JP3770986B2 - 環境中の酵母、放線菌からのdnaの直接抽出による酵母、放線菌の検出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自然ならびに人間環境中での酵母または放線菌の検出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、自然または人間の環境中に棲息する酵母や放線菌などの検出方法として、このような環境から得た試料を、液体培地または寒天培地で培養し、単離した後に、顕微鏡による試験や各種生化学試験が行われてきた。
【0003】
近年では、こうした検出方法として、短期間で結果が得られ、かつ遺伝子レベルでの検出が可能なPCR法や遺伝子プローブ法が用いられてきた。酵母や放線菌などを検出、モニタリングするために使用する試料は様々な環境から採集されるが、PCR法や遺伝子プローブ法で上記酵母や放線菌を検出するためには、これらの中からDNAを抽出することが必須である。
【0004】
こうしたDNAの抽出、特に、環境中の微生物をモニタリングするために行われるDNAの抽出には、試料中に棲息する微生物を培養せず、直接環境中の微生物からDNAを抽出する直接抽出法と、一度環境中の微生物を培養してその後にDNAを抽出する間接抽出法とがある。直接抽出法は、間接抽出法に比べて一度微生物を培養する必要がないため、操作が簡便であるという利点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の直接環境中の微生物からDNAを抽出する方法においては、対象である環境中に様々な有機物や無機物が含まれているため、通常微生物を培養した後に行われるのと同様なDNA抽出操作を行っても、DNAがうまく抽出されないか、または抽出はされても十分に回収がされないため、DNAの回収率に再現性がないといった問題点があった。
【0006】
一方、一度環境中の微生物を培養してその後にDNAを抽出する方法においては、液体培養された微生物をリゾチームやラウリル硫酸ナトリウム(SDS)で溶菌し、フェノール処理を行った後にエタノール沈殿処理してDNAが分離される。このような方法では、液体培地中で増殖した微生物から回収されるDNAの純度や回収率は良いが、培養に使用する培地によって増殖する微生物が限定され、かつ培養可能な微生物のみが検出されるにすぎないため、PCRから得られた結果に対する信頼性の点で問題があった。
【0007】
したがって、PCRによる検出結果の信頼性を考慮に入れると、環境中に棲息する微生物から直接にDNAを抽出する直接抽出法が望ましいが、このような方法で純度の高いDNAを回収率良く抽出する方法は、これまでのところ報告されていない。
【0008】
本発明は、従来知られている方法よりも優れたDNAの抽出方法で環境中の微生物からのDNAを抽出し、ここで抽出されたDNAを鋳型として、放線菌または酵母を特異的に検出するためのプライマーを用いて、環境中の酵母または放線菌を検出する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の発明者らは、環境試料を洗浄処理して環境中の微生物から直接抽出したDNAと、後述する塩基配列を有するプライマーとを用いて、環境中の酵母、放線菌を検出できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、無機塩または有機塩を含む弱酸性の水溶液、または尿素水溶液で試料を洗浄する第一の洗浄工程と、粉乳の水溶液で試料を洗浄する第二の洗浄工程とを含むDNAの直接抽出法によって環境中の微生物からDNAを抽出して鋳型とし、一方が配列表の配列番号1に記載の塩基配列である5'-GCAAYAACAGGTCTGTGATGC-3' (塩基配列1)、他方が配列表の配列番号2に記載の塩基配列である5'-ATCCTTCCGCAGGTTCRCC-3' (塩基配列2)で表される塩基配列をプライマーとしてPCRを行い、ここで増幅されたDNA量を指標として酵母を検出することを特徴とする環境中の酵母の検出方法である。
【0011】
ここで、塩基配列1中YはCまたはTを表し、塩基配列2中RはAまたはGを表す(図1)。
ここで、上記のように増幅されたDNAを鋳型とし、配列表の配列番号3に記載の塩基配列3である5'-CGAGGAATTCCTAGTAAGCGC-3' (塩基配列3)で表される塩基配列(図2)をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うと、環境中の酵母が高感度に検出される。
【0012】
また、本発明は、無機塩または有機塩を含む弱酸性の水溶液、または尿素水溶液で試料を洗浄する第一の洗浄工程と、粉乳の水溶液で試料を洗浄する第二の洗浄工程とを含むDNAの直接抽出法によって環境中の微生物からDNAを抽出して鋳型とし、一方が配列表の配列番号4に記載の塩基配列である5'-GCGCASATATCAGGARGAAC-3'(塩基配列4)、他方が配列表の配列番号5に記載の塩基配列である5'-CTGCGATTACTAGCRACTCC-3'(塩基配列5)で表される塩基配列をプライマーとしてPCRを行い、ここで増幅されたDNA量を指標として放線菌を検出することを特徴とする環境中の放線菌の検出方法である。
【0013】
ここで、塩基配列4中SはGまたはCを表し、RはAまたはGを表す。塩基配列5中、RはAまたはGを表す(図3)。
ここで、上記のように増幅されたDNAを鋳型とし、配列表の配列番号6に記載の塩基配列である5'-CTCGTGTCGTGAGATGTTGG-3'(塩基配列6)で表される塩基配列(図4)をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うと、放線菌が高感度に検出される。
【0014】
上述した無機塩または有機塩を含む弱酸性の水溶液、または尿素水溶液で試料を洗浄する第一の洗浄工程と、粉乳の水溶液で試料を洗浄する第二の洗浄工程とを含むDNAの直接抽出法において、上記第一の洗浄工程において用いられる無機塩としては、例えば、硝酸ナトリウム、塩化アンモニウムなどを挙げることができ、有機塩としては、例えば、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0015】
これらの塩は、水溶液としたときに弱酸性となるように、塩酸または水酸化ナトリウムなどを用いてpHを弱酸性に調整するとよい。ここで、弱酸性とは、pH6.5 以上7.0 未満の範囲をいい、より好ましくはpH6.7 〜6.9 であり、さらに好ましくはpH6.8 付近である。
また、上記弱酸性の水溶液中の無機または有機塩の濃度は、0.05M〜5Mであることが好ましい。
【0016】
上記の尿素水溶液中の尿素濃度は、0.5 〜2%であることが好ましく、より好ましくは、0.5 〜1.5 %である。
さらに、上記第二の洗浄工程における粉乳としては、スキムミルクまたは育児用粉ミルクなどを挙げることができる。
【0017】
また、上記のDNAの直接抽出方法は、上記第一および第二の洗浄工程に加えて、環境中の微生物を溶菌させる溶菌工程と、タンパク質を変性し除去する変性除去工程と、DNAを沈殿させる沈殿工程とをさらに含むものである。
【0018】
ここで、上記環境中の微生物を溶菌させる溶菌工程は、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を用いて行われるものであり、上記タンパク質を変性し除去する変性除去工程は、例えば、フェノールを用いて行われるものであり、そして前記DNAを沈殿させる沈殿工程がエタノールを用いて行われるものである。
【0019】
本発明においては、上述した方法により環境中の微生物からDNAを直接抽出して鋳型とし、一方が5'-GCAAYAACAGGTCTGTGATGC-3' (塩基配列1)、他方が5'-ATCCTTCCGCAGGTTCRCC-3' (塩基配列2)で表される塩基配列を有するDNA(図1)をプライマーとしてPCRを行うと、ここで増幅されたDNA量を指標として環境中の酵母が検出される。または、プライマーとして、一方が5'-GCGCASATATCAGGARGAAC-3'(塩基配列4)、他方が5'-CTGCGATTACTAGCRACTCC-3'(塩基配列5)で表される塩基配列を有するDNA(図3)をプライマーとしてPCRを行うと、ここで増幅されたDNA量を指標として環境中の放線菌が検出される。
【0020】
また、上記塩基配列1と2との間に存在する塩基配列の一部に対応する5'-CGAGGAATTCCTAGTAAGCGC-3' (塩基配列3)で表される塩基配列を有するDNA(図2)をプローブとして、上述のように増幅されたDNA断片と通常の条件でハイブリダイゼーションを行うと、高感度で短時間のうちに酵母を検出することができる。上記の塩基配列3に代えて5'-CTCGTGTCGTGAGATGTTGG-3'(塩基配列6、図4)を用いると、放線菌を同様に検出することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明において、環境とは、微生物が棲息する自然環境または人間の環境をいう。したがって、本発明で使用する試料としては、通常の土壌の他、陸水・ 海水等に含まれる土壌粒子、さらに陸水、海水などを使用することができる。
【0022】
また、本発明においては、石油等の化学物質で汚染されていない非汚染土壌ばかりでなく、これら化学物質で汚染された土壌をサンプルとして使用することもできる。こうした汚染土壌をサンプルとして用いると、化学物質で汚染された土壌中に存在する種々の突然変異菌を検出することができる。
【0023】
また、本発明においては、上記の土壌サンプルの他、活性汚泥、ヘドロその他の各種の環境から採取したサンプル、種々の動物の糞などもサンプルとして使用することができ、陸水、海水などの液体をもサンプルとして使用することができる。
ここで陸水とは、地球上に分布する水のうち、海水を除いたものの総称であり、湖沼、河川、地下水、温泉、雪氷などを含む。
【0024】
以下に、各種土壌をサンプルとして使用する場合を例に挙げて説明する。
土壌サンプルには、フミン物質が多量に存在しているため、以下のように処理を行う。ここで、フミン物質とは、土壌または石灰質中の褐色〜黒色の無定形有機物であり、フミン酸とともに土壌中の有機質および石灰質の大部分を形成している物質をいう。この物質は土壌中の微生物から直接にDNAの抽出を行う際にDNAの抽出効率を低下させるため、除去することが必要である。
【0025】
フミン物質の除去は、無機塩または有機塩を含む弱酸性の水溶液、または尿素水溶液を土壌サンプルに添加して洗浄する第一の洗浄工程において行われる。土壌サンプルの洗浄に使用する上記弱酸性の水溶液に含まれる塩としては、無機塩としては硝酸ナトリウム、塩化アンモニウムなどを挙げることができ、有機塩としては酢酸アンモニウム、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウムなどを挙げることができる。酢酸アンモニウム溶液を使用することが、土壌中の微生物からDNAを検出する感度が高くなるために最も好ましい。
【0026】
上記弱酸性の水溶液のpHは6.5 以上7.0 未満であることが好ましく、より好ましくはpH6.7 〜6.9 、さらに好ましくは6.8 付近である。上記の無機塩または有機塩を水に溶解させたときに水溶液が弱酸性にならない場合は、適当な濃度の塩酸または水酸化ナトリウムなどを用いてpHを弱酸性に調整するとよい。
【0027】
上記弱酸性の水溶液中の化合物の濃度は、0.05〜5Mであることが好ましく、0.05〜1Mであることがさらに好ましい。0.5 Mの酢酸アンモニウム水溶液を用いると、土壌中の微生物のDNAの検出感度が最も高くなる。
尿素水溶液を用いる場合には、尿素濃度を0.5 〜2%とすることが好ましく、1%前後の濃度とすることがさらに好ましい。
【0028】
上記弱酸性の水溶液または尿素水溶液の添加量は、土壌サンプル100mg に対して、200 〜500 μL であることが好ましい。添加量が200 μL 未満では土壌サンプルの洗浄が不十分になる。また、500 μL を越えると1回に処理する容量が大きくなるため操作上不便になり、さらに土壌中の微生物からのDNAの回収率も低下する。300 μL の酢酸アンモニウム水溶液を添加して洗浄すると、土壌中の微生物のDNAの検出感度が最も高くなる。
【0029】
土壌サンプルは、上記第一の洗浄工程において、上記の量の弱酸性の水溶液または尿素水溶液を添加した後、室温でボルテクスミキサーにより激しく混合して洗浄する。ボルテクスミキサーによる混合は、通常3〜10分程度、好ましくは10分程度行う。混合時間が3分以下のようにあまりに短いとフミン物質を十分に除去することができず、逆に10分以上にわたって混合してもフミン物質をそれ以上除去することができないためである。
【0030】
第一の洗浄工程において上記弱酸性の水溶液または尿素水溶液で洗浄したサンプル土壌を、第二の洗浄工程において粉乳の水溶液を添加してさらに洗浄する。上記粉乳の水溶液で洗浄することにより、土壌粒子に吸着している土壌微生物、すなわち菌を遊離状態にすることができるため、土壌中の微生物からDNAを直接抽出する場合にDNAの回収率を著しく向上させることができる。
【0031】
以下の実施例においては、第二の洗浄工程において使用する粉乳の濃度は、従来法を参考に0.4 %(w/v) とした。上記粉乳としては、例えば、粉乳または育児用粉ミルクを使用することができる。
【0032】
上記の0.4 %粉乳の水溶液の添加量は、サンプル土壌100mg に対して200 〜500 μL である。添加量が200 μL 未満では土壌サンプルの洗浄が不十分になる。また、500 μL を越えると1回に処理する容量が大きくなるため操作上不便になり、さらに土壌中の微生物からのDNAの回収率も低下する。より好ましくは、200 μL である。
【0033】
第二の洗浄工程においては、粉乳の水溶液を上述のように添加し室温でボルテクスミキサーにより激しく混合して洗浄する。ボルテクスミキサーによる混合は、通常3〜10分程度、好ましくは10分程度行う。混合時間が3分以下のようにあまりに短いと不純物に吸着した微生物を十分に遊離させることができず、逆に10分以上にわたって混合しても遊離される微生物の量がそれ以上増加しないためである。ボルテクスミキサーによる混合の終了後、サンプル土壌を冷却遠心し上清を得る。
【0034】
上記第一の洗浄工程および第二の洗浄工程を行う順序は特に限定されず、上述の弱酸性の水溶液または尿素水溶液と粉乳の水溶液とを同時に添加して、一の洗浄工程として行ってもよい。しかし、土壌中の微生物からDNAを検出する検出感度の面から、第一の洗浄工程で洗浄処理した土壌サンプルを第二の洗浄工程で洗浄処理することが好ましい。
【0035】
ついで、得られた上清に、例えば、所定の濃度のSDSを添加し、室温でボルテクスミキサーを用いて一定時間激しく混合して、微生物を溶菌させる(溶菌工程)。添加するSDSの終濃度は、0.2 〜0.5 %が適当である。0.2 %未満では溶菌が不十分でDNAを十分回収することができず、逆に0.5 %を越える終濃度では溶菌しすぎるため最終的なDNAの回収率が低下することによる。
【0036】
SDSを上述のように添加し、室温でボルテクスミキサーにより激しく混合して洗浄する。ボルテクスミキサーによる混合は、通常3〜10分程度、好ましくは、10分程度行う。混合時間が3分以下のようにあまりに短いと微生物を十分に溶菌させることができず、逆に10分程度混合すれば十分に微生物が溶菌されるためである。
【0037】
上述のように処理した土壌サンプルを、例えば、通常用いられるフェノール処理法によって処理し、サンプル中に含まれるタンパク質を変性させ除去する(変性除去工程)。通常用いられる方法に従い、フェノールは、水相として用いた溶液中の塩等の成分が抽出操作中に失われ過ぎないように、これらの成分を含む溶液で予め飽和させておく。転倒混和した後、冷却遠心して上清を集め、ここに、例えば、2〜2.5 倍容の100 %冷エタノールを加えてDNAを沈殿させる(沈殿工程)。この溶液を冷却遠心して、抽出されたDNAを沈殿として得る。以上のようにして土壌中の微生物のDNAを得る。
【0038】
ついで、環境中の酵母または放線菌を検出するために使用するプライマーを調製する。ここで使用するRNAは酵素または放線菌のリボゾームから調整する。一般的に、リボゾームは2種の大きなrRNA分子と1種の小さなrRNA分子とからなり、これらの大きさは生物種によって異なる。2種の大きなRNAは、それぞれ、16S様rRNAおよび23S様rRNAと呼ばれている。
【0039】
酵母は、40の属に分けられ、いずれの種もリボゾーム中に16S様rRNAを有する。この16S様rRNAの遺伝子配列を解析して調べたところ、酵母に対して保存性を有する塩基配列(以下、16S様rRNA保存性配列という)が含まれていることが明らかになった。したがって、16S様rRNAをコードする遺伝子中に存在するこれらの16S様rRNA保存性配列を、PCRにおいて酵母の検出のためのプライマーとして使用する。
【0040】
酵母検出のためのプライマーとして使用する塩基配列は、一方が5'-GCAAYAACAGGTCTGTGATGC-3' (塩基配列1)、他方が5'-ATCCTTCCGCAGGTTCRCC-3' (塩基配列2)で表されるものであり、これらは酵母の16S様rRNAのユニバーサルプライマーである(図1)。
【0041】
塩基配列1は塩基配列2よりも酵母の16S様rRNAの塩基配列上で上流側に位置するため、上記塩基配列1をセンスプライマーとして、また、上記塩基配列2をアンチセンスプライマーとして使用する。
【0042】
上記の塩基配列1および2をプライマーとし、上述のように抽出した環境中の微生物からのDNAを鋳型として使用して、通常の条件でPCRを行い、これらのプライマーの間に挟まれる塩基配列をDNA断片として増幅させる。増幅されたDNA断片を、その後電気泳動により検出する。
【0043】
上述のように増幅したDNA断片を、さらに塩基配列3を含むDNAをプローブとして用いて、通常のハイブリダイゼーションを行う。塩基配列3は、酵母が有する16S様rRNAをコードする遺伝子中に存在する保存性を有する塩基配列であって、上述の塩基配列1と2との間に存在する塩基配列であり、5'-CGAGGAATTCCTAGTAAGCGC-3' で表される(図2)。
この塩基配列3をプローブとして用いることにより、環境中の酵母を高感度で短時間に検出することができる。
【0044】
放線菌の検出のためのプライマーとして使用する塩基配列は、一方が5'-GCGCASATATCAGGARGAAC-3'(塩基配列4)、他方が5'-CTGCGATTACTAGCRACTCC-3'(塩基配列5)で表されるものであり、これらの塩基配列は、放線菌の16S様rRNAのユニバーサルプライマーである(図3)。
【0045】
上記塩基配列4および5は、放線菌が有する16S様rRNAをコードする遺伝子中に存在する、放線菌に対して保存性を有する塩基配列である。
塩基配列4は塩基配列5よりも放線菌の16S様rRNAの塩基配列上で上流側に位置するため、上記塩基配列4をセンスプライマーとして、また、上記塩基配列5をアンチセンスプライマーとして使用する。
【0046】
上記塩基配列1および2に代えて塩基配列4および5を使用し、同様にPCRを行うことにより、環境中の放線菌を検出することができる。
上記2つの塩基配列4と5とをプライマーとし、上述のように抽出した環境中の微生物からのDNAを鋳型としてそれぞれ用いて、これらのプライマーの間に挟まれる塩基配列をDNA断片として増幅させる。その後、電気泳動により増幅されたDNA断片を検出する。
【0047】
上述のように増幅したDNA断片を、さらに塩基配列6を含むDNAをプローブとして用いて、通常のハイブリダイゼーションを行う。塩基配列6は、放線菌が有する16S様rRNAをコードする遺伝子中に存在する保存性を有する塩基配列であって、上述の塩基配列4と5との間に存在する塩基配列であり、配列6は、5'-CTCGTGTCGTGAGATGTTGG-3'で表されるものである(図4)。
【0048】
上述のように行ったPCRとハイブリダイゼーションとの結果より、増幅されたDNA量またはハイブリダーゼーションしたDNA量を指標として、検出しようとしている酵母または放線菌がどの程度サンプル中に存在しているのかを知ることができる。
また、上記のプライマーとプローブとを使い分けることによって、酵母と放線菌の双方を検出することもでき、個別に検出することもできる。
【0049】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
(1)PCR法で使用したプライマーおよびPCR条件
環境中の微生物から得られたDNAを鋳型とし、以下に示すプライマーを用いてPCRを行った。
【0051】
(a)PCR法で使用した酵母のプライマー
21mer のセンスプライマーおよび19mer のアンチセンスプライマーを調製した。これらのプライマーは、以下のようにして設計し調製した。
まず、酵母9種の16S様rRNAをコードする遺伝子の塩基配列をEMBLで検索後、Gene Worksのソフトウェアを用いてアライメントをとった。ここで明らかになった16S様rRNAの塩基配列上に保存性を有するDNA配列を決定した。決定されたDNA配列を図1に示す。
【0052】
(b)PCR法で使用した放線菌のプライマー
20mer のセンスプライマーと20mer のアンチセンスプライマーとを調製した。これらのプライマーは、以下のようにして設計し調製した。
まず、放線菌13種の16S様rRNAをコードする遺伝子の塩基配列をEMBLで検索後、Gene Worksのソフトウェアを用いてアライメントをとった。ここで明らかになった16S様rRNAの塩基配列上に保存性を有するDNA配列を決定した。決定されたDNA配列を図3に示す。
【0053】
(c)PCR法で使用した試薬
2.5 μL の10×PCRバッファー(100mM Tris-HCl(pH8.3)、
500mM KCl 、15mM MgCl2、0.01%ゲラチン(w/v) を含む)
0.5 μL のセンスプライマー(100pmol )
0.5 μL のアンチセンスプライマー(100pmol )
2.5 μL のdTNPs (2mM)
1 ユニットのTaq ポリメラーゼ
250ng の鋳型DNA
上記の試薬に滅菌水を加え、溶液の全体量を25μL にして、以下の反応条件により、PCRを行った。
【0054】
(d)反応条件
94℃1分でプレインキュベーション後、94℃30秒、60℃1分、72℃1分を1サイクルとして35サイクルを行い、引き続き72℃で2分間伸張反応を行った。
【0055】
(2)ハイブリダイゼーション法で使用したプローブおよびハイブリダイゼーション条件
環境中から得られたDNAを鋳型とし、以下に示すプローブを用いてハイブリダイゼーションを行った。
【0056】
(a)ハイブリダイゼーション法で使用した酵母のプローブ
21mer のオリゴヌクレオチドプローブを調製した。このプローブは、以下のようにして設計し調製した。
【0057】
まず、酵母9種の16S様rRNAをコードする遺伝子の塩基配列をEMBLで検索後、Gene Worksのソフトウェアを用いてアライメントをとった。ここで明らかになった16S様rRNAの塩基配列上に保存性を有するDNA配列を決定した。決定されたDNA配列を図2に示す。
【0058】
(b)ハイブリダイゼーション法で使用した放線菌のプローブ
20mer のオリゴヌクレオチドプローブを調製した。このプローブは、以下のようにして設計し調製した。
まず、放線菌13種の16S様rRNAをコードする遺伝子の塩基配列をEMBLで検索後、Gene Worksのソフトウェアを用いてアライメントをとった。ここで明らかになった16S様rRNAの塩基配列上に保存性を有するDNA配列を決定した。決定されたDNA配列を図4に示す。
【0059】
(c)ハイブリダイゼーション法に使用した試薬
ハイブリダイゼーション溶液は、アマシャム社のECL 3'- オリゴラベリングアンド ディテクションシステムズ(ECL 3'-oligolabelling and detection systems )のキットに添付された説明書に記載の方法に従って調製した。
【0060】
[プレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーション溶液]
5×SSC
0.1 %(w/v) ハイブリダイゼーションバッファーコンポーネント
(Hybridization buffer component* )
0.02%(w/v) SDS
20倍希釈のリキッドブロック(20 fold dilution of liquid block* )
* を付した2つの試薬は、 ECL 3'-oligolabelling and detection systemsのキットに含まれている。
上記の溶液はメンブレン1cm2 あたり0.125mL を使用した。
また、プローブはハイブリダイゼーション溶液1mLあたり5〜10ng使用した。
【0061】
(d)ハイブリダイゼーション反応条件
ハイブリダイゼーションの反応条件は、上記ECL 3'-oligolabelling and detection systems の方法に従って行った。
【0062】
[ハイブリダイゼーション]
メンブレンをハイブリダイゼーション溶液で42℃にて、少なくとも30分インキュベートした。その後、この溶液にプローブを加え、同じ条件でさらに2〜17時間インキュベートした。
【0063】
[洗浄]
バッファー1(5×SSC 、0.1 %(w/v)SDS)で室温にて5分間インキュベートした。新しいバッファー1に交換してさらに室温で5分間インキュベートした。その後、バッファー2(1×SSC 、0.1 %(w/v)SDS)で、50℃にて15分間の条件で2回インキュベートした。
【0064】
(実施例2)環境中からのDNAの抽出
(1)使用したサンプル
表1に示すように、ウサギの糞、カニの糞、ヘドロ、活性汚泥、陸水1(川より採集)、陸水2(温泉1:川治温泉より採取)、陸水3(温泉2:日光湯元より採取)、海水を採集して使用した。
【0065】
(2)環境中からのDNAの抽出
表1に示したサンプル各100mg に対して、0.5Mの酢酸アンモニウム溶液(pH6.8 )を300 μL 加え、ボルテクスミキサーで、室温にて10分間激しく攪拌した。その後、これらの混合物にさらに0.4 %(w/v) のスキムミルク溶液200 μL を加え、再度ボルテクスミキサーで10分間、室温で激しく攪拌した。
【0066】
洗浄が終了したサンプルを、4℃、12,000×gの条件で、10分間遠心して上清を集めた。ここで得られた上清にSDSを終濃度0.5 %となるように加え、室温で10分間、ボルテクスミキサーで激しく混合して微生物を溶菌させた。
【0067】
ついで、通常使用されるフェノール処理法に従い、上記処理を行った上清中に含まれるタンパク質を変性させた。ここに、2〜2.5 倍容の100 %の冷エタノールを加えて沈殿させ、4℃、12,000×gの条件で遠心してDNAを得た。
【0068】
以上のようにして得たDNAを鋳型として、上述した条件でPCRを行い、増幅したDNA断片を鋳型として、さらにハイブリダイゼーションを行った。
結果を表1、図5および図6に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1中、バンドが検出されなかった場合を−、非常に薄いバンドが検出された場合を±、また濃いバンドが検出された場合を+と表示した。
【0071】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、環境中から、直接に効率よく、かつ簡便に微生物のDNAを抽出し、酵母または放線菌のプライマーやプローブを使用したPCR法や遺伝子プローブ法を行うことによって、酵母や放線菌を短期間に高感度で検出することができる。
【0072】
また、本発明の方法によれば、サンプルを培養する必要がないため、培養によって検出される菌が限定されることなく、各種環境中の酵母や放線菌を検出することができる。
【0073】
【配列表】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【図面の簡単な説明】
【図1】PCR法で使用した酵母のセンスプライマー(塩基配列1)とアンチセンスプライマー(塩基配列2)とを示す図である。
【図2】ハイブリダイゼーション法で使用した酵母のプローブ(塩基配列3)を示す図である。
【図3】PCR法で使用した放線菌のセンスプライマー(塩基配列4)とアンチセンスプライマー(塩基配列5)とを示す図である。
【図4】ハイブリダイゼーション法で使用した放線菌のプローブ(塩基配列6)を示す図である。
【図5】微生物の形態を示すゲル電気泳動の写真であって、各サンプルからDNAを直接抽出してこれを鋳型とし、酵母のプライマーを使用したPCRのゲル電気泳動の結果(A)およびこれを鋳型としてハイブリダイゼーションを行った結果(B)を示す図面代用写真である。
【図6】微生物の形態を示すゲル電気泳動の写真であって、各サンプルからDNAを直接抽出してこれを鋳型とし、放線菌のプライマーを使用したPCRのゲル電気泳動の結果(A)およびこれを鋳型としてハイブリダイゼーションを行った結果(B)を示す図面代用写真である。
Claims (4)
- 無機塩または有機塩を含む弱酸性の水溶液、または尿素水溶液で試料を洗浄する第一の洗浄工程と、粉乳の水溶液で試料を洗浄する第二の洗浄工程とを含むDNAの直接抽出法によって環境中の微生物からDNAを抽出して鋳型とし、一方が5'-GCAAYAACAGGTCTGTGATGC-3' (配列表の配列番号1)、他方が5'-ATCCTTCCGCAGGTTCRCC-3' (配列表の配列番号2)で表される塩基配列をプライマーとしてPCRを行い、ここで増幅されたDNA量を指標として酵母を検出することを特徴とする環境中の酵母の検出方法。
- 請求項1で増幅されたDNAを鋳型とし、5'-CGAGGAATTCCTAGTAAGCGC-3' (配列表の配列番号3)で表される塩基配列をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことを特徴とする環境中の酵母の検出方法。
- 無機塩または有機塩を含む弱酸性の水溶液、または尿素水溶液で試料を洗浄する第一の洗浄工程と、粉乳の水溶液で試料を洗浄する第二の洗浄工程とを含むDNAの直接抽出方法によって環境中の微生物からDNAを抽出して鋳型とし、一方が5'-GCGCASATATCAGGARGAAC-3'(配列表の配列番号4)、他方が5'-CTGCGATTACTAGCRACTCC-3'(配列表の配列番号5)で表される塩基配列をプライマーとしてPCRを行い、ここで増幅されたDNA量を指標として放線菌を検出することを特徴とする環境中の放線菌の検出方法。
- 請求項3で増幅されたDNAを鋳型とし、5'-CTCGTGTCGTGAGATGTTGG-3'(配列表の配列番号6)で表される塩基配列をプローブとしてハイブリダイゼーションを行い、放線菌を検出することを特徴とする環境中の放線菌の検出方法。
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