JP3774774B2 - 新規なホルムアルデヒド分解微生物及び当該微生物を用いたホルムアルデヒド分解方法 - Google Patents

新規なホルムアルデヒド分解微生物及び当該微生物を用いたホルムアルデヒド分解方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、環境汚染物質であるホルムアルデヒドを分解する方法、及びホルムアルデヒド分解能力を有する微生物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ホルムアルデヒドは反応性が高い物質であり、フェノール系やメラミン系の接着剤の硬化剤として古くから用いられている他、繊維の改質剤としても利用されている。また、殺菌性を有することから、医療業界においても消毒用として用いられている。
【0003】
この様に多くの業界で用いられているホルムアルデヒドは、刺激性が強く、細胞毒性を有することから、環境汚染物質として分解除去が望まれている。室内環境においてはシックハウス症候群の原因物質の一つとされ、厚生労働省は25℃の30分平均値0.08ppmという指針値を設けている。また、繊維業界や医療業界においては排水中に含まれる高濃度のホルムアルデヒドが問題となっている。
【0004】
ホルムアルデヒド除去対策としては、主に1)感覚的、2)化学的、3)物理的方法を応用した各種の無機系ならびに有機系材料を用いたマスキング剤、吸着剤、又は分解剤の研究が行われてきている(村田明弘, 小川俊彦, 日本木材学会中部支部大会講演要旨集, 10, 68(2000)、道井誠, 津井信一郎, 坂志郎, 日本木材学会大会要旨集, 49, 477(1999)、出口智博, 島根県立工業技術センター研究報告, 35, 11(1998))。しかしながら、吸着剤等からの再放出の問題が指摘されており、新たなホルムアルデヒド分解方法の開発が望まれている。
【0005】
一方、生物を利用したホルムアルデヒド除去方法の開発が試みられている。例えば、排水中のホルムアルデヒドの浄化対策として、PenicilliumやFusariumを用いる方法(特開平11−19685号公報、特開平11−19686号公報)が提案されている。しかしながら、用いられる菌株のホルムアルデヒド分解能力は、高濃度に存在するホルムアルデヒドを分解除去するのには十分とはいえない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は以上の背景に鑑みなされたものであり、新規な微生物を用いることにより、効率的にホルムアルデヒドを分解できる方法を提供することを目的とする。また、高いホルムアルデヒド分解能力を有する新規な微生物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
ホルムアルデヒドのようなC1化合物の分解酵素を持つ微生物としてバクテリアや酵母などが知られているが、カビについての報告は少ない。そこで、本発明者らはホルムアルデヒド分解能力を有するカビを自然界から単離することを試みた。その結果、ペシロマイセス(Paecilomyces)属、ボトリチス(Botrytis)属、及びアスペルギルス(Aspergillus)属からホルムアルデヒド分解能力を有する微生物を取得することに成功した。これらの微生物のホルムアルデヒド分解能力を検討したところ、0.3%から0.5%という高濃度のホルムアルデヒドを分解できることが分かり、これらの微生物を利用すれば高濃度で存在するホルムアルデヒドを効率よく分解する方法が提供されることが見出された。
本発明は以上の知見に基づき完成されたものであり、次の構成からなる。
[1] ペシロマイセス(Paecilomyces)属に属し、ホルムアルデヒド分解能力を有する微生物を用いる、ことを特徴とするホルムアルデヒド分解方法である。
[2] 前記微生物がFERM P−18289菌株である、[1]に記載の方法である。
[3] ボトリチス(Botrytis)属に属し、ホルムアルデヒド分解能力を有する微生物を用いる、ことを特徴とするホルムアルデヒド分解方法である。
[4] 前記微生物がFERM P−18288菌株である、[3]に記載の方法である。
[5] アスペルギルス(Aspergillus)属に属し、ホルムアルデヒド分解能力を有する微生物を用いる、ことを特徴とするホルムアルデヒド分解方法である。
[6] 前記微生物がFERM P−18287菌株である、[5]に記載の方法である。
[7] 排水中のホルムアルデヒドを分解する、ことを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の方法である。
[8] 室内環境中のホルムアルデヒドを分解する、ことを特徴とする[1]〜[6]のいずれかに記載の方法である。
[9] ペシロマイセス(Paecilomyces)属に属するFERM P−18289菌株である。
[10] ボトリチス(Botrytis)属に属するFERM P−18288菌株である。
[11] アスペルギルス(Aspergillus)属に属するFERM P−18287菌株である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下の方法で、土壌及び排水よりホルムアルデヒド分解能力を有する微生物のスクリーニングを行った。
(1)微生物の探索
0.1 % ホルムアルデヒドを含む培地に土壌又は排水のサンプルを加え、所定時間経過後に生育してきた微生物を単離した。
(2)高濃度のホルムアルデヒドに対する耐性を有する微生物の選択
(1)で得られた微生物の中で、高濃度のホルムアルデヒドを含む培地において生育可能なものを選択した(菌株IRI017、IRI013、IRI004)。
(3)形態観察及び菌類学的性質
(2)で得られた3菌株について形態観察を行うとともに菌類学的性質を調べた。各菌株の顕微鏡写真を図1〜3にそれぞれ示す。また、各菌株の菌類学的性質を表1〜表3にそれぞれ示す。
【0009】
【表1】
Figure 0003774774
【0010】
【表2】
Figure 0003774774
【0011】
【表3】
Figure 0003774774
【0012】
形態観察及び菌類学的性質より、菌株IRI017(図1、表1)はペシロマイセス(Paecilomyces)属に属するものであった。同様に、菌株IRI013(図2、表2)及びIRI004(図3、表3)は、ボトリチス(Botrytis)属、及びアスペルギルス(Aspergillus)属に属するものであった。各菌株は以下の国際機関に寄託されている。
名称:独立行政法人産業技術総合研究所 特許微生物寄託センター
住所:日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−5466)
寄託日:13年4月17日
受託番号:FERM P−18289(菌株IRI017)、FERM P−18288(菌株IRI013)、 FERM P−18287(菌株IRI004)
【0013】
本発明のホルムアルデヒド分解方法では、上記寄託を行った菌株(IRI017、IRI013、IRI004)を利用することが特に好ましいが、これに限定されるものではなく、Paecilomyces属、Botrytis属、Aspergillus属に属し、ホルムアルデヒド分解能力を有する限り本発明におけるホルムアルデヒド分解微生物として利用することができる。
上記スクリーニング方法により単離された微生物をホルムアルデヒドが存在する環境に置くことにより(例えば、排水中に添加する)、ホルムアルデヒドを分解することができる。
【0014】
本発明に用いるホルムアルデヒド分解能力を有する微生物は、適用対象(例えば排水、室内)に直接添加等することにより使用することができるが、適当な担体などに固定化した状態で使用してもよい。固定化の方法として、例えば活性炭等の不溶性の担体に物理的に吸着する方法を好適に採用できる。また、エチルセルロースなどの半透性の膜内に閉じ込める方法を採用することもできる。その他の公知の固定化方法を用いることもできる。尚、微生物の破砕液を用いて同様の固定化を行ってもよい。
【0015】
微生物から分離、精製した酵素を用いてホルムアルデヒドの分解除去を行う場合においても、固定化した後、使用に供することができる。酵素の固定化方法としては、不溶性担体(例えば活性炭、金属酸化物など)に物理的に吸着させる方法、イオン交換基を有する担体にイオン結合により固定化する方法、ブロモシアン活性化担体などに共有結合により固定化する方法、グルタルアルデヒドなどを用いて酵素同士を架橋する方法、ポリアクリルアミド、ウレタンポリマーなどの格子構造又は膜内に閉じ込める方法、エチルセルロースなどの半透性の膜内に閉じ込める方法などが挙げられる。
【0016】
微生物、微生物破砕液、又は分離、精製した酵素の固定化に使用する担体等は所望の形状に成型して使用することができる。例えば、フィルタ状、ビーズ状に成型することができ、これにより、ホルムアルデヒド分解用フィルタ、ビーズ等を構成できる。また、固定化した微生物、微生物破砕液、又は酵素を用いてバイオセンサを構成することもできる。
【0017】
【実施例】
[実施例1] 微生物のスクリーニング
(1−1) 探索用培地として、表4に示す組成の培地(med1)を用いた。この培地に0.1 % ホルムアルデヒドと土壌又は排水のサンプルを加え、30℃で約1週間培養し、生育してきた微生物を単離した。
【0018】
【表4】
Figure 0003774774
【0019】
(1−2) 次に、単離した微生物の中で、培地中のホルムアルデヒド濃度を高くしても生育可能なものを選択した。その結果、カビ7株(IRI004、IRI008、IRI009、IRI013、IRI020、IRI016、IRI017)が得られた(図4)。形態観察の結果、IRI016及びIRI017はPaecilomyces属に属し、IRI013及びIRI020はBotrytis属に属し、IRI004、IRI008、及びIRI009はAspergillus属に属することが分かった。最終的にカビを各属より1株ずつ(IRI004(FERM P-18287)、IRI013(FERM P-18288)、IRI017(FERM P-18289))を選別した。
【0020】
[実施例2] 培養中のホルムアルデヒドの消長及び分解試験
高濃度のホルムアルデヒドに耐性を示すカビの中で、0.5 % ホルムアルデヒド存在下で生育可能なIRI017株(FERM P−18289)を用いて、ホルムアルデヒド存在下での培養経過を調べた。0.2 %のホルムアルデヒドを含む培地で馴養したIRI017株を様々な濃度のホルムアルデヒドを含む培地を用いて培養を行ったところ、初発ホルムアルデヒド濃度が高いほど増殖が遅れ、ホルムアルデヒドが0.1 %以下になった時点から増殖が始まることがわかった (図5)。次に、休止菌体によるホルムアルデヒド分解の可能性について検討した。ホルムアルデヒドを0.129 %含む溶液を空カラム内に循環させ、開始108時間後にカラムに菌体を投入したところ、40時間後(試験開始148時間後)、ホルムアルデヒドが約27 %減少した (図6)。このことから、菌体レベルでもホルムアルデヒド分解リアクタを構築できることが確認できた。
【0021】
[実施例3] ホルムアルデヒド分解除去試験
ホルムアルデヒドを所定濃度含有する溶液に菌体懸濁液を加え、30℃で振とうした。振とう開始時と10日後に測定したホルムアルデヒド濃度を表5に示す。尚、ホルムアルデヒド濃度の測定にはNash法(T. Nash, Biochem.J., 55, 416(1953))を用いた。
【0022】
【表5】
Figure 0003774774
この結果より、IRI017、IRI013 、IRI004は高濃度のホルムアルデヒドを分解除去することが可能であることが示された。
【0023】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0024】
【発明の効果】
本発明によれば、従来の微生物処理による手法に比べて、高濃度のホルムアルデヒドを分解することが可能となる新規な微生物が提供される。また、当該微生物を利用したホルムアルデヒドの分解方法が提供される。これにより、室内環境汚染や排水処理における問題を解決することができ、建材、家具、医療、及び繊維業界においてきわめて有意義である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、Paecilomyces sp.に属する菌株IRI017の顕微鏡写真である。
【図2】図2は、Botrytis sp.に属する 菌株IRI013の顕微鏡写真である。
【図3】図3は、Aspergillus sp.に属するIRI004の顕微鏡写真である。
【図4】図4は、実施例において単離された各菌株の生育に対するホルムアルデヒドの影響を示した表である。
【図5】図5は、実施例において単離された菌株(IRI017)の生育と培地中のホルムアルデヒドの濃度との関係を示したグラフである。aは、培地中のホルムアルデヒドの濃度がIRI017の生育に及ぼす影響を示す。bには、培地中のホルムアルデヒドの消費タイムコースが示される。ホルムアルデヒドの初期濃度は、■(0%)●(0.1%)、▲(0.3%)、◆(0.4%)、▼(0.45%)、○(0.5%)である。
【図6】図6は、IRI017(休止菌体)を用いたホルムアルデヒド分解試験の結果を示す表である。

Claims (8)

  1. ペシロマイセス(Paecilomyces)属に属し、ホルムアルデヒド分解能力を有する微生物であるFERM P−18289菌株を用いる、ことを特徴とするホルムアルデヒド分解方法。
  2. ボトリチス( Botrytis )属に属し、ホルムアルデヒド分解能力を有する微生物であるFERM P−18288菌株を用いる、ことを特徴とするホルムアルデヒド分解方法。
  3. アスペルギルス( Aspergillus )属に属し、ホルムアルデヒド分解能力を有する微生物であるFERM P−18287菌株を用いる、ことを特徴とするホルムアルデヒド分解方法。
  4. 排水中のホルムアルデヒドを分解する、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. ペシロマイセス( Paecilomyces )属に属するFERM P−18289菌株、ボトリチス( Botrytis )属に属するFERM P−18288菌株、及びアスペルギルス( Aspergillus )属に属するFERM P−18287菌株、からなる群より選択される菌株の破砕液を用いて室内環境中のホルムアルデヒドを分解する、ことを特徴とするホルムアルデヒド分解方法。
  6. ペシロマイセス( Paecilomyces )属に属するFERM P−18289菌株。
  7. ボトリチス( Botrytis )属に属するFERM P−18288菌株。
  8. アスペルギルス( Aspergillus )属に属するFERM P−18287菌株。
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