出を防ぎ、加湿用水を水蒸気として外部に放出させ、供給される空気を加湿するものであればよく、適宜の材料が使用可能であるが、(a)無孔質透湿性樹脂膜、(b)疎水性多孔質膜、(c)高分子多孔質膜に無孔質透湿性樹脂を含浸させたもの、(d)高分子多孔質膜に無孔質透湿性樹脂膜を積層したもの、(e)高分子多孔質膜に無孔質透湿性樹脂を含浸させるとともに、無孔質透湿性樹脂膜を積層したもの、(f)高分子多孔質膜の多孔質体骨格表面を撥水性及び撥油性を有する有機ポリマーで被覆しかつ連続孔を残したものの使用が特に好ましい。透湿膜2A、2Bの透湿度は、これらを加湿用水保持層1の両側に積層して構成される加湿用シートの透湿度が1万〜15万g/m2・day、好ましくは3万〜10万g/m2・dayとなるような値であることが望ましい。
【0016】
上記(a)の無孔質透湿性樹脂膜には、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基等の親水性基を持つ高分子材料であって、水膨潤性でかつ水不溶性のものが好ましく用いられる。具体的には、少なくとも一部が架橋されたポリビニルアルコール、酢酸セルロース、硝酸セルロース等の親水性ポリマーや、ポリアミノ酸、ポリウレタン樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂等を例示することができるが、耐熱性、耐薬品性、加工性、透湿度等を考慮に入れるとポリウレタン樹脂、フッ素系透湿性樹脂の使用が特に好ましい。
【0017】
ポリウレタン樹脂としては、無孔質の親水性ポリウレタン系樹脂が好ましく用られる。この無孔質の親水性ポリウレタン系樹脂は、通常親水性の高いポリオールとポリイソシアネート化合物を主原料として反応させて得られる。親水性の高いポリオールとしては、例えばポリオキシエチレングリコールを用いることができるが、透湿性の向上、硬化速度の向上等を目的としてポリオキシアルキレンポリオールの使用も有効であり、またジオール類を併用することもできる。この反応により得られたイソシアネート基含有プレポリマーは、このプレポリマーの硬化剤との組み合わせにより二液型の組成物として用いることができる。硬化剤としては、ジオールやジアミンが用いられる。また、硬化剤を含まない一液型の組成物として、空気中の水分などにより硬化させるようにしてもよい。あるいは、二液型組成物と一液型組成物を併用することもできる。
【0018】
フッ素系透湿性樹脂としては、スルホン酸系パーフルオロイオン交換樹脂、特開平4−139237号公報に開示されている含フッ素モノマーと親水基含有モノマーとのコポリマー等の使用が望ましい。
【0019】
無孔質透湿性樹脂層の厚さは、通常3〜400μm、好ましくは5〜30μmである。無孔質透湿性樹脂層の厚さが厚すぎると水蒸気透過量の低下をもたらし、加湿能力が不十分となる。従って、無孔質透湿性樹脂層で必要とされる機械的強度、耐用性を満足させる範囲で極力薄い方が好ましい。
【0020】
上記(b)の疎水性多孔質膜としては、合成樹脂より得られる公知の疎水性の連続多孔質体、例えばポリオレフィン樹脂系の多孔質体、フッ素樹脂系の多孔質体等が使用可能である。ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂の連続多孔質体を用いる場合は、フッ素系撥水剤、シリコーン系撥水剤等により撥水処理を付与することができる。フッ素樹脂系多孔質体としては、ポリテトラフルオロエチン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の多孔質体が使用できるが、なかでもポリテトラフルオロエチレンを延伸処理して得られる多孔質体は、耐薬品性、耐熱性、耐圧性に優れ特に好ましく使用される。
【0021】
疎水性多孔質膜の平均孔径は、0.01〜10μm、好ましくは0.1〜1μmである。疎水性多孔質膜の平均孔径が0.01μmより小さいと膜製造上の困難さがあり、逆に10μmを超えると不純物、異物が付着しやすくなって好ましくない。
疎水性多孔質膜の空孔率は、50〜98%、好ましくは60〜95%である。疎水性多孔質膜の空孔率が50%より小さいと水蒸気の透過量が少なくなって、加湿量が不十分になり、逆に98%を超えると膜の強度が低下してしまう。
また、疎水性多孔質膜の厚みは、5〜300μm、好ましくは30〜60μmが適当である。疎水性多孔質膜の厚さが5μmより薄いと製造時の取扱い性に問題が生じ、300μmを超えると水蒸気の透過効率が低下し十分な加湿量がとれない。
【0022】
上記(c)の高分子多孔質膜に無孔質透湿性樹脂を含浸させたものにおいて、高分子多孔質膜としては、耐熱性、耐腐食性を有するものが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂の多孔質体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル等の多孔質体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂の多孔質体等が使用できるが、なかでもポリテトラフルオロエチレンを延伸処理して得られる多孔質体は、耐熱性、耐薬品性に優れ好ましい。なお、ここで用いる高分子多孔質膜は疎水性でなくてもよい。
【0023】
高分子多孔質膜の平均孔径は、0.01〜10μm、好ましくは0.1〜1μmである。この孔径が大きすぎると、特に透湿性樹脂を含浸により複合化する場合に薄層化が困難になる。
高分子多孔質膜の空孔率は、5〜95%、好ましくは80〜95%である。空孔率が小さすぎると水蒸発層の水蒸気透過量が減少し、また大きすぎると多孔質膜の強度が低下する。
また、高分子多孔質膜の厚みは、5〜1000μmが好ましく、あまり薄いものでは透湿性樹脂を含浸させるための基体として十分ではない。
【0024】
高分子多孔質膜に含浸させる無孔質透湿性樹脂としては、上記(a)の無孔質透湿性樹脂膜に使用される材料と同様のものを用いることができる。
【0025】
高分子多孔質膜に無孔質透湿性樹脂を含浸させる場合、高分子多孔質膜の厚さ方向の全部にわたって含浸させてもよいし、その一部において含浸させてもよい。
無孔質透湿性樹脂を含浸させた部分の厚みは、1〜30μm、好ましくは5〜15μmである。この部分の厚みが厚すぎると水蒸気透過量の低下をもたらし、加湿能力が不十分となり、薄すぎるとピンホールが無く均一に製膜を行うことが困難となる。
【0026】
多孔質高分子膜に無孔質透湿性樹脂を含浸させる方法としては、例えば以下のような方法を用いることができる。
無孔質透湿性樹脂がポリウレタン系樹脂の場合には、ポリオールとポリイソシアネートの2成分を混合し硬化反応が終了する前の流動性がある状態で塗布した後、加熱硬化させる方法を用いることができる。
無孔質透湿性樹脂がフッ素系樹脂の場合には、アルコール、ケトン、エステル、アミドあるいは炭化水素のような有機溶媒中に溶解させた溶液を塗布した後、脱溶剤する方法が挙げられる。
無孔質透湿性樹脂がシリコーン樹脂の場合には、トルエン等の有機溶媒中に溶解させ、その溶液を塗布した後、脱溶媒する方法が挙げられる。
上記において、塗布の具体的方法としては、グラビアロール、リバースロール、ドクターロール、キスロール等を用いた方法やディッピング法等が挙げられる。
【0027】
上記(c)においては、高分子多孔質膜に無孔質透湿性樹脂を含浸させたものを挙げたが、上記(d)のように、高分子多孔質膜に無孔質透湿性樹脂膜を積層したものも使用可能である。
この場合、高分子多孔質膜としては上記(c)において使用される材料と同様な材料を同様にして用いることができる。また、無孔質透湿性樹脂膜にも上記(c)において使用される材料と同様な材料を用いることができる。
無孔質透湿性樹脂膜の厚みは、500μm以下、好ましくは1〜100μmである。この部分の厚みが厚すぎると水蒸気透過量の低下をもたらし、加湿能力が不十分となり、薄すぎるとピンホールが無く均一に製膜を行うことが困難となる。
高分子多孔質膜に無孔質透湿性樹脂膜を積層する方法としては、例えば、グラビアロールを用いて、接着剤を転写しラミネートする方法、熱融着法等を用いることができる。
【0028】
また、透湿膜2A、2Bとしては、上記(e)のように、高分子多孔質膜に無孔質透湿性樹脂膜を含浸させるとともに、無孔質透湿性樹脂膜を積層させたものも使用可能である。
【0029】
上記(f)の高分子多孔質膜の多孔質体骨格表面を撥水性及び撥油性を有する有機ポリマーで被覆しかつ連続孔を残したものにおいて、高分子多孔質膜としては、上記(c)と同様のものを用いることができる。
この場合、多孔質体骨格表面を被覆する有機ポリマーは、撥水性及び撥油性を有する有機ポリマーであれば特に限定されないが、例えば、フッ素化有機側鎖を繰り返し表れるペンダント基として有するポリマーを好適に用いることができる。
【0030】
このようなポリマー及びそれを多孔質高分子膜に複合化する方法の詳細についてはWO 94/22928公報、WO 95/34583号公報などに開示されており、その一例を下記に示す。
【化1】
(式中、nは3〜13の整数、RはHまたはCH3である)で表わされるフルオロアルキルアクリレート及びフルオロアルキルメタクリレートを重合して得られるポリマー(フッ素化アルキル部分は6〜16の炭素原子を有することが好ましい。)の水性マイクロエマルジョン(平均粒径0.01〜0.5μm)をフッ素化界面活性剤(例、アンモニウムペルフルオロオクタノエート)を用いて形成し、それを多孔質高分子膜に適用し、加熱すると水とフッ素化界面活性剤が除去されるとともに、フッ素化ポリマーが溶融して多孔質基材の骨格を被覆し、かつ連続孔を維持した、目的の撥水性・撥油性多孔質膜が得られる。
また、前記有機ポリマーとして、テトラフルオロエチレンと、アクリレート、メタクリレート、スチレン、アクリロニトリル、ビニル、アリル或いはアルケン等のモノマーとの二元又は三元以上のコポリマー、例えばフルオロアクリレート/テトラフルオロエチレン共重合体、フルオロアクリレート/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体も好ましく使用される。このようなコポリマーは耐汚染性、耐熱性、耐薬品性の点で優れ、かつ多孔質体骨格表面と強固に密着、結合するので好ましい。
また、他の有機ポリマーとして、「AFポリマー」(デュポン社の商品名)、「サイトップ」(旭硝子社の商品名)なども使用できる。これらの有機ポリマーを高分子多孔質膜の多孔質体骨格表面に被覆するには、例えば「フロリナート」(3M社の商品名)などの不活性溶剤にこれらのポリマーを溶解させ、高分子多孔質膜に含浸させた後、溶剤を蒸発除去する等の方法で行う。
【0031】
本発明の加湿エレメントに使用される加湿用シートにおいて、加湿用水保持層1と透湿膜2A、2Bは積層により三層一体化される。ここで加湿用水保持層1と透湿膜2A、2Bとの積層は、接着剤による接着、熱融着等の公知の方法で行うことができる。
接着剤による接着を行う場合、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤等により部分接着する。また、熱融着を行う場合、加湿用水保持層材料を透湿膜に部分的に熱融着させる。その接着面積は、10〜50%、好ましくは10〜15%である。一例を挙げれば、縦方向に3mm間隔、横方向に6mm間隔に距離をおいて、直径1.5mmの大きさの融着部を形成することができる。この場合の接着面積は13%となる。
本発明の加湿エレメントの寸法は、長さが100〜1000mm程度、幅が20〜200mm程度である。
【0032】
加湿用水保持層1の両面に積層される透湿膜2A、2Bには、必ずしも同じ材料を用いる必要はない。即ち、例えば、加湿用水保持層1の片面には無孔質透湿性樹脂からなる透湿膜2A(2B)を設け、他の面には疎水性多孔質膜からなる透湿膜2B(2A)を設けることもできる。同様に、本発明で用いることができる透湿膜を適宜組み合わせて本発明の加湿用エレメントを得ることができる。
【0033】
本発明による加湿エレメントは、加湿用水保持層と透湿膜が一体的に積層された三層一体構造となっているため、従来の中空状の加湿用膜材と比較して、強度的にも改善されたものとなっており、透湿膜の外側に織布、不織布、編布等の補強材を積層して内部水圧によるシートの破壊を防ぐといった必要はない。しかしながら、製造時における水蒸発層の損傷を防止する等の意味でこれを設けることは一向に差し支えない。
【0034】
本発明の加湿エレメントにおいては、上述のように周縁部が閉じられるが、この閉じ方としては、熱融着又は接着剤により接合する方法等を用いることができる。熱融着により行う場合は、例えば、温度295℃、圧力3kg/cm2、加熱時間5秒の条件で金型を用いてシートの中間部に位置する加湿用水保持層材料を溶かして行うことができる。
【0035】
また、本発明の加湿エレメントにおいては、第1の短辺S1側に、供給用貫通孔Hと排出用貫通孔H’が形成されているが、これらの孔形状は円形、楕円形等適宜の形状とすることができる。孔の面積は4〜400mm2程度が適当である。
【0036】
また、本発明の加湿エレメントにおいて、加湿用水の流路Pを形成するための仕切り部6は、例えば熱融着法により、中間部に位置する加湿用水保持層材料を溶かして行うことができる。また接着剤を用いて仕切り部6を形成してもよい。熱融着法で行う場合、金型を用いて前記した周縁部の融着と同時に行うことができる。この仕切り部6は、加湿効率、耐水圧、耐汚染性等を考慮しながら適宜の形状とすることができ、その幅は1〜5mm、好ましくは2〜3mmである。この仕切り部6の好ましい一例は、図5に示すように、第1の長辺L1に沿った流路の面積の方が第2の長辺L2に沿った流路の面積より広くなるような配置である。このような配置であると、第1の長辺L1に沿った流路部分が実質的な加湿部となり、第2の長辺L2に沿った流路部分は加湿部兼排水路となる。第1の長辺L1に沿った流路部分の幅は10〜100mm、好ましくは20〜50mmである。第2の長辺L2に沿った流路部分の幅は2〜10mmである。第1の長辺L1に沿った流路部分の幅が上記範囲より小さいと加湿性能が悪くなり、上記範囲より大きいと加湿エレメントの寸法が大きくなり装置が大型になってしまう。また、第2の長辺L2に沿った流路部分の幅が上記範囲より小さいとゴミが詰まり易くまた膜が破壊される可能性があり、上記範囲より大きいと第1の長辺に沿った加湿部の面積が少なくなり、十分な加湿効率が得られなくなる。
【0037】
本発明による加湿エレメントによれば、上記のような構成を有するので、次のような利点がある。
(1)従来の袋帯状の中空構造体からなる透湿膜で構成された加湿用部材と異なり、加湿用水を供給しても、シートの膨れが生じず、従って、この加湿エレメントを用いて加湿器とした場合、従来のように通風路が狭くなって加湿効率が低下したり、加湿する空気の圧力損失が増大したりする不具合がなくなる。
(2)加熱用水保持層とその両面に設けられた透湿膜が一体の積層構造となっているため、従来の加湿器と比較して、この加湿エレメントを用いた加湿器は、単位容積当たりの加湿面積を増大させることができ、コンパクトな加湿器を得ることができる。
(3)膨れが生じず、一定の厚さを有する加湿用シートを用いているため、加湿性能が安定したものとなる。
(4)上記したように三層一体の積層構造となっているため、従来の袋帯状の中空構造体からなる透湿膜で構成された加湿用部材と異なり、内部水圧によるシートの破壊を防ぐための補強材を必要とせず、簡素な構造の加湿器とすることができる。
(5)加湿用水の供給用貫通孔及び排出用貫通孔が略矩形状の加湿シートの一方の短辺側に設けられているので、この加湿エレメントを用いて加湿器を作製する場合、給水口同士及び排水口同士を水密構造に連結するための接着剤の塗布工程を1個所で行えばよく、また各加湿シートに設けられた貫通孔の位置合わせも容易で、生産性が向上する。
(6)仕切部が形成されているため加湿用水の流路が長くなり、小型化を図ることができ、製造価格をより安価とすることができる。
(7)連続的に給排水することができるため、加湿用水中の異物や不純物の加湿エレメント内への堆積が効果的に防止され、長期安定性の向上を図ることができる。
【0038】
次に前述した加湿エレメントを用いた加湿器について説明する。図6はその加湿器の一構成例を示すもので,(a)は正面図、(b)は側面図である。
図中21は加湿器、22,23は側板、24は上側固定用蓋、25は下側固定用蓋、26は共通給水口、27は共通排水口、28は加湿エレメント、29はスペーサである。この加湿器21では、側板22、23と上下固定用蓋24、25で構成される枠体内に、複数の加湿エレメント28がそれぞれスペーサ29を介して平行配置されている。
【0039】
スペーサ29は、例えば図7に示すように、1枚の合成樹脂フィルムの成形体からなり、波形状部30と平板状部31を有している。そして平板状部31には略矩形状の凸部32、33が幅方向に併設されており、凸部33の適所には給水のための貫通孔35が形成され、凸部32の適所には排水のための貫通孔34が形成されている。なお、図7において(a)は平面図、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は波形状部の拡大図である。なお、本発明で用いるスペーサは上記の形態に限定されない。
【0040】
本発明の加湿器21においては、加湿エレメント28とスペーサ29は交互に配置され、これらは供給用及び排出用の貫通孔が形成されている側において、接着剤を用いて給水部同士と排水部同士が水密となるように接合されている。その結果、各加湿エレメント28の注水部同士が繋がるとともに、排水部同士も繋がる。ここで加湿エレメント28とスペーサ29の接合に使用される接着剤としては、例えばウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等のうち、水分硬化型接着剤を好ましく使用することができる。
【0041】
加湿器21において、加湿用水中の溶解成分や不純物は加湿エレメント28の下方に溜まりやすいので、加湿用水の給水口26及び排水口27は図6に示すように下方に位置させることが好ましい。
【0042】
加湿器21への加湿用水の供給は、例えば加湿器21の上方にタンク(図示せず)を設けて、その圧力差を利用して行ってもよいし、水道管に直結して行ってもよい。水道管に直結させる場合には、途中に減圧弁を設けて、例えば4kg/cm2の圧力を0.6kg/cm2程度に落として供給することができる。
また、加湿器21からの排水量は、注水圧力を調節することにより制御することができる。注水圧力は0.01〜5kg/cm2、好ましくは0.02〜0.1kg/cm2である。
【0043】
上記加湿器21では、共通給水口26から供給された加湿用水は、各加湿エレメント28の供給用貫通孔Hの側壁の注水口から図5で示す流路Pを通って内部の加湿部に広がる。加湿部が満水になると、排水用貫通孔H’の側壁の排水口に流れ、共通排水口27より排水される。このように、連続排水を行うと、加湿用水中に混入している赤錆やドロ等も加湿部内に堆積することがなく、排水に混じり排出される。また、加湿用水中に溶解しているカルシウム、カリウム等も、加湿用水の流れにより洗浄され、加湿部内に析出することがなくなる。このため、長期加湿を行っても性能の低下はほどんどみられないものとなる。また、加湿性能の低下が起こらないため、加湿膜の面積も余分にとる必要はなく、初期性能を満足する面積でよい。従って、加湿器を小型でコンパクトなものとすることができる。
【0044】
【実施例】
次に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。
【0045】
実施例
高分子多孔質膜(延伸多孔質PTFE、厚さ約40μm、平均孔径0.4μm、空孔率80%)の片面に、グラビアパターンロール(開孔率80%に設定)を用いてウレタン系接着剤を塗布し、この面に加湿用水保持層として三次元構造布帛(直径0.3mmのポリエステルモノフィラメントで編成、厚さ1.5mm、目付け25g/m2)を重ね合わせ、圧力0.5kg/cm2、速度30m/分の条件でロール圧着を行った。その後、三次元構造布帛の他の面にも同じ方法、条件で、高分子多孔質膜を圧着して三層膜を作成した。この三層膜を長さ294mm、幅37mmの寸法にカットして、矩形状シートを得た。その後、この矩形状シートの周囲を熱融着し、さらに該シート片側短辺より25mmの位置で幅方向の上方から10mmの点を中心にして直径6mmの孔をあけ、供給用貫通孔を形成した。また、該シート片側短辺より13.5mmの位置で幅方向の下方から10mmの点を中心にして直径6mmの孔をあけ、排出用貫通孔を形成した。さらに、往路側流路の幅が22mmで復路側流路の幅が6mmとなるように仕切り部を熱融着により形成し、加湿エレメントを作成した。
一方、図7に示すような形状のスペーサをPETシート(厚さ0.3mm)の成形により得た。
上記で作成した加湿エレメントとスペーサを、孔位置を合わせ、孔の周囲をシリコーン系接着剤で接着して水密状態にしながら交互に積層して、加湿エレメント69枚とスペーサ70枚の積層構造体を作成し、図6に示す構造の加湿器を得た。
【0046】
比較例1
実施例において、加湿エレメントに仕切り部を設けないこと、及び供給用貫通孔のみを加湿エレメント片側短辺より16mmの位置で幅方向の中央の点を中心にして直径6mmの孔をあけて形成したこと以外は同様して、比較例1の加湿器を得た。
【0047】
比較例2
実施例において、加湿エレメントに仕切り部を設けないこと、加湿エレメントの幅を120mmにしたこと、及び供給用貫通孔のみを加湿エレメント片側短辺より16mmの位置で幅方向の中央の点を中心にして直径6mmの孔をあけて形成したこと以外は同様して、比較例2の加湿器を得た。
【0048】
実施例、比較例1及び比較例2の加湿器を各5個ずつ作成し、水道水を0.1kg/cm2の水圧でこれら加湿器に注水しながら、温度40℃、湿度15%の空気を風速2.5m/秒で送風し、流量計で注水流量及び排水流量を調べ、加湿性能の時間経過による変化を測定した。その結果を図8に示す。なお、図8ではスタート時の加湿性能を100として表している。
図8から明らかなように、本発明による加湿器は比較例の加湿器に比べ、長期間使用しても加湿性能の劣化が極めて少ないことが確認された。
【0049】
【発明の効果】
本発明の加湿エレメントは、前記構成としたので、加湿器に使用した場合、加湿用水を供給してもシートの膨れが生じないため、通風路が狭くなって、加湿効率が低下したり、加湿する空気の圧力損失が増大したりすることがない。
また、単位容積あたりの加湿面積が増大した、コンパクトで品質の安定した加湿器を得ることが可能となる。
また、補強材を使用しないで加湿器を構成することも可能となるため、簡素な構造の加湿器を提供することができる。
また、加湿用水の供給用貫通孔及び排出用貫通孔が加湿シートの片側短辺側に設けられているので、加湿器の製造の際に、各加湿エレメントの吸水口同士及び排水口同士を水密構造に連結するための接着剤の塗布工程を1個所で行えばよく、また貫通孔の位置合わせも容易で、生産性が向上する。
また、加湿エレメントに仕切り部が形成されているため、加湿用水の流路が長くなり、加湿効率が増大し、装置の小型化を図ることができ、ひいては製造コストの低コスト化につながる。
さらに、連続的に給排水することができるため、加湿用水中の異物や不純物の加湿エレメント内への堆積が効果的に防止され、長期安定性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の加湿エレメントの断面図である。
【図2】従来の加湿ユニットの概略斜視図である。
【図3】本発明の加湿エレメントに用いる加湿用シートの基本的構成を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の加湿エレメントの基本的構成を示す断面図である。
【図5】本発明の加湿エレメントの一構成例を示す断面図である。
【図6】本発明の加湿器の一構成例を示す図である。
【図7】スペーサの構造を示す図である。
【図8】実施例及び比較例の加湿器の加湿性能の時間経過による変化を示す図である。
【符号の説明】
1 加湿用水保持層 2A、2B 透湿膜
3 加湿用シート 4 周縁部
6 仕切り部 S1 第1の短辺
S2 第2の短辺 L1 第1の長辺
L2 第2の長辺 H 供給用貫通孔
H’ 排出用貫通孔 21 加湿器
22、23 側板 24 上側固定用蓋
25 下側固定用蓋 26 共通給水口
27 共通排水口 28 加湿エレメント
29 スペーサ 30 波形状部
31 平板状部 32、33 凸部
34 給水用貫通孔 35 排水用貫通孔
Claims (3)
- 加湿用水を吸収、保持しうる加湿用水保持層の両面に、水蒸気透過性で水不透過性の透湿膜を設けてなり、且つ第1の短辺及び第2の短辺並びに第1の長辺及び第2の長辺を有する略矩形状の加湿シートを用いて構成され、
該加湿シートの周縁部は水密に閉じられており、
該第1の短辺側に、加湿用水を供給するための供給用貫通孔と、加湿用水を排出するための排出用貫通孔を有し、
さらに該供給用貫通孔から供給された加湿用水が当該加湿エレメントの第1の長辺、第2の短辺及び第2の長辺に沿って流れた後に該排出用貫通孔に至る流路を形成するために加湿用水保持層に設けられた仕切り部を有し、
第1の長辺に沿った流路の面積の方が第2の長辺に沿った流路の面積より広くなることを特徴とする加湿エレメント。 - 該加湿用水保持層が三次元構造布帛から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の加湿エレメント。
- 請求項1又は2に記載の加湿エレメントが被加湿空気を通過させるための間隔をおいて複数枚積層されてなり、且つ該供給用貫通孔及び排出用貫通孔はそれぞれ水密に連結されて共通の加湿用水供給口及び加湿用水排出口が形成されていることを特徴とする加湿器。
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