JP3774872B2 - アクリル酸の晶析方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、粗製アクリル酸を精製するために、アクリル酸を冷却して結晶を析出させる晶析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アクリル酸は紙オムツ等に使用される高吸水性樹脂や、不織布バインダー等に使用される高分子化合物の原料として用いられている。このアクリル酸は近年工業的には主としてプロピレンの直接酸化法というプロセスを用いて製造されているが、この方法ではプロピレンの酸化過程で、酢酸やプロピオン酸等の酸類や、アルデヒド類、酸無水物等が副生するため、得られたアクリル酸にはこれらが不純物として含まれている。
【0003】
ここでアクリル酸中に不純物が含まれていると、重合反応における誘導時間が長くなったり、得られた重合物の重合度が低くなるおそれがあるため、上記高吸水性樹脂などの高分子原料として用いられるアクリル酸には高純度が要求されている。このため従来より不純物を含む粗製アクリル酸を晶析してアクリル酸の純度を高めることが行なわれている。
【0004】
この晶析の一般的な方法としては、例えば図2に示すような攪拌槽型の晶析装置、例えば攪拌機を備えた晶析槽1の外周囲にジャケット12を設け、このジャケット12と槽内部にコイル13を設置した晶析装置にて実施される方法が知られている。即ちこの方法は前記ジャケット12とコイル13に冷媒を循環させて晶析槽1内に供給した粗製アクリル酸の液体を冷却することによりアクリル酸の結晶を析出させ、この結晶を晶析槽1の底部からスラリーとして取り出して固液分離し、次いで得られた結晶を融解して純度の高いアクリル酸を得るものである。
【0005】
ところがこの方法では晶析槽1の内壁面と晶析槽1内部のコイル13の外面とが冷却面(伝熱面)となるが、アクリル酸の生産規模の拡大に伴い晶析槽1が大型化するに従って、晶析槽1内の容積と前記伝熱面との比が大きくなるため、伝熱面積が不足するおそれがある。また結晶は先ず伝熱面である晶析槽1の内壁面とコイル13外面とに析出しやすいが、アクリル酸のように付着性の強い結晶では、前記内壁面等に付着した結晶のかき取り操作は容易ではなく、このためますます伝熱効率が低下してしまうおそれがある。
【0006】
そこでこのような問題点を解消するために、伝熱面からの間接的な熱交換を利用するのではなく直接的な熱交換を利用する方法、例えば原料液体と相互に溶解しない液体冷媒を用いる方法や揮発性冷媒を原料液体中で気化させる方法が検討されている。しかしながらアクリル酸は、実質的にあらゆる溶媒に可溶であるため晶析に前者の液体冷媒との直接熱交換による方法は用いることができない。一方後者の揮発性冷媒を用いる方法としては、特開平7−82210号公報に、粗製アクリル酸に水を添加し、真空圧下で水を気化させて断熱冷却させ、アクリル酸を晶出させる方法が提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとしている課題】
しかしながら上述の特開平7−82210号に記載された方法では、断熱冷却操作を高真空下(2.0〜7.0Torr)にて行なわなければならないため、操作が面倒であり装置も減圧に適した構成としなければならず、装置に要する費用が過大になるという問題がある。また発生する蒸発気体はコンデンサーにより冷却され疑縮液として母液に還流されるが、この疑縮液には水が多量に含まれているため、操作を繰り返すに従って次第に母液に水が濃縮されるという問題もある。さらにまた蒸発気体をコンデンサーにより冷却液化する際に、コンデンサーにアクリル酸等の結晶が析出すると伝熱速度が低下する等の問題があるため、アクリル酸や水の固化を防ぐ必要があるが、このためにはコンデンサーの表面にアクリル酸原液をスプレーしたり、水を流下させる必要がありこれらの操作が煩わしいという問題があった。
【0008】
ここで揮発性冷媒として二酸化炭素やエチレンなどを用いる方法も考えられるが、これらを冷媒に用いると冷媒を液化して回収し再使用するためには加圧下における操作が望ましく、このためには晶析装置や固液分離装置も加圧に適した構成にしなくてはならず装置費が高くなると共に操作も面倒になるという問題がある。また母液を最終的に常圧まで減圧すると、加圧下で溶解していた冷媒が蒸発してしまうため、再び結晶化が起こり、再度固液分離が必要になるという問題もある。
【0009】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は熱交換効率がよく、簡易な装置構成で容易に操作を行うことができるアクリル酸の晶析方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、アクリル酸を精製するためにアクリル酸を冷却して結晶を析出させる方法において、
アクリル酸中に液化プロピレンを供給し、当該液化プロピレンを気化させてアクリル酸の合成反応に用いられるプロピレンガスを得ると共に、その気化熱によりアクリル酸を冷却して晶析する工程を含み、
前記晶析する工程は、圧力が2気圧以下であることを特徴とする。
また本発明では、気化したプロピレンガスを2気圧以上に加圧して冷却し、これによりプロピレンガス中に含まれるアクリル酸を液体として除去する工程を含むようにしてもよい。
【0015】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明方法を実施する晶析装置の一例を示す構成図である。
【0016】
図中2は攪拌装置21を備えた晶析槽である。この晶析槽2の内部には例えば環状のガス分散管よりなる液化プロピレン供給手段3が設けられており、この液化プロピレン供給手段3はバルブV3を備えた液化プロピレン供給管T3を介して液化プロピレン源に接続されている。
【0017】
前記晶析槽2には不純物を含む粗製アクリル酸を供給するための、バルブV4を備えたアクリル酸供給管T4が接続されており、このアクリル酸供給管T4の基端側には例えば粗製アクリル酸貯槽を含むアクリル酸精製設備41が設けられている。また晶析槽2の底部には槽内にて析出したアクリル酸をスラリーの状態で排出するためのアクリル酸スラリー排出管T2がバルブV2を介して接続されると共に、晶析槽2上部には途中に圧力調整バルブV5を介してガス回収管T5が接続されている。さらに晶析槽2には槽内の気相領域の圧力を検出するための圧力検出計5が設けられており、これによって検出された圧力値に基づいて前記圧力調整バルブV5の開度が制御されるように構成されている。
【0018】
このような晶析装置では、不純物を含む粗製アクリル酸はアクリル酸供給管T4を介して晶析槽2内に供給され、例えば大気圧雰囲気で晶析工程が実施される。即ち晶析槽2内に粗製アクリル酸が所定レベルまで供給された後、液化プロピレン供給手段3から供給された液体状態のプロピレンが晶析槽2内に供給される。ここで晶析が行われるときのプロピレン−アクリル酸系の圧力は後述するように気体、液体、固体の3相が共存する状態が得られる圧力であることが必要であり、このため、例えば晶析槽2内の気相領域の圧力を圧力検出計5で検出して、その圧力値が例えば大気圧になるように、圧力調整バルブV5によりコントロ−ルしている。
【0019】
このように粗製アクリル酸に液化プロピレンを供給すると、液体状態のプロピレンは気化して気体状態に変わり、一方アクリル酸はプロピレンの気化熱により冷却され、これにより結晶が析出する。つまりプロピレンが気化する際には熱量(気化熱)が必要であるため、液化プロピレンはアクリル酸から気化熱に相当する熱量を奪いながら気化し、この結果アクリル酸は晶析温度まで冷却されるからである。この際アクリル酸の結晶の析出量は供給される液化プロピレンの量により制御される。
【0020】
ここでこの晶析工程は晶析槽2内のプロピレン−アクリル酸系の圧力が気体、液体、固体の3相が共存する状態が得られる圧力で行うことが必要である。つまりプロピレンとアクリル酸とが系内に存在する場合、上述の3相共存状態が成立すると、液化プロピレンを気化させて気体状態にする一方アクリル酸の固体を析出させることが可能となるからである。本発明者らは実験によりプロピレン−アクリル酸系の圧力が1気圧の場合に、温度が6℃のとき3相共存状態となることを確認した。この場合には晶析槽2に液化プロピレンを供給していくと、プロピレンは気化するがこの時の気化熱によってアクリル酸の温度が徐々に低下し、アクリル酸の温度が6℃になった時点でアクリル酸の結晶が析出し始める。
【0021】
本発明者らは実験によりプロピレン−アクリル酸系の圧力が2気圧以上の場合には気液共存の状態になるだけで固体が析出しないことを確認した。このためアクリル酸の晶析は晶析槽2内のプロピレン−アクリル酸系の圧力が2気圧より低い、3相が共存できる圧力雰囲気で行わなければならない。上記例では、晶析槽2の気相部分の圧力を大気圧になるように調整しているのでプロピレン−アクリル酸系の圧力が前記圧力雰囲気になっている。
【0022】
この晶析工程の際、晶析槽2にて液化プロピレンの気化により発生したプロピレンガスは、そのままアクリル酸合成に使用するか、あるいは少量含まれているアクリル酸の除去が必要な場合はこのガスを2気圧以上に圧縮して冷却する。このようにガスを一旦2気圧以上に加圧した後冷却すると、上述のように3相が共存しないのでアクリル酸の結晶を析出させずにアクリル酸の液体を得ることができ、プロピレンガスに含まれるアクリル酸を液体の状態で除去することができる。そしてアクリル酸除去後のプロピレンガスはアクリル酸合成反応器4に供給され、アクリル酸の合成原料として使用される。
【0023】
一方晶析槽2にて析出したアクリル酸の結晶はアクリル酸スラリ−排出管T2により高純度のアクリル酸スラリ−として排出され、図示しない例えば濾過装置や遠心分離機等の固液分離手段により結晶を分離して融解することにより、不純物濃度の低い高純度アクリル酸として取り出される。晶析槽2より得られるアクリル酸の結晶や母液は少量のプロピレンを含んでいるので、固液分離後の回収母液および結晶を融解して得られる精製融液から溶解プロピレンを分離回収することが好ましい。分離は、常圧あるいは減圧下で加熱蒸発または蒸留等により容易に行うことが出来る。加熱に際しては、予めハイドロキノンモノメチルエーテル等の重合防止剤や分子状酸素を含むガスを添加し、アクリル酸の重合を防止することが必要である。ただし晶析槽を複数設け、晶析を多段で行ってアクリル酸の純度で順次高めて精製を行うようにし、各晶析工程において本発明を適用してもよいことは勿論である。この場合は、溶解プロピレンの分離回収は、多段の晶析の最も精製された結晶および不純物が最も濃縮された母液についてのみ行えばよい。
【0024】
このようなアクリル酸の晶析方法では、液化プロピレンの気化熱という直接的な熱交換により粗製アクリル酸を冷却しており、液化プロピレンは液体状態で粗製アクリル酸中に供給され、この中を拡散しながら気化していく。従って粗製アクリル酸はその内部から冷却され、このため間接的な熱交換のように伝熱面から結晶が析出するのではなく、内部から結晶が析出する。この結果伝熱面への結晶の付着による伝熱の低下という事態を生じることがなく、晶析効率の低下を抑えることができる。
【0025】
また晶析槽の壁面に結晶が付着するおそれが極めて少くなることから、晶析槽の底部から容易に高純度アクリル酸のスラリ−を取出すことができる上、壁面に付着した結晶の掻き取り作業等の面倒な作業を行う必要がなくなるため、晶析工程における作業を容易に行うことができる。さらに晶析槽からの高純度アクリル酸のスラリ−の取出しが容易に行われることから、晶析工程を連続的に行なうことも可能となる。さらにまた晶析槽には粗製アクリル酸を冷却するための手段であるジャケットやコイル等を設ける必要がなく、晶析槽の構成を簡易にすることができるが、晶析槽の壁面への結晶の付着を完全に防止するために、晶析槽の外周囲にジャケットを設け、ここにアクリル酸の融点(13.5℃)よりも若干高い温度の液体を流通させるようにしてもよい。
【0026】
さらに本発明方法は大気圧下で晶析を行うことができるため、装置を加圧構造にする必要はなく、装置構成が簡易化すると共に安価になり、操作も容易に行うことができる。さらに晶析を大気圧下で行うことにより、母液を大気圧に戻すために減圧したり、これに伴ってアクリル酸の結晶が再析出したりすることはないため、これらに付随する煩わしい操作を行う必要がない。
【0027】
さらにまた冷媒として使用するプロピレンはアクリル酸の合成原料であり、晶析工程にてアクリル酸の冷却に使用した後、そのプロピレンガスはアクリル酸合成反応器に供給してアクリル酸の合成に使用することができるので、冷媒を液化回収する必要がない。即ちアクリル酸の製造プラントにおいて、液化プロピレンの気化はもともと必要であり、この気化工程をアクリル酸の晶析工程に取り入れているため、システムとして無駄がない。
【0028】
このため冷媒の液化回収に要する装置や操作が不要となり、装置構成や操作の簡易化を図ることができる。ここで晶析工程にて発生したプロピレンガスから、少量のアクリル酸を除去する必要がある場合は、ガスを加圧せずに冷却すると、プロピレンガス中に含まれるアクリル酸の結晶が熱交換器や配管に析出するので、上述のようにプロピレンガスは一旦2気圧以上に加圧した後冷却することが望ましい。このようにすればアクリル酸は液体状態で除去することができる。
【0029】
以上において本発明方法は、メタクリル酸の晶析に適用することができ、この場合は冷媒としてメタクリル酸の合成原料であるイソブテンが用いられる。
【0030】
【実施例】
以下に本発明方法の実施例と比較例について記載する。
(実施例1)
内容積1.5リットルの攪拌器を備えたフラスコに粗製アクリル酸820gを投入し、ここに30分かけて液化プロピレン285kgを供給し、アクリル酸の結晶を析出させた。これらの操作は大気圧下で行ない、結晶析出時の温度は6℃であった。このとき析出した結晶はスラリ−状になり、フラスコ壁面への付着はみられなかった。次いでフラスコの内容物をフラスコ下部のコックを開いて取出し、吸引濾過により結晶と母液とを分離したところ、得られた結晶は397g、母液は435gであった。また粗製アクリル酸と、析出した結晶を融解して得た高純度アクリル酸と母液との不純物含有率をガスクロマトグラフィ−により検出したところ、表1に示す結果が得られた。表中の数値は重量ppmである。
【表1】
【0031】
(比較例1)
内容積1.5リットルのジャケットと攪拌器を備えたフラスコに粗製アクリル酸を1000g投入し、ジャケットに2℃の冷水を通流させて攪拌器を300rpmで高速回転させながら40分かけて、アクリル酸の結晶を析出させた。この後フラスコ下部のコックを開いて内容物を取出そうとしたが、結晶は全てフラスコの内壁面に付着しており母液のみが回収された。
【0032】
(比較例2)
攪拌器を備えた耐圧ガラス製の容器を2個連結し、第1の容器は底部にグラスフィルタ−を設置して、固体の濾過が可能な構造とした。先ず容器の連結管のバルブを閉じ、第1の容器には粗製アクリル酸1000gを投入し、第2の容器には二酸化炭素を供給して10気圧に保持した後、二酸化炭素の供給を停止した。次いで第1の容器に保圧弁で系内を15気圧になるように保持しながら40分かけて冷媒として液化二酸化化炭素を940g供給して、アクリル酸の結晶を析出させた。この後連結管のバルブを開いて第1の容器に少量の二酸化炭素を供給したまま、結晶を濾過して母液を第2の容器に移送した。濾過は良好であり第2の容器に移送した液体中に結晶は混合していなかった。続いて第2の容器のガス排出弁を開いて二酸化炭素を排出したところ結晶が析出した。第1、第2の容器で析出した結晶の量はそれぞれ505g、253gであった。
【0033】
(考察)
実施例1では、フラスコ内にて析出したアクリル酸の結晶はフラスコ壁面には付着せず、結晶の取り出しを容易に行うことができることが確認され、不純物量も大幅に減少できることが確認された。これに対して比較例1では、アクリル酸の結晶はフラスコ壁面に付着して取り出すことが困難であった。また比較例2ではアクリル酸の結晶の取り出しは容易に行なうことができるが、装置構成が複雑であり、加圧操作や減圧操作、2度に亘る濾過操作等が必要であって操作が面倒であった。
【0034】
(実施例2)
実施例1に用いたものと同じ、内容積1.5リットルのフラスコに、イソ酪酸を含むメタクリル酸を850g投入し、圧力を230mmHgに保ちながら、30分かけて液化イソブテン150gを供給して、メタクリル酸の結晶を析出させた。このときの温度は5℃であった。フラスコ内は結晶が懸濁したスラリー状となり、フラスコ壁面への結晶の付着は見られなかった。得られた結晶は407gであった。また、原料、析出結晶の融解液、残留母液を分析したところ、表2の結果が得られた。表中の数値は重量%である。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、アクリル酸の生成に用いられる原料液化ガスの気化熱を利用して直接的な熱交換により晶析を行っているので、熱交換の効率がよく、簡易な装置構成や操作により、安価にアクリル酸の晶析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法を実施する晶析装置の1形態を示す構成図である。
【図2】従来の晶析槽を示す断面図である。
【符号の説明】
2 晶析槽
3 液化プロピレン供給手段
4 アクリル酸合成反応器
5 圧力検出計
【表2】
Claims (2)
- アクリル酸を精製するためにアクリル酸を冷却して結晶を析出させる方法において、
アクリル酸中に液化プロピレンを供給し、当該液化プロピレンを気化させてアクリル酸の合成反応に用いられるプロピレンガスを得ると共に、その気化熱によりアクリル酸を冷却して晶析する工程を含み、
前記晶析する工程は、圧力が2気圧以下であることを特徴とするアクリル酸の晶析方法。 - 気化したプロピレンガスを2気圧以上に加圧して冷却し、これによりプロピレンガス中に含まれるアクリル酸を液体として除去する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のアクリル酸の晶析方法。
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