JP3771446B2 - 新規な免疫抑制剤 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は、新規な免疫抑制剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在臨床においては、化学療法では治癒不可能と判断される疾病においてその原因臓器あるいはその一部分を他者から移植することによって回復を図るという方法が選択され得るようになった。腎臓、肝臓、肺、腸管、心臓、膵臓、角膜など多種の臓器において移植治療が鋭意進められその件数も増え続けている。
【0003】
また、皮膚組織は元来免疫能の高い組織であるが、他人の皮膚を移植する場合、わずか数週間定着を維持できれば、その後の自己皮膚再生により治癒可能になるため、高度の広範囲火傷や裂傷などにおいては他人の皮膚を移植することにより形態的回復を図る方法が選択される。
【0004】
こうした各組織及び臓器を他者から移植する場合最も懸念されるのは、被移植者の免疫力に由来する拒絶反応である。
【0005】
そこで、1970年代から欧米を中心に被移植者の拒絶反応を防止し、移植臓器の永続的定着を目的に免疫抑制剤の研究が進められてきた。
【0006】
また一方で、リウマチ、膠原病などいわゆる自己免疫疾患においても免疫抑制剤はその症状の緩和において重要な薬剤となり得る。
【0007】
過去にシクロスポリンA、FK506などの免疫抑制剤が開発されている。しかしながら、これらの免疫抑制剤は作用機構も近似し、また慢性毒性が懸念されており、長期延命を目的とする次世代の臓器移植に対しては、異なる化学構造で異なる作用機構が期待できる、より毒性の低い物質が求められている。
【0008】
天然から得られた含硫糖脂質には、これまで制癌性(佐原ら、British Journal of Cancer, 75(3), 324-332, (1997))、DNA合成酵素阻害活性(水品ら、Biochemical Pharmacology, 55, 537-541, (1998)、太田ら、Chemical & Pharmaceutical Bulletin, 46(4), (1998))、HIV抑制剤(特表平5-501105号公報)と薬理活性が見いだされている。しかしながら、含硫糖脂質、特に、スルホキノボシルジアシルグリセロール誘導体についての免疫抑制反応に関する知見は未だない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、新規な免疫抑制剤を提供することを目的とする。より詳細には、より毒性が低く、長期投与が可能であり、かつその免疫抑制活性の高い免疫抑制剤を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記事情に鑑みて研究した結果、特定のスルホキノボシルジアシルグリセロール誘導体に顕著な免疫抑制活性を認め、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、次の一般式(1):
【0011】
【化4】
【0012】
(式中、R101及びR102は、互いに独立して高級脂肪酸のアシル残基を表す。)により表される化合物及びその薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有する免疫抑制剤を提供する。
ただし、本発明の第1の側面によると、一般式(1)において、R 101 が5,8,11,14,17−イコサペンタエノイル基であり、かつR 102 がヘキサデカノイル基である化合物は、除外される。
本発明の第2の側面によると、R 101 及びR 102 は、互いに同じ、高級脂肪酸のアシル残基である。
本発明の第3の側面によると、式(1)の化合物において、キノボースとグリセロールの結合がβ結合であるところの、次の一般式(2):
【0013】
【化5】
【0014】
(式中、R 101 及びR 102 は、式(1)で規定した通り。)により表される化合物及びその薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有する免疫抑制剤が提供される。
【0015】
【発明の実施の形態】
本明細書において、保護基の「炭素数」とは、当該保護基を非置換としてみなした場合の炭素原子の数をいう。従って、例えば、R6により表される基が置換アルキル基である場合、その炭素数とは、当該アルキル基に置換する置換基の炭素原子を含まない、アルキル基の骨格部分の炭素原子の数をいう。保護基がアルキル基以外の場合についても同様である。
【0016】
まず、本発明の免疫抑制剤が有効成分として含有する一般式(1):
【0017】
【化6】
【0018】
(式中、R101及びR102は、互いに独立して高級脂肪酸のアシル残基を表す。)で表されるスルホキノボシルジアシルグリセロール誘導体について詳細に説明する。
【0019】
上記一般式(1)において、R101は、高級脂肪酸のアシル残基を表す。R101により表される高級脂肪酸のアシル残基を提供する脂肪酸には、直鎖状又は分岐状の、飽和又は不飽和高級脂肪酸が含まれる。
【0020】
R101により表される、直鎖状又は分岐状の、高級脂肪酸のアシル残基には、R−C(=O)−(式中、Rは、炭素数13以上のアルキル基又はアルケニル基を表す。)で表される基が含まれる。このアシル残基:R−C(=O)−のRにより表されるアルキル基及びアルケニル基の炭素数は、免疫抑制活性、製造コスト等を考慮すると、13以上25以下が好ましく、15〜25の奇数が更に好ましい。Rの炭素数が25を越えると、特に製造コストが高くなるという問題点がある。
【0021】
上記一般式(1)において、R102は、上述のR101と同義である。
【0022】
ここで、本発明の第1の側面において、既述の通り、一般式(1)で示される化合物のうち、R 101 が5,8,11,14,17−イコサペンタエノイル基であり、かつR 102 がヘキサデカノイル基である化合物は除外される。
R101とR102は、互いに同じであっても異なっていてもよいが、製造の容易性の観点から同じであることが好ましい。そこで、本発明の第2の側面において、上記一般式(1)において、R 101 とR 102 は、互いに同じ、高級脂肪酸のアシル残基である。
上記一般式(1)において、スルホキノボシドの糖骨格は、舟形、いす型のいずれの配置をもとり得る。しかしながら、いす型のもののほうが、安定性の観点から好ましい。また、グリセロール部分の2位の炭素(不斉炭素)における絶対配置は、S又はRの何れであってもよい。
【0023】
スルホキノボシドとグリセロールとの結合は、α又はβの何れでもよいが、細胞を用いた免疫抑制活性のアッセイ結果から判断すると、βが好ましい。このβ体は、次の一般式(2):
【0024】
【化7】
【0025】
で示される。ここで、R 101 及びR 102 は、上記一般式の定義と同義であり、すなわち互いに独立して高級脂肪酸のアシル残基を表す。
本発明のスルホキノボシルジアシルグリセロール誘導体は、次の反応式に従い、(工程A)〜(工程J)を経て製造することができる。
【0026】
【化8】
【0027】
(工程A)D−グルコースのC1炭素に結合する水酸基を2−プロペニル化する。(工程B)グルコースのC6炭素の水酸基を保護する。(工程C)グルコースのC2、C3およびC4炭素に結合する水酸基を保護する。(工程D)先に保護したC6炭素の保護基を脱保護する。(工程E)C6炭素に結合する水酸基をカルボニルチオ基に変換し得る基(例えば、アルキルスルホニルオキシ基又はアリールスルホニルオキシ基)に置換する。(工程F)C6炭素をカルボニルチオ化する。(工程G)C1炭素に結合する2−プロペニル基をジオール化する。(工程H)得られたジオールのそれぞれを所望の高級脂肪酸によりエステル化する。(工程I)C6炭素のカルボニルチオ基をスルホン酸塩化する。(工程J)得られたスルホン酸塩のC2、C3およびC4炭素の保護基を脱保護することにより、塩の形態にある、本発明のスルホキノボシルジアシルグリセロール誘導体を製造することができる。このようにして得られた塩は、塩酸等の酸による滴定に供することにより、本発明のスルホキノボシルジアシルグリセロール誘導体にすることができる。
【0028】
上記工程A〜Jをさらに詳細に説明する。
【0029】
工程Aの2−プロペニル化は、グルコースとアリルアルコールをトリフルオロメタンスルホン酸等の強酸の存在下に、通常、室温から100℃、好ましくは80℃〜90℃の温度で、半日〜2日間反応させることにより行うことができる。但し、反応条件の設定によって反応時間は異なる。
【0030】
工程Bにおいては、C6炭素に結合する水酸基を保護し、C6炭素に−OR6を結合させる(ここで、R6は、アルキル基又は置換シリル基を表す。)。
【0031】
水酸基を保護し得る化合物としては、R6により表される基がアルキル基又は置換シリル基になるような化合物を用いることができる。
【0032】
R6により表されるアルキル基には、好ましくはかさ高い置換の低級アルキル基が含まれる。置換基にはメチル基、フェニル基等が含まれる。置換アルキル基の具体例としては、t−ブチル基、トリチル基等を挙げることができる。
【0033】
R6により表される基が置換シリル基である場合、置換シリル基の置換基には、低級アルキル基、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基)、およびアリール基、好ましくは炭素数6のアリール基(例えば、フェニル基)等が含まれる。R6により表される置換シリル基は、好ましくは3置換のシリル基であり、より好ましくはt−ブチルジフェニルシリル基等が含まれる。
【0034】
工程Bにおける水酸基の保護は、R6がアルキル基である化合物3を得る場合、乾燥ピリジン等の有機溶媒に溶解した化合物2の溶液に、R6−Xで表される化合物(式中、R6は上で規定したアルキル基、Xは塩素原子等のハロゲン原子。)を添加し、p−ジメチルアミノピリジン(DMAP)等の触媒の存在下に室温で反応させることにより行うことができる。化合物R6−Xとしては、トリチルクロリドが、製造コスト、反応の容易性の観点から好ましく用いられる。
【0035】
R6が置換シリル基である化合物3を得る場合、化合物R6−Xとしてt−ブチルジフェニルシリルクロリド等を用い、イミダゾール等の触媒の存在下、室温で、半日〜2日間反応させることにより行うことができる。但し、反応条件の設定によって反応時間は異なる。
【0036】
工程Cにおいては、C2、C3およびC4炭素に結合する水酸基を保護し、それぞれ−OR1、−OR2および−OR3(ここで、R1〜R3は、互いに独立して、アルキル基又は置換シリル基を表わす。)にする。これらの水酸基の保護は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の有機溶媒に溶解した化合物3の、C2、C3およびC4炭素に結合する水酸基を水素化ナトリウム等により活性化し、水酸基を保護し得る化合物を室温で反応させることにより行うことができる。
【0037】
水酸基を保護し得る化合物としては、ベンジルブロミド、p−メトキシベンジルブロミド、t−ブチルジメチルシリルクロリド、トリエチルシリルクロリド等を用いることができる。
【0038】
これらの水酸基を保護し得る化合物を用いる場合の反応は、それぞれの保護基に適した反応条件により行うことができる。
【0039】
工程DにおけるC6炭素に結合する保護基の脱保護は、メタノール等の有機溶媒に溶解した化合物4の溶液を、p−トルエンスルホン酸等の触媒の存在下に室温で、半日〜1日間反応させることにより行うことができる。但し、反応条件の設定によって反応時間は異なる。
【0040】
工程Eにおいては、化合物5のC6炭素の水酸基に、R4、すなわちアルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を結合させることにより、当該水酸基を−OR4に転化して化合物6を得る。
【0041】
この−OR4基への反応は、有機溶媒に溶解した化合物5の溶液に、アルキルスルホニル基を有する化合物又はアリールスルホニル基を有する化合物等を添加し、反応させることにより行うことができる。アルキルスルホニル基を有する化合物のアルキル基としては、好ましくは非置換のアルキル基であって、より好ましくは低級アルキル基、さらにより好ましくは炭素数1〜2のアルキル基(メチル基、エチル基)が含まれる。アルキルスルホニル基を有する化合物としては、式:R4’−X(式中、R4’はアルキルスルホニル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で表されるものを用いることができ、その具体例を挙げると、メタンスルホニルクロリド、エタンスルホニルクロリド等が含まれる。
【0042】
一方、アリールスルホニル基を有する化合物のアリール基としては、非置換又は置換のアリール基であって、好ましくは炭素数6のアリール基(例えば、フェニル基)が含まれる。置換アリール基の場合、その置換基としては、p−メチル基、p−メトキシ基等が含まれる。アリールスルホニル基を有する化合物としては、式:R4”−X(式中、R4”はアリールスルホニル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で表されるものを用いることができ、その具体例を挙げると、p−トルエンスルホニルクロリド、p−メトキシベンゼンスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルクロリド等が含まれる。
【0043】
これらのアルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基を有する化合物のうち、トシル基を有するものが反応の容易性の観点から好ましい。
【0044】
工程Eの反応において、有機溶媒としては、ピリジン、ジクロロメタン等を用いることができる。
上記の反応は、必要に応じて、DMAP等の触媒の存在下に室温で、2時間〜1日間行うことができる。但し、反応条件の設定によって反応時間は異なる。
【0045】
工程Fにおいて、化合物6のスルホニルオキシ基(−OR4)をカルボニルチオ基{−SC(=O)R5(ここで、R5は、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。)}に置換する。
【0046】
この反応では、有機溶媒中の化合物6のアルキルスルホニルオキシ基又はアリールスルホニルオキシ基をカルボニルチオ基に置換することのできる化合物(以下、「O−置換基→S−置換基化合物」ともいう。)を反応させることにより化合物7が得られる。
【0047】
O−置換基→S−置換基化合物には、チオカルボン酸のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩が含まれる。チオカルボン酸には、チオギ酸、並びに低級チオカルボン酸、好ましくは炭素数1〜5の脂肪族炭化水素が置換した脂肪族チオカルボン酸(例えば、チオ酢酸、チオプロピオン酸)、および好ましくは炭素数6〜10の芳香族炭化水素が置換した芳香族チオカルボン酸(例えば、チオ安息香酸)等が含まれる。
【0048】
これらのチオカルボン酸と塩を形成するアルカリ金属には、カリウム、ナトリウム等が含まれ、アルカリ土類金属には、マグネシウム、カルシウム等が含まれる。
【0049】
上記O−置換基→S−置換基化合物のうち、チオ酢酸の塩は、反応の安定性の点および後の工程において硫黄原子を酸化しやすい点から好ましく用いることができる。
【0050】
反応に用いる有機溶媒には、アルコール、好ましくは低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール)、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が含まれる。
【0051】
上記反応は、通常、室温ないし用いる溶媒の沸点において、通常、1時間〜1日間撹拌することにより行うことができる。但し、反応条件の設定によって反応時間は異なる。
【0052】
工程Gのジオール化は、t−ブタノールおよび水等の溶媒混液に溶解した化合物7の溶液に、四酸化オスミウム等の酸化剤を添加し、トリメチルアミンN−オキシド等の再酸化剤を共存させ、室温で、1時間〜3日間反応させることにより行うことができる。但し、反応条件の設定によって反応時間は異なる。
【0053】
工程Hのエステル化反応により、所望の高級脂肪酸がグリセロールとエステル結合したスルホキノボシルジアシルグリセロール誘導体を得ることができる。
【0054】
この反応は、ジクロロメタン等の適当な有機溶媒に溶解した化合物8の溶液に、最終生成物に対応する高級脂肪酸を添加し、必要に応じて、エチルジメチルアミノプロピルカルボジイミド(EDCI)−DMAP系等の適当な触媒の存在下に反応させることにより行うことができる。
【0055】
工程Hの反応において、添加すべき脂肪酸としては、上述した一般式(1)のR101により表されるアシル残基を有する高級脂肪酸、すなわち、直鎖状又は分岐状の、飽和又は不飽和高級脂肪酸を用いることができる。
【0056】
工程Hの反応により、化合物9において、R101及びR102が、添加した高級脂肪酸のアシル残基である本発明の一般式(1)で表されるジアシルエステルと、R101のみにアシル残基が結合したモノアシルエステルの混合物が得られる。工程Hの反応においては、所望に応じて、添加すべき高級脂肪酸を2種以上用いることもできる。この場合、R101及びR102が同じアシル残基または互いに異なるアシル残基である一般式(1)で表されるジアシルエステルと、R101が互いに異なるアシル残基であるモノエステルとの混合物が得られる。
【0057】
これらのモノエステルとジエステルの混合物は、必要に応じて、例えば、クロマトグラフィーにより、各々のエステルに単離し、次の工程Iの反応に供することができる。また、脂肪酸の添加量を化合物8の2〜3倍モルに設定することにより、モノエステルの生成を極力抑え、ジエステルを優先的に合成することができる。
【0058】
工程Iのスルホン酸塩化は、酢酸および酢酸カリウムを用いて緩衝した有機溶媒中の化合物9の溶液に、OXONE(2KHSO5、KHSO4、K2SO4)等の酸化剤を添加し、室温で、半日〜2日間反応させることにより行うことができる。但し、反応条件の設定によって反応時間は異なる。
【0059】
工程JのC2〜C4炭素に結合する保護基の脱保護は、用いた保護基および結合する高級脂肪酸のアシル残基に合った脱保護の方法で行うことができる。例えば、保護基がベンジル基であり、R101及びR102が飽和の高級脂肪酸のアシル残基である場合、エタノール等の有機溶媒に溶解した化合物10の溶液を、パラジウム−活性炭(Pd−C)等の触媒の存在下に水素ガス雰囲気下に室温で反応させることにより行うことができる。また、R101及びR102により表される高級脂肪酸のアシル残基の少なくとも一方が不飽和の高級脂肪酸のアシル残基である場合には、用いた保護基に合った脱保護法であり、なおかつ不飽和脂肪酸の二重結合を維持できる方法により行うことができる。例えば、シリル系の保護基の場合は、酸触媒(例えば、トリフルオロ酢酸)で脱保護することができる。
【0060】
なお、出発物質であるグルコースは溶液中でα−アノマーおよびβ−アノマーの構造をとりうるため、各工程の生成物は、α−およびβ−アノマーの混合物となる。これらの混合物は、クロマトグラフィー等に供することにより各アノマーに分離することができる。
【0061】
また、工程Bの前に、化合物2とベンズアルデヒドを反応させ、ベンジリデン化する工程を採用することにより、α-アノマーを選択的に結晶化させ、分離することもできる。さらに、工程Aの2−プロペニル化の前に、C1炭素に臭素等のハロゲンを結合させることにより、その後の反応においてプロペニル基をβ位に導入することができ、β-アノマーを選択的に合成することもできる。
【0062】
本発明の免疫抑制剤は、上述の本発明の一般式(1)で表されるスルホキノボシルジアシルグリセロール誘導体及びその薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有する。本発明の免疫抑制剤において用い得る薬学的に許容される塩には、例えば、ナトリウム及びカリウムのような一価の陽イオンの塩が含まれるが、これらに限定されるものではない。以下、本発明のスルホキノボシルジアシルグリセロール誘導体及びその薬学的に許容される塩からなる群の化合物を「本発明の免疫抑制物質」ともいう。
【0063】
本発明の免疫抑制物質が有効成分として含有するスルホキノボシルアシルグリセロール誘導体には、キノボースとグリセロールの結合がα結合又はβ結合である異性体、グリセロールのC2炭素(不斉炭素)における異性体等が含まれる。本発明の免疫抑制物質は、その活性に悪影響を及ぼさない限り、これらの異性体を単独で含有することも、2種以上の異性体の混合物を含有することもできる。
【0064】
本発明の免疫抑制物質は、例えば、経口投与、非経口投与することができる。本発明の免疫抑制物質は、これらの投与経路に応じて、適切な薬学的に許容される賦形剤又は希釈剤等と組み合わせることにより薬学的製剤にすることができる。
【0065】
経口投与に適した剤型としては、固体、半固体、液体又は気体等の状態のものが含まれ、具体的には、錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
本発明の免疫抑制物質を錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、溶液剤、懸濁剤等に製剤化するためには、それ自体は既知の方法を用いて、本発明の免疫抑制物質をバインダー、錠剤崩壊剤、潤滑剤等と混合し、さらに、必要に応じて、希釈剤、緩衝剤、浸潤剤、保存剤、フレーバー剤等と混合することにより行うことができる。一例を挙げると、上記バインダーには、結晶セルロース、セルロース誘導体、コーンスターチ、ゼラチン等が、錠剤崩壊剤には、コーンスターチ、馬鈴薯デンプン、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が、潤滑剤には、タルク、ステアリン酸マグネシウム等が含まれ、さらには、ラクトース、マンニトール等のような従来用いられている添加剤等を用いることができる。
【0067】
また、本発明の免疫抑制物質は、液体、微細粉末の形態のものを、気体又は液体の噴霧剤と共に、又は必要に応じて浸潤性付与剤のような既知の助剤と共に、エアロゾル容器、ネブライザーのような非加圧容器に充填し、エアロゾル剤又は吸入剤の形態で投与することもできる。噴霧剤としては、ジクロロフルオロメタン、プロパン、窒素等の加圧ガスを用いることができる。
【0068】
本発明の免疫抑制物質を非経口投与する場合、例えば、注射、経皮投与、直腸投与、および眼内投与等により投与することができる。
【0069】
注射による投与としては、皮下、皮内、静脈内、筋肉内等に投与することができる。これらの注射用製剤は、それ自体は既知の方法により、本発明の免疫抑制物質を、植物性油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸のエステル、プロピレングリコールのような水性又は非水性の溶媒中に溶解、懸濁又は乳化し、さらに、所望により、可溶化剤、浸透圧調節剤、乳化剤、安定剤及び保存料のような従来用いられている添加剤と共に製剤化することができる。
【0070】
本発明の免疫抑制物質を溶液、懸濁液、シロップ、エリキシル等の形態にするためには、注射用滅菌水や規定生理食塩水のような薬学的に許容される溶媒を用いることができる。
【0071】
経皮投与は、対象となる皮膚の状態等に応じて軟膏剤、乳化剤、パスタ剤、ハップ剤、リニメント剤、ローション剤、懸濁剤等として投与することができる。
【0072】
軟膏剤は、それ自体は既知の方法により、本発明の免疫抑制物質をワセリン、パラフィン等のような疎水性基材または親水ワセリン、マクロゴール等のような親水性基材と練合することにより製剤化することができる。乳化剤その他の経皮投与剤も、通常用いられる方法により製剤化することができる。
【0073】
直腸投与には、例えば、坐薬として投与することができる。坐薬は、それ自体は既知の方法により、本発明の免疫抑制物質を、体温で融解するが室温では固化しているカカオバター、カーボンワックス、ポリエチレングリコールのような賦形剤と混合し、成形することにより製剤化することができる。
【0074】
眼内投与は、点眼剤、眼軟膏等のような眼用製剤等として投与することができる。点眼剤は、それ自体は既知の方法により、滅菌精製水のような水性溶剤に本発明の免疫抑制物質を溶解または懸濁し、必要に応じて保存剤、緩衝剤、界面活性剤等を添加することにより製剤化することができる。
【0075】
本発明の免疫抑制物質は、薬学的に許容される他の活性を有する化合物と併用して薬学的製剤とすることもできる。
【0076】
本発明の免疫抑制物質の投与量は、投与形態、投与経路、対象とする疾病の程度や段階等に応じて適宜設定、調節することができる。一例を挙げると、経口投与する場合は、免疫抑制物質として、1〜100mg/kg体重/日、好ましくは1〜10mg/kg体重/日、注射剤として投与する場合は、免疫抑制物質として、1〜50mg/kg体重/日、好ましくは1〜5mg/kg体重/日、経皮投与する場合は、免疫抑制物質として、1〜100mg/kg体重/日、好ましくは1〜10mg/kg体重/日、直腸投与する場合は、免疫抑制物質として、1〜50mg/kg体重/日、好ましくは1〜5mg/kg体重/日、眼内投与の場合は、免疫抑制物質として、0.01〜3%程度の溶液を1日数回に分けて点眼するなどに設定することができるが、これらに限定されるものではない。
【0077】
【実施例】
以下、本発明を例を挙げて説明する。しかしながら、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
【0078】
合成例
本発明の免疫抑制剤において用いる有効成分のうち、スルホキノボシルジアシルグリセロールβ誘導体の合成例を以下に示す。
【0079】
<例1>
経路a;2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-D-グルコピラノシル・ブロミド (II)
無水酢酸400mLに0℃条件下、60%過塩素酸2.4mLを滴下した。溶液を室温に戻した後、撹拌しつつD-グルコース 100g (0.56mol)を液温が30〜40℃に保たれるように約30分で添加した。反応液を20℃に冷却後、赤リン30g (1.0mol)を添加した。さらに液温を20℃以下に保ちながら臭素180g (2.3mol)を、ついで水36mLを滴下した。室温で2時間放置後、冷クロロホルム300mLを加え、ガラスウールを敷き詰めた漏斗で反応液を濾過した。濾液を冷水800mLに注ぎ、分液漏斗でクロロホルム層を分離した。水層をクロロホルム50mLで抽出し、クロロホルム層を合わせて、冷水300mLで洗浄した。クロロホルム層を飽和炭酸水素ナトリウム溶液500mLに注ぎ、分液漏斗で十分振とうし、クロロホルム層を回収した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過、減圧濃縮し、結晶状物質を得た。乳鉢内で石油エーテル:エーテル=2:1溶液とともに細かく砕き、これを濾別し、粗結晶物質を減圧乾燥した。冷ジイソプロピルエーテルを用いて再結晶を行い純粋な結晶を得た(収量152.6g 0.37mol、収率66.7%)。
【0080】
融点;88〜90℃、Rf値;0.338 (ヘキサン:酢酸エチル=4:1)
【0081】
【化9】
【0082】
経路b;2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-1-O-(2-プロペニル)-β-D-グルコース (III)
化合物(II) 16.7g (40.6mmol)をアリルアルコール 100mLに溶解し、シアン化水銀10.0g (39.6mmol)を添加し、室温で一晩撹拌した。反応液を減圧濃縮し、クロロホルム100mL及び冷水とともに分液漏斗中で振とうし、クロロホルム層を分離した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過、減圧濃縮し、得られたシロップを冷ジイソプロピルエーテルに溶かし、少量の結晶種を加え、氷冷下にて結晶を得た(収量12.6g 32.5mmol、収率80%)。
【0083】
融点;77〜81℃。Rf値;0.282 (ベンゼン:酢酸エチル=4:1)
【0084】
【化10】
【0085】
経路c;1-O-(2-プロペニル)-β-D-グルコース (IV)
化合物(III) 30.3g (78.1mmol)をメタノール120mLに溶解し、撹拌しながら28%ナトリウムメトキシド・メタノール溶液を少量滴下し、室温で4時間反応した。0.1N塩酸で中和し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過、減圧濃縮し、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=4:1)で精製し、無色透明油状物質を得た(収量15.8g 71.8mmol、収率91.9%)。Rf値;0.407 (クロロホルム:メタノール=4:1)
【0086】
【化11】
【0087】
経路d;1-O-(2-プロペニル)-6-O-トリフェニルメチル-β-D-グルコース (V)
化合物 (IV) 15.8g(71.8mmol)を乾燥ピリジン 120mLに溶解し、その溶液にトリチルクロリド 23.4g (83.9mmol)、p-ジメチルアミノピリジン (DMAP) 0.1g (0.82mmol)を添加し、撹拌しながら室温で36時間反応した。その後冷水300mLを加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出(300mL×3回)し、有機層を合わせて1.0N塩酸でpH 4まで中和し、飽和食塩水で洗浄(300mL×2回)し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮し、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ジクロロメタン:メタノール=20:1)で精製し、淡黄色油状物質を得た(収量28.7g 62.1mmol、収率86.5%)。Rf値;0.306 (クロロホルム:メタノール=19:1)
【0088】
【化12】
【0089】
経路e;2,3,4-トリ-O-ベンジル-1-O-(2-プロペニル)-6-O-トリフェニルメチル-β-D-グルコース (VI)
ミネラルオイル中に拡散されている80%水素化ナトリウム3.2g (133mmol)を反応器に取り、乾燥ヘキサン 50mLでよく洗浄した後ヘキサンを取り除き、乾燥 N,N-ジメチルホルムアミドに溶解した化合物 (V) 14.2g (30.7mmol)を氷冷下にて徐々に添加し、15分後室温に戻し、撹拌しながら1時間反応した。
【0090】
次に再び氷冷下にてベンジルブロミド 21.6g (126mmol)を徐々に添加し、15分後室温に戻し、撹拌しながら3時間反応した。その後メタノール20mL、冷水30mLを加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出(50mL×3回)し、有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄(100mL×2回)し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮し、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製し、淡黄色油状物質を得た(収量21.6g 29.5mmol、収率96.1%)。Rf値;0.410 (ヘキサン:酢酸エチル=4:1)
【0091】
【化13】
【0092】
経路f;2,3,4-トリ-O-ベンジル-1-O-(2-プロペニル)-β-D-グルコース(VII)
化合物 (VI) 21.6g (29.5mmol)をメタノール150mLに溶解し、p-トルエンスルホン酸一水和物 2.80g (14.7mmol)を添加し、撹拌しながら一晩反応した。その後冷水100mLを加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出(200mL×3回)し、有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄(300mL×2回)し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮し、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製し、白色結晶状物質を得た(収量9.0g 18.4mmol、収率62.4%)。融点80〜82℃。Rf値;0.338 (ヘキサン:酢酸エチル=4:1)。[α]D=+0.4゜(c 5.50、CHCl3)
1H NMR (300MHz、CDCl3+TMS、δ);7.36〜7.23 (15H、m、Ar)、6.02〜5.89 (1H、m、-CH=CH2)、5.34 (1H、dd、J=1.5 & 17.2、-CH=CH 2 )、5.22 (1H、dd、J=1.4 & 10.4、-CH=CH 2 )、4.95 (1H、d、J=10.9、Ar-CH 2 )、4.94 (1H、d、J=10.9、Ar-CH 2 )、4.86 (1H、d、J=10.9、Ar-CH 2 )、4.81 (1H、d、J=10.9、Ar-CH 2 )、4.73 (1H、d、J=10.9、Ar-CH 2 )、4.64 (1H、d、J=10.9、Ar-CH 2 )、4.50 (1H、d、J=7.8、H-1)、4.43〜4.13 (2H、m、-O-CH 2 -CH=CH2)、3.88〜3.34 (6H、m、H-2 & H-3 & H-4 & H-5 & H-6a,b)
【0093】
【化14】
【0094】
経路g;2,3,4-トリ-O-ベンジル-1-O-(2-プロペニル)-6-O-(4-トリルスルホニル)-β-D-グルコース (VIII)
化合物 (VII) 9.80g (20.0mmol)を乾燥ピリジン 200mLに溶解し、DMAP 24.4mg (0.2mmol)、p-トルエンスルホニルクロリド 11.4g (60.0mmol)を添加し、撹拌しながら室温で一晩反応した。その後、冷水300mLを加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出(200mL×3回)し、有機層を合わせて1.0N及び0.1N塩酸でpH 4まで中和し、飽和食塩水で洗浄(300mL×2回)し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮し、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製し、白色結晶状物質を得た(収量9.00g 14.0mmol、収率70.0%)。融点111〜112℃、Rf値;0.295 (ヘキサン:酢酸エチル=4:1)
1H NMR (300MHz、CDCl3+TMS、δ);7.77 (2H、d、J=8.2、Ts Me側のH)、7.31〜7.25 (15H、m、Ar)、7.19〜7.16 (2H、m、Ts SO2側のH)、5.98〜5.85 (1H、m、-CH=CH2)、5.35〜5.19 (2H、m、-CH=CH 2 )、4.92 (2H、d、J=10.9、Ar-CH 2 )、4.81 (1H、d、J=10.8、Ar-CH 2 )、4.75 (1H、d、J=10.9、Ar-CH 2 )、4.68 (2H、d、J=10.9、Ar-CH 2 )、4.48 (1H、d、J=10.8、Ar-CH 2 )、4.39 (1H、d、J=7.8、H-1)、4.34〜3.38 (8H、m、H-2 & H-3 & H-4 & H-5 & H-6a,b & -O-CH 2 -CH=CH2)、2.42 (3H、s、Ts CH 3 )
【0095】
【化15】
【0096】
経路h;2,3,4-トリ-O-ベンジル-1-O-(2-プロペニル)-6-デオキシ-6-アセチルチオ-β-D-グルコース (IX)
化合物(VIII) 9.00g (14.0mmol)を乾燥エタノール 250mLに溶解し、チオ酢酸カリウム 4.80g (42.0mmol)を添加し、還流条件下で撹拌しながら3時間反応した。その後、冷水300mLを加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出(200mL×3回)し、有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄(300mL×2回)し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮し、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製し、白色結晶状物質を得た(収量6.60g 12.0mmol、収率85.7%)。融点70〜73℃。Rf値;0.295 (ヘキサン:酢酸エチル=4:1)、[α]D=+26.7゜(c 0.75、CHCl3)
1H NMR (300MHz、CDCl3+TMS、δ);7.35〜7.25 (15H、m、Ar)、6.00〜5.89 (1H、m、-CH=CH2)、5.35 (1H、dd、J=1.5 & 17.2、-CH=CH 2 )、5.22 (1H、dd、J=1.3 & 10.4、-CH=CH 2 )、4.95 (1H、d、J=10.9、Ar-CH 2 )、4.93 (1H、d、J=10.8、Ar-CH 2 )、4.87 (1H、d、J=10.8、Ar-CH 2 )、4.78 (1H、d、J=10.9、Ar-CH 2 )、4.71 (1H、d、J=10.9、Ar-CH 2 )、4.63 (1H、d、J=10.7、Ar-CH 2 )、4.42 (1H、d、J=7.9、H-1)、4.37〜3.33 (7H、m、H-2 & H-3 & H-4 & H-5 & H-6a & -O-CH 2 -CH=CH2)、2.96 (1H、dd、J=6.9 & 13.6、H-6b) 、2.34 (3H、s、SCOCH 3 )
【0097】
【化16】
【0098】
経路i;3-O-(2,3,4-トリ-O-ベンジル-6-デオキシ-6-アセチルチオ-β-D-グルコピラノシル)-グリセロール (X)
化合物 (IX) 3.30g (6.02mmol)をt-ブタノール:水=4:1溶液に溶解し、トリメチルアミンN-オキシド二水和物1.34g (12.1mmol)、四酸化オスミウム-t-ブタノール溶液(0.04M) 11.7mLを添加し、撹拌しながら室温で3日間反応した。その後活性炭5.8gを加え、撹拌しながら室温で1.5時間放置し、その後吸引濾過した。次に冷水250mLを加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出(200mL×3回)し、有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄(300mL×2回)し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮し、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)で精製し、白色結晶状物質を得た(収量1.79g 3.08mmol、収率51.2%)。融点91〜93℃、Rf値;0.112 (ヘキサン:酢酸エチル=1:1)、[α]D=+18.0゜(c 0.75、CHCl3)
1H NMR (300MHz、CDCl3+TMS、δ);7.35〜7.25 (15H、m、Ar)、4.94〜4.61 (6H、m、Ar-CH 2 )、4.38 (0.5H、d、J=7.8、H-1(R or S))、4.37 (0.5H、d、J=7.8、H-1(R or S))、3.83〜3.37 (7H、m、H-2 & H-3 & H-4 & H-5 & H-6a & -O-CH 2 -CH=CH2)、2.96 (1H、dd、J=6.9 & 13.6、H-6b)、2.34 (3H、s、SCOCH 3 )
【0099】
【化17】
【0100】
経路j;3-O-(2,3,4-トリ-O-ベンジル-6-デオキシ-6-アセチルチオ-β-D-グルコピラノシル)-1,2-ジ-O-ステアロイル-グリセロール (XI)
化合物(X) 1.23g (2.12mmol)をジクロロメタン100mLに溶解し、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDCI) 1.30g (6.79mmol)、DMAP 260mg (2.13mmol)、ステアリン酸 1.75g (6.15mmol)を添加し、撹拌しながら室温にて1日反応した。その後ジクロロメタン100mLを加え反応を停止し、飽和食塩水で洗浄(50mL×2回)し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濾過、減圧濃縮し、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1→8:1)で精製し、白色非結晶状固形物質を得た(収量2.10g 1.88mmol、収率88.7%)。Rf値;0.487 (ヘキサン:酢酸エチル=4:1)、[α]D=−21.3゜(c 0.15、CHCl3)
1H NMR (300MHz、CDCl3+TMS、δ);7.34〜7.26 (15H、m、Ar)、5.28 (1H、m、Gly-H-2)、4.92〜4.60 (6H、m、Ar-CH 2 )、4.36 (0.5H、d、J=7.7、H-1(R or S))、4.35 (0.5H、d、J=7.8、H-1(R or S))、4.25〜2.96 (10H、m、H-2 & H-3 & H-4 & H-5 & H-6a, b & Gly-H-1a, b & Gly-H-3a, b)、2.37 (1.5H、s、SCOCH 3 (R or S)) 、2.35 (1.5H、s、SCOCH 3 (R or S))、2.32〜2.24 (4H、m、OCOCH 2 )、1.65〜1.58 (4H、m、OCOCH2CH 2 )、1.25 (56H、br、-CH 2 -)、0.88 (6H、t、J=6.3、CH 3 )
【0101】
【化18】
【0102】
経路k;3-O-(2,3,4-トリ-O-ベンジル-6-デオキシ-6-スルホ-β-D-グルコピラノシル)-1,2-ジ-O-ステアロイル-グリセロール・ナトリウム塩 (XII)
化合物 (XI) 1.24g (1.11mmol)を酢酸 50mLに溶解し、酢酸カリウム 1.5g 及びOXONE (2KHSO5、KHSO4、K2SO4) 1.55gを添加し、撹拌しながら室温にて一晩反応した。その後冷水100mLを加えて反応を停止し、酢酸エチルで抽出(50mL×5回)し、有機層を合わせて飽和炭酸水素ナトリウム溶液で中和し、さらに飽和食塩水で洗浄(100mL×2回)し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、濾過、減圧濃縮し、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1→15:1)で精製し、白色非結晶状固形物質を得た(収量773mg 0.677mmol、収率61.0%)。Rf値;0.288 (ジクロロメタン:メタノール=10:1)、[α]D=+4.8゜(c 0.17、CHCl3)
1H NMR (300MHz、CDCl3+TMS、δ);7.29〜7.16 (15H、m、Ar)、5.31 (1H、m、Gly-H-2)、4.91〜4.56 (6H、m、Ar-CH 2 )、4.50 (1H、d、J=7.6、H-1)、4.44〜3.03 (10H、m、H-2 & H-3 & H-4 & H-5 & H-6a, b & Gly-H-1a, b & Gly-H-3a, b)、2.62 (4H、br、OCOCH 2 )、2.19〜2.17 (4H、br、OCOCH2CH 2 )、1.49 (4H、br、OCO CH2CH2CH 2 )、1.25 (52H、br、-CH 2 -)、0.88 (6H、t、J=6.3、CH 3 )
【0103】
【化19】
【0104】
経路l;3-O-(6-デオキシ-6-スルホ-β-D-グルコピラノシル)-1,2-ジ-O-ステアロイル-グリセロール・ナトリウム塩(XIII)
化合物 (XII) 773mg (0.677mmol)をエタノール50mLに溶解し、10%パラジウム-活性炭(Pd-C) 2.00gを添加し、フラスコ内を水素で置換し、撹拌しながら室温で一晩反応した。その後、セライトを用いて吸引濾過し、減圧濃縮後、シリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=10:1→クロロホルム:メタノール:水=70:30:4)で精製し、白色非結晶状固形物質を得た(収量311mg 0.356mmol、収率52.6%)。
【0105】
白色非結晶状固形物質、Rf値;0.402 (クロロホルム:メタノール:水=65:25:4)、[α]D=−3.6゜(c 0.59、CHCl3:CH3OH:H2O=70:30:4)
1H NMR (300MHz、CDCl3+TMS、δ); 5.28 (1H、m、Gly-H-2)、4.32 (1H、d、J=7.7、H-1)、4.27〜3.11 (10H、m、H-2 & H-3 & H-4 & H-5 & H-6a, b & Gly-H-1a, b & Gly-H-3a, b)、2.36〜2.30 (4H、m、OCOCH 2 )、1.60 (4H、m、OCOCH2CH 2 )、1.27 (56H、br、-CH 2 -)、0.89 (6H、t、J=6.4、CH 3 )
【0106】
【化20】
【0107】
<アッセイ1>
混合リンパ球反応
刺激細胞、反応細胞となるリンパ球をそれぞれ別の健康人から採取した血液より調製した。
【0108】
リンパ球のうち反応細胞になるものは、更に選別をかけ、Tリンパ球のみとした。
【0109】
反応細胞は無処理、刺激細胞は増殖を停止させるために106/mLの細胞に対して10μg/mLのマイトマイシンCで処理した。処理後はPBS(phosphate buffer saline)で4回洗浄した。
【0110】
次に反応細胞を105個/ウエルずつ播種し、被験物質(以下の表1に示すSQAG3、SQAG5、SQAG7及びSQAG9)を所定濃度添加し、37℃、一時間培養した。その後刺激細胞を105個/ウエルずつ添加し、CO2インキュベーターで37℃4日間培養した。その培養の後、反応細胞の増殖能を定量するために、[3H]−チミジンを添加し、12時間培養して細胞核内へ取り込ませた後、シンチレーションカウンターで細胞内取り込み量を計測した。
【0111】
【表1】
【0112】
得られた結果を図1〜図4に示す。
【0113】
図1〜図4は、それぞれSQAG3、SQAG5、SQAG7及びSQAG9を添加した時の細胞への[3H]−チミジンの取り込み量を表す。[3H]−チミジンの核内取り込み量が低いほど免疫抑制能が高いことを表す。図1〜図4の何れも、縦軸は、放射能の強さを表し、横軸は、試験化合物の濃度を表す。
【0114】
図1〜図4から明らかなように、試験した化合物は、何れも有意な免疫抑制活性を有する。特に、SQAG9は他の化合物よりも顕著に優れた免疫抑制活性を有することが分かる。
【0115】
<アッセイ2>
皮膚移植による拒絶反応試験
ACIラットおよびLEWラットを準備し、エーテルの吸入麻酔を施した。ACIラットの背部を剃毛した後、側背部から1×1cmの大きさに皮膚を除去して皮膚欠損創を作り、止血した。一方、LEWラットの尾部の皮膚を採取し、1×1cmの大きさの皮膚片とした。この採皮片をACIラットの皮膚欠損創に当て、5-0ナイロン糸で縫合し、手術部にガーゼをあてがい、さらに創の安静を図るためゴムバンド付きの胴巻きを取り付けた。このような、皮膚移植手術を合計10匹のACIラットに対して行い、ランダムに5匹をコントロール群、5匹を被験物質投与群とした。コントロール群には、手術後5日間にわたり毎日、10mLの生理食塩水を腹腔内に投与した。被験物質投与群には、SQAG9を1mg/mLの濃度に生理食塩水に溶解した溶液10mLを、コントロール群と同様、手術後5日間にわたり毎日、腹腔内に投与した。
【0116】
手術後7日目に、移植した皮膚を採取して組織標本を作製し、藤田らの方法( T.Fujita, S.Takahashi, A. Yagihashi, K. Jimbow, N. Sato, Transplantation, vol.64, 922-925, 1997)にしたがってH−E染色を行い、組織学的に判定した。
【0117】
判定の結果、コントロール群は、5匹全ての組織像において、表皮が真皮から剥離しており、表皮が壊死していることを確認した。それに対し、SQAG9投与群では、5匹のうち3匹の組織像から、表皮の壊死が確認されたが、2匹の組織像については、表皮が真皮から剥離している部分が見られたものの、生着した部分が観察できた。
【0118】
本発明者らは、免疫抑制活性の評価法としては、皮膚移植による拒絶反応試験は、最も厳しい試験であり、さらに、このアッセイで用いた、ACI系ラットとLEW系ラットの組み合わせは、拒絶反応がもっとも激しく起こるものであると考えている。このような厳しい条件下でのアッセイにおいても5例中2例で拒絶反応の抑制効果が観察されたことは、本発明のSQAGが免疫抑制剤として高い効果をもつことを示すものである。
【0119】
また、SQAGを投与した群のラットにはいずれも、試験期間中、急性毒性による死亡例は一例もなかった。さらに、体重の減少、肉眼的な所見による体調不良、一般病理試験による主要臓器の異常等の所見も全く見られず、本発明の免疫抑制剤が極めて毒性の低いものであることを確認した。
【0120】
市販の免疫抑制剤のうち、皮膚移植試験で拒絶反応防止に効果を示すものはFK506など少数が知られているが、低毒性で効果の高い免疫抑制剤は未だ知られていない。
【図面の簡単な説明】
【図1】一般式(1)で表される化合物(SQAG3)の濃度と免疫抑制能との関係を表すグラフである。
【図2】一般式(1)で表される化合物(SQAG5)の濃度と免疫抑制能との関係を表すグラフである。
【図3】一般式(1)で表される化合物(SQAG7)の濃度と免疫抑制能との関係を表すグラフである。
【図4】一般式(1)で表される化合物(SQAG9)の濃度と免疫抑制能との関係を表すグラフである。
Claims (4)
- R 101 及びR 102 が、それぞれ、式R−C(=O)−(ここで、Rは、炭素数13以上25以下のアルキル基またはアルケニル基を表す。)で示される請求項1〜3のいずれか1項に記載の免疫抑制剤。
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