JP3771689B2 - 下水汚泥焼却灰固化物の製造方法 - Google Patents

下水汚泥焼却灰固化物の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高分子凝集剤を用いた下水汚泥焼却灰を処理して固化物を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
下水処理によって発生する汚泥量は下水道の普及に伴って増加し、その主たる処分先である埋立地の減少などにより埋立処分は益々困難となり、その処分量の低減のため減量、減容の必要性が要求されている。
【0003】
又、減量、減容に止まらず下水汚泥の有効利用のための資源化技術の確立が望まれている。
【0004】
下水汚泥の処理方法としては、▲1▼下水汚泥を脱水しコンポスト化し有機質土壌改良材として利用する、▲2▼埋立処分する、▲3▼脱水ケーキを焼却後埋立処分するなどが一般的である。
【0005】
一方、近年より高度な処理方法として、下水汚泥焼却灰を煉瓦状に圧縮成形し、焼成して製品とするか、下水汚泥或いは下水汚泥焼却灰を高温溶融し骨材とするなどの方法が行われている。
【0006】
しかし、これら焼成煉瓦や溶融骨材などの製造には、多大の熱量と特別の設備を必要とする。
【0007】
又、大量処理に適すと思われる土木、建築の分野において下水汚泥や下水汚泥焼却灰とセメントの混合物は、強度面において一般的な用途に不向きである。
【0008】
そこで、上述の問題点を解決すべく、本件発明者は種々の実験を行い、その結果次の事実が判明した。
【0009】
すなわち、高分子系凝集剤を用いた下水汚泥焼却灰は、酸と混練りすれば、反応してその形状がゴム状に変化しやがて粘土状の物質になり、このグリーンな物質はやがて硬化して強固な固化物が得られ、とりわけ、硫酸との反応が顕著である。なお、下水汚泥焼却灰に高分子系凝集剤を用いるのは、通常下水処理過程においては濃縮汚泥の含水率が高く、このままでは脱水工程にかけることができないので、高分子系凝集剤を加えブロック状にして脱水し、含水率の下降した脱水汚泥を得るためである。
【0010】
又、各々の処理上の下水汚泥焼却灰の組成は異なるが、高分子系の焼却灰の場合、その組成に適した量、濃度の硫酸と充分混合、混練りを行い乾燥すれば、高分子系の焼却灰は自己硬化し、その固化物は強固で安定な固化物となる。その反応、作用は明らかではないが種々の硫酸塩を生成し溶液中の水は結晶水などとなり固化物内において遊離の水はごく少量である。従ってこの固化物は水中に放置しても酸の溶出、吸水がごく微量で長期にわたって安定である。
【0011】
なお、塩酸、隣酸を使用しても粘土状の物質ができるものの、強度的には、硫酸使用のものに比べてかなり弱く、価格的にも硫酸は安価であるため、硫酸が好適である。
【0012】
斯かる事実を踏まえて、本件発明者は特願平7−316392号明細書に示すごとき下水汚泥焼却灰固化物及びその製造方法について平成7年12月5日付で特許出願を行った。
【0013】
次に、上述の出願の概要を説明すると以下のとおりである。
【0014】
例えば、表1に示す化学組成の下水汚泥焼却灰A,Bそれぞれ100gに対し、硫酸97%含有濃硫酸15〜21cc、水45cc(焼却灰:33〜48%硫酸=1:0.62〜0.64)の割合で加えよく混練りすると、褐色の粘土状の物質が得られた。これを型枠に圧入し室内に放置3時間後脱型、14日間自然養生することによって、褐色の固化物が得られた。
【0015】
【表1】
Figure 0003771689
【0016】
なお、特願平7−316392号明細書には開示されていないが、上述の褐色の固化物を得るために下水汚泥焼却灰A,Bを含む複数の供試体を用意した。その例は表2に示されており、表2中、A,Bは表1に示す下水汚泥焼却灰A,Bを用いたことを示し、数字1,2,3は供試体の番号を表わす。
【0017】
【表2】
Figure 0003771689
【0018】
又、表2に示す供試体A−1,A−2,A−3,B−1,B−2,B−3を上述のごとく処理して得られた褐色の固化物の物性を示すと表3のようになる。
【0019】
表3において、下水汚泥焼却灰Aを使用した供試体(A−1,A−2,A−3)により得られた固化物(A−1X,A−2X,A−3X)が下水汚泥焼却灰Bを使用した供試体(B−1,B−2,B−3)により得られた固化物(B−1X,B−2X,B−3X)よりも曲げ強度において大きい。これは、曲げ強度に対しては五酸化二燐(P25)の量が何らかの形で影響しているためと思われる。
【0020】
又、得られた固化物は、成形自由度が高く、耐酸性、耐火性に富んだ高強度の新素材となる。
【0021】
【表3】
Figure 0003771689
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
上述の特願平7−316392号明細書に開示された製造方法によって得られる褐色の固化物の曲げ強度は表3に示すとおりであるが、斯かる褐色の固化物を新素材として用いる場合、できるだけ曲げ強度が高く酸溶出量の少い高品質のものであることが望ましい。
【0023】
本発明は、上述の実情に鑑み、上述の出願に開示された製造方法によって得られる褐色の固化物よりも更に曲げ強度の高く酸溶出量の少い高品質の固化物を得ることのできる下水汚泥焼却灰固化物の製造方法を提供することを目的としてなしたものである。
【0024】
【発明がなされるに至った過程】
特願平7−316392号明細書に開示された方法を実際に適用して固化物を製造するにあたり、各プロセスの温度管理、製造順序などを考慮することにより更に曲げ強度が高く酸溶出量の少い高品質の固化物が得られることを見出した。
【0025】
【課題を解決するための手段】
本発明は、高分子系凝集剤を用いた下水汚泥焼却灰と、酸及び水とから下水汚泥焼却灰固化物を製造する方法において、前記酸と水を混合して酸溶液を得る工程、得られた酸溶液を保管しておく工程、前記酸溶液と下水汚泥焼却灰を混練りして粘土状の物質を得る工程、及び前記各工程から次の工程へ移行する中間の工程のうち、少くとも前記酸溶液と下水汚泥焼却灰を混練りして粘土状の物質を得る工程において、酸溶液及び下水汚泥焼却灰並に粘土状の物質の何れもが温度35℃を越えないよう温度調整するものである。
【0026】
従って、本発明では、曲げ強度が強く、酸の量が少く、しかも酸溶出量の少い高品質の下水汚泥焼却灰固化物を製造することができる。
【0027】
又、本発明では、酸を97%濃硫酸とすると共に、下水汚泥焼却灰100gに対し97%濃硫酸9〜15cc、水25〜45ccの割合で加え、或いは、粘土状の物質を、成形後100℃に昇温した状態で10分間加熱するか、或いは型枠内に入れて型枠とともに100℃に昇温した状態で10分間加熱すると、より一層高品質の下水汚泥焼却灰固化物を製造することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0029】
表1に示す化学組成の下水汚泥焼却灰A,B100gに対し、前もって用意して室内に保管してあった、硫酸97%含有濃硫酸9〜15ccと水25〜45cCとを混合した硫酸溶液を加えて温度が35℃を越えないよう冷却しながら混合、混練りし、得られた粘土状の物質を成形若しくは型枠に圧入した。
【0030】
この際、下水汚泥焼却灰A,Bと硫酸溶液を混錬する工程だけでなく、硫酸と水を混合して硫酸溶液を製造する工程、硫酸溶液を保管する工程、粘土状の物質を成形し或いは型枠に圧入する工程、及び各工程から次の工程へ移行する中間の工程においても、硫酸溶液、下水汚泥焼却灰A,B、粘土状の物質の何れもが温度35℃を超えないよう適宜の手段で冷却を行うのが好ましい。
【0031】
次に、成形した粘土状の物質を100℃に昇温した状態で10分間加熱するか、或いは型枠に圧入した粘土状の物質を型枠とともに100℃に昇温した状態で10分間加熱し、加熱が終了したら、そのまま或いは脱型して14日間自然養生し、これにより強固な褐色の固化物が得られた。
【0032】
斯かる製造方法に供された供試体は表4に示されており、表4中、A,Bは表1に示す下水汚泥焼却灰A,Bを用いたことを示し、数字1,2,3は供試体の番号を表わす。
【0033】
【表4】
Figure 0003771689
【0034】
又、表4に示す供試体(A−1,A−2,A−3,B−1,B−2,B−3)を本発明の実施の形態例に示すごとく処理して得られた強固な褐色の固化物(A−1X,A−2X,A−3X,B−1X,B−2X,B−3X)の物性を示すと表5に示すようになる。
【0035】
【表5】
Figure 0003771689
【0036】
表3及び表5を比較すれば、表5すなわち本発明の実施の形態における固化物の方が、特願平7−316392号明細書に開示した方法により得られた固化物よりも、曲げ強度において著しく高いことが明らかである。
【0037】
これは、混合、混練りを35℃を超えない低温で行うことにより、硫酸と下水汚泥焼却灰の反応速度を押え、可使時間を延長し、混合、混練りを充分に行い、結果としてより充分な反応が行われたためと考えられる。ここで「可使時間を延長」とは、下水汚泥焼却灰と酸溶液とを混練りするに際し、温度が35℃以下となるよう冷却して硬化時間を遅らせることにより下水汚泥焼却灰と酸溶液との混練り時間を長くすることをいう。
【0038】
成形した粘土状の物質を100℃に昇温するのは、反応の速度を早めるためであり、又型枠に圧入してから型枠及び粘土状の物質を100℃に昇温するのは、反応の速度を早め、脱型に必要な強度が早く得られるためである。
【0039】
本来微細でポーラスな形状で表面積の大きい高分子系の下水汚泥焼却灰は硫酸溶液で改質され、グリーンな状態においては膠質の部分が多く、プラスチック並の成形自由度を有し、種々の成形方法にプラスチック同様対応できる。繊維補強剤の添加、混合においても同様に扱い得る。硬化は常温においても自己硬化し自然放置でも充分である。このようにして得られた固形物は若干酸性で吸水性においてもセメントモルタルに比較して少なく、無機材であるから完全に不燃である。
【0040】
【実施例】
次に本発明の実施例について説明する。
【0041】
なお、以下の実施例においては、室温20〜25℃の室内ですべての作業を行った。
【0042】
[実施例1]
表1に示す化学組成の下水汚泥焼却灰A100gに対して97%濃硫酸9〜15cc、水25〜45ccを混合し室内に放置した硫酸溶液を加えた状態で、前もって冷却した厚手の陶器製の鉢の中で混合し温度が35℃を越えないように冷却し、この混合物をスクリュー式混練り機によって剪断的混練りを行い褐色の粘土状の物質を得、これを型枠に圧入し、型枠とともに100℃で10分間加温し、成形体として型枠から外せる強度に達したため脱型した。その後14日間自然養生を行った。これにより、強固な褐色の固化物を得た。
【0043】
表5にA−1X,A−2X,A−3Xとして固化物の物性を記載した。
【0044】
図1の実線に示すごとく、固化物は10日間水道水に浸透させても酸の溶出による大幅なpH変化がおきなかったことが確認できる。
【0045】
なお、図1中、点線は特願平7−316392号明細書で提案した固化物を水道水に浸透させた結果を示しており、実施例1の固化物の方がpHの変化が小さいことが明らかである。
【0046】
図1中、実線に示す固化物は、下水汚泥焼却灰100g、97%濃硫酸11cc、水30ccであり、点線に示す固化物は、下水汚泥焼却灰100g、97%濃硫酸18cc、水45ccである。
【0047】
[実施例2]
表1に示す化学組成の下水汚泥焼却灰B100gに対して97%濃硫酸9〜15cc、水25〜45ccを混合し室内に放置した硫酸溶液を加えた状態で、前もって冷却した厚手の陶器製の鉢の中で混合し温度が35℃を越えないように冷却し、この混合物をスクリュー式混練り機によって剪断的混練りを行い褐色の粘土状の物質を得、これを型枠に圧入し、型枠とともに100℃で10分間加温し、成形体として型枠から外せる強度に達したため脱型した。その後14日間自然養生を行った。これにより、強固な褐色の固化物を得た。
【0048】
表5にB−1X,B−2X,B−3Xとして固化物の物性を記載した。
【0049】
【発明の効果】
本発明の下水汚泥焼却灰固化物の製造方法によれば下記のごとき種々の優れた効果を奏し得る。
【0050】
I) 得られた高分子系下水汚泥焼却灰の固化物は、曲げ強度が高く且つ使用する酸の量も少く、しかも酸溶出量も少いため、高品質の固化物を得ることができる。
【0051】
II) 固化物は、高分子系の下水汚泥焼却灰と酸と水の混合した低濃度の酸液により構成されているため、製造及び取扱いに特別な配慮を必要とする物質が不要で、又設備についても特別のものは必要ない。
【0052】
III) 排水を初め何等の副生生物も生じない。溶融、焼結のように熱を必要としない。従って、装置、操作についてもそのための配慮の必要もない。
【0053】
IV) 高分子系下水汚泥焼却灰の固化物は、グリーンな状態においてプラスチックのような成形自由度をもち短時間で硬化するため、いろいろの成形方法が利用でき、繊維質などの補強剤の混入も可能であり、又温度管理を成形方法、目的とする固化物の形状に応じて行い硬化の速度を適切にすることが可能である。
【0054】
V) 充分硬化した高分子系下水汚泥焼却灰の固化物は、弱酸性で有害な物質の溶出もない。又無機素材なるがゆえ不燃で通常の温度においてはガスの発生もない。更に未処理の下水汚泥焼却灰に比し取扱いが容易で著しい減容になる。
【0055】
VI) 高分子系下水汚泥焼却灰の固化物は、セメントと異なり酸性であり、セメントの不得意とする酸性雰囲気における素材としても有効である。複合材料としてガラス繊維と併用する場合でも特別なガラス繊維を必要としない。
【0056】
VII) 下水汚泥焼却灰を廃棄物とせず、硫酸で処理した成形自由度の高い耐酸、耐火、高強度の新素材とすることができるので、下水汚泥焼却灰の減量、減容と資源としての有効利用を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例において、高分子系下水汚泥焼却灰の固化物から酸が溶出してpHが経時的に変化する状態を示すグラフである。

Claims (3)

  1. 高分子系凝集剤を用いた下水汚泥焼却灰と、酸及び水とから下水汚泥焼却灰固化物を製造する方法において、前記酸と水を混合して酸溶液を得る工程、得られた酸溶液を保管しておく工程、前記酸溶液と下水汚泥焼却灰を混練りして粘土状の物質を得る工程、及び前記各工程から次の工程へ移行する中間の工程のうち、少くとも前記酸溶液と下水汚泥焼却灰を混練りして粘土状の物質を得る工程において、酸溶液及び下水汚泥焼却灰並に粘土状の物質の何れもが温度35℃を越えないよう温度調整することを特徴とする下水汚泥焼却灰固化物の製造方法。
  2. 酸を97%濃硫酸とすると共に、下水汚泥焼却灰100gに対し97%濃硫酸9〜15cc、水25〜45ccの割合で加える請求項1に記載の下水汚泥焼却灰固化物の製造方法。
  3. 粘土状の物質を、成形後100℃に昇温した状態で10分間加熱するか、或いは型枠内に入れて型枠とともに100℃に昇温した状態で10分間加熱する請求項1又は2に記載の下水汚泥焼却灰固化物の製造方法。
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