JP3753413B2 - 多気筒用のヘッドガスケット - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンに適用する多気筒用のヘッドガスケットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関のシリンダヘッドとシリンダブロックとの間をシールする多気筒用のヘッドガスケットには、図8に示すように、構成板20にシリンダボア用穴(燃焼穴)13、潤滑油穴(オイル穴)15、冷却水穴(水穴)16、ボルト穴17,18等が形成されており、それぞれ、燃焼室内に発生する燃焼ガス、オイルギャラリを循環する潤滑油、及び、ウオータジャケット内の冷却水等をシールするために、それぞれのシール対象穴に対して適正なシール面圧を発生するためのビード12やシールリング14等のシール手段が設けられている。
【0003】
特に、シリンダボア用穴13の周縁部においては、エンジンが作動した時に、高圧高温状態の燃焼ガスが発生し、この部分のシールが特に重要であるため、機械的強度や耐久性に優れた金属性の構成板20を用いて、シリンダボア用穴13の周縁部に、主シール部を形成するビード12を配設して、このビード12によって高いシール性能を発揮する構成を取っている。
【0004】
また、ボルト穴17,18には、図示しないヘッドボルトを挿通して、このヘッドガスケットを図示しないシリンダブロックとシリンダヘッドの間に挟み込んでボルト締めする。このボルト穴17,18は、シリンダボア周囲を確実にシールするために、通常はシリンダボア用穴13を取り囲んで配置される。
【0005】
なお、ボルト穴17を貫通するヘッドボルトの締結力は、主に図中のAで示す範囲に、また、ボルト穴18を貫通するヘッドボルトの締結力は、主に図中のBで示す範囲に作用して、この範囲に面圧を発生させている。
【0006】
このような従来技術のヘッドガスケット11をシリンダヘッドとシリンダブロックとの間に挟着する場合には、ボルト締結力によって発生するシール面圧が弱すぎると、燃焼ガス等をシールする機能が十分に発揮できなくなり、また、このシール面圧を必要以上に高くすると、ビードの破損やヘタリ等を招き、シール性能を長期間にわたって保持することができなくなるので、ヘッドボルトの締結力によって発生するシール面圧が、十分なシール性能を長期間にわたって保持するのに適した範囲内になるように注意する必要がある。
【0007】
そのため、ヘッドガスケット11をシリンダヘッドと共にシリンダブロックにヘッドボルトで締結する際には、予め定められた順序に従ってヘッドボルトを締めつけ、しかも、各々のヘッドボルトの締め付けトルクが均一になるように、トルクレンチで所定の締め付けトルクになるまで締め付けている。
【0008】
ところで、図8及び図9に示した従来技術のヘッドガスケット11の場合には、ボルト穴18を貫通するヘッドボルトの締結力が作用するBの範囲のシール面積が、ボルト穴17を貫通するヘッドボルトの締結力が作用するAの範囲のシール面積に比して大幅に小さいため、前記したAの範囲に作用する面圧が、Bの範囲に作用する面圧よりも大幅に小さくなる。
【0009】
一方、エンジンの小型化に伴って可能な限り近接して配置されるシリンダボア用穴13の間の部位Wが最も過酷な状態となる。つまり、この部位Wにおいては、熱負荷が高く、また、隣接する燃焼室内で、タイミングがずれた爆発燃焼が繰り返されている。そのため、ビード12がヘタリや破損を生じ易く、ガス漏れを生じ易いという問題がある。
【0010】
この問題を解決するために、ビードの近傍に副ビードを設けたり、金属シムのストッパーを設けたりすることにより、ビードのヘタリを防止することが考えられる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの副ビードや金属シムは、両燃焼室穴の穴シール部の間に配設するので、この配設のための面積が必要になり、エンジンの小型化に伴って、隣接する燃焼室穴の間が狭くなってきている最近のヘッドガスケットにおいては、レイアウト上困難となるという問題がある。
【0012】
また、金属シムを使用する場合には、一般に30〜100μmという非常に薄いものを細かく加工してヘッドガスケットの構成板に嵌めたり接合したりするので、加工や部品の保管等に手間や工数が掛かり製造コストが高くなるという問題がある。
【0013】
その上、金属シムは圧縮性がないため、また、30μm以下のような極薄い金属シムを使用できないため、シムの端部で段差が生じ、面圧の変化が大きい部分が発生するのを解決できないという問題がある。
【0014】
本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、多気筒のヘッドガスケットにおいて、近接する燃焼室穴の間に設けられたビードの面圧補強ができ、シール性能を向上すると共に、ビードにヘタリや破損が生じるのを防止できて、耐久性を高めることができる多気筒用のヘッドガスケットを提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る多気筒用のヘッドガスケットは、複数のシリンダを有する多気筒用のヘッドガスケットにおいて、シリンダの各ボアをシールするために、それぞれのシリンダボア用穴の周縁部に、これらのシリンダボア用穴を取り囲んでビードを設け、前記シリンダボア用穴の間で相互に近接する前記ビードの部位に、両側のビードの間をつなげたH状又は矩形状の形状で、かつ、耐熱性と圧縮性を有するコーティング塗膜を形成して構成される。
【0016】
この耐熱性のコーティング塗膜は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂等の材料を使用でき、スクリーン印刷やマスクを利用した吹きつけ等で自由な形状に塗布して積層できるものであり、また、一層でも、多層でも良い。特に、フェノキシ樹脂は200℃以上の耐熱性があり、また、作業性や塗膜物性等の面から考えても、このフェノキシ樹脂の使用が最も好ましい。
【0017】
この構成の多気筒用のヘッドガスケットによれば、2気筒以上の直列のシリンダ列を有する多気筒エンジンにおいて、締め付け力が小さくなり、しかも、厳しい条件下にある隣接するシリンダボア用穴の間の部位に、耐熱性のコーティング塗膜を塗布して設けているので、この圧縮性を有するコーティング塗膜により、シリンダボア用穴の間のビードに作用する面圧を補強できる。
【0018】
そして、この面圧補強により、シール面圧を高めて、外端側のシリンダボア用穴の周縁部と略同じ大きさのシール面圧を発生させることができるので、より確実にシールを行うことができる。
【0019】
また、この圧縮性のコーティング塗膜により、シリンダヘッドへの反力やシリンダボア用穴の間のビードに加わる面圧を緩和できるので、このコーティング塗膜が積層されているビードのヘタリや破損を防止できる。
【0020】
また、外端側のシリンダで適正なシール面圧が発生する締め付け力であっても、内部側のシリンダに適正なシール面圧を発生することができるので、大きな締め付けトルクを必要とせず、外端側のシリンダのビードに大きなシール面圧を加える必要が無くなるので、このビードのヘタリや破損を防止でき、耐久性を向上することができる。
【0021】
そして、前記コーティング塗膜を、スクリーン印刷により形成すると、複雑な形状であっても容易に形成でき、しかも、多重印刷により、簡単に層厚を変更して形成できるので、適切な厚さのコーティング塗膜を形成するのが容易となる。
【0022】
なお、この多気筒用のガスケットの構成板は、一枚板で形成されていても良く、また、複数枚の積層板で形成されていてもよく、上記のコーティング塗膜以外のコーティング、例えば、ガスケットの外周部に設けたシール用のコーティング等を有していてもよい。
【0023】
次に、このコーティング塗膜を使用した場合と金属シムを使用した場合との差について説明する。
【0024】
先ず、コーティング塗膜は、面圧補強とビードの保護を同時に行えるが、金属シムではいずれか一方となってしまう。
【0025】
つまり、ビードを保護する金属シムをビードの側方に設けた場合には、ビードのヘタリや破損を防止できるが面圧を補強できないので、外端側のビードに大きな面圧が加わり、この外端側のビードにヘタリや破損が生じ易い。また、ビードの下面に金属シム設け、面圧補強した場合には、ビードのヘタリや破損を防止できないので、この内部側のビードにヘタリや破損が生じ易い。
【0026】
また、コーティング塗膜は圧縮性があるので、圧縮されると変形し、コーティング塗膜の端部の面圧分布が比較的なだらかになり、シリンダヘッドやシリンダブロックを傷つけることが無い。一方、金属シムの場合は、金属シムの側方に金属シムの厚さ分の段差が生じてこの段差部で面圧が急激に変化することになり、しかも、硬いので、シリンダヘッドやシリンダブロックを傷つけ易い。
【0027】
また、コーティング塗膜を使用する場合には、コーティング作業で済むので、位置決めの精度が良く、工数も削減できるが、一方の金属シムの場合には、精度よく取り付けるのが難しい上に、シム作成(型抜き)や手作業による組付けが、金属シムを設ける数だけ必要となる。
【0028】
【発明の実施の形態】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態の多気筒用のヘッドガスケットについて説明する。
【0029】
図1に示すように、この多気筒用のヘッドガスケット1は、2気筒以上の列をなすシリンダの各ボアをシールするための多気筒用のシリンダヘッドガスケットであって、構成板10にシリンダボア用穴(燃焼室穴)2と潤滑油穴(オイル穴)7、冷却水穴(水穴)8、ボルト穴5,6等の開口穴を形成し、更に、それぞれのシリンダボア用穴2の周縁部に主シール部となるビード3を、また、潤滑油穴7と冷却水穴8の周縁部にシールリング9をそれぞれの対象穴を取り囲むように環状に設けて形成する。
【0030】
また、ボルト穴5,6には、図示しないヘッドボルトを挿通して、このヘッドガスケットを図示しないシリンダブロックとシリンダヘッドの間に挟み込んでボルト締めする。このボルト穴5,6は、シリンダボア周囲を確実にシールするために、通常はシリンダボア用穴2を取り囲んで配置される。
【0031】
隣接するシリンダボア用穴2の間で、かつ、このシリンダボア用穴2の周縁部に相当する部位Wに、耐熱性と圧縮性を有するコーティング塗膜4を形成する。
【0032】
そして、このコーティング塗膜4は、図1〜図4,図6,図7に示すように、シリンダボア用穴2,2の間で相互に近接するビード3,3の部位に,耐熱性と圧縮性を有するコーティング塗膜4を形成する。つまり、隣接するシリンダボア用穴2の間の周縁部に相当する部位Wにおいて、この部分Wのビード3を覆うように、両側ビード3,3の間をつなげたH状や矩形状の形状で、一層または多層に塗布されて形成される。
【0033】
このコーティング塗膜4は、ガスケットが一枚の構成板10で形成されている場合には、図2,図4,図6に示すように、そのビード3の凸面側に塗布されるが、図7に示すように、ガスケットが複数枚の構成板10a,10b,10cで形成されている場合には、そのビード3の凸面側に塗布してもよいが、ビード3が形成されている構成板10bとは別の構成板10aにビード3の凸面部分に積層するように塗布してもよい。
【0034】
また、図7では構成板10aのビード3側の部分にコーティング塗膜4を設けているが、構成板10aのビード3側と反対側の部分や構成板10cのビード3側と反対側の部分にコーティング塗膜4を設けることもできる。
【0035】
この多気筒用のヘッドガスケット1の構成板10の材料としては、ステンレス、バネ鋼等の硬質金属、あるいは、軟鋼板も適宜使用できる。
【0036】
また、このコーティング塗膜4は、押圧された時には、破損せずに、変形する程度の硬さと厚みで形成され、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂の材料を使用して、スクリーン印刷等の印刷により所定の形状に塗布して形成する。なお、作業性や塗膜物性等を考えると、フェノキシ樹脂を使用するのが最適である。
【0037】
硬さや厚さの一例を上げると、エンジンの種類や大きさにもよるが、硬さがF〜6H程度で、コーティング塗膜4aの厚さは5μm〜150μm程度である。
【0038】
粘度の低い材料に場合には、スプレー、塗布等の手段を用いてコーティングすることもできる。印刷により塗布する場合には、多重印刷等により厚みの変更が容易であるので、製造が容易となる。
【0039】
また、当接するシリンダブロックやシリンダヘッドのツールマーク等を吸収するために、これらのコーティング塗膜4の上から、弾力性があるゴム系の被膜をガスケット全面に表面コーティングする場合もある。
【0040】
このゴム系の材料としては、シールする燃焼ガス、液体(潤滑オイル、水)等に対する耐久性や耐熱性に優れ、しかも、柔軟性を有し、圧縮変形に対する復元性が良い材料が好ましく、NBRゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、水素添加ニトリル・ブタジエンゴム等のゴム系材料を使用できる。
【0041】
以上の構成の多気筒用のヘッドガスケット1によれば、2気筒以上のシリンダ列を有する多気筒エンジンにおいて、シリンダボア用穴2の間で、ビード3を覆ってコーティング塗膜4が配設されているので、この比較的締め付け圧の小さい部位Wにおいて、面圧補強を行うことができ、このシリンダボア用穴2の間の部位Wのビード3にも、外端側のビード3と略同じ大きさのシール面圧を発生することができる。
【0042】
つまり、外端側のBの部分においては、ボルト穴6に挿通される一つのヘッドボルトが担当する面積に比べて、内部側のAの部分では、ボルト穴5に挿通される一つのヘッドボルトが担当する面積が大きくなるため、シリンダボア用穴2の間の部位のビード3に加わる初期面圧が不十分となるが、コーティング塗膜4の厚みにより面圧を大きくできるので、この部位Wのシール性能を向上でき、また、コーティング塗膜4の圧縮性により、この部位Wのビード3を保護できるので、このビード3のヘタリや破損を防止できる。
【0043】
また、大きな締め付け力を必要とせず、シリンダボア用穴2の間の部位Wのビード3に加わるシール面圧を大きくできるので、外端側のBの部分のビード3に大きなシール面圧を加えなくて済むので、この外端側のBの部分のビード3のヘタリや破損も防止でき、耐久性が向上する。
【0044】
従って、ボアシール面圧が低くなるシリンダボア用穴2の間に対して面圧補強を行ってシール性能を向上できると共に、耐久性の高いシリンダヘッドガスケットを得ることができる。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の多気筒用のヘッドガスケットによれば、次のような効果を奏することができる。
【0046】
2気筒以上のシリンダ列を有する多気筒エンジンにおいて、シリンダボア用穴2の間で相互に近接するビード3の部位に、コーティング塗膜を配設したので、この比較的締め付け圧の小さい部位において、面圧補強を行うことができ、このシリンダボア用穴の間の部位のビードにも、外端側のビードと略同じ大きさのシール面圧を発生することができる。
【0047】
また、コーティング塗膜の圧縮性により、ビードを保護できるので、このビードのヘタリや破損を防止できる。
【0048】
その上、大きな締め付け力を必要とせずに、シリンダボア用穴の間の部位のビードに加わるシール面圧を大きくできるので、外端側の部分のビードに大きなシール面圧を加えなくて済み、このビードのヘタリや破損も防止できる。
【0049】
従って、ボアシール面圧が低くなるシリンダボア用穴の間に対して面圧補強を行ってシール性能を向上できると共に、耐久性の高いシリンダヘッドガスケットを得ることができる。
【0050】
また、ビードの内外に配置される副ビードやシムに比べて、面圧補強コーティングはビードの部位に重ねて塗布することができるので、限られた面積のヘッドガスケットにおいても容易に配設できる。
【0051】
また、シムの取付け加工に比べて、印刷や吹きつけ等でより簡単に塗布できるので、部品の管理や加工が容易となり、工数を減少でき、製造コストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す多気筒用のヘッドガスケットの平面図である。
【図2】(a)は図1のX−X部分の断面図で、(b)は図1のY−Y部分の断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態を示すヘッドガスケットの平面図である。
【図4】(a)は図3のX−X部分の断面図で、(b)は図3のY−Y部分の断面図である。
【図5】 参考例を示すヘッドガスケットの平面図である。
【図6】(a)は図3のX−X部分の断面図で、(b)は図3のY−Y部分の断面図である。
【図7】 本発明の第3の実施の形態を示すヘッドガスケットの断面図で、(a)は図1のX−X部分に相当する部分の断面図で、(b)図1のY−Y部分に相当する部分の断面図である。
【図8】従来技術のシリンダヘッドガスケットの平面図である。
【図9】(a)は図7のX−X部分の断面図で、(b)は図7のZ−Z部分の断面図である。
【符号の説明】
1 ヘッドガスケット
2 シリンダボア用穴
3a,3b ビード
4,4a〜4f コーティング塗膜
5,6 ボルト穴
10,10a,10b,10c 構成板

Claims (3)

  1. 複数のシリンダを有する多気筒用のヘッドガスケットにおいて、シリンダの各ボアをシールするために、それぞれのシリンダボア用穴の周縁部に、これらのシリンダボア用穴を取り囲んでビードを設け、前記シリンダボア用穴の間で相互に近接する前記ビードの部位に、両側のビードの間をつなげたH状又は矩形状の形状で、かつ、耐熱性と圧縮性を有するコーティング塗膜を形成したことを特徴とする多気筒用のヘッドガスケット。
  2. 前記コーティング塗膜を、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂のいずれかで形成したことを特徴とする請求項1記載の多気筒用のヘッドガスケット。
  3. 前記コーティング塗膜を、スクリーン印刷により形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の多気筒用のヘッドガスケット。
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