JP3758840B2 - 潤滑油組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、潤滑油組成物に関するものであり、さらに詳しくは、硫黄含有有機モリブデン系化合物、有機酸金属塩、有機酸アンモニウム塩および有機酸アミン塩等の有機酸塩化合物ならびにジチオリン酸亜鉛とを含有する摩擦低減効果の優れた潤滑油組成物に関するものである。本発明の潤滑油組成物は、内燃機関用潤滑油、自動変速機油、ギヤ油、作動油、塑性加工油等として有用である。
【0002】
【従来の技術】
機械装置、設備、機器等の運動部分の摺動面において生ずる摩擦・摩耗の低減化についてはトライボロジーの基本的な課題の主要なものであり、従来から多数の研究開発が行なわれており、潤滑油基油の組成面からの品質改良と共に、基油に添加される種々の摩擦調整剤が開発されている。例えば、硫化オキシモリブデンジチオホスフェート(以下「MoDTP」と略称する。)および硫化オキシモリブデンジチオカーバメート(以下「MoDTC」と略称する。)が金属系摩擦調整剤として提案されている(例えば、特開昭54−113604号公報参照。)。
【0003】
しかしながら、近年、機械装置をはじめ自動車等の性能向上に伴ない、潤滑油の使用条件が苛酷になり、例えば、自動車用エンジン油にとっては、停止および発進運転から生ずる厳しい高低温条件の煩雑な繰り返しに耐えると共に、長時間の高速連続運転から生ずる高温条件に耐え得ることが要求されるようになり、前記のMoDTPおよびMoDTC等は低温においては相応の摩擦低減効果を発揮するものの、高温においてはその摩擦低減効果を喪失し、高温下での運転の必要な機械装置および自動車の高速運転には十分な効果を奏し得ないおそれの生ずることが本発明者らの検討の結果により明らかとなった。
【0004】
このような状況において、環境保全の対策上、省資源、省エネルギーの必要性からも、内燃機関の摩擦損失を減少させるために高温域での摩擦低減効果が優れ、かつ長期間の使用において摩擦低減効果の持続性に優れた潤滑油が強く要求されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、潤滑油の使用環境において変動するあらゆる条件、すなわち、低温域から高温域にわたる広範な条件下において優れた摩擦低減効果およびその安定性を発揮できる潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、従来の摩擦低減剤の開発状況に鑑み、前記の課題を解決するため、鋭意検討を加えた結果、硫黄含有有機モリブデン系化合物と特定の有機酸金属塩、アンモニウム塩またはアミン塩等の有機酸塩化合物およびジチオリン酸亜鉛を併用することにより、前記課題を解決できることを見いだし、これらの知見に基いて本発明の完成に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の第一は、
潤滑油基油に
a)硫黄含有有機モリブデン系化合物、
b)次のb−1)およびb−2)からなる群より選択される少なくとも一種の有機酸塩化合物
b−1)カルボン酸、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、アルキルサリチル酸およびアルキルフェノール化合物からなる群より選択される有機酸の金属塩であって、該金属塩が周期表1A、3A〜7A族、8族および1B〜6B族金属からなる群より選択される金属を含有する有機酸金属塩化合物(ただし、カルボン酸銅塩を除く。)、
b−2)カルボン酸、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、アルキルサリチル酸およびアルキルフェノール化合物からなる群より選択される有機酸のアンモニウム塩化合物およびアミン塩化合物
ならびに
c)ジチオリン酸亜鉛
を配合してなることを特徴とする潤滑油組成物に関するものである。
【0008】
また、本発明の第二は、
潤滑油基油に、
a)硫黄含有有機モリブデン系化合物、
b)次のb−1)およびb−2)からなる群より選択される少なくとも一種の有機酸塩化合物
b−1)カルボン酸、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、アルキルサリチル酸およびアルキルフェノール化合物からなる群より選択される有機酸の金属塩であって、該金属塩が周期表1A〜7A族、8族および1B〜6B族金属からなる群より選択される金属を含有し全塩基価が70mgKOH/g未満の有機酸金属塩化合物(ただし、カルボン酸銅塩を除く。)、
b−2)カルボン酸、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、アルキルサリチル酸およびアルキルフェノール化合物からなる群より選択される有機酸のアンモニウム塩化合物およびアミン塩化合物
ならびに
c)ジチオリン酸亜鉛
を配合してなることを特徴とする潤滑油組成物に関するものである。
【0009】
さらに、本発明によれば、
潤滑油基油に
a)硫黄含有有機モリブデン系化合物、
b)次のb−1)およびb−2)からなる群より選択される少なくとも一種の有機酸塩化合物
b−1)カルボン酸、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、アルキルサリチル酸およびアルキルフェノール化合物からなる群より選択される有機酸の金属塩であって、該金属塩が周期表1A〜7A族、8族および1B〜6B族金属からなる群より選択される金属を含有する有機酸金属塩化合物(ただし、カルボン酸銅塩を除く。)、
b−2)カルボン酸、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、アルキルサリチル酸およびアルキルフェノール化合物からなる群より選択される有機酸のアンモニウム塩化合物およびアミン塩化合物
ならびに
c)ジチオリン酸亜鉛
を配合してなる潤滑油組成物であって、有機酸金属塩、有機酸アンモニウム塩および有機酸アミン塩化合物由来の全塩基価が5mgKOH/g以下であることを特徴とする潤滑油組成物を提供することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の潤滑油組成物の構成成分としての潤滑油基油は、潤滑油組成物の用途により選択されるが、本発明の効果を発揮するものであれば特に限定されるものではなく、通常、潤滑油の基油として使用されているものを用いることができる。例えば、鉱油系基油、合成系基油、植物油系基油等を挙げることができ、これらの基油は、各々、単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
【0012】
鉱油系基油としては、パラフィン系、中間基系またはナフテン系原油の常圧蒸留残渣の減圧蒸留留出油として得られる潤滑油留分を溶剤精製、水素化分解、水素化処理、水素化精製、接触脱蝋、溶剤脱蝋、白土処理等の各種精製工程を任意に選択して用いることにより処理して得られる鉱油、減圧蒸溜残渣を溶剤脱瀝に供したのち、脱瀝油を上記の精製工程により処理して得られる鉱油、または、ワックス分の異性化により得られる鉱油等またはこれらの混合油を用いることができる。前記の溶剤精製においては、フェノール、フルフラール、N−メチル−2−ピロリドン等の芳香族抽出溶剤が用いられ、一方、溶剤脱蝋の溶剤としては、液化プロパン、MEK/トルエン等が用いられる。また、接触脱蝋においては例えば形状選択性ゼオライトを触媒として用いることができる。また、特に、酸化安定性等の観点から、前記の水素化分解、水素化処理により得られる芳香族炭化水素含有量2重量%以下の飽和炭化水素からなる水素化処理油を用いることもできる。
【0013】
一方、合成系基油としては、ポリα−オレフィンオリゴマー(例えば、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)等およびこれらの混合物。)、ポリブテン、アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジ(2−エチルヘキシル)ベンゼン、ジノニルベンゼン等。)、ポリフェニル(例えば、ビフェニル、アルキル化ポリフェニル等。)、アルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィドおよびこれらの誘導体;二塩基酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スペリン酸、セバチン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー等。)と各種アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等。)とのエステル;炭素数5〜12のモノカルボン酸とポリオール(例えば、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等。)とのエステル;その他、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、リン酸エステルおよびシリコーン油等を挙げることができる。
【0014】
また、植物油系基油としては、ひまし油、なたね油、パーム油、ヤシ油、ココナッツ油、オリーブ油、ひまわり油等を用いることができる。
【0015】
上記の各種潤滑油基油は、潤滑油組成物の用途に応じて所望の粘度その他の性状を有するように調製することができ、また、各種混合基材を適宜混合して用いることもできる。例えば、内燃機関用潤滑油としては、100℃における動粘度が2mm2 /s〜30mm2 /s、特に、3mm2 /s〜10mm2 /sの範囲に、また、自動変速機油としては、100℃における動粘度を2mm2 /s〜30mm2 /s、特に、3mm2 /s〜15mm2 /sの範囲に混合基材の調合等により調整すればよい。
【0016】
本発明の潤滑油組成物の構成成分の硫黄含有有機モリブデン系化合物としては、例えば、硫化オキシモリブデンジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジチオホスフェートおよび硫化オキシモリブデンジチオキサントゲネート等を挙げることができる。硫化オキシモリブデンジチオカーバメートは次の一般式[I] で表され、硫化オキシモリブデンジチオホスフェートは一般式[II]により、また、硫化オキシモリブデンジチオキサントゲネートは一般式[III] により表される。一般式[I]
【0017】
【化1】
一般式[II]
【0018】
【化2】
一般式[III]
【0019】
【化3】
上記一般式[I] 〜[III] において、R1 、R2 は、炭素数1〜30の炭化水素基であり、各々、同一でも異なるものでもよい。炭化水素基としては、炭素数1〜30のアルキル基;炭素数2〜30のアルケニル基、炭素数6〜30のシクロアルキル基;炭素数6〜30のアリール基であり、アリール基は、炭素数1〜24のアルキル基で置換されたものでもよい。好ましい炭化水素基は炭素数3〜24のアルキル基であり、例えば、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等の直鎖状またはこれらの分岐状アルキル基を挙げることができる。さらに好ましいアルキル基は、一般式[I] で表される硫化オキシモリブデンジチオカーバメートにおいては炭素数3〜20のものであり、後述の有機酸金属塩化合物との併用において相乗的な摩擦低減効果を示す。一般式[II]の硫化オキシモリブデンジチオホスフェートにおいても炭素数3〜20のアルキル基が摩擦低減効果の観点から特に好適である。また、一般式[III] の硫化オキシモリブデンジチオキサントゲネートにおいてはアルキル基の炭素数が3〜24の範囲ものが好ましい。
【0020】
また、上記一般式[I] 、[II]および[III] において、xは各々、0.5〜2.3であり、好ましくは、0である。
従って、本発明の潤滑油組成物にとって好適な一般式[I] の硫化オキシモリブデンジチオカーバメートの代表例として、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジイソプロピルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジイソブチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジブテニルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジイソペンチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジヘプチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(2−エチルヘキシル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(2−プロピルペンチル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジノニルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(2−プロピルヘキシル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(2−メチルドデシル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジヘキサデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジオクタデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(2−メチルオクタデシル)ジチオカーバメート等を挙げることができる。一般式[II]の硫化オキシモリブデンジチオホスフェートの代表例として、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジイソプロピルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジイソブチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジブテニルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジヘプチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(2−エチルヘキシル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジノニルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジオクタデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジオレイルジチオホスフェート等またはこれらの分岐状アルキル基またはアルケニル基を有する化合物を挙げることができる。
【0021】
また、一般式[III] の硫化オキシモリブデンジチオキサントゲネートの代表例として、硫化オキシモリブデンブチルジチオキサントゲネート、硫化オキシモリブデンペンチルジチオキサントゲネート、硫化オキシモリブデンヘキシルジチオキサントゲネート、硫化オキシモリブデンヘプチルジチオキサントゲネート、硫化オキシモリブデンオクチルジチオキサントゲネート、硫化オキシモリブデン(2−エチルヘキシル)ジチオキサントゲネート、硫化オキシモリブデンノニルジチオキサントゲネート、硫化オキシモリブデンデシルジチオキサントゲネート、硫化オキシモリブデンドデシルジチオキサントゲネート、硫化オキシモリブデンテトラデシルジチオキサントゲネート、硫化オキシモリブデンヘキサデシルジチオキサントゲネート、硫化オキシモリブデンオクタデシルジチオキサントゲネート、硫化オキシモリブデンノナデシルジチオキサントゲネート、硫化オキシモリブデンエイコシルジチオキサントゲネート等またはこれらの分岐状アルキル基またはアルケニル基を有する化合物を挙げることができる。
【0022】
以上述べた一般式[I] 、[II]および[III] において表される硫黄含有有機モリブデン系化合物は、各々、単独で用いることができるが、二種もしくは二種以上を併用してもよい。潤滑油基油に対する配合量は限定されるものではなく、潤滑油組成物の用途およびその有機モリブデン系化合物の種類によるが、通常、潤滑油組成物全重量基準で、モリブデン量として150ppm〜2,000ppm、好ましくは、200ppm〜1,500ppmの範囲で使用することができる。モリブデン量が150ppmに満たないと有機酸金属塩化合物との相乗効果が得られず、摩擦低減効果が欠如するという問題が生じる。一方、モリブデン量が2,000ppmを超えてもその増量に応じた効果が得られないのみならず、溶解性に問題があり沈降するおそれがある。
【0023】
このような有機モリブデン系化合物の作用機構は十分には解明されていないが、潤滑油の使用条件下において摺動面にMoSX 被膜が形成されることにより摩擦係数を低減させるものと推定されており、従って、本発明の潤滑油組成物においては、硫黄含有有機モリブデン系化合物として上記のモリブデン系化合物に限定されるものではなく、MoSX 被膜形成等により摩擦低減効果を有するものであれば他の化合物を使用することができる。
【0024】
次に、本発明の潤滑油組成物の構成成分として用いられる有機酸塩化合物の有機酸金属塩、有機酸アンモニウム塩および有機酸アミン塩について説明する。有機酸金属塩は、カルボン酸、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸、アルキルサリチル酸およびアルキルフェノール化合物からなる群より選択される有機酸と周期表1A、3A〜7A族、8族および1B〜6B族金属からなる群より選択される金属成分とからなる。また、有機酸アンモニウム塩は、上記有機酸とアンモニウム成分とからなり、有機酸アミン塩は、上記有機酸とアミン成分とからなる。
【0025】
有機酸金属塩の金属成分は、周期表1A、3A〜7A族、8族および1B〜6B族金属からなる群より選択される金属であり、具体的には亜鉛、カドミウム、鉄、コバルト、ニッケル、カルシウム、マグネシウム、バリウム、銅(ただし、有機酸がカルボン酸の場合は銅は除く。)、リチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、チタン、マンガン、バナジウムまたはスカンジウム等を挙げることができる。これらの金属成分は高温における摩擦特性に優れていることから選択されたものであり、特に、亜鉛、カドミウム、鉄、コバルトおよびナトリウム等が好ましい。
【0026】
さらに、全塩基価が70mgKOH/g未満、特に、50mgKOH/g未満の有機酸金属塩においては、上記の金属成分に加えて周期表2Aのアルカリ土類金属、すなわち、マグネシウム、カルシウムおよびバリウム等も摩擦低減効果の観点から有用である。
【0027】
有機酸アンモニウム塩は、後述する各有機酸とアンモニアとからなる化合物である。
【0028】
有機酸アミン塩は、後述する各有機酸とアミン成分とからなる化合物で、アミン成分は窒素原子に結合した1個または2個の水素原子を含有する第一級アミンまたは第二級アミンであり、有用なアミンとしてモノアミンまたはポリアミンを挙げることができる。炭素数としては1〜24のものが好適であり、具体的には、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロヘプチルアミン等を挙げることができる。
【0029】
また、アルキレンジアミンも有用であり、具体的には、メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンを挙げることができ、ポリアルキレンポリアミンにはジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、テトラプロピレンペンタミン等を用いることができる。
カルボン酸は、一般式[IV]
【0030】
【化4】
(式中、Rは炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基または少なくとも1個の鎖状炭化水素基で置換された脂環式炭化水素基もしくは芳香族炭化水素基であり、nは1〜4の整数である。)
で表すことができ、脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸および芳香族カルボン酸を挙げることができる。また、モノカルボン酸、ジカルボン酸、他のポリカルボン酸等のいずれでもよく、飽和または不飽和カルボン酸も用いられる。
【0031】
脂肪族カルボン酸としては、炭素数4〜30、特に、6〜24のモノカルボン酸またはジカルボン酸が好適であり、具体的には、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸(ペラルゴン酸)、デカン酸(カプリン酸)、ウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸(トリデシル酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸(ペンタデシル酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ノナデカン酸(ノナデシル酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)等のアルカン酸およびこれらの分岐アルカン酸、例えば、2−メチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸、4−プロピルペンタン酸、2−メチルデカン酸、3−メチルヘンデカン酸、2−メチルドデカン酸、2−メチルトリデカン酸、2−メチルテトラデカン酸、2−エチルテトラデカン酸、2−プロピルデカン酸、2−エチルヘキサデカン酸、2−メチルオクタデカン酸等のモノカルボン酸、ヘキセン酸、オクテン酸、デセン酸、ドデセン酸、テトラデセン酸、ヘキサデセン酸、オクタデセン酸(ペトロセリニン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸)、エイコセン酸、ドコセン酸(エルカ酸、ブラシジン酸)オクタデカトリエニル酸(リノール酸)、ヘキサン二酸(アジピン酸)、ヘプタン二酸(ピメリン酸)、オクタン二酸(スベリン酸)、ノナン二酸(アゼライン酸)、デカン二酸(セバシン酸)、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸(ブラシリン酸)、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸(タブシン酸)、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸等のジカルボン酸を例示することができる。
【0032】
脂肪族モノカルボン酸金属塩の代表例として、オクタン酸亜鉛、ノナン酸亜鉛、デカン酸亜鉛、ウンデカン酸亜鉛、ドデカン酸亜鉛、テトラデカン酸亜鉛、ヘキサデカン酸亜鉛、オクタデカン酸亜鉛等の亜鉛塩、オクタン酸カドミウム、オクタデカン酸カドミウム等のカドミウム塩、オクタン酸銀、オクタン酸ニッケル、オクタン酸鉄、オクタン酸アンチモン等を挙げることができる。特に、オクタン酸亜鉛、オクタデカン酸亜鉛、オクタン酸カドミウム、オクタン酸鉄、オクタン酸コバルト等が好ましい。
【0033】
脂肪族ジカルボン酸金属塩としては、好ましいジカルボン酸として、コハク酸、アジピン酸、フマル酸、セバシン酸等が挙げられ、また好ましい金属としては、亜鉛、カドミウム、コバルト、鉄、ニッケル等が挙げられ、これらの脂肪族ジカルボン酸金属塩が好ましく用いられる。
【0034】
また、脂環式カルボン酸金属塩のカルボン酸としては、シクロヘキサンモノカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられ、また金属としては、亜鉛、カドミウム、コバルト、鉄、ニッケル等が挙げられ、これらの脂環式カルボン酸金属塩が好ましく用いられる。
【0035】
芳香族カルボン酸としては、芳香環にカルボキシル基を直結するカルボン酸のほか、側鎖にカルボキシ基を有するカルボン酸のいずれかでも用いることができる。芳香族炭化水素基としては単環または多環縮合環のいずれでもよく、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、インデン、フルオレン、ビフェニル等を例示することができる。
【0036】
また、モノカルボン酸、ジカルボン酸または他のポリカルボン酸を用いることができ、具体的には、安息香酸、フタル酸、フェニル酢酸、マンデル酸等およびこれらの誘導体を挙げることができる。
【0037】
芳香族カルボン酸金属塩化合物の具体例としては、アルキル安息香酸の亜鉛塩、カドミウム塩、コバルト塩、鉄塩、ニッケル塩、フタル酸の亜鉛塩、カドミウム塩、コバルト塩、鉄塩、ニッケル塩等を例示することができる。また、上記各種カルボン酸のアンモニウム塩およびアミン塩も好適である。
脂肪族スルホン酸または芳香族スルホン酸は、脂肪族または芳香族炭化水素基とスルホン酸基とからなり、各々、一般式[V] および[V-1]
【0038】
【化5】
【0039】
【化6】
で表される。一般式[V] および[V-1] において、R、R’は各々、脂肪族炭化水素基であり、Arは芳香族炭化水素基を示す。脂肪族スルホン酸は炭素数4〜40の鎖状炭化水素基を有し、また、芳香族スルホン酸としては1個または2個以上の鎖状炭化水素基で置換されたものが用いられる。鎖状炭化水素基としては炭素数4〜40のアルキル基、特に、炭素数12以上のアルキル基が好ましく、具体的には、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、テトラキシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基およびトリアコンチル基、ペンタトリアコンチル基、オクタトリアコンチル基等を挙げることができる。
【0040】
また、芳香族炭化水素基としては前記芳香族カルボン酸と同様に、単環または多環縮合環のいずれでもよく、例えばベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、インデン、フルオレン、ビフェニル等を例示することができる。
【0041】
本発明の潤滑油組成物において、脂肪族および芳香族スルホン酸塩の具体例をさらに下記の一般式[VI]〜[XIII]により例示することができる。
一般式[VI]
【0042】
【化7】
一般式[VII]
【0043】
【化8】
一般式[VIII]
【0044】
【化9】
一般式[IX]
【0045】
【化10】
一般式[X]
【0046】
【化11】
一般式[XI]
【0047】
【化12】
一般式[XII]
【0048】
【化13】
一般式[XIII]
【0049】
【化14】
上記一般式[VI]〜[XIII]において、R1 、R2 はアルキル基であり、各々、互いに同一でもまたは異なるものでもよい。Mは、アンモニウム成分、アミン成分または前記の金属の群から選択されるものであり、亜鉛、カドミウム、コバルト、銅、鉄、ニッケル、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。nはアルキル基の芳香族基への結合数を示し、1〜5好ましくは1〜3の整数であり、各式中、各々、同一でもまたは異なるものでもよい。
【0050】
本発明の潤滑油組成物において用いられるスルホン酸塩の具体例としては、R1 、R2 のアルキル基の炭素数が8〜20のモノアルキルベンゼンスルホン酸、ジアルキルベンゼンスルホン酸、モノアルキルナフタレンスルホン酸、ジアルキルナフタレンのスルホン酸の亜鉛塩、カドミウム塩、コバルト塩、銅塩、鉄塩、ニッケル塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩およびアミン塩等が挙げられる。スルホン酸金属塩の全塩基価が70mgKOH/g未満の場合は、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩等も好ましい。
また、上記のスルホン酸塩は、一種でもよいが二種以上混合した形態で用いることもできる。
【0051】
サリチル酸は芳香環に結合されたヒドロキシル基を有し少なくとも1個の鎖状炭化水素基で置換された芳香族カルボン酸であり、次の一般式[XIV]
一般式[XIV]
【0052】
【化15】
で表される化合物を含有する。一般式[XIV] において、Rは鎖状炭化水素基であり、nは鎖状炭化水素基の芳香族基への結合数を示し、1〜4の整数である。
【0053】
鎖状炭化水素基としては、炭素数4〜40のアルキル基が好ましく、具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、トリアコンチル基、ペンタトリアコンチル基等を例示することができる。
【0054】
本発明の有機酸塩化合物として、鎖状炭化水素置換サリチル酸塩の代表的な化合物を例示すれば、次の一般式[XV]〜[XX]で表すことができる。
一般式[XV]
【0055】
【化16】
一般式[XVI]
【0056】
【化17】
一般式[XVII]
【0057】
【化18】
一般式[XVIII]
【0058】
【化19】
一般式[XIX]
【0059】
【化20】
一般式[XX]
【0060】
【化21】
上記一般式[XV]〜[XX]の各式において、R1 、R2 は、アルキル基であり、各々、互いに同一でもまたは異なるものでもよい。Mはアンモニウム成分、アミン成分または上記の金属成分であり、亜鉛、カドミウム、コバルト、銅、鉄、ニッケル等が好ましい。また、nはアルキル基の芳香族基への置換数を示し、一般式[XVII]および[XVIII] において1〜4の整数、一般式[XIX] および[XX]において1〜3であり、いずれも好ましくは、1〜2であり、各一般式において、各々、同一でも異なるものでもよい。上記一般式[XIX] および[XX]は、硫化されたアルキルサリチル酸塩を例示したものであり、xは1〜2である。硫化されたアルキルサリチル酸塩は、例えば、特公平5−80519号公報に記載の方法により製造することができる。
【0061】
本発明の潤滑油組成物において用いられる鎖状炭化水素置換サリチル酸塩の具体例としては、上記各式においてR1 、R2 のアルキル基の炭素数が8〜20のサリチル酸の亜鉛塩、カドミウム塩、コバルト塩、銅塩、鉄塩、ニッケル塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩およびアミン塩等がMoDTC等と併用して摩擦低減効果を発揮する上で特に好ましい。さらに、全塩基価が70mgKOH/g未満の場合はカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩等も好ましい。また、このようなサリチル酸塩は、硫黄化合物との接触により硫化させたものでもよい。
【0062】
本発明の有機酸塩化合物に用いられる油溶性アルキルフェノール化合物は、少なくとも1個の鎖状炭化水素基で置換されたものであり、一般式[XVI]
一般式[XXI]
【0063】
【化22】
で表される。一般式[XXI] においてRは炭素数4〜30の少なくとも1個の鎖状炭化水素基であり、mはヒドロキシル基の芳香族炭化水素基への結合数であり、1〜2である。nは鎖状炭化水素基の芳香族炭化水素基への結合数であり、1〜4、好ましくは1〜2の整数である。
【0064】
鎖状炭化水素基としては、炭素数4〜30のアルキル基が好ましい。アルキル基としては、具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基、ペンタトリアコンチル基等を挙げることができる。
【0065】
アルキルフェネート塩の代表的な化合物を例示すれば、次の一般式[XXII]〜[XXV] で表すことができる。
一般式[XXII]
【0066】
【化23】
一般式[XXIII]
【0067】
【化24】
一般式[XXIV]
【0068】
【化25】
一般式[XXV]
【0069】
【化26】
上記一般式[XXI] および[XXV] の各式において、R1 、R2 はアルキル基であり、各々、互いに同一でもまたは異なるものでもよく、nはアルキル基の芳香族基への置換数を示し、1〜4好ましくは、1〜2の整数であり、各一般式において、各々、同一でも異なるものでもよい。また、各一般式において、Mはアンモニウム成分、アミン成分または前記の金属成分であり、亜鉛、カドミウム、コバルト、銅、鉄、ニッケル、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。さらに、一般式[XVII]のxは1〜4である。
【0070】
本発明の潤滑油組成物において用いられるアルキルフェネート塩の具体例としては、R1 、R2 のアルキル基の炭素数が8〜20のフェネートの亜鉛塩、カドミウム塩、コバルト塩、銅塩、鉄塩、ニッケル塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩およびアミン塩等が挙げられ、全塩基価が70mgKOH/g未満の場合は、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩も好ましい。
【0071】
上記有機酸塩化合物の配合量は、各化合物により、また、潤滑油組成物の用途により任意に定めることができるが、その有効量、すなわち、潤滑油組成物に対しモル表示で1〜100m mol/kg、好ましくは、1〜80m mol/kgの範囲が採用される。金属量としては、100〜1,000ppmの範囲が好ましい。特に、硫黄含有有機モリブデン系化合物1モルに対し、有機酸塩化合物を0.5〜30モル、好ましくは、0.5〜25モルの割合で使用することにより摩擦低減効果を著しく向上させることができる。これらは、通常、潤滑油組成物全重量基準で0.01〜5重量%の割合で使用される。
【0072】
本発明の潤滑油組成物の構成成分としてのジチオリン酸亜鉛について説明する。
ジチオリン酸亜鉛としては、次の一般式[XXVI]
【0073】
【化27】
で表される化合物を挙げることができる。一般式[XXVI]において、R1 、R2 は炭素数3〜20の炭化水素基であり、各々、同一でも異なるものでもよい。炭化水素基としては、炭素数1〜20のアルキル基;炭素数2〜20のアルケニル基;炭素数6〜20のシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等を挙げることができ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ステアリル基、オレイル基、ブチルフェニル基、ノニルフェニル基等およびこれらの分岐状アルキル基を挙げることができる。好ましい炭化水素基は、炭素数3〜18のアルキル基である。アルキル基としては第1級および第2級アルキル基のいずれでもよい。具体的にはイソプロピル基、イソブチル基、第2級ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、4−メチル−2−ペンチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基のほか、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基を有する化合物を用いることが好ましい。従って、ジチオリン酸亜鉛の代表例として、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ第2級ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ(n−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛、ジ(n−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛、ジ(4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛、ジn−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛、ジn−ノニルジチオリン酸亜鉛、ジn−デシルジチオリン酸亜鉛、ジn−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジn−トリデシルジチオリン酸亜鉛、ジn−テトラデシルジチオリン酸亜鉛、ジn−ヘキサデシルジチオリン酸亜鉛、ジn−オクタデシルジチオリン酸亜鉛等を挙げることができる。市販品としてエクソン化学株式会社製パラノックス 15等が第1級アルキル基を主成分とするものであり、他の第2級アルキル基を主成分とする市販品と適宜混合して第1級アルキル基の含有量を調整することもできる。
【0074】
ジチオリン酸亜鉛の潤滑油組成物に対する配合量は、リン量として100〜2000ppm、好ましくは200〜1800ppmである。特に、モリブデン量250ppmに対し、リン量として250〜1800ppm、好ましくは、500〜1500ppmの割合で使用すると低温における摩擦低減において著しい効果を得ることができる。(a)硫黄含有有機モリブデン系化合物、(b)有機酸塩化合物および(c)ジチオリン酸亜鉛との混合割合(モル比)は、(a):(b):(c)=1.5〜5.5:1〜30:5〜30、好ましくは、(a):(b):(c)=1.5〜5.5:1〜30:10〜30、の範囲であり、このような各成分の混合割合を採ることにより低温域から高温域において摩擦特性を過不足なく改善することができる。
【0075】
本発明によれば、以上説明したように、潤滑油基油にa)硫黄含有有機モリブデン系化合物、b)有機酸金属塩、有機酸アンモニウム塩、有機酸アミン塩の有機酸塩化合物およびc)ジチオリン酸亜鉛を配合させてなり、有機酸金属塩、有機酸アンモニウム塩および有機酸アミン塩に由来する全塩基価が5mgKOH/g以下、特に、4mgKOH/g以下の潤滑油組成物を提供することができる。潤滑油組成物の全塩基価が5mgKOH/gを超えると摩擦特性が低下することに鑑み、本発明は摩擦特性の優れた特異な潤滑油組成物を提案するものである。
【0076】
また、本発明の潤滑油組成物には、必要に応じて、さらに、粘度指数向上剤、無灰分散剤、酸化防止剤、極圧剤、摩耗防止剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、腐蝕防止剤、他の摩擦調整剤等を適宜選択して配合することができる。
【0077】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート系、ポリイソブチレン系、エチレン−プロピレン共重合体系、スチレンーブタジエン水添共重合体系等のものを用いることができ、これらは、通常、3重量%〜35重量%の割合で使用される。
【0078】
無灰分散剤としては、例えば、ポリブテニルコハク酸イミド系、ポリブテニルコハク酸アミド系、ベンジルアミン系、コハク酸エステル系のものがあり、これらは、通常、0.05重量%〜7重量%の割合で使用される。
【0079】
酸化防止剤としては、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4,4´−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤、さらに、ジチオリン酸亜鉛等を挙げることができ、これらは、通常0.05重量%〜5重量%の割合で使用される。
【0080】
極圧剤としては、例えば、ジベンジルサルファイド、ジブチルジサルファイド等があり、これらは、通常、0.05重量%〜3重量%の割合で使用される。
【0081】
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール等があり、これらは、通常、0.01重量%〜3重量%の割合で使用される。
【0082】
流動点降下剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、これらは、通常、0.1重量%〜10重量%の割合で使用される。
【0083】
摩耗防止剤としては、例えば、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、イオウ化合物等を挙げることができ、これらは、通常、0.01重量%〜5重量%の割合で使用される。
【0084】
その他の添加剤として、本発明の硫黄含有有機モリブデン系化合物、有機酸塩化合物およびジチオリン酸亜鉛の作用を阻害しないものであれば任意に選択して使用することができる。
【0085】
本発明のモリブデン系化合物と有機酸塩化合物は、鉱油等の溶媒に溶解させた形態で使用することができ、また、添加剤パッケージの成分として用いることもできる。
【0086】
本発明の好ましい実施の態様として、
(1)潤滑油基油に
a)硫黄含有有機モリブデン系化合物、
b)▲1▼炭素数4〜30の脂肪族カルボン酸、
▲2▼少なくとも1個の鎖状炭化水素基で置換された芳香族カルボン酸、
▲3▼少なくとも1個の鎖状炭化水素基で置換された脂環式カルボン酸、
▲4▼炭素数4〜30の脂肪族スルホン酸、
▲5▼少なくとも1個の鎖状炭化水素基で置換された芳香族スルホン酸、
▲6▼少なくとも1個の鎖状炭化水素基で置換されたサリチル酸
および
▲7▼少なくとも1個の鎖状炭化水素基で置換されたフェノール化合物
の▲1▼〜▲7▼からなる群より選択される少なくとも一種の有機酸の金属塩、アンモニウム塩またはアミン塩であって、該金属塩が周期表第1A、3A〜6A族、8族および1B〜7B族金属からなる群より選択される金属を含有する有機酸金属塩化合物、有機酸アンモニウム塩化合物および有機酸アミン塩化合物からなる群より選択される少なくとも一種の有機酸塩 ならびに
c)炭素数3〜18のジチオリン酸亜鉛
を配合してなる潤滑油組成物。
【0087】
(2)潤滑油基油に、
a)硫黄含有有機モリブデン系化合物、
b)ジノニルナフタレンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルサリチル酸、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸およびアルキルフェノールからなる群より選択される少なくとも一種の有機酸と亜鉛、カドミウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、鉄、コバルト、ニッケル、リチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、チタン、マンガン、バナジウムおよびスカンジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属とからなる有機酸金属塩、有機酸アンモニウム塩および有機酸アミン塩からなる群より選択される少なくとも一種の有機酸塩 ならびに
c)ジアルキルジチオリン酸亜鉛
を配合してなる潤滑油組成物、
【0088】
(3)潤滑油基油に、
a)硫黄含有有機モリブデン系化合物、
b)ジノニルナフタレンスルホン酸亜鉛、アルキルベンゼンスルホン酸亜鉛、脂肪族カルボン酸亜鉛、芳香族カルボン酸亜鉛、アルキルサリチル酸亜鉛、アルキルフェノール亜鉛、ジノニルナフタンスルホン酸アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも一種の有機酸塩 ならびに
c)ジアルキルジチオリン酸亜鉛
を配合してなる潤滑油組成物、
【0089】
(4)潤滑油基油に対し、潤滑油組成物重量基準で
a)硫化オキシモリブデンジ(2−エチルヘキシル)ジチオカーバメイトをモリブデン量として 150〜1,500ppm、
b)オクタン酸亜鉛を1〜50m mol/kg および
c)ジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛をリン量として150〜2,00ppm配合してなる潤滑油組成物、
【0090】
(5)潤滑油基油に対し、潤滑油組成物重量基準で
a)硫化オキシモリブデンジ(2−エチルヘキシル)ジチオカーバメイトをモリブデン量として 150〜1,500ppm、
b)アルキルベンゼンスルホン酸亜鉛を 1〜50m mol/kg および
c)ジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛をリン量として150〜2,000ppm配合してなる潤滑油組成物、
【0091】
(6)潤滑油基油に対し、潤滑油組成物重量基準で
a)硫化オキシモリブデンジ(2−エチルヘキシル)ジチオカーバメートをモリブデン量として 150〜1,500ppm、
b)アルキルベンゼンスルホン酸カドミウムを1〜50m mol/kg および
c)ジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛をリン量として150〜2,000配合してなる潤滑油組成物、
【0092】
(7)潤滑油基油に対し、潤滑油組成物重量基準で、
a)硫化オキシモリブデンジ(2−エチルヘキシル)ジチオカーバメートをモリブデン量として 150〜1,500ppm、
b)アルキルサリチル酸亜鉛を1〜50m mol/kg および
c)ジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛をリン量として150〜2,000ppm配合してなる潤滑油組成物
【0093】
(8)前記(1)〜(7)の潤滑油組成物に、さらに、粘度指数向上剤、無灰分散剤、酸化防止剤、極圧剤、流動点降下剤、摩耗防止剤、金属不活性化剤からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤を配合してなる潤滑油組成物
が提供される。
【0094】
【実施例】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。
なお、実施例および比較例において用いた精製鉱油、硫黄含有有機酸モリブデン系化合物および有機酸塩化合物ならびに潤滑油組成物の性能評価方法は次の通りである。
潤滑油基油
精製鉱油(100ニュートラル油)(動粘度(@100℃):4.2mm2/s)
パラフィン系原油の蒸圧蒸留残渣油の減圧蒸留による潤滑油留分をフェノール溶剤で抽出処理して得られたラフィネート
硫黄含有有機モリブデン系化合物
(1)MoDTC : 硫化オキシモリブデンジ(2−エチルヘキシル)ジチオカーバメート(旭電化工業株式会社製サクラルーブ100)
(2)MoDTP : 硫化オキシモリブデンジ(2−エチルヘキシル)ジチオホスフェート(旭電化工業株式会社製サクラルーブ300)
有機酸塩化合物
表1〜3に示す。
ジチオリン酸亜鉛
ZnDTP:ジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛(オロア株式会社製5660)
潤滑油組成物性能評価方法
全塩基価測定法
JIS K2501電位差滴定法(塩基価(塩酸法))に準拠した。
【0095】
摩擦係数測定法
試験機として往復動型摩擦試験機(SRV摩擦試験機)用い、次の条件で摩擦係数を測定した。
【0096】
摩擦材 : 鋼(SUJ−2)/鋼(SUJ−2)、シリンダー/デスク
温度 : 80℃、120℃
荷重 : 400N
振幅 : 50Hz
時間 : 15min
15分間の測定の最後の3分間の平均値をもって摩擦係数とし、摩擦係数の安定性は摩擦係数の変動幅で評価した。
【0097】
実施例1、2
精製鉱油を潤滑油基油とし、これに、硫黄含有有機モリブデン系化合物としてMoDTCをMo量として500ppm配合し、有機酸塩化合物としてアルキルベンゼンスルホン酸亜鉛を表1に示す割合で配合し、さらに、ZnDTPをP量として1,000ppm配合した。得られた潤滑油組成物の摩擦係数および摩擦係数安定性を25℃、80℃および120℃において各々測定した。その結果、摩擦係数は、各温度においていずれも0.03〜0.04と良好な結果を示し、また、摩擦係数の安定性もいずれの温度において良好であった。
【0098】
実施例3
ジチオリン酸亜鉛をP量として600ppmと減量したこと以外すべて実施例1と同様にして潤滑油組成物を調製した。得られた潤滑油組成物の25℃の摩擦係数が0.05となったこと以外実施例1および2と同等の結果を得た。
【0099】
実施例4、5
精製鉱油にMoDTCをMo量として500ppm、アルキルベンゼンスルホン酸カドミウム、アルキルサリチル酸亜鉛を、各々、表1に示す割合で配合し、さらに、ジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛をP量として、1,000ppm配合した。同表に示すように、25℃、80℃および120℃のいずれの温度においても摩擦係数は低く、摩擦係数安定性も良好であった。
【0100】
実施例6
精製鉱油にMoDTCをMo量として500ppm、オレイン酸アルミニウムを3.3m mol/kgの割合で配合し、さらに、ジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛をP量として1,000ppm配合した。25℃、80℃および120℃のいずれの温度においても摩擦係数および摩擦係数安定性の優れた潤滑油組成物を得た。
【0101】
実施例7〜9
精製鉱油にMoDTCをMo量として500ppm、表1に示す有機酸塩化合物を同表に示す割合で配合し、さらに、ジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛をP量として1,000ppm配合した。上記実施例により得られる潤滑油組成物の25℃、80℃および120℃における摩擦係数およびその安定性はすべて良好であった。結果を表1および表2に示す。
【0102】
比較例1
精製鉱油基油の摩擦特性を評価した。表2に示すように25℃、80℃および120℃における摩擦係数が0.15〜0.17と劣り、さらに、120℃における摩擦係数安定性も低下した。
【0103】
比較例2
精製鉱油にMoDTCおよびジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛を表3に示す割合で配合した。得られた潤滑油組成物の25℃、80℃における摩擦係数およびその安定性は良好であったが、120℃においては同表に示すように結果はいずれも不十分であり、特に、高温域の摩擦特性が低下した。
【0104】
比較例3、6〜8
精製鉱油にジチオリン酸亜鉛を配合せずに、MoDTCをMo量として500ppmおよびアルキルベンゼンスルホン酸亜鉛、アルキルベンゼンスルホン酸カドミウム、オクタン酸亜鉛、アルキルサリチル酸銅を表3に示す割合で配合し、同表に示す潤滑油組成物を得た。25℃における摩擦係数が0.12〜0.13と著しく劣る結果となった。
【0105】
比較例4、9〜12
精製鉱油に、表3に示すように、アルキルベンゼンスルホン酸亜鉛、オクタン酸亜鉛、アルキルサリチル酸銅、ジノニルナフタレンスルホン酸アンモニウム、ジノニルナフタレンスルホン酸エチレンジアミンを各々同表に示す割合で配合し、ジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛をP量として1,000ppm配合した。25℃、80℃および120℃のいずれもの温度においても摩擦係数の優れたものは得られなかった。
【0106】
比較例13
表3に示すように、ジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛の配合量を50ppmに減量したこと以外実施例1と同様にして潤滑油組成物を調製した。80℃および120℃の摩擦係数は各々0.03と改善されたものの25℃においては0.13と著しく劣る結果となった。
【0107】
比較例14
表3に示すようにMoDTCの配合量をMo量として50ppmに減量したこと以外すべて実施例1と同様にして潤滑油組成物を調製した。特に、比較例13では良好であった80℃の摩擦係数が著しく劣る結果を示した。
【0108】
比較例15
精製鉱油にMoDTCをMo量として500ppm、全塩基価85.0mgKOH/gのジノニルナフタレンスルホン酸カルシウムを37.5m mol/kgおよびジ(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛をP量として1,000ppm配合し、ジノニルナフタレンスルホン酸カルシウムに由来する全塩基価6mgKOH/gの潤滑油組成物を得た。各温度における摩擦係数はいずれも0.14と劣るものであった。
【0109】
比較例16
MoDTCをMo量として100ppmと減量したこと以外すべて実施例1と同様にして潤滑油組成物を得たが25℃における摩擦係数が0.15と劣るものであった。
【0110】
比較例17〜39
表3に示すように、MoDTC、有機酸塩化合物およびZnDTPを基油に配合し得られた潤滑油組成物を性能評価に供した。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
【0115】
【表5】
【0116】
上記の実施例および比較例の結果から、MoDTCまたはMoDTPと特定の有機酸塩化合物ならびにジチオリン酸亜鉛の併用により、25℃の低温域、80℃さらに120℃の高温域での摩擦低減効果が顕著に改善され、その安定性も優れることが示されている。
【0117】
【発明の効果】
本発明は、特定の硫黄含有有機モリブデン系化合物、前記の特定された有機酸塩化合物およびジチオリン酸亜鉛の併用により、低温から高温の広範囲にわたる温度においても摩擦低減効果が優れ、かつ、摩擦低減効果の持続性にも優れた潤滑油組成物を提供することができる。
Claims (3)
- 潤滑油基油に対し、潤滑油組成物重量基準で、
a)硫化オキシモリブデンジチオカーバメートをモリブデン量として200ppm〜1500ppm、
b)次のb−1)およびb−2)からなる群より選択される少なくとも一種の有機酸塩化合物を1〜100mmol/kg、
b−1)次の(1)〜(3)の一般式[ IV ]〜[ XIV ]で表される有機酸金属塩化合物
(1)一般式[ IV ]
で表されるカルボン酸の金属塩であって、該金属がアルミニウムからなる有機酸金属塩化合物、
(2)一般式[ V-1 ]
で表される芳香族スルホン酸の金属塩であって、該金属が、銅、亜鉛、アルミニウムおよびカドミウムから選択される金属からなる有機酸金属塩化合物、
(3)一般式[ XIV ]
で表されるアルキルサリチル酸の金属塩であって、該金属が亜鉛からなる有機酸金属塩化合物。
b−2)一般式[ V-1-1 ]
で表わされる芳香族スルホン酸のアンモニウム塩化合物
ならびに
c)ジチオリン酸亜鉛をリン量として500ppm〜1500ppm
を配合してなることを特徴とする潤滑油組成物。 - 前記有機酸金属塩、有機酸アンモニウム塩由来の全塩基価が潤滑油組成物基準で5mgKOH/g以下である請求項1に記載の潤滑油組成物。
- 前記潤滑油組成物の用途が内燃機関用潤滑油組成物または自動変速機油組成物である請求項1または2のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
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