JP3760175B2 - ダイヤモンド膜の形成方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はトランジスタ・ダイオード・センサ等の電子部品又は電子デバイス、ヒートシンク、表面弾性波素子、X線窓、光学材料及びそのコーティング材等に使用するのに好適のダイヤモンド膜の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ダイヤモンドは耐熱性が優れており、禁制帯幅が大きく、通常は絶縁体であるが、不純物を添加すれば半導体となる。また、ダイヤモンドは絶縁破壊電圧及び飽和ドリフト速度が極めて大きく、更に誘電率が小さいという特徴も有する。このような特徴のために、ダイヤモンドは高温及び高周波用の電子部品又は電子デバイス用の材料として極めて有用である。
【0003】
電子デバイスにおいて、ダイヤモンドの優れた特性を最大限に活用するためには、不純物制御された高品質の単結晶薄膜を合成することが必要である。ダイヤモンドの気相合成方法としては、マイクロ波プラズマ、直流プラズマ又は熱フィラメントの励起法等で、炭素を含む反応ガス(メタン、エチレン、アセチレン、メタノール、エタノール、アセトン、ベンジン、一酸化炭素又は二酸化炭素等)を分解し、800℃前後の適当な温度に保持された所望の基材に、水素雰囲気下で蒸着する化学気相蒸着法(CVD法)が一般的に知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、CVD法は不純物制御にも有用なダイヤモンド合成法であるが、基本的に「水素希釈された反応ガスを励起してから基板上に堆積する」機構を有しているため、以下に示す問題点を有する。
【0005】
(1)ダイヤモンドは他の材料よりも表面エネルギーが大きいため、ダイヤモンド以外の材料を基材とした場合、気相合成の開始点となるダイヤモンドの核が基板表面に形成されない。このため、ダイヤモンドパウダによる基板表面の傷つけ処理が必要であるが、この傷つけ処理により、基板表面の結晶性が損なわれてしまう。バイアス印加処理(S.Yugo,T.Kanai,T.Kimura,T.Muto;Applied Physics Letters,vol.58,p.1036(1991)も異種基板上へのダイヤモンド核形成促進に有効な方法として知られているが、基板が導電性を有する材料に限られ、例えば石英及び酸化アルミニウム等の酸化物は基板材料として用いることができない。
【0006】
(2)基板材料の選択範囲を拡げ、ガラスを含む酸化物又はプラスチックを基板としてダイヤモンドを気相合成できるようになれば、産業界におけるダイヤモンド膜の実用性は著しく高まるが、従来のCVD法では水素の脱離反応を促進するため、基板温度が800℃前後に制限される。基板温度を600℃以下にすると、合成速度が0.1μm/時以下となり、実用的なプロセスには用いることができない。
【0007】
(3)炭素の原材料としては、高純度ガスを必要とし、またダイヤモンドの合成速度も通常1μm/時と小さいという難点がある。
【0008】
(4)反応ガスの希釈に使用される水素ガスは爆発の可能性を有する可燃性ガスであり、その使用は安全上の観点から好ましくない。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、基板材料の制約がなく、また基板温度も低減することができ、更に高純度ガスを使用する必要がなく、ダイヤモンドの合成速度も速く、合成の過程で可燃性ガスを使用する必要がないダイヤモンド膜の形成方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るダイヤモンド膜の形成方法は、酸素ガス圧が6.65乃至133Paの酸素ガス雰囲気下で、グラファイト、アモルファスカーボン又はダイヤモンドを含有するターゲットに対し、レーザアブレーション又はレーザスパッタリングを行って前記ターゲットから炭素を飛散させ、基板上にダイヤモンド膜を合成することを特徴とする。この場合に、前記基板上に合成されたダイヤモンド膜は、好ましくは、単結晶である。また、基板温度は300乃至600℃、ターゲットと基板との間の距離は10乃至100mmの範囲であることが好ましい。更に、前記基板は、酸化アルミニウム(サファイア)、酸化マグネシウム、石英若しくは白金の単結晶ブロック又は単結晶薄膜からなることが好ましい。
【0011】
本発明は、電子デバイスにも適用できる高品質のダイヤモンド膜を気相合成できる方法であり、上記課題を解決するためになされた従来のダイヤモンド合成機構とは全く異なる方法である。即ち、本発明は、グラファイト、アモルファスカーボン又はダイヤモンド等の炭素を含有するターゲットを反応チャンバ内に設け、レーザアブレーション又はレーザスパッタリングによって前記ターゲットから炭素を物理的に飛散させ、反応チャンバ内に予め導入された酸素ガスの雰囲気下で同じく反応チャンバ内に設けられた基板にダイヤモンドを合成する方法である。
【0012】
このとき、雰囲気ガス中の酸素ガス圧は6.65乃至133Pa、基板温度は300乃至600℃、ターゲットと基板との間の距離は10乃至100mmの範囲であることが好ましい。雰囲気ガスとして、水素ガスを用いても問題はないが、必ずしも使用する必要はない点で従来のCVD法と大きく異なる。また、基板としては、酸化アルミニウム(サファイア)、酸化マグネシウム、石英又は白金等が適当であり、これらの単結晶ブロック又は薄膜単結晶を使用することが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について具体的に説明する。本発明に係るダイヤモンドの気相合成によるダイヤモンド膜の形成方法では、炭素を含有するダーゲットを炭素源とし、レーザアブレーション又はレーザスパッタリングにより物理的に炭素を気相中に飛散させる。そして、炭素源として、ガスではなく予め反応チャンバ内に設けられた固体を使用するので、反応ガスの希釈に水素ガスを使用する必要がない。
【0014】
気相中に飛散した炭素は同じく反応チャンバ内に設けられた基板上にダイヤモンドとして蒸着する。通常は炭素の熱力学安定相であるグラファイトが堆積すると考えられるが、雰囲気ガスである酸素ガスを6.65乃至133Pa、基板温度を300乃至600℃の範囲で制御すれば、グラファイトが酸化されて一酸化炭素又は二酸化炭素として気相中に飛散する。このため、結果的にグラファイトよりも耐酸化性が高いダイヤモンドが基板上に蒸着される。酸素はダイヤモンドの合成自体にも関与しており、グラファイト表面の化学結合(SP合成)を開き、続いて気相から堆積する炭素とダイヤモンド結合(SP合成)の形成を促進する。酸素ガス圧が6.65Pa未満では、グラファイトの蒸着が優勢となり、ダイヤモンドが合成されない。一方、酸素ガス圧が133Paを超えると、炭素の酸化が進行しすぎるので、基板上には何も蒸着されない。基板温度も重要な制御ファクターであり、600℃を超えると、炭素の酸化が進行し過ぎるので、基板上には何も蒸着されず、300℃未満ではグラファイトの蒸着が優勢となり、ダイヤモンドが合成されない。
【0015】
このように、本発明では、ターゲットから物理的に飛散させた炭素を酸素雰囲気下でダイヤモンドを基板上に気相合成するので、例えば特開平6−234594に示されているような、特別な励起光源等は必要ない。
【0016】
ダイヤモンドの原材料としては、グラファイト、アモルファスカーボン又はダイヤモンド等の炭素を含有するダーゲットを用いる。但し、米国特許5368681に示されているように、ターゲット又は雰囲気ガス中に水素を含有する必要はない。グラファイト及びアモルファスカーボンはターゲットとして大型化が容易であり、長時間のダイヤモンド合成に適している。ターゲットがダイヤモンドを含む場合は、アブレーション又はスパッタリングされた炭素がダイヤモンドの結合状態を反映しているため、基板上に合成されるダイヤモンドもより高品質である。
【0017】
ターゲットと基板との間の距離は10乃至100mmの範囲が適当である。レーザのエネルギ密度にも関係するが、ターゲットと基板との間の距離が10mm未満では得られるダイヤモンドの面積が小さく、実用的でない。逆に、この距離が100mmを超えると、ターゲットから飛散した炭素が基板に到達する前に熱力学的により安定なグラファイトに変わるため、ダイヤモンドが得られない。
【0018】
基板としては、サファイア、酸化マグネシウム、石英、白金等を使用することができる。しかし、基板材料としては、300乃至600℃の酸化雰囲気でも表面が酸化されず、結晶構造が保持される材料であれば、その他の材料も使用可能である。特に、前記材料の単結晶(111)面又は(0001)面を基板として使用すると、粒界がない(111)単結晶ダイヤモンド膜を合成できる。単結晶の形状はブロック又は薄膜のいずれでも良い。
【0019】
【実施例】
次に、添付の図面を参照して本発明方法により実際にダイヤモンド薄膜を形成した実施例について説明する。図1は本実施例においてダイヤモンドを気相合成するために使用した装置を示す模式図である。反応チャンバ1内に、ターゲットホルダ3と、基板ヒータ10上に配置された基板ホルダ9とが対向するように設置されている。そして、ターゲットホルダ3上にはターゲット2が装着され、基板ホルダ9上には基板8が装着されるようになっている。そして、反応チャンバ1には、雰囲気ガスをチャンバ内に導入する雰囲気ガス導入ポート5と、真空ポンプに接続されてチャンバ内を排気する排気ポート6とが設けられており、チャンバ1内の真空度は真空ゲージ7により計測されるようになっている。また、反応チャンバ1には、石英窓4が設けられており、この石英窓4の中心をとおり石英窓4に垂直の線が基板ホルダ3上に装着された基板2の中心をとおるように、石英窓4の向きが決められている。
【0020】
このように構成されたダイヤモンド合成装置を使用してダイヤモンドを合成した。先ず、反応チャンバ1内を予め1.33×10 −8 Paよりも高真空に真空引きした後、酸素ガスをチャンバ1内に導入して26.6Paに保持した。ターゲット2としてグラファイトを装着し、石英窓4を介してKrFエキシマレーザをターゲット2に照射して、レーザアブレーションによりターゲット2から炭素を飛散させた。基板8には方位(0001)のサファイアを使用した。4時間の合成後、基板8を取り出し、X線回折で基板上に蒸着した薄膜を調べたところ、ダイヤモンド(111)回折線が高強度で得られる(111)配向性のダイヤモンド膜であることを確認できた。図2及び図3は方位(0001)のサファイア上に合成されたダイヤモンド薄膜のX線回折結果を示す。
【0021】
更に、このようにして得られたダイヤモンド膜は、一部の領域で、図4のSEM写真に示すように方位整合粒子が結晶方位を継承してエピタキシャル成長していることが判った。図4は方位(0001)のサファイア上に合成されたダイヤモンド薄膜のSEM写真である。
【0022】
なお、ターゲットと基板との間の距離を10乃至100mm、レーザのエネルギ密度をターゲット表面換算で1乃至10J/cm2の範囲を変えたところ、全ての範囲でダイヤモンド膜を合成できたが、ダーゲットと基板との間の距離を20mm前後、レーザのエネルギ密度を5J/cm2前後にした場合に、最も良好な結果が得られた。KrFエキシマレーザの他に、ArFレーザ及びNe:YAGレーザ等を使用して光源の波長を変えて炭素を飛散させたが、得られたダイヤモンド膜に顕著な変化は認められなかった。
【0023】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、基板に特に前処理を施さなくても、ガラス等の酸化物又はプラスチックを含む種々の基板上に、水素ガスを使用せずに、600℃以下というように従来よりも低い温度で、ダイヤモンド膜を合成することができる。また、基板材料を選択すれば、粒界密度が小さい方位整合ダイヤモンドを合成できる。このように、本発明は従来と根本的に異なるダイヤモンド気相合成方法により、ハードコーティングから電子デバイス材料まで広範囲の応用が可能な高品質のダイヤモンド膜を低コストで且つ安全に合成することができる。このため、本発明はダイヤモンド膜の用途を広範囲の技術分野に拡げることができ、この種の分野に多大の貢献をなす。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例においてダイヤモンド膜を合成した装置を示す模式図である。
【図2】方位(0001)のサファイア上に合成されたダイヤモンド薄膜のX線回折結果を示す図である。
【図3】方位(0001)のサファイア上に合成されたダイヤモンド薄膜のX線回折結果を示す図である。
【図4】方位(0001)のサファイア上に合成されたダイヤモンド薄膜のSEM写真である。
【符号の説明】
1:反応チャンバ
2:ターゲット
3:ターゲットホルダ
4:石英窓
5:雰囲気ガス導入ポート
6:排気ポート
7:真空ゲージ
8:基板
9:基板ホルダ
10:基板ヒータ

Claims (4)

  1. 酸素ガス圧が6.65乃至133Paの酸素ガス雰囲気下で、グラファイト、アモルファスカーボン又はダイヤモンドを含有するターゲットに対し、レーザアブレーション又はレーザスパッタリングを行って前記ターゲットから炭素を飛散させ、基板上にダイヤモンド膜を合成することを特徴とするダイヤモンド膜の形成方法。
  2. 前記基板上に合成されたダイヤモンド膜は、単結晶であることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド膜の形成方法。
  3. 基板温度は300乃至600℃、ターゲットと基板との間の距離は10乃至100mmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイヤモンド膜の形成方法。
  4. 前記基板は、酸化アルミニウム(サファイア)、酸化マグネシウム、石英若しくは白金の単結晶ブロック又は単結晶薄膜からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のダイヤモンド膜の形成方法。
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