JP3770211B2 - 冷間引抜き鋼管の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、冷間仕上げ機械構造用鋼管として自動車その他の産業分野で使用されている冷間引抜き鋼管の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用をはじめとして種々の産業分野で使用されている冷間仕上げ機械構造用鋼管は、コストダウン等の観点から、管の内外面の研削を行わずに使用される場合が増加している。
【0003】
鋼管の冷間引抜き加工の前処理としては、酸洗処理等により脱スケールした後、素管の表面にリン酸塩皮膜等の化成皮膜を形成させる化成処理が一般的に行われてきた。しかし、化成処理に比較して工程が簡略で、作業工数やランニングコストを削減することができるという利点を有し、また、化成処理では材料表面での化学反応(リン酸鉄の生成)を伴うため表面の平滑性が損なわれるという問題もあることから、潤滑油を素管の表面に塗布する油潤滑処理が多用されるようになってきた。
【0004】
一方、機械構造用鋼管においては高強度化が要求されることが多く、冷間加工により生じた加工歪を多く残して高強度を確保するため、比較的低い温度で応力除去のための熱処理が行われることも多い(以下、この熱処理を「低温焼鈍」ともいう)。また、熱処理(焼鈍)時における鋼管表面のスケールの発生を少なくしてスケール厚さを薄くするために、雰囲気炉を用いる雰囲気焼鈍が行われる場合も多い。
【0005】
ところが、油潤滑処理を行った上で、雰囲気炉を用いて低温焼鈍するという条件が重なると、潤滑油が焼鈍時に熱分解しにくいため十分に揮発除去されず、管の表面に、粉末状に付着する「スス」や、油の焼け残った状態の「こびり付き」などの焼鈍残渣として残存する。
【0006】
このような鋼管が出荷され、ユーザーで洗浄、切削等の加工処理が施されると、前記の焼鈍残渣の残存に起因して、洗浄水や切削油の汚れ、設備周りの汚れが生じるなど、加工環境の良好性が損なわれる。そのため、管の表面に残存する焼鈍残渣は、鋼管の製品としての品位を低下させ、また、それに伴う種々のトラブルの要因ともなる。
【0007】
これに対し、特開昭62−236896号公報では、断面減少率が30%以上に冷間引抜き加工するに際し、硫黄系極圧添加剤10〜60重量%を混合した潤滑油を用いる潤滑方法が提案されている。しかし、この方法で冷間引抜き加工した後の鋼管を650℃以下の低温で焼鈍処理すると、硫黄系極圧添加剤が潤滑油の熱分解を妨げ、焼鈍残渣が残る。
【0008】
また、特開平10−286616号公報では、抽伸(冷間引抜き加工)時に中空マンドレルを介して管内面に潤滑油を塗布する装置であって、前記中空マンドレル内の残油をタンクに戻す配管経路にリリーフ弁が設けられた管内面塗油装置が提案されている。この装置を用いれば、所定の内面塗油後、抽伸待ち中に中空マンドレルの先端部から洩れた潤滑油が口絞り部から他端に向かって流れ込み、その後の熱処理の過程で炭化して内面汚れを発生させるという問題が解消されるとしている。しかし、潤滑油そのものを改善しているわけではないため、冷間引抜き加工後の650℃以下の低温焼鈍で焼鈍残渣が残る場合がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
冷間仕上げ機械構造用鋼管を表面の研削をせずに使用する際に、前記鋼管に求められる性能として、以下の(1)〜(3)が挙げられる。
【0010】
(1)製品としての品格を高めるため鋼管表面のスケール厚さを薄くすること、具体的には、冷間引抜き加工を行い、焼鈍処理を施した後に、鋼管表面のスケール厚さが0.5〜10μm程度であること。
(2)冷間引抜き加工により生じた加工歪を、焼鈍処理の際にもとの状態には戻さずに多く残し、高い強度を確保すること。
(3)鋼管表面に焼鈍残渣の付着、残存による汚れがなく、表面性状に優れていること、具体的な目安としては、焼鈍残渣の付着量が3g/m2以下であること。
【0011】
前述したように、前記の(1)は、雰囲気炉を用いて雰囲気焼鈍することにより、また、前記の(2)は、低温焼鈍することにより達成される。
【0012】
しかし、(3)については、次のような問題がある。すなわち、化成処理に比較して表面の平滑性に優れるとともに工程が簡略で、ランニングコストが安いことから、鋼管の冷間引抜き加工の前処理として油潤滑処理が採用されるが、その場合、油潤滑に用いられている油を焼鈍処理で完全に熱分解するには650℃より高い温度に加熱する必要がある。しかし、潤滑油を塗布した鋼管を雰囲気炉でそれより低い温度で焼鈍処理を行い、焼鈍残渣を3g/m2以下とするには、冷間引抜き加工後、焼鈍処理の前に潤滑油を除去するか、焼鈍処理後に焼鈍残渣を取り除くことが必要になる。
【0013】
また、油潤滑処理においては、管と工具の界面で油切れが生じたときにも潤滑性を確保できるように、潤滑油に硫黄(含硫黄化合物)を含有する硫黄系極圧添加剤を加えるのが一般的であるが、この硫黄系極圧添加剤が焼鈍残渣の生成を助長する。
【0014】
本発明は、このような従来の技術における問題点を解決するためになされたもので、その目的は、雰囲気炉内で低温焼鈍を行う(すなわち、スケール厚さが薄く、高強度を有する鋼管を得る)という前提の下に、潤滑油を用いて冷間引抜き加工を行っても、管の表面に「スス」や「こびり付き」(「汚れ」ともいう)等の焼鈍残渣が生じることがない、表面性状に優れた冷間引抜き鋼管の製造方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討を重ねた。その結果、油潤滑処理において、潤滑性を高めるために潤滑油に加える硫黄系極圧添加剤は、それ自身が焼鈍残渣として残りやすい上に、ベースの潤滑油の熱分解を妨げることが判明した。したがって、硫黄系極圧添加剤は極力少なくすることが必要である。
【0016】
また、極圧添加剤中の硫黄含有量を低く抑えることにより油膜切れが生じ、焼き付きが発生しやすくなるが、これを防ぐためには、冷間引抜き加工に先立って、素管の表面に潤滑油の保持性に優れたホウ酸のアルカリ金属塩の皮膜を形成しておくことが効果的である。ホウ酸のアルカリ金属塩の代わりにリン酸のアルカリ金属塩の皮膜を形成させても同様の効果が得られる。
【0017】
さらに、雰囲気焼鈍時に、CO含有ガスを供給して揮発したガスの置換を促進することが効果的である。
【0018】
本発明は上記の知見に基づいてなされたもので、その要旨は、以下に記す冷間引抜き鋼管の製造方法にある。
【0019】
下記の▲1▼〜▲4▼の工程からなる冷間引抜き鋼管の製造方法。
▲1▼素管をホウ酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液に浸漬して、前記素管の内外面にホウ酸のアルカリ金属塩の皮膜を形成する。
▲2▼その皮膜の上にS含有量が3質量%以下で、粘度が4×10−4〜10−3m2/s(400〜1000cSt)の潤滑油を塗布する。
▲3▼潤滑油を塗布した素管を冷間引抜き加工する。
▲4▼前記加工後の素管を、炉内に1時間当たり炉容積に対して0.5倍以上のCO含有ガスを供給しながら650℃以下で熱処理する。
【0020】
前記▲1▼の工程において、ホウ酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液の代わりにリン酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液を用い、素管の内外面にリン酸のアルカリ金属塩の皮膜を形成させても同様の効果が得られる。
【0021】
また、同じく▲1▼の工程において、ホウ酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液の代わりにホウ酸のアルカリ金属塩およびリン酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液を用い、素管の内外面にホウ酸のアルカリ金属塩およびリン酸のアルカリ金属塩の皮膜を形成させてもよい。
【0022】
ここでいう「冷間引抜き鋼管」とは、炭素鋼、クロム鋼やクロムモリブデン鋼等の合金鋼、ステンレス鋼の素管に冷間引抜き加工を施して得られる鋼管で、自動車その他の産業分野で使用される鋼管をいう。
【0023】
なお、前記の工程▲4▼における「CO含有ガス」とは、例えば、体積%で、CO:0.1〜3.0%、CO2:10.0〜14.0%、H2:0.1〜1.5%、残部N2からなるガスをいう。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の冷間引抜き鋼管の製造方法について詳細に説明する。
【0025】
本発明の冷間引抜き鋼管の製造方法は、上記の▲1▼〜▲4▼の工程からなるものである。
【0026】
▲1▼の工程では、素管をホウ酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液に浸漬して、前記素管の内外面にホウ酸のアルカリ金属塩の皮膜を形成する。
【0027】
ホウ酸のアルカリ金属塩の皮膜は、素管との密着性が良好であり、次の▲2▼の工程でこの皮膜上に塗布される潤滑油の保持性に優れている。したがって、素管の表面にホウ酸のアルカリ金属塩の皮膜を形成させ、その上に潤滑油を塗布することにより、冷間引抜き加工の際の素管と引抜き用工具との間の摩擦力を低減させ、素管と引抜き用工具との焼き付きを防止することができる。
【0028】
ホウ酸のアルカリ金属塩の皮膜厚は、0.4〜20μmとするのが好ましい。皮膜厚が20μmを超えると剥離し易くなる。また、潤滑油が管の表面に残留し、熱処理の際、焼鈍残渣として残存する場合もある。一方、皮膜厚が0.4μm未満では、素管と引抜き用工具の直接的な接触が生、かつ、潤滑油の保持力が低下するため、潤滑性が低下することがある。
【0029】
ホウ酸のアルカリ金属塩としては、ホウ酸リチウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸ナトリウム等が挙げられる。その中でも、ホウ酸カリウムが好ましい。
【0030】
素管の内外面にホウ酸のアルカリ金属塩の皮膜を形成させるには、先ず、素管を、前記のホウ酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液に浸漬する。皮膜の厚さは、浸漬時間や水溶液の温度などで調節し、処理後の皮膜厚が好ましくは0.4〜20μmとなるようにする。なお、水溶液中のホウ酸のアルカリ金属塩の濃度は、皮膜の厚さ、浸漬時間等を勘案して決定すればよいが、例えば、2〜10質量%の範囲とするのが適切である。また、水溶液の温度は、70〜100℃の範囲とするのがよい。
【0031】
次いで、浸漬後の素管を乾燥させる。なお、乾燥は、150℃程度の乾燥室に装入する通常の方法により行えばよい。これによって、素管の内外面にホウ酸のアルカリ金属塩の皮膜が形成される。
【0032】
▲2▼の工程は、上記▲1▼の工程で形成された皮膜の上に、S含有量が3質量%以下で、粘度が4×10−4〜10−3m2/s(400〜1000cSt)の潤滑油を塗布する工程である。
【0033】
潤滑油のS含有量を3質量%以下とするのは、例えば潤滑油に硫黄系極圧添加剤を加えること等により、3質量%を超えてSを含有させた場合、焼鈍残渣量が増大するとともに、潤滑油の熱分解が妨げられるからである。したがって、潤滑油のS含有量は、焼鈍残渣の生成を抑えるという観点からは極力少なくすることが望ましく、Sが含まれていなくてもよい。しかし、Sがわずかでも含まれると、焼き付きが生じにくくなる効果があるので、実用上、S含有量は1.5〜3質量%とするのが望ましい。
【0034】
潤滑油の粘度(動粘度)を4×10−4〜10−3m2/s(400〜1000cSt)とするのは、粘度が4×10−4m2/sより低いと、冷間引抜き加工の際の素管と引抜き用工具間への潤滑油の引込み量が不足し、素管と引抜き用工具とが直接接触して素管に疵が発生することがあり、10−3m2/sより高いと、潤滑油の素管への付着量が増えて経済的に不利だからである。
【0035】
潤滑油を▲1▼の工程で形成された皮膜上に塗布するには、従来用いられている方法を使用すればよい。例えば、素管の外周囲に配置したノズルから潤滑油を素管の外面に供給する方法、また、素管の内部に挿入する中空マンドレルバーに設けた孔から潤滑油を素管の内面に供給する方法が適用できる。
【0036】
▲3▼の工程は、潤滑油を塗布した素管を冷間引抜き加工する工程である。この冷間引抜き加工は一般的な手法で行えばよい。
【0037】
▲4▼の工程は、前記冷間引抜き加工後の素管を、炉内に1時間当たり炉容積に対して0.5倍以上のCO含有ガスを供給しながら、650℃以下で熱処理する工程である。
【0038】
COを含有するガス雰囲気中で熱処理するのは、雰囲気中の酸素を排除し、鋼管の表面に酸化スケールが生成するのを抑えるためである。ただし、雰囲気中に酸素が含まれていないので潤滑油中の炭素が酸化されず、処理温度が650℃以下と低いので、ススや汚れ(こびり付き)などの焼鈍残渣として残留する。そこで、CO含有ガスを供給し、いわば絶えず換気を続けながらススや汚れの残留を防止する。
【0039】
熱処理に用いる炉は、バッチ式の密閉炉でもよいし、ローラーハース型の炉で、被処理材の装入部および装出部が解放されている連続炉でもよい。製造を連続的に行い、かつ換気を十分に行えるので、連続炉を用いることが好ましい。
【0040】
炉へのCO含有ガスの供給量は、1時間当たり炉容積に対して0.5倍以上の量とする。炉容積の0.5倍より少なければ熱分解した潤滑油がススとなって鋼管の表面に再付着し易くなるからである。また、前記ガスの供給量が多くなりすぎると効果に対しコストがかかりすぎ、経済的に不利になるため、供給量は炉容積の4倍以下とするのが好ましい。なお、例えば、「1時間当たり炉容積に対して4倍のガスの供給」とは、炉内に少量ずつガスを供給する一方、炉から同量のガスを排出し、1時間で炉容積の4倍の量のガスを供給することを意味する。
【0041】
熱処理の温度は650℃以下とする。前述したように、650℃以下という比較的低い温度で熱処理を行い、冷間引抜き加工により生じた加工歪を多く残して高強度を確保するためである。
【0042】
以上述べた本発明の冷間引抜き鋼管の製造方法において、▲1▼の工程で、ホウ酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液の代わりにリン酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液を用い、素管の内外面にリン酸のアルカリ金属塩の皮膜を形成させても同様の効果が得られる。すなわち、この皮膜も素管との密着性が良好で、潤滑油の保持性に優れ、冷間引抜き加工の際の素管と引抜き用工具との焼き付きを抑制することができる。
【0043】
なお、この場合、ホウ酸のアルカリ金属塩とリン酸のアルカリ金属塩ではその作用効果が若干相違し、前者は素管と皮膜の密着性を高め、さらに皮膜の上に塗布される潤滑油の保持性を高めて素管と引抜き用工具との焼き付きを防止する効果を有するのに対し、後者は皮膜の上に塗布される潤滑油の保持性を高めるとともに、それ自身も素管と引抜き用工具との直接接触を防ぎ、焼き付きを防止する効果を有する。
【0044】
リン酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液を用いた場合の好ましい皮膜厚は、ホウ酸のアルカリ金属塩の場合と同様、0.4〜20μmである。
【0045】
リン酸のアルカリ金属塩としては、第二リン酸ナトリウム、第三リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム等が挙げられる。その中でも、第二リン酸ナトリウムが好ましい。
【0046】
素管の内外面におけるリン酸のアルカリ金属塩の皮膜の形成も、ホウ酸のアルカリ金属塩の場合と同様、浸漬法により行えばよい。水溶液中のリン酸のアルカリ金属塩の濃度は、例えば、0.1〜0.5質量%の範囲とするのが適切であり、水溶液の温度は、60〜100℃の範囲とするのがよい。浸漬後の素管の乾燥についても、ホウ酸のアルカリ金属塩の場合と同様に行えばよい。
【0047】
また、同じく▲1▼の工程において、ホウ酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液の代わりにホウ酸のアルカリ金属塩およびリン酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液を用い、素管の内外面にホウ酸のアルカリ金属塩およびリン酸のアルカリ金属塩の皮膜を形成させても同様の効果が得られる。なお、この場合の作用効果は、ホウ酸のアルカリ金属塩を用いた場合とリン酸のアルカリ金属塩を用いた場合の中間的な作用効果を示すこととなる。
【0048】
ホウ酸のアルカリ金属塩およびリン酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液を用いた場合の好ましい皮膜厚、皮膜の形成、その後の乾燥についても、ホウ酸のアルカリ金属塩の場合と同様に行えばよい。なお、前記水溶液中の両アルカリ金属塩の濃度は、それらの合計の濃度が例えば、0.1〜3.0質量%の範囲となるようにするのが適切である。
【0049】
上述した本発明の冷間引抜き鋼管の製造方法によれば、スケール厚さが薄く、高強度を有し、管の表面にススや汚れのない、表面性状に優れた冷間仕上げ機械構造溶鋼管を得ることができる。
【0050】
【実施例】
〔実施例1〕
JIS G 3445(機械構造用炭素鋼鋼管)に規定されるSTKM13Aを対象として、外径70.0mm×肉厚4.0mmの素管を外径60.0mm×肉厚3.4mmに冷間引抜き加工し、雰囲気炉内で、COを2.1体積%含有するガスを、1時間当たり炉容積の2倍に相当する量供給しながら、560℃または700℃で20分の焼鈍処理を行って冷間引抜き鋼管を得た。このときの焼鈍処理時における焼き付きの有無、および焼鈍残渣量を調査するとともに、得られた鋼管の引張強さを測定した。なお、冷間引抜き加工の前処理として、油潤滑処理を行った。
【0051】
表1に調査結果を示す。同表の「焼き付き」の欄の、例えば「4/5」は、同一条件で得られた5本の冷間引抜き鋼管のうちの4本に焼き付きが生じたことを表す。「0/5」、「1/5」または「2/5」であれば、良好とした。「焼鈍残渣」の欄において、○印は焼鈍残渣量が3g/m2以下、△印は同じく3g/m2を超え5g/m2以下、×印は同じく5g/m2超え、であることを意味し、○印であれば、良好と評価した。また、「引張強さ」は、510MPa以上であれば良好と評価した。「総合評価」の欄の◎印は極めて良好、○印は良好で、△印および×印は、程度の違いはあるがいずれも不良であることを意味する。◎印または○印であれば、良好と評価した。なお、表1には、使用した潤滑油のS含有量および粘度、潤滑油を塗布する前の皮膜の形成(表1には、「下地処理」と記した)に用いたアルカリ金属塩の種類、ならびに熱処理温度も併せて示した。
【0052】
【表1】
【0053】
表1の結果から明らかなように、潤滑油のS含有量が本発明で規定する範囲内であって、ホウ酸またはリン酸のアルカリ金属塩の皮膜が形成されている場合(本発明例1〜3)は、良好な結果が得られた。
【0054】
これに対し、潤滑油のS含有量が本発明で規定する範囲から外れる場合、アルカリ金属塩の皮膜が形成されていても、焼き付きは認められないものの焼鈍残渣量が多く(比較例1〜3)、アルカリ金属塩の皮膜が形成されていなければ、さらに焼き付きが生じる場合もあった(比較例6および7)。なお、熱処理温度が本発明で規定する温度より高い比較例2では引張強さが低かった。
【0055】
また、潤滑油のS含有量が本発明で規定する範囲内であっても、アルカリ金属塩の皮膜がなければ、焼鈍残渣量は少なかったが、焼き付きが生じた(比較例4および5)。なお、熱処理温度が規定よりも高い比較例5では引張強さが低かった。
〔実施例2〕
質量%で、C:0.19%、Si:0.20%、Mn:0.71%、Cr:0.06%(残部はFeと不純物)を含有する炭素鋼の鋼管を対象として、実施例1の場合と同様に、外径70.0mm×肉厚4.0mmの素管を外径60.0mm×肉厚3.4mmに冷間引抜き加工し、実施例1の場合と同じ条件により雰囲気炉内で焼鈍処理を行い、冷間引抜き鋼管を得た。このときの焼鈍処理時における焼き付きの有無、および焼鈍残渣量を調査するとともに、得られた鋼管の引張強さを測定した。なお、冷間引抜き加工の前処理として、油潤滑処理を行った。
【0056】
表2に調査結果を示す。同表の「焼き付き」および「焼鈍残渣」の欄における結果の表示方法は、実施例1の場合と同じである。「引張強さ」は、510MPa以上であれば良好と評価した。また、「総合評価」の欄の記号の意味も実施例1の場合と同じで、◎印または○印であれば、良好と評価した。なお、表2には、使用した潤滑油のS含有量および粘度、潤滑油を塗布する前の皮膜の形成(表2には、「下地処理」と記した)に用いたアルカリ金属塩の種類、ならびに熱処理温度も併せて示した。
【0057】
【表2】
【0058】
表2の結果から明らかなように、潤滑油のS含有量および粘度、ならびに熱処理温度が本発明で規定する範囲内であって、ホウ酸または/およびリン酸のアルカリ金属塩の皮膜が形成されている場合(本発明例4〜12)は、良好な結果が得られた。
【0059】
これに対し、潤滑油のS含有量が本発明で規定する範囲から外れる場合、アルカリ金属塩の皮膜が形成されていても、焼鈍残渣量が多く(比較例8、10、13、14および18)、熱処理温度が本発明で規定する温度より高ければ、焼鈍残渣量は少なかったが引張強さが低かった(比較例9および15)。
【0060】
また、潤滑油のS含有量が本発明で規定する範囲内であって、アルカリ金属塩の皮膜が形成されていても、熱処理温度が本発明で規定する温度より高ければ引張強さが低く(比較例11)、粘度が本発明で規定する範囲より低い場合は、焼き付きが生じた(比較例12、16および17)。
【0061】
【発明の効果】
本発明の冷間引抜き鋼管の製造方法によれば、スケール厚さが薄く、高強度を有し、管の表面にススや汚れのない、表面性状に優れた冷間仕上げ機械構造溶鋼管を得ることができる。
Claims (3)
- 下記の▲1▼〜▲4▼の工程からなる冷間引抜き鋼管の製造方法。
▲1▼素管をホウ酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液に浸漬して、前記素管の内外面にホウ酸のアルカリ金属塩の皮膜を形成する。
▲2▼その皮膜の上にS含有量が3質量%以下で、粘度が4×10−4〜10−3m2/s(400〜1000cSt)の潤滑油を塗布する。
▲3▼潤滑油を塗布した素管を冷間引抜き加工する。
▲4▼前記加工後の素管を、炉内に1時間当たり炉容積に対して0.5倍以上のCO含有ガスを供給しながら650℃以下で熱処理する。 - 前記▲1▼の工程において、ホウ酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液の代わりにリン酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液を用い、素管の内外面にリン酸のアルカリ金属塩の皮膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の冷間引抜き鋼管の製造方法。
- 前記▲1▼の工程において、ホウ酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液の代わりにホウ酸のアルカリ金属塩およびリン酸のアルカリ金属塩を含有する水溶液を用い、素管の内外面にホウ酸のアルカリ金属塩およびリン酸のアルカリ金属塩の皮膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の冷間引抜き鋼管の製造方法。
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