JP3754729B2 - 電気鉄道の出発制御方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、停車中の列車群の出発制御に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
現在、鉄道輸送において、列車運行密度を高めることによって輸送能力を高めることが行われている。このような高密度運行が行われている路線・区間において、何等かの異常によって列車が停車する場合が考えられる。
【0003】
このような場合、固定閉そく方式では信号のR現示により先行列車の直後の閉そく区間に後続列車を停車させている。また、移動閉そく方式では、停車中の先行列車の最後尾から一定の安全マージン(例えば、15m)を離した位置まで後続列車を徐行運転させてから停車することとしている。この結果、異常により停車した列車に続いて高密度の停車列車群が形成されることとなる。
【0004】
ところで、電気鉄道では、列車を出発させ、加速をする過程において、最も消費電力が増大する。
このため、上記の様に密集した停車列車群の運転をいっせいに再開すると、当該密集に対して電力供給(き電)を受け持っている変電所の容量を越えてしまう場合がある。そうなると、変電所は異常な負荷を受けることとなって、き電電圧の低下や、周波数の変動といった事態を招き、列車の運転をスムーズに再開できず、全体として運行ダイヤにさらに遅延を生じることとなる。
【0005】
これを防止するには、変電所の容量を大きくして、電力系統全体も容量の大きいものにすることが必要となり、通常時から見ると過大な設備を用意しなければならないという不都合が生じる。
また、高密度の停車列車群が形成されているときにいっせいに列車群を発車させると、先行列車との間隔が短すぎるために速度制限を受けることとなる場合もある。そうなると、後続列車はなかなか加速できないこととなり、密集の最後尾における遅延が解消するのに多大な時間を要することとなる。また、この密集の最後尾の遅延が解消しないために、さらに後続の列車にも遅延を波及させるおそれもある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる問題点に着目し、高密度運行区間におけるスムーズな出発制御を実現し、運行ダイヤの遅延解消に役立てることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段、発明の実施の形態及び発明の効果】
本発明の電気鉄道の出発制御方法は、停車中の複数の列車を出発させるための電気鉄道の出発制御方法であって、停車中の列車群に電力を供給することとなる変電所の能力と、当該変電所が電力供給を受け持つべき区間内に在線している列車群の状況とに応じて、各列車の出発制御条件を決定するようにしたことを特徴とする。
【0008】
なお、前記出発制御条件は、運行ダイヤの遅延回復を早めることとなるように決定されることが望ましい。より具体的には、変電所の能力の範囲内においてできるだけ多くの列車の再出発を行うように出発制御条件を決定するとか、各列車の出発後の加速が自由加速に近い条件となるように決定するなどといった手法をとればよい。
【0009】
また、これらの出発制御方法において、前記出発制御条件を決定する際に、後続列車に速度制限が生じないよう考慮することが望ましい。先行列車との間隔が近すぎると、後続列車には速度制限が生じるので、結果として思ったように加速できなくなり、これが後ろへ後ろへと波及するとかえって全体の遅延を助長する結果となるからである。
【0010】
こうした本発明の出発制御方法によれば、各列車の出発制御に当たって変電所の能力を考慮するので、変電所の能力の範囲を越えないように出発制御を行うことができる。この結果、き電電圧の低下や周波数変動を来さないので、出発する列車及び既に走行中の列車が悪影響を受けることなくスムーズに運行可能となる。よって、全ての列車を同時に発車させるよりもむしろ遅延解消を早めることも可能となる。特に、移動閉そく方式にて先行列車の直後まで後続列車を近づけるようにして高密度運行を行っている区間においては、後続列車に速度制限が発生しないように出発制御の条件を決定するなどして、遅延解消におおいに貢献し得る。
【0011】
また、本発明の電気鉄道の出発制御方法において、前記出発制御条件の決定に当たっては、変電所へ入力される回生電力の量を変電所の能力の余裕側として考慮するとよい。減速走行中の列車があれば、これによって回生電力が変電所に入力され、その分、変電所の電力供給能力に余裕ができるからである。
【0012】
これらの出発制御方法においては、前記出発制御条件として、各列車の出発タイミングを決定するようにしてもよいし、同時に出発させる列車数を決定するようにしてもよいし、各列車の加速条件を決定するようにしてもよい。
出発のタイミングをずらしたり、同時に出発できる列車数を制限したり、加速条件を抑え気味にするなどして変電所の能力を越えないような出発制御を行うのである。また、出発タイミングをずらすとともに各列車の加速条件を、例えば先頭の列車ほど強くし、後方の列車ほど抑え気味にすることで変電所の能力の範囲内で先頭列車を速やかに定常運行状態にもっていきながら、順次後続列車をこれに続かせるといった具合いにして、後続列車の遅延をかえって早く解消することも可能となるのである。
【0013】
また、より具体的には、停車中の複数の列車を出発させるための電気鉄道の出発制御方法であって、各列車の位置と速度に関する情報を取得し、各変電所が電力供給すべき列車群を特定すると共に、各変電所の電力の出入りの状況から現在の電力供給余力を求め、現在停車中の列車群を同時に自由加速で出発させた場合に、先行列車から速度制限を受けることとなるか、あるいは電力供給余力を越えることとなるときには、停車中の各列車の出発タイミングと、先頭の列車ほど強く加速し、後方の列車ほど抑え気味に加速する加速条件の少なくとも前記加速条件を決定し、各列車の出発を制御することを特徴とする電気鉄道の出発制御方法として構成してもよい。
【0014】
この出発制御方法によれば、停車中の列車はもちろん、走行中の列車をも把握することができ、これにより変電所の余力を正しく求めることができる。そして、自由加速で同時に出発させた場合に速度制限を受けたり、電力供給余力を越えることとなる場合には、停車中の各列車の出発タイミングと、先頭の列車ほど強く加速し、後方の列車ほど抑え気味に加速する加速条件の少なくとも前記加速条件を決定し、各列車の出発を制御する。逆に、速度制限を受けることも、電力供給余力を越えることもないなら、停車中の各列車に対して自由加速によって同時に出発させてもよいこととなる。こうして、状況に応じて、最も早く運行ダイヤの遅延を解消することが可能になる。
【0015】
一方、これら本発明の出発制御方法を実施するのに適する電気鉄道の出発制御装置は、停車中の複数の列車を出発させるための電気鉄道の出発制御装置であって、停車中の列車の分布に関する情報を取得する停車列車分布取得手段と、該取得した情報から、各変電所が停車中のどの列車に対して出発制御のための電力を供給することとなるのかを求める受持ち列車演算手段と、出発制御を受け持つべき列車が在線する区間に電力を供給する変電所の電力供給余力を求める電力供給余力演算手段と、該求められた電力供給余力の範囲内において、当該変電所が出発制御を受持つ列車群に対する出発制御条件を求める出発制御条件演算手段と、該求められた出発制御条件に基づいて、列車群を出発させる出発制御手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
この電気鉄道の出発制御装置によれば、停車中の列車の分布に関する情報を取得して、各変電所が停車中のどの列車に対して出発制御のための電力を供給することとなるのかを求めた上で、変電所の電力供給余力を求める。そして、この電力供給余力の範囲内において、当該変電所が出発制御を受持つ列車群に対する出発制御条件を求めて列車群を出発させるので、変電所の能力を越えることのない範囲内でスムーズに列車の再出発を行うことができる。
【0017】
この電気鉄道の出発制御装置において、走行中の列車の分布と速度に関する情報を取得する走行列車情報取得手段を備え、前記電力供給余力演算手段は、走行中の列車の分布と速度とを考慮して、変電所の電力供給容量から現在の電力供給量を減算すると共に、回生電力の量を加算して当該変電所の電力供給余力とするとよい。
【0018】
また、これらの電気鉄道の出発制御装置において、前記出発制御条件演算手段は、各列車の出発タイミングを決定する出発タイミング決定部と、各列車の加速条件を決定する加速条件決定部とを備えるとよい。そして、さらに、前記出発制御条件演算手段は、列車群の分布の状況から同時に自由加速で各列車を発車させた場合に後続列車が先行列車との間隔に基づく速度制限を受けることとなるか否かを判定する速度制限判定部を備え、速度制限が生ずると判定された場合には、前記出発タイミング決定部及び加速条件決定部の少なくとも一方による出発制御条件の決定を行うこととするとよい。あるいは、前記出発制御条件演算手段は、一つの変電所が受け持つ停車中の列車群を同時に自由加速で出発させることができるか否かを電力供給余力から判定する同時出発判定部を備え、自由加速での同時出発が不可能と判定された場合に、前記出発タイミング決定部及び加速条件決定部の少なくとも一方による出発制御条件の決定を行うこととするとよい。
【0019】
またより具体的には、停車中の複数の列車を出発させるための電気鉄道の出発制御装置であって、各列車の位置と速度に関する情報を取得する位置・速度情報取得手段と、該取得した位置・速度情報に基づいて、各変電所が電力を供給すべき列車群を特定する列車群特定手段と、各変電所の容量から、現在出力している供給電力の量を減算すると共に現在入力されている回生電力の量を加算して電力供給余力を求める電力供給余力演算手段と、前記取得した位置・速度情報に基づいて、現在停車中の列車同士の間隔が自由加速で同時に出発させた場合に先行列車から速度制限を受けることとなるか否かを判定する速度制限判定手段と、速度制限を受けないと判定された場合に、停車中の列車群を自由加速で同時に出発させた場合に電力供給余力を越えるか否かを判定する電力余力判定手段と、前記速度制限判定手段及び電力余力判定手段により、速度制限を受けると判定されるか、電力供給余力を越えると判定された場合には、停車中の各列車の出発タイミングと、先頭の列車ほど強く加速し、後方の列車ほど抑え気味に加速する加速条件の少なくとも前記加速条件を決定し、各列車の出発制御を行う出発制御手段とを備えることを特徴とする電気鉄道の出発制御装置によって本発明方法を実施するとよい。
【0020】
なお、位置・速度情報取得手段としては、例えば、各列車に速度発電機を装備しておき、これからの速度信号を取得し、速度を積分して走行距離を求め、キロ程(東京駅を0キロとした距離)に換算して位置を取得するといった構成を採用することができる。また、地上側に位置検出装置を設置しておき、各列車の位置を常時検出しておき単位時間当りの位置の変化から速度を求めるようにしてもよい。もちろん、これに限らず、様々な位置・速度情報取得手段を採用できる。
【0021】
以上説明した如く構成され、実施することのできる本発明によれば、高密度運行区間において異常の発生などによって形成された密集した停車列車群を、スムーズに再出発させることができ、運行ダイヤの乱れを迅速に解消することを可能ならしめるという有利な効果を奏する。
【0022】
【実施例】
次に、本発明の実施例について説明する。
実施例は、電気鉄道における地上制御方式のATO(automatic train operation)システムに係り、図1に示す様に、各列車TR0,TR1,…とATOコンピュータ10との間での情報を伝送するための地上車上間情報伝送装置20が軌道RLに沿って設置されている。この地上車上間情報伝送装置20を介して、ATOコンピュータ10は、各列車TR0,TR1,…の位置・速度情報Q1を入力し、各列車TR0,TR1,…に対しての速度制御指令Q0を出力する。また、ATOコンピュータ10には、変電所PWSからの電力供給に関する情報Q2が入力されるようになっている。なお、地上車上間情報伝送装置20は、例えば軌道RLに沿って敷設される誘導線や、列車無線などによって構成することができる。
【0023】
ATOコンピュータ10は概念的にいうと、図2に示す様に、位置・速度情報Q1及び電力供給情報Q2を入力し、情報の統合を行う情報統合部11と、この情報統合部11において統合された情報に基づいて、出発制御のための出発手順を論理的に決定する出発手順決定論理部13と、こうして決定された出発手順に従って、各列車に対する出発制御のための速度制御指令Q0を出力する出発制御部15とを備えている。なお、出発制御以外にも、ATOコンピュータ10は、情報統合部11で統合した情報に基づいて、各列車に対する速度制限等のATOシステムにおいて通常行われている各種制御をも行っていることはもちろんであるが、それらの制御については一般的なシステムと同様であるので、説明は省略する。
【0024】
出発手順決定論理部13は、情報統合部11から入力される各列車の位置・速度情報及び変電所の電力供給状況に基づいて、次のような論理により、出発手順を決定する。
図3に示す様に、まず、列車の待行列が発生したか否かを判定する(S10)。このステップでは、具体的には、速度ゼロの列車が複数、例えば3編成以上連続しているようなときに「待行列発生」と判定する。なお、待行列が発生していない場合には、本ルーチンを直ちに抜ける。
【0025】
待行列の発生が検知されたら、次に、情報統合部11から得た情報に基づいて、停車している列車群の位置を特定し、その分布状態を把握する(S20)。また、停車列車群の分布が把握できたら、その周辺の走行中の列車群の分布と、速度とを把握する(S30)。
【0026】
次に、S20で把握した停車列車群の分布に基づいて、これら停車列車群の分布しているき電区間へ電力供給を行っている変電所を特定する(S40)。また、S30で把握した走行中の列車群の内、当該き電区間を走行中の列車を特定する(S50)。そして、これら当該き電区間内を走行中の列車の速度情報の時間変化に基づいて、当該き電区間において発生している回生電力の量を算出する(S60)。この回生電力量の算出に当たっては、線区内を走行する各列車について、その電動機の回転数及び減速度と回生電力発生量との関係を予めテーブル化しておき、これを参照して求めるようにするとよい。このテーブルは、ATOコンピュータ10側に記憶させておくとよい。また、各列車の速度と電力消費量との関係や、各電力変電所の容量に関する情報も、ATOコンピュータ10側に記憶しておく。
【0027】
続いて、S40で特定した変電所の電力供給余力を算出する(S70)。電力供給余力は、具体的には下記式にて算出される。
【0028】
【数1】
(電力供給余力)=(変電所容量)−(供給電力)+(回生電力)
こうして電力供給余力の算出が終ったら、次に、停車している列車同士の間隔が下記式を満足するか否かを判定する(S80)。
【0029】
【数2】
(列車同士の間隔)>Vmax2/(2b)
ただし、Vmax:各列車の最高速度、
b:列車の減速度(線路勾配等を考慮した値)。
【0030】
この数2は、各列車を同時にフルノッチ(最高加速度)で出発させたときに直前の列車の位置に基づいて速度制限を受けることとなるか否かを判定するための式である。この式に基づく演算を行うため、各列車の最高速度及び減速度に関する列車性能データと、線区全体に渡っての線路の勾配などの減速度に対して影響を与える各種の線路情報とをATOコンピュータ10に記憶しておく。この、線路情報は、地点毎に係数化しておくとよい。例えば、下り勾配の様に減速度を弱める要因は1未満の係数とし、上り勾配の様に減速度を高める要因は1を越える係数とし、予めテーブル化しておくとよい。そうすれば、各列車の減速度にこれら係数を乗ずることで、停車位置での実際の減速度を算出することができる。
【0031】
S80で「YES」、即ち、(列車同士の間隔)≦Vmax2/2bと判定された場合には、フルノッチで出発させると直前の列車による速度制限を受けてしまうので、出発手順決定処理(S200)へと移行する。一方、S80で「NO」となった場合は、さらに、次の判定を行う。
【0032】
即ち、当該き電区間内に停車中の列車群に対して同時にフルノッチでの出発を指示した場合に必要な電力量を算出し(S90)、この算出結果とS70で求めた電力供給余力とを比較して電力供給余力の方が大きいか否かを判定するのである(S100)。
【0033】
この演算を行うため、ATOコンピュータ10には、各列車のフルノッチ出発時における電力消費カーブを記憶しておく。また、フルノッチ以外のノッチ制限下での出発時における電力消費カーブも併せて記憶しておく。ノッチ制限が段階的に設定されているのであれば、各段階に対して電力消費カーブを記憶しておく。ノッチ制限が無段階に可能である場合には、代表的なノッチ制限に対応する電力消費カーブを記憶しておき、実際のノッチ制限に対する電力消費カーブを補間によって算出し得る様にしておく。
【0034】
このS100で、「NO」と判定された場合には、変電所の能力的な問題から各列車を同時に自由加速(最大加速度による加速)で出発させることができないので、S200へ移行する。しかし、「YES」と判定された場合には、変電所の余力に余裕があることから、各列車を同時に自由加速させるための制御指令を出力する(S110)。なお、このS110での制御指令は、省エネ運転の要請などを考慮した制御値とする。具体的には、省エネ運転区間であるなら、フルノッチ指令に対して、1未満の係数を乗じた指令を出力することとなる。
【0035】
出発手順決定処理(S200)においては、図4に示すように、まず、速度制限を受ける場合であるのか速度制限を受けないが電力供給余力を越える場合であるのかを区別する(S210)。速度制限を受ける場合には、待行列の中から速度制限を受ける列車を特定し、これより前方の列車群を特定する(S220)。そして、この前方の列車群を同時にフルノッチで出発させることができるか否かを、電力供給余力との関係から判断する(S230)。
【0036】
そして、同時出発が不可能であると判定された場合には、当該列車群の中の最後尾の列車を除き(S240)、残りの列車群についてS230と同様の判定をする(S250)。そして、「YES」と判定されるまでこの処理を繰り返し実行する。
【0037】
こうしてフルノッチで同時に出発させることのできる列車群を特定できたら、これらに対する出発制御指令として、「加速条件ACC=フルノッチ」及び「出発タイミングT=ゼロ」を設定する(S260,S270)。このときも、省エネ区間であるなら加速条件に関しては省エネ係数が乗算される。
【0038】
そして、S270に続く処理では、前方の列車群が出発してからの電力消費状況を演算し(S300)、後続列車群の先頭列車についてフルノッチで出発させることができるまでの時間tを算出し(310)、当該列車に対する出発制御指令として、「ACC=フルノッチ」及び「T←T+t」を設定する(S320)。そして、次の列車があるか否かを判定し(S330)、あるならS300に戻って、S320で出発制御指令を設定した列車を加えた電力消費状況を演算し、次の列車の出発制御指令を設定していく。
【0039】
こうして、S220で特定した前方列車群に対する出発制御指令の設定が終ったら、次に、これら前方の列車群が出発してから、後続列車が前記速度制限を受けなくなるタイミングT=T1を算出する(S340)。また、後続列車群が速度制限を受けなくなった時点における、既出発列車群による消費電力を算出する(S350)。そして、S350で算出した消費電力を考慮して、その時点での電力供給余力を、前記の数1と同様にして算出し直す(S360)。
【0040】
次に、停車中の後続列車群を対象に、これらがフルノッチで同時に出発した場合に直前の列車によって速度制限を受けることとなるか否かを判定する(S370)。ここで、速度制限を受けることとなるとの判定がなされた場合には、S220へ移行し、前述の処理を繰り返す。この場合、出発タイミングTは、時刻ゼロではなく、時刻T1を基準に設定されていく。
【0041】
一方、速度制限を受けないと判定された場合には、図5に示すS410以下へと移行する。
S410以下は、速度制限を受ける列車がいないと判定された場合の処理である。
【0042】
ここでは、まず、対象となる停車列車群を同時にフルノッチで出発させることができるか否かを、電力供給余力との関係から判断する(S410)。
そして、同時出発が不可能であると判定された場合には、当該列車群の中の最後尾の列車を除き(S420)、残りの列車群についてS410と同様の判定をする(S430)。そして、「YES」と判定されるまでこの処理を繰り返し実行する。
【0043】
こうしてフルノッチで同時に出発させることのできる列車群を特定できたら、これらに対する出発制御指令として、「加速条件ACC=フルノッチ」及び「出発タイミングT=ゼロ」を設定する(S440,S450)。なお、S370を経てこの処理へ移行してきた場合には、「T=T1」が設定されることとなる。また、このときも、省エネ区間であるなら加速条件に関しては省エネ係数が乗算される。
【0044】
そして、S450に続く処理では、前方の列車群が出発してからの電力消費状況を演算し(S460)、後続列車群の先頭列車についてフルノッチで出発させることができるまでの時間tを算出し(470)、当該列車に対する出発制御指令として、「ACC=フルノッチ」及び「T←T+t」を設定する(S480)。そして、次の列車があるか否かを判定し(S490)、あるならS460に戻って、S480で出発制御指令を設定した列車を加えた電力消費状況を演算し、次の列車の出発制御指令を設定していく。
【0045】
こうして、対象となる列車群の全てに対する出発制御指令の設定が終ったら、最後に、各列車に向けて出発制御指令を出力して本処理を終了する(S500)。
以上の処理によれば、待行列内の各列車は、電力供給余力を越えない範囲内で、それぞれタイミングを変えて、フルノッチで出発される。出発した列車がフルノッチで自由加速することができるので、それぞれは最短時間の内に最高速度に到達する。また、前方の列車は次々と先に最高速度に到達するので、後続の列車が自由加速するのを妨げられない。この結果、変電所の能力の範囲内において、全ての列車が最高速度に達するまでの時間はむしろ短くなる。よって、何等かの故障・異常によって列車の待行列が形成された場合に、前記の故障・異常が除去された後のダイヤ回復をスムーズにし、混乱を減少することができるという顕著な効果が期待できる。
【0046】
次に、第2実施例について説明する。第2実施例は、第1実施例の出発手順決定処理(S200)の内容を、以下の様な処理に変更したものである。
まず、速度制限を受ける場合であるのか速度制限を受けないが電力供給余力を越える場合であるのかを区別する(S610)。速度制限を受ける場合には、待行列の中から速度制限を受ける列車を特定し、待行列をグループ分けする(S620)。例えば、5列車があるときに3列車目と5列車目が速度制限を受けると判定されている場合には、第1グループ=第1,第2列車、第2グループ=第3,第4列車、第3グループ=第5列車ということになる。
【0047】
次に、第1グループに対してフルノッチを、第2グループに対して第1レベルのノッチ制限を、第3グループに対して第2レベルのノッチ制限を、…といった具合いに、先頭グループから順番に加速条件ACCを仮設定する(S630)。なお、第2レベルの方が、ノッチ制限がきつくなっている。
【0048】
こうして仮設定が終ったら、この条件で各列車を同時に出発させた場合に消費電力が電力供給余力以内に収まっているか否かを判定する(S640)。収まっている場合には、仮設定を本設定とする(650)。
収まっていない場合には、第1グループだけを出発させた場合、第1グループと第2グループを出発させた場合、…をそれぞれ想定し、どのグループまでなら電力供給余力以内に収まっているかを特定する(S660)。
【0049】
そして、S660で特定できたグループに対しては、仮設定されている加速条件を本設定とする(S670)。そして、これら本設定された列車群による消費電力を電力供給余力から減算したものを新たな電力供給余力とする(S680)。そして、加速条件が仮設定のままとなっている後続グループによる出発時の消費電力を算出し(S690)、S680で求めた電力供給余力との比を算出する(S700)。この比を、仮設定されている加速条件に対してそれぞれ乗算し、これをもって後続グループの加速条件の本設定とする(S710)。
【0050】
一方、速度制限を受けないと判定された場合には、まず、対象となる停車列車群を同時にフルノッチで出発させることができるか否かを、電力供給余力との関係から判断する(S720)。
同時出発が可能であると判定された場合には、各列車の加速条件をフルノッチに本設定する(S730)。
【0051】
一方、同時出発が不可能であると判定された場合には、先頭列車をフルノッチとしその他の列車を第1レベルのノッチ制限とした場合、先頭列車及び第2列車をフルノッチとしその他の列車を第1レベルのノッチ制限とした場合、…をそれぞれ想定し、どの列車までならフルノッチで出発させても電力供給余力以内に収まっているかを特定する(S740)。そして、S740での特定に基づいて各列車の加速条件を本設定する(S750)。
【0052】
こうして各列車を同時に出発させる際の加速条件が設定できたら、次に、出発後の電力消費状況を予測する(S760)。そして、速度制限を受けている列車群の先頭列車についてフルノッチ加速に移行しても電力供給余力以内に収まるタイミングを抽出する(S770)。そして、このタイミングからは当該速度制限を受けている列車群の先頭列車に対する加速条件をフルノッチに変更するように本設定の内容に追加する(S780)。そして、全ての列車に対してフルノッチ加速を設定できる様になるまで、S760以下の処理を繰り返す(S790)。
【0053】
こうして、各列車について、同時出発後にそれぞれをフルノッチ加速とすることができるタイミングを決定できたら、加速条件と当該加速条件に制御すべきタイミングとの関係からなる出発制御指令を、各列車に向けて出力する(S800)。
【0054】
以上の処理によれば、待行列内の各列車は、電力供給余力を越えない範囲内で、可能な限りフルノッチに近い状態で各列車を同時に出発させることができる。待行列が同時に出発するので、さらに後ろに続いている列車があるとき、これらが停車を与儀なくされたりしないので、後方へとさらに遅延が伝播するのを防止できる。
【0055】
次に、第3実施例について説明する。この実施例では、出発手順決定処理を次の様にしている。
図8に示すように、電力供給余力との関係から、全列車を同時にフルノッチで出発させられないと判定された場合に、停車中の各列車に対して、先頭列車に対する係数K1=Kとし、これに後続する列車に対して、順次Kn=0.9・Kn-1 と、直前の列車の1割減の係数をそれぞれに設定する(S1010,S1020)。そして、係数の合計を積算して停車中の列車群全体に対する係数としてΣKを算出する(S1030)。次に、電力供給余力をΣKで除算した単位消費電力ELを算出する(S1040)。そして、各列車の加速条件ACCをKn・ELに比例する様に設定する(S1050)。全列車を同時に出発可能な場合には、ACC=フルノッチに設定する(S1060)。そして、加速条件の設定が完了したら、各列車に対してこれ制御指令として出力する(S1070)。なお、この場合に、Kn・ELが所定の下限値以下となる列車に対しては加速条件を停車に設定するとよい。また、直前の列車の電力消費レベルが1段階低下した場合には後続の列車のノッチ制限を1段階緩めるといった具合いに、出発後の電力消費量の変化の状況に応じて、余裕が出たら次々とフルノッチへ向かって移行させるように修正を行うとよい。
【0056】
次に、停車列車群が隣合うき電区間に同時に発生している場合に対する制御を考慮した第4実施例について説明する。この実施例では、前方の列車群に対しては、図8の手順で制御する。そして、後方のき電区間内の列車群に対しては、図9に示すような手順で加速条件を決定する。
【0057】
まず、前方き電区間内の先頭の列車が前方のき電区間から抜けるタイミングを求める(S1110)。また、このときの前方き電区間の最後尾の列車の加速条件がどのようになっているかを算出する(S1120)。そして、このタイミングにおいて、後方き電区間の先頭列車が前方き電区間の最後尾の列車の加速条件となるように、後方き電区間の先頭列車についての加速条件を設定する(S1130)。次に、後方のき電区間の中にまだ列車が残っているか否かを判定し(S1140)。残っている場合には、前方のき電区間に所属する列車を更新して(S1150)、S1110へ戻る。こうして、前方き電区間から1列車抜けると後方き電区間から1列車が侵入するというように、順次列車が前進されるように加速条件を設定したら、制御指令を出力する(S1160)。こうして前方のき電区間内に属すべき列車数を制限することで、前方き電区間内に存在していた待行列の解消を優先し、これによって後方のき電区間の列車の待行列の解消も早めていこうというものである。
【0058】
以上、本発明のいくつかの実施例を説明したが、さらに他の態様にて本発明を実施してもよく、そうした態様も本発明の要旨を逸脱しない限りは本発明の技術的範囲内に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例のシステムの全体構成図である。
【図2】 実施例のシステムのATOコンピュータの要部の構成図である。
【図3】 実施例におけるメインルーチンのフローチャートである。
【図4】 第1実施例における出発手順決定処理のフローチャートである。
【図5】 第1実施例における出発手順決定処理のフローチャートである。
【図6】 第2実施例における出発手順決定処理のフローチャートである。
【図7】 第2実施例における出発手順決定処理のフローチャートである。
【図8】 第3実施例における出発手順決定処理のフローチャートである。
【図9】 第3実施例における出発手順決定処理のフローチャートである。
【符号の説明】
10・・・ATOコンピュータ、11・・・情報統合部、13・・・出発手順決定論理部、15・・・出発制御部、20・・・地上車上間情報伝送装置、PWS・・・変電所、TR0〜TR3・・・列車。
Claims (6)
- 停車中の複数の列車を出発させるための電気鉄道の出発制御方法であって、各列車の位置と速度に関する情報を取得し、各変電所が電力供給すべき列車群を特定すると共に、各変電所の電力の出入りの状況から現在の電力供給余力を求め、現在停車中の列車群を同時に自由加速で出発させた場合に、先行列車から速度制限を受けることとなるか、あるいは電力供給余力を越えることとなるときには、停車中の各列車の出発タイミングと、先頭の列車ほど強く加速し、後方の列車ほど抑え気味に加速する加速条件の少なくとも前記加速条件を決定し、各列車の出発を制御することを特徴とする電気鉄道の出発制御方法。
- 停車中の複数の列車を出発させるための電気鉄道の出発制御装置であって、
停車中の列車の分布に関する情報を取得する停車列車分布取得手段と、
該取得した情報から、各変電所が停車中のどの列車に対して出発制御のための電力を供給することとなるのかを求める受持ち列車演算手段と、
出発制御を受け持つべき列車が在線する区間に電力を供給する変電所の電力供給余力を求める電力供給余力演算手段と、
該求められた電力供給余力の範囲内において、当該変電所が出発制御を受持つ列車群に対する出発制御条件を求める各列車の出発タイミングを決定する出発タイミング決定部及び各列車の先頭の列車ほど強く加速し、後方の列車ほど抑え気味に加速する加速条件を決定する加速条件決定部を有する出発制御条件演算手段と、
該求められた出発制御条件に基づいて、列車群を出発させる出発制御手段と
を備えることを特徴とする電気鉄道の出発制御装置。 - 請求項2記載の電気鉄道の出発制御装置において、
走行中の列車の分布と速度に関する情報を取得する走行列車情報取得手段を備え、
前記電力供給余力演算手段は、走行中の列車の分布と速度とを考慮して、変電所の電力供給容量から現在の電力供給量を減算すると共に、回生電力の量を加算して当該変電所の電力供給余力とすることを特徴とする電気鉄道の出発制御装置。 - 請求項2又は3記載の電気鉄道の出発制御装置において、
前記出発制御条件演算手段は、列車群の分布の状況から同時に自由加速で各列車を発車させた場合に後続列車が先行列車との間隔に基づく速度制限を受けることとなるか否かを判定する速度制限判定部を備え、速度制限が生ずると判定された場合には、前記出発タイミング決定部及び加速条件決定部の少なくとも一方による出発制御条件の決定を行うことを特徴とする電気鉄道の出発制御装置。 - 請求項2〜4のいずれか記載の電気鉄道の出発制御装置において、
前記出発制御条件演算手段は、一つの変電所が受け持つ停車中の列車群を同時に自由加速で出発させることができるか否かを電力供給余力から判定する同時出発判定部を備え、自由加速での同時出発が不可能と判定された場合に、前記出発タイミング決定部及び加速条件決定部の少なくとも一方による出発制御条件の決定を行うことを特徴とする電気鉄道の出発制御装置。 - 停車中の複数の列車を出発させるための電気鉄道の出発制御装置であって、
各列車の位置と速度に関する情報を取得する位置・速度情報取得手段と、
該取得した位置・速度情報に基づいて、各変電所が電力を供給すべき列車群を特定する列車群特定手段と、
各変電所の容量から、現在出力している供給電力の量を減算すると共に現在入力されている回生電力の量を加算して電力供給余力を求める電力供給余力演算手段と、
前記取得した位置・速度情報に基づいて、現在停車中の列車同士の間隔が自由加速で同時に出発させた場合に先行列車から速度制限を受けることとなるか否かを判定する速度制限判定手段と、
速度制限を受けないと判定された場合に、停車中の列車群を自由加速で同時に出発させた場合に電力供給余力を越えるか否かを判定する電力余力判定手段と、
前記速度制限判定手段及び電力余力判定手段により、速度制限を受けると判定されるか、電力供給余力を越えると判定された場合には、停車中の各列車の出発タイミングと、先頭の列車ほど強く加速し、後方の列車ほど抑え気味に加速する加速条件の少なくとも前記加速条件を決定し、各列車の出発制御を行う出発制御手段と
を備えることを特徴とする電気鉄道の出発制御装置。
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