JP3774625B2 - 焼結部材の鍛造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械部品等に用いられる焼結部材の鍛造方法に関し、とりわけ、黒鉛が混合され鉄を主成分とする焼結部材の鍛造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両等に用いられる機械部品の製法として鍛造が多用されているが、近年、圧粉成形した金属質粉を焼結し、その焼結部材に鍛造を施すことによって部品を製造することが検討されている。
【0003】
ここで用いられる金属質粉は鉄を主成分とした金属粉に所定量の黒鉛を混合したものであるが、このような金属質粉に対して焼結後に押出鍛造を施すと製品にクラックが発生し易いことが知られている。
【0004】
このことは,例えば、「工業技術ライブラリー13,高速鍛造」(昭和44年6月25日,日刊工業新聞社発行)のP38〜P39に記されており、同書によれば、鉄の粉末から予備成形と焼結により、相対密度78%の焼結体を形成し、これに背圧4000kg/cm2を負荷しながらプレスによる押出鍛造を施したところ、クラックの発生は回避できなかった、と記載されている。
【0005】
また、同書によれば、前記と同様の焼結体に背圧3000kg/cm2を負荷しながら高速ハンマーによる押出鍛造を施したところ、クラックの発生は回避できた、と記載されている。
【0006】
しかし、この後者の鍛造方法においては、クラックの発生は回避できるようになるものの、鍛造時の成形速度が速いために発熱を生じ、この熱が原因して鍛造品の寸法精度が低下するという別の不具合を招く。
【0007】
また、これとは別に、近年、特開2000-17307号公報に記載されるような鍛造方法が案出されている。
【0008】
この鍛造方法は、金属質粉を所定密度に圧粉成形した後に、その圧粉体を真空中で1300℃で焼結することによって焼結体を形成し、その焼結体を金型中で加熱しつつ上下から加圧力を加えると共に、このとき下方の加圧力を上方の加圧力に対して減圧することによって押出鍛造を行うものである。この鍛造方法によれば、押出鍛造時の加熱と上下から加圧力の付与によってクラックの発生が回避される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この従来の鍛造方法においては、鉄を主成分とする金属粉に黒鉛を混合してなる金属質粉を用いると、1300℃で焼結したときに金属粉中に黒鉛が過剰に拡散するために硬度が非常に高くなり、つづく焼結体の押出鍛造時に充分に熱を加えないと、クラック等の発生を引き起こすこととなる。したがって、この従来の鍛造方法においては、押出鍛造時に高温加熱を行う必要から、加熱機器の付加によって設備が大型・複雑化してコストの高騰を来すうえ、熱によって型寿命の低下や鍛造品の寸法精度の低下を来たし易いという問題が起こる。
【0010】
そこで本発明は、設備の大型化や複雑化、型寿命の低下、鍛造品の寸法精度の低下等を招くことなく、クラック等の鍛造品の欠陥を確実に無くすことのできる焼結部材の鍛造方法を提供しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、鉄を主成分とし、所定量の黒鉛を混合して成る金属質粉を圧粉成形し、そこで得られた圧粉体を700℃〜1000℃にて焼結することによって金属質粉の粒界に黒鉛が残留した組織を有する焼結体を形成し、その焼結体を、相対向する二方向から圧縮する圧縮工程によって非加熱下で所定密度に圧縮し、得られた圧縮体をさらに二方向から非加熱下で加圧しつつ一方からの加圧力に対して他方からの加圧力を減少させて押出鍛造するようにした。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、金属質粉が、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)等の硬化合金元素のうちの少なくとも一種を含有するようにした。
【0013】
この請求項1,2に記載の発明によれば、圧粉体を700℃〜1000℃にて焼結して得られた焼結体は圧縮変形が可能な程度に金属間結合は進行しているが、黒鉛はほとんど拡散しないで金属粒子の粒界に分散している。この焼結体を二方向から圧縮すると、焼結体は冷間圧縮で容易に圧縮変形して高密度の圧縮体が得られる。そして、この圧縮体を二方向から加圧した状態で一方からの加圧力に対して他方からの加圧力を減少させると、他方の側から冷間押出しされてクラック等の欠陥のない鍛造品が得られる。
また、この発明では、圧縮工程及び押出工程を非加熱下で行うようにしたため、鍛造品の寸法精度を高めることができると共に、熱による型の劣化を防止することができる。
【0014】
さらに、請求項3に記載の発明は、圧粉体の密度を7.1g/cm3以上とするようにした。
【0015】
この発明によれば、圧粉体は密度が7.1g/cm3以上であることから、金属粉の粒子間の接触が増大した状態となっている。また、焼結体の組成は金属粉の粒界に黒鉛が残留し、炭化物等の析出物がほとんど生じない状態となっており、その結果、焼結体は硬度が低く、伸びが大きくなるうえ、金属粉の粒界の潤滑性が高まり、変形能が全体的に高まっている。このことと、請求項1に記載の鍛造方法による前述の作用とが相俟ってクラック等の劣化は生じなくなる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、圧縮工程と押出工程とを連続して行うようにした。
【0017】
この発明によれば、圧縮工程での加工を行った後に加工硬化を伴なうことなく、次の押出工程に移行することがてきるため、加工硬化を生じ易い材料であっても支障なく押出鍛造を行うことができる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、押出工程では前方押出しによって押出しを行うようにした。
【0021】
この発明によれば、クラック等を招くことなく長尺の部材の鍛造を実現することができる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、圧縮工程と焼結工程で用いる鍛造型を、前記焼結体をセットして圧縮する圧縮部と、その圧縮部に連続して圧縮部よりも小さな断面積に形成された押出部とを備えた構成とし、前記圧縮工程を圧縮部で行い、焼結体の密度を高めて圧縮体を形成した後に、その圧縮体を押出部に押出して鍛造体を得るようにした。
【0023】
この発明によれば、型内に圧縮部と押出部が連続して形成され、圧縮工程と押出工程とが連続して行われる。
【0024】
請求項7に記載の発明は、圧縮部を最終製品形状に合致した形状に形成するようにした。
【0025】
この発明によれば、圧縮部に押し残された部分に対して再度の加工を施すことなく、そのまま製品として用いることができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本発明にかかる鍛造方法を実施する際に用いる鍛造型の断面図であり、図2は、鍛造型内に焼結体w0を装填した状態(a)、焼結体w0を圧縮して圧縮体w1を形成している状態(b)、圧縮体w1を押出して鍛造体w2を形成している状態(c)を順次示す説明図である。
【0028】
この実施形態の鍛造方法の概略を先に説明すると、最初に、鉄を主成分とし、必要に応じて任意の合金元素を添加した金属粉に0.1重量パーセント以上の黒鉛を混合して成る金属質粉を所定密度に圧粉成形し、そこで得られた圧粉体を後述する設定温度で焼結して焼結体を形成し、その後にその焼結体を鍛造型に装填してその鍛造型によって圧縮と押出鍛造を連続的に施すものである。尚、前記の金属粉に添加する(含有させる)合金元素は、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、タングステン(W)、バナジウム(V)、コバルト(Co)等の硬化合金元素のうちの少なくとも一種であることが望ましい。
【0029】
ここで、図1,図2に示す鍛造型について説明すると、同図中、1は、上パンチ2が取付けられた上ラムであり、3は、上パンチ2よりも小径の下パンチ4が取付けられた下ラム、5は、固定ベース6に取付けられたダイスである。焼結体w0はダイス5の成形空間7に装填されて加工が施されるが、ダイス5の成形空間7は、上パンチ2が挿入される大径部8と、下パンチ4が挿入される小径部9と、これら大径部8と小径部9とを滑らかに繋ぐテーパ部10とを備えている。上ラム1と下ラム3は夫々独立して昇降作動するが、下ラム3は下パンチ4を通して焼結体w0若しくは圧縮体w1に付与する荷重を適宜増減調整できるようになっている。尚、この実施形態においては、前記大径部8とテーパ部10が鍛造型の圧縮部を構成し、小径部9が押出部を構成している。
【0030】
また、この実施形態の場合、鍛造型によって成形する鍛造品は具体的には車両等に用いられるピニオンシャフトであり、このピニオンシャフトは図示しないが、駆動部に取付けられる大径部と、ピニオンが固定される小径部と、大径部と小径部を滑らかに繋ぐテーパ部とを有し、これらの大径部、小径部、テーパ部が夫々前記成形空間7の大径部8、小径部9、テーパ部10に対応している。つまり、押出工程においては、成形空間7の大径部8からテーパ部10と小径部9に向かって材料が押出されるが、このとき小径部9に押出された部分がピニオンシャフトの小径部となり、成形空間7の大径部8とテーパ部10に押し残された部分がそのままピニオンシャフトの大径部とテーパ部となるように成形空間7の形状が設定されている。
【0031】
前記金属質粉の圧粉成形においては、圧粉体の密度が7.1g/cm3以上、望ましくは7.3g/cm3以上となるように加圧力を印加する。これは、圧粉体を7.1g/cm3以上となるような高密度に成形することによって金属粉の粒子間の接触面積を大きくし、それによって靱性をより高めるものである。また、圧粉体の密度を7.3g/cm3以上とした場合には、金属粒子間の空隙を個々に独立させて炉内の雰囲気ガスが圧粉体の内部に入り込み難くすることができるため、つづく焼結時には黒鉛が拡散せずに金属粉の粒界に残留し易くなり、焼結体w0の硬度を高くし、伸びを小さくする原因である浸炭の進行を有効に抑制できる、というさらなる効果を期待することができる。また、圧粉体を前述のように高密度に形成したことにより、焼結工程においては、金属粉の粒子同士の接触面における表面拡散または溶融による焼結が広範囲に亙って生じることとなり、焼結体w0はこのことも影響してより大きな延びが得られることとなる。
【0032】
また、圧粉体に対する焼結温度は700℃〜1000℃に設定されている。これは、焼結温度が700℃未満では焼結による金属粉の結合が進行せず、1000℃を超えると、黒鉛が過剰に拡散されて硬度が高くなり過ぎてしまうためである。したがって、前記のような焼結温度に設定したことから、焼結時には、金属粉相互は確実に結合し、黒鉛はほとんど拡散せず金属粉の粒界に残留することとなる。これにより、焼結体は硬度が小さく伸びが大きくなっており、その変形能は高められている。
【0033】
こうして成形された焼結体w0は、図2に示す鍛造型の大径部8に装填される。この状態から、下ラム3の作動によって下パンチ4を所定高さに上昇させ、上ラム1の作動によって上パンチ2を下降させて上パンチ2と下パンチ4によって焼結体w0を所定時間、所定荷重で圧縮し、焼結体の組織を緻密化して圧縮体w1を形成する(押出し工程)。この圧縮体w1の密度は7.3g/cm3(相対密度93%)以上、望ましくは7.6g/cm3(相対密度97%)以上とする。
【0034】
次に、下パンチ4に付与する荷重を上パンチ2の荷重に対して減少させ、圧縮体w1に所定の圧縮力を付与したまま圧縮体w1を鍛造型の小径部9に向かって徐々に押出していく。こうして押出しを行うと、圧縮体w1全体の組織が緻密に維持されたまま鍛造が行われ、クラック等の欠陥を生じることなく品質の高い鍛造体w2が造形されることとなる。そして,鍛造体w2はこの後の型開きによって鍛造型から取り出される。
【0035】
尚、鍛造行程においては、圧縮体w1の全体が成形空間7の小径部9に押出されるのではなく、大径部8の一部が設定厚み(高さ)分、押し残される。したがって、こうして得られた鍛造体w2には小径部の上端にテーパ部と大径部が同時に形成されることとなる。
【0036】
ここで、図4は、黒鉛を0.5質量%混合した鉄を主成分とする金属質粉に対して、密度が夫々6.5g/cm3,6.8g/cm3,7.1g/cm3,7.4g/cm3となるように圧粉成形し、その各圧粉体に前記の望ましい焼結温度範囲で焼結を行った各焼結体に対して断面減少率60%で一方向からの加圧によって前方押出しを行った実験結果である。尚、図3は、このときに前方押出しされた鍛造体を示すものである。
【0037】
同図から明らかなように、焼結体の密度は押出成形に大きく影響し、焼結体の密度が6.5g/cm3,6.8g/cm3のときには充分な押し残り厚さ(高さ)まで押し切ることができず、鍛造体の密度は実使用に耐えられる目安の密度である7.6g/cm3の値を超えることができない。これに対し、焼結体の密度が7.1g/cm3,7.4g/cm3のときには、7.6g/cm3の値を超える密度の鍛造体を得ることができる。
【0038】
また、図5は、前記の各密度の焼結体に対して前方押出しを行ったときの、焼結体の下部a側(小径部側)の密度と、上部b側(テーパ部及び大径部)の密度を調べたものである。この図から明らかなように焼結体の密度を、7.1g/cm3,7.4g/cm3と高くした場合には、下部a側、上部b側の何れの密度も7.6g/cm3の値を超える充分な値とすることができると共に、下部a側と上部b側の密度差を小さくすることができる。したがって、このように焼結体の密度を予め高く設定しておくことにより、鍛造品各部での密度のばらつきをより少なくすることができる。
【0039】
また、図6は、後述する実施例1と同様の成分の金属粉を用い、混合する黒鉛の量を適宜代えた場合の焼結温度と焼結体の伸びの関係を調べた試験データとグラフであり、図7は、実施例1と同様の金属粉に混合する黒鉛の混合量を適宜代えた場合の焼結温度と焼結体の硬さの関係を調べた試験データとグラフである。
【0040】
これらのデータとグラフから明らかなように、焼結温度を700℃〜1000℃の範囲で選択すれば、金属間結合が進行する結果、成形可能な焼結体の伸びが得られ、硬さは最も硬くなる1000℃であっても黒鉛の混合量を調整することによってHRB60を僅かに越えた値に維持することができる。因みに、このHRB60という値は、高強度の冷間鍛造鋼材に焼鈍したときの硬度と同程度のものであるが、前述した焼結体においては焼鈍を行うことなく、このHRB60に近い値を得ることができる。
【0041】
ところで、前述のように700℃〜1000℃の焼結温度で焼結された焼結体は鍛造型に入れられて圧縮と押出鍛造が連続して行われ、このときに金属組織内の空隙を圧潰することによる組織の緻密化と造形とが行われるが、焼結体は前述のように金属粉の粒界に充分な黒鉛が残留しているため、このときの成形荷重(変形抵抗)は図8に示すように非常に小さくすることができる。つまり、前述の焼結体は炭素の拡散が殆どないことから、硬度が低く、かつ、伸びが大きい特性となり、さらに、金属粒界に存在する黒鉛が金属粉相互の滑りを促進するように機能するため、圧縮時及び押出時の成形荷重は小さくなり、鍛造体は所定の形状に容易に形成される。
【0042】
この実施形態の鍛造方法は、図1に示すように鍛造型によって焼結体の圧縮と押出鍛造を連続して行うため、圧縮工程の後に材料の加工硬化を生じることがなく、したがって、加工硬化を生じ易い材料を用いる場合であっても何等問題なく鍛造を行うことができる。しかも、この鍛造方法においては、非加熱下で焼結体の圧縮と押出しを行うものであるため、鍛造型に加熱のための機器を付設する必要がない分、装置の小型化と簡素化を図ることができるうえ、熱による鍛造品の寸法精度の低下を招くこともない。また、さらに鍛造型を加熱しないことから、熱による型の劣化を防止でき、鍛造型の耐久性を高めることができる。
【0043】
図10は、加熱下で鍛造を行う従来の鍛造方法を採用した場合と、本発明にかかる鍛造方法を採用した場合の鍛造品の寸法精度を比較したものである。尚、この試験の際に造形される鍛造品は有底円筒形状のものであり、従来の鍛造方法の場合には、図11に示すようにダイス25に形成した成形穴11に焼結体w0を装填し、その状態でパンチ22によって焼結体w0の中心部を上方から加圧することによって有底円筒形状を後方押出しによって鍛造した。また、本発明にかかる鍛造方法の場合には、図12に示すようにダイス35の成形孔12の中心部にコア13を下方側から突設しておき、この状態で成形孔12内に焼結体w0を装填し、下パンチ34を上昇させると共に上パンチ32を下降させることによって焼結体w0を加圧し、その後に下パンチ34の加圧力を減圧することによって有底円筒形状を鍛造したものである。
【0044】
図10に示すように、従来の鍛造方法を用いた場合には、外径寸法と内径寸法のばらつきが夫々1.0mmであったのに対し、本発明にかかる鍛造方法を用いた場合には、外径寸法のばらつきが0.03mm、内径寸法のばらつきが0.06mmであった。この結果から明らかなように、押出時に熱を加えない本発明にかかる鍛造方法においては熱収縮による寸法誤差が極めて小さくなり、しかも、型(ダイス)に抜き勾配を設けなくても鍛造品を型から容易に取り出すことができる。
【0045】
また、この実施形態の鍛造方法においては、圧縮体に対して二方向から加圧しつつ鍛造体を前方押出しによって成形することができるため、従来難しかった長尺な部材の押出し鍛造をも容易に実現することができる。
【0046】
【実施例】
実施例1:
クロム(Cr)1.0質量%,モリブデン(Mo)0.3質量%,マンガン(Mn)0.7質量%を含有し,残部が鉄(Fe)及び不可避不純物である合金鋼粉に、0.3質量%の黒鉛を混合して金属質粉を形成し、この金属質粉を圧粉成形して、密度が7.4g/cm3の圧粉体を形成し、さらにこの圧粉体を窒素ガス雰囲気の炉内において800℃で60分間焼結して焼結体を作った。
【0047】
こうして得られた焼結体の伸びは3.3%であり、硬さはHRB48.6、成形荷重は2333MPaであった(図6〜図9参照)。
【0048】
そして、この焼結体を図1に示す鍛造型内に装填し、上パンチ2の荷重46tonf,上ラム1の成形速度5mm/秒,下パンチ4の荷重15tonf,圧縮時の両パンチ2,4の停止時間を1秒に設定し、断面減少率30%の押出し鍛造を施し、ピニオンシャフトを成形した。
【0049】
こうして得られた鍛造品はクラックの発生がなく、良好な品質のものであった(図9参照)。因みに、図9には同様に形成した焼結体に対して一方向からのみの荷重付与による前方押出しと後方押出しを夫々施したときの試験結果を示してある。前方押出しのときには明らかなクラックが発生してNGとなり、後方押出しのときには明らかなクラックは発生せず、一応試験結果としてはOKとなっているが、前記の鍛造型によって二方向から加圧したときの方が成形品の品質としては遥かに良好なものであった。
【0050】
また、図9に示した比較例は実施例1と同様の成分の金属粉に0.5質量%の黒鉛を混合し、その金属質粉で形成した密度が7.1g/cm3である圧粉体に対し、窒素ガス雰囲気の炉内において1250℃で60分間焼結して得られた焼結体に同様の鍛造を施したときの試験結果である。
【0051】
この比較例の場合、焼結体の伸びが2.6%と小さくなり、かつ、硬度がHRB75.0と大きくなることから、一方向からの加圧による前方押出しと後方押出しは勿論のこと、前記の鍛造型による二方向から加圧による押出鍛造も不可能であった。
【0052】
実施例2:
前記実施例1と同様の圧粉体を形成し、この圧粉体を窒素ガス雰囲気の炉内において900℃で60分間焼結して焼結体を作った。このときの焼結体の伸びは5.7%であり、硬さはHRB55.1、成形荷重は2596MPaであった(図6〜図9参照)。
【0053】
そして、この焼結体を図1に示す鍛造型内に装填し、実施例1と同様の条件下で圧縮と押出鍛造を施し、ピニオンシャフトを成形した。こうして得られた鍛造品はやはりクラックの発生がなく、良好な品質のものであった(図9参照)。
【0054】
【発明の効果】
以上のように本発明にかかる焼結部材の鍛造方法によれば、冷間鍛造によってクラック等の欠陥のない鍛造品を製造することができるため、加熱機器を設置しなくて良い分、鍛造設備を小型・簡素化してコストの低減を図ることができると共に鍛造品の寸法精度を高めることができ、さらに、熱による型の劣化をも防止することができる。
【0055】
また、圧縮部と押出部が連続して形成された鍛造型等を用いて圧縮工程と押出工程とを連続して行うようにした場合には、加工硬化を生じ易い材料を用いる場合であっても容易に鍛造加工を行うことができる。
【0056】
さらに、本発明においては、押出工程で前方押出を採用することができるため、従来加工の難しかった長尺の部材を容易に鍛造加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す鍛造型の断面図。
【図2】同実施形態の製造工程を示す断面図。
【図3】図4、図5のデータを得るべく試験を行ったときの鍛造品の形状を示す模式的な側面図。
【図4】焼結体の密度と前方押出による密度変化を調べたときの試験結果を示すグラフ。
【図5】焼結体の密度と押出し後の密度を調べ、鍛造体の上部と下部での密度を比較したグラフ。
【図6】実施例1,2に対応する圧粉体について、焼結温度と黒鉛の混合量を変化させた場合の伸びの変化をデータ及びグラフで示す図面。
【図7】実施例1,2に対応する圧粉体について、焼結温度と黒鉛の混合量を変化させた場合の硬さの変化をデータ及びグラフで示す図面。
【図8】実施例1,2に対応する圧粉体について、焼結温度と黒鉛の混合量を変化させた場合の成形荷重の変化をデータ及びグラフで示す図面。
【図9】実施例1,2と比較例の試験条件と試験結果を一覧で表にした図面。
【図10】従来の鍛造方法を採用した場合と、本発明にかかる鍛造方法を採用した場合の鍛造品の寸法精度を比較表にした図面。
【図11】図10に結果を示した比較試験で採用した従来の鍛造方法を示す断面図。
【図12】図10に結果を示した比較試験で採用した本発明にかかる鍛造方法を示す断面図。
【符号の説明】
8…大径部(圧縮部)
9…小径部(押出部)
10…テーパ部(圧縮部)
w0…焼結体
w1…圧縮体
w2…鍛造体
Claims (7)
- 鉄を主成分とし、所定量の黒鉛を混合して成る金属質粉を圧粉成形し、
そこで得られた圧粉体を700℃〜1000℃にて焼結することによって金属質粉の粒界に黒鉛が残留した組織を有する焼結体を形成し、
その焼結体を、相対向する二方向から圧縮する圧縮工程によって非加熱下で所定密度に圧縮し、
得られた圧縮体をさらに二方向から非加熱下で加圧しつつ一方からの加圧力に対して他方からの加圧力を減少させて押出鍛造することを特徴とする焼結部材の鍛造方法。 - 前記金属質粉が、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)等の硬化合金元素のうちの少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1に記載の焼結部材の鍛造方法。
- 前記圧粉体の密度を7.1g/cm3以上とすることを特徴とする請求項2に記載の焼結部材の鍛造方法。
- 前記圧縮工程と押出工程とを連続して行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の焼結部材の鍛造方法。
- 前記押出工程では前方押出しによって押出しを行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の焼結部材の鍛造方法。
- 前記圧縮工程と焼結工程で用いる鍛造型を、前記焼結体をセットして圧縮する圧縮部と、その圧縮部に連続して圧縮部よりも小さな断面積に形成された押出部とを備えた構成とし、前記圧縮工程を圧縮部で行い、焼結体の密度を高めて圧縮体を形成した後に、その圧縮体を押出部に押出して鍛造体を得ることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の焼結部材の鍛造方法。
- 前記圧縮部を最終製品形状に合致した形状に形成したことを特徴とする請求項6に記載の焼結部材の鍛造方法。
Priority Applications (4)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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