JP3772969B2 - 車載用レーダ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、先行車との車間距離等をリアルタイムに計測できる車載用レーダ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
車載用レーダ装置は、電波や光などの電磁波を一塊り(パルス状)にして車両前方に発射し、その反射波を受信するまでの時間から、前方を走行中(加減速走行または停止中を含む)の車両等(以下「先行車」という)との車間距離や相対速度を計測する、いわゆるパルスレーダ方式のレーダ装置である。なお、電磁波とは、波動場(電場と磁場には、時間的に一定の静的場と時間的に変動し、空間の遠方まで伝播する波動場があり、この波動場を電磁波という。)のことをいい、任意の電磁波は、様々な波長の平面電磁波の重ね合わせとして表すことができる。電波以外の光やX線なども電磁波である。
【0003】
図10(a)は、従来の車載用レーダ装置1の概念図である。車載用レーダ装置1の送信部(TX)2から発射されたパルス状電磁波3は、先行車のボディ表面4(または後部リフレクタ若しくはそれに相当する反射部位)で反射され、車載用レーダ装置1の受信部(RX)5で受信される。図10(b)に示すように、パルス状電磁波3の発射時点から反射波の受信時点までの時間をTとするとき、先行車との車間距離Lは、「(T×光の速度)÷2」で与えられる。また、自車(車載用レーダ装置1の設置車両)と先行車との相対速度は、時間軸上の車間距離Lの変化傾向から把握することができる。たとえば、時間軸上の車間距離Lの変化がゼロであれば、相対速度もゼロ(先行車は自車と同じ速度で走行中)であり、増加方向の変化であれば、先行車は自車速度に対して加速中であり、さらに、減少方向の変化であれば、先行車は自車速度に対して減速中であることが分かる。
【0004】
ここで、パルス状電磁波3の放射パターン形状を説明すると、一般に、電磁波の放射エネルギーは距離の4乗に反比例して減少するので、充分な大きさの反射波を得るためには、パルス状電磁波3の放射エネルギーを大きくしなければならないものの、送信部2の能力にも限界があることから、パルス状電磁波3の放射パターンは、細く絞り込まれた(たとえば、視野角θ=4度程度)ビーム状のパターン形状とされる。また、水平方向や垂直方向の方位分解能を高めるためにも、同ビーム状のパターン形状とされる。
【0005】
図11(a)は、パルス状電磁波3の水平方向放射パターンの一例図、図11(b)は、同垂直方向放射パターンの一例図、図11(c)は、同放射パターンの一例断面図である。これらの図において、パルス状電磁波3の放射ビーム6は、水平と垂直方向の視野角θが、たとえば、共に4度程度とされた略円形断面ビームである。車載用レーダ装置1は、このビーム6を所定の仰角EL(Elevation Angle;路面と平行な面とのなす角度。図では便宜的に仰角=0度とする。)で自車前方に発射しながら、水平方向に所定の範囲でスキャン(スキャンとは、ある角度範囲を細かい角度分解能ごとに走査しながら距離計測していくことをいう。)する。本明細書全体では、この“スキャン”のことを便宜的に“走査”と称することにする。したがって、“走査”の定義に上記スキャンの定義が適用されることはもちろんである。水平走査範囲は、自車から充分に離れた前方位置で走行車線幅の全体をカバーできる範囲であり、たとえば、10m先で左右視野が2.5m〜3m程度となる範囲である。
【0006】
このような仕組みの従来の車載用レーダ装置1によれば、図12(a)に示すように、自車7から先行車8にビーム6を照射し、その反射波を受信して、先行車8との車間距離や相対速度を計測することができる。したがって、たとえば、先行車8との車間距離が充分遠くに離れている場合には、自車7の速度を上げて車間距離を所定の安全距離程度まで詰めたりすることが可能となり、また、図12(b)に示すように、先行車8の速度が落ちて車間距離が安全距離以下に詰まった場合などには、自車7に制動をかけるなどして衝突を防止することが可能となる。これにより、通常走行時の先行車追従システムや渋滞時の「Stop&Goシステム」(数m程度の車間距離を維持しつつ停止と走行を繰り返す渋滞時の追従システム)などの実現に寄与することができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の車載用レーダ装置1にあっては、細く絞り込まれたビーム6を使用するため、遠く離れた先行車8は支障なく捕捉できるものの、車間距離が詰まってきた場合に、突然、先行車8を見失って(ロストして)しまうという、いわゆる「近接ロスト問題」を抱えていた。
【0008】
<近接ロストの実例(その1)>
図13は、近接ロストの実例(その1)を示す概念図である。この図において、車載用レーダ装置1を搭載した自車7は、車高の低い、たとえばスポーツカーであり、先行車8は、車体後端の高位置にボディ反射部位がある、たとえば、大型貨物自動車である。先に説明したとおり、車載用レーダ装置1のビーム6は、ほぼ、仰角=0度、且つ、視野角θ=4度程度で前方に照射されるため、図13(a)に示すように、先行車8が充分遠方に位置している場合は、ビーム6の拡がりによって先行車8を支障なく捕捉できるものの、図13(b)に示すように、先行車8が接近している場合は、先行車8のボディ下にビーム6が潜り込んでしまうことがあり、先行車8(正確には先行車8のボディ後端)を捕捉できなくなるという不都合がある。
【0009】
<近接ロストの実例(その2)>
図14は、近接ロストの実例(その2)を示す概念図である。この図において、車載用レーダ装置1を搭載した自車7は、車高の高い、たとえば大型貨物自動車であり、先行車8は、車高の低い、たとえばスポーツカーである。図14(a)に示すように、先行車8が充分遠方に位置している場合は、ビーム6の拡がりによって先行車8を支障なく捕捉できるものの、図14(b)に示すように、先行車8が接近している場合は、先行車8のボディ上をビーム6がかすめてしまうことがあり、やはり、先行車8を捕捉できなくなるという不都合がある。
【0010】
これら二つの実例においては、いずれも充分遠方に位置する先行車8を車載用レーダ装置1で捕捉し、その車間距離や相対速度を計測しつつ、通常走行時の先行車追従システムや渋滞時の追従システムなどの制御に必要な情報を得られるものの、先行車8が減速するなどして車間距離が詰まり、図13(b)または図14(b)の状態(近接ロスト状態)に至ったときは、先行車8を突然見失う(ロストする)結果、通常走行時の先行車追従システムや渋滞時の追従システムが、自車7の前方に障害物(先行車8)がなくなったと誤判断をしてしまうから、上記の不都合は、安全上の見地からも是非とも解決しなければならない技術課題である。
【0011】
そこで本発明は、近接ロスト問題に対する有効な対策を講じ、以て、同問題に影響されることなく先行車の捕捉を継続できるようにした車載用レーダ装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この発明による車載用レーダ装置は、所定の垂直視野角を有するビーム状の電磁波を車両前方に向けて所定の仰角で発射する発射手段と、前記電磁波の先行車からの反射波を受信する受信手段と、該受信手段の受信出力に基づいて前記先行車との車間距離を計測する計測手段とを具備する車載用レーダ装置において、
前記計測手段によって計測された車間距離が、近接ロストが発生する可能性のある距離内で短くなる方向に変化し、且つ、前記受信手段の受信出力が前記計測手段における計測動作の継続を不能とする最低レベルに達しまたはその最低レベルを下回り若しくはその最低レベルに接近したときに所定の角度変更指示信号を発生する角度変更指示手段と、
前記角度変更指示信号の発生に応答して前記ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角を変更する角度変更実行手段とにより実現されているものである。
【0013】
ここで、「電磁波」としては、光(たとえばレーザ)または電波(たとえばミリ波)があり得る。
また、「近接ロスト距離」とは、車間距離を詰めつつある先行車の後部反射部位がビームから外れしてしまうときの距離であり、電磁波発射点の路面に対する高さ(以下「設置高」という。)をHRDR、ビーム状電磁波の垂直視野角をθ、先行車の後部反射部位の高さをHTGTとするとき(図5参照)、ビームの上側に外れてしまう場合は、次式(1)で、また、ビームの下側に外れてしまう場合は、次式(2)で求めることができる。ここに、Dは近接ロスト距離である。たとえば、HRDRを0.5m、HTGTを1.4m、θのプラス仰角成分またはマイナス成分を2度とすれば、式(1)または式(2)より、D=約25.8mが得られる。また、「近接ロストが発生する可能性のある距離」とは、この「近接ロスト距離D」に車両の姿勢変化等による距離マージン(図4の“α”参照)を加算した距離である。すなわち、上記例示の場合、「近接ロストが発生する可能性のある距離」は、D+α、したがって、約25.8m+αとなる。
【0014】
D=(HTGT−HRDR)/tan(θのプラス仰角成分) ・・・・・・・・(1)
D=(HTGT−HRDR)/tan(θのマイナス仰角成分) ・・・・・・(2)
【0015】
この発明では、前記計測手段によって計測された車間距離が、近接ロストが発生する可能性のある距離内で短くなる方向に変化し、且つ、前記受信手段の受信出力が前記計測手段における計測動作の継続を不能とする最低レベルに達しまたはその最低レベルを下回り若しくはその最低レベルに接近したとき、すなわち、近接ロスト問題(図13(b)または図14(b)参照)が発生したときに、角度変更指示手段で所定の角度変更指示信号が発生し、角度変更実行手段により、前記角度変更指示信号の発生に応答して前記ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角が変更させられる。
【0016】
したがって、近接ロスト問題の発生時に、ビームの垂直方向の捜索範囲を変更することができ、先行車の捕捉を継続することができる。その結果、近接ロスト問題を解消して、たとえば、通常走行時の先行車追従システムや渋滞時の追従システムにおける誤判断(自車の前方に障害物がなくなったと誤って判断すること)を回避することができる。
【0017】
なお、この発明のより好ましい構成は、前記角度変更実行手段は、前記角度変更指示信号の発生に応答して前記ビーム状電磁波の垂直方向視野角を変更するものであって、その垂直方向視野角を拡大方向に変更することとされているものである。
【0018】
ここで、「垂直方向視野角」とは、ビーム状電磁波の垂直方向ビーム拡がり角θのことをいう。
このような構成であると、近接ロスト問題が発生した場合に、ビーム状電磁波の垂直方向ビーム拡がり角θが拡大方向に変更され、ビーム垂直方向の捜索範囲を広げて、先行車の捕捉を継続することができる。
【0019】
なお、この発明のより好ましい構成は、前記角度変更実行手段は、前記角度変更指示信号の発生に応答して前記ビーム状電磁波の仰角を変更するものであって、その仰角を、前記電磁波の発射点の路面に対する高さに基づいてマイナス方向またはプラス方向のいずれか一方に変更することとされているものである。
【0020】
ここで、プラス方向のまたはマイナス方向の仰角とは、仰角0度を路面に並行する面に沿った角度とし、それ(0度)よりも上向きの仰角のことをプラス方向の仰角といい、それ(0度)よりも下向きの仰角のことをマイナス方向の仰角という。
このような構成であると、近接ロスト問題が発生した場合に、ビーム状電磁波の垂直方向照射角度(仰角)がマイナス方向又はプラス方向に変更される。このため、当該変更分だけビームが「下向き」または「上向き」となり、捜索範囲を下向または上向に変更して、先行車の捕捉を継続することができる。
【0021】
また、この発明のより好ましい構成は、前記角度変更実行手段は、前記電磁波の発射点の路面に対する高さが高い場合に前記ビーム状電磁波の仰角をマイナス方向に変更し、同高さが低い場合に仰角をプラス方向に変更することとされているものである。
【0022】
このような構成であると、近接ロスト問題が発生した場合に、車載用レーダ装置の設置高が高ければ、ビーム状電磁波の仰角がマイナス方向に変更され、一方、同設置高が低ければ、ビーム状電磁波の仰角がプラス方向に変更される。このため、同高さが高い場合の目標物捕捉不能領域(ビームの下方側)と、同高さが低い場合の目標物捕捉不能領域(ビームの上方側)とを共に解消することができ、近接ロスト問題が発生した場合に、先行車の捕捉を継続することができる。
【0023】
また、この発明のより好ましい構成は、さらに、所定の角度復帰指示信号の発生に応答して前記ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角を前記所定の仰角または前記所定の垂直視野角に復帰させる角度復帰実行手段を備えると共に、
前記角度変更指示信号の発生後、前記計測手段によって計測された車間距離が近接ロスト距離を上回った場合に前記所定の角度復帰指示信号を発生する角度復帰指示手段を備えることとされているものである。
【0024】
このような構成であると、近接ロスト問題を生じない車間距離になったときに、ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角が元の角度に戻される。
【0025】
また、この発明のより好ましい構成は、さらに、所定の角度復帰指示信号の発生に応答して前記ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角を前記所定の仰角または前記所定の垂直視野角に復帰させる角度復帰実行手段を備えると共に、
該角度復帰実行手段は、前記ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角が前記所定の仰角または前記所定の垂直視野角から変更された時、依然として、前記受信手段の受信出力が前記計測手段における計測動作の継続を可能とする最低レベルに達しまたはその最低レベルを下回り若しくはその最低レベルに接近した状態を維持している場合に、前記所定の角度復帰指示信号を発生することとされているものである。
【0026】
このような構成であると、ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角を変更して先行車を捕捉できなかった場合に、ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角が元の角度に戻される。
【0027】
また、この発明のより好ましい構成は、前記角度変更指示手段は、前記計測手段によって計測された車間距離が、近接ロストが発生する可能性のある距離内で短くなる方向に変化し、且つ、前記受信手段の受信出力が前記計測手段における計測動作の継続を不能とする最低レベルに達しまたはその最低レベルを下回り若しくはその最低レベルに接近し、さらに、前記計測手段によって計測された対象物が自車線内に存在する状態を保っているときに、所定の角度変更指示信号を発生することとされているものである。
【0028】
ここで、「対象物が自車線内に存在する」か否かを判定するための技術は公知である。たとえば、自車と先行車との間の車間距離及び自車の進行方向に対する先行車の方位の時間的変化から、先行車が自車線内を走行しているか否かを判定する技術が知られているので、この技術を本発明に適用すればよい。また、道路がカーブしている場合は、そのカーブの曲率(R)を検出する技術も知られている。たとえば、自車のハンドル操作量(操舵量)から検出する技術などである。このR検出技術と上記の公知技術(先行車が自車線内を走行しているか否かを判定する技術)とを組み合わせて本発明に適用することにより、たとえ、自車線がカーブにさしかかったとしても、そのカーブに沿って横方向に移動する先行車を、間違って車線変更したと誤認することもない。
【0029】
このような構成であると、たとえば、先行車が車線変更(自車線から隣接車線等への車線変更)した場合に発生するロストを、近接ロストと誤認することがなく、角度変更指示信号の発生を確実なものとすることができ、複数車線からなる道路走行においても実用的に使用できる車載用レーダ装置を提供できる。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明における様々な細部の特定ないし実例および数値や文字列その他の記号の例示は、本発明の思想を明瞭にするための、あくまでも参考であって、それらのすべてまたは一部によって本発明の思想が限定されないことは明らかである。また、周知の手法、周知の手順、周知のアーキテクチャおよび周知の回路構成等(以下「周知事項」)についてはその細部にわたる説明を避けるが、これも説明を簡潔にするためであって、これら周知事項のすべてまたは一部を意図的に排除するものではない。かかる周知事項は本発明の出願時点で当業者の知り得るところであるので、以下の説明に当然含まれている。
【0031】
まず、本実施の形態の車載用レーダ装置の構成を説明する。なお、以下の説明では、電磁波に光(具体的には“レーザビーム”)を使用するものを例示するが、本発明の技術思想はこれに限定されない。他の電磁波、たとえば、ミリ波などの“電波”を用いた車載用レーダ装置であってもよい。
【0032】
図1は、車載用レーダ装置10の概念的な構成図である。この車載用レーダ装置10は、それ自体独立した装置として、または、先行車追従システムや渋滞追従システムなどの他のシステムと組み合わされて、任意の車両(たとえば、自家用乗用自動車や貨物自動車など)に設置されて使用されるものである。
【0033】
以下、説明の便宜上、この車載用レーダ装置10は、不図示の先行車追従システムと併用されるものとする。すなわち、車載用レーダ装置10によって計測された車間距離や相対速度などの情報を先行車追従システムで利用し、自車の速度制御や制動制御を行いつつ、所定の設定速度(定速走行上限速度)内で先行車との車間距離を設定距離に維持するなどの制御を行うことができるものとする。
【0034】
図1において、車載用レーダ装置10は、レーザビームBMTXを車体前方に発射する投光機構部20と、車体前方の目標物(先行車等)からの反射レーザビームBMRXを受光する受光機構部30と、車載用レーダ装置10の全体動作を制御する制御部40とにより構成されている。
【0035】
なお、これら各部(投光機構部20、受光機構部30及び制御部40)は、図1では、それぞれ個別のユニット(波線で示す)に収められているが、これに限らず、すべてを共通のユニットに収めてもよいし、あるいは、投光機構部20と受光機構部30とをユニット化して車両前部(たとえば、バンパー内やフロントグリル内)に設け、制御部40を他の車両部位(たとえば、エンジンルーム内)に設けるように分散配置してもよい。
【0036】
投光機構部20は、発光部21、水平方向走査部22及び垂直方向走査部23よりなる。発光部21には、たとえば赤外線レーザを発光するレーザダイオード21aと、このレーザダイオード21aから出力されたレーザ光(通常、30度程度の広がり角を有するもの)を集光して、水平方向が0.1度程度で上下方向が5度程度の拡がり角を有するレーザビームBMTXに変換する光学系21bと、それらを収納保持するケース21cとが備えられている。水平方向走査部22は、レーザビームBMTXを反射させて光軸を曲げ、装置前方(車両前方)に出射させる反射ミラー22aと、この反射ミラー22aを水平方向に揺動駆動する水平方向駆動機構22bとよりなる。また、垂直方向走査部23は、シャフト23aを介して水平方向駆動機構22bに連結された垂直方向駆動機構23bを備えており、この垂直方向駆動機構23bの揺動運動をシャフト23aを介して水平方向駆動機構22bに伝えることにより、反射ミラー22aの垂直方向の傾きを変え、レーザビームBMTXの垂直方向出射角度(すなわち、仰角:EL)を自在に変更できるようになっている。
【0037】
なお、光学系21bは、必ずしも一つのレンズで構成されている必要はない。複数のレンズを組み合わせて構成されたレンズ群であってもよい。また、レーザダイオード21aから出力されたレーザ光の拡がり角が十分狭いものであれば、当然ながら光学系21bは不要である。さらに、図示の例では、光学系21bの後に水平方向走査部22を入れているが、これに限らず、その位置を逆にする(水平方向走査部22の後に光学系21bを入れる)ことも可能である。
【0038】
また、図示の例では、水平方向走査部22の反射ミラー22aは、たとえば、アルミニウムなどの光沢素材若しくはプラスチックなどの基材にアルミニウム膜を形成して、その表面を鏡面仕上げしたものであるが、これに限らず、たとえば、ポリゴンミラー(回転多面鏡)を使用してもよい。
【0039】
図2は、その構成図であり、図1の反射ミラー22aの代わりに、たとえば、正六面体の各面にアルミニウム膜を形成して、その表面を鏡面仕上げしたポリゴンミラー22cを使用したものである。このポリゴンミラー22cは、図1の反射ミラー22aと同様に、水平方向駆動機構22bによって水平方向に揺動駆動されると共に、垂直方向駆動機構23bによって垂直方向に揺動駆動されるようになっている。以下、説明の都合上、水平方向走査部22は、図1の反射ミラー22aを有する構成であるものとする。
【0040】
また、水平方向駆動機構22b及び垂直方向駆動機構23bは、この場合、いわゆる“ガルバノモータ”よりなるものとする。ガルバノモータは、周知のとおり、たとえば、軸中心線の両側がN極又はS極の磁性を帯びた材料よりなるロータと、このロータの周囲に配置された複数の励磁用コイルとよりなり、回転位置検出用のホール素子を内蔵するもので、各励磁用コイルの電流を操作してロータの回転位置(あるいは回転速度など)をフィードバック制御することで、リニアリティーの点で良好な揺動(最大70度程度の揺動)運動を実現できる電動アクチュエータである。
【0041】
また、受光機構部30は、反射レーザビームBMRXを受光して、その受光光量に応じた大きさの受光信号SRXを発生するLED(Light Emitting Diode)等の受光素子31と、この受光素子31に、効率良く反射光(BMRX)を入射させるための受光用光学系(図示省略)及びそれらを収納保持するケース32とよりなる。
【0042】
次に、制御部40は、駆動回路41、制御回路42、信号処理部43及び高さ設定部44よりなり、駆動回路41は、図3(a)に示すように、制御回路42からの発光駆動制御信号CONTaに従ってレーザダイオード21aに電力PWRaを供給し、レーザダイオード21aを発光させる発光駆動部41aと、制御回路42からの水平駆動制御信号CONTbに従って水平方向駆動機構22b(ガルバノモータ)に電力PWRbを供給し、水平方向駆動機構22bを作動させる水平方向駆動部41bと、制御回路42からの垂直駆動制御信号CONTcに従って垂直方向駆動機構23b(ガルバノモータ)に電力PWRcを供給し、垂直方向駆動機構23bを作動させる垂直方向駆動部41cと、水平方向駆動機構22bの回転位置検出器(この場合、前述のホール素子)からの水平走査位置検出信号SHORを必要に応じて形態変換して制御回路42に入力するための水平走査位置信号入力回路41dと、垂直方向駆動機構23bの回転位置検出器(この場合、前述のホール素子)からの垂直走査位置検出信号SVERを必要に応じて形態変換して制御回路42に入力するための垂直走査位置信号入力回路41eとを備えている。
【0043】
また、信号処理部43は、図示を略すが、受光素子31の出力信号(受光信号SRX)からノイズ成分を取り除き、その他必要な信号処理を行い、ディジタル信号に変換して制御回路42に入力するための入力回路を備えており、また、高さ設定部44は、たとえば、複数ビットのディップスイッチからなり、このディップスイッチのビットのオンオフの組み合わせを手動で設定することにより、車載用レーダ装置10のレーザビームBMTXの発射点高度(設置高HRDR)を自由にセットできるようになっている。
【0044】
さらに、制御回路42は、図3(b)に示すように、入出力インターフェース42a、マイクロコンピュータユニット(以下「CPUと略す」42b、揮発性情報記憶部(以下「RAM」と略す)42c及び読み出し専用不揮発性情報記憶部(以下「ROM」と略す)42dなどを備えている。
【0045】
入出力インターフェース42aには、高さ設定部44からの設置高HRDR、信号処理部43からの受光信号SRX、駆動回路41からの水平走査位置検出信号SHOR、垂直走査位置検出信号SVERなどが入力されると共に、さらに、図示を略した車速センサからの車速信号SSPなどが入力されている。また、入出力インターフェース42aから駆動回路41に対して発光駆動制御信号CONTa、水平駆動制御信号CONTb、垂直駆動制御信号CONTcなどが出力されていると共に、さらに、図示を略した先行車追従システムや車間距離警告装置などに対して、速度制御信号CONTSPや車間距離警告制御信号CONTALARMなどが出力されている。
【0046】
CPU42bは、ROM42dにあらかじめ格納されている制御プログラムをRAM42cにロードし、その制御プログラムを実行することにより、入出力インターフェース42aから所要のデータ(HRDR、SRX、SHOR、AVER、・・・・、SSP)を取り込みつつ、車載用レーダ装置10の全体動作の制御に必要な各種演算処理を行い、その演算結果として得られる様々な制御データ(CONTa、CONTb、CONTc、・・・・、CONTSP、CONTALARM)を入出力インターフェース42aを介して駆動回路41やその他の回路(たとえば、先行車追従システムや車間距離警告装置など)に出力する。
【0047】
制御回路42は、CPU42bなどのハードウェアリソースと、ROM42dに格納された制御プログラムなどのソフトウェアリソースとの有機的結合によって、所定の制御処理機能を実現する要素であり、本実施の形態においては、特に、次のような制御処理機能を実現することができるものである。
【0048】
すなわち、先行車追従動作が指令された場合には、まず、レーザダイオード21aを駆動してレーザビームBMTXを発射させながら、垂直駆動機構23bを動作させてレーザビームBMTXの仰角(EL)を初期値にセットする。ここで、仰角の初期値とは、自車前方の充分遠い距離まで路面に沿ってレーザビームBMTXが到達できる適切な仰角であり、たとえば、仰角=0度である。次に、水平駆動機構22bを作動させて反射ミラー22aを水平方向に揺動駆動し、反射ミラー22aの動きによってレーザビームBMTXを水平方向に走査する。水平走査範囲は、自車から充分に離れた前方位置で走行車線幅の全体をカバーできる範囲であり、たとえば、10m先で左右視野が2.5m〜3m程度となる範囲である。
【0049】
次に、受光機構部30による反射レーザビームBMRXの受光結果(反射波の受光の有無、反射波の強度、投光から受光までの時間、或いはその際の照射方向(走査方向)のデータなど)を順次読み取り、ノイズ成分の除去処理やグルーピング処理(たとえば自車前方の障害物が自動車の場合、その自動車の後部に設けられた左右のリフレクタが別個の対象物として観測されるので、これらを一つの自動車のものとして取りまとめるといった処理)を行い、処理後の情報から対象物の存在又は種類(若しくは大きさ)や位置データ或いは速度データなどの情報(たとえば、他の自動車が自車線上の前方50m先に存在し速度70km/hで走行しているなどを示す情報)を検知する。そして、たとえば、自車線上前方の設定車間距離近く(あるいは設定車間距離未満)を他の車両(すなわち、先行車)が自車よりも低速で走行している場合には、エンジン制御システムの制御ユニットに制御信号を出力して、エンジンブレーキで自車両を減速させる制御を実行する。また、自車が設定速度よりも低速で走行していて、自車線上前方の設定車間距離以上離れた位置を先行車が自車よりも高速で走行している場合(あるいは設定車間距離を越える所定距離範囲内に先行車が全く存在しない場合)には、前記制御ユニットに制御信号を出力して、自車を設定速度を越えない範囲内で加速させる制御(あるいはその後自車を設定速度で定速走行させる制御)を実行する。
【0050】
上記制御によれば、設定された速度範囲内で車間距離を設定値付近に維持しながら先行車に追従し、先行車がいないときには、設定された速度で定速走行するという先行車追従走行制御を行うことができる。そしてこの際には、レーザビームBMTXの仰角が初期値、すなわち、自車前方の充分遠い距離まで路面に沿ってレーザビームBMTXが到達できる適切な角度(たとえば、仰角=0度)に設定されているため、遠く離れた先行車に対しても支障なく、追従走行制御を行うことができる。
【0051】
なお、安全性確保の観点や、装置の不必要な稼働による寿命(特にレーダダイオード21aの寿命)低下防止等の観点から、たとえば、自車が停車中などの場合は、上記の先行車追従動作が指令されても、上述の制御(すなわち、先行車追従走行制御)を行わない構成とすることが好ましい。
【0052】
さて、このように、車載用レーダ装置10で先行車を捕捉して、その先行車に追従走行している場合、先行車との車間距離が短くなると、冒頭で説明した「近接ロスト問題」が発生することがある。この近接ロスト問題が発生すると、先行車追従走行システムは、前方に障害物(先行車)がなくなったと誤判断し、車速を上げるなどの制御を行うこととなるが、いうまでもなく、かかる制御は安全上不適当な制御であり、絶対に行ってはならないものである。これは、障害物を見失った場合は、安全を高める方向に制御を指向させるべきであるからであり、決して加速を行ってはならない(むしろ減速する方が安全上望ましい)からである。
【0053】
本実施の形態においては、かかる近接ロスト問題に対して、以下のとおりの対策を講じるものである。
図4は、制御回路42のCPU42bで実行される制御プログラムの概略的なフローチャートである。このフローチャートを参照しつつ、本実施の形態における車載用レーダ装置10の動作を説明すると、まず、最初に、レーザビームBMTXを車体前方に発射する際の仰角を設定する(ステップS11)。この設定値は、先に説明した初期値、すなわち、自車前方の充分遠い距離まで路面に沿ってレーザビームBMTXが到達できる適切な角度、たとえば、仰角=0度である。次に、レーザビームBMTXの水平走査角を所定の走査開始角度(水平走査範囲の任意角度、たとえば、同範囲の中心角度など)に設定(ステップS12)するとともに、その用途等については後で詳しく説明する二つのフラグ(ロストフラグと仰角変更フラグ)をリセット状態(ステップS13、ステップS14)した後、レーザビームBMTXを発射する(ステップS15)。
【0054】
そして、車体前方の目標物(先行車等)からの反射レーザビームBMRXを受信したか否かを判定し(ステップS16)、受信している場合は、その受信信号(信号処理部43からの受光信号SRX)に基づいて、先行車との間の車間距離や相対速度などを計測(ステップS17)した後、その車間距離が“近接ロスト距離D+α”よりも近いか否か、すなわち、近接ロストが発生する可能性のある距離内にあるか否かを判定する(ステップS19)。ここで、“α”は車両の姿勢変化等による距離マージンである。なお、このフローチャートでは、ステップS19の前に、自車線内であるか否かを判定するステップ(波線で囲まれたステップS18)を実行しているが、このステップ18の必要理由については後で説明する。
【0055】
また、ステップS16において、(信号処理部43からの受光信号SRXを)「受信できない場合」とは、反射レーザビームBMRXの受信レベル(信号処理部43から取り出された受光信号SRXの信号レベル)が車間距離計測及び車速計測に必要な最低レベルに達しまたはその最低レベルを下回り若しくはその最低レベルに接近したときのことをいう。
【0056】
ここで、近接ロスト距離Dは、前述の式(1)、(2)によって与えられる。図5は、近接ロスト距離Dの概念図であり、本実施の形態においては、前式(1)、(2)を、レーザビームBMTXの発射点高度(設置高HRDR)が低いか高いかによって使い分けている。これは、設置高HRDRが低い場合(図5(a))は、レーザビームBMTXの“上側”に目標物捕捉不能領域(イ)が生じ、一方、設置高HRDRが高い場合(図5(b))は、レーザビームBMTXの“下側”に目標物捕捉不能領域(ロ)が生じるからである。
【0057】
ステップS19の判定結果が“NO”の場合、すなわち、ステップS17で計測した車間距離が“近接ロスト距離D+α”より近くない場合は、近接ロスト距離D+α以上離れた充分遠方に先行車が位置しており、先行車の捕捉が支障なく行われているものと判断し、再びレーザビームBMTXの発射(ステップS15)以降の処理を繰り返す。また、この場合、ステップS15に進む前に、後述のロストフラグのリセットと仰角の初期値設定(ステップS20とステップS21)とを行っているが、この段階では、ロストフラグはリセット状態にあり、且つ、仰角にも初期値が設定されているから、今は敢えて説明しない。
【0058】
このような処理を繰り返している間に、先行車との間の車間距離が徐々に詰まり、ステップS19の判定結果が“YES”となった場合、すなわち、ステップS17で計測した車間距離が“近接ロスト距離D+α”より近くなった場合は、近接ロスト問題の発生の可能性を示す所定のフラグ(以下「ロストフラグ」という)をセット状態(ステップS22)にした後、再びレーザビームBMTXの発射(ステップS15)以降の処理を繰り返す。
【0059】
ロストフラグがセット状態にあるときに、ステップS16の判定結果が“NO”となった場合、すなわち、車体前方の目標物(先行車等)からの反射レーザビームBMRXが受信されなかった場合は、先行車がレーザビームBMTXの目標物捕捉不能領域(図5の(イ)または(ロ))に入り、それにより、実際に近接ロストが発生したことを示している。
【0060】
この場合、本実施の形態では、以下の特徴的な処理を実行する。まず、ステップS16の判定結果が“NO”となった場合は、次に、ロストフラグがセット状態であるか否かを判定する(ステップS23)。今の段階では、ロストフラグはセット状態であるから、次に、仰角変更フラグをセットし(ステップS24)、制御部40の高さ設定部44に設定されている設置高(HRDR;車載用レーダ装置10のレーザビームBMTXの発射点高度)を読み込み、その設置高HRDRが、図5の高低二つの設置高(HRDR)のうち高い方の設置高HRDR(以下「設置高Hi」という)に該当するか、または、それに近いかを判定する(ステップS25)。そして、その判定結果が“YES”であれば、仰角の設定値をマイナス方向の仰角(Low)に変更し(ステップS26)、再びレーザビームBMTXの発射(ステップS15)以降の処理を繰り返す。一方、ステップS25の判定結果が“NO”であれば、仰角の設定値をプラス方向の仰角(Hi)に変更し(ステップS27)、再びレーザビームBMTXの発射(ステップS15)以降の処理を繰り返す。
【0061】
したがって、このフローチャートによれば、先行車との車間距離が詰まって近接ロスト距離D+αより近くなったときで、しかも、反射レーザビームBMRXを受信できなくなった場合は、レーザビームBMTXの仰角をマイナス方向またはプラス方向に変更することができる。その結果、仰角をプラス方向に変更した場合は、図5(a)に示すレーザビームBMTXを上向きに調節し、上側の目標物捕捉不能領域(イ)を解消して、近接ロスト問題の発生を解消できる結果、近接ロスト距離D以内に位置する先行車の捕捉を支障なく継続することができる。また、仰角をマイナス方向に変更した場合は、図5(b)に示すレーザビームBMTXを下向きに調節し、下側の目標物捕捉不能領域(ロ)を解消して、上記と同様に、近接ロスト問題の発生を解消できる。その結果、やはり、近接ロスト距離D以内に位置する先行車の捕捉を支障なく継続することができる。
【0062】
ここで、上記の説明で省いた波線部分の処理(ステップS18)について、その必要理由を説明する。一般に道路上の車線は、多くの場合、複数車線設けられているが、もし、自車と同じ車線を走行中の先行車が車線変更した場合、車載用レーダ装置10の捕捉視界から消えてロスト(以下便宜的に「車線変更ロスト」という)状態となる。この車線変更ロストは、前記の「近接ロスト」と区別されなければならない。なぜならば、車線変更ロストは先行車が自車の走行車線から外れた場合に発生し、言い換えれば、自車の走行方向前方から障害物がなくなったときに発生し、自車の走行に支障となる要因がなくなったことを意味するからである。
【0063】
したがって、車線変更ロストが発生した場合は、近接ロスト発生時と違って、レーザビームBMTXの仰角を元(初期値)に戻し、他の先行車の捕捉を開始するようにしなければならないからであり、上記の説明で省いた波線部分の処理(ステップS18)は、そのために設けられた判定ステップである。すなわち、このステップS18で、先行車が自車線内にあるか否かを判定し、自車線内にある場合は、ステップS19に進む一方、自車線内にない場合は、車線変更ロストが発生したものと判断して、ステップS20及びステップS21に進み、ロストフラグのリセットと仰角の初期値設定を実行するようにしたものである。
【0064】
なお、「自車線内か否か」を判定するための技術は公知である。たとえば、自車と先行車との間の車間距離及び自車の進行方向に対する先行車の方位の時間的変化から、先行車が自車線内を走行しているか否かを判定する技術が知られているので、この技術をステップS18に適用すればよい。また、道路がカーブしている場合は、そのカーブの曲率(R)を検出する技術も知られている。たとえば、自車のハンドル操作量(操舵量)から検出する技術などである。このR検出技術と上記の公知技術(先行車が自車線内を走行しているか否かを判定する技術)とを組み合わせてステップS18に適用することにより、たとえ、自車線がカーブにさしかかったとしても、そのカーブに沿って横方向に移動する先行車を、間違って車線変更したと誤認することもない。
【0065】
次に、上記のフローチャートにおいて、レーザビームBMTXの仰角を初期値に復帰させるための処理について説明する。レーザビームBMTXの仰角がプラス方向またはマイナス方向に変更されている場合、仰角変更フラグとロストフラグは共にセット状態にある。いま、この状態で、先行車との車間距離が離れていき、近接ロスト距離D+α以上離れた場合、上記のフローチャートでは、ステップS19の判定結果が“NO”となるので、そのNO判定により、ロストフラグをリセット状態にする(ステップS20)と共に、レーザビームBMTXの仰角を初期値に戻し(ステップS21)た後、再びレーザビームBMTXの発射(ステップS15)以降の処理を繰り返すようにしている。この繰り返しにおいては、先行車は近接ロスト距離D+α以上離れた位置にあるから、反射レーザビームBMRXは支障なく受信され、結局、ステップS15、ステップS16、ステップS17、ステップS18、ステップS19及びステップS22のループを繰り返しながら、通常(仰角=初期値)の先行車捕捉処理を行うことができる。なお、そのループ中にステップS18で自車線内であることが判定された場合、すなわち、車線変更ロストの発生が判定された場合は、その時点でループを抜け出すことはもちろんである。
【0066】
または、上記のフローチャートの一部を、図6(a)に示すように改良してもよい。図6(a)において、図4と共通する処理要素には同一のステップ番号を付してある。
この改良例では、仰角変更フラグとロストフラグが共にセット状態になっている場合(仰角をプラス方向またはマイナス方向に変更している場合)に、反射レーザビームBMRXを受信できなかった場合は、ステップS16の判定結果が“NO”となり、且つ、ステップS23の判定結果は“YES”となるが、ステップS23のYES判定後に、仰角変更フラグがセットされているか否かの判定処理(ステップS30)を追加し、仰角変更フラグがセットされている場合には、仰角変更フラグをリセットする(ステップS28)と共に、レーザビームBMTXの仰角を初期値に戻し(ステップS29)た後、再びレーザビームBMTXの発射(ステップS15)以降の処理を繰り返すようにしている。
【0067】
この繰り返しにおいては、仰角を初期値に戻して、ステップS15とステップS16の処理を実行し、そのステップS16で反射レーザビームBMRXを受信できた場合は、そのままステップS17、ステップS18、ステップS19及びステップS22のループを繰り返す一方、ステップS16で反射レーザビームBMRXを受信できなかった場合は、ステップS23、ステップS30、ステップS24、ステップS25及びステップS26(またはステップS27)を実行することができる。
したがって、仰角を初期値に戻したり、プラス方向またはマイナス方向に変更したりしながら、先行車を捕捉(反射レーザビームBMRXを受信)するまで待機することができる。
【0068】
または、上記のフローチャートの一部を、図6(b)に示すように改良してもよい。図6(b)において、図4と共通する処理要素には同一のステップ番号を付してある。両図の相違する点は、ロストフラグのセット状態の判定(ステップS23)結果が“YES”の場合に、仰角変更時から時を刻む所定のタイマー時間の経過を判定し(ステップS31)、そのタイマー時間が経過していなければ、図4と同様に、仰角変更フラグのセット処理(ステップS24)に進む一方、タイマー時間が経過していた場合は、ロストフラグと仰角変更フラグをリセットし(ステップS32、ステップS33)、レーザビームBMTXの仰角を初期値に戻し(ステップS34)た後、再びレーザビームBMTXの発射(ステップS15)以降の処理を繰り返すようにした点にある。
【0069】
この改良例においては、近接ロスト問題の発生を検出して、レーザビームBMTXの仰角をプラス方向またはマイナス方向に変更した場合、所定時間(タイマー時間)を経過してもなお、反射レーザビームBMRXを受信できなかった場合は、直ちにレーザビームBMTXの仰角を初期値に復帰させることができる。
【0070】
以上のとおりであるから、本実施の形態の車載用レーダ装置10によれば、近接ロスト問題を解消して先行車の捕捉を継続して行うことができるという特有の効果が得られる他、さらに、以下の効果が得られる。
【0071】
(A)近接ロストとその他のロストの区別
前式(1)または(2)に基づいて、近接ロスト距離Dを算出し、車間距離がその距離D+αよりも近くなったときで、且つ、先行車が自車線内に存在することを判定(ステップS18の“YES”判定)した場合に、「近接ロスト問題」の発生の可能性ありと判断ている。したがって、それ以外のロスト、たとえば、車線変更に伴う先行車のロスト(車線変更ロスト)と近接ロストとを正しく区別することができ、車線変更ロストの場合に無駄な仰角変更を行わなくて済むという効果がある。
【0072】
(B)車載用レーダ装置10の設置高
また、車載用レーダ装置10のレーザビームBMTXの放射点高度(設置高HRDR)を、制御部40の高さ設定部44により自由に設定できるようにしたので、様々なタイプの車両、たとえば、設置高HRDRが低いスポーツカーや、設置高HRDRが高い大型貨物自動車などであっても、それらの設置高HRDRに応じた適正な仰角変更方向(プラス/マイナス)を選択することができ、その結果、設置高HRDRが低い車両(スポーツカーなど)にあっては、図7に示すように、近接ロスト距離D以下ではレーザビームBMTXの仰角を上向き(プラス方向)に変更して上側の目標物捕捉不能領域(図5の(イ)参照)を解消することができ、また、設置高HRDRが高い車両(大型貨物自動車など)にあっては、図8に示すように、近接ロスト距離D以下ではレーザビームBMTXの仰角を下向き(マイナス方向)に変更して下側の目標物捕捉不能領域(図5の(ロ)参照)を解消することができる。
【0073】
なお、本発明の技術思想は上記実施の形態に限定されず、様々な変形例があり得る。たとえば、上記の実施の形態では、レーザビームBMTXの“仰角”をマイナス方向またはプラス方向に変更することによって、レーザビームBMTXの上側または下側の目標物捕捉不能領域(図5の(イ)または(ロ)参照)を解消するようにしているが、これに限らず、レーザビームBMTXの“垂直方向視野角θ”を拡大方向に変更する態様であってもよい。
【0074】
すなわち、図9は、レーザビームBMTXの垂直方向視野角θの拡大イメージ図であり、(a)先行車との車間距離が近接ロスト距離D以上離れている場合は、レーザビームBMTXの垂直方向視野角θを初期値(たとえば、θ=4度程度)とする一方、(b)先行車との車間距離が近接ロスト距離D以下に近づいた場合は、レーザビームBMTXの垂直方向視野角θを上記の初期値よりも大きい値(特に限定しないが、たとえば、θ=10度程度)とする態様にしてもよい。これによっても、レーザビームBMTXの上側または下側の目標物捕捉不能領域(図5の(イ)または(ロ)参照)を解消することができるうえ、さらに、車載用レーダ装置10の設置高HRDRの高低判断処理(図4のステップS25)を不要にできるという特有のメリットが得られる。なお、レーザビームBMTXの垂直方向視野角θを上記の初期値よりも大きい値にするための仕組みとしては、たとえば、図1の光学系21bのレンズ構成を工夫するなどして、光学系21bの焦点距離を可変できるようにしてもよい。
【0075】
【発明の効果】
この発明によれば、前記計測手段によって計測された車間距離が、近接ロストが発生する可能性のある距離内で短くなる方向に変化し、且つ、前記受信手段の受信出力が前記計測手段における計測動作の継続を不能とする最低レベルに達しまたはその最低レベルを下回り若しくはその最低レベルに接近したとき、すなわち、近接ロスト問題が発生したときに、角度変更指示手段で所定の角度変更指示信号が発生し、角度変更実行手段により、前記角度変更指示信号の発生に応答して前記ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角が変更させられる。
【0076】
したがって、近接ロスト問題の発生時に、ビームの垂直方向の捜索範囲を変更することができ、先行車の捕捉を継続することができる。その結果、近接ロスト問題を解消して、たとえば、通常走行時の先行車追従システムや渋滞時の追従システムにおける誤判断(自車の前方に障害物がなくなったと誤って判断すること)を回避することができる。
【0077】
また、この発明のより好ましい構成によれば、近接ロスト問題が発生した場合に、ビーム状電磁波の垂直方向照射角度(仰角)がマイナス方向又はプラス方向に変更される。このため、当該変更分だけビームが「下向き」または「上向き」となり、捜索範囲を下側または上側に変更して、先行車の捕捉を継続することができる。
【0078】
また、この発明のより好ましい構成によれば、近接ロスト問題が発生した場合に、車載用レーダ装置の設置高が高ければ、ビーム状電磁波の仰角がマイナス方向に変更され、一方、同設置高が低ければ、同仰角がプラス方向に変更される。このため、同高さが高い場合の目標物捕捉不能領域(図5の(ロ)参照)と、同高さが低い場合の目標物捕捉不能領域(図5の(イ)参照)とを共に解消することができ、近接ロスト距離D以下であっても先行車の捕捉を継続することができる。
【0079】
また、この発明のより好ましい構成によれば、近接ロスト問題を生じない車間距離になったときに、ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角を元の角度に戻すことができる。
【0080】
また、この発明のより好ましい構成によれば、ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角を変更して先行車を捕捉できなかった場合に、ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角を元の角度に戻すことができる。
【0081】
また、この発明のより好ましい構成によれば、たとえば、先行車が車線変更(自車線から隣接車線等への車線変更)した場合に発生するロストを、近接ロストと誤認することがなく、角度変更指示信号の発生を確実なものとすることができ、複数車線からなる道路走行においても実用的に使用できる車載用レーダ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】車載用レーダ装置10の概念的な構成図である。
【図2】反射ミラー22aの代わりにポリゴンミラー22cを使用した水平方向走査部22の構成図である。
【図3】駆動回路41及び制御回路42の構成図である。
【図4】制御回路42のCPU42bで実行される制御プログラムの概略的なフローチャートを示す図である。
【図5】近接ロスト距離Dの概念図である。
【図6】図4のフローチャートの改良例を示す図である。
【図7】近接ロスト距離D+α以下でレーザビームBMTXの仰角を上向き(プラス方向)に変更して上側の目標物捕捉不能領域を解消する場合の概念図である。
【図8】近接ロスト距離D+α以下でレーザビームBMTXの仰角を下向き(マイナス方向)に変更して下側の目標物捕捉不能領域を解消する場合の概念図である。
【図9】レーザビームBMTXの垂直方向視野角θの拡大イメージ図である。
【図10】従来の車載用レーダ装置1の概念図及び車間距離の計測概念図である。
【図11】パルス状電磁波3の水平方向放射パターン図、同垂直方向放射パターン図及び同放射パターンの断面図である。
【図12】従来の車載用レーダ装置1における先行車捕捉の概念図である。
【図13】近接ロストの実例(その1)を示す概念図である。
【図14】近接ロストの実例(その2)を示す概念図である。
【符号の説明】
BMTX……レーザビーム(電磁波)
BMRX……反射レーザビーム(反射波)
CONTc……垂直駆動制御信号(角度変更指示信号、角度復帰指示信号)
D……近接ロスト距離
EL……仰角
RDR……設置高(BMTX発射点の路面に対する高さ)
RX……受光信号(受信出力)
θ……垂直視野角
8……先行車
10……車載用レーダ装置
20……投光機構部(発射手段)
23……垂直方向走査部(角度変更実行手段、角度復帰実行手段)
30……受光機構部(受信手段)
42……制御回路(計測手段、角度変更指示手段、角度変更実行手段、角度復帰指示手段、角度復帰実行手段)

Claims (7)

  1. 所定の垂直視野角を有するビーム状の電磁波を車両前方に向けて所定の仰角で発射する発射手段と、前記電磁波の先行車からの反射波を受信する受信手段と、該受信手段の受信出力に基づいて前記先行車との車間距離を計測する計測手段とを具備する車載用レーダ装置において、
    前記計測手段によって計測された車間距離が、近接ロストが発生する可能性のある距離内で短くなる方向に変化し、且つ、前記受信手段の受信出力が前記計測手段における計測動作の継続を不能とする最低レベルに達しまたはその最低レベルを下回り若しくはその最低レベルに接近したときに所定の角度変更指示信号を発生する角度変更指示手段と、
    前記角度変更指示信号の発生に応答して前記ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角を変更する角度変更実行手段と
    を備えたことを特徴とする車載用レーダ装置。
  2. 前記角度変更実行手段は、前記角度変更指示信号の発生に応答して前記ビーム状電磁波の垂直方向視野角を変更するものであって、その垂直方向視野角を拡大方向に変更することを特徴とする請求項1記載の車載用レーダ装置。
  3. 前記角度変更実行手段は、前記角度変更指示信号の発生に応答して前記ビーム状電磁波の仰角を変更するものであって、その仰角を、前記電磁波の発射点の路面に対する高さに基づいてマイナス方向またはプラス方向のいずれか一方に変更することを特徴とする請求項1記載の車載用レーダ装置。
  4. 前記角度変更実行手段は、前記電磁波の発射点の路面に対する高さが高い場合に前記ビーム状電磁波の仰角をマイナス方向に変更し、同高さが低い場合に仰角をプラス方向に変更することを特徴とする請求項3記載の車載用レーダ装置。
  5. さらに、所定の角度復帰指示信号の発生に応答して前記ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角を前記所定の仰角または前記所定の垂直視野角に復帰させる角度復帰実行手段を備えると共に、
    前記角度変更指示信号の発生後、前記計測手段によって計測された車間距離が、近接ロストが発生する可能性のある距離を上回った場合に前記所定の角度復帰指示信号を発生する角度復帰指示手段を備えることを特徴とする請求項1記載の車載用レーダ装置。
  6. さらに、所定の角度復帰指示信号の発生に応答して前記ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角を前記所定の仰角または前記所定の垂直視野角に復帰させる角度復帰実行手段を備えると共に、
    該角度復帰実行手段は、前記ビーム状電磁波の仰角または垂直方向視野角が前記所定の仰角または前記所定の垂直視野角から変更された時、依然として、前記受信手段の受信出力が前記計測手段における計測動作の継続を可能とする最低レベルに達しまたはその最低レベルを下回り若しくはその最低レベルに接近した状態を維持している場合に、前記所定の角度復帰指示信号を発生することを特徴とする請求項1記載の車載用レーダ装置。
  7. 前記角度変更指示手段は、前記計測手段によって計測された車間距離が、近接ロストが発生する可能性のある距離内で短くなる方向に変化し、且つ、前記受信手段の受信出力が前記計測手段における計測動作の継続を不能とする最低レベルに達しまたはその最低レベルを下回り若しくはその最低レベルに接近し、さらに、前記計測手段によって計測された対象物が自車線内に存在する状態を保っているときに、所定の角度変更指示信号を発生することを特徴とする請求項1記載の車載用レーダ装置。
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