JP3754578B2 - 光触媒含有塗膜積層構造 - Google Patents
光触媒含有塗膜積層構造 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光触媒作用により、大気浄化、脱臭、抗菌等の機能を発揮することができる塗膜構造に関するものである。
【0002】
【従来技術】
従来、アナターゼ型ニ酸化チタンをはじめとする金属酸化物半導体を含有する塗料によって形成された塗膜が、該金属酸化物半導体の光触媒作用によって、該塗膜に接触した物質に対し酸化力を有することが見出されている。建築物や土木構造物においては、このような塗膜の光触媒作用を有効に利用することによって、NOx、SOx、その他有害物質の分解による大気浄化や脱臭、あるいは菌類、汚染物質の付着抑制等、様々な優れた効果が得られるものとして期待されている。
【0003】
このような塗膜を形成する光触媒含有塗料においては、前述のような酸化力によって、塗膜を形成するバインダー成分も分解されることになるため、バインダー成分としては、光触媒の酸化分解作用に対する耐久性に優れたもの、例えばシリコーン系等の無機系バインダーを用いなければならない。しかし、無機系バインダーでは、様々な下地基材、特に有機系基材に対して、十分な密着性が得られないために、直接適用することは困難である。光触媒含有塗料を適用しようとする下地基材が有機系基材の場合は、光触媒の酸化作用を受けやすいため、下地基材が光触媒含有塗料と接触する部分で劣化が進行し、密着性の低下を引き起こしてしまうおそれもある。
【0004】
このような問題に対し、特開平10−315374号公報において、光触媒含有塗料の塗付前に、アクリルシリコン樹脂層を形成させておくことが提案されており、有機系基材に対する密着性の向上が図られている。しかしながら、該発明では、初期段階での密着性のみが考慮されているにすぎず、降雨、結露、温度変化等、種々の外的要因の影響を受けた場合の密着性については、十分に満足できるものではない。また、アクリルシリコン樹脂層が光触媒含有塗料と接する部分においては、経時的に、該樹脂層中のアクリル部分が、上塗材の光触媒含有塗料の酸化作用を受けてしまう。これにより、樹脂層表面の劣化が促進され、結局、密着性の低下を引き起こしてしまうおそれがある。この酸化作用を抑制するために、アクリルシリコン樹脂層中のシリコン成分の比率を増加させる方法があるが、この場合は、樹脂層全体の可とう性が失われ、アクリルシリコン樹脂からクラックを発生してしまうという問題が生じる。特に、温度変化等により下地基材が膨張収縮を生じる場合には、樹脂層がその動きに追従できずにクラックが発生しやすくなる。
【0005】
一方、光触媒作用を有する塗膜によって、大気浄化や脱臭、あるいは菌類、汚染物質の付着抑制等の効果を十分に発揮させるためには、塗膜中における光触媒の含有量を高めるとともに、光触媒との接触面積を高める必要があり、一般的には塗膜がより多孔質で光触媒濃度が高い方が望ましい。したがって、このような塗膜は必然的に硬質なものに限定される結果となり、下地基材が膨張収縮を生じる場合には、光触媒含有塗膜がその動きに追従できずにクラックが発生してしまう。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
よって、本発明が解決しようとする課題は、多岐にわたる下地基材、特に有機系基材に対しても十分な密着性を有し、さらに、長期にわたってクラックを生じることのない積層構造を得ることである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するために本発明者らは、鋭意検討の結果、
有機樹脂に特定のテトラアルコキシシラン縮合物を含有する塗料組成物を用いて形成させた下塗層と、硬化触媒として特定の化合物を併用する上塗層とを積層することが有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の光触媒含有塗膜積層構造は、以下の特徴を有するものである。
1.下塗層が、
(A)有機樹脂、
(B)炭素数1〜2のアルキル基と炭素数3以上のアルキル基を有し、炭素数3以上のアルキル基が全アルキル基の5当量%以上であるテトラアルコキシシラン縮合物、
を含み、前記(A)有機樹脂が、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、及びポリウレタン樹脂から選ばれる1種である塗料組成物により形成され、
上塗層が、
(C)シリコーン樹脂、
(D)Ti、Zr、Alから選択される1種以上の金属アルコキシドまたはその縮合物、
(E)有機スズ化合物、
(F)光触媒作用を有する金属酸化物、
を含有し、(D)と(E)のモル比が1:1〜3である塗料組成物により形成されることを特徴とする光触媒含有塗膜積層構造。
2.下塗層が、
(A)有機樹脂、
(B)炭素数1〜2のアルキル基と炭素数3以上のアルキル基を有し、炭素数3以上のアルキル基が全アルキル基の5当量%以上であるテトラアルコキシシラン縮合物、
を含み、前記(A)有機樹脂が、
(a1)第3級アミノ基を含有する含フッ素共重合体、
(a2)ポリイソシアネート化合物、
を含む塗料組成物により形成され、
上塗層が、
(C)シリコーン樹脂、
(D)Ti、Zr、Alから選択される1種以上の金属アルコキシドまたはその縮合物、
(E)有機スズ化合物、
(F)光触媒作用を有する金属酸化物、
を含有し、(D)と(E)のモル比が1:1〜3である塗料組成物により形成されることを特徴とする光触媒含有塗膜積層構造。
3.下塗層が、
(A)有機樹脂、
(B)炭素数1〜2のアルキル基と炭素数3以上のアルキル基を有し、炭素数3以上のアルキル基が全アルキル基の5当量%以上であるテトラアルコキシシラン縮合物、
を含み、前記(A)有機樹脂が、
(a3)第3級アミノ基を含有するアクリル系共重合体、
(a4)一分子中にエポキシ基および加水分解性シリル基を併せ有する化合物、
を含む塗料組成物により形成され、
上塗層が、
(C)シリコーン樹脂、
(D)Ti、Zr、Alから選択される1種以上の金属アルコキシドまたはその縮合物、
(E)有機スズ化合物、
(F)光触媒作用を有する金属酸化物、
を含有し、(D)と(E)のモル比が1:1〜3である塗料組成物により形成されることを特徴とする光触媒含有塗膜積層構造。
4.上塗層における(C)シリコーン樹脂が、
(c1)R1Si(OR)O2/2単位または、R1Si(OR)O2/2単位およびR1 2SiO2/2単位(R1は互いに同一または異種の置換または非置換の炭素数1から3の一価炭化水素基を示す。Rはメチル基、エチル基を示す。)を含む、重量平均分子量500〜5000の直鎖状オルガノシロキサンオリゴマー、
(c2)一般式R2Si(OR)3で示される構造(R2は炭素数4以上の、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基を示す。Rはメチル基、エチル基を示す。)の3官能性オルガノアルコキシシランモノマー、
を含有し、(c1)と(c2)のモル比が1:2〜6であることを特徴とする請求項1.〜3.のいずれかに記載の光触媒含有塗膜積層構造。
5.上塗層における(D)が、アルコキシチタン化合物またはその縮合物であることを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載の光触媒含有塗膜積層構造。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をその実施の形態に基づき詳細に説明する。
【0010】
本発明の積層構造は、多岐にわたる下地基材に対して適用できるものである。このような下地基材としては、例えば、金属、ガラス、コンクリート、サイディングボード、押出成型板、プラスチック等があげられる。このような下地基材は、その度合に差はあるが、温度変化等により膨張収縮を生じるものである。本発明では特に、膨張収縮の度合が大きく、光触媒の酸化作用の影響を受けやすい有機系基材に対して有効である。このような有機系基材としては、アクリル樹脂系、スチレン樹脂系、エポキシ樹脂系、ポリエステル樹脂系、ポリエチレン樹脂系、ポリカーボネート樹脂系、メラミン樹脂系、アルキド樹脂系等の有機系樹脂で成形された基材、または、このような有機系樹脂を結合材とする塗料等によって表面被覆された基材があげられる。
【0011】
本発明における下塗層は、下塗材として、
(A)有機樹脂、
(B)炭素数1〜2のアルキル基と炭素数3以上のアルキル基を有し、炭素数3以上のアルキル基が全アルキル基の5当量%以上であるテトラアルコキシシラン縮合物、
を含む塗料組成物を用いる。
【0012】
本発明の下塗層では、(B)成分が、下塗材を塗付した際表面に配向し、下塗層断面において、その基材側には(A)成分が、下塗層断面の表面側には(B)成分が主に存在する傾斜的構造を形成する。これにより、可とう性、靭性、さらには下地基材に対する追従性と密着性を有する有機成分と、上塗層による酸化を抑制する無機成分とを、1コートで形成することができ、光触媒含有塗料を多岐にわたる下地基材、特に有機系基材に対しても適用することが可能となる。
【0013】
下塗材の(A)成分は、下地基材の膨張収縮に追従し、また下地基材との親和性が良好で密着性を高める役割を果たす。
【0014】
(A)成分としては、通常の塗料に用いられる有機樹脂が使用可能であるが、上塗材の光触媒作用に対する抵抗性の点から、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、及びポリウレタン樹脂から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。また、クラック抑制の点から、Tg10〜90℃(好ましくは30〜70℃)の樹脂を用いることが望ましい。Tgがこの範囲外の場合は、下塗層及び/または上塗層にクラックを生じやすくなる傾向となる。
【0015】
本発明では、下塗材における(A)成分として、
(a1)第3級アミノ基を含有する含フッ素共重合体、
(a2)ポリイソシアネート化合物、
を含有すると、上塗材の光触媒作用に対する抵抗性が一段と高まり、長期にわたる十分な密着性を確保することができ、好ましい。
【0016】
(a1)第3級アミノ基を含有する含フッ素共重合体としては、フッ素樹脂技術分野において一般的に使用される含フッ素共重合体のうち、第3級アミノ基を含有するものを使用する。このような含フッ素共重合体は、フッ素含有単量体、水酸基含有単量体、一般式
【化1】
(R3は水素またはアルキル基、R4、R5はいずれもアルキル基、XはOもしくはNH、nは2〜10の整数)
で表される重合性不飽和結合含有の第3級アミン化合物、及び必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体を共重合して得られるものである。
【0017】
このうち、フッ素含有単量体としては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等のパーフルオロオレフィン類、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等が挙げられる。水酸基含有単量体としては、水酸基含有ビニルエステル、水酸基含有ビニルエーテル、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル等があげられる。上記化1で表される化合物としては、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルアクリレート等が挙げられる。
【0018】
(a2)ポリイソシアネート化合物としては、トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4一ジフェニルメタンジイソシアネート(pure−MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添XDI、水添MDI等のイソシアネートモノマーをアロファネート化、ビウレット化、2量化(ウレチシオン化)、3量化(イソシアヌレート化)、アダクト化、カルポジイミド化反応等により、誘導体化したもの、および、それらの混合物が使用可能である。
【0019】
(a1)成分、(a2)成分の混合比は、NCO/OH当量比でO.6〜1.4(好ましくはO.8〜1.2)となるような比率で行うことが望ましい。
【0020】
本発明では、下塗材における(A)成分として、
(a3)第3級アミノ基を含有するアクリル系共重合体、
(a4)一分子中にエポキシ基および加水分解性シリル基を併せ有する化合物、
を含有すると、優れた密着性を確保することができ、好ましい。
【0021】
(a3)第3級アミノ基を含有するアクリル系共重合体としては、アクリル系単量体、一般式
【化2】
(R3は水素またはアルキル基、R4、R5はいずれもアルキル基、XはOもしくはNH、nは2〜10の整数)
で表される重合性不飽和結合含有の第3級アミン化合物、及び必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体を共重合して得られるものである。
【0022】
このうち、アクリル系単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリル系単量体;(メタ)アクリル酸などのエチレン性不飽和カルボン酸;N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有(メタ)アクリル系単量体;アクリロニトリルなどのニトリル基含有(メタ)アクリル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有(メタ)アクリル系単量体、等が挙げられる。上記化2で表される化合物としては、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルアクリレート等が挙げられる。
【0023】
(a4)一分子中にエポキシ基および加水分解性シリル基を併せ有する化合物としては、エポキシ基と加水分解性シリル基の両方を有する化合物、重合体、共重合体やエポキシ基含有のシランカップリング剤等があり、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロペニルオキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロペニルオキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイミノオキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリイソプロペニルオキシシランまたはγ−シソシアネートプロピルトリメトキシシランなどとグリシドールとの付加物、あるいはγ−アミノプロピルトリメトキシシランなどとジエポキシ化合物との付加物などがあげられる。
【0024】
(a3)成分のアミン当量は1500〜6000、(a4)成分のエポキシ当量は300〜800であることが好ましい。また、混合比率としては、固形分換算で、(a3)100重量部に対して、(a4)を10〜50重量部含有させることが好ましい。
【0025】
下塗材における(B)成分は、炭素数1〜2のアルキル基と炭素数3以上のアルキル基を有し、炭素数3以上のアルキル基が全アルキル基の5当量%以上であるテトラアルコキシシラン縮合物である。
【0026】
(B)成分は、下塗材を塗付した際表面に配向し、下塗層の最表面に無機層を形成することによって、上塗層による下塗層の酸化、劣化を抑制する。さらに、(B)成分中のアルコキシシラン基のうち、炭素数3以上のアルキル基における反応性が、炭素数1〜2の部分の反応性に比べて低く、官能基が未反応のまま残存するため、上塗層との密着性を高めることができる。炭素数が1〜2のアルキル基のみの場合は、表面配向性が低下し、下塗層表面に十分な無機層が形成されず、上塗材による酸化を抑制できなくなるため好ましくない。また、硬化反応が早期に進み、官能基が残存し難く、十分な密着性が得られなくなるため好ましくない。
【0027】
(B)成分における炭素数3以上のアルキル基の比率は、全アルキル基の5当量%以上(好ましくは、5〜50当量%)である。炭素数3以上のアルキル基が5当量%より少ない場合は、表面配向性が低下して、十分な無機層が形成されず、密着性も低下するため好ましくない。
【0028】
本発明の(B)成分は以下のような方法により製造することが可能であるが、これに限定されるものではない。
(i)一般式
Si(OR6)(OR7)(OR8)(OR9)
(式中、R6〜R9は炭素数1〜2のアルキル基と炭素数3以上のアルキル基が混在しているものとする)で表されるテトラアルコキシシランを縮合させる。縮合方法は、公知の方法による。
【0029】
具体例としては、モノブトキシトリメトキシシラン、モノプロポキシトリメトキシシラン、モノペントキシトリメトキシシラン、モノヘキソキシトリメトキシシラン、ジブトキシジエトキシシラン等の縮合物があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
このようなテトラアルコキシシランを縮合する際に、他のアルキルシリケート(アルキル基の炭素数が1〜2であるもの、あるいはアルキル基の炭素数が3以上であるもの)を混合して縮合することもできる。
【0031】
(ii)(p)一般式
【化3】
(式中、R10は炭素数1〜2のアルキル基とし、nは2以上の整数とする)で表されるアルキルシリケート縮合物(以下、「(p)成分」という)を、
(q)一般式
R11OH
(式中、R11は炭素数3以上のアルキル基とする)で表されるアルコール(以下、「(q)成分」という)を用いて、(p)成分のアルキル基部分の5当量%以上をエステル交換する。
【0032】
(p)成分としては、具体的にはテトラメチルシリケート、テトラエチルシリケートなどの縮合物があげられる。
【0033】
(q)成分としては、具体的にはn−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−ヘプチルアルコール、n−オクチルアルコール、n−ノニルアルコール、n−デシルアルコール、n−ドデシルアルコール等が例示できる。
【0034】
(B)成分の平均縮合度は、4〜20であることが好ましい。高縮合度(平均縮合度が20より大きいもの)で、高分子量のものは、製造が難しく、粘度上昇等により取り扱いが不便であるため好ましくない。平均縮合度が4未満で、低分子量のものは、揮発性が高くなりやはり取り扱いが不便であるため好ましくない。
【0035】
下塗材における各成分の混合比は、(A)成分の樹脂固形分100重量部に対し、(B)成分をSiO2換算値で1〜40重量部(好ましくは2〜20重量部)配合する。(B)成分が1重量部より少ない場合は、十分な無機層が形成されず、光触媒の酸化作用に対する抵抗性が低下し、40重量部より多い場合は、クラックが発生しやすくなるため好ましくない。
【0036】
ここでSiO2換算とは、アルコキシシラン類に含まれるSiがすべてSiO2になるとした場合の重量であり、実際の計算は、各アルコキシシランやシリケートなどのSi−O結合をもつ化合物について、これらを完全に加水分解した後に、900℃で焼成した際にシリカ(SiO2)となって残るシリカ残量比率(重量%)を測定し、下記の式に基づいて行った。
[SiO2換算量]=[X]×[シリカ残量比率]
[X]:アルコキシシラン縮合物添加量
【0037】
本発明における下塗材には、(A)、(B)成分の他に、通常塗料に配合することが可能な各種添加剤を本発明の効果に影響しない程度に配合することが可能である。このような添加剤としては、着色顔料、体質顔料、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、硬化触媒、艶消し剤等があげられる。
【0038】
本発明における上塗層は、上塗材として、
(C)シリコーン樹脂、
(D)Ti、Zr、Alから選択される1種以上の金属アルコキシドまたはその縮合物、
(E)有機スズ化合物、
(F)光触媒作用を有する金属酸化物、
を含有し、(D)と(E)のモル比が1:1〜3である塗料組成物を用いる。
【0039】
本発明の上塗材においては、硬化触媒として(D)、(E)成分を併用することにより、可とう性を保持し、クラックを生じないようにすることができる。上塗材における(D)、(E)成分の作用機構については、詳細には定かでないが、概ね以下のような機構によるものと推察される。
【0040】
すなわち(D)、(E)成分はともに、大気中の湿気と反応して加水分解し、水酸基を生じる。この水酸基が、(C)シリコーン樹脂のアルコキシシリル基と反応して、脱アルコール反応と共に、Sn−O−SiおよびM−O−Si結合を形成する。さらに、Sn−O−Si結合は、(C)成分が加水分解して生じたシラノール基と反応して、Si−O−Si結合を形成すると共に、Sn−OHとなり再び、(C)成分と反応するという繰り返しを行う。このように(E)成分は、系中において触媒として作用をするため、一度Sn−OH構造を生じると、塗膜の内部において、アルコキシシリル基やシラノール基の加水分解縮合反応を促進し、緻密な高架橋密度の塗膜を形成する。この緻密な塗膜構造により、耐久性や耐汚染性等が高まり、長期にわたり光触媒触媒作用を発揮することができる。
【0041】
一方、(D)成分は、上記のM−O−Si結合を形成した後には、この結合に取りこまれてしまう。特にTiにおいてこの傾向は顕著である。ここでTiを例にして示すと、形成されるTi−O−Siの結合は、(C)成分が加水分解縮合して形成されるSi−O−Si結合に比較して、可とう性を有するため、形成される塗膜は、緻密でありながら、クラックを生じないものとなるのである。
【0042】
上塗材における(C)シリコーン樹脂としては、オルガノシロキサンモノマー(3官能性、または3官能性と2官能性の複合)、直鎖状オルガノシロキサンオリゴマー、高分子量ポリシロキサン等の純シリコーン樹脂ワニスを用いることができる。
【0043】
このようなシリコーン樹脂のうち、本発明では、下記の(c1)成分、及び(c2)成分を含むものが好ましく用いられる。
【0044】
(c1)直鎖状オルガノシロキサンオリゴマーは、3官能性シロキサン単位(R1Si(OR)O2/2)単独、または、3官能性シロキサン単位(R1Si(OR)O2/2)と2官能性シロキサン単位(R1 2SiO2/2)を含有するものである。ここで各シロキサン単位のR1は、互いに同一または異種の置換または非置換の炭素数1から3の一価炭化水素基を示し、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、およびこれらの基の水素原子がハロゲン原子等で置換されたものが例示される。また、Rはメチル基、エチル基を示す。
【0045】
(c1)成分が、3官能性シロキサン単位(R1Si(OR)O2/2)と2官能性シロキサン単位(R1 2SiO2/2)からなる場合の両者の比率は、特に限定されることがなく、必要とする塗膜の耐久性を考慮して適宜調整すれば良い。
【0046】
(c1)成分は、従来公知の方法によって製造されているメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等の3官能性オルガノアルコキシシランや2官能性オルガノアルコキシシランを適当な触媒の存在下に加水分解縮合させることにより得られる。
【0047】
(c2)3官能性オルガノアルコキシシランモノマーは、一般式R2Si(OR)3で示される構造を有するものである。ここで、R2は炭素数4以上の、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、プロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基、ヘキサジエニル基等のアルケニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基を示す。このような化合物の中で、本発明における効果を発揮するために最適なものとしては、嵩高い官能基を有するシクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基が好ましい。さらに、Rはメチル基、エチル基を示す。
【0048】
本発明では、(c1)成分のアルコキシシリル基が大気中の湿気と反応して加水分解縮合する際に、同じく(c2)成分もアルコキシシリル基が加水分解縮合して(c1)成分とともに、塗膜構造中に取りこまれる。ここで塗膜構造中に取り込まれた(c2)成分は、その化学構造中に有する有機基の嵩高さにより、塗膜が経時的な加水分解反応により収縮するのを押さえる緩衝効果を発揮する。
【0049】
(c1)成分と(c2)成分のモル比は、1:2〜6となるように調整するのが好ましい。(c2)成分が2より少ないと、形成される塗膜の体積収縮を緩衝させる効果が低下し、クラックが発生しやすい傾向となる。一方、(c2)成分が6より多いと、形成される塗膜の架橋密度が低下し、汚れやすくなるため、光触媒作用が低下するおそれがある。
【0050】
上塗材における(D)Ti、Zr、Alから選択される1種以上の金属アルコキシドまたはその縮合物は、特に限定されるものではないが、MがTiの場合、すなわち、アルコキシチタン化合物またはその縮合物が、反応性および形成される塗膜の可撓性の点から好ましい。このようなアルコキシチタン化合物は、従来公知のものが使用可能であり、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、チタン2−エチルヘキシオキシド、チタンジイソプロポキサイドビス(エチルアセトアセテート)、チタンジn−ブトキサイド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、チタンジイソプロポキサイド(ビス−2,4−ペンタンジオネート)、ジn−ブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、テトライソプロポキシチタン縮合物、テトラn−ブトキシチタン縮合物等が例示され、これらの内で2種以上の併用も可能である。このような化合物の中で、加水分解反応速度を考慮するとテトラn−ブトキシチタンが好ましい。
【0051】
本発明の(E)有機スズ化合物は、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、オクトエ酸第一錫、ナフテン酸第一錫、オレイン酸第一錫、イソ酪酸第一錫、リノール酸第一錫、ステアリン酸第一錫、ベンゾール酸第一錫、ステアリン酸第一錫、ナフトエ酸第一錫、ラウリン酸第一錫、o−チム酸第一錫、β−ベンゾイルプロピオン酸第一錫、クロトン酸第一錫、トロパ酸第一錫、p−ブロモ安息香酸第一錫、パルミトオレイン酸第一錫、桂皮酸第一錫、およびフェニル酢酸第一錫のようなカルボン酸の錫塩などが例示され、これらの内で2種以上の併用も可能である。このような化合物の中で、加水分解触媒効果の反応速度からジブチル錫ジアセテートが好ましい。
また、このような錫触媒に加えて酸触媒を用いることも可能である。このような酸触媒としては、蟻酸、酢酸、モノクロロ酢酸、プロピオン酸、酪酸、マレイン酸、蓚酸、クエン酸等の有機酸、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸等の無機酸があげられる。
【0052】
次に、(D)成分と(E)成分のモル比は、1:1〜3となるように調整する必要がある。(E)成分が1より少ないと、形成される塗膜の架橋密度が低下し、汚れやすくなるため、光触媒作用が低下する。一方、(E)成分が3より多いと、(D)成分による可とう性付与効果が不十分となり、形成される塗膜の架橋密度の高さに起因して塗膜が脆くなり、クラックを生じやすくなる。
【0053】
(F)光触媒活性を有する金属酸化物としては、ニ酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化第二鉄、三酸化二ビスマス、三酸化タングステン等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を使用することができる。
【0054】
(F)成分の混合比は、(C)成分の樹脂固形分100重量部に対し、20〜80重量部とすることが好ましい。(F)成分が20重量部より少ない場合は、光触媒の酸化分解作用が十分に発揮されず、80重量部より多い場合は、クラックが発生しやすくなる。
【0055】
上塗材には、その他の成分として、通常塗料に配合することが可能な各種添加剤を、本発明の効果に影響しない程度に配合することが可能である。このような添加剤としては、着色顔料、体質顔料、防腐剤、防黴剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤等があげられる。
【0056】
本発明の下塗層、及び上塗層の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、刷毛塗り、スプレー塗装、ローラー塗装、ロールコーター、フローコーター等、公知の塗装方法を用いることができる。また本発明は、下塗層及び上塗層を常温にて塗装、乾燥できるものであるが、昇温させても差し支えない。下塗層、上塗層の乾燥膜厚は、塗装する材料や基材の種類等により適宜設定すればよいが、通常、下塗層10〜50μm、上塗層5〜30μmとする。乾燥膜厚をこのような範囲に設定することにより、十分な密着性を有し、優れた光触媒作用を発揮できる積層構造が得られる。
【0057】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。なお、以下において重量部は単に部として表記した。
【0058】
(合成例)アルコキシシラン縮合物合成例
重量平均分子量1000、平均縮合度約8、不揮発分100%のメチルシリケート(以下、メチルシリケートAという。)100部に対し、アルコール類を所定量、並びに触媒であるジブチル錫ジラウレート0.03部を添加し、混合後、75℃にて8時間、脱メタノール反応を行い、アルコキシシラン縮合物1〜2を合成した。得られたアルコキシシラン縮合物について、使用したアルコール類の種類と添加量、エステル交換率、及び900℃にて焼成することにより得られるシリカ残量比率を以下に示した。
【0059】
【表1】
【0060】
[下塗材]表1及び表2に示す原料を用い、表3に示す配合にて下塗材を作製した。
[上塗材]表4に示す原料を用い、表5に示す配合にて上塗材を作製した。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
エポキシ系樹脂塗料で表面被覆された150×70×6mmのスレート板を基材とし、この基材に対し作製した下塗材を乾燥膜厚が約30μmとなるようにスプレー塗装して下塗層を形成させた。次に、上塗材を乾燥膜厚が約10μmとなるようにスプレー塗装し上塗層を形成させ、気温20℃、湿度65%(以下、「標準状態」という)で7日間乾燥したものを試験体とした。
【0066】
作製した試験体について以下の試験を行った。
1.初期密着性
作製した試験板について、JIS K5400 8.5.2碁盤目テープ法に準じ、密着性を評価した。評価は、○:欠損部面積が5%以内、△:欠損部面積が5〜35%、×:欠損部面積が35%以上とした。
2.水浸漬後密着性
作製した試験体を20℃の水に168時間浸漬した後、「初期密着性」と同様にして密着性試験を行った。
3.促進耐候性試験後密着性
作製した試験体を、JIS B7753に規定するサンシャインウェザーメーターで2000時間の促進暴露を行った後、「初期密着性」と同様にして密着性試験を行った。
4.屋外暴露後密着性
作製した試験体を、JIS K5400 9.9耐候性に準じ大阪府茨木市にて1年間屋外暴露を行った後、「初期密着性」と同様にして密着性試験を行った。
5.耐湿潤冷熱繰り返し性
JIS K 5658 4.14耐湿潤冷熱繰返し性に準じ、試験体を20±2℃の水中に18時間浸した後、直ちに−20±3℃に保った恒温槽に3時間冷却し、次に50±3℃に保った別の恒温槽で3時間加温する。この操作を10回繰り返した後、標準状態に約1時間置いて、塗膜表面の状態を目視にて観察する。この際にクラックや剥がれを全く生じなかったものを○、微小なクラックの発生したものを△、明確にクラック、剥がれを生じたものを×として評価した。
【0067】
下塗層と上塗層の組合せ、及び試験結果を表6に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
(実施例1〜5)
本発明の積層構造であり、初期密着性は勿論、水浸漬後、促進耐候性試験後、屋外暴露後での密着性も優れていた。また、耐湿潤冷熱繰り返し性試験においても、クラックや剥れの発生は認められず、良好な結果であった。
【0070】
(比較例1〜2)
下塗材としてメチルシリケートを含有するものを用いたところ、初期密着性は良好であったが、水浸漬後、促進耐候性試験後、屋外暴露後での密着性が低下してしまった。また、下塗材のメチルシリケート含有量が多い比較例2では、耐湿潤冷熱繰り返し性試験においてクラックが発生してしまった。
【0071】
(比較例3)
下塗材としてアクリルシリコン樹脂を用いたところ、初期密着性は良好であったが、水浸漬後、促進耐候性試験後、屋外暴露後での密着性が低下してしまった。
【0072】
(比較例4)
密着性は良好であったが、上塗材の触媒において有機スズ化合物のみを用いたため、耐湿潤冷熱繰り返し性試験においてクラックが発生してしまった。
【0073】
(比較例5)
密着性は良好であったが、上塗材の触媒において有機スズ化合物の比率が高かったため、耐湿潤冷熱繰り返し性試験においてクラックが発生してしまった。
【0074】
【発明の効果】
本発明の光触媒含有塗膜積層構造は、多岐にわたる下地基材、特に有機系基材に対しても十分な密着性を有し、さらに、長期にわたってクラックを生じることがなく、光触媒作用による大気浄化、脱臭、抗菌等の機能を発揮することができる。
Claims (5)
- 下塗層が、
(A)有機樹脂、
(B)炭素数1〜2のアルキル基と炭素数3以上のアルキル基を有し、炭素数3以上のアルキル基が全アルキル基の5当量%以上であるテトラアルコキシシラン縮合物、
を含み、前記(A)有機樹脂が、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、及びポリウレタン樹脂から選ばれる1種である塗料組成物により形成され、
上塗層が、
(C)シリコーン樹脂、
(D)Ti、Zr、Alから選択される1種以上の金属アルコキシドまたはその縮合物、
(E)有機スズ化合物、
(F)光触媒作用を有する金属酸化物、
を含有し、(D)と(E)のモル比が1:1〜3である塗料組成物により形成されることを特徴とする光触媒含有塗膜積層構造。 - 下塗層が、
(A)有機樹脂、
(B)炭素数1〜2のアルキル基と炭素数3以上のアルキル基を有し、炭素数3以上のアルキル基が全アルキル基の5当量%以上であるテトラアルコキシシラン縮合物、
を含み、前記(A)有機樹脂が、
(a1)第3級アミノ基を含有する含フッ素共重合体、
(a2)ポリイソシアネート化合物、
を含む塗料組成物により形成され、
上塗層が、
(C)シリコーン樹脂、
(D)Ti、Zr、Alから選択される1種以上の金属アルコキシドまたはその縮合物、
(E)有機スズ化合物、
(F)光触媒作用を有する金属酸化物、
を含有し、(D)と(E)のモル比が1:1〜3である塗料組成物により形成されることを特徴とする光触媒含有塗膜積層構造。 - 下塗層が、
(A)有機樹脂、
(B)炭素数1〜2のアルキル基と炭素数3以上のアルキル基を有し、炭素数3以上のアルキル基が全アルキル基の5当量%以上であるテトラアルコキシシラン縮合物、
を含み、前記(A)有機樹脂が、
(a3)第3級アミノ基を含有するアクリル系共重合体、
(a4)一分子中にエポキシ基および加水分解性シリル基を併せ有する化合物、
を含む塗料組成物により形成され、
上塗層が、
(C)シリコーン樹脂、
(D)Ti、Zr、Alから選択される1種以上の金属アルコキシドまたはその縮合物、
(E)有機スズ化合物、
(F)光触媒作用を有する金属酸化物、
を含有し、(D)と(E)のモル比が1:1〜3である塗料組成物により形成されることを特徴とする光触媒含有塗膜積層構造。 - 上塗層における(C)シリコーン樹脂が、
(c1)R1Si(OR)O2/2単位または、R1Si(OR)O2/2単位およびR1 2SiO2/2単位(R1は互いに同一または異種の置換または非置換の炭素数1から3の一価炭化水素基を示す。Rはメチル基、エチル基を示す。)を含む、重量平均分子量500〜5000の直鎖状オルガノシロキサンオリゴマー、
(c2)一般式R2Si(OR)3で示される構造(R2は炭素数4以上の、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基を示す。Rはメチル基、エチル基を示す。)の3官能性オルガノアルコキシシランモノマー、
を含有し、(c1)と(c2)のモル比が1:2〜6であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒含有塗膜積層構造。 - 上塗層における(D)が、アルコキシチタン化合物またはその縮合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒含有塗膜積層構造。
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