JP3765286B2 - ピエゾアクチュエータ駆動回路 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はピエゾアクチュエータ駆動回路に関する。
【0002】
【従来の技術】
ピエゾアクチュエータはPZT等の圧電材料の圧電作用を利用したもので、容量性素子であるピエゾスタックが充放電により伸長または縮小してピストン等を直線動する。例えば、内燃機関の燃料噴射装置において、燃料噴射用のインジェクタの開閉弁の切り替えをピエゾアクチュエータにより行うものが知られている。
【0003】
ピエゾアクチュエータを駆動するピエゾアクチュエータ駆動回路の代表的な構成として以下のものがある。すなわち、ピエゾスタックに直流電源からインダクタを介して通電する第1の通電経路を有しており、その途中には直流電源を切り離し可能なスイッチング素子が設けられる。そして、直流電源をバイパスする第2の通電経路が設けられる。バイパス路は例えば直流電源が逆バイアスとなるダイオードにより構成される。ピエゾスタックの充電時には、スイッチング素子はオンオフを繰り返し、スイッチング素子のオン期間に、第1の通電経路に前記ピエゾスタックへの漸増する充電電流が流れ、スイッチング素子のオフ期間に、第2の通電経路に、フライホイール作用で前記ピエゾスタックへの漸減する充電電流が流れる。そしてスイッチング素子のオンオフが繰り返されるにともないピエゾスタックへの投入エネルギーが上昇していく。これは複数スイッチング方式として知られている。
【0004】
このものでは、スイッチング素子のオン期間の長さにより、エネルギーの投入速度を規定する平均的な充電電流の大きさが異なり、また、ピエゾスタックに投入されるエネルギーが充電完了時期で異なるので、スイッチング素子を制御する制御手段を備えている。スイッチング素子の制御は、簡易さという点からは、スイッチング素子の各オン期間の長さを一定値にとるとともに、予め設定した充電時間に達したら充電完了とする、上昇する充電電流やピエゾスタックの両端子間電圧等のフィードバックを伴わないオープンループとなっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、内燃機関が排出する排気ガスに対する排気ガス規制は近年益々厳しくなる傾向にある。かかる排気ガス規制に対応すべく、内燃機関の1サイクル中に燃料噴射を1回だけではなく複数回噴射を行うマルチ噴射がある。マルチ噴射には、噴射率を理想的な噴射率に近づけ、また、触媒装置の活性化を図る効果がある。
【0006】
マルチ噴射を構成する噴射に比較的短時間の噴射が含まれる。前記ピエゾアクチュエータをインジェクタの開閉制御用に用いたものは、応答性がよいことからその点では適している。また、マルチ噴射では微小噴射量での噴射を行うので、高精度が要求される。
【0007】
しかしながら、エネルギーの投入過程すなわちエネルギーの投入特性が変動すると、噴射量が大きく影響を受ける。特に、容量性素子であるピエゾスタックが温度変動等で特性が変化すると、エネルギーの投入特性が変動する。このため、マルチ噴射として所期の効果を十分には発揮し得ないおそれがあった。
【0008】
本発明は前記実情に鑑みなされたもので、ピエゾスタックへのエネルギーの投入特性がばらつかず、マルチ噴射を行う燃料噴射装置等にも好適に適用可能なピエゾアクチュエータ駆動回路を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、前記スイッチング素子のオンオフ制御において各オン期間の長さが一定値をとり、充電電流が0になるとオン期間に入るようにしたものにおいて、ピエゾアクチュエータのエネルギーの投入の過程について鋭意実験研究を重ねた結果、次のことが分かった。エネルギーの投入特性はピエゾスタックの容量によって異なるが、充電の開始初期では、漸減する充電電流が0となるオフ期間の終期における投入エネルギーがピエゾスタックのみかけの容量が違ってもあまり差がなかった。特に1回目のオフ期間の終期における投入エネルギーがみかけの容量によらず略一定であった。また、充電開始から所定回数のオン期間およびオフ期間(以下、適宜、オンオフ期間という)が経過するまでの所要時間が、ピエゾスタック容量が大きいほど長くなっていくが、この所要時間の差は、充電の開始初期のオンオフ期間の長さのばらつきが支配的である。特に、最初のオンオフ期間の長さに基因してばらついた。一方で、エネルギーの投入速度が、充電の開始初期で小さく、また、充電の開始初期を除けばあまり差がなくピエゾスタックの容量によりあまり変動しないことがわかった。
【0010】
すなわち、充電時間に対する投入エネルギーを示す特性線において、充電時間の方向に所定時間だけオフセットすると、充電の開始初期を除き、特性線が略重なることになる。本発明はかかる知見に基づきなされたものである。なお、前記みかけの容量とは、ピエゾスタックへの投入エネルギーをE、ピエゾスタックの両端子間電圧をVとしてE=(1/2)CV2 と表したときのCである(以下の説明において単に容量という)。
【0011】
請求項1記載の発明では、ピエゾアクチュエータを構成するピエゾスタックに直流電源からインダクタを介して通電する第1の通電経路に、その途中に設けられてオンオフを繰り返すスイッチング素子のオン期間に、前記ピエゾスタックへの漸増する充電電流が流れ、
前記直流電源をバイパスし前記インダクタを介して前記ピエゾスタックに通電する第2の通電経路に、前記スイッチング素子のオフ期間に、フライホイール作用で前記ピエゾスタックへの漸減する充電電流が流れるピエゾアクチュエータ駆動回路であって、
前記スイッチング素子のオンオフのタイミングを制御することによって前記ピエゾスタックの充電時間を制御する制御手段を有するピエゾアクチュエータ駆動回路において、
前記制御手段を、前記スイッチング素子の各オン期間の長さが一定値をとるように、かつ、前記ピエゾスタックの充電開始から予め設定した所定回目のオン期間では、前記ピエゾスタックの充電の開始から予め設定した所定の時間が経過するまで、前記スイッチング素子のオンを禁止するように設定する。
【0012】
前記所定回目のオン期間の開始が、ピエゾスタックの容量によらず揃えられる。そして、前記所定回目のオン期間以降においてはエネルギーの投入速度が容量によらず一定しているから、充電時間に対するエネルギーの投入特性を良好ならしめることができる。
【0013】
請求項2記載の発明では、請求項1の発明の構成において、前記所定回目のオン期間を、ピエゾスタックの充電開始から2回目のオン期間とする。
【0014】
これにより、投入エネルギーが小さい充電時間の範囲でも、ピエゾスタックの容量によらず良好なエネルギー投入特性を得ることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
図1に本発明を適用したディーゼルエンジンのコモンレール式の燃料噴射装置の構成を示す。ディーゼルエンジンの気筒数分のインジェクタ1が各気筒に対応して設けられ(図例ではインジェクタ1は1つのみ図示)、供給ライン27を介して連通する共通のコモンレール26から燃料の供給を受け、インジェクタ1から各気筒の燃焼室内に略コモンレール26内の燃料圧力(以下、コモンレール圧力)に等しい噴射圧力で燃料を噴射するようになっている。コモンレール26には燃料タンク23の燃料が高圧サプライポンプ25により圧送されて高圧で蓄えられる。
【0016】
また、コモンレール26からインジェクタ1に供給された燃料は、上記燃焼室への噴射用の他、インジェクタ1の制御油圧等としても用いられ、インジェクタ1から低圧のドレーンライン28を経て燃料タンク23に還流するようになっている。
【0017】
各インジェクタ1に搭載されたピエゾアクチュエータ11を駆動するためのピエゾアクチュエータ駆動回路21が設けられている。ピエゾアクチュエータ駆動回路21は、ECU22により制御され、選択気筒のインジェクタ1が燃料を噴射する。ECU22は、マイクロコンピュータ等を中心に構成され、ピエゾアクチュエータ駆動回路21の他、燃料噴射装置の各部を制御するようになっており、例えば、コモンレール26に設けられた図示しない圧力センサ等の検出信号に基づいて調量弁24を制御してコモンレール26への燃料の圧送量を調整し、コモンレール圧力を調整する。また、ECU22には燃料温、エンジン油温等の検出信号やクランク角等の各種信号が入力している。
【0018】
図2にピエゾアクチュエータ駆動回路21の構成を示す。ピエゾアクチュエータ駆動回路21は、各インジェクタ1のそれぞれに1対1に対応して設けられたピエゾアクチュエータ11の本体部分であるピエゾスタック4A,4B,4C,4Dの充電および放電を行う充放電回路部211、その制御を行う制御手段であるコントローラ212等からなり、図示しないワイヤハーネスによりピエゾスタック4A〜4Dと接続される。
【0019】
充放電回路部211は、車載のバッテリ30の給電で数十〜数百Vの直流電圧を発生するDC−DCコンバータ31、およびその出力端に並列に接続されたコンデンサ32を有し、両端子間からピエゾスタック4A〜4Dの充電用の電圧を出力する。DC−DCコンバータ31は例えば一般的な昇圧チョッパ型の回路を採用し得る。コンデンサ32は十分静電容量の大きなもの(数百μF)で構成され、ピエゾスタック4A〜4Dへの充電作動時にも略一定の電圧値を保つようになっている(以下、適宜、コンデンサ32の両端子間電圧を電源電圧という)。
【0020】
コンデンサ32からピエゾスタック4A〜4Dにインダクタ34を介して通電する第1の通電経路33aが設けてあり、通電経路33aには、コンデンサ32とインダクタ34間にこれらと直列に第1のスイッチング素子35が介設されている。第1のスイッチング素子35はMOSFETで構成され、その寄生ダイオード(以下、第1の寄生ダイオードという)351に対し電源電圧が逆バイアスとなるように接続される。
【0021】
また、インダクタ34とピエゾスタック4A〜4Dは第2の通電経路33bを形成している。この通電経路33bは、インダクタ34と第1のスイッチング素子35の接続中点に接続される第2のスイッチング素子35を有している。第2の通電経路33bはコンデンサ32をバイパスして、インダクタ34、ピエゾスタック4A〜4D、第2のスイッチング素子36を通る閉回路を形成している。第2のスイッチング素子36もMOSFETで構成され、その寄生ダイオード(以下、第2の寄生ダイオードという)361に対し電源電圧が逆バイアスとなるように接続される。
【0022】
通電経路33a,33bはピエゾスタック4A〜4Dのそれぞれに共通であり、ピエゾスタック4A〜4Dと直列に1対1に対応して選択スイッチ37A,37B,37C,37Dが接続してある。各選択スイッチ37A〜37DはMOSFETが用いられており、その寄生ダイオード(以下、選択寄生ダイオードという)371A,371B,371C,371Dに対しコンデンサ電圧が逆バイアスとなるように接続されている。
【0023】
噴射気筒のインジェクタ1のピエゾスタック4A〜4Dに対応する選択スイッチ37A〜37Dがオンされて、当該ピエスタック4A〜4Dに通電経路33a,33bが選択的に形成されることになる。なお、選択寄生ダイオード371A〜371Dを順方向の電流が流れるときには、選択スイッチ37A〜37Dの状態によらず通電経路33a,33bは形成される。
【0024】
スイッチング素子35,36、選択スイッチ37A〜37Dの各ゲートにはコントローラ212からそれぞれ制御信号が入力しており、前記のごとく選択スイッチ37A〜37Dのいずれかをオンして駆動対象のピエゾスタック4A〜4Dを選択するとともに、スイッチング素子35,36をオンオフし、ピエゾスタック4A〜4Dの充電および放電を行うようになっている。
【0025】
選択スイッチ37A〜37Dと接地間には、選択スイッチ37A〜37Dに共通に抵抗器38bが設けてある。その両端子間電圧すなわち図中b点の電圧はコントローラ212に入力し、ピエゾスタック4A〜4Dの充電電流が検出されるようになっている。
【0026】
第2のスイッチング素子36には直列に抵抗器38cが設けてある。その両端子間電圧すなわち図中c点の電圧はコントローラ212に入力し、ピエゾスタック4A〜4Dの放電電流が検出されるようになっている。
【0027】
また、インダクタ34のピエゾスタック4A〜4D側の端子と接地間に、直列接続された抵抗値の高い抵抗器381a,382aが設けてある。その分割電圧すなわち図中a点の電圧は、コントローラ212に入力し、ピエゾスタック4A〜4Dの両端子間電圧(以下、適宜、ピエゾスタック電圧という)が検出されるようになっている。
【0028】
コントローラ212は、ECU22からの指令信号や充放電回路部211の前記各種の検出信号にしたがって、充放電回路部211に制御信号を出力する。ECU22から入力する指令信号として、噴射信号、気筒選択信号および充電期間信号が入力している。噴射信号はピエゾスタック4A〜4Dの充電時期と放電時期とを規定するもので、「L」と「H」よりなる二値信号である。噴射信号の出力時期および長さにより噴射期間が略規定される。また、気筒選択信号は、噴射気筒に対応した、充電すべきピエゾスタック4A〜4Dを選択するもので、対応する選択スイッチ37A〜37Dに制御信号が出力される。充電期間信号は、ピエゾスタック4A〜4Dの充電期間の長さすなわち充電量を規定するもので、「L」と「H」よりなる二値信号である。立ち上がりにおいて充電が開始され、立ち下がりで充電が完了する。
【0029】
なお、各ピエゾスタック4A〜4Dには、それぞれ並列に抵抗器5A,5B,5C,5Dが設けてあり、充電完了後にもピエゾスタック4A〜4Dから常時、少しずつ放電する。抵抗器5A〜5Dはフェールセーフ用のものであり、ピエゾスタック4A〜4Dの配線ケーブルの断線等で通電不能になり、ピエゾスタック4A〜4Dからコンデンサ32への通常の電荷回収ができなくなったときであってもインジェクタ1が噴射状態のままとなるのを防止するものである。抵抗器5A〜5Dはまた、焦電効果による発生電荷を解消する。したがって、抵抗器5A〜5Dの抵抗値は最長噴射時間を考慮して設定される。
【0030】
図3は充放電回路部211の作動状態を示すものである。コントローラ212は、噴射信号、気筒選択信号、充電期間信号が「H」になると、所定の制御信号を出力する。なお、気筒選択信号は第1の気筒を選択するものであり、続いて第2の気筒を選択するものであるとする。先ず、第1の気筒に対応する第1の選択スイッチ37Aがオンされる。選択スイッチ37Aのオン期間は放電が完了するまでである。
【0031】
噴射信号および充電期間信号が「H」になると(t1 )、コントローラ212が、第1のスイッチング素子(以下、適宜、充電スイッチという)35のオン期間とオフ期間とを次のように設定し、充電スイッチ35に制御信号を出力する。すなわち、充電スイッチ35をオンして、第1の通電経路33aに漸増する充電電流を流す(図4(A))。オン期間の長さは一定に設定される。充電スイッチ35をオフすると、この時、インダクタ34に発生する逆起電力は第2の寄生ダイオード361に対して順バイアスであるから、インダクタ34に蓄積されたエネルギーにより、第2の通電経路33bに、漸減するフライホイール電流が流れる。これがピエゾスタック4Aへの充電電流となる(図4(B))。充電電流が予め略0Aに設定したしきい値(以下、適宜、0Aしきい値という)になると、オフ期間を終了して、再び充電スイッチ35をオンしてオン期間に入り、これを繰り返す(多重スイッチング方式)。充電電流(b点での信号)は略三角形状の波形で流れ、ピエゾスタック電圧(a点での信号)は階段状に上昇する。
【0032】
なお、充電スイッチ35の2回目のオン期間の開始時点(t2 )については、1回目のオフ期間において充電電流が0Aしきい値になった後、2回目のオン期間が開始するまでにタイムディレイが設けてある。タイムディレイは、充電開始時点(噴射信号等が立ち上がった時点)t1 からの経過時間が予め設定した基準時間となるように設定される。このため、コントローラ212内部で、充電開始時点t1 で「L」に立ち下がり、前記基準時間が経過すると「H」に立ち上がる充電同期信号を発生するようになっており、充電同期信号が「H」に立ち上がった時点で充電スイッチ35をオンする。充電同期信号は、充電開始時点t1 にカウントをスタートしカウント値に比例した電圧信号を出力するタイマと、基準時間に比例した電圧信号とを比較する比較器等により生成することができる。
【0033】
そして、充電期間信号が「L」になると(t3 )、充電スイッチ35への制御信号は強制的に立ち下がり、充電スイッチ35をオフに固定する。これで充電は完了となる。ピエゾスタック4Aの伸長によりインジェクタ1のニードルを開弁駆動する。
【0034】
また、噴射信号が「L」になると(t4 )、ピエゾスタック4Aを放電してコンデンサ32に回収する。放電期間は放電期間信号により放電時期および期間の長さが規定される。放電期間信号は「L」と「H」とからなる二値信号である。噴射信号が「L」になると立ち上がり、ピエゾスタック電圧が、略0Vに予め設定したしきい値(以下、適宜、0Vしきい値という)に達すると、立ち下がる。放電期間信号が立ち上がると、第2のスイッチング素子(以下、適宜、放電スイッチという)36のオン期間とオフ期間とを次のように設定し、放電スイッチ36に制御信号を出力する。すなわち、放電スイッチ36をオンして、第2の通電経路33bに漸増する放電電流を流す(図5(A))。放電電流が予め設定したしきい値(以下、適宜、上限電流しきい値という)になると、放電スイッチ36をオフしてオフ期間に入る。この時、インダクタ34に大きな逆起電力が発生し、インダクタ34に蓄積されたエネルギーにより、漸減するフライホイール電流が第1の通電経路33aに流れる。これがピエゾスタック4Aからコンデンサ32への放電電流となる(図5(B))。放電電流が0Aしきい値になると、再び放電スイッチ36をオンして、これを繰り返す。
【0035】
そして、ピエゾスタック電圧が0Vしきい値に達すると(t5 )放電期間信号が立ち下がって放電スイッチ36をオフに固定し、ピエゾスタック4Aの放電は完了となる。ピエゾスタック4Aの電荷はコンデンサ32に回収されることになる。そして、このようにピエゾスタック4Aを放電することで、ピエゾスタック4Aが縮小してインジェクタ1のニードルが閉弁作動する。
【0036】
次いで、第2気筒の噴射となるが、これに先立って気筒選択信号が「L」になって、選択スイッチ37Aがオフする(t6 )。
【0037】
続いて所定のクランク角のときに噴射信号および充電期間信号が再び「H」になるとともに、第2の気筒を指示する気筒選択信号が「H」になって、ピエゾスタック4Bについて、第1、第2の通電経路33a,33bが形成される。第3、第4の気筒についても同様に順次、ピエゾスタック4C,4Dの充電と放電とがなされる。
【0038】
発明者らは、スイッチング素子のオンオフ制御においてオン期間の長さが一定値をとるピエゾアクチュエータ駆動回路について、ピエゾアクチュエータのエネルギーの投入の過程について鋭意実験研究を重ねた結果、次のことが分かった。実験には、本実施例とコントローラにおける充電スイッチの制御を除き同じ構成のものを用いた。以下の説明において、本ピエゾアクチュエータ駆動回路と実質的に同じ作動をする部分については同じ番号を付して説明する。実験では、充電スイッチ35は図7に示すようにオフ期間の終期で(すなわち充電電流が0Aしきい値を横切ると)即、オン期間に入るようにしている。図8(A)、図8(B)、図8(C)はその結果の一例で、充電電流Ip 、瞬時投入エネルギー(=充電電流Ip ×ピエゾスタック電圧Vp )、投入エネルギー(=∫(Ip ×Vp )dt)の経時変化を示している。図中には容量の異なる3つの場合を併せて示している。なお、測定は、ピエゾタスタック4Aに変えて予め容量が分かっているフィルムコンデンサをピエゾアクチュエータ駆動回路に接続して行っている。
【0039】
充電時間(t1 からの経過時間)に対する投入エネルギーの経時変化であるエネルギー投入特性を示す図8(C)において、特性線がピエゾスタックの容量によって異なるが、充電の開始初期では、漸減する充電電流が0となるオフ期間の終期における投入エネルギーがピエゾスタック容量が違ってもあまり差がない。特に1回目のオフ期間の終期における投入エネルギーがピエゾスタック容量によらず略一定である。また、充電開始から所定回数のオンオフ期間が経過するまでの所要時間が、ピエゾスタック容量が大きいほど長くなっていくが、この所要時間の差は、充電の開始初期のオンオフ期間の長さのばらつきが支配的である。特に、最初(1回目)のオンオフ期間の長さに基因してばらつく。一方、エネルギーの投入速度である瞬時投入エネルギーが、充電の開始初期で小さく、また、充電の開始初期を除けばあまり差がなくピエゾスタック容量によりあまり変動しないことがわかる。すなわち、特性線を充電時間の方向に所定時間だけオフセットすると、ピエゾスタック容量の異なる特性線が重なることになる。本発明はかかる知見に基づきなされたものである。
【0040】
本発明では、1回目のオフ期間において充電電流が0Aしきい値に達しても、前記充電開始時点(t1 )から基準時間が経過するまでは2回目のオン期間が開始されない。すなわち充電スイッチ35がオンしない。これにより、次の効果を奏する。図6(A)、図6(B)、図6(C)は本ピエゾアクチエータ駆動回路の充電電流Ip 、瞬時投入エネルギー、投入エネルギーの経時変化を示すもので、図8の場合と同様に、図中には容量の異なる3つの場合を併せて示している。以下、図6のものを本発明と、図8のものを比較例という。
【0041】
本発明および比較例のいずれも、充電電流が第1の通電経路33aを通るオン期間ではインダクタ34に発生する逆起電力が(VDC−Vp )であるのに対し、充電電流が第2の通電経路33bを通るオフ期間ではインダクタ34に発生する逆起電力がVp であり、ピエゾスタック4Aへのエネルギーの投入速度が相対的に遅い期間と速い期間とを交互に繰り返して、全体的には略直線的に投入エネルギーが上昇していく。相違点としては、各エネルギー値に到達する時間が、ピエゾスタック容量に応じて異なり、ピエゾスタック容量が大きいほど所要時間は長くなる。すなわち、エネルギー投入特性がピエゾスタック容量によって変動する。
【0042】
本発明では、第1回目のオフ期間で充電電流が0Aしきい値に達した後に、前記基準時間が経過するまで充電スイッチ35のオンが禁止されるので、図6(C)のごとく、ピエゾスタック容量が違っても2回目のオン期間の開始タイミングが揃う。ここで、前記のごとく、1回目のオンオフ期間で到達する投入エネルギーがピエゾスタック容量によらず略一定であり、かつ、2回目のオンオフ期間以降のエネルギーの投入速度がピエゾスタック容量によらず略一定であるから、ピエゾスタック容量によらずエネルギー投入特性が略同じになる。これにより、充電期間信号が出力されている間の、エネルギー投入特性が環境温度の影響でピエゾスタック容量が変動しても変わらず、高精度な燃料噴射制御を行うことができる。
【0043】
なお、前記基準時間が経過するまで、第1回目のオフ期間で充電電流が0Aしきい値に達した後に、2回目のオン期間の充電スイッチ35のオンを禁止する期間を設けることによりエネルギー投入特性の容量依存性を抑制することができるのは次のように考えられる。
【0044】
図8(B)に示すように瞬時投入エネルギーすなわち充電能力は充電開始初期には小さく、エネルギーの投入が進行するほど大きくなる。これは、次のように理論的にも確かめられる。すなわち、前記のごとく充電電流Ip は略三角形状であり、オン期間の終期に到達する電流(充電ピーク電流)Ip PEAKは、電源としてのコンデンサ32の両端子間電圧(電源電圧)をVDC、ピエゾスタック電圧をVp 、オン期間の長さをTON、インダクタ13のインダクタンスをLとして、式(1)と表される。
Ip PEAK=(VDC−Vp )×TON/L・・・(1)
【0045】
また、オンオフ期間を通じて投入される投入エネルギーEは式(2)となる。
E=∫(Ip ×Vp )dt≒K∫((VDC−Vp )×Vp )dt・・・(2)
【0046】
したがって、ピエゾスタック電圧Vp の低い充電開始初期には充電能力が低いことが理論的にも知られる。
【0047】
また、オンオフ期間においてコンデンサ32からエネルギーが流出するのは、オン期間のみである。このオン期間にコンデンサ32から流出するエネルギーは、コンデンサ32からインダクタ34とピエゾスタック4Aとに分散して蓄積される。このうちインダクタ34に蓄積されたエネルギーがオフ期間にピエゾスタック4Aに移動することになる。したがって、1回のオンオフ期間においてピエゾスタック4Aに投入されるエネルギーは、オン期間にコンデンサ32から流出するエネルギーと等しい。ここで、電源電圧VDCがコンデンサ32の容量が大きいことで略一定であるから、充電開始初期において1回のオンオフ期間にピエゾスタック4Aに投入されるエネルギーEon-offは式(3)となる。
Eon-off≒VDC×〔(Ip PEAK/2)×TON〕・・・(3)
【0048】
そして、充電ピーク電流Ip PEAKは前記式(1)で表されるところ、ピエゾスタック電圧Vp が低い充電開始初期には電源電圧VDCで略規定されることから、充電ピーク電流Ip PEAKもピエゾスタック容量の違いによってはあまり変わらない。したがって、充電開始初期におけるオンオフ期間のピエゾスタック4Aへの投入エネルギーEon-offはピエゾスタック容量の違いによってはあまり変わらない。
【0049】
一方、オンオフ期間の長さは、オン期間が一定であるからオフ期間の長さで規定される。ここで、オフ期間では第2の通電経路33bを流れるフライホイール電流による充電であり、式(4)と表し得る。
Ip PEAK=Vp ×TOFF /L・・・(4)
【0050】
前記のごとく充電ピーク電流Ip PEAKはピエゾスタック電圧Vp が低い充電開始初期には電源電圧VDCで略規定されるから、ピエゾスタック容量の違いによってはあまり変わらない。したがって、オフ期間の長さTOFF は式(4)より知られるようにピエゾスタック電圧Vp に依存し、ピエゾスタック電圧Vp と反比例の関係になる。ピエゾスタック容量が大きいほどピエゾスタック電圧Vp は低いから、TOFF はピエゾスタック容量が大きいほど長くなる。また、充電開始初期ほどピエゾスタック電圧Vp は小さく、そのため式(1)より知られるように充電ピーク電流Ip PEAKは大きいから、TOFF は充電開始初期では長くなり、ピエゾスタック容量によるばらつきも大きい。
【0051】
しかして、図8(B)、図8(C)が示すごとく、充電開始初期において、特に1回目のオンオフ期間において、オフ期間の終期に到達する投入エネルギーがピエゾスタック容量の違いではあまり変わらず、その一方で、ピエゾスタック容量の違いでオンオフ期間の長さ(TON+TOFF )が変わることが説明できる。
【0052】
なお、前記のごとくオフ期間の長さはピエゾスタック電圧Vp が低いほど長いから、2回目のオフ期間の長さは1回目のオフ期間の長さに次いで長いことになる。したがって、3回目のオン期間の充電スイッチ35のオンを禁止する期間を設けるのもよい。また、3回目のオン期間の充電スイッチ35のオンのみを禁止する期間を設けるのもよい。要求される仕様に応じて適宜設定し得る。勿論、望ましいのは、2回目のオン期間の充電スイッチ35のオンの禁止である。広範囲の投入エネルギーに対して、ピエゾスタック容量の違いによる投入エネルギーの誤差を抑制することができるからである。
【0053】
さらに、充電スイッチ35のオンの禁止をする充電開始からn回目以降と、(n−1)回目までとでオン期間の長さが異なっていても同じ効果が得られる。また、オン期間1回目はピエゾスタック容量が違っていても充電ピーク電流の値が一定であることが本考案に至ったポイントの一つであるから、1回目の通電のみ電流が一定になるように制御すると、さらに高精度の効果が得られるが、回路ロジックが複雑になる割に効果が小さい。このため、本実施形態では採用していない。前記電流一定制御は充電スイッチ35のオンの禁止をするn回目より前ならば適用可能であるが、1回目のみの適用が一番精度がよく、それ以外の回数まで適用したとしてもオン時間だけで制御したときよりも高精度にすることは困難である。
【0054】
また、本発明は、インジェクタの燃料噴射制御用のピエゾアクチュエータだけではなく、他の用途に用いられるピエゾアクチュエータの駆動用にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用したピエゾアクチュエータ駆動回路を備えたディーゼルエンジンの燃料噴射装置の構成図である。
【図2】前記燃料噴射装置のインジェクタに搭載されたピエゾアクチュエータを駆動する前記ピエゾアクチュエータ駆動回路の回路図である。
【図3】前記ピエゾアクチュエータ駆動回路の各部の作動状態を示すタイミングチャートである。
【図4】(A)、(B)はそれぞれ前記ピエゾアクチュエータ駆動回路に形成される、ピエゾスタックの充電時の通電経路を示す回路図である。
【図5】(A)、(B)はそれぞれ前記ピエゾアクチュエータ駆動回路に形成される、ピエゾスタックの放電時の通電経路を示す回路図である。
【図6】(A),(B),(C)はそれぞれ前記ピエゾアクチュエータ駆動回路の作動を示すグラフである。
【図7】前記ピエゾアクチュエータ駆動回路と比較する比較例の各部の作動状態を示すタイミングチャートである。
【図8】(A),(B),(C)はそれぞれ前記ピエゾアクチュエータ駆動回路と比較する比較例の作動を示すグラフである。
【符号の説明】
1 インジェクタ
11 ピエゾアクチュエータ
21 ピエゾアクチュエータ駆動回路
211 充放電回路部
212 コントローラ(制御手段)
22 ECU
30 バッテリ
31 DC−DCコンバータ
32 コンデンサ(直流電源)
33a,33b 通電経路
34 インダクタ
35 第1のスイッチング素子
351 寄生ダイオード
36 第2のスイッチング素子
361 寄生ダイオード
37A,37B,37C,37D 選択スイッチング素子
371A,371B,371C,371D 寄生ダイオード
4A,4B,4C,4D ピエゾスタック
Claims (2)
- ピエゾアクチュエータを構成するピエゾスタックに直流電源からインダクタを介して通電する第1の通電経路に、その途中に設けられてオンオフを繰り返すスイッチング素子のオン期間に、前記ピエゾスタックへの漸増する充電電流が流れ、
前記直流電源をバイパスし前記インダクタを介して前記ピエゾスタックに通電する第2の通電経路に、前記スイッチング素子のオフ期間に、フライホイール作用で前記ピエゾスタックへの漸減する充電電流が流れるピエゾアクチュエータ駆動回路であって、
前記スイッチング素子のオンオフのタイミングを制御することによって前記ピエゾスタックの充電時間を制御する制御手段を有するピエゾアクチュエータ駆動回路において、
前記制御手段を、前記スイッチング素子の各オン期間の長さが一定値をとるように、かつ、前記ピエゾスタックの充電開始から予め設定した所定回目のオン期間では、前記ピエゾスタックの充電の開始から予め設定した所定の時間が経過するまで、前記スイッチング素子のオンを禁止するように設定したことを特徴とするピエゾアクチュエータ駆動回路。 - 請求項1記載のピエゾアクチュエータ駆動回路において、前記所定回目のオン期間を、ピエゾスタックの充電開始から2回目のオン期間としたピエゾアクチュエータ駆動回路。
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